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“ペガサス”企業の見つけ方 ーー 1億ドル事業分析17の黄金律【後半】

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前半からの続き。後半では具体的な事例で検証してみます。 Microverseは著名アクセラレータ「Y Combinator」の2019年夏のプログラムを卒業したブートキャンプ式の教育機関です。ソフトフェアエンジニアを育成するプログラムを運営しています。1プログラムは約6カ月で終了します。授業料は出世払い制で、毎月1,000ドル以上のフリーランス業務を得てから、月収の15%を、合計1.5万ドルに至る…

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Image Credit: Microverse

前半からの続き。後半では具体的な事例で検証してみます。

Microverseは著名アクセラレータ「Y Combinator」の2019年夏のプログラムを卒業したブートキャンプ式の教育機関です。ソフトフェアエンジニアを育成するプログラムを運営しています。1プログラムは約6カ月で終了します。授業料は出世払い制で、毎月1,000ドル以上のフリーランス業務を得てから、月収の15%を、合計1.5万ドルに至るまで毎月支払い続ける収益モデルを採用。

<参考記事>

まずは同校のプロダクト・マーケットフィットを説明するためにターゲット顧客の定義から始めましょう。定義は「背景」「課題」「解決策」「市場リアクション」「継続率」の5つで簡潔に分析してみます。

  1. 背景:顧客はどのようなモチベーションや出生の人か
  2. 課題:具体的にどのような問題を抱えている人か
  3. 解決策:どのようなサービスを提供するのか
  4. 市場リアクション:顧客からはどのような反響が生まれているのか
  5. 継続率:どの程度の人が継続してサービスを利用するのか

ターゲット顧客の背景を定義するとソフトフェアエンジニアになりたいフリーランス人材です。学生のバックグラウンドは次の3種類にわかれます。「間違った学位を取得したと感じている人」「学位取得を諦めた人」「大学進学を最初から考えられなかった人」

こうした見込み顧客に共通する課題は、現在低い給与の職を手にしており、場合によっては借金を背負っていると想定してさらにターゲティングします。手持ち金がないため、キャリアチェンジのための復学を出来ずにいます。このことから出世払いのモデルは十分にワークする解決モデルであると考えられます。

Microverseは2019年1月に開講したばかりなので未だ2学期ほどしかプログラムを回していないと考えられます。それでもすでに29個のレビューがすでに集まっており、5つ星中5つの最大評価を得ています。また、サービス立ち上げ前のProducthuntのレビューも最大評価で31ほど獲得しています。サービス提供前・後の両方で十分な評価を得ています。この時点で市場リアクションは十分な質を担保されていると受け取れます。

さらに、全く同じコンセプトの競合校「Lambda School」の卒業率が80%ほど。これは入学プロセスを厳格にしているため離脱率を防げているためでしょう。これと同数値の継続率をMicroverseは弾き出せていると想定できます。

どちらの学校もオンライン学習であるため、諦めの早い人であればすぐに退学できます。違約金なども発生しません。そのため、これほどの卒業率を保てているということは、出世払い学校のサービスは十分に顧客に届けられていると考えられます。

ここまででプロダクト・マーケットフィットは満たせていると導き出せます。出世払い学校の領域はすでに市場として出来上がっているため、この回答は当然かもしれませんが、同じ要領で読者のみなさんの事業を分析してみると条件を満たせていない点が見えてくるかもしれません。

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さて、次はプロダクト・チャネルフィットしているかを判断します。ここからは「アウトバウンド・セールス」「コンテンツ・マーケティング」「広告」の3つで簡潔に分析します。

  1. アウトバウンド・セールス: 企業側から顧客獲得をどの程度のコストで出来るのか
  2. コンテンツ・マーケティング: サービスは強いコンテンツ力を持ち、十分な訴求力が持ちながら顧客獲得できるものか
  3. 広告: コンテンツ力を安い広告コストで拡散できるのか

Microverseの場合、毎学期100名ほどの学生を募集していると思いますが、毎回1人1人の学生に当たって入学を支援するのは獲得コストがかかりすぎます。この点、アウトバウンド・セールスには不向きといえます。

次にコンテンツ・マーケティングに関してですが、“出世払い学校”という謳い文句は非常に強いコンテンツ力を持ちます。未だ市場にこのコンセプトが登場してから3年ほど。大半の人がこのコンセプトを知らないことから、見込み顧客を惹きつける十分な力を持っていると思います。年々競合は増えていますが、Google検索をすればMicroverseの名前はすぐにでも引っかかるでしょう。ブログ記事による拡散やSEOでも良いポジションを獲得できます。

それでは強いコンテンツ力を拡散するための広告チャネルをMicroverseは獲得できるのでしょうか。最初にターゲティングした低所得へリーチするための効率的な広告はGoogleやFacebook、Twitterなどが挙げられます。また、Microverseの場合、世界中にいるフリーランス人材を対象にしています。競合のLambda Schoolは米国限定ですが、Microverseの場合はターゲットを広告コストの低い途上国に指定できます。そのため、競合と比べて安いコストで大量に顧客獲得できるチャネルを得られます。プロダクト・チャネルフィットは満たせているといえます。

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チャネル・モデルフィットの段階に進みます。「1顧客当たりの平均年間収益(AARPC)」「顧客獲得コスト(CAC)」の2つで簡潔に分析します。

  1. 1顧客当たりの平均年間収益:Average Annual Revenue Per Customer
  2. 顧客獲得コスト:Customer Acquisition Cost

Microverseの卒業生の初任給は5,000ドル/月程度であると想定しましょう。そこで15%の収益分配が12か月(1年間)続くとすると次のような式ができます。

AARPC = 5,000 * 15% * 12 = 9,000ドル

1万5,000ドルまで収益分配が続くため、就職から18カ月ほどMicroverseは収益を立てることができます。一方、学生を輩出させるまでのコストは非常に高くつくと考えられます。先に述べた広告コストだけでなく、見込み顧客を入学させるまでいくつものステップを要します。

具体的にCACは次のものを含むものになります。「魅力的なコンテンツでトラフィックを呼び込む」「広告コストをかけて見込み顧客獲得」「提供価値に共感して、適合性のある学生を選出」「プログラムを運営して離脱を抑えながら優秀な学生を育成する」「卒業前にキャリア相談に乗りながら面接指導も行い就職率を上げる」

ここでCACを下げるのに一役買うのが最初に述べた「市場リアクション」です。口コミは上々であることから、卒業生が新規学生を獲得してくれる強いチャネルになることが予想されます。サービスの満足度が高いことから、卒業生が増えるほどCACを下げられると考えます。

実際、Microverseの利益率は90%と創業者が述べていることから、非常においしい事業であると予想できます。このことから、チャネル・モデルフィットは卒業生が増える数年後に十分にワークするといえます。

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最後はモデル・マーケットフィット。具体的には「必要顧客数」「市場規模」「第三者視点」で分析をおこないます。

  1. 必要顧客数:1億ドルの売上を年間あるために年間顧客数はどの程度必要か
  2. 市場規模:どの程度の潜在市場規模があると計算できるのか
  3. 冷静な第三者視点:数値上で解が出たとしても、それは現実解であるのか

まずは必要顧客数を簡単に算出しましょう。

100,000,000ドル/AARPC = 100,000,000/9,000 = 11,111人

年間1.1万人の顧客を獲得する必要があると分かりました。

次に市場規模。全米では約2万ほどのプログラミング学校の卒業生が年間で発生します。平均授業料は1.19万ドル。米国人の平均貯金額は4,800ドルというデータもあることから、1.19万ドルは非常に高く、わざわざ学校に通うために大都市へ移動して入学するような人はあまり多くないと考えられます。

それゆえ、従来のブートキャンプが獲得している市場シェアは10%程度あると想定されます。Microverseが狙うのは未だ掘り起こされていない残り90%に当たる18万顧客の市場であると逆算できるでしょう。ゆえに1億ドル事業にするためには1.1万人に当たる6%の市場シェアを獲得する必要があります。

6%の市場シェア獲得は実現可能な数値だと言えるでしょう。しかし、1.1万人の学生を年間で輩出できる事業モデルなのでしょうか?オンラインで授業を受けられるとはいえ、1日8時間、メンターが付きっ切りで指導するスタイルを1万人超に提供できるのでしょうか?

おそらくこのモデルが適応されるのは最大1,000名の学生でしょう。1万名の学生を輩出するには現在のモデルを脱して、ムーンショットを狙う思考でサービス形態を変える必要がありそうです。

やはりオフライン事業の側面を持っていることから、ペガサス企業になるには事業の性質から足りないものがあります。もちろん10億ドル以上を目指すのが全てではなく、教育系スタートアップはソーシャルインパクトを与えるのが使命である部分もあるため、悪いビジネスであるとは言っていません。実際、収益率90%であることから、事業開始から1〜2年ほどで追加調達の必要がなくなるドル箱事業になる可能性は大いにあります。

このように、ロジック上では達成可能であると考えられても、直感的に1億ドルの収益実現が難しそうな点がペガサス企業を見つける難しさといえます。ただ、読者のみなさんのビジネスを本記事の冒頭から説明してきた条件に当てはめながら分析することで、1億ドルビジネスにまで成長するにはどの点を改善していかなければならないのかの考察ができるでしょう。ぜひ活用してみてください。

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“ペガサス”企業の見つけ方 ーー 1億ドル事業分析17の黄金律【前半】

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ピックアップ記事: The Pegasus Startup: Flying Over VCs on the Wings of Profits

大型調達を何度繰り返し、10億ドル以上の企業価値にまで成長した後、上場を目指すユニコーン企業。最近ではUber、Lyft、Pinterest、Airbnb(来年上場の噂)や上場に失敗したWeWorkなどがこうした企業の代表格でしょう。しかし彼らは上場に漕ぎ着けたとしても赤字経営であることが大半です。いかに市場にインパクトを残せても、事業の健全性に対して株主から疑問を持たれてしまいます。そこでいま注目が集まっているのが「ペガサス」企業です。

ペガサスはその名の通り、自ら羽ばたく力を持ちます。言い換えれば十分に“収益化”できる力を上場前から持っている“10億ドル価値”の企業といえます。Uberの初期投資家でもあるJason Calacanis氏によるとペガサスの素質を持つ企業定義は下記4つとなります。

  • 少額資金で並外れたプロダクトを作れる小さなチームを持つ
  • 初日から売上を出して製品開発へ注げる
  • 「チーム」「プロダクト」「カスタマーフィードバック」「グロース」にのみ特化する
  • 年間売上成長率が3倍

資金調達回数を減らすWin-Winな資本戦略

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従来、ユニコーン企業はマーケットプレイス型事業であること多く、こうしたサービスは規模の経済やネットワークエフェクトを構築してからでない限り収益化を見込めませんでした。一方、ペガサス企業はSaaS型事業が多い印象で、収益化が見込めるいわば「ドル箱」を完成させています。

そのため調達資金を収益化が必ずしも見込めるかわからない不透明な未来ではなく、既存収益モデルの着実な拡大に注ぎ、事業拡大スピードを早める時にだけ調達を行います。資金ショートを避けるための調達を繰り返すという理由はペガサス企業には当てはまりません。

また、最大の特徴は資金調達をあまり多くしないことです。そもそも自力での事業継続ができるため、通常のスタートアップが経る、シード、シリーズA、Bの調達ラウンドをスキップします。

高い収益性と事業拡大の見込みから一気に平均的なスタートアップがシリーズCで調達する規模のラウンドを仕掛けることがあるのです。たとえばパスワード管理アプリ「1Password」は創業14年目にして初めて調達を実施。シリーズAにて2億ドルの資金をいきなり獲得しています。

ペガサス企業は初期投資家に対して株式の希釈を遠ぞけ、かつ大型ラウンドにてリターンを作れる魅力的な案件となります。仮に追加投資できるのならば高確率で上場リターンも得ることができるでしょう。先ほど紹介したJason氏によると先行投資しておくことで、各ラウンドにて平均して10〜20%ほど希釈を抑えられるそうです。

また、エグジット時にはオーナーシップが平均比2倍高いとのこと。創業者にとっても不要に多くの株主を持って口を出されないメリットがあり、こうした資本集中戦略を採用するといいます。

17の黄金律

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さて、ペガサス企業はユニコーン企業に往々にして必要とされる、年間売上1億ドルの事業を作り上げることが求められます。事業構築にはBrian Balfour氏が提唱する4つのモデルと17の項目チェックをします。

  1. プロダクト・マーケットフィット: 本当に市場が求めているものか?
  2. プロダクト・チャネルフィット: プロダクト・フィットしたものは事業を十分にスケールできる顧客獲得チャネルを得られるか?
  3. チャネル・モデルフィット: 見つけた顧客獲得チャネルから十分な顧客を獲得して、収益性(ユニットエコノミクス)の観点からもスケールできる事業か?
  4. モデル・マーケットフィット: 市場規模も考えた上で、1億ドルの事業を生み出せるのか?

後半からは以前紹介した出世払い学校「Microverse」を例に取りながら、4つの分析手順を踏みたいと思います。結論から述べるとMicroverseはペガサス企業に最終的に最適ではありませんでしたが、分析手順を説明するには好例であったため紹介しています。後半はこちらの記事になります。

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