指輪型ウェアラブルデバイス「Ring」は実現可能か、その仕組みをプロジェクトページから読み解く

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2013年10月にコンセプトムービーが公開されて大きな話題を集めた指輪型のウェアラブルデバイス「Ring」が、Kickstarterでクラウドファンディングを開始した。筆者もKickstarterで支援しているが、25万ドルの目標額は早々に達成し、支援期間も30日以上を残すことから今後もさらなる増額が見込まれる。

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まるで魔法のようなガジェットとして話題を集める一方、先に公開されたコンセプトムービーの印象が強いのか、Ringがどのような仕組みでコントロールしているのかわからない、という声も多い。しかし、Kickstarterで自ら支援したこともあってRingのプロジェクトページをしっかりと読み込んでみると、Ringが決して荒唐無稽なものではなく、非常に現実的な仕様で作られていることがわかる。

そこで今回はKickstarterのプロジェクトページをベースに、Ringがどのようなデバイスであるのかを読みとってみることにする。なお、今回の記事はプロジェクトページに記載された公開情報に基づいたものであり、開発者に話を伺ったものではない。そのためプロジェクトページからは読み取れない仕様や、開発の中で仕様が変更になる可能性もあることをあらかじめお断りしておく。

Ringでできること

プロジェクトページの”Four Features”によれば、Ringを指に装着することで以下に挙げる4つの機能が利用できるという。

1. Gesture control function
2. Text transmission
3. Payment information transmission
4. Receive/Alert Function

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1はジェスチャー操作で家電やアプリをコントロールできる機能、2.は空中で書いた文字をテキストとして認識できる機能だ。2も認識した文字をテキストとして送る先が必要なため、ジェスチャー操作を対応機器に送るという意味では1と同じ。

また、3についてもジェスチャーで書いた文字を支払いシステムに認識するという仕組みであり、1から3の機能は使い方や目的こそ違えど仕組みとしてはほぼ同じ、と言える。

1から3はRingからデータを送るのに対し、4はデータを受けるための機能。この動作については細かい説明がないが、”detect incoming transmissions/alerts”とあるため、メールやアプリの新着などをRingのLEDやバイブレーションで通知する、という機能と思われる。

こうした機能はソニーの「SmartWatch」といったガジェットがサイズこそ違えどすでに実現している機能であり、やはりRingのRingたる要は空中のジェスチャー操作によるコントロールということになるだろう。

スマートフォン連携がRingの要

プロモーション映像だけを見ているとまるで魔法のようにも思えるRingだが、KickStarterの説明ページには魔法の仕組みを理解するための答えがいくつもちりばめられている。そのうち大きな鍵となるのが、”Specifications”にあるRingの仕様、そしてプロジェクトのページに掲載されている構成図だ。

“Specifications”に記載されている仕様は「Battery」「Motion Sensors」「LED」「Touch Sensor」「Bluetooth Low Energy」(BLE)「Vibration」の6つ。

BatteryはRingが動作するための電池、Motion SensorとTouch Sensorはジェスチャーを認識するためのセンサー、LEDとVibrationは光と振動による通知となり、他の機器に対して情報を送ることができるのは残りの「Bluetooth Low Energy」のみ。つまり、Ringのジェスチャー情報を送ることができるのは、Bluetooth Low Energyに対応した機器ということになる。

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次に”Compatibility”の項目を見ると”To activate and use Ring, you need to have one of following devices”との記載があり、Ringを使うには下記のデバイスが必要になるということがわかる。

・iPhone / iPad / iPod Touch (iOS7 or higher ver)
・Android (ver 4.4 or higher ver)
・Windows Phone (coming soon)
・Ring Hub (coming soon)

Ringが対応しているBLEはiPhone 4s以降のiPhoneでサポートしており、Androidは4.3から標準APIとして組み込まれているため、当初はBLE対応のスマートフォンのみが対象となる。今後はWindows Phoneにも対応しつつ、”Ring Hub”と呼ばれる専用機器も予定されているが、基本的にRingは単体で動作するのではなく、これらガジェットの連携を前提として動作することになる。

そしてもっとも重要となるのが、Kickstarterに掲載されている構成図。動画では見えにくい部分だが、”How to connect with other device”、そして”Payment Gateway Solitions”に記載されている3つの構成図は、いずれもRingのそばにスマートフォンのイラストが並んでいる。

プロモーションムービーの中で印象的な照明コントロールの構成図”Direct Paring”でもスマートフォンが描かれていることから考えると、RingとはBluetoothでスマートフォンとペアリングし、スマートフォンのアプリをジェスチャーで操作したり、スマートフォンのアプリを通じて家電をコントロールする仕組み、ということになる。

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なお、余談ながらRingのページではiOS7以降のiPhoneやiPadに対応としているが、iPhone 4やiPad 2はiOS7へのアップデート対応機種ながらBLEは非搭載のため、おそらくiOS 7であってもiPhone 4やiPad 2でRingを使うことはできないと思われる。

空中ジェスチャーを認識する仕組み

続いてRingの要であるジェスチャー機能の詳細を見てみよう。こちらは”How to Use”という項目にある説明を引用しよう。

1. Wear Ring on your index finger.
2. Start gesturing by tapping on the touch sensor.
3. Hold your finger to end the gesture.

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簡単に訳してみると、まず(1)Ringを人差し指に装着、(2)タッチセンサーをタップしてジェスチャーを開始、(3)ジェスチャーが終わったら指を止めるという3つのステップが必要。”Specification”にも記載されている通り、RingはLED下部にタッチセンサーを内蔵しており、このタッチセンサーをタップしたタイミングをジェスチャーの起点とし、ジェスチャーが終わったら指を一定時間止めることでジェスチャーの終了を認識する、という具合だ。

また、ジェスチャー文字は自由にかけるわけではなく、”Ring Font”というRing専用のジェスチャー文字が用意されている。文字ごとに決まった書き方を指定することで、ジェスチャー読み取りの精度を高めるという仕組みで、古くはPDA「Palm」シリーズに搭載されていたジェスチャー「Graffiti(グラフィティ)」に近いコンセプトだ。

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こうしたRing Fontというジェスチャー方式や、タッチセンサーでジェスチャー開始を認識するといった仕組みにより、空中でのジェスチャー認識精度を高めているRingだが、気になるのはジェスチャーの利便性。

Ring Fontを1文字ずつ認識させるためには、1文字入力するごとにタッチセンサーをタッチして文字を入力し、文字終了後に指を一定時間止める、という流れが毎文字ごと必要になる。

この「タッチする」「指を止める」時間が長いと、文字入力にストレスを感じてしまい、結局はスマートフォンで直接入力したほうがいい、ということにもなりかねない。ジェスチャーを快適に操作するためにも、認識の精度や認識スピードがRingの要と言えそうだ。

日本語周りやバッテリーなどジェスチャーの気になるポイント

そのほかジェスチャー周りで気になるポイントを見てみよう。単なる文字だけでなく文章をRingで入力するには、ピリオド(.)やエクスクラメーション(!)、クエスチョン(?)といった記号、さらには空白の入力も必要だが、現在のところRing Fontのサンプルには含まれていない。

こうした記号は対象外か、それとも今後追加されるのかはわからないが、仮に追加されるとした場合、ピリオドとカンマのように文字が小さく似た記号などは、どのようなジェスチャーになるのか気になるところだ。

また、日本人にとっては英語だけでなく日本語を入力したいところだが、直接文字を入力できるアルファベットと異なり、日本語には漢字やカタカナへの変換も必要。こうした日本語変換がどこまでサポートされるのかも注目だ。

バッテリーの持続時間についてはプロジェクトページでは動作時間に関する言及はなく、1回の充電で1000回のジェスチャーが可能としている。1文字1回とすると「Hello」と打てば5回分のジェスチャーを消費することになる。Ringでメールやメッセージの文章をすべて入力するというのはあまり現実的ではないと思われるものの、実際にどれだけの時間使えるのかは気になるポイントだ。

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Ringが描く世界の実現には対応家電やアプリの充実が必要不可欠

指輪だけで家電をコントロールできるというRingのコンセプトは非常に魅力的かつ夢のような世界だが、プロジェクトページを見る限りでは、おそらくそのシステムはスマートフォンとの連携が必須になるということがわかる。

とはいえ指輪程度の小さいガジェットにすべてを詰め込むよりも、BLEやセンサーなど最低限の機能だけを搭載し、家電との連携はスマートフォンに任せるというのは実用を考えれば効率的な棲み分けだろう。

また、重要なのはRing単体の機能より、今後いかに対応した家電や周辺機器が登場するかということだ。プロジェクトページにもあるとおり、家電を直接操作するDirect Paring、Hubを経由して間接的に操作するHub Paringのどちらも、家電またはHubとなる機器がRingに対応している必要がある。

こうした機器が登場しない限り、Ringは「スマートフォンへジェスチャーで文字を入力できるデバイス」で終わってしまうだろう。Ringそのものの開発はもちろん、Ring対応機器やサードパーティーなどの続報も待ちたいところだ。

最後に強調しておきたいのは、Ringはすでに完成されたハードウェアの販売が開始されたのではなく、今まさに開発が進められているガジェットであること、そしてKickstarterを通じて集めているのは”Backer”という支援者であり、Ringという新しいガジェットを応援する人ということだ。

夢のあるガジェットを夢で終わらせず実現させるためには、アプリ開発者やサード-パーティー、そしてユーザーの協力が必要不可欠。筆者もRing支援者の1人として、実際に手元でRingを楽しめる日を楽しみにしている。

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