【企画:経営者が語るべきUX】モバイルライフにおけるユーザー体験とはーー松村太郎氏に聞く(後編)

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【企画:経営者が語るべきUX】は経営者がユーザー体験(UX)をどの視点から見るべきか、複数の切り口でお届けするシリーズです。ビジネス・ブレークスルー大学の提供でお送りします。

デバイスの進化やクラウドインフラの出現、開発環境のオープン化といった変化に伴い、ウェブを始めとするサービスが「リーン」に公開可能な時代になっている。そしてこの環境変化によって語られる機会が増えたのがUX(ユーザー体験)だ。

ユーザーとふれあうインターフェース(UI)の改善を中心に、価格や反応速度、問い合わせ対応など、あらゆる箇所に「ユーザーを満足させるべき体験」は存在し、その総合的な価値がサービスの差別化につながると考えなければならないだろう。

では経営者はUXをどう理解すべきだろうか。

第一回目のテーマはモバイル。現在BBT大学でモバイルコミュニケーションを教える松村太郎氏は、米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト。アップル製品で大きく拡大したモバイル・スマートライフに造詣が深い松村氏に、モバイルライフにおけるユーザー体験で考えるべきポイントを聞いた。(後半)

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具体的な「スマート」サービスの事例は

米スクウェアの決済用アプリ「スクウェアウォレット」に会話で決済が終わる機能があるんです。「オートペイ」というのですが、これをオンにしておくと、例えば僕があるカフェに入ってラテとドーナツを注文したら、そのことをシステムと接客側で認識してくれるんです。

通常は「ペイボタン」で払えるんですが、オートペイにしていると既に払う意思は伝えてることになるので、「払いますのでよろしく」という会話がトリガーになるんです。

クレジットカードも小銭もださないどころか、スマートフォンにも触れないで、「ごちそうさま」って言うだけでいい。もちろん接客側がお客を認識して支払をするわけなんですが、客側はなにもふれないでお金が支払える。非接触ICやタッチよりも断然スマート。

モバイル・サービスを開発する上で、大切にすべきユーザー体験とは

サービスを考える上で重要なのは、自分の体験に基づくことです。モバイルになったことで自分の行動が中心になっているという変化が生まれています。モバイルは既に日常になっているわけです。

iPhoneアプリや、ウェブだったらどういうウェブが使いやすいのか、というのは仕事モードではない自分に問いかければ普通に分かることです。いまのモバイルにしてもタブレットにしてもかなり高いレベルでデフォルトのユーザインターフェイスが揃っている。デザインや体験が専門でなくても、勘所さえ持っていれば自分の体験がベンチマークになるはず。

そして自分の体験が充実してるのも必要ですが、充実した人達と話をしているかどうか、街の人達を観察できているか、そういったアプローチも大切です。

リアルな行動に組込めるか

ラブゲッチュってご存知です?男女それぞれが発信する周波数がマッチングしたら音がなるというとても原始的なもので、一時期流行りました。でも、これができたのはみんなが放課後渋谷にいたからなんです。

自分が毎日していることや、周囲で流行っているものをうまく集めたり理解したりして、そこからツールやサービスを提供していく。

自分と周囲の5人が便利になるよね、ということをきっかけにして、さらにその先にもっと広がるのかどうか、その5人以外はやっていないのか、を考えるんです。リアルな行動の中に組み込めることが大切で、これって起業家の視点ではなくて生活者の視点でもあるんです。

デバイス・スペックの向上はユーザー体験にどのような影響を与えるでしょうか

時代が流れるに従って、メインで使われるデバイスや操作方法、利用タイミングが変わってきました。これらのユーザー行動を決めるのはデバイススペックや通信インフラ、都市によって違う生活スタイル、移動時間などです。

例えばアメリカでは3Gも家の回線も遅いんですね。携帯のLTEの方が断然速かったりする。一方で日本は100Mbpsの速度が出ている。人間の感覚器って時代によって進化したり変わりますが、100Mbpsはもう十分という価値観に近づいてるんじゃないでしょうか。

人間の感覚の限界を考える

テレビなんか分かりやすい例です。アメリカは500ドル切らないと買ってもらえないレベルになっています。だからこれ以上人間の視力が良くならない限り、5,000ドル近くするような4Kテレビなんて誰も買わないんです。

回線速度もこれ以上頭の回転が良くならない限り不要なのかもしれません。

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モバイルは「多様化」をもたらしました。一方で多様化への対応は経営にとってリスクとなりませんか

オバマ大統領が選挙対策として発言した「有権者ひとりひとりを見る」という言葉を記憶している人もいるかと思います。Twitterやソーシャルの属性をみて、どの集会にどのタレントを連れて行くか好みを分析したわけです。

これまではアンケートを取ったりとにかく時間がかかってしまった。それがモバイルの出現で、例えばユーザーがメリットを感じるようなアプリを使ってもらうことで、その分析が瞬時に、さらにひとりひとりのレベルで可能になった。

テクノロジーだけではなく、ユーザーが何を求めているのか、そしてその把握レベルもひとりひとりに至るまで情報を収集して分析する。こうやって初めて経営に必要な判断のメジャーメントができるようになるんです。

機会損失のリスクを考える

日本はリスクを全部つぶして完璧にしてから出すことが感覚としてありますが、例えばブログだったら書いてみる、製品だったら一回出してみる、それをしないとピポットをするにもデータが足りないわけです。

プライバシーやセキュリティなど色々なリスクへの理解は必要ですが、それは最低限のクリアを意識すればいいくらいで、とにかく出して反応を得ないと売れる売れないの判断ができないしデータも取れません。出さないことのほうが機械損失のリスクが大きい。

経営者が大切にすべきユーザー体験とは

絶対的に正しい体験っていうのはありません。例えば普段使ってるあのキーボードのつくりって一説によるとわざと使いにくくしていると言われているんですね。でも今、キーボードより早くタイピングできるものはない。タッチパネルで分速200文字なんて難しい。

同じように、使いづらいはずなのにそれに慣れてしまっていることって多いんです。体験で獲得したもの、文化的に身につけてしまった使いやすさや当たり前の行動というのは本当に多い。

体験がブランドを作る時代

ブランドってこれまではアートワークや表現などに宿っていたように考えがちでしたが、これほどにまでUXの重要性が叫ばれる中、またモバイルライフという多種多様の価値観に触れることができるようになった時代においては、ますます表面的なものよりも「体験性」にブランドが宿るようになりつつあると考えています。

一見使いにくいものでも、ユーザーが満足して慣れてしまえばスムーズに次の製品を出すことができるようになる。納得という言葉が正しいとは思いませんが、ユーザーが正しく体験し、満足してくれることが大切なのではないでしょうか。

(企画協力:ビジネス・ブレークスルー大学

BBT大学講師紹介
松村 太郎:ITリテラシー、モバイルコミュニケーション担当
ジャーナリスト、慶應義塾大学SFC研究所 上席所員(訪問)

東京生まれ、米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、BBT大学講師。モバイル時代のライフスタイル、ワークスタイルを追求するほか、キャスタリアでソーシャルラーニングとデジタルアイデンティティについての研究とビジネス化をすすめる。
Blog: http://www.tarosite.net/
Twitter: @taromatsumura