会社設立と資金調達を報じてから約1年、先月にはその最初のフェーズとなる、ビア樽回収サービス「レン樽」の正式サービスを開始した Best Beer Japan。その動向を確かめるべく、同社のビール樽回収業務に密着してみた。 まず、Best Beer Japan がどういうビジネスをしているかを説明しておこう。クラフトビールをお店で飲んだりすると、残念ながら、大手ブランドのビールに比べると値段の高いも…
Best Beer Japan 共同創業者 Peter Rothenberg 氏 Image credit: Masaru Ikeda
Best Beer Japan は、このビア樽を醸造所相乗りのレンタル形式のものに標準化し、空になったビア樽を回収することで店舗の業務を効率化しビア樽回収のコストや手間を極少化。このユーザバリデーションのフェイズを通じて、お客はクラフトビールが飲みやすくなるか、お店はクラフトビールを提供しやすくなるか、など、ビヘイビアが変化するかどうかを見極めることが狙いだ。
大田区にある Best Beer Japan の倉庫にて。ここに回収され、多くのレン樽が次の出番を待っている。 Image credit: Best Beer Japan
Best Beer Japan にとっての直接の顧客は醸造所で、醸造所から届けられたビールが飲食店で消費されて樽が空になると、店員は樽表面に貼付された QR コードをスマートフォンでスキャン。これだけで5営業日以内に Best Beer Japan が樽を回収に来てくれる。Best Beer Japan の担当者は、樽回収時に QR コードのスキャンだけで回収管理できるので、いわゆるギグワーカーでも対応できる。8月上旬現在、6社の醸造所がレン樽を採用しているそうだ。
以前にも書いたが Best Beer Japan が目指すのは、クラフトビールの物流スタートアップではなく、クラフトビールの D2C モデルだ。その構想はまだ一歩目を踏み出し始めたばかりだが、クラフトビールを扱う飲食店舗からの反応は上々で、飲食店舗からの醸造所へのボトムアップと醸造所オーナーへのトップセールスを通じて、今後、ビジネスのスケールアップを拡大していく計画だ。
この日1軒目の回収先は、表参道にあるログキャビン風のビアバー「BEER BRAIN」。「醸造所に伝えたいことがあれば伝えますよ」とユーザヒアリングに余念のない Peter Rothenberg 氏。アメリカ人にして、〝現代の三河屋さん〟っぽい。 Image credit: Masaru Ikeda
樽回収時はバーコードをスキャンするだけ。充填、出荷、回収、洗浄など、樽に関わる全てのステイタスを QR コードスキャンによりクラウド上で管理している。(Image credit: Masaru Ikeda)
2軒目の回収先は、クラフトビアバル IBREW 新橋駅前店。 Image credit: Masaru Ikeda30種類ものクラフトビールを扱う IBREW では、空になったビア樽の返却時に醸造所毎に異なる運送業者の伝票を書く作業が一苦労。「レン樽」なら、醸造所に関係なく QR コードをスキャンするだけで Best Beer Japan が回収に来てくれる、と店員さんからは好評。 Image credit: Masaru Ikeda
起業家というのは破天荒であることが多いし、むしろ、それは賞賛に値する称号みたいなものかもしれないが、世界的に見ても彼ほど枠にはまらない男は珍しいだろう。Peter Rotheberg 氏は UCLA を卒業後、ICU への留学のため2007年に来日。2014年には MOVIDA Japan 第5期から輩出された英語学習サービス「Eigooo!」を続けるかと思いきや、東京・浅草で人力車を引き始め、ス…
Best Beer Japan 創業者:CEO Peter Rothenberg 氏、Chief Beer Officer Eldad Bribrom 氏
起業家というのは破天荒であることが多いし、むしろ、それは賞賛に値する称号みたいなものかもしれないが、世界的に見ても彼ほど枠にはまらない男は珍しいだろう。Peter Rotheberg 氏は UCLA を卒業後、ICU への留学のため2007年に来日。2014年には MOVIDA Japan 第5期から輩出された英語学習サービス「Eigooo!」を続けるかと思いきや、東京・浅草で人力車を引き始め、スタートアップメディア「Tech in Asia(TiA)」の日本版編集長に就任した。
昨年夏くらいから、Rothenberg 氏の記事を目にすることが少なくなり、六本木にある East Ventures のオフィスで何かしらの準備をしているのは見聞きしていたのだが、その準備していた彼の新しい事業がいよいよ日の目を見ることになった。起業家を追う立場から、再び起業家の土俵へと戻ってきた彼に「おかえりなさい」と言いたい。
Peter Rothenberg 氏は、クラフトビールを主業とするスタートアップ「Best Beer Japan」を設立し、エンジェルラウンドで総額1,500万円を調達した。このラウンドに参加したのは、次の15のベンチャーキャピタルおよび個人投資家だ。数が多いので箇条書きにする。
高野真氏(Forbes JAPAN CEO 兼編集長、D4V CEO、MTパートナーズ 代表取締役)
谷家衛氏(D4V、あすかアセットマネジメント 代表取締役)
小川淳氏(チームボックス取締役、ピクシィダストテクノロジーズ・マネージングダイレクター)
山田浩司氏(boundary spanner 代表取締役)
松平典宏氏(Hoops Partners Chief Investment Officer)
小原聖誉氏(StartPoint 代表取締役)
綿谷浩明氏(AS-ACCELERATOR 代表取締役)
高橋寿瑞氏(Miz Partners)
曽我健氏(SGcapital)
大賀康史氏(フライヤー代表取締役)
山田尚貴氏(エニドア代表取締役)
伊藤健吾氏(D4V)
名前非開示の個人投資家2名
Best Beer Japan のロゴ Image credit: Best Beer Japan
THE BRIDGE の読者の中にもクラフトビールのファンは少なくないと思うが(そして、今回のラウンドに参加した投資家の多くもまた、クラフトビールのファンだと思われる)、お店で飲んだりすると、残念ながら、大手ブランドビールに比べると値段の高いものになってしまう。理由は大きく2つあって、一つは大量生産ではない点と、もう一つは物流が確立されていない点。前者ついては、消費者との需要に依存するので端的に解決できることではないが、特に驚かされるのは後者の理由の方だ。
クラフトビールのビア樽は標準化されているわけではないが、醸造所はビア樽で商品をブランディングしているわけではない。言い換えれば、外面ではなく中身で勝負をしているので、このビア樽を異なる醸造所の間でもシェアリングし、相乗りして流通の効率を上げようというのが Best Beer Japan の当面の構想だ。同社では、この構想に参加する醸造所と、東京を中心としたクラフトビールを提供する飲食店の協力を得て、ビア樽の回収サービスを始める。これはいわゆる、アーリースタートアップにとってのユーザバリデーションのフェイズで、Rotherberg 氏によれば、ビア樽の回収サービスを提供することで、飲食店のビヘイビアが変化するかどうかを見極めることが、最大の目的だという。
物流会社になるわけではない。21世紀のビール会社を目指して…。
オーダーメイドビールのレシピイメージ Image credit: Best Beer Japan
ビア樽の回収サービスから事業を始める Best Beer Japan は、クラフトビールの物流効率化スタートアップになろうというわけではない。ここで得られた市場データや知見をもとに、数ヶ月から1年後にはクラフトビールの E コマースや、オーダーメイドのビールを自ら醸造することもにらんでいる。ビア樽の回収サービスと並行して酒造免許や酒販免許の取得準備を始めれば、この事業を準備するための時間も無駄にはならない。既存の醸造所の中には生産能力に余剰があるところも少なくないので、印刷工場をネットワークして成功したラクスルと同じようなモデルが、ビールの世界でも実現できるのではないかと Rothenberg 氏は期待している。