アパレルDXの成否を分ける意外なポイントとは

SHARE:

「DX(デジタルトランスフォーメーション)が企業経営を左右する」と言われて久しいですが、真の意味でDXに成功している企業は少ないのではないでしょうか。
小売業向け在庫分析システム『FULL KAITEN』を開発・提供するフルカイテン株式会社代表取締役CEO瀬川直寛が、「デジタル化」「IT化」にとどまらず新たな価値を生み出すDXについて考察しました。
◆多くの小売企業がDXの意味をはき違えている

そもそもDXとは、会社組織がIoT、AI、データサイエンスなどのデジタル技術を活用し、新たなサービスやビジネスモデルを創出することを指します。日本では経済産業省が2018年に発表したDXレポートがきっかけとなって注目されるようになりました。

ここでよくある間違いが、デジタル化やIT化自体を目的にしてしまうことです。新型コロナウイルス禍1年目の2020年は、小売の中でも特にアパレル業界で短期間に需要が大きく消失し、各社ともデジタル技術を活用しなければならない、という外圧が強かったと思います。

ここで少なくない数の企業が、DXやOMOに向けた取り組みを「ツール」の話に矮小化してしまうというワナに陥りました。
例えば、DXやOMOのツールを入れて成果を上げた企業は、新しいことを始めたというよりは、既存の取り組みをツールによってブラッシュアップし、変化のスビード上げているケースが多いです。ツールは目的ではなく手段にすぎません。

こうなると、ツールの導入それ自体が目的化してしまい、単なるデジタル化で終わってしまいます。しかし、DXによって新たな価値を生み出すには、企業特有の業務プロセスや企業文化を変革することが必要不可欠です。

私は、DXで最も重要なファクターは「意識改革」だと考えています。さまざまなITツールやテクノロジーを実装すること自体は、お金と時間があれば実現可能です。
しかし、下記のような点についてはっきりとした意識を持たない限り、実装したツールは宝の持ち腐れになります。
・ 新たに得たツールをなぜ使うのか
・ ツールによって何をどのように改善したいのか
・ 業務フローの何を効率化する必要があるのか

やはり、「新たな付加価値を生み出そう」という意識があって初めてツールは導入の意味を持ちますよね。

例えば、ペーパーレスを図る場合、「働き方を変え、コミュニケーションを円滑にし、やるべき付加価値業務に集中する」という仕組みの定着と意識づけが本来の目的であるはずです。これが本当の意味でのDXです。
紙代の節約という単なる短期的なコスト削減に終わらせては、ペーパーレスを実現するツールの真価を十分に発揮できているとは言えません。
◆既存システム「2025年の壁」

DXの議論で見逃せないのが、既存システムの「2025年の壁」と呼ばれる問題です。
これは前述した経産省のDXレポートで出てくる言葉で、中小企業をはじめとした多くの事業者で使用されている古いオンプレミスのシステムにおいてブラックボックス化が進行し、うまくデータを活用できなくなるリスクを意味します。

具体的に説明すると、古いシステムは2025年以降、次のような理由で大きなリスクに直面する蓋然性が高くなっているのです。
・ システムがその企業にカスタマイズされ、古いプログラミング言語で書かれているため、改修作業が複雑で、改修できる人材(その言語を扱うことができる人材)が激減していく
・ 改修を繰り返した結果、構造が複雑化しており、社内における部門横断的なデータ活用が難しい
・ 2025年までにIT人材は最大で約43万人不足する(経産省推計)ため、保守運用の担い手が不足し、システムトラブルやデータ滅失のリスクが高まる

大前提として、日本はすでに年間60万人の規模で人口減少が続いており、減少スピードは今後ますます加速します。よって、IT人材も非IT人材も枯渇が懸念されます。
特に日本の小売企業は社内でITエンジニアの育成が後れ、ITはベンダーに頼りっきりというケースが多く見られます。

小売企業としてはITベンダーに首根っこを掴まれる前に、比較的簡易に導入できるSaaS(クラウドシステム)の活用等によるDXを本気で考える必要があるでしょう。

ちなみに、欧米では、企業固有の業務フローに合わせてオンプレミスのシステムを構築するのではなく、導入したSaaSに合わせて業務フローを抜本的に変えるということが盛んに行われています。
そうしたSaaSによるDXだけの効果ではありませんが、欧米はここ30年で生産性を向上させ、賃金がほぼ横ばいの日本を尻目に賃金上昇を継続しています。
◆アパレルでは「在庫DX」が重要

小売の中で、アパレルはDXが遅れている業種であるとされています。DXの遅れは、衣料品がECサイトで試着できないことと無縁ではないでしょう。
サイズや色、形が自身の体形に合っているか、素材はどうかなど、実際に商品を手に取ってみないと購買の判断ができかねる消費者が圧倒的に多いのではないでしょうか。

その点を少しでも克服しようと、ライブ接客ツールやチャットツールなどが次々と開発されていますよね。それはそれでいいことですし、コロナ下で実店舗の休業によって失われた売上の一部をECで補うことができたアパレルブランドはたくさんあります。

こうしたマーケティング寄りのツール導入は非常に重要ではありますが、私は在庫という小売の根幹を軸としたDXが語られる場面があまりに少ないとも感じています。
しかし、在庫を軸にしたDXは極めて重要です。ECでは、新規立ち上げ時は集客が最重要になりますが、運用が軌道に乗って以降は在庫やマーチャンダイジング(MD:商品計画、商品戦略)が最重要になるからです。

在庫を増やせばECサイトの品揃えも充実するので、とりあえず売上は増えます。しかし、在庫過多という副作用が必ず待っています。多品目になったり、アパレルのように商品サイクルが速くなったりした途端に「在庫の質」が可視化できなくなるのです。

在庫の質を可視化できなくなると、売れ筋を追うことで精いっぱいになります。
売れていた商品が徐々に売れなくなるのは在庫としての質が低下していることの証なのですが、売れ筋を追うのに精いっぱいだと「徐々に売れなくなる」という兆候に気付くことができません。

徐々に売れなくなる兆候は、下図のように在庫リスクをイチゼロ(売れる・売れないの二択)ではなくグラデーション状に変化するという風に考えると理解しやすいでしょう。

34014

PR TIMESで本文を見る