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若手アーティストを支援する「新時代の版画」の可能性ーーDNPとTRiCERAの共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 アートを社会に実装する共創の取り組みはこれまでにもいくつか取り上げてきました。The Chain MuseumとKDDIによる日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(A…

写真左から:TRiCERA代表取締役の井口泰氏、DNPアートコミュニケーションズ取締役の篠田秀実氏、DNPメディア・アートの相田哲生氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

アートを社会に実装する共創の取り組みはこれまでにもいくつか取り上げてきました。The Chain MuseumとKDDIによる日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(ARTS & CULTURE PROGRAM)の取り組みや、東急とヘラルボニーによる「障害のある作家のアート」が街に染み出すROADCASTプロジェクトがそれです。

そして今回ご紹介するTRiCERAと大日本印刷(以下、DNP)の共創事例は、よりアーティストにフォーカスを移したものになるかもしれません。

現在の世界のアート市場は7.5兆円、国内については3,500億円ほどと推計されています。一方、実際に作品販売において生計を立てられているアーティストはわずかであり、その理由として乏しい販売のチャネルがありました。大きな作品であれば運搬するだけでもコストがかかります。この問題を解決しようとしたのがTRiCERAで、彼らはアーティストと作品を求める消費者を繋ぐマーケットプレイスを展開しています。

今回の共創事例では、ここにDNPの印刷技術を組み合わせることで、より作品販売の可能性を広げることに成功しています。詳しい取り組みについて、DNPのみなさんとTRiCERA代表取締役の井口泰さんにお話を伺いました。

アート販売の課題と版画がもたらす可能性

国内におけるアート作品を販売する方法は画廊・ギャラリーを通じてのものが一般的で、それ以外に大手デパートや催事、インターネットサイトで直接販売する方法もあります。画商などが間に入って取り扱うケースは別として、自分で直接販売する場合にはそれなりのノウハウとコストが必要になります。海外にも販路を広げようとすると難易度はさらに上がります。

TRiCERAが提供するのはアーティストのC2Cマーケットプレイスで、参加申請に通ったアート作品の情報をアップロードし、売買が成立すれば梱包をするだけで、あとはTRiCERA側が集荷・搬送、販売手続きを担ってくれる仕組みになっています。海外販売時の税関対応も彼らがやってくれます。

しかしここでもうひとつ大きな課題が立ちはだかります。価格です。井口さんが「多くの時間をかけて制作を行うアーティストの作品価格は高価格になってしまうため、知名度がない状態では作品が良くても売れないことが多い」と指摘するように、一点ものの作品は数カ月かかって制作するものも珍しくなく、それなりの価格を必要とします。

しかし高額になればなるほど一般の人には届きにくいものになってしまいます。

そこでアイデアとして出てくるのがグッズや複製品の考え方です。特に版画にできる作品の場合は価格を抑えることができるので有効です。ただ、版画も簡単な方法ではなく、版下を作るだけで数十万円のコストが必要になるそうです。このハードルをクリアしたのがDNPの高精彩複製技術でした。

TRiCERAは市場創造のために作品単品だけでなく複製画販売の可能性を検討していました。一方のDNPでは、国内外の美術館が保有する名画のライセンスを管理するビジネスを展開しています。ただこれまではリアルな展覧会や美術館での告知と販売がメインで、オンラインマーケティングや海外も含めた販売(EC)が着手できていないという課題感がありました。

TRiCERAが手がける若手アーティストの作品についても同様です。DNP高精彩出力技術『プリモアート』では、国内外の美術館が保有する名画やマンガ・アニメ原画をアーカイブし、複製する事業をしていたものの、現代若手アーティスト作品については着手できていなかったんです。(DNP 篠田さん 相田さん モタイさん)

昨年1月にKDDI ∞ Laboの定例会で出会った両社は検討を重ね、各国から選りすぐった13名のアーティストによる限定エディション・高精彩複製作品の販売にこぎつけます。結果、昨年11月から約3カ月の期間でのトライアル販売では、国内外から予想以上に販売に繋がったというお話でした。

実際に販売された作品

現代アートでは複雑な配色、ストロークやタッチがあるため、従来の印刷では細かい部分には手が及びませんでした。今回はDNPが持つ10色インキ用のカラーマネジメント、さらに原画の撮影には1億画素を超えるカメラを用いることでそれらを再現できました。版画の魅力の一つはイメージを楽しめるという点です。だからこそ色彩の表現、アーティストの筆の痕跡を忠実に再現する必要があるのです。(TRiCERA 井口さん)

共創の取り組みはまだ始まったばかりです。版画を初めて制作したアーティストの反応も上々で、DNPサイドとしても原画だけでなく複製画の販売の可能性、アーティストや作品による販売数の違いなどマーケティングデータを収集できたことも大きかったそうです。これらの反響を手に両社は次の仕掛けに向けて取り組みを続けます。

DNPは、文化(アート)を次代へ継承するだけでなく、アートの力が経済成長の原動力にもなると考え、その理解・認知拡大や、他産業分野(観光、まちづくり、教育等)と連携した取組みを進めています。今回の取り組みでは若手アーティストの作品を「高精彩出力技術・プリモアート」で製造し「新しい版画」と位置づけて販売をしていくことで、アーティストが自立して活躍できる環境を提供しました。

若手アーティストが世界で活躍できる社会づくりにつなげることと、アート市場をより一層活性化し拡大させていきたいです。また、アートを身近な存在にしていくため、著作権の管理や二次利用の推進、各種メディアやプロモーション手法、新たなアーティストの発掘・育成などについても今後協業を検討していきます。(DNP 篠田さん 相田さん モタイさん)

デジタル技術とマーケットプレイスの組み合わせで生まれた「新時代の版画」作品はアートに取り組む人、楽しむ人にとって新しい選択肢となるのでしょうか。

編集部では引き続き共創の取り組みをお伝えしていきます。

DNPの社内外をつなぐ事業共創のハブーー大日本印刷のスタートアップ投資

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたフジテレビの「フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(FSV)」に続いてお届けするのは、大日本印刷(以下、DNP)のスタートアップ投資活動についてお届けします。 DNPは連結売上高1.4兆円、従業員数3.8万人(共に2020年3月末時点)の日本を代表す…

大日本印刷・モタイ五郎氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたフジテレビの「フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(FSV)」に続いてお届けするのは、大日本印刷(以下、DNP)のスタートアップ投資活動についてお届けします。

DNPは連結売上高1.4兆円、従業員数3.8万人(共に2020年3月末時点)の日本を代表する総合印刷企業です。その事業範囲は広く、生活空間やモビリティ、素材、エレクトロニクスにライフサイエンスなど多岐にわたっています。

6月に開示されている中期経営計画でも示されている通り、DNPでは次の視点として社会課題の解決を掲げ、第三の創業を目指すとしています。既存にあった個別企業のニーズ・課題解決からより大きな社会全体の問題解決へと視点を移し、注力事業として「IoT・次世代通信関連事業」「データ流通関連事業」「環境関連事業」「モビリティ関連事業」を掲げています。

今回取材したDNPのスタートアップ投資はこの一環として活動をされているそうです。機動力のある少額出資と、多岐にわたる事業ポートフォリオに対して新しいスタートアップやテクノロジーのアイデアを社内に適切に繋ぐ「社内外ハブ」のような役割を担うというお話でした。本稿ではさらに詳しいお話を伺います。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答は大日本印刷のモタイ五郎さん)

DNPはCVCとして切り出すのではなく、本体投資の部門として活動されています。部署自体が立ち上がった背景などについて教えていただけますか

モタイ:DNPは「知とコミュニケーション」「住まいとモビリティ」「食とヘルスケア」「環境とエネルギー」という4つの成長領域を設定しています。この成長領域において、(1)IoT・次世代通信関連、(2)データ流通関連、(3)モビリティ関連、(4)環境関連、の4事業を主な注力事業と設定し、社会課題を解決するとともに人々の期待に応える新しい価値を創出することで、持続可能な社会の実現に貢献しようと考えています。

一方、刻々と変化する社会課題に対応すること、社会を支える世代の価値観を知るには、新技術や新たな着眼点で破壊的なビジネスモデルを狙うスタートアップの力が必要です。そこでDNPでは、新事業創出に向けてスタートアップとの共創促進の打ち手として、少額出資機能を設置しました。

この部署では幅広い事業部門やグループ会社との連携など、本社の直接投資だからこそできる機動的な意思決定のプロセスを運用しています。スタートアップには出資検討段階からハンズオンする担当者がついて、DNPの様々な事業部門やパートナーとの連携を支援します。出版印刷などの情報コミュニケーション分野を始め、食品包装や建装材、モビリティなどの生活・産業分野、電子デバイスやディスプレイ部材などのエレクトロニクス分野など、幅広い事業領域のアセットを提供しています。

具体的にどういったケースでスタートアップに出資または事業連携をしていくのでしょうか。またその方法は

モタイ:投資の方針ですが、新しいビジネスやテクノロジーを持つスタートアップで、DNP独自の「P&I(印刷と情報)」の強みを掛け合わせて、強い事業ポートフォリオ構築に取り組める各社と連携・共創をしたいと考えています。

最初はこういう部署でこういう事業ができるかもという事業部のメンバーとディスカッションをして、詳しく聞いてみたいということであれば面談を設定するところから始まります。スタートアップの事業内容を十分に理解し、その強みを活かして複数の事業部門、グループ会社との連携可能性を各部門のメンバーも含めて一緒に議論し、事業プランを練っていくような形です。

また、本社と事業部でも求めているものが異なり、本社のリクエストとしては数年(4〜5年)で事業を大きく変えるようなものが主眼になりますが、やはり足元がある事業部との接点づくりとなるとより短い期間で形になるものが多くなります。ただ、事業部の中にも新しいことをやらないといけない、という認識が生まれているのは事実です。

4事業を将来的なフォーカスとして掲げられていますが、特に注目しているテクノロジーはありますか

モタイ:AIやIoTは注目していますね。データを活用できる時代に入っていて、これまで取れなかったデータが取れるようになりました。こういう技術を活用し、私たちが強みとするサプライチェーンやヘルスケア、メディアでどのように活用できるのか検討したいと思っています。

また、前述の通り本社としてはより大きな視点で全体を見る必要がありますので、より幅広い応用が効く基盤的な技術が必要です。一方、各事業に近い所だとサービスやパッケージングされている、すぐに連携がイメージできるものがやはりよいですね。

具体的な共創のケーススタディを教えてください

モタイ:2020年7月に、モノのシェアリングサービス「AliceStyle」を手掛けるピーステックラボへの出資をしました。近年、伸張が期待されるシェアリングエコノミー市場がどの様に拡大していくのか、また、DNPの強みを活用した事業にはどのような可能性があるのか、そういった視点を出資先であるピーステックラボのハンズオン支援をしながら検討を進めています。

モノのシェアリングサービス「AliceStyle」

例えば、従来からDNPで販売しているアート作品の複製画を、AliceStyleを通じてサブスクリプション型でレンタルするビジネスを一緒に検討しています。今まで見いだせなかった新たなユーザーへアプローチすることができそうです。

掲げる持続可能な社会を作る、という点でシェア経済の確立は重要です

モタイ:はい、ただシェアリングエコノミー市場は拡大が期待される一方、利用者にもサービス事業者にも安心・安全や信頼性といった要素が求められています。DNPがこれまで多様な企業との取引で培ってきた知見やサービス、技術を活用できるのではないかと考えております。

このチームは広大な企業の適切な部門と、新たなテクノロジーやビジネスモデルを繋ぐ「ハブ」のような役割なんですね。今は何人ぐらいでやられてるんですか

モタイ:現在は限られた人数で幅広い事業分野を対応しているため、現状は国内スタートアップが中心です。今後は徐々に海外に対象をひろげていきたいです。特にエレクトロニクスやフォトイメージングなどの事業分野はグローバルにも対応していきたいと考えています。

大企業で幅広い事業分野を手掛けていると、どうしても自社の強みやアセットになかなか気づかないこともあります。是非スタートアップの方からも声をかけていただき、事業共創のきっかけにしていただければと思っています。

ありがとうございました。

ということでDNPのスタートアップ投資活動についてお届けしました。次回はヤマトHDの取り組みにバトンをお渡ししてお送りします。

研ぎ澄まされた製品しかユーザーに響かないのが世界ーー大日本印刷の北米チャレンジ【後編】

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本稿は前編からの続き リーンは海外だからこそ出来る 必要最低限の機能開発は昨年12月時点で終わっており、今年からプロモーション段階に入っている。 開発手法に関しては、ユーザーフィードバックを得て、それをプロダクトに即活かしつつ修正を加えてゆく、リーンなプロセスを取っていく。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けしま…

本稿は前編からの続き

リーンは海外だからこそ出来る

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Image by Besty Weber

必要最低限の機能開発は昨年12月時点で終わっており、今年からプロモーション段階に入っている。

開発手法に関しては、ユーザーフィードバックを得て、それをプロダクトに即活かしつつ修正を加えてゆく、リーンなプロセスを取っていく。

このようなリーンスタートアップ的やり方は、北米の方が向いていると語る平野氏。これはユーザーフィードバックの質に起因しているようだ。

「いまはサンフランシスコ市内の大学に通っているいろいろな学生に声をかけてフィードバックをもらっている状態です。最近感じたのは、ユーザーのフィードバック自体は北米の方が濃いということ。特にサンフランシスコはアーリーアダプターしかいなく、多くのアプリに触れているからでしょう。そのため、フィードバックの質が重要になってくるリーン手法は、北米で最も通用すると考えています」(平野氏)。

私がサンフランシスコのスタートアップ界隈の人と話す時も、確かに多くの示唆に富む意見をもらえるので、平野氏の意見に同意だ。フィードバックベースのリーン手法が北米で最適であるという点も納得がいく。

一方で、日本ではリーン手法は難しいとも語っていた。日本人消費者からのフィードバックは比較的薄く、一定量をリサーチ段階でもらったとしてもローンチしてみるまでユーザー全体のリアクションがわからない。だからこそ、リーンとは逆に長期計画でじっくりと仕込んでいく必要が日本では生じるとのこと。

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Image by Alan Levine

一方でユーザーフィードバックの受けすぎには気をつけているらしい。

「やはり答えは現地にあります。困ったらユーザーに聞くのが一番良い。ですが意識しないといけないのは、ユーザーに聞きすぎてもいけません。仮に10人中7人が欲しいと言った機能だとしても、マネタイズやユーザー獲得というビジネスモデルの面からそぐわないと判断したら即切るようにはしています。

例えば友人機能。SnapAskのコンセプトとしてすぐに回答が来るツールと割り切っているので、友達に聞くというシチュエーションは想定していません。そのため、フィードバックの中に友人機能を付けて欲しいという要望がありましたが、対応はしませんでした」(平野氏)。

このように質の高いフィードバックの中から、自分が聞かなければいけないものを選び取り、プロダクトに反映させ、必要最低限の機能で市場にリリースするという方針と苦節が伺える。

「シンプル」には理由がある

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MVP – Minimum Viable Product (必要最低限の機能)はリーンスタートアップではお馴染みだ。SnapAskもこの考えを重視している。しかしなぜ必要最低限でなければならないのだろうか。その答えは、多様性の中にある。

「競合やトレンドアプリ調査のために100以上のアプリを使い倒しました。その結果、日本のものは機能が多く、複雑である一方、米国ではほんとうに研ぎ澄まされたシンプルなものが流行るということを実感しました。例えばYoならyoしか送れませんし、Instagramなら写真撮って投稿するだけ。これは多種の民族・人種が使ったとしても共通して好まれる部分を見つけ、そこに特化しているからです。SnapAskもそこを重視して、投稿と回答機能の2つしか実装していません」(平野氏)。

殊にサンフランシスコでは様々な人種が入り交じっている。メキシコ系からアジア系、もちろんヨーロッパ系まで幅広い。そして年齢・性別だけでなく、民族・人種別に見ると趣向が変わってくる。故に、各々のデモグラフィーの人達が欲しがるような機能を全て付け加えても埒が明かない。そこで共通項としてのたったいくつかの機能を見つけ、勝負する必要性が出てくるのだ。

また、シンプルという答えに行き着いたのは、企画段階で得たフィードバックからも来ていると語る。

「実は企画当初、SnapAskのたたき台として日本でローンチしていたレシーピ!を使っていました。ですがユーザーからは機能が複雑であったり、かわいいキャラクターがChildish(子供向けみたい)だという意見を言われました。ここは日本人がよく間違えるポイントで、日本人はかわいいものがキュートと思われると考えていますが、そうではなく米国では子供染みていると感じ取られます。これはこちらに来ないとわからないですし、日本人とアメリカ人の捉え方の違いを表した好例でしょう。だからこそ、機能を付加したり、キャラクターを作ったりせず、シンプルという大方針を取ったのです」(平野氏)。

日本市場では同じようなユーザーセグメントばかりが存在するため、ほんの少しのことでも手を加えて差別化を図る必要性がある。しかし、米国では同一の価値観というものが存在しないため、共通するほんの一握りの概念でないと、米国ユーザーとはつながれない。

こうした「多様性」という現状をしっかりと捉えた上で、シンプルという答えに至っているようだ。

これからの戦略と展開

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今後は回答側ではなく、投稿側を中心に今後集めていくとのこと。これはユーザートラッキングをしていく中で、アプリを使う頻度が多いとわかっているからだ。

そしてインセンティブは麻薬のようなものであり、こだわらないとも語っていた。インセンティブを重視した例として、楽天レシピがクックパッドに対抗するためにレシピ投稿者とレポート投稿者の両者にポイントを与える仕組みを作ったが、結局シェア率で敗れたことが挙げられる。このようにお金やポイントをあげると一瞬はユーザー数が伸びるがすぐに離れる。だからこそ、純粋にプロダクトを使いたいという共感を元にユーザー数を伸ばすことが大切になる。

また今後のマネタイズは3つ。1つはマーケティングデータを企業向けに売っていく。2つ目は、メディアとの連携。例えば投票番組や動画配信サイトなどでリアルタイムで行えるアンケートツールとしての利用だ。3つ目は、販売業者のプロモーション。特別プロモーション投稿を設定して、企業がマーケティング調査したり、好まれた商品をSnapAsk上でプロモーションできる。

しかし未だ世界観は定まり切っていない。プロダクト・サービスの考えは「問題解決型」(Problem-Solving)か「価値提供型」(Value-Added)の大きく2つに分けられる。この点は、これからユーザーに聞きながら決め、メッセージの出し方を考えたいとのこと。つまり利用シーン及びシーン訴求という細かい設定は決められているが、世界観はこれからということだ。現時点では問題解決型を想定しているらしいが。

メルカリやスマートニュースのように、着実に北米市場でシェアを拡大しているサービスもある。これら先駆者に追いつけるか、SnapAskの勝負はこれからだ。

情報開示:筆者はSnapAsk企画段階で行われたリサーチプロジェクトに携わっていました。

スタートアップの苦しみとリスクを知るために海外に来たーー大日本印刷の北米チャレンジ【前編】

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日本を代表する大企業の北米市場への挑戦が始まった。2015年1月15日(米国時間)、大日本印刷はモバイルQ&AアプリであるSnapAskをローンチした。 SnapAskでは、モバイルで撮った写真を使って、2択のアンケートを行うことが出来る。他の人が投稿したアンケートに答えることも可能。また、自分が投稿したアンケートの回答において、どんな年齢・性別の人がどちらを好んだかというデータが取れる。…

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日本を代表する大企業の北米市場への挑戦が始まった。2015年1月15日(米国時間)、大日本印刷はモバイルQ&AアプリであるSnapAskをローンチした。

SnapAskでは、モバイルで撮った写真を使って、2択のアンケートを行うことが出来る。他の人が投稿したアンケートに答えることも可能。また、自分が投稿したアンケートの回答において、どんな年齢・性別の人がどちらを好んだかというデータが取れる。

特徴は2つ。1つは10秒で投稿できて、30秒で回答が返ってくるというスピード。もう1つはデパートやコンビニ、電気屋さんなど、日常品を選ぶ際に迷ったら使うよう、利用シーンが定義されている点。現在はiOS向け限定でリリースされている。

今回取材した平野歩氏がサンフランシスコを拠点にビジネス・ディベロップメントを担当し、開発チームは日本にいる。昨年の夏頃から企画が始まっており、約6ヶ月で企画からローンチまで漕ぎ着けた。

さて、ではなぜ大日本印刷がQ&Aアンケートアプリを作ったのだろうか?

この疑問の答えは、大日本印刷という会社の生い立ちを知ることで分かる。

キーワードは企業と消費者をつなぐコミュニケーション

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大日本印刷の歴史は長く、始まりは1800年代後期から。創業当初より常に考えの基礎にあるのはコミュニケーションであるとのこと。

大日本印刷はその名の通り、書籍や雑誌の印刷物を扱っている。しかし、時代が進むに連れて紙からウェブやモバイルへと媒体も変わってきた。こうした時代に「コミュニケーション」というコンセプトを軸に、紙からウェブまで幅広く事業展開しているのが同社である。

この流れを受けて今回開発されたのがSnapAskだ。

利用目的からしたら、コンシューマー向けのアプリ。ところが、このアプリのもう1つの目的は企業と消費者を結びつけるコミュニケーション手段となることである。

SnapAskで集められた消費者データは、小売業者にビックデータとして渡され、広告展開や在庫管理に活かされる。つまり最終的には企業側は消費者ニーズに合ったものを提供でき、消費者は自分の欲しているものを手にすることが出来るという具合だ。

これは企業側と消費者側が双方向でコミュニケーションしなければ回らない仕組みだが、SnapAskがこの役割を果たしていることになる。

このように、「コミュニケーション」というキーワードが大日本印刷にとって重要な意味を成し、北米進出の原点ともなる考えとなっている。

「リスク」を知るためのプロダクトローンチ

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では何故、彼らはわざわざ人員を割いて北米進出したのだろうか。

サンフランシスコに来ている日系企業の多くは、北米スタートアップに出資して自社ビジネスと連携するという形をとるため、市場にわざわざプロダクトを投入すること自体に頭をかしげる人もいるかもしれない。

聞く限り、今回のSnapAskローンチも最終的に北米スタートアップに投資するための一貫らしいが、明らかに他企業とアプローチが違う。

「多くの日系企業はリサーチャーだけ米国に置き、新しいスタートアップ及びテクノロジー情報を本社に伝え、本社がその情報を基に投資を考えるということがメジャーなやり方です。しかしそれはあまり上手く行かないと思っています。やはりスタートアップの人達の気持ちがわからなかったり、プロダクトを開発していく工程がわからなければ投資活動は難しい。その点、苦労やプロセスを学んだ上で、将来的にスタートアップに接触していくというのが私達の方針です」(平野氏)。

一連のスタートアップのプロセスや現場の人の気持ちを知ることができれば、将来的に投資先を見分けるための目を肥やすことにもつながる。時間はかかるし、人員や資金も多大に掛かるが、私としてはこのやり方の方が賛同できる。

というのもの、日本のみならず中国、韓国の投資家に多いのだが、現地情報を知ったところで500StartupsやYコンビネータ出身のような箔のついたスタートアップにしか、結局のところ投資興味が湧かないのが常だ。

しかし、彼等のようなスタートアップが求めているのはビジネスがピンチに陥った時にでもアドバイスしてくれる頼もしいメンターのような投資家だ。この点は、リサーチだけをしている企業には真似できない。

また、「起業家はリスクを取れ」としばしば言われる。確かに創業当初から大きなリスクのある意思決定をするのがスタートアップだと言えるだろう。そんな起業家に、リスクを取ったことのない投資家が投資するというのは滑稽な話だ。

投資家の真髄は資金を提供するだけではないというのがスタートアップの共通認識。そのため、大日本印刷がSnapAskを通じて、スタートアップを理解しようとするアプローチは、現地スタートアップから望まれる投資家像に近づく最適なルートとなるとだろう。

競合との違いは3つ – 利用シーン、使いやすさ、写真

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UI/UXを見ると、同じくQ&Aアプリのaorbに似ている。私はこのアプリを見た瞬間思ったのだが、どうやら差別化されているようだ。ポイントは利用シーンから考えたところにある。

具体的な利用シーンは日常品を選び取っているところ。しかし一番の使い所であるスーパーで、投稿に時間のかかるアプリは好まれない。だからこそ、カメラを起動→2つの商品を撮影→投稿、の大まかに3つのプロセスしか踏まないように設計されている。

一方、北米ではQuoraがQ&Aサービスの代名詞のようになっている。また、ユーザー同士でチャットをしつつ相談するというサービスが増えている。こちらの人は写真で撮影するという動作が好きと語る平野氏だが、このようなテキスト形式のQ&Aサービスとの違いを出すために写真重視になっている。

課題点としてはターゲットユーザーの確保になりそうだ。同氏も述べていたが、ターゲットユーザーは、お店の中に入って商品を選び取る際に迷うような性格をしている人。このようなユーザーは、属性データではなくて、心理データを基に定義しないとわからない。言い換えれば、年齢や性別だけのデータだけでは、ポテンシャルユーザーにリーチする事は難しい。この点において、マーケティング戦略も高度なものが要求されると思う。

後編はこちら

情報開示:筆者はSnapAsk企画段階で行われたリサーチプロジェクトに携わっていました。

大日本印刷とワンモアが出版に特化したクラウドファンディングサイト「ミライブックスファンド」を開始

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クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING(グリーンファンディング)」を運営するワンモアと大日本印刷(DNP)が、出版に特化したクラウドファンディングサイト「ミライブックスファンド」を開始した。 「ミライブックスファンド」は新規の出版企画を支援するサービス。このサイトでは大手出版取次会社も協力し、出版社をはじめとする企業に対して、新規出版企画の実現に必要な企画の立案から資金の調達、出…

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クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING(グリーンファンディング)」を運営するワンモアと大日本印刷(DNP)が、出版に特化したクラウドファンディングサイト「ミライブックスファンド」を開始した。

「ミライブックスファンド」は新規の出版企画を支援するサービス。このサイトでは大手出版取次会社も協力し、出版社をはじめとする企業に対して、新規出版企画の実現に必要な企画の立案から資金の調達、出版流通のコンサル、制作・製造など、書籍の出版に必要なプロセスをワンストップで提供する。

先日本誌でも掲載した「アジアにおける特化型のクラウドファンディングサイト」のように、特定の目的を実現するためのクラウドファンディングサイトはいくつか存在している。

今回、出版に特化したクラウドファンディングサイトは、モノづくりに特化したクラウドファンディングサイト「Cerevo DASH(セレボ ダッシュ)」や「zenmono」が近いかもしれない。

電子書籍の普及や小さな出版レーベルの登場など、出版のハードルは下がってきていたが、このクラウドファンディングサイトの登場により、さらに出版が多くの人にとって身近なものになりそうだ。資金調達にプリセールス、プロモーションなども兼ねて出版が可能になる。

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「ミライブックスファンド」では、第1弾プロジェクトとして、先日本誌でも記事を掲載したクラウドソーシングサービスを運営する「ランサーズ」のムック本の出版プロジェクトなどが掲載されている。

プロジェクトの掲載期間は12月5日~1月23日。目標金額は300万円となっている。リターンには支援金ごとに「完成した書籍への広告掲載」、「出版記念パーティー参加権」、「企業とのコラボレーション企画」などが用意されている。

リターンの設計でも様々な挑戦ができそうだ。「ミライブックスファンド」によって、従来の出版のあり方や書籍に変化が訪れるかもしれない。