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すでに日本が世界のフィンテックリーダーになりつつある理由【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本のフィンテックは多くの人が想像するより進化していて、さらに速いスピードで前進しつつある。

今日は、マネーフォワードの共同創業者であり、金融庁のアドバイザーである瀧俊雄氏を迎えた。マネーフォワードがどうやって設立され成長してきたかだけでなく、日本政府が全体として金融業界の整合性と安定性を維持しながら、金融イノベーションをどのように促進する計画かについても話を聞いた。

興味深い対話なので、お楽しみいただけると思う。

(本稿に含まれるユーザ数や金融機関数などは、原文が公開された2017年7月現在のものです。)

Tim:

マネーフォワードについて、少し教えてください。

瀧氏:

2つのビジネスラインがあります。消費者向けには、使いやすい個人会計プラットフォームを提供しています。大半の主要金融機関と連携したことで、我々の500万人いるユーザは自分がお金を貯めたり使ったりする習慣を把握し、ある種の個人の損益計算書を見ることができます。事業者向けには、中小企業を対象とした会計クラウドを運営しています。

Tim:

売上モデルはどうなっていますか?

瀧氏:

フリーミアムモデルです。無料ユーザは、最大10の金融機関まで接続できます。有料ユーザは、無制限に接続できます。

Tim:

マネーフォワードのようなサービスは、アメリカでだいぶ以前から存在していました。最大のものは、mint.com(Mint)ですね。日本でこの種のサービスが人気を得るのに時間がかかったのはなぜでしょうか?

瀧氏:

アメリカには、消費者クレジットスコアシステムがあるので、消費者に無理サービスを提供し、その金融情報をマーケッターに販売できます。そういうわけで、Mint は以前からサービスを無料で提供できたわけです。日本には統一されたクレジットスコアがなく、企業による個人情報の利用を規制する厳しいプライバシー法があります。したがって、アメリカのモデルは日本では機能しません。

Tim:

マネーフォワードのプロダクトについてはどうですか? 日本では、たいてい主婦が家計をつけています。このことは、プロダクト設計にも影響を及ぼしましたか?

瀧氏:

それは古くからのイメージで、我々が事業を始めたときにもそういう仮説を持ちましたが、間違っていたことがわかりました。自分の会計や家計に興味がある男性は多くいるのです。

Tim:

それは、プロダクト設計にどう影響しましたか?

瀧氏:

コアバリューにフォーカスするのに役立ちました。我々の競合には、現在の主婦の家計のつけ方をもとにデザインしたところもあります。彼らは、日記、手動データ入力、写真ストレージのような機能までつけています。我々は、現在行われているやり方を無視して、最も効果的にお金を管理する方法に特化しました。事実、女性ユーザよりも男性ユーザが多いです。

Tim:

それは興味深いです。きっと、昔からのやり方は手間がかかり複雑で、シンプルなインターフェイスによって、家の主人が参加できるようになったのでしょうか?

瀧氏:

それは可能性としてあります。しかし、実際はわれわれ共同創業者が全員男性で、我々が喜んで使いたいものを作りたかったのです。我々のプロダクトは特に男性的とか女性的とかいうわけでもありません。仕事をできるかぎり効率よくやる、というだけです。最終的には、すべての人に最も魅力的なものになるでしょう。

Tim:

今日、世界中でフィンテック企業に多くの投資が集まっていますが、金融業界は以前から変化が遅く、ディスラプトするのも困難です。それは日本も同じですか?

瀧氏:

実際のところ、この2年ほどで規制環境はいい方向に変化してきています。ベンチャー企業向けに金融機関が API を作って公開するのを促すため、銀行法は2回改正されました。

Tim:

どのくらい、物事は速く変化しているのでしょう? マネーフォワードは、2,600 以上の金融機関と接続していますね。そのうちのどのくらいが API を持っているのですか?

瀧氏:

現在のところは銀行10行だけが API を持っており、これらの API はこの2年ほどで作成されました。残りの金融機関については、マネーフォワードでは画面をスクレイピングしてデータを取得しています。API を持つ10行という数字は小さく聞こえるかもしれませんが、世界では最大の数です。

Tim:

そうなんですか? アメリカの証券口座や銀行口座は、すべて相互に接続して情報共有できているように思います。

瀧氏:

そうですね。しかし、そのほとんどは大規模な金融機関だけが参加できたり、二者間で直接連携できたりする専用ネットワークを使っています。日本では、スタートアップと大企業の両方が使えるオープン API を開発しています。

Tim:

このような動きを進める金融庁のモチベーションは何でしょう? 銀行間のやりとりの効率を上げようとしているのでしょうか? それとも、スタートアップを支援しようとしているのでしょうか?

瀧氏:

金融庁は、金融サービスの品質全般を改善したいのです。PayPal のような金融イノベータを見てみると、最初は狭い市場セグメントに特化し、一つのことを大変うまくやっていく傾向があります。銀行はそうはできない。銀行はすべての人にサービスを提供する必要があります。彼らは良いサービスの提供に注力していますが、スマートフォン世代にとっては、ただ良いものというだけでは十分ではない。消費者は最良の体験を求めるのです。

Tim:

なるほど。おそらく銀行にイノベイティブであることを求めるのは不公平かもしれませんが、他方で、銀行 API をスタートアップに公開するのはセキュリティリスクを教えてしまうことになりませんか?

瀧氏:

それは、我々が明らかに注意しなければならない点ですね。この構造を考える上で最良の方法は、金融サービスのインフラレイヤーから、プレゼンテーションレイヤーとサービスレイヤーをアンバンドルしつつあるということです。スタートアップはイノベイティブで新しいプレゼンテーションやサービスを作ることができますが、今後も実際の銀行インフラは今日の大規模金融機関によって運営され続けるでしょう。


日本は、一度変わろうとする決断がなされると、実に素早く変化していくことに常々驚かされる。今から10年後、日本はフィンテックイノベーションで世界のリーダーの一つになっているだろう。

金融庁の立場も興味深いが、成功はリスクとイノベーションの間の微妙なバランスにかかっている。新しい銀行 API は、スタートアップなどの企業が意味のあるイノベーションを作り出せるよう、十分な金融の力と機能性を公開する必要がある。しかし、銀行インフラが安定かつ信頼を担保し続けられるよう、必要な規制と制御を API に講じておく必要もある。

最終的に銀行はおそらく API の後ろにいる存在となり、そして、その多くは、特定の消費者ニーズや市場セグメントに特化した、さまざまな新しい小規模企業と対話することになるだろう。

日本の非効率な医療現場を変えるエンタッチ、あるアメリカ人起業家の挑戦【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本について最も普遍的な神話の2つは、会社を作ることが難しいということと、外国人としてビジネスをするのは難しいということだ。両方共難しいことは事実だが、他の国に比べて難しいというわけでもない。

日本の製薬業界は急速に変化しており、いくつかの要因により、製薬会社はビジネスのやり方を変えざるを得なくなったり、撤退を余儀なくさせられたりしている。Marty Roberts 氏はこの変化にビジネス機会を見出し、彼の会社エンタッチはこの分野で早くもリーダー的存在となった。

Tim:

エンタッチが解決しようとしているのは、どんな問題ですか?

Marty:

我々は、製薬会社が医師とコミュニケーションするのを支援します。製薬会社は、日本で医師に薬を宣伝するのに年間200億米ドル以上を費やしています。伝統的には、製薬会社はセールス担当者を病院に出向かわせ、1日のほとんどの時間を廊下で待ち、医師と1〜2分間だけ話をして新薬や新製品について伝えるという形をとっていました。しかし、医師はたいてい忙しく、そういうときは集中して話を聞いてもらうことはできません。誰にとっても非効率で、コストのかかるシステムです。

Tim:

それをどう変えようとしているのですか?

Marty:

エンタッチは、医師がセールス担当者と話す時間をスケジュールし、情報が得られるオンラインシステムです。医師は新薬について知りたいと思っていますが、都合のよい時間に話をする方法が必要です。製薬会社には、今すぐにでもコストを下げるよう多くの圧力がかかっています。現在、ジェネリック医薬品(後発医薬品)が定期購入の60%を占めており、日本政府はこれを2020年までに80%にまで引き上げることを目標においています。

Tim:

Marty さんはエンタッチを始める前、フランスの製薬業界マーケットリサーチ会社セジデムで、日本のカントリーマネージャーをしていましたね。

Marty:

仕事内容としては、マーケットリサーチ以上のものでしたね。患者データビジネス、マーケットリサーチビジネス、出版ビジネス、医療セールス担当者向けの Salesforce 連携に特化したソフトウェア会社も経営していました。セールス担当者がどう時間を使い、医師がミーティングに感じている重要度や、ミーティングの後に何を覚えているかを示したを持っていました。この市場には、多くの非効率があるとわかりました。

Tim:

それで、ビジネスをスタートしようと決めたのですか?

Marty:

当初は、ソフトウェア販売で問題を解決しようとしました。アメリカには、医療セールス担当者と医師を遠隔でコンサルテーションするシステムを持った企業が複数存在します。実のところ、ここ15年をかけて、大半の医師は医療セールス担当者との会話をオンライン化してきたのです。この技術トレンドは明確です。我々の当初の計画は、この(可能性が)証明されたシステムをライセンスし、ローカライズして日本で販売するというものでした。

Tim:

うまくいきましたか?

Marty:

期待したようにはいきませんでした。見込み客にソフトウェアを見せはじめたところ、誰もがそのアイデアを気に入ってくれましたが、日本ではすべてのセールススタッフが完全に行動を変え、新しいオンラインシステムを使い始めるということだけを発表することはできません。必要な再訓練には、非常に大きなハードルがあることが明らかになりました。ただソフトウェアを売るだけでは機能しなかったわけです。

Tim:

なるほど。オンライン販売には、対面販売とはまた違ったスキルセットが必要になるわけですね。それで、会社の中で反対意見に取り組もうとしたわけですか?

Marty:

この分野に可能性があることはわかっていましたが、日本市場独特の需要に合わせるには、自前でセールス担当者を雇いトレーニングする必要があったんです。しかし、その頃、セジデムはちょうど買収される真っ只中で、新たなビジネスをスタートさせることには関心がありませんでした。このときが自分の会社を始めようと決心したときだったと思います。しかし、その旅立ちを計画するには長い時間が必要でした。

Tim:

どのくらいの時間ですか?

Marty:

エンタッチを始めるために セジデムを離れたのは1年半後です。セジデムが合併されるのを見届け、新会社を立ち上げることで NDA や非競合契約に違反しないような方法でセジデムを退社するようにしました。スタートアップの時間軸で言えば1年半は非常に長いですが、計画に時間を費やしたことが後に報われました。十分に計画したことで、最終的に会社を設立したときに物事進めやすくなり、おそらく、成功の可能性も高まったのだと思います。

Tim:

Marty さんにとって、スタートアップには全く初めての挑戦だったわけですが、早期の従業員や投資家はどうやってみつけたのですか?

Marty:

それが本当に大変でした。スタートアップイベントに通い、アドバイスをくれる全員に連絡を取りはじめました。Tim さんと最初に会ったのも、エンジェル調達のやり方についてアドバイスが欲しいと、私が冷たい感じのメールを送ったときでしたね。

Tim:

(笑)確かに、そうでした。その出会いが役に立ったようですね。

Marty:

多くの時間を費やして、自身のアイデアを説明しました。たいていの人々はそのビジネスを理解しませんでしたが、数人は正しく理解し投資の意志を示してくれました。我々のセールス担当者の多くは遠隔で働いているので、過疎地域の就職支援企業に向けた政府の貸付金の恩恵に預かることができました。

スタッフを見つける上では、我々がやっていることの価値を理解してくれる業界関係者が多くいて、彼らは我々の一部になりたいと考えてくれました。製薬業界以外の出身者は、このビジネスの可能性を確信するのに少し時間がかりましたが、一旦、その価値を理解すると、多くの人が参加したいと言ってくれました。スタートアップ業界に新参者であっても、自分のビジョンを信じてくれる人を見つけられれば、会社は作れるのです。


興味深いことに、ヨーロッパやアメリカの業界動向を見て、日本も5年後、または保守的な製薬業界の場合で15年後に、同じ動向を採用するだろうと考える日本人創業者が多い。

日本の産業界は、ある技術が海外で証明されるまで待っている傾向にある。しかし、Marty 氏が発見したように、その技術を日本に持ってきて、それを売ろうとするだけではダメだ。それは往々にして、違った形でのパッケージ化やポジショニングが必要になり、エンタッチのケースで言えば、アメリカでは必要ないが日本の顧客が求める、一連のサービスとバンドルすることとなったわけだ。

日本の小規模小売店舗のビジネス変容を後押しする「軒先」【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本には、小さな商店街や市場の長い歴史がある。私が日本について最も楽しむことの一つは、アメリカ風のショッピングモール文化には無いものだ。都市部のオフィス街の人が多いエリアでさえ、裏通りに入ると多くの専門店や八百屋スタンドで埋め尽くされている。

軒先の CEO で創業者の西浦明子氏は、この文化が繁栄し広がり続けることを望み、小規模事業者がポップアップショップ、八百屋スタンド、フードトラックを運営する上でスペースを見つけられるようにしている。軒先は、このようなほんの少しのスペースが必要な小規模事業者と、そんなスペースを所有する家主をつなぎ、その過程で新たなビジネス機会を作り出すスタートアップだ。

軒先 CEO 創業者の西浦明子氏

Tim:

軒先は、どんなお客さんを対象にしているのですか?

西浦氏:

我々の名前が示すように、我々は軒下にスペースを見つけます。少量のスペースが必要な小規模小売事業者と、共有可能なスペースを持つ家主や大規模小売店をマッチさせています。

Tim:

小規模事業者は、スペースを見つけるのが難しいのでしょうか? どの街にも多くの小規模店舗があるように思います。

西浦氏:

小売スペースを見つけるのは、小さな会社にとっては大変です。私自身、最初の子供を産んで小さな輸入業を始めようとしたとき、その困難に直面しました。事業は小さく始めたかったので、長期間にわたる賃貸契約を約束したり、多額の敷金を支払うことができなかったのですが、一方でたいていの家主は短期間では物件を貸してくれませんでした。私は多くの小規模ビジネスが同じ問題に直面していることに気づき、この問題を解決することが、もともとの輸入業のアイデアより大きなビジネスになると思ったのです。

Tim:

アメリカでは、メジャーなブランドが短期間でプロモーションする方法として、ポップアップストアが定着しています。日本では、そうではないのでしょうか?

西浦氏:

ポップアップストアを開設するメジャーブランドは日本にもありますが、我々の顧客の多くは中小の販売事業者、例えば、野菜、靴、洋服、食品を販売している人たちです。多くは、ハンドメイド商品を売る人々だったり、自家製の作物を売る農家の人たちだったりです。

Tim:

空いているスペースを家主が貸したいと思うのは合点がいきます。しかし、TSUTAYA やブックオフといった大規模な小売事業者も、店舗内のスペースを軒先で貸し出していますね。どうしてでしょうか?

西浦氏:

理由は多くあります。一つは、店への客の誘導を増やしたいということ。例えば、我々の顧客のドラッグストアは、スペースを八百屋スタンドに貸しています。人々が野菜を買いに立ち寄れば、「あぁ、ここでシャンプーも買っておかなくちゃ」となるわけです。TSUTAYA などの企業は、新しい店舗を紹介することで、顧客体験を改善しようとしています。

Tim:

どんな店舗にスペースを貸し出しているのですか?

西浦氏:

多くはフードトラックですね。TSUTAYA のお客様の多くは20〜30代で、フードトラックは彼らの興味に合っているのです。もちろん、ベンダーは多くの新しいお客に会える場所を確保できることに喜んでくれますし、TSUTAYA は目新しい面白い小規模ベンダーを取り揃えることができます。この組み合わせから、大規模小売事業者と、小規模小売事業者と、顧客の全員がメリットを享受できるわけです。

Tim:

一度動き始めれば、この種の協業の価値は簡単に見出すことができますね。しかし、小売チェーンはイメージとか、自分たちのスペースがどう使われるかについて極めて気を使います。軒先を使ってみようという最初の顧客は、どのように獲得しましたか?

西浦氏:

インターネットスタートアップには時代錯誤に聞こえるかもしれませんが、我々は一軒一軒ドアを叩いて巡り、PowerPoint のプレゼンテーションをたくさん作って顧客を獲得してきました。我々のアイデアにオープンで、以前から小規模事業者やフードトラックからアプローチをもらっている顧客もいましたが、多くの小規模事業者を評価し管理する面倒を避けたい理由から、(我々の顧客にとって)軒先のアイデアは現実的ではありませんでした。我々がすべての手間に対応することで、顧客はハッピーになりました。しかし、それには時間がかかりました。一年以上をかけて、アーリーステージの顧客を軒先のプラットフォームに迎え入れてきたのです。今では、経験と多くの成功したケーススタディがあるので、顧客はもっと速く軒先のユーザになってくれています。

Tim:

2016年、2ヶ月間にわたってサービスの停止を余儀なくされましたね? 何があったのですか?

西浦氏:

7月の終わり、顧客データの紛失に至るかもしれないセキュリティ上の問題が、システム内にあることに気づいたのです。そのままリスクを持ち続けるのではなく、サーバを止めて問題を調査・改善することに決めました。

Tim:

可能性のレベルのセキュリティ脅威に対しては、極端な対応のように思えます。その2ヶ月間で、多くのビジネスを失ったのはないですか?

西浦氏:

決済情報にリスクがあったので、真剣に考える必要がありました。難しい局面ではありました。多くの顧客が憤慨されたのも当然です。しかし最終的に、軒先を使っていた不動産オーナーの約98%は、そのまま留まってくれました。

Tim:

それは素晴らしい。軒先の顧客は軒先を使えないときでさえ、付き合い続けてくれたのはなぜでしょう?

西浦氏:

最も重要なことは、コミュニケーションでしたね。すべての顧客に対して、そのときの状況や問題を解決するために実施していることを完全に伝えるようにしました。第二に、顧客との長期的な関係が大変重要だと考えています。ドアを叩いてプレゼンテーションして巡った日々のおかげで、我々は顧客のことを真剣に考えることができました。だからこそ、問題に直面した時に、我々の顧客は喜んで我々を信頼してくれたのです。


2ヶ月間にわたって事業の停止を余儀なくされた会社の多くは、倒産に追い込まれるかもしれない。西浦氏と軒先のチームはサバイブしただけでなく、この市場で最も強いプレーヤーの一つとして営業を続けている事実は、顧客との絶大な関係性だけでなく、真剣にサービスを提供することが、いかに重要で尊いことかを教えてくれる。

また将来、軒先から多くの話を聞くことになるだろう。

クラウド自動化「Mobingi」の創業者Wayland Zhang(張卓)氏が語る、日本でスタートアップを始める最速の方法【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Platform as a Service(PaaS)はこれまで、アメリカで難しいスタートアップビジネスモデルだったが、Mobingi の創業者で CEO の Wayland Zhang(張卓)氏は、日本で PaaS を受け入れてもらえるようにする方法を見つけた。彼のアプローチは、日本の技術バイヤーが持つユニークな特徴とユニークな性格の両方を取り入れたものだ。

Zhang 氏は、おそらく日本にいる外国人としては、最速でスタートアップを立ち上げる記録となった話を聞かせてくれた。東京に来て2ヶ月後、まだ日本語も話せないのに、あるスタートアップアイデアに決意し、日本人共同創業者を見つけ、日本で最も競争率が高いスタートアップアクセラレータの一つに参加が認められたのだ。

興味深い対談なので、お楽しみいただけると思う。

Wayland Zhang(張卓)氏

Tim:

Mobingi の事業は、具体的には何でしょうか?

Wayland:

企業がクラウド上でアプリを管理しやすくします。我々のプラットフォームは、クラウドアプリのワークフローを自動化し、ユーザがシンプルな Web 画面を使ってリソースを設定できるようにします。

Tim:

AWS や Azure には既に Web 画面がありますよね、何が違うのでしょう?

Wayland:

まず、Mobingi はもっとシンプルで、特定のクラウドの操作に必要な専門知識が要らないということです。エンジニアはまだ複雑なコマンドを使うことを求められる一方、Mobingi ではその必要がありません。第二に、Mobingi を使えば AWS のスポットインスタンスの割当を自動化することができるので、自動的に必要なときにアプリの移動ができます。これにより、お客様が支払うコストを最大80%程度削減できます。

Tim:

Mobingi が魅力的な理由がわかりました。その節約できるコストというのは、Mobingi に支払うコスト以上なのでしょうね?

Wayland:

そうです。実際のところ我々の価格は、お客様が節約できるコストの15%と同額です。

Tim:

このプラットフォームは販売しやすそうですが、当初は難しかったとおっしゃっていましたね。

Wayland:

最大の問題は、お客様に Docker コンテナを使ってもらう必要があることでした。Docker はアメリカでは標準的ですが、日本企業は DevOps 文化を取り入れるのに時間がかかっています。

Tim:

それはなぜだと思いますか?

Wayland:

日本企業は、コンプライアンスを大変気にするからです。もし、明らかなセキュリティの問題があれば、それを直そうとするでしょう。しかし、日本企業はこれまでの手順を踏襲できると確信したいと考えるので、これが新しいイノベーションの紹介を難しくしたり、特定の問題が今は解決されないまでも、長期的にはセキュリティ問題が解決される小さな改善を難しくしたりしています。DevOps に心血を注ぐプログラマの小さなコミュニティもありますが、たいていの企業では一般的な存在にはなっていません。

Tim:

そのような問題をどうやって解決したんですか?

Wayland:

我々のお客様の多くは、新しい技術を好んで試そうとするスタートアップです。富士通のようなエンタープライスの顧客もいますが、DevOps ツールの使い方を教えるために、彼らのエンジニアリングチームには、しばしば緊密に連携する必要があります。この対応はシリコンバレーの SaaS スタートアップにはクレイジーに見えるでしょうが、日本でのビジネスでは、とにかくフェイス・トゥ・フェイスで多くのミーティングを求められることが多く、これが日本ではしっくりくるということです。

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Tim:

日本に来た多くの外国人は、ビジネス文化のそういった側面に驚かされますね。Web でモノを売るのに、しばしばフェイス・トゥ・フェイスが重要になる。Wayland さんは、デジタルガレージの Open Network Lab と 500 Startups という、日米両方のアクセラレータに参加されました。両者の内容は似ていましたか?

Wayland:

Open Network Lab に参加したのは、私が日本に来て2ヶ月目でした。人脈を作り、自信を持つために参加したのです。多くの人に会いましたが、私は日本語を話さず共同創業者が学びの多くを得たので、私は Open Network Lab についてはコメントできません。共同創業者と私は、サンフランシスコの 500 Startups で多くを学びました。しかし、どちらのプログラムにおいても、プログラムからよりも、(プログラムに参加した)仲間のスタートアップ起業家からの方が多くを学べると思います。

Tim:

富士通のアクセラレータにも参加されましたね? それは似ていましたか?

Wayland:

違ったものでした。富士通のアクセラレータは、富士通が協業するスタートアップを見つけるためのオープンイノベーションプログラムでした。ビジネスの方法を教えてくれるということはなく、我々を富士通の関連企業や部署につないでくれるというものでした。それで結果として、富士通は我々の主要な顧客になってくれました。

Tim:

中国でもいくつかビジネスを成功させていますね。どうして日本に来て会社を始めたのですか?

Wayland:

もちろん、日本は安全で、食べ物も美味しく、住みやすいということもありますが、本当の理由は私の妻が日本人で、日本に戻りたがっていたからです。日本語を話さない外国人である私は、普通の職には就けませんでした。スタートアップを創ることが、基本的に唯一の選択肢だったわけです。

Tim:

なるほど。しかし、日本に来て2ヶ月後に会社を作ったわけですね。そんなにすぐに共同創業者が見つかりましたか?

Wayland:

ラッキーでした。私の友人がデジタルガレージで働いていて、彼が共同創業者である堀内氏(堀内康弘氏。gumi 元 CTO、AWS 元エバンジェリスト)を紹介してくれたのです。彼は日本の IT 業界で極めて有名な人物です。堀内氏は Mobingi のアイデアに興味を持ってくれ、それを実現できると確信してくれました。彼の努力で、素晴らしいエンジニアリングチームを集めることもできました。

Tim:

日本に来て会社を作った外国人の立場から、最も驚いたことは何でしょう?

Wayland:

日本のビジネスパートナーや従業員の誠実さですね。中国のスタートアップ社内で、信頼関係というものはほとんどありません。プログラマがコードを盗み、従業員がお金を盗むということでさえ、よくある話です。したがって、多くのことを秘密にしなければならない。日本では、あまり心配することではありません。従業員は家族のように、共に仕事をしてくれるからです。


日本でいくつかの会社を創業した外国人として、私も日本企業における信頼関係のレベルには感心させられる。それは企業と従業員の間だけではなく、企業対企業の間においてもだ。日本企業は、アメリカ企業や中国企業に比べ契約を破棄するケースがかなり少ないし、ビジネスを一度始めれば納入業者を変えることもあまりない。

これこそ日本企業が素晴らしいお客様になる理由であるが、同じ理由から彼らに最初の契約にサインしてもらうのが大変難しいのも事実である。

私の考えは間違っていた。日本のイノベーションの未来を築くのはスタートアップではない。(3/3)【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Image credit: fberti / 123RF

第2編からの続き〉

日本企業の海外進出を援助するための政府の優れたプログラムもあることはありますが、政府の大半の取り組みは財政的援助に関するものです。実際、2016年には、日本中の全中小企業への融資のうち20%は日本政府から直接行われたものか、日本政府により保障されたものでした。

明らかにこれでは持続不可能です。

また、私たちはグローバル市場に売り込むことのできる企業を探しているのですから、66万ある中企業のうちローカルな企業やサービス企業75%を除く必要があります。そうするとグローバルに展開する能力のある16万5,000の日本の中企業が残ります。

日本経済の未来、日本が世界的な技術革新国として再び認識されるかどうかは、実にこれらの中企業16万5,000社、言わば来たるグローバル競争時代を生き延びる比較的小さな中企業群にかかっているのです。

ではなぜ私は大企業やスタートアップよりも中企業に信頼を置くのでしょうか。今土壇場に追い込まれているのが中企業だからというのが理由の一部です。中企業は大企業と違って、多大な資金の積み立てや、お金になる政府との契約に頼って楽することはできませんし、大半のスタートアップと違って、投資金を求めて比較的大きい国内市場に頼って成長を目指すこともできません。

成長というのはスタートアップにとっては違った様相を見せます。もちろん、日本のスタートアップも中企業も同一の日本国内市場で動いているかもしれませんが、10万米ドルの年収益があるスタートアップは、海外に見向きしなくとも年100%の割合で簡単に成長できます。それに対して、既成の中企業に1億米ドルの収益があろうと同じような成長の仕方は全く不可能です。

今後生き残るためには、日本の中企業は実際の世界の顧客のために、リアルな問題を解決しなければいけませんが、嬉しいことに中企業の多くは既にそれを始めています。現在日本のスタートアップに比べて、日本の中企業はずっと多くの世界レベルの技術を有しているのです。

真に素晴らしい日本のスタートアップを批判するつもりではありません。単に事実を述べているだけです。たとえ中企業のうちグローバルに展開する可能性のあるほんの一部分、すなわち16万5,000の会社だけに注目するとしても、それらは日本のスタートアップよりも大規模で、既にグローバル市場で認められた革新的技術をもった企業なのです。

日本の中企業が、利益の少ないニッチ製造企業から非常に儲かる世界的ブランドに変身したいと思う時、今日直面する2つの課題は、第1に自社の技術を活用し製品化すること、第2に世界の消費者にその技術を知らしめることです。

この際、日本の中企業はスタートアップから学ぶことができるし、実際に学んでいくだろうと私は思います。スタートアップが安価で素早く新製品を開発し普及させるために使った同じ技術を中企業も使うことができます。サンフランシスコのスタートアップが素早くグローバルな消費者基盤を築いた技術と手段を、日本の中企業も用いることができます。

分かりますよ、ここスタジオからでさえ、日本の中企業がこんな風に動けるという考えを聞いてリスナーの皆さんが呆れていらっしゃるのを感じます。疑うのはよく分かります。特に、日本の中企業で働いた経験のある方ならです。確かに、嫌になるほど保守的で、偏狭でさえある中企業も多いです。しかし彼らも今地盤が動いているのを見ています。CEOたちは、変わらねば、そうでないと生き残れないと分かっていますし、実際にすぐにでも変わる必要があります。ビジネスを閉鎖した CEO として記憶されたい人などいません。

CEO らに変革を行う能力はあるでしょうか? 私はあると思います。少なくとも一部の CEO には変革の能力があるでしょうし、それで十分です。まだ疑っているという方がいらっしゃれば、別に悪いとは言いませんが、典型的な、あるいはステレオタイプとなった日本の中企業よりも、非典型的な中企業のことを考えて頂きたいと思います。何しろ、有望な中企業が全部で16万5,000もあることを思い出して下さい。このうちたったの1、2%だけでも現代的な商品の構想、普及、成長技術を上手く採り入れ始めれば、日本経済を大きく変える影響力となるでしょう。

個人的には、1、2%をはるかに上回る数の中企業が成功すると思っています。そしてこれら中企業には大企業よりも、こうした変貌を遂げる見込みがずっとあると思います。

200人企業の文化と方向性を変えるのは、2万人企業の文化と方向性を変えるのよりずっと簡単です。NEC のような10万人企業と比べればなおさらです。300人企業は、(経済産業省が中企業を従業員300人以下の企業と定義しているのを思い出して下さい)未来への真なるビジョンをもったカリスマ的で意欲ある CEO がいれば、方向転換を遂げることができます。そして2,000人企業、さらには2万人企業へと成長する軌道に乗ることができます。

事実、日本の中企業は、成長初期、成長途中の段階にあるアメリカのスタートアップとそれほど規模が変わりませんし、後者と同程度に機敏な企業になることが可能です。

私はよく旅行をします。多くの地域が第2のシリコンバレーになりたがっています。日本の、ドイツの、アメリカ中西部のシリコンバレーなどという言い方を誰もが耳にしますが、こういう状態を克服できればいいと私は思っています。簡単にシリコンバレーを作る魔法や秘訣などありません。

第2のシリコンバレーなど決して現れないでしょう。国や立地それぞれにふさわしいやり方を見つけ、その地の強みと弱みは何か知り、世界中から最高のビジネス手法を採り入れ、独創的で真似できないものを生み出す必要があります。

そしてよろしいですか、この過程を日本以上に上手くこなす国はありません。日本の第2次大戦敗戦後、アメリカ占領政府側で働く多くの経済学者は、日本は決して完全な経済復興を遂げられないだろうと結論付けました。日本のインフラは完全に崩壊しましたし、日本には競争力ある資本主義的な民主主義の土台となる歴史的な枠組みがありませんでした。そうした多くの経済学者は、日本はずっとアメリカのある種の保護国であり続けるだろうと考えていました。

実際にその後結果がどうなったかは、私たちの知るところです。日本の産業界は、世界から最高のビジネス手法を学び、これを適用して、日本の強さを活用した日本独特のシステムを生み出したのです。そして30年後には日本は絶望的な経済的無力から、地球上で2番目に大きい経済国へと変貌を遂げ、自動車、時計、家電、カメラ、その他の産業の在り方を完全に変えました。

日本は変わると決めたら、いかに速く、完全に変わることのできる国であるか、見くびってはいけません。

そして今回、変化は大企業やスタートアップからではなく、中企業から起こるであろうことは非常に明らかだと思います。大企業というのは、巨額の蓄えがあり、変革を強いるような存在の危機などには直面していないのです。また、日本のスタートアップでは驚嘆すべきことが行われていますが、経済の針を本当に動かすのに十分な数ではありません。少なくともこれまでのところはです。公平に言って、最も技術面で成功したスタートアップは中企業なのです。

繰り返しますが、これから重い課題をこなすかどうかは、もちろん日本の中企業次第です。しかし、既に、これら中企業の一部は世界最高に数え入れられる技術を生産しており、世界の最も革新的なスタートアップと同じ手段や技術を使える状態にあります。

多くの点で現代日本の中企業は系列企業を1960年代に取り巻いていた状況と似た状況にあります。つまり世界の消費者にはほとんど知られていないということです。これら中企業が対象とするのは、経済の拡大を刺激できるほどの売り上げを支えられないような国内市場です。しかし彼らは世界市場でも競争できる技術を手にしているのです。そしておそらく最も重要なことは、彼らが、広く利用可能で検証済みの世界最高のビジネス手法を取り入れて、問題を解決することです。

日本の中企業の CEO たちは、ひょっとするとソニーの共同創業者である盛田昭夫氏からインスピレーションを得られるかもしれません。盛田氏は技術を斬新な製品へと変えてしまう天才でした。盛田氏の方が一世代前ですが、スティーブ・ジョブズ氏以上かもしれません。

50年代、60年代、ソニーの状況は今の中企業の状況とたいそう似たものでした。ソニーには優れた技術があり、世界中の多くの企業がソニーを製造子会社として、あるいは自社のブランド名で製品を作らせる OEM として、自社のサプライチェーンに組み入れたいと考えていました。

盛田氏がそのような取引を拒否し、ソニーは自社の製品を作り自らのブランドを立ち上げると譲らなかったことは有名です。その後数十年で、小さな企業だったソニーは巨大企業に成長し、産業界を変革し続け、トランジスタラジオ、トリニトロン、オーディオ CD、初の家庭用ビデオレコーダー、ウォークマンなどを広めました。若いリスナーの皆さんにとっては信じ難いと思いますが、盛田氏が1999年に亡くなった時、アメリカでずば抜けて愛されていたブランドは、コカコーラ、GM、Apple などの巨大企業をはるかに超えて、ソニーだったのです。

革新的技術を製品化する日本の能力を疑う人は、日本の過去を忘れた、記憶力に乏しい人です。

もちろん時代が変われば事態がどう転ぶかも変わります。いつでもそうです。

しかし、主要メディアの関心が規模、知名度共にトップの日本ブランドに集中し、スタートアップに関するメディアの関心が、至るところでローンチされる紛れもなくクールで奇抜な小さなスタートアップに集中する一方で、変革の本当の実行者が見逃されています。

今度は変革は中企業から起こるのです。

今回お話ししたこと、また私のソロトーク編全般について何かお考えがあれば、ぜひお聞きしたいと思っていますので、disruptingjapan.com/show091 のページまでお越し下さい。またお好みなら、私たちの FacebookTwitter をフォローするか、Disrupting Japan の LinkedIn ページをご覧下さい。

メッセージをお待ちしております。

しかし何より、お聞き頂きありがとうございました。そして日本のイノベーションに関心のある方々にこの番組を紹介して下さいますようお願いします。

お話は Tim Romero でした。Disrupting Japan を聞いて頂きありがとうございました。

〈完〉

私の考えは間違っていた。日本のイノベーションの未来を築くのはスタートアップではない。(2/3)【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Image credit: fberti / 123RF

第1編からの続き〉

ここ10年の間に、事態は中企業にとって一層厳しくなりました。数十年もストイックに不名誉と屈辱に耐えてきた系列グループのリーダーらは、自社のサプライチェーンの多様化や、中国、東南アジアやその他世界各国からのより安い製品の輸入を始めました。大企業の側に立てば、こうしたサプライチェーンの最適化は明らかに真っ当な措置でしたし、極めて率直に言って、それまでの数十年間ずっと必要とされてきたことでした。しかし、中企業が依存するようになっていた、大企業による売り上げと収益の保証が瞬く間に消えていくことにもなりました。これと同時に、多くの日本の中企業が倒産に追いやられていくのが見られるようになります。

これは素晴らしいことです。実際、日本経済の将来はここにかかっています。

もちろん、それは倒産する者からすれば素晴らしいことではありません。ひどいことです。しかしとりあえずこうした傾向からすでに始まった大きな転換に注目してみましょう。

ご存知の通り、企業系列のしがらみと売り上げ保証から脱却し、現在多くの日本の中規模製造企業が突然マーケティング方法や製品の売り込み方を学ぶ必要に迫られています。日本の国内市場は低成長で人口も減少している中、多くの中企業は成長を求めて海外に目を向け始めています。

これは素晴らしいことです。このうち一部の日本の中企業は、海外でかなり成功していくでしょうから。これは倒産した中企業の埋め合わせ以上のものになるでしょう。

どうして私はここまでこの考えに自信があるのでしょうか。それは日本の中企業が今世界的に見て極めて驚くべき革新的な製品を生み出しているからです。

このことをリスナーの皆さんにどう証明するのが一番よいか、いろいろと考えました。日本政府の報告書や公式な統計はたくさんありますが、問題をありのままに見たいと思います。日本政府がイノベーションに関して最も権威ある情報源だというわけではありません。

そうではなく、Apple に証明してもらうことにしましょう。Disrupting Japan のリスナーが52%の確率で持っているとされるお手元の iPhone を見てください。52%というのは、特定の個人1人について言っているのではありませんよ。リスナーのあなたは、いつも自分の使う機器でこのポッドキャストを聞いていて、その機器を100%の確率で所有していらっしゃるわけですからね。そうではなくて、統計では全リスナーのうち52%の方がこのポッドキャストをiOSデバイスで聞いているという意味です。

話が脇道に逸れました。

ですから、iPhone のための Apple のサプライチェーンの話にこれから移ろうということです。これを通じて日本の中企業のイノベーションについて多くのことが分かるからです。

Apple は、自社製品のための部品と労働の調達の点で羨ましいほどの境遇にあります。自社製品の製造に必要な製品やサービスを理想レベルで供給する企業を、アクティブに積極的に世界中から探して選べるだけの資力が、彼らにはあります。Apple のサプライチェーンは実に関連技術の最高の組み合わせなのです。

そしてこのサプライチェーンは実にグローバルなものです。iPhone を1台作るのに700を超える企業が関わっています。一番企業数の多い国はどこか分かりますか? もちろん中国です。249社があります。しかし2位は日本で、139社です。日本の次に来るのはアメリカで60社、そしてその後は台湾42社、韓国32社、他の26ヶ国が残りを占めるというように、企業数がどんどん減っていきます。

ですから、139の日本企業が iPhone のサプライチェーンに属しています。これは中国企業の半数以下ですが、アメリカの2倍以上です。これらは正確にはどういった日本企業なのでしょうか。

それには予想される通り、ジャパンディスプレイ、村田製作所、シャープ、ソニー、東芝、TDK といった大企業も含まれます。しかし当該企業のほとんどはおそらく名前を聞かれたことのないもので、大企業ではなく中企業です。

しかし、大・中企業にとって、中でも中企業にとって、何が中企業の魅力なのか問うてみるに値します。それから、大規模にかつ低コストで製品を生産できる中国が第1位に来るのは理解に困りませんが、なぜ日本が強力な第2位なのでしょう。こちらはさらに興味深い問題です。

実際、中国企業が企業のサプライチェーンにとって魅力である理由は日本企業の魅力の理由とほとんど反対のものです。中国は労働コストが安く、環境規制もほとんどなく、大規模で融通の利く労働力があり、労働保護も緩い国です。他方日本は、労働力不足を抱え、賃金も高く、物的設備費用もかさみ、その上、日本の環境保護、労働保護に関する法規の厳しさは世界でも有数のものです。

それでいてなお、日本の中企業は世界のその他の国々との競争に勝っているようなのです。

それはなぜか? 簡単に言えば、日本の数千の中企業に存在する驚くべきイノベーションのためです。これら中企業は常に自らの系列の影にいながら、韓国や台湾より常に5年先を行くような技術を地道に生み出してきました。これらの日本企業は、どれも低コスト生産企業ではなく、すべて世界的なイノベーターです。

今日のアメリカでは、製造業の仕事を回復させることについてよく議論されています。これは目指す価値のある目標です。しかし、ほとんどの政治家はコスト削減に重点を置き、環境および労働保護を緩和して、アメリカを中国のような国にすることが解決への道だと考えているようです。しかし、こうした政策立案者や政治家は、アメリカと比べて規制は厳しくコストは高いのに、世界的に製造業を率先しており、かつ労働者に高い生活の質を提供している日本やドイツのような国に目を向けた方がよいと私は思います。優れた製造業の仕事を回復させるのに良いモデルが実際にあるのですから。

実際、アメリカを見ていると、日本は中小企業のイノベーションという点でカリフォルニアにとてもよく似ています。ここでは賃金と土地代がとても高く、低コスト製造者としてはもはや生き残れません。世界のベストになる必要があります。環境、労働関係の法や税政策の点では日本の規制枠組みは特に事業者に対して優しいわけではありませんが、これらの法は国民に広く受け入れられており、近いうちに変わるなどということはないでしょう。

しかしまた話が脱線してしまいました。日本の中規模でグローバルなイノベーターに今後何が起きるか、話すのが目的でした。

Apple にはこのような日本の中企業を独自に見つける資力がありますが、系列とのつながりを断つ日本の中企業が増えるにつれ、海外での積極的な売り込みとマーケティングを始める中企業が増えていくでしょう。どうして海外なのでしょうか。なぜなら、国内需要が伸び悩む中、世界市場が成長への唯一の道だからです。

これは完璧に論理的に筋が通ります。何が起こるべきか、何が起きなくてはならないか、私たちは知っています。しかし、今後10年間で実際に日本の中企業に起きる可能性が最も高いことは何か、私たちは予想できるでしょうか。

具体的な数値を見てください、いや具体的な数値を聞いてください。

間違いなく、日本の中企業は多くの苦難に直面するでしょうし、その多くは廃業になるでしょう。目下のところ、日本政府はビジネスを拡大しようというよりは、日本全国の弱い、または存続不能の中小企業に対して融資を広げることによって、苦難の到来を先延ばしにしようとしています。

第3編に続く〉

私の考えは間違っていた。日本のイノベーションの未来を築くのはスタートアップではない。(1/3)【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Image credit: fberti / 123RF

今日も特別番組をお送りします。ゲストはいません。ビールもありません。第2外国語として英語を話すゲストとふざけた冗談を言い合うこともありません。今日は私とリスナーのあなただけです。私は非常に大事だと思っているものの、十分に多くの人が話していない事柄があります。私は今から20分間、それを皆さまの耳に入れたい思います。

この番組でソロトークをやるのは久しぶりです。ソロトークは私の放送回の中でもとても人気なようで、多くのリクエストを頂きますし、とても好きでやっています。私ももっとソロトークをお送りできればいいのですが、ソロトークというものに費やされるリサーチと校閲作業の量の多さを知ったら、リスナーの皆さんもびっくりされるかもしれません。準備が3分の2まで行って残りをまとめているところで、自分の主張の大枠が間違っており、すべて書き直さないといけないことが判明した時などはなおさらです。

残念なことに、私はマイクのスイッチを入れてさらっと20分間話せるほどスマートな人間ではありません。すごい行動や発言をする驚異的にクリエイティブな日本のスタートアップ設立者やイノベーターと座ってお話ししている方がずっと楽です。

ただ、今日は、1年ほど前に初めて私の頭に浮かんだ考えをお話しようと思います。リサーチをすればするほど、人々と話をすればするほど、その考えは正しいと確信するようになりました。私はこれまでその考えについてあまり話したことはありませんでした。というのも、正直、これはここにいるスタートアップ界の多くの人が反対するような内容ですし、中にはものすごく強く反対する人もいるだろうからです。しかし重要なことなので、気を引き締めて、話を始めましょう。

今後20年、スタートアップが日本経済を回復させることもなければ、日本のイノベーションの第1の原動力になることもないでしょう。誤解しないで下さい、スタートアップには果たす役割があります。それもとても重要な役割です。しかしスタートアップは変革の第1の原動力にはならないだろうと言いたいのです。

スタートアップではありません。向こう10年大規模なイノベーションと経済成長の第1の原動力になるのは、日本の中企業でしょう。

このことを理解するために、私たちは、日本の中企業が今日の日本経済で果たす役割について検討し、その後事態がどうしてこうであるのか、そして今日本が重要な転機にあるのはなぜか理解するために、少し前の時代を振り返り、そして最後に、今後15年ほどで事態がどう変化するか、検討していきたいと思います。

さて、このポッドキャストを聞く普通のリスナーの皆さんは、このような話題はつまらないとお感じになるかもしれませんが、今 Disrupting Japan をお聞きの皆さんは特別に恵まれた方々です。私と一緒に問題の複雑さに浸って下されば、きっと報われます。話についてきて下されば、20分後には日本の中企業について、またおそらく日本のスタートアップについても新たな見方を得られると約束します。

日本の企業界を家族に喩えれば、日本の中企業は兄弟の真ん中っ子です。トヨタ、三菱、パナソニック、三井といったご存知のブランド大企業は、大方かつて非常に有力だった系列企業のなごりです。これら大企業は言わば長男です。これらの大企業の名前は誰でも知っており、ニュースでも取り上げられます。彼らには影響力があります。また、日本政府(国会議員と官僚の両方)と緊密に連携して、日本の大企業のニーズが国の政策と国際貿易協定に確実に反映されるように図っています。そして当然ながら、政府の助成金、一次契約、経済刺激政策の圧倒的多数は、こうした大企業を対象としたものです。

日本のスタートアップは言わば末っ子です。スタートアップ企業は、経済的に影響をもたらすからではなく、新しいという理由で、日本の心と想像力を虜にしました。彼らはすごいことを言い、行い、築き上げます。彼らが日本で愛される理由はそこにあります。スタートアップはほんの少しの業績でもあれば、メディアで褒めそやされ、注目を浴びます。

すごい! 製品を配送できたんだね! 素晴らしい! 君は僕の誇りだ。ほら、100万ドル投資してやるよ。

……というようにです。

しかし、日本の中企業は中途半端なままでした。過去50年間、中企業は地道に、そして信頼されつつ、大企業のサプライチェーンの主力をなしてきました。日本の労働者の大半を雇い、報われないことが多くても、イノベーションを安定して生み出してきました。そして大量の仕事をこなしながらも、ほとんど何も注目されてきませんでした。

そしてご存知の通り、日本が経済問題に直面するたびに、犠牲の矢面に立たされるのは中企業です。政府に救済援助を取ってもらうだけのコネクションが中企業にはなく、また、大企業は困った状態に陥ると、情け容赦なく中企業を圧迫します。

なぜ大企業はこれまでこんなことをやり通してこられたのか、そしてこの力関係が今後どのように変わろうとしているのか、後でお話しします。しかしまずは、なぜ日本経済の未来が大企業やスタートアップよりもずっと中企業にかかっているのか、その単純な理由を見ることにしましょう。

大企業、中企業、小企業というのが正確にはどういう意味なのか、定義したいと思います。今日の議論では、経済産業省による定義を用いたいと思います。なぜなら、こうした事柄の定義を決定している機関は、まさに経済産業省だからです。

製造企業については、経済産業省は中企業を、20人以上300人以下の従業員を抱える企業のことと定義しています。従業員20人未満の企業は小企業、従業員が300人を超える企業は大企業とされます。非製造企業については、中企業は5人以上100人以下の従業員をもつ企業とされています。従って、中企業というのはヨーロッパの多くの国やアメリカの場合と比べて、やや小さめに定義されていることになります。

さて、定義を終えたところで、日本経済に中企業が与える影響について理解すべき最も重要なことは、中企業は日本経済そのものだということです。中企業は日本の労働人口の54%を雇っており、これは大企業と小企業の雇う労働人口の合計より多いのです。そして、中企業は日本の企業収益全体の48%を占めます。

では、中企業が経済に対して多大な影響力を占めるにも関わらず、経済政策に対する中企業の影響力の無さ、取引先に対するバーゲニングパワーの無さはどう説明したらよいのでしょうか。

こうした困った事態から日本の中企業(とその他日本全体)が今後いかにして脱却していくか検討する前に、数十年前を振り返り、中企業がどうしてそのような事態に陥ったのか理解したいと思います。

戻る先は系列企業、いや本当に立ち戻って考えるなら、財閥を振り返ることになるでしょう。一般的に、戦後、日本の産業は系列と呼ばれる競合する企業グループへと編成されました。各企業系列には自身の主要銀行、取引企業、不動産会社、重工業会社などがありました。系列に属する大手企業同士は、株式の持ち合い、重役の兼任によって結びついていました。そしてこれらの大企業は、サプライチェーンを構成する、より知名度の低い無数の大企業と中企業によって支えられていました。こうしたサプライチェーンは厳しく統制され、よく知られたほんの一握りの例外を別にすれば、何らかの系列のサプライチェーンに属する中企業は、自社の系列グループ外では売ろうとしませんでした。これら中企業の成功は系列自体の成功と切り離すことのできないものでした。

さて、こうした企業の配列は供給業者にとってはひどいことのように思われますが、実はそれほどひどくはありませんでした。特に初期の時代にはそうでした。大きな系列企業は、自社のサプライチェーンをなす中企業に対して、ほとんど父親のように手厚く世話をしたのです。

大企業は技術移転や技術教育をよく行いました。中企業の研究や開発に対し部分的に出資もしました。そして何よりも中企業に一定程度の売り上げと収益を保証していました。中企業の経営者も従業員も裕福にはならなかったとはいえ、彼らのビジネスはシンプルでした。彼らは大半の市場勢力から守られ、販売・マーケティング機能を発達させる必要は一切ありませんでした。だからこそ彼らは製品開発と製造に集中することができたのです。

このような企業関係の編成は、あらゆる方面にとって、中でも大企業にとって上手く機能しました。経済が急速に拡大している限り、十分なお金が回っていました。

しかし90年代に事態が変化し始めました。円高になり、それが日本製品の海外価格を高騰させ、日本の大企業はもはや60年代、70年代のようにはイノベーションを行っていませんでした。お金に余裕はなくなり、大きな系列企業は自社のサプライチェーンを圧迫し始めたのです。

大企業は他のコスト削減も行いましたが、系列グループ内の被害の矢面に立ったのは中企業でした。これら中企業は情け容赦なくコスト削減を迫られただけでなく、大企業は自らの新たな人員問題を解決する手段として中企業を当てにするようになりました。

ご存知の通り、日本の大企業は、かつては基本的に全雇用者に対して生涯雇用を約束していました。これは労働に需要がある時代には理のかなったことでした。中途転職を認める大企業は無かったため、賃金は低く抑えられ、従業員は企業に忠実でした。もちろん、仕事を十分にこなせない役立たずの従業員もいましたが、人員が足りていると思われることは決してなかったため、そのような従業員にもやらせることは何かしら常にありました。

売り上げが急に減り始めた時、こうした状況すべてが変わり始めました。そのような非生産的な従業員たちが労働意欲、生産性の両面で大問題になったのです。そこで系列のリーダーらは完璧な解決法を考えました。こうした役立たずの従業員を捨て、子会社や、サプライチェーンを構成する中企業に回せばいいというのです。そして、もしその中企業がそんな従業員を雇いたくないと言うならば、もちろんそれまでですが、これら中企業は営業を継続するために、怠けた従業員であっても従業員リストに載せたものでした。

第2編に続く。〉

NTTを凌駕する、日本の小さなスタートアップTownWiFi【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本のスアートアップが大企業に挑戦し勝利するのは稀なことだ。しかし、TownWiFi の荻田剛大氏と彼のチームは、それを成し遂げた。

TownWiFi は、公共 WiFi ホットスポットを自動的に検出・ログインしてくれるモバイルアプリだ。TownWiFi の資金調達は控えめで、荻田氏と彼のチームは TownWiFi を広めるにあたり、専ら良いユーザエクスペリエンスと口コミに頼ってきた。

今日は、TownWiFi のユーザエクスペリエンスと、わずかな予算で世界展開に賭ける荻田氏の計画について、話を聞いてみた。

TownWiFi 荻田剛大氏

Tim:

市場には、このようなアプリがたくさんありますね。TownWiFi との違いは何ですか?

荻田氏:

使い方が簡単である点ですね。TownWiFi は世界中のほとんどの公共 WiFi に、自動認証、自動ログイン、自動登録ができます。これらの処理すべてはバックグラウドで動きます。他の大抵のアプリでは、アプリを開いて画面を選択し、3〜4ページからなる接続プロセスを実行する必要があります。

Tim:

「世界中」とは大きなことをおっしゃいますね。どのように実現しているのですか?

荻田氏:

世界中の約150万ヶ所、日本の約30万ヶ所の WiFi スポットに自動接続できます。我々は WiFI プロバイダと提携しているわけではありません。我々のような小さな会社には交渉が大変だからです。東京メトロやスターバックスなどで、(WiFi の)登録プロセスを自動化しているだけです。

Tim:

しかし、小さなスタートアップが、すべての場所を訪問できるわけではないですよね? どうやっているのですか?

荻田氏:

有名な場所はいくつか、我々が個人的に訪問しています。例えば、重要なポイントは、大きなチェーン店舗の支店は同じ認証プロセスを使っているので、一ヶ所訪問すれば(他の)数千ヶ所の WiFi ホットスポットにどう対応すればよいかがわかります。その他、我々のユーザからも情報が寄せられます。あるユーザが手動で新しい公共 WiFi ホットスポットにログインすると、我々はその情報をデータベースに登録し、他のユーザも自動的にログインできるようにします。ホットスポットが認証フローを変更したときにも、同じ方法で情報を更新できるようにしています。

TownWiFi のアプリ
Image credit: TownWiFi

Tim:

ユーザはどれくらいいるのですか?

荻田氏:

現在200万人以上で、アクティブユーザは100万人以上です。ユーザの大半は日本にいますが、まもなくグローバル展開も始めます。

Tim:

TownWiFi は無料のアプリですが、どのようにお金を稼ぐのですか?

荻田氏:

マネタイズには2つの方法があります。300円のプレミアムサービスでは、公共 WiFi が利用できないとき、ユーザはプライベート WiFi のネットワークにアクセスできます。地域によっては公共 WiFi がカバーしていないところがあるため、プレミアムサービスは特に旅行者に人気があります。多くの小売業が WiFi を提供して顧客を魅了するため、この情報を使っています。

Tim:

大きな競合は誰になるでしょうか?

荻田氏:

大きな一社しかありません。NTT の「Japan Connected」です。彼らは素晴らしい企業で、多額のマーケティング予算を持ち、我々よりも4年前にローンチしていますが、我々はローンチして1年後にはインストール数で彼らに並びました。アクティブユーザの数で言えば、我々の方が多かったと思います。成長率も我々の方がはるかに高いですね。

Tim:

どうすれば、そんなことが可能なのでしょうか? 真っ向から戦って、大企業に勝つスタートアップはそんなにいませんね。

荻田氏:

よりよいユーザエクスペリエンスを作ることに特化したのです。NTT のアプリでは、ユーザがアプリをオープンし、WiFi を使うたびに接続ボタンを押す必要があります。しかし、TownWiFi はバックグラウンドで自動的に動作します。ユーザはアプリをインストールした後は、アプリの存在を意識する必要さえありません。

Tim:

NTT には実店舗やパートナーネットワークもあるし、マーケティング予算も大きいですね。TownWiFi の存在を、人々のどのように知らしめているのですか?

荻田氏:

特に何もしていません。すべて口コミによるものです。ローンチ数週間後、我々のユーザはわずかでした。ローンチ1ヶ月後には30万人に達し、それ以来この数は伸び続けています。正直なところ、我々はそのための準備はできていなかったので、少しパニックになりました。我々のサーバはそれほど多くのユーザには間に合っていませんでした。大変忙しい時期でしたが、すべてがうまく機能するように、そして成長し続けるようにしました。

TownWiFi
Image credit: TownWiFi

Tim:

モバイルプロバイダーがよりよいデータプランを提供すれば、公共 WiFi サービスの人気は無くなるでしょうか?

荻田氏:

それは重要な質問ですが、そうなるとは思いません。第一に、データプランが改善されつつあっても、ファイルサイズ、ビデオダウンロード、インターネット利用はさらなる速度を求めています。どれだけ帯域があっても、常にもっと多くの帯域を求める。そこには常に公共 WiFi サービスのニーズがあるでしょう。第二に、TownWiFi は WiFi 企業ではなく、通信サービスだと考えています。ユーザの約10%は携帯電話を持っておらず、インターネット接続には WiFi だけを使っています。これはすごく大きな人数で、特にベトナム、インドネシア、マレーシアのような東南アジア市場では、この傾向が高まっています。

Tim:

世界展開の計画について、お話を聞きます。最初のターゲットは、韓国、台湾、アメリカだとおっしゃいました。どうしてこれらの市場を?

荻田氏:

国際的にも口コミで広めることを計画しており、日本人観光客が多く訪問している国々、日本を訪問する外国人観光客が多くいる国々に特化したかったのです。こうして、今いる日本人ユーザが海外旅行したときにホットスポットにアクセスできるようになり、日本を訪問した外国人観光客が母国に戻ったとき、彼らは TownWiFi を母国でも使い続けられることに気づくでしょう。アメリカ、台湾、韓国は、この特性に最も適しています。


チームが少人数でマーケティング予算が無いにもかかわらず、TownWiFi が大きな競合に勝ち続けている事実は興味深い。このような話からは、日本の市場が誰もにとって公平になりつつあり、日本人ユーザが有名ブランドよりも良いユーザエクスペリエンスを選ぶようになっていることがわかる。どちらの傾向も、日本のスタートアップにとっては良いニュースだ。

音楽やダンスに合わせて反応する靴「Orphe」で、ゲームデザイナーから病院までアーリーアダプターを見出すno new folk studio【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


素晴らしいスタートアップアイデアの大半は、すぐには素晴らしいとは明らかにならない。創業者のビジョンが、創業者以外の我々の目に明らかになるまでには、しばらく時間がかかるものだ。一方で報道メディアの注目を集めたスタートアップが、現実が約束を果たせなくなって最初の製品を出荷した直後に業務を中断することはよくある。

ここに Orphe という製品がある。LED で装飾され、WiFi 接続され、ソーシャルネットワークにも対応するダンスシューズは、流行のソーシャルシェアリングのために作られたように見えるが、より深く探ってみれば、Orphe の真の姿と市場での可能性がわかるだろう。

今日は no new folk studio の創業者で Orphe の製作者である菊川裕也氏を招いて、音楽、ハードウェア事業でのファイナンス、さらにこの素晴らしい靴が、ゲームデザイナーから病院まで、さまざまなアーリーアダプターを見出している理由について話をしてみたい。

素晴らしい対話なので、お楽しみいただけると思う。

no new folk studio 創業者の菊川裕也氏

Tim:

人々は Orphe を LED ダンスシューズと表現しますが、それ以上のものではないですか?

菊川氏:

ヒールの中にコンピュータ、さらに3つのモーションセンサー、WiFi 接続、100個の LED を備えたダンスシューズです。LED は、スマートフォンアプリや靴の中のモーションセンサーと連携して制御できます。

Tim:

90年代の LA Gear など、LED シューズは以前からありました。大きな違いは、センサーやインターネット接続でしょうか?

菊川氏:

大変異なるアプローチをとっています。両製品(Orphie と LA Gear)を照明のついた靴として見るのは簡単ですが、我々はフットウェアとしてではなく、音楽からインスピレーションを得ています。楽器としての靴からはじめ、機能を拡充すべく技術を加えていったのです。

Tim:

靴を楽器として考えたことはありませんでした。

菊川氏:

そうでしょうね。靴は、タップやフラメンコのほか、世界中にある多くの民謡風音楽で使われる楽器として一般的です。

Tim:

お客さんについて教えてください。Orphe を使っているのは誰ですか?

菊川氏:

アーリーアダプターは、ダンサーやパフォーマーですね。センサーやインターネット接続を備えているので、Orphe はダンサーの動きや音楽、背景の動きにあわせて反応できるんです。パフォーマーは、ダンサーのステップにあわせて、背景照明をコントロールすることもできます。創造的なパフォーマンスに新たな道を開いてくれます。

Tim:

Orphe を作る前は、他の楽器を市場に出そうとしていたのですか?

菊川氏:

はい。産業アートデザインを学んでいて、PocoPoco を作りました。PocoPoco は、ループビートやループサウンドを作り出す立方体デバイスです。音楽と同じく、ループビートやループサウンドの生成に役立つ、触覚フィードバックや照明を使いました。

Tim:

それは面白そうなプロジェクトですね。売ろうとした時の反応はどうでしたか?

菊川氏:

プロトタイプをつくり、ビデオを作り、世界中から多くのフィードバックを得たのですが、結論として実用的ではありませんでした。製造コストが高すぎたんです。

Tim:

人々に新しい楽器のことを完璧に知ってもらうのは難しいに違いないですね。ギターは発明されてから世の中に受け入れられるまでに、200年以上を要しています。

菊川氏:

それは克服すべき問題ですね。最も良い方法は、直感的なデザインにすることです。人々は、靴の履き方、歩き方、ダンスの方法をすでに知っています。Orphe は、こういった人々がすでに理解している動きをもとにした、新しい楽器なんです。

Tim:

つまり、シンセサイザーは新しい楽器だけど、すでに多くの人が弾き方を知っているピアノを模して作られた、という感じ?

菊川氏:

そうですね。

Tim:

VC よりもクラウドファンディングで資金調達することにした理由は?

菊川氏:

当初、このアイデアは大抵の VC にとって、あまりに見慣れないものだったからです。クラウドファンディングで資金を集め、評判を集め、商品出荷を開始した後、VC は興味を持ってくれるようになりました。

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Tim:

デバイス本体についても、少し教えてください。どんなセンサーが入っていて、どの程度正確に動きを捕捉するのですか?

菊川氏:

最大の難点は、靴に電子部品を入れることで求められる耐久性です。最終デザインに落ち着くまでには、多くのデザインや 3D プリントのプロトタイプを試しました。Orphe には、9軸モーションセンサー、3軸加速度センサー、3軸ジャイロスコープ、3軸コンパスが備わっています。一般的には、これらのセンサーの精度は約1度単位です。

Tim:

それは、大変高度な正確さですね。純粋にコントローラとしての利用方法も模索されていますか? おそらく、VR での利用やダンスダンスレボリューションのようなリズムゲーム向けのコントローラーとしての可能性があるのではないでしょうか?

菊川氏:

その通りです。実のところ、我々は SDK をリリースしていて、エコシステムの形成にあわせて、より多くの利用方法を模索しようと考えています。すでに多くの VR ゲーム企業と協業しており、Unity 向けの SDK もリリースしました。しかし、今までに見た中で最も面白い利用方法の一つはヘルスケアです。

Tim:

リハビリツールとしてですか?

菊川氏:

リハビリだけではありません。健康全般において、歩き方は非常に重要です。現在、複数の医師と協業し、人々の歩き方や健康全般を改善できるアプリを開発しています。ここでカギになるのは、センサーや LED がほぼリアルタイムでフィードバックし、動作と対話的に反応を返すことです。

Tim:

現在は、菊川さんたちが自ら Orphe を作り販売していますね。大手靴メーカーや運動競技会社との提携は計画していますか?

菊川氏:

現在、2つの協業に取り組んでいます。一つは、よりブランド性の高い、ファッシナブルでニッチでプレミアム感の高い製品、もう一つは Orphe を低価格で販売できるサプライチェーンやスケールを備えた大手靴メーカーとの協業です。我々は両方の選択肢を追求しています。


菊川氏の拡大戦略はスマートで、日本のハードウェアスタートアップの中でも人気を集めつつある。プロトタイプを作り、数千単位の小ロット生産から始めるのは比較的容易だ。しかし、次のレベルである数十万や数百万単位を扱うマス市場へと進むと、多くの資金が必要となる。カスタマイズされた専用の生産ラインが必要になり、サプライチェーンを開発し管理する必要も出てくる。

現時点では、アメリカで成功したスタートアップはこのレベルの資金へのアクセスを確保しているが、日本のスタートアップはそれまでには至っていない。したがって、日本のスタートアップがスケールする上で最良の方法は、大量生産の能力を持った大企業との提携ということになるが、スタートアップがより規模の大きい資金調達を実施するようになるにつれ、この状況にも変化が現れるだろう。

福島原発事故を契機に生まれた、〝市民科学〟の力で放射線量データを世界中から集めるプロジェクト「Safecast」【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。 Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。 彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を…

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


2011年3月の東北大震災と福島第一原発での事故の後、東京電力と政府高官らは放射線の危険に関するコミュニケーションに2つの問題があったことを認識した。一つは必要な情報の多くが存在しなかったこと、もう一つは情報が存在していたとしても、それらの情報を信じない人が多かったということだ。

このような環境の中で、Pieter Franken 氏と彼のチームは Safecast を設立した。Safecast はもともと、手製のガイガーカウンターを使って放射線量を測定する小さな日本のグループから始まったが、現在では個人、大学、NPO、政府官庁らをも巻き込む国際的なムーブメントにまで成長した。

Pieter 氏は、環境化学が今後10年で大きく変化する理由を説明してくれた。

今回も素晴らしいディスカッションなので、お楽しみいただけると思う。

Pieter Franken 氏

Tim:

東北大震災以降、あなたと Safecast のチームは、放射線量の測定と掲示を始めましたね。それを決意させたのは何ですか?

Pieter:

当時は放射線量に関する情報が不足していて、それが原因で、必要以上に人々を恐怖に追いやったからです。

Tim:

日本政府は、その情報を捕捉するシステムを持っていなかったのでしょうか?

Pieter:

その質問に対しては、イエスでもありノーでもあります。政府は放射線量を計測し、その影響を受ける可能性のあるエリアを決定するシステムを持っていました。しかし、その情報は市民には入手できないものでした。実のところ、その情報を必要とする政府の人々にも入手できなかったようです。我々は、本当に必要なことは、すべてのエリアを詳細にカバーする、オープンで透明性の高いシステムだと確信しました。

Image credit: Safecast

Tim:

それは、野心に満ちた話ですね。どうやって始めたんですか?

Pieter:

最初は人々にガイガーカウンターを渡してデータをアップロードしてもらう方法を考えたのですが、原発事故後半年から1年間は、世界中のあらゆる場所でガイガーカウンターが売り切れてしまっていました。事故の6週間後、我々は持っていたガイガーカウンターをクルマに搭載して東京から郡山へと北上し、車を運転しながら取得した放射線量を手動でクラウドにアップロードしていました。その後、ガイガーカウンターをクルマに搭載し、データを集めている慶應大学の学生グループと協業するようになりました。

Tim:

スケーラビリティのあるしくみではありませんね。

Pieter:

(笑)確かに、それはまだ始めたばかりでしたから。後に、データを自動的にアップロードできるよう、Tokyo Hackerspace というプログラマーのグループと協業しました。低価格で耐水性のある弁当箱サイズのガイガーカウンターの設計にも着手しました。操作が簡単で、計測した放射線量を自動的にクラウドにアップロードし続けるものです。最初の3ヶ月間でおよそ50万件の放射線量を計測でき、そこから、放射線レベルというのは、原発からの距離に応じて予測できるものではないことがわかったんです。放射線の強さは、場所によって(規則性はなく)斑のようでした。線量の強い計測地点と弱い計測地点が近接していたのです。すべての地点を計測する必要があることが明らかになった瞬間でした。

Tim:

「近接」というのは、同じ市内、通り、あるいは、どの程度の近さのことですか?

Pieter:

同じ通りの別の角のこともあれば、同じ駐車場区画の別の地点で放射線量が違っていることもありました。身近なところでは、屋根から連なった雨樋的なものが、放射線量の高いホットスポットを作り出す可能性があります。駐車場の一区画の中でも、地面を覆っているものが砂利か、土か、アスファルトかによって放射線レベルが異なってきます。

Tim:

へぇ。つまり、使い物になる全体図を作るには、多くの放射線量計測を行う必要があるわけですね。

Pieter:

そうです。そんな理由から、できるだけ多くの人に関わってほしいと思ったわけです。すべてを計測したかったから。政府は立入禁止区域内部の放射線量計測に追われていましたから、我々の目標はそれ以外のすべてを計測することでした。

Image credit: Safecast

Tim:

あなたのガイガーカウンターキットは、そのプロジェクトの一部だったと?

Pieter:

自作のガイガーカウンターキットをリリースしたのは、その一年後でした。製造工程の複雑さに巻き込まれたくなかったし、この技術を誰にでも手に入れられるようにして、より多くの人に関わってもらえるようにしたかったので、Amazon でキットを約600ドルで販売しました。

Tim:

Safecast のコミュニティ参加者の多くは日本にいる人たちですか?

Pieter:

これまでに1,000個以上のキットを世界中に販売し、現在も急速に伸びています。データの約50%は日本からですが、アメリカやヨーロッパのユーザも多くの放射線量計測に貢献してくれています。

Tim:

ユーザは大学生なのでしょうか? エンジニア? どういった人たちなのでしょう?

Pieter:

それには、シンプルな答えはありません。個人もあれば、会社もある。日本内外の地方政府とも協業しています。

Image credit: Safecast

Tim:

政府官庁は、あなたと協業したがってるでしょうか? このような情報を収集・配信すれば、あなたが機嫌を損ねさせている政府官庁があるかもしれませんね。

Pieter:

まず、多くの政府や大学の科学者たちは(私たちの活動に)懐疑的でした。低価格の計測装置を使って、科学者でもない人たちが信頼のできるデータを作れるのかと、彼らは問いかけてきました。我々には初期の頃から、慶應大学や東京大学の科学者たちが関わってくれていましたが、我々の計測手法と懸念事項を記した査読論文を発表したときが真のターニングポイントになりました。それからは、科学や学術のコミュニティからの、我々に対する関心は着実に高まりつつあります。

Tim:

この種の「市民科学」は、他の分野でもトレンドになると思いますか?

Pieter:

そうなるでしょうね。そうなることが重要だと思います。市民科学は透明性の確保によってデータに対する信頼性を高めるだけでなく、より多くの詳細なデータの収集を可能にします。何百万個もの汚染計測センサーや放射線量モニターを設置・管理することは、どんな政府にとっても現実的ではありませんが、何百万人もの市民に一緒に活動してもらうことは簡単です。データが自由にシェアされれば、データの分析や洞察は、より多くの人々に開放されます。市民科学は費用をかけず、より細密なデータを集めることができ、それを全員にオープンにできるのです。科学の進め方を変えていくでしょう。


一般的に市民科学と言われるような Safecast のようなプロジェクトには、政府の科学者と市民の関係性を反転させる可能性がある。情報に関心を持つ科学者たちやそれ以外の人たちのために、市民が生データを収集し整理するという構図だ。

市民が政府官庁と直接的にコラボレーションすることで共通の目標に向かって取り組んだり、市民が科学者のコミュニティと直接協業したりすることは、いいことだと思う。政府や科学に対する人々の理解を改善するには時間がかかるだろうが、それはまた同時に、政府と科学両方の質や対応を改善することにもつながるだろう。