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国内エコシステムとスタートアップ・IPOの意義ーー大和証券・丸尾氏 Vol.2

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 IPOの意義とはなんだろうか。資金調達の手段であり、社会的な信用の獲得であり、企業に正しいガバナンスを与えるものでもある。一方、マーケットが求める「極めて短期の結果」に疲弊し、オルタナティブを求める考え方も出てきている。 新しいスタートアップエコシステムの創造ロジック「リーン・スタートアップ」の著者、…

大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

IPOの意義とはなんだろうか。資金調達の手段であり、社会的な信用の獲得であり、企業に正しいガバナンスを与えるものでもある。一方、マーケットが求める「極めて短期の結果」に疲弊し、オルタナティブを求める考え方も出てきている。

新しいスタートアップエコシステムの創造ロジック「リーン・スタートアップ」の著者、エリック・リース氏は2011年の著書で既にこの問題点を突いており、より長期的な成果の視点に立った「長期株式取引所」の考え方を披露している。10年たった今、彼は長期経営をテーマとした新証券取引所「Long Term Stock Exchange」を2019年に開設した。

丸尾氏は拡大するマーケットにおけるIPOの意義を、大きなエコシステム全体で俯瞰する必要があると説く。

エコシステムとIPOの役割

「例えばサイバーエージェントってマクアケやサイバーバズ、BASEなどに出資して、彼らが上場することで資金を回収していますよね。こういった利益がないとAbemaのような新しいチャレンジはできない。エニグモの須田さん(将啓氏・代表取締役)も上場後に個人として投資している。こう考えると、上場した企業や起業家は投資にまわるわけです。PKSHA Technologyは上場してCVCを作った。こうすることで自分たちが張れないAI技術に株主となって挑戦ができる」。

BASEは上場時の時価総額が250億円程度だった。しかし今(※執筆時、2020年12月9日時点)の評価額は2500億円に届こうという規模にまで膨らんだ。感染症拡大がEC需要を押し上げたことが要因のひとつではあるが、これにより、彼らはより有利な条件で資金調達を進めることができる。株の希釈も最小限に抑えることができるからだ。そしてBASEもまた、新たなスタートアップへの投資を通じて、エコシステムの一員としての役割を果たそうとしている。

世の中に必要なことをやる

取材の終わり、長年多くの起業家、経営者と向き合ってきた丸尾氏に、次の世代の起業家と投資家に求めるものを聞いた。

「この経営者はやるやつか、そういう目で見ている時はキャピタリストに近いかもしれません。あと大切なのは長い目ですね。(支援側で)すぐに商売にならないなと思ってすぐに引いたんでは長い付き合いにならない。だから大事な会社や起業家にはしっかりと担当をつけます。大手企業では当然のようにやってきましたが、若い経営者ともやりますよ。

確かにね、起業家で金が欲しいから上場するという時代もありました。でもね、志がないものは退場してます。BASEの鶴岡さんとかはお金よりも成し遂げたいものがある。これが大きく変わったところです。世の中にはこれが必要なんだという。それって無理じゃないの?というところで事業をしてくるわけですから、我々はIPOでそのチャンスを拡大させるわけです。発想がね、お金や自分だけではなく、地球だったりイノベーション目線なんです。そう言う人が次の1兆円企業を作ると思ってますよ」。

今、世の中ではSDGsに代表される、持続可能な社会づくりが大きく叫ばれるようになった。ITバブルが発生した2000年以降、世の中には過剰な生産によって資本主義のゆがみのようなものが発生している。2030年に向けて活動する起業家には、長期の視点に立ったビジョンがより強く求められるようになった。

彼らは社会の課題や要請にどう答えるのかを問われているのだ。

数年前まではROE重視だったが、脱炭素やSDGs、ESG投資への潮流はますます加速していく。今は地球に優しい、そういったことに資する企業を支援していきたいし、新しい取り組みにあえて挑んでいく、強い大和でありたいです。

「これまでITやゲームなど、その時代、時代に応じたトレンドを作ってきました。赤字上場という新たな選択肢の道も開きましたし、BASEのようにマーケットでバリュエーションを出して次の成長資金を獲得してもらう。こういう起業家たちの『やりたい』をこれからも後押ししたいし、世の中のためになる企業の発展を支援していきたいです」。

(了)

前例なき「赤字上場」が生んだものーー大和証券・丸尾氏 Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 エリックリース氏の著書「リーン・スタートアップ」が出版されたのが2011年。新たな事業を「構築、学習、計測」というアジャイルなフローに落とし込んだ、新たな起業の手法は世界的に大きなブームとなった。時を同じくして日本でもY Combinatorらが発祥となるアクセラレーションプログラムが開始となり、スマ…

大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

エリックリース氏の著書「リーン・スタートアップ」が出版されたのが2011年。新たな事業を「構築、学習、計測」というアジャイルなフローに落とし込んだ、新たな起業の手法は世界的に大きなブームとなった。時を同じくして日本でもY Combinatorらが発祥となるアクセラレーションプログラムが開始となり、スマートフォンシフトの後押しもあって多くのスタートアップたちを生み出すことに成功する。

日本におけるテックスタートアップ・エコシステムの新たな幕開けだ。KDDI ∞ Laboもその中で産声を上げた。

このエコシステムにおける重要なマイルストーン、それがIPO(新規株式公開)になる。1999年から2000年にかけて発生した日本のITバブルではソフトバンクやヤフー、楽天、サイバーエージェントなどの企業が株式市場で大きく勃興し、その後に続くディー・エヌ・エーやミクシィ、グリーなど、国内インターネット企業が躍進する基盤を作った。

そして2010年代、新たなエコシステムの中で大きく成長したメルカリやラクスル、freee、BASEといった新興企業の多くを主幹事として株式市場に送り出した証券会社、それが大和証券だ。ヤフーやGMO、サイバーエージェントにミクシィにディー・エヌ・エーなど、黎明期からこの国内エコシステムを眺めてきた株式市場の水先案内人は、2010年代に何を見つけ、そして次の世代に何を期待するのか。

本稿は国内エコシステムの今と未来を知るをテーマに、大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏に10年の振り返りと、次世代の起業家に求めるものを伺った。

初モノの大和

2019年度の売上高1,961億円、営業利益252億円、グループ企業103社の大連合を組むインターネット企業、それがGMOインターネットグループだ。直近の連結時価総額が約1.6兆円(※)にもなる、このGMOインターネットを中心に構成される10社の上場企業の内、9社は大和証券が主幹事を引き受けている。

「熊谷さん(正寿氏、代表取締役会長兼社長 グループ代表)は周囲をやる気にさせてどんどん上場させていく。やりたいんだと。だからことごとくウチで(主幹事を)やらせてもらった。上場会社をたくさん作るというGMO独自の経営戦略をしっかり支える。それが我々の役目」。

2000年ITバブルで株価が乱高下する際、当時部長だった頃から丸尾氏は経営者の側でマーケットのアドバイスを送り続けた。サイバーエージェントに楽天、ミクシィ、GMO。数多くのIT銘柄を支えてきた彼は長期にわたる信頼関係こそが重要、そう振り返る。

ITバブルから約10年、時代の変わり目となったのがモバイルインターネットの隆盛だ。いわゆる「ガラケー」プラットフォームは数々のアプリやゲームを生み出し、新たな起業のエコシステムを作り出した。この流れはその後のスマートフォン・シフトへと続き、今のスタートアップエコシステムを形作る基礎となった。大和はこの新しい潮流の中、次々と「誰もやらない」初モノ銘柄を世に送り続ける。

「リブセンス(2011年12月上場)は当時、25歳の最年少上場でしたよね。レアジョブ(2014年6月上場)もオンライン英会話という分野の草分けでした。コロプラ(2012年12月上場)はスマホゲームで、エニグモ(2012年7月上場)も越境ECというテーマの先駆けです。昨日、上場の承認が下りたポピンズホールディングス(2020年12月21日に上場、取材日時点は承認段階)は女性活躍を支援するというミッションを掲げていて、『SDGs(持続可能な開発目標)IPO』として第三者にオピニオンを取ってIPOの資金使途を明確にしたスキーム。本邦初と考えています。誰もやらないことをやる。自分たちが率先して画期的なことをやろうじゃないかと」。

大和が国内インターネット黎明期からIT・ネットに張り続けるには訳がある。重厚長大な企業相手だと競争環境が厳しい。「だからこそ大和の基礎は徹底的に他社がやらないことをやった。全ては勝つため」(丸尾氏)。

初モノに強い大和ーー。この基盤を受け継ぎ、彼らは今のITスタートアップたちの水先案内人となることを選んだのだ。

日本ベンチャーキャピタルが公表している資料によれば、2010年のIPO件数は22件。世の中はリーマンショック後の東日本大震災という過酷な時期でもあった。2012年に第二次安倍内閣が発足してからは翌年に東京オリンピックが決定するなど、徐々に明るい話題も増えてくるが、何者かも分からない新興のテック・スタートアップにとっては厳しい冬の時代だったことは間違いない。

そんな中、丸尾氏はある「初モノ」に挑戦することになる。クラウドワークスの赤字上場だ。

前例なき、クラウドワークスの赤字上場

クラウドワークス代表取締役の吉田浩一郎氏(撮影は2013年12月)

2010年代の半ば、主要なインターネットビジネスはまだまだゲームが中心だったが、デジタル化の流れはじわじわと現実世界に染み出していく。それまで電話で配車していたタクシーは、徐々にアプリで事前決済まで済ませた「移動サービス」となり、個人で不要になったものはスマホ経由で気軽に売買できるようになった。一方で市場はまだまだ実験的な空気に支配されている。シェアやオンデマンドといった新たな経済活動がマス層に本格的に広がるのは2010年代後半を待たねばならなかった。

課題はリードタイムだ。世の中が変わることはわかっている。けどその時が来るまでをどう過ごせばよいか。スタートアップたちは各社、独自の資本政策でこの「いつかやってくる波」を待つ必要があった。クラウドソーシングという、個人をエンパワメントする時代を見据えたクラウドワークスもそのひとつだった。

「大和証券がすごいなと思うのは(Tech系の赤字上場は)初めてですから。普通は絶対やらない。引受部が断る。無理。でもね、最初にやることが大事なんですよ。当然、うまくいかなかったら責任問題になる。だから僕らもリスク取ってやってるんですよ」。

丸尾氏が創業者の吉田浩一郎氏と出会ったのは、とあるキャピタリストからの紹介が縁だったそうだ。クラウドワークスの創業は2011年11月。そこからわずか3年後の2014年12月に東証マザーズに新規上場を果たすことになるのだが、丸尾氏も「今ではありえない突貫工事」と振り返るほど、株式公開までの道のりは痺れるチャレンジだったようだ。

「最初に(紹介を受けたキャピタリストから)レクチャーを受けた時、数千万円の黒字で進んでたんですね。(上場申請の)直前になって、急に吉田さんから連絡があり、丸尾さん相談があると。(ある方から丸尾さんに相談しろと言われたらしく、赤字での上場を相談されて)いや、黒字にしないと無理ですよと言ったんですがなんとかならないかと。ご自身でも上場するんだと周囲に伝えているし、当時クラウドソーシングはゲームに次ぐプラットフォームになる、派遣市場の黎明期と同じなんだと。投資銀行部門にぜひこれやりたいと話しまして。上場引受実務担当者に賛同してもらわないと無理なわけです。結果、やります!と決めてくれた。普通、赤字上場のようなチャレンジは大組織の中では、中々難しいものなんです」。

新規上場の際、前期が赤字であっても足元の直前期は黒字というケースが通例だ。バイオやロボットなど、長期にわたって公開市場での資金調達を前提とする場合と異なり、インターネット銘柄での赤字上場はサイバーエージェント以来、14年ぶりの出来事になる。そして上場から4年後の2018年9月期、クラウドワークスの総契約額は100億円を突破し、無事黒字化を果たす。

「情熱ですね。(主幹事として2019年に上場した)BASEの鶴岡さん(裕太氏・代表取締役)を紹介してくれたのも吉田さんです。これをきっかけにコミュニティが広がりました」。

そもそもクラウドワークスが上場した東証マザーズは株式公開市場の中でも若い企業を対象に、成長のステップとして活用されることの多いマーケットだ。真に50年、100年と続く企業を生み出すための日本独自のエコシステムといってもよい。クラウドワークスはその点で、正しくこの機能を活用したケースだった。

大和の思い切った「初モノ」は国内のスタートアップエコシステムに大きな影響を与える。これをきっかけにラクスル(2018年5月上場)やメルカリ(2018年6月上場)など、足元が赤字であってもマーケットと共にその後の成長を見据える新たな選択肢が増えることとなったのだ。(後半につづく)

※Bloomberg記事より10月14日時点の数字として