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弁護士・石原遥平氏に聞いた、スペースマーケットでの信託型ストックオプション設計と導入のリアル【ゲスト寄稿】

本稿は、淀屋橋・山上合同東京事務所パートナーで弁護士の石原遥平氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石原氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。 <解説:石原遥平氏> 弁護士。弁護士法人 淀屋橋・山上合同 東京事務所パートナー。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスター…

本稿は、淀屋橋・山上合同東京事務所パートナーで弁護士の石原遥平氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石原氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。

<解説:石原遥平氏>

石原遥平氏

弁護士。弁護士法人 淀屋橋・山上合同 東京事務所パートナー。

スペースマーケット取締役、RECEPTIONIST 社外監査役、シェアリングエコノミー協会シェアリングエコノミー認証制度統括ディレクター等を務める。

2016年から出向したスペースマーケットでは、自治体や企業提携交渉、資金調達、内部監査、上場審査対応等も担当し、2019年12月に東証マザーズ上場を担当マネージャーとして経験。

2020年4月に事務所に復帰し、2021年4月から同事務所パートナーに就任。

<聞き手:小原聖誉氏>

小原聖誉氏

2013年 AppBroadCast 創業。400万⼈にサービスが利⽤されたのち、2016年に KDDI グループの mediba へバイアウト

その後エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し3社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。 「若⼿起業家が選ぶすごい投資家」第1位選出(2019年・週刊東洋経済)。現在はスタートアップを⽀援する会社 StartPoint を創業し、起業プラットフォーム「StartPass」などを通じスタートアップ250社に経営リソースを提供。

著書に「凡人起業 35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。」(CCC メディアハウス)など。

<関連記事>


最近スタートアップ界隈で耳にすることが多くなった「信託型ストックオプション」について、前回は、資本政策のプロである公認会計士/税理士の方にお話を伺い、制度の概要や従来型ストックオプションとの違い、〝上場審査でNGにならないため〟の設計上の注意点などを伺いました。

今回は、実際に信託型ストックオプションを導入した上で上場を果たした企業の上場担当者に、現場のリアルな声を伺い、より実践的な活用方法・注意点などを探っていこうと思います。(小原)

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石原さんは、2019年12月に上場したスペースマーケットで、実際にストックオプション制度の設計に関わっていらっしゃったんですよね。

そうです。私が入社する前に一度通常の税制適格ストックオプションが発行されていて、入社したのはちょうどその数ヶ月後というタイミングだったのですが、第1回目の発行以降に入社したメンバーはストックオプションをもらえていないという状況だったため、そこをフェアにするための何かいい制度はないか、という検討の中から、信託型ストックオプションを導入することになりました。

スペースマーケットでは、最初に従来型ストックオプションを1回 → シリーズ B の後に信託型ストックオプション → 最後にもう1回シリーズ C の後に従来型ストックオプション、と、合計3回発行しています。

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信託型ストックオプションはどういう段階・シーンで一番の選択肢となるのでしょうか?

本当のシード期(資金調達前または1回目の資金調達のフェーズ)ではあまりお勧めしません。理由としては、コストが高いことと、後述の人事制度が整っていない状況で導入しても運用が難しいこと等です。

目安としては、シリーズ A ~ B のフェーズくらいでしょうか。導入コストは安くても数百万円ほど必要になりますので、資金調達の使途として明示して調達するのもよいかもしれません。

導入の際の具体的なスケジュールとして、準備期間はどのくらいを見ておけばよいでしょうか?

事前の検討状況次第ですが、最速で約2ヶ月あれば導入可能だと思います。

信託型ストックオプションは「運用」が必要であると聞きましたが、具体的にはどのような作業が必要なのでしょうか?

この場合の「運用」とは、人事評価ポイントの付与、ということになると思います。

半期ごとなど、一定期間で対象者を評価し、事前に設計したルールに基づいてポイントを付与していくことになります。粛々と決められたガイドラインに沿って付与していくことになるので、「運用」といっても、むしろそこに恣意性などを入れないよう機械的に作業していくことが肝要です。

また、その該当期間ごとに社外監査役などで組織する外部委員会を組織し、恣意的な運用がなされていないかのチェックも行います。

通常のストックオプションと信託型ストックオプションを併用することはできるのでしょうか?

可能です。むしろ、初期は税制適格の無償ストックオプションを発行し、従業員が30人を超えた辺りから信託型を導入するくらいでいいと思います。

信託型ストックオプションを発行するにあたって、社内ではどのような議論をなされたのでしょうか?

具体的には以下のような点を議論しました。

  • PL へのヒットの有無とその影響
  • 監査法人の監査リスク、主幹事証券審査リスク、東証審査リスク
  • 導入上、運用上の問題
  • フェアバリュー算定した時の創業者の負担等

割当比率については転換当日にならないとわからないというのが信託型の特徴かと思いますが、実際に、転換時に対象者から不公平などの声は出なかったのでしょうか?

特に出なかったと認識しています。

予め決められた株数分のストックオプションをポイント付与数に応じて山分けすることになるので、当然最後まで誰に何株渡るかは不明なものの、想定の数字と大きく乖離しなかったことや、半期ごとの適切な上長からのコミュニケーションによってあくまで想定の数字だという説明をしていたことが奏功していると考えます。

信託型ストックオプションを普通株に転換する時にはどのような手続きを行うのでしょうか? イメージが湧いておりません。

対象者は証券会社に専用の口座を開設し、行使の意思表示、金額の払込、口座への株式の納入などを行います。従来型ストックオプションと特に変わらず、面倒な手続きではありません。

今振り返ってみても、もう一度信託型ストックオプションを導入したいと思いますか?

絶対に導入します。ただ、前述のとおりメリットとデメリットがあるので、税制適格の無償ストックオプションと組み合わせてポートフォリオを組んで実施すると思います。

また、同じ信託型の枠組みの中で、ポイント制度だけでなく、特別付与分という形でワンショットで何株分かのストックオプションを付与するというような設計も可能なので、うまく組み合わせてインセンティブを有効に維持できるよう、導入時にかなり議論して整備する必要はあります。

信託型ストックオプションを導入したことによって成功した会社の事例、反対に失敗した会社の事例があればお伺いしたいです。

退職者の対応(無償ストックオプションだと毎回消却と登記が必要で、その分を誰か別の人に分配するということはできない)の面で、圧倒的にコストも手間も省けたと思うので、そこは実務的なメリットはかなり大きいと思います。

一方で、まだ人事制度も整っていない会社が無理して導入して恣意的な運用がなされたり、そもそも現実化するかどうかの期待度が低い段階で導入してこれを給与の一部とされる賞与の代わりとしてコミュニケーションを取ってしまうようなことがあると、従業員から不信感を抱かれるリスクがあると思います。

信託型ストックオプションを是非導入すべき会社、反対に導入すべきでない会社というのはありますでしょうか?

IPO を目指すのであれば、有効なインセンティブの手段として導入すべきだと思いますが、逆にバイアウトを目指すのであれば導入すべきではないと考えます。


前回は、主に専門家の観点から、対外的(対監査・上場審査)な設計上の注意点のお話を多く伺うことができましたが、今回は、実際に導入された企業側のリアルな声から、対象者とのコミュニケーションや人事評価制度との兼ね合いなど、社内的な観点の注意点を具体的に知ることができました。

信託型ストックオプションは IPO を目指すスタートアップにとって非常に有効なインセンティブ制度といえそうですが、コストが高く、また、運用に当たっては人事評価制度と密接に関わるため、それらが整った段階で入念に準備をした上で導入すべきであり、そのタイミング以外では従来型の税制適格ストックオプションと上手く使い分けていくのがよさそうです。

信託型ストックオプションを本来の目的どおり、フェアで使い勝手のいいインセンティブ制度として効果を発揮させるためには、社内的な対応でいうと何よりも「明確で適切な人事評価制度」と「対象者とのコミュニケーション」が肝だといえるのではないか、と感じました。(小原)

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注目を集める「信託型ストックオプション」、その使い方や長所短所を資本政策のプロ・石割由紀人氏に聞いた【ゲスト寄稿】

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本稿は、Gemstone 税理士法人のパートナーで公認会計士・税理士の石割由紀人氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石割氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。 <解説:石割由紀人氏> スタートアップ支援専門の会計事務所 Gemstone 税理士法人パートナー。 ニュースレター…

本稿は、Gemstone 税理士法人のパートナーで公認会計士・税理士の石割由紀人氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石割氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。

<解説:石割由紀人氏>

石割由紀人氏

スタートアップ支援専門の会計事務所 Gemstone 税理士法人パートナー。

監査法人・税理士法人、外資系通信ベンチャー企業管理部長、ベンチャーキャピタルを経てスタートアップ支援専門会計事務所を運営。株価算定(優先株式、PPA等)、ストックオプション評価等についても業界屈指の実績を有する。Gemstone 税理士法人の2020年度関与先新規上場実績は8社。

著書に「ベンチャーキャピタルからの資金調達術」(ぱる出版)、「資本政策立案マニュアル」(中央経済社)、「資本政策立案マニュアル第2版」(中央経済社)など。

<聞き手:小原聖誉氏>

小原聖誉氏

2013年 AppBroadCast 創業。400万⼈にサービスが利⽤されたのち、2016年に KDDI グループの mediba へバイアウト

その後エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し3社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。 「若⼿起業家が選ぶすごい投資家」第1位選出(2019年・週刊東洋経済)。現在はスタートアップを⽀援する会社 StartPoint を創業し、起業プラットフォーム「StartPass」などを通じスタートアップ250社に経営リソースを提供。

著書に「凡人起業 35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。」(CCC メディアハウス)など。


最近スタートアップ界隈で耳にすることも多くなった「信託型ストックオプション」という言葉、正しく理解していますか?

「信託ストックオプションを発行したことが理由で上場できなかった」などという誤った噂が流れることもあるなど、なんとなく難しそうな印象を抱いている人も多いかもしれませんが、実際には、設計や運用に注意が必要なものの、信託ストックオプションスキームそのものが上場審査でNGになるわけではありません。

今回は、そんな「信託型ストックオプション」について、会計の側面からスタートアップ支援を多数手がけるGemstone 税理士法人の石割先生に、スタートアップの社員インセンティブとして欠かせないストックオプションの基礎を踏まえつつ解説して頂きました。(小原)

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「信託型ストックオプション」は、ストックオプションの新しい種類なのでしょうか?

種類ではなく、信託型という「箱」に入れる、という認識が近いかもしれません。

ストックオプションの種類としては、従来から知られるように、税制適格ストックオプション、税制非適格ストックオプション、有償時価発行ストックオプション等があり、無償か有償か? 行使時の課税があるか否か? 課税時の扱いが譲渡所得か給与所得か? の違いがあります。

無償発行されたストックオプションについて課税が生じるのは税制適格ストックオプションの要件を満たさない(税制非適格)場合

まずは3種類の従来型ストックオプションについて、使い分けやメリットデメリットなど、基本をおさらいしたいです。

従来型ストックオプションとして一般的なのは税制適格ストックオプションです。ストックオプションで一番課題になるのは、利益を受け取るストックオプション権者の課税の点ですので、税制適格にすることで、

  • 課税されるタイミングが行使時ではなく株式譲渡時
  • 所得の種類として譲渡所得であり申告分離課税なので、キャピタルゲイン課税が20%である(給与所得だと総合課税で累進課税となり、最大55%)

…という、税制上有利な取り扱いを受けることができます。

一方、税制適格ストックオプションは課税上優遇されますが、スタートアップファイナンスにおいては、弱点もあります。

まず、付与対象者は取締役・従業員に限定され、大株主(発行済株式数の1/3超)や社外協力者には付与できません。イコール、オーナーの持株比率希薄化防止には使えないこととなります。

さらに、M&A で EXITする場合、税制上の優遇措置を維持してストックオプションを譲渡することができません(ストックオプションを譲渡すると、税制非適格ストックオプションになってしまいます)。また、行使価格に上限があったり、行使期限も比較的短く設定されています。

税制適格ストックオプションに必要な要件は以下の6点です。

  1. 権利行使が付与決議の日から2年超10年以内であること。
  2. 譲渡禁止が定められていること。
  3. 付与対象者が会社又は子会社の取締役、執行役または使用人等であること。但し、大株主(未上場会社の場合は発行済株式数の1/3を超えて保有する株主、上場会社の場合は発行済株式数の1/10を超えて保有する株主)と大株主の特別利害関係者は除く。
  4. 新株予約権の行使価格の年間合計額が、1,200万円以下であること。
  5. 権利行使価額が契約締結時の時価以上であること。
  6. 証券会社等に信託を通じて売委託または譲渡により売却すること。

この弱点を補うのが有償ストックオプション(ストックオプションを時価発行するという仕組み)です。有償ストックオプションは、大株主の創業オーナーや社外協力者に対しても有償発行(時価発行)することで、行使時点での課税を免れるスキームを構築することができます。有償ストックオプションは無償とは異なり、ストックオプションの公正価値(時価)を払い込んでいるので、発行時には経済的利益が生じず課税されません。

権利行使時点でも(税制適格と同様に)ストックオプション権者は課税されないとされます。権利行使時点の株式時価とストックオプション発行価額と行使価額合計額の差額がストックオプション権者の得た利益となりますが、取得した株式の譲渡時点までは投資が継続しているので、未実現利益として課税されないと考えられるためです。

では、従来型ストックオプションの種類としては、有償ストックオプションが一番優れた発行形態となるのでしょうか?

それがそうとも言えません。理由は、有償ストックオプションではオプション価値の評価が難しく、ここがしばしば問題となることがあるためです。

有償ストックオプションは公正な評価額で時価発行されなければなりませんが、ストックオプションは株式(現物)ではなく、あくまで権利なので、株価から単純計算するのではなく、「ブラックショールズモデル」や「モンテカルロシミュレーション」と呼ばれる、デリバティブの特殊な手法を用いて価値を算定しなければなりません。

将来ダウンラウンドになった場合に失効させる条件の付与等、細かい設計も必要で、専門的な公認会計士に依頼するのが一般的です(この時価評価の妥当性が後に監査法人の監査で問題になったりすることもあります)。

その点、税制適格ストックオプションは一定の制約もありますが、設計がシンプルなので、一般従業員向けの少額ストックオプションとしては使い勝手のよさがあります。大株主(オーナー)、CXO など高額の割当をしたい人材、社外協力者など、税制適格が使えない場合には有償発行を選択する、というイメージでしょうか。

それではいよいよ本題で、「信託型ストックオプション」とは、何のために生まれたスキームなのでしょうか?

税制適格ストックオプションや有償ストックオプションといった従来型ストックオプションにはまだ解決できない弱点があるためです。大きく分けると以下の3点です。

  1. 今在籍している役員・従業員にしか付与できない。
    → 将来入社する優秀な人材に割安な行使価額でのストックオプションを付与することができない。
  2. 既発行ストックオプションと同様のインセンティブ効果を確保しようとするとストックオプションの発行規模が大きくなり希薄化してしまう。
    → 後から入社するほど条件が悪くなる。
  3. 実際の貢献度に応じてストックオプションを付与することができない。
    → 付与時点で分配比率が決まってしまうので、付与後の貢献度が期待より低く、権利行使時に評価が乖離していた場合など、フェアでなくなる可能性がある

では、「信託型ストックオプション」の具体的なスキームと、それによってどんな課題がどのように解決されるのかを教えてください。

スキームの概要については下記の図をご覧ください。

  1. オーナーと受託者の間で信託契約を締結し、オーナーが受託者に金銭を信託します。
  2. 受託者は、信託財産を受託者の固有財産と分別管理しなければなりません。発行会社は新株予約権を発行し、受託者は信託された資金を払い込みます。
  3. 信託期間中、一定の条件(プラン)に基づき、従業員等にポイントを付与します。
  4. 信託期間満了後、付与されたポイントに基づき、受託者が引き受けた新株予約権を従業員等に交付します。

このスキームの要点は、「受益者が存在しない信託である」という点です。信託税制の原則は「受益者課税」ですが、信託型ストックオプションではオーナーが金銭を信託設定した時点において、受益者が存在しない(最終的にストックオプションを付与される役員・従業員等が決まっていない)ので、受益者ではなく受託者に課税するという法人課税信託が適用されます。

この法人課税信託という特例によって行使価格を据え置くことが可能となり、将来の採用者に対して既存役職員と同条件で付与することができるようになります。

※法人課税信託

法人課税信託とは、受託者が個人であっても法人と見做して法人税法の規定を受けるという仕組です。(本来の課税対象は信託財産自体ですが、信託財産自体が納税手続を行うことが不可能なので、その事務を行っている受託者が代理納税していると捉えられ、受託者が個人でも法人税が課税されるということになります)

受託者は受託した段階で、信託財産について受贈益課税を受け、毎年法人税申告を行うこととなります。(この課税分はオーナーが最初に用意した金銭から差し引かれるため、信託設定する金額に+課税分を見込んだ金額を用意する必要があります)

ストックオプション付与対象者が確定し、「受益者が存在」するようになると、受託者から受益者へその直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとして、税制上の信託財産の帰属者が受託者から受益者に帳簿価額で移転します。しかも帳簿価額で資産負債を引き継ぎにより生じた収益は所得金額の計算上、総収入金額には算入されません。

以上の結果、ストックオプション権者によってストックオプションが行使され、株式を売却されるまでは所得税の課税は行われないこととなるのです。

また「委託者(オーナー)が受託者に一度信託して、後から配る」という信託の特性によって、誰に・どれだけ付与するかというのを、等級と査定に応じたポイントによる人事評価制度と組み合わせて判定し、実際の貢献度に即して最終的な付与時点の分配を決めることができるようになります。(設定時点にはいなかった人材にも付与することができますし、また例えば、大量に付与した人材が途中で辞めてしまいその時発行したストックオプションが無駄になる、などの事態も防ぐことができます)

つまり、「後から入社した人が不利になる」という課題を総合的に解決するスキームといえるのです。

スタートアップのインセンティブ設計に適した、素晴らしい仕組みのように聞こえますが、信託型ストックオプションならではの課題や注意点もあるのでしょうか?

このスキームではストックオプションを引き受けるための資金をオーナー自らが身銭を拠出するという特徴があり、なるべく資金負担額を小さくするため、オプション価値の評価を引き下げたいというバイアスが働きがちです。

しかし評価額の算定は後々監査や上場審査時に問題となるケースが多く、正確に行っておくことが非常に重要です。そしてその評価業務は専門家に依頼することになりますが、このコストが高額なため(500~1,000万程)、その費用の捻出も課題となります。

そのため、ストックオプションの特性と利点を考えると、できるだけ早い段階で設定をしたほうが望ましいのですが、評価業務にかかるコストを用意する為にはある程度の資金調達が行われるタイミングまで待たなければならないケースもあるでしょう。

また、受託者に誰を設定するのかという点において、前述のスキーム図では、一般的な信託の受託者として信託銀行の名前が入っていますが、非上場会社の信託型ストックオプションの信託においては、コストや規模の観点から信託銀行による商事信託(営利目的をもった反復継続的信託活動)ではなく、民事信託(単発無報酬で受託可能)とするため、多くの場合顧問税理士に依頼することになります。

この際、依頼する顧問税理士は信託の意味や受託者の義務責任を理解し、信託事務を行うことのできる能力を有する方である必要がありますし、また、既に他社の信託型ストックオプションで受託者になっている人は避けるため(複数回受託者をすると信託引き受けを業としているのではないか疑義が生じる可能性があるため)、受託者の選定においても一定の注意が必要です。

最近時折耳にする「信託型ストックオプションを発行したために株式上場できなかった」という噂に関しては、どうでしょうか?

東証、証券会社、監査法人等の統一見解として、信託型スキームそのものを NG としている訳ではないと思います(担当者レベルで批判的な人はいると思いますが)。信託型ストックオプションを認めてもらうためには信託組成が適切に行われていることと、ストックオプションの行使価格やオプション価値が公正に評価されていることが大前提となりますが、この点で個別具体的に問題が発生している事例があるのではないでしょうか?

※ 信託型ストックオプションを発行した後に上場した実際の事例

実際上場事例も増えてきており、特定の監査法人が信託型ストックオプションを無条件で門前払いしているということも無いと思われます(一方で、下記の証券会社や監査法人で信託型ストックオプションについてNGを出した事例も存在はするようです。)。

なお、証券会社や監査法人の担当者によっては信託型ストックオプションについて詳しくないこともあり、単純に「難色を示される」ということはありそうです。

スキームそのものが NG というわけではないけれども、実際審査時に問題となった事例もある、ということで、具体的にはどのような点が問題となるのでしょうか?

まず信託組成時の適切性として、受託者=受益者というような法人課税信託の要件を満たさないような信託組成を行わないことです。受託者自らが受益者になったりしますと、証券取引所や監査法人からNG指摘を受けることになるでしょうし、スキームの肝である法人課税信託という課税上の取り扱いも否定されるでしょう。
また、オプション評価業務を行う公認会計士も、受託者や受益者の立場にならないよう注意が必要です。受託者は専ら受益者のために行動しなければなりませんので、利益相反するような関係を絶対に回避すべきです。

さらに、オプション評価の公正性に関して、会計基準に即した注意点もあります。前項で出てきた「オーナーの資金負担額を減らしたいという動機」の為に、ストックオプションの評価に業績条件のノックアウト条項(一定の場合に権利が消滅する)が付されるケースがありますが、会計基準上、業績条件は公正な評価単価の算定上は考慮しないもの(失効数の見積もりに考慮すべきもの)とされています。

業績条件とは例えば、「〇〇〇〇年〇〇月期及び〇〇〇〇年〇〇月期の営業利益がいずれも〇〇〇百万円を超過した場合、各新株予約権者に割り当てられた新株予約権の数の〇〇%を限度として行使することができる。」といったものですが、このような業績条件は、新株発行による希薄化を懸念する既存株主の不安を払拭する効果がある一方、信頼性のある公正な価値評価であるかどうかという点において会計基準上の議論があり、将来的に規制が行われる可能性もあると思われます。


信託型ストックオプションの利点と注意点について、大まかに理解することができました。

信託型ストックオプションは、従来型ストックオプションの弱点を補うものではあるけれど、設計が複雑で注意点があり、またコストも大きいことから、従来型と上手く組み合わせて活用していくというイメージをもちました。

さらに、実際の貢献度に即した付与割合を後から決めることができるという点は、評価という点でフェアである一方、会社の規模的にまだ人事評価制度が未熟な時点では適用しづらく、また、フェアであるが故に入社スカウト時に特別条件として破格の付与数を約束する、というような恣意的なインセンティブは通用しないことになるのではとも思いました。

日々規制が変わる新しい仕組みでリスクがあることもあり、検討の際にはノウハウのある専門家への相談が必須といえるでしょう。(小原)

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シード期の「波乗り」に優れた4社、彼らの資金調達方法とは

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スタートアップにおける初期のマイルストーンにPMFがあります。いわゆるプロダクトが自走する段階で、市場がその価値を認めてサービスを利用・購入し、かつ、オーガニックにその利用数が伸びていく状況です。KPIは明確で、経営陣はもとよりチーム全員が毎日何をやれば自社の資産が積み上がるか理解しています。P/LよりもB/Sが積み上がるイメージです。 一方でここまでに至るには、市場の痛みを発見し、そこに対して誰…

Photo by Gary Barnes from Pexels

スタートアップにおける初期のマイルストーンにPMFがあります。いわゆるプロダクトが自走する段階で、市場がその価値を認めてサービスを利用・購入し、かつ、オーガニックにその利用数が伸びていく状況です。KPIは明確で、経営陣はもとよりチーム全員が毎日何をやれば自社の資産が積み上がるか理解しています。P/LよりもB/Sが積み上がるイメージです。

一方でここまでに至るには、市場の痛みを発見し、そこに対して誰よりもよい体験を提供しなければなりません。ここ最近大きく話題になった音声ソーシャルの市場は日本国内でも数年前からあるあると言われながらなかなかトレンドには至っていませんでしたが、コロナ禍における人恋しさやClubhouseのバイラルの巧みさなどが相まって一気にトレンド入りしたのはご存知の通りです。

市場ペインや提供体験、そしてトレンド・テクノロジーなど複雑すぎるほどの変数がピッタリと重なるタイミングを見つけるのは本当に奇跡です。スタートアップが難しいと言われる所以はここにあります。

では起業家はどのようにしてこのタイミングを見つけるのでしょうか。ひとつの答えに「波が来るまで待つ」という方法があります。シード期に必要な資金はチーム構成にもよりますが、業務委託など含めて4〜5人を回すにはやはり年間で最低でも数千万円必要になります。飴を舐めながら我慢してという方法もかつてはありましたが、今はステージも変わっています。

そしてこのシード期には明確な「終わり」があります。つまり、資金が尽きた時です。

私はここ1カ月ほど幾つかのスタートアップを取材したのですが、それぞれのプロダクトの素晴らしさはもちろん、同時に彼らは「波の待ち方・乗り方」が大変優れた数社でもありました。ここにケーススタディを共有することで、これから起業する方の参考になればとまとめてみようと思います。

圧倒的な総合力で間合いを詰めたLayerX

LayerX社内での開発風景(写真提供:LayerX)

ブロックチェーンという可能性が語られ出したのはやはりビットコインによるトレードが大きかったのではないでしょうか。一方で、この自律分散の仕組みが実際に社会実装されるまでには数年の時間を要することになりました。ここにチャレンジしているのがLayerXです。

Gunosy共同創業者である福島良典さんを中心にLayerXを設立したのは2018年8月。GunosyとAnyPayによる合弁会社で、両社が50%ずつを出資し福島さんが代表取締役社長に就任しました。その1年後の2019年7月に福島氏は1株3万円でGunosyが保有する5,000株の内4,500株を譲受するMBOを実施(その後、AnyPay保有分も経営陣にて買取)しています。この時開示されたLayerXの2019年3月期決算状況は売上高1億400万円で営業利益100万円、純利益は0円でした。

福島さんが独立した際、どのようなプロダクトでこの自律分散の技術を社会にデビューさせるのか、私も含め多くの人が興味を持っていたのではないでしょうか。当時はビットコインの大きな暴落などがあり、いい意味で変な熱狂が去った後です。DiFiやDEXなどのプロダクトを予想していましたが、彼らが取った戦略は協業や合弁会社を作る、というものでした。

MBOを成立させた直後の2019年11月には三菱UFJフィナンシャル・グループと協業し、翌年4月には三井物産らと共同で三井物産デジタル・アセットマネジメント(三井物産 54%、LayerX 36%、SMBC日興証券 5%、三井住友信託銀行 5%)を設立しています。

ここで証券のデジタル化(STO)を推進するサービス・プロダクトをリリースするのかと思いきや、出てきたのはもっと現実味のある「業務デジタル化」に関連するものでした。資産管理サービスにおける差別化は手数料です。業務を効率化すれば手数料を軽減させ、競合との差別化要因にすることができます。これを実際にJVを作り、アセットマネジメントの業務に関わる実務を「自社ゴト」として経験し、そこで得られた非効率を改善するというアプローチを取ったのです。

そしてここから生まれたのが請求書業務の「受け取り」を効率化するサービスでした。LayerXインボイスを自社の資産管理業務だけでなく、より幅広い企業のペインにも対応するものとしてデビューさせたのです。

こうしてLayerXは創業から約3年という期間に「請求書AIクラウド LayerXインボイス」によるDX(デジタルトランスフォーメーション)事業、ブロックチェーン技術を活用した不動産・インフラなどのアセットマネジメントを三井物産デジタル・アセットマネジメントと共同で推進するMDM事業、ブロックチェーンや秘匿化技術の技術開発、社会実装などを長期目線で研究開発する「LayerX Labs」の運営という3つの柱を立てることに成功しました。今年3月には共同代表制に移行して体制もモリモリ強化しています。

LayerXの3年間はこうやって言葉にすると綺麗ですが、実際どこまでを計画して動いていたのかはわかりません。ただ近年のスタートアップの中では抜群のタイミングで事業を組み立てた例であることは間違いないと思います。

意味のある受託で波を掴んだ3Sunny

3Sunnyが公開しているカルチャーデック

いやいや、ファンタジスタ福島さんたちのプレーは参考にならないよ、という方もいらっしゃると思います。私もそうです。そこでお聞きいただきたいのが3Sunnyのケースです。こちらについてはポッドキャストでも語っていただいていますが、創業のタイミングで全く地の利のない業界(しかも非常に難しい医療分野)へのチャレンジをされています。さらにリクルートやグリーなどの大手を経験したメンバーで30代後半のスタートアップというそれなりにバーンが高いチームです。

どうやってシードを乗り切ったのでしょうか。

彼らの創業が2016年7月でANRIからの出資金が2,000万円でした。ヒットをようやく掴んだCAREBOOKの誕生が2018年5月、この状況をみてANOBAKAが追加出資に応じたのが2018年12月(5,000万円)なので、創業からの約2年間は最初の出資金である2,000万円でやりくりしなければなりません。ただ20代の学生起業家ならいざしらず、30代家庭持ちを加えた構成ではまあ、無理でしょう。

答えは受託なんですが、やり方が興味深かったです。創業しているメンバーが3人いらっしゃって、代表の志水文人さんが新しいプロダクトについて考える役で、それ以外の2人の取締役が資金が足りなくなりそうになると「どこからか」関連する仕事をとってきてくれていたそうです。その額は1億円を下らないそうで、結果、CAREBOOKはトレンドの波を掴んで浮上に成功します。あと、志水さんたちテレアポがすごく上手だったというのも聞き逃せない重要スキルと感じました。

受託がよいという話ではありませんが、創業メンバーがもし1人とかだとこういったチームプレーができません。また、創業メンバーがそれぞれ自分ゴトとして取り組んでいなければ「外らからカネを引っ張ってくる」という感覚を持てないかもしれません。特にシード期の投資サイドが「チームを見る」と言われる所以かなと。

応援団と一緒に旅をするアル

画像クレジット:「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です」より

B向けのサービスで受託開発をきっかけに業界内ペインを探しつつ、プロダクト化に成功する事例がLayerXと3Sunnyであれば、 C向けはどういうケースがあるでしょうか。メディアビジネスのように、まずはユーザーとインプレッションを最大化させてNo.1を取り、そこから広告などのビジネスを展開する「Jカーブ」タイプのモデルが一般的とされてきました。一方、同じような戦略を取る企業が増えてしまい、いつまでカーブを堀つづけるのか分からない不安に駆られるケースもあると思います。

そういう意味で、漫画さがしアプリ「アル」を展開する古川健介さんの「プロセスエコノミー」はひとつのモデルだと思います。メディアによるアフィリエイトなども多少はあると思いますが、それ以上に際立った方法が「アル開発室」というコミュニティの存在で、そこでは毎日、自分たちの開発に関わるエピソードやノウハウをメンバーに共有することで、それを会費という形の売上にしています。現在は非公開のようですが、月額980円で私が拝見した数週間前には2,000人ほどの参加者がいらっしゃいました。

彼らは常時接続ソーシャルの「00:00 Studio」も展開しており、クリエイターや漫画好きがロイヤリティの高いファンとして存在しています。彼らに対して参加できる場所を提供し、一緒に応援してもらいながら開発を続けている、というわけです。学生起業家で最近取材した動画関連事業のTranSe(トランス)さんも同様の方法を採用していたので、C寄りのサービスでロイヤリティの高いファン層から集める方法としては今後、メジャーになるような気がしています。

社内ベンチャーからステップしたMyRefer

社内ベンチャー制度から3年でスピンアウトしたMyRefer(写真は切2018年のもの、一番左が代表取締役の鈴木貴史氏)

LayerXにも似た手法なのですが、ここ最近スピンオフ(連結から外れて独立)の話題をポツポツと聞くようになりました。事例としてはMyReferやミラティブなどがあり、親会社の連結を外れて切り出した後にスタートアップ資金を注入する方法が一般的なようです。連結を外れることで柔軟な資本政策・業務提携を可能にし、かつ、スピンアウトのように切り出した子会社のままではなく明確に上場(外部資本のイグジット)を目指す点が特徴になります。

MyReferについてはこの記事で詳しく書いておきましたが、初期はパーソルホールディングスの社内ベンチャーとして2015年に創業し、1億円の資金とパーソルブランドの信用を背景にビジネスを展開します。3年ほどの事業展開で370社10万人の導入実績が付いたことからスピンアウトとして切り出し、外部資本として当時のグリーベンチャーズ(現在のSTRIVE)とパーソルHDが出資する形で再スタート。この判断は正しく、今年3月にはシリーズBの大型調達に成功しています。

この方法の魅力はやはり大資本・信用力でビジネスが展開できる点です。一方、ガバナンスなどを社内ベンチャーとして積極的に切り分ける方法を上手にやらないと、スピード感のない「起業ゴッコ」で終わる怖さもあります。

大企業の新規事業のあり方は「社内、買収、オープンイノベーション」と言われています。この中で難しいとされるのが社内なんですが、実は大企業には優秀な人材が多く在籍しており、単にやり方が整ってなかったのではないかというのが私の最近の仮説です。この件については別途取材しているものもあるので、またどこかでまとめてみたいと思います。

ということで、シード期の乗り切り方を幾つかのパターンでまとめてみました。色々な立場で新規事業に取り組まれていると思いますが、何かの参考になれば幸いです。

※補足:タイトルに「資金調達方法」としていますが、増資によるものではなく、新規事業を立ち上げるために何らかの方法で資金を引っ張ってっくるという意味合いで付けています。一応補足までに。

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シード期のスタートアップ「強い組織」をどうつくる:”最大の難関”から権限委譲まで(2/2)

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から 採用フェーズ (前回からのつづき)スタートアップの組織創りにおいて、最初に…

Photo by Gustavo Fring from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から

採用フェーズ

(前回からのつづき)スタートアップの組織創りにおいて、最初にして最大の難関がこの「採用」のフェーズです。特にシード期は実績もなければ知名度もなく、十分な資金調達もできていないという状態で事業を強力に推進できる仲間を探さないといけません。

このフェーズにおいては、具体的には6つのアクションが必要となってきます。

  1. 自社の数年後の事業状態を達成するために必要な未来組織図を描き、
  2. 採用候補者のペルソナを具体化し、
  3. 採用マーケティングを通じて候補者プールを創りながら、
  4. 既存のメンバー全員が腹落ちする共通の採用基準を醸成し、
  5. スピード感を損なわない形で質を担保する採用プロセスを確立して、
  6. 数ある就業機会の中から候補者に自社を自己実現の場として選んでもらう

①から⑤までは自社内で完結する部分も多いですが、⑥は相手のいる話でもあり、アンコントローラブルでもあります。従ってその不確実性を少しでも減じるため、自社で働くことがいかに魅力的な選択肢となるのか候補者に対して言語化して伝えていく努力が不可欠となります。

また、この採用フェーズでは、シード・スタートアップがハマりがちな罠が待ち受けています。

一つ目は、資金の制約条件の罠です。

シード期だと、「資金調達ができたら採用活動しよう」や「バーンを上げることができないから良い人を採用できない」といった思考にどうしても陥ってしまいがちです。結果的に組織としての事業推進力が不足することとなり、逆に資金調達も難航してしまうケースです。

二つ目は、タレントの制約条件の罠です。

目の前の経営課題に対して、まずは既存のチームメンバーでなんとかしようと考えると思います。自分たちだけですぐに解決できる場合もありますが、そうでないとき、その領域でトップクラスのタレントを仲間にするという思考に切り替えることができず、ベストプラクティスに到達できないケースです。

三つ目は、カルチャーフィットの罠です。

一つ目と二つ目の罠を無事に潜り抜け、その領域のトップタレントに巡り合うことができたとき、最後に待ち受けているのがこのカルチャーフィットの罠です。スキル面の要件は十分すぎるほど充足しているにも関わらず、事業を成功させるために必要な会社としてのバリューを体現できずに組織全体にネガティブな影響を与えてしまうケースです。

この三つの罠にハマってしまうと貴重な経営リソースを有効活用できず、事業成長の機会が失われてしまいます。採用が思うように進まないときや、強い組織への変化が見られないときは、これらの罠にハマっている可能性が高いので、罠にハマっていないか自問するとよいかと思います。

採用は強い組織創りの第一歩目でありながら落とし穴も多く、失敗したときのダメージも甚大な難易度の高い工程です。“Recruiting is Priority”として、採用を経営の最上位に常に置いてコミットしていくことが成功のカギになってきます。

入社フェーズ

採用活動に一定の投資をしているスタートアップは多いですが、入社後もその投資が継続されているかというと、必ずしもその準備が整っていないことも多いのではと感じています。

しかし、新しい環境で働き始めるに当たって、不安を感じない人はほぼいません。

従って入社後のオンボーディングは、入社を決意してくれたメンバーをいち早く戦力化するために必須のプロセスです。不安を早急に取り除き、チームにスムーズに溶け込むためにメンバー間の相互理解を促進する場を意識的に設定し、チームへの高いロイヤルティを創出できる貴重な機会です。

新メンバーがキャッチアップすべきことは、多岐にわたります。

実践すべき企業文化とその背景、チームメンバーの名前や顔だけではなく各人がこの会社を選んだ理由、プロダクトの機能や今後の開発スケジュール、競合状況を含めた業界動向や顧客の課題欲求、社内のオペレーションや各部署の役割、自社の事業戦略といったところを理解することができてようやく、自身の個性を活かしたパフォーマンスを十分に発揮できるようになるものです。

これらの項目は、新メンバーにとって一日で理解できるものではありません。しかし、スピードが求められるシード・スタートアップにおいては、新メンバーにすぐにキャッチアップしてもらい、早くから存分に活躍してもらうためのサポートを経営として準備していく必要があります。

評価育成フェーズ

組織としてのアウトプットをメンバー個人の単なる和(足し算)ではなく、積(掛け算)にしていくためには、評価育成フェーズの施策が不可欠で、以下の5つが相互に連関する設計になっていることが重要です。

  1. 日々の行動や意思決定を規定するバリューの実践促進(組織浸透に向けたインナーブランディング)
  2. 企業や部署ごとのミッションや予算と、メンバー個人のWill / Can / Mustに応じたOKRの設計運用
  3. OKRをスムーズに設計運用し、かつ、情緒的な部分も含めた相互理解の深耕を通じた高いモチベーションの醸成
  4. メンバーをワンランク上の人材に引き上げるスキルトレーニング
  5. バリューの体現やOKRの目標達成に向けたアクションが組織として積極的に促進される金銭面と感情面の双方における報酬設計

①から⑤が単体ではなく、すべてが相互に結び付きながら設計されていることで、各施策が初めて効果を創出します。

例えば、バリューをぱっと想起できるよう、唱えやすいフレーズ化や目につきやすい形での具現化(Slackのスタンプ、会議室の張り紙やアメニティなど)によるインナーブランディングを強化すれば、想起したバリューに沿って個々人が迷うことなく自律的に行動や意思決定を行うことでOKRの達成が促進される効果が期待できます。

また目標を達成したときに、金銭的な報酬(SO、ボーナス、昇給など)のみならず、感情的な報酬(昇格、次なるチャレンジングな仕事のアサイン、権限付与、表彰など)をセットで享受できる環境作りも大切です。

このようにそれぞれが有意に積み重なっていく設計にすることで、個々の取り組みが効果を最大限発揮します。そもそものバリューが事業として勝つために必要な行動規範として設計されていることが前提になるものであり、ここでもやはりCIの適切な策定がはじめの一歩になってきます。

権限移譲フェーズ

経営チームによる権限移譲のスピードは、将来の事業成長スピードを決定します。権限移譲が進まない限り、現行の経営チームの実力以上に事業が成長することはありません。

経営チームが得意なもの以外、また場合によっては得意とするものであっても、権限移譲を積極的に進めることで、経営チームが行うことで最も成果を上げることができる業務(組織創りや広報PR、ファイナンスといった仲間集め)に多くのリソースを割くことができる体制を構築し、組織としてのアウトプット最大化に繋げることができます。

一方、この権限移譲は、移譲する方と移譲される方の双方にとって、勇気の必要な意思決定になってきます。この権限移譲のプロセスを根拠のない無謀なものとはしないよう、企業としてのガバナンスの効いた意思決定体制の構築がセットになって初めて、対外的に意味を持ちます。上場を目指してチャレンジをするスタートアップであれば、なおさらです。

そしてこの権限移譲のフェーズは、採用 → 入社 → 評価育成の各フェーズをうまく乗り越えて初めて到達できるもので、一足飛びにはなかなかたどり着けません。意識して取り組まないと到達するのにめちゃくちゃ時間が掛かるものなのに、事業成長のスピードを大きく左右するという厄介者です。

従って、(再三の繰り返しになりますが)スタートアップが事業成長を通じて大きなビジョンの実現に向かっていくためには、シード期からCIの策定を起点に、強い組織の構築に取り組んでいく必要があるのです。

まとめ

強い組織の構築は一日してならず。

冒頭の言葉に立ち返っていますが、強い組織創りに当たって経営チームが取り組むべきことは山のように存在します。非連続な事業成長を目指すのであればシード期からこの山を見据えて、少しでも早く組織創りへの投資を進めていく必要があります。

やることは多くある、その中で手戻りをできる限り少なくして強い組織を創っていくためには、まずはCIの策定がすべての発射台になる、ということが少しでも本稿でお伝えできていると嬉しいです。

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シード期のスタートアップ「強い組織」をどうつくる:取り組むべきHR施策の全体像(1/2)

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から 強い組織の構築は一日してならず。 事業とはヒトが創るものであり、それゆえに…

Photo by Daria Shevtsova from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から

強い組織の構築は一日してならず。

事業とはヒトが創るものであり、それゆえに如何にヒトを束ね、各人に個性を発揮してもらいながら、組織としてのアウトプットを最大化させていくかという命題は経営者が最も頭を使うものであり、関連する施策の成否は事業成長にダイレクトに影響します。

組織創りの遅れは事業成長のボトルネックとなり、組織創りの失敗は事業の崩壊と経営チームへの特大のメンタルコストを伴います。事業成長を加速し続けることが可能な強い組織を構築、維持、強化していく営みは、経営を続ける限り終わりがくることはありません。

強い組織は、経営者が意識をして取り組まずして、自然と出来上がるものではありませんし、一日時間を使って考えればできるほど単純なものでもありません。

目指す世界観や社会観、真剣にチャレンジするヒトの思いを丁寧に言語化し、長い年月を掛けて試行錯誤をしながら実践が自然と伴うまでゆっくりと醸成される過程を経て、他社が簡単にマネできない有形無形の企業文化の備わった魅力ある強い組織になるものです。

本稿ではHRのスコープを「①採用 → ②入社 → ③評価育成 → ④権限移譲」のフェーズに因数分解して、シード期のスタートアップ経営チームが取り組むべきHR施策について考えてみたいと思います。

経営チームが取り組むべきHR施策の全体像

HRサイクルにおける①採用、②入社、③評価育成、④権限移譲のそれぞれのフェーズにおいては、事業の成長を見据えてシード期から経営として取り組むべきことが多く存在しています。

①採用のフェーズであれば、事業の成長に向けて必要となるポストを洗い出し、魅力的な候補者に出会って妥協をすることなく相性を吟味し、口説き、入社を決断してもらえるようにすること(高い採用力)。

②入社のフェーズであれば、新しく仲間となるメンバーにとって会社へのロイヤルティを高め、即戦力化してもらうためのオンボーディング体制を整備すること(オンボーディング)。

③評価育成のフェーズであれば、インナーブランディングを通じた組織文化の実践促進を、健全な評価育成の体制構築とセットにして進めつつ、1on1などを通じて個人のWillや個性に沿った活躍の場を見出していくこと(個の掛け算によるアウトプットを最大化する組織デザイン)。

④権限移譲のフェーズであれば、幹部役員やMgrの抜擢・登用を通じた経営と執行の分離を進め、ガバナンスの効いた意思決定体制を構築すること(スムーズな権限移譲)。

いずれのフェーズのアクションも、強い組織構築のために必要となる経営施策であり、うまく設計実践できれば、企業競争力の源泉となるものです。一方で、いずれかのアクションが一つでもうまく進めることができないと、事業成長の落とし穴に繋がります。

これらの各フェーズのアクションを適時的確に進めていくために必要となる思想的土台となるのが、Corporate Identity (CI)であります。企業としてのVision、Mission、Valuesが存在することで、HR施策の方向性をはじめて規定することができるようになります。

各フェーズのアクションをざっとまとめてみると、以下のようになります。

HRサイクルにおける各フェーズの全体像を俯瞰しまとめてみると、組織創りを進めるに当たっては経営として取り組まないといけないことが多く存在することがわかります。組織拡大が必要となったタイミングで各施策の準備が不十分なまま、慌てて採用を急いでしまうと、どこかでほころびが生じる可能性はぐっと高まります。

非連続な事業成長を目指すスタートアップにとっては、人数が少ないシード期からCIを醸成し、組織拡大が必要となるタイミングに慌てずに備えておく必要があると考えています。(次につづく)

 

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教育に留学、養子縁組支援、Techstarsが選んだ10社紹介 #シアトルスタートアップ

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ピックアップ:2021 Techstars Seattle Accelerator Companies ニュースサマリー:シードアクセラレータープログラムを運営するTechstarsは、2021年度のアクセラレーション採用スタートアップのシアトル版を25日、公開した。 話題のポイント:2020年に開催されたアクセラレータープログラムはその多くがリモートでの開催となり、スタートアップやアクセラレータ…

Photo by Startup Stock Photos from Pexels

ピックアップ:2021 Techstars Seattle Accelerator Companies

ニュースサマリー:シードアクセラレータープログラムを運営するTechstarsは、2021年度のアクセラレーション採用スタートアップのシアトル版を25日、公開した。

話題のポイント:2020年に開催されたアクセラレータープログラムはその多くがリモートでの開催となり、スタートアップやアクセラレーター側にとっても初めての経験が多かったと聞きます。例えば、a16zのCrypto Startup Schoolは2020年が初回の開催であったにもかかわらず、リモートでの支援実施となりました。

Techstarsも同様に、昨年のほとんどのプログラムはリモートで行われたそうです。そして今回も引き続き基本的に支援はリモートで実施されるようです。ただ、プログラム側も多くの学びを昨年を通して学んだといい、例えばプログラム開始時期を少し早めてバーチャル上でスタートアップが交流できる時間を多くとるなど、リモートであることのネガティブ要素を感じさせない運営方針を取っています。

ZiplineはTechstars出身のユニコーン。ドローンで血液を運ぶ

さて、Techstarsシアトルの卒業生には既にユニコーン企業となったRemitly、OutreachやZiplineがいて、彼らはちょうど10年前となる2011年の卒業生ということになります。2021年度のメンバーも事業モデルは非常に興味深いものが多く、これから加速度的に成長するだろうなと思うスタートアップがいくつもありました。簡単にではありますが、10社の概要について調べてみました。

  • Afriblocks:アフリカ大陸のデジタル人材・フリーランスを採用することができるマーケットプレイス。「Pan-Africa」を謳っているところからも、アフリカの人間的かつ経済的な可能性を信じていることが伝わります。
  • Aplic.io:留学支援を行うプラットフォームです。留学してみたい現地の情報は、インターネットだけではリアルタイムに把握することは難しいのが実情。そうしたギャップを、Aplic.ioでは専門のアドミッションヘルパー(必要書類や合格するためのコツなど)と奨学金ヘルパーを繋ぎ合わせることでリアルタイムかつ意味のある手助けを提供しています。
  • Bild:ハードウェア企業がリアルタイムでメーカーとコラボレーションを実現できるプラットフォームを運営。デザインの細かな改善などをリアルタイムかつビジュアライズにフィードバックできるのが特徴。
  • Brite:子供を対象としたSTEM教育を実施したいコミュニティー運営者をサポートするプラットフォーム。教育コンテンツや進捗管理など全てが統合されています。PythonやUnityなどとコラボレーションし、独自学習コンテンツも生み出しています。
  • Edify:ソフトウェアエンジニアのオンボーディングを支援するプラットフォーム。繰り返し起きるオンボーディングの作業を、Slackなどへのインテグレーションでダイナミックに自動化させる機能を提供しています。
  • edith:学生向けの長期キャリアメンターシッププラットフォーム。自身が目指す企業やキャリアで実際に働いている「メンター」とISAs契約(Income Share Agreements:給料に応じてフィックスのパーセンテージを支払う仕組み)を結び長期的なサポート関係を構築することができる。
  • PairTree:養子縁組を支援するプラットフォーム。事前のバックグランド調査など、すべてをPairTreeが実施し、安全性を確立したうえで相手方とのやり取りをデジタルに実行できる。
  • Storey the App:オンラインで購入したアパレル用品を自動的にマーケットプレイスにアップロードするサービス。ファッションの持続可能性に着目しているスタートアップで、購入からリセールまでのループを作り上げることを目指しています。
  • The Folklore:アフリカ系高級デザイナーズ商品をショールーム形式でEC販売するコンセプトストアを運営。普段目にしない商品が多く、一種のD2C的な雰囲気を感じます。
  • Twelve Labs:コンテキスト認識AIを用いて動画コンテンツをセマンティック検索に対応させるプラットフォームを運営。

今回選出された10社もシードですから現状で知名度が高いわけではないですが、だからこそ潜在的な成長可能性を秘めていそうです。シアトル発のスタートアップは実は面白いエリアで実績を積み上げているところも多く、ユニークさに溢れています。

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【IPOスタートアップの資本政策解剖】Sun*(サンアスタリスク)編〜第4回「Smartround Academia」から

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第4回 Smartround Academia(2020年11月11日開催)で、資本政策を解剖したのは Sun*(サンアスタリスク、東証:4053)だ。現在の法人は2013年3月に設立され、2020年7月31日に東証マザーズに上場。黒い革ジャンに身を包んだ上場企業 CEO の登場は印象的だった。今回、資本政策を披露してくれたのは、Sun* CEOの小林泰平氏だ。 小林氏は早稲田実業高校を中退後、一…

第4回 Smartround Academia(2020年11月11日開催)で、資本政策を解剖したのは Sun*(サンアスタリスク、東証:4053)だ。現在の法人は2013年3月に設立され、2020年7月31日に東証マザーズに上場。黒い革ジャンに身を包んだ上場企業 CEO の登場は印象的だった。今回、資本政策を披露してくれたのは、Sun* CEOの小林泰平氏だ。

小林氏は早稲田実業高校を中退後、一時はホームレス生活をしながらバンド活動に熱を注ぐ。ライブハウス勤務を経て、ソフトウェア開発会社で IT エンジニアとして就職。その後、サンアスタリスクの前身にあたるフランジア・ジャパンを創業した平井誠人氏(Sun* 現取締役)に誘われ、Framgia Vietnam の COO への就任と同時に渡越。その後、Sun*へと社名を改め、現在、小林氏は同社の CEO を務める。

Sun*は、「誰もが価値創造に夢中になれる世界」をビジョンとして掲げ、新規事業やスタートアップの事業創造からサービスの成長までを包括的に支援するサービスを提供。デザインチームと開発チームの双方を抱え、SMB(中小企業)からエンタープライズ(大企業)まで、多岐に渡るクライアントとプロダクト開発を行う。

今回の聞き手も、スマートラウンド COO 冨田阿里氏が務めた。

(文:馬本寛子、編集:池田将)

Image credit: Sun Asterisk

〈これまでのSun*関連記事(一部)〉

〈上場前(2013年3月〜2020年7月)〉

(クリックして拡大) Image credit: Sun Asterisk

Sun*の創業は2013年3月だが、原点はそれより以前、2つの法人から歴史が始まっている。現在取締役を務める平井誠人氏が2012年に創業した Framgia(フランジア)と、同様に現在、取締役を務める服部裕輔氏が2013年3月に創業したアイピースだ。

アイピースは創業時から Framgia Vietnam と協業しており、毎度契約を結ぶ形態で事業を進めているという状況だった。その後2社が合併することとなり、アイピースを母体とする形でフランジア・ジャパンが誕生した。合併の際にシンガポールにホールディングスカンパニーを設立し、Framgia Vietnam を完全子会社に。その他、フィリピンやバングラデシュなどにも子会社を設立した。

フランジア・ジャパンは後にフランジアと社名を改め、2017年頃から日本での上場を目指しその準備に着手。2017年12月には、小林氏が CEO に就任した。上場半年前の2019年末から2020年2月末にかけて、Sun*として初となる外部資金調達を行う。このラウンドでは、農林中央金庫、ソニーネットワークコミュニケーションズ、Sony Innovation Fund by IGV(Innovation Growth Ventures)、加賀電子、リバネスキャピタル、15th Rock Venturesなどが参画し、その他デットファイナンスも含めて総額20億円を調達した

(クリックして拡大)
Image credit: Sun Asterisk

以下、資本政策に関して視聴者からの質問の回答なども含めて要約する。(順不同)

  • 独資のみで IPO するという選択肢もあったものの、IPO 前後は経営陣が事業にフルコミットして向き合う余裕がないことを懸念した。そのため、IPO 後の成長ドライバを仕込む目的で、事業会社を中心に資本業務提携を進めた
  • 外部の方からの紹介で農林中央金庫を紹介してもらった。規模も大きく、長期的な目線で柔軟に考えていただけると思い、彼らの第1号出資案件としての資金調達に繋がった。互いに初めての調達だったこともあり着金までに半年を要したが、その間に事業や法務などをしっかりチェックしてもらったため、このタイミングで IPO の準備はほぼ整った。
  • ソニーからは、ソニーネットワークコミュニケーションズとS ony Innovation Fund by IGV(Innovation Growth Ventures)の双方から調達している。ファンドのみの投資で事業シナジーが生まれるか懸念したため、事業シナジーが最もありそうなソニーネットワークコミュニケーションズからも投資をもらえるよう交渉し、双方から投資を受けた。

【信託型 SO について】

  • 2018年12月に第1回 SO 発行を行う。同社の税理士を務める糸井俊博氏を信託型 SO の受託者として、株式の9%相当分を凍結した。当時の売上高や利益などから算出した価格でSOを発行した。当時算出した株価は80円。
  • 小林氏は、Sun*がIPOする条件のひとつとして、全社員が株主になることを挙げていた。給与や賞与は、最大限に配慮しても評価者のバイアスがかかってしまうものであるが、全社員の仕事の成果による外部評価が反映される「株価」は、社員の会社に対する価値貢献への対価がしっかりと支払われる仕組みとの考えによるものだ。
  • 上場後に入社する社員に対しても株を配布したいと考えていたため、信託型 SOを選ぶことにした。
  • 信託型 SO の導入を検討しているのであれば、しっかりとした制度設計が必要。しっかりと制度設計をしなければ、社員がSOを受け取れなかったり、税金の問題が発生したりするリスクがある。信託型 SO については、プルータスコンサルティングに依頼し設計した。

【その他】

  • 銀行からの借入は行っていたが、2017年12月まで外部資本を入れずに経営していたため、企業体制や形態などを柔軟に変更できた。

〈上場 2020年7月〉

日本取引所グループ公式チャンネル」から。
Image credit: JPX

革ジャンで登場する小林氏の姿に重ね、取締役の株主保有比率の多さ(信託型 SO 割当分を除き、経営陣だけで75%以上を保有)も極めて印象的だった、Sun*の上場。

小林氏は、上場日の初値が出る瞬間を主幹事を務めた大和証券で経営陣らと見た際の裏話も話してくれた。コロナ禍で東証で鐘を鳴らすセレモニーは挙行されなかったが、初値が発表される9時の瞬間を見届けるイベントに遅刻してしまい「前代未聞だ」と言われたとのこと。どんな時も自然体でいる小林氏の一面が垣間見えた。

東南アジアを軸に事業拡大を進めていた同社が、「日本での上場」を目指した背景には、現在の日本に対しての強い想いがあったと、小林氏は話した。

ベトナムと日本を行き来する生活を送る中、ベトナムのデジタル化のスピード感に対して、日本の変化の遅さを感じて不安を抱くようになった。(中略)

そうした課題感を持って、2017年頃から「日本の社会課題に対して目を背けながら、ベトナムで楽しく仕事を続けて良いのか?」という疑問を経営陣で議論し続けた結果、Sun*の事業としてエンタープライズまで巻き込んでいくことで、日本の IT 人材不足や DX 推進を進める一助を担うことを目指す方向に転換することにした。

〈上場後 2020年7月〜〉

左から:取締役 平井誠人氏、取締役 梅田琢也氏、
代表取締役 CEO 小林泰平氏、取締役 服部裕輔氏
Image credit: Sun Asterisk

Sun*が上場時に公開した有価証券届出書によると、同社の主な株主は平井誠人氏(取締役、34.37%)を筆頭に、服部裕輔氏(取締役、19.91%)、藤本一成氏(執行役員、13.05%)、糸井俊博氏(税理士・信託型 SO の受託者、8.23%)、小林泰平氏(代表取締役、7.70%)のほか、農林中金(5.55%)、ソニーネットワークコミュニケーションズ(0.55%)、Sony Innovation Fund by IGV(Innovation Growth Ventures、1.64%)、加賀電子(東証:8154、0.55%)、リバネスキャピタル(0.16%)、15th Rock Ventures(0.16%)などである。

取締役を中心とした経営陣の持分比率が8割以上を占めている。また、信託型 SO の受託者とされている、同社の税理士を務める糸井氏が保有する8.23%の株式については、新株予約権信託に当てられている。現時点で、この SO は、2%ほどしか使用されていないそうだ。

役員や現在と未来の社員が保有する株式を合わせると約9割となる。上場を目指すまで、自己資金をもとにした安定感のある収益モデルを築き上げ、成長を続けてきた Sun*の色が見える資本構成となっている。

〈その他〉

Smartround Academia から。代表取締役 CEO 小林泰平氏と(左)、インタビュアーを務めたスマートラウンド COO 冨田阿里氏(右)。
Image credit: Smartround

視聴者から寄せられた質問の回答で、上記に記入できなかったものを以下にまとめる。

Q:受託開発とみなされるとPER(株価収益率)などが低くなると思われがちだが、投資家や主幹事にどう説明したのか。

受託開発と言えど、さまざまな形態がある。請負契約、準委任契約、派遣契約など。Sun*では、基本的に準委任契約を行っており、毎月の稼働工数に応じた対価をいただいている。3ヶ月以上継続する準委任契約を「ストック型契約」と定義しているが、それらの契約更新は半年〜1年の契約がほとんど。

長期契約を結び、きちんと実績を積んでいくことで ARPU も上がるモデルなので、基本的には納得してもらえた。というより、厚労省や機関投資家などからも「これはなんと表せば良いのだろうか?」という反応だった。

スタートアップや新規事業においては、プロダクトに完成もなければ、要件も決まっていないので、見積も難しい。そうした点を考慮すれば、互いに準委任契約の方が良いと思う。

Q:創業前のスタートアップの支援とは、具体的にどんなことをしているのか。

創業する前から、エンジニアチーム・デザインチームを無償で提供。プロトタイプの作成まで無償提供し、テストマーケティングを経て、市場に出せるタイミングで、Sun* から、20%の資本を入れて一緒に起業している。基本的には、起業家が Sun* のオフィスに来て常駐している(採択時の起業家のスクリーニングは非常に厳しく行っている)、

現在4社ほど支援しており、うち2社は資金調達を終えている(関連記事1関連記事2関連記事3)。調達ラウンドも一緒に行っているが、実感としては、開発チームがいて、プロダクトもあり、トラクションも出ているため、投資家からの評価も良い。

Sun*が持っている20%も、事業シナジーのある会社と提携できるチャンスなどがあれば、バッファとして使用しても問題ない。これらのプロジェクトについては、現在 Sun*としてもチャレンジしている状況。

Q:会社の体制が変わっていく中で、社内のメンバーをどのようにモチベートしていたのか?

上場経験者も社員にいたので、上場に対してネガティブな印象を持っている方も実際にいた。そのため、社員と現在の状況や IPO する理由などについて、1対1で話す時間をこまめに設けた。

IPO しても、会社の概念は変わらない。変わるとしたら、中身の「人」でしかない。あえて言うと、ステークホルダーが増えることで、外圧がかかり、経営陣が変わる可能性があることくらいだと思っていると伝えていた。

CEO の人間性が変わらなければ、会社として変わることは何もない。だから、メディア露出も含め、外部露出などもいつもと同じように、自然体で出るようにしている。


イベントは、小林氏から後進へのアドバイスで締めくくられた。

新しいことを始めるのは、人間の幸せに直結することだと思うが、一般的には資金や仲間を集められないなどの問題で諦めてしまうことが多い。

Sun*は情熱を持った人が「諦めなくてもいいインフラ」をつくることを目指している。ビジネスや事業成長そのものよりも、ビジョンを重視し、芯や軸を持って進み続けていくことを応援できるような存在になりたい。

信じていることやその本質を大事にしてほしい。ダメならダメで失敗した方がいいと思う。失敗して、再チャレンジしている人もたくさんいるので、恐れることなくガンガンチャレンジしてもらえればと思う。

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日本のサブスクブームの立役者、「subsclife」が狙う家具ビジネスを通じた社会の変革と貢献

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 日本でサブスクリプションモデル、いわゆるサブスクのサービスが産声を上げ始めたのは2018年頃くらいのことだろう。企業で使われていたソフトウェアがパッケージソフトから SaaSへとシフトしていった変化がファッションや食の領域にも波及し、メーカーが商品を直接消費者に届けるD2Cモデルの台頭とともに一…

subsclifeのCEO、町野健氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

日本でサブスクリプションモデル、いわゆるサブスクのサービスが産声を上げ始めたのは2018年頃くらいのことだろう。企業で使われていたソフトウェアがパッケージソフトから SaaSへとシフトしていった変化がファッションや食の領域にも波及し、メーカーが商品を直接消費者に届けるD2Cモデルの台頭とともに一気に広がったのがサブスクが生まれた経緯だ。

subsclife(サブスクライフ)は2018年、家具のサブスクを他社に先駆け日本国内で最も早くスタートさせており、サイバーエージェント・キャピタル(当時、サイバーエージェント・ベンチャーズ)はサービス開始以来からのアーリーインベスターである。subsclifeのCEOである町野健氏に、同社のこれまでの軌跡、目指す方向、投資家からの資金を事業にどのように活用してきたか、などについて話を聞いた。(BRIDGE編集部注:本稿はsubsclifeのCEO、町野健氏に起業からこれまでの道のりをお聞きしたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は町野氏です)

Q1. 数ある社会課題の中で、なぜ家具のサブスクを選んだのか

旧態依然としていた家具業界を元気にしたかった。アメリカの3大ピッチイベントへの参加を通じて、家具業界にもサブスクのトレンドが来ると確信した

町野:450万ダウンロードを誇ったキュレーションアプリ「Antenna(アンテナ)」を辞め、次に挑戦するテーマを探していたところ、声をかけてくれたのが、ほかならぬサイバーエージェント・キャピタルの近藤裕文代表だ。近藤氏が subsclife の前身で IoT 家具スタートアップ KAMARQ の共同創業者らに引き合わせてくれた。KAMARQ の日本法人の代表を務め、2018年に KAMARQ 内で家具のサブスク事業を立ち上げ、それを2019年にスピンアウトさせる形で subsclife が生まれた。

ーー家具のメーカー/ブランドから、家具のサブスクへと事業転換したきっかけは?

町野:事業を進めていく中で、家具業界のことを知れば知るほど旧態依然としていることがわかった。KAMARQ に参加した2015年当時、値頃感のあるいい家具を扱っているのに、売れていない家具屋は非常に多かった。目黒通り(東京では家具屋が多い通りで、インテリアストリートとも呼ばれている)とかのお店を巡ってみても、皆元気が無かった。

サブスクを始めたのは、家具業界でも SPA(製造小売業)の台頭で従来の家具メーカーと消費者の間でアンマッチが起きていると気づいたが一つのきっかけ。それから、VentureBeat に KAMARQ が取り上げられ、アメリカのテックカンファレンス「LAUNCH Festival」でのピッチ登壇に招待されたとき、他のスタートアップのピッチを聞いていて、お金の回収方法はほとんどの会社がサブスクと言っていて、家具もサブスクになるな、と考えたのがこの時。ここから半年かけて、家具のサブスクをサービスインした。

ーーKAMARQ の中でサブスク事業を続けることもできたはずだ。サブスク事業を別会社へスピンアウトしたのはなぜ?

町野:2018年3月にサブスク事業をβ版で立ち上げてから業績は好調だった。サブスク事業では先に家具を仕入れるため大きな資金が必要になり、そのため新たな資金調達に動いていた。そんなとき、サイバーエージェント・キャピタルをを含め複数の VC が手を上げてくれたのだが、サブスク事業に出資したい、と言ってくれる投資家が多かった。そこで、KAMARQ の日本法人だったカマルクジャパンの社名を subsclife に変更しサブスク事業に特化した会社として新たな船出を切ることにした。

Q2. 今までに、subsclife としてのピボットや失敗はあったか

自社製品だけを扱うのをやめることにした。自社製品にこだわっていたら、ここまで大きくはならなかったと思う

町野:2018年3月にβ版をスタートした当初、KAMARQ自社製の家具のみを取り扱っていた。自社製だと家具のバリエーションにも限界がある。しかし、サブスクのお客様のニーズは多種多様で、subsclife に無い家具は別なところで購入してください、というのは使い勝手が良くない。ワンストップで揃えられないとユーザ体験的に良くないという壁にぶつかり、自社製品だけを扱うのをやめることにした。商品を家具メーカーから仕入れることにし、一気にバリエーションを増やして8月にリニューアルしたところ当たった。

ーー家具メーカーとして、自社製品のみを扱うことへのこだわりは無かったのか?

町野:最初の頃は自社製品のバリエーションを徐々に増やしていければいいと考えていたが、想定よりも早く2018年後半にはモノのサブススクブームが来てしまった。2019年にはトヨタが自動車のサブスク「KINTO」を開始して大ブーム、これがあらゆるモノのサブスクに火をつけた格好だ。自社製品のだけ取扱にこだわっていたら、ここまで大きくはならなかったと思う。

思いのほか、家具メーカーが subsclife に共感してくれた。家具メーカーにとって、彼らの商品は値段勝負にすると正直な話キツいが、いい商品をお客に長く使ってほしい、という思いは強い。家具が全然売れていない時代だったが、サブスクで新しい顧客層にもリーチできるようになり、商品がまわるようになったことで、(商品サイクルから)廃棄される量を最小限にできるのはすごくいいと、大きなメーカーがどんどん参加してくれるようになった。

ーー家具は買うモノから借りるモノになっていくのか?

町野:最近の豪雨災害も人災の色が強い。「スクラップアンドビルド」 から「ストックアンドフォロー」への流れは家具の世界にも来るだろうし、いいモノを長く使ってもらえる文化は伸びると考えている。家具 SPA の旗手である IKEA もこのままではダメだということで家具のサブスクモデル(Rent the Runway)を始めた。この文化が浸透していくには5年や10年はかかるかもしれないが、若者ほど商品を廃棄しないモデルが響くようになりつつある。

subsclife でももちろん廃棄はしていない。家具メーカーに(仕入れ時に)お金が回っていく仕組みを作る必要があるため、サブスクで貸し出している家具は全て新品だが、サブスクが終わって戻ってきた商品は、現在のところ、二次流通業者(中古買取)に売却している。subsclife のサービス開始から2年以上が経ちユーザも増えてきたので、将来はサブスクから戻ってきた家具の一定量を subsclife の中で回す、ということも可能になるかもしれない。

Q3. どんな投資家から資金調達すべきか?

厳しい局面が来たときに、状況をわかった上でどれだけサポートしてくれるか。その担当者がどれくらいスタートアップに寄り添ってくれるかは重要

町野:VC から資金調達するには必ず担当者がつく。その担当者がどれくらいスタートアップに寄り添ってくれるかは重要。僕らの事業は(サブスクでお金が入っていくよりも、仕入れで先にお金が出ていく)先にお金が出ていくなので、精神的にすごく忍耐を求められるビジネスモデル。ともすれば、儲からないビジネスだと言い切られるケースも結構ある。実はそうではないのだけれども。「リスクをとってでもファーストペンギンとしてやるべき」という気概のある担当者でないと、VC 社内で(投資実行の)話を通せないはずだ。

ーーサイバーエージェント・キャピタルから資金調達したのは?

町野:しっかりサポートしてくれる、そして、スタートアップの気持ちをわかってくれる VC と付き合いたくて、今回(2020年9月に実施したラウンドで、subsclife はサイバーエージェント・キャピタルを含む10社から約30億円を調達した)もそのようにしている。そんな VC の最たる存在がサイバーエージェントキャピタルだ。厳しい局面においても、今やってることを否定しないでサポートを続けてくれる点に感謝をしている。

世の中には、事業が思い通りに進まず、辛くなったときに計画との乖離を見て、「あーしろこーしろ」という投資家がいることも事実。もっとも、投資家はお金を出してくれている存在だから、僕は投資家はそうやってスタートアップに口を出しいてもいいと思っている。でも、サイバーエージェント・キャピタルの場合、そこじゃなくて、「ここから伸ばすにはどうしたらいいだろう」など一緒に先を見ながら話せるので、その点が非常にありがたい。

ーースタートアップは、どのような VC やキャピタリストと付き合うべきか?

町野:VC とて会社。会社には、ブランディングという意味で人格が出るものだ。そして、誰の人格が出るかというと、現在の、そして、歴代の取締役の人格が最も出ている。そう考えると、サイバーエージェント・キャピタルをこれまで率いてきた人、今も率いている人たちの作ってきた文化が良かったのだろうと思う。もちろん、(親会社である)サイバーエージェントの文化も色濃く出ているだろう。

厳しい局面が来たときに、ただ「あーしろこーしろ」というだけなら誰にでもできる。そんなとき、状況をわかった上でどれだけサポートしてくれるか。出資を受けているということはすごいことだし、VC とて社内調整や投資先の業績について LP(ファンド出資者)に説明を求められることも多いはず。しかし、そういったことをスタートアップに微塵も感じさせないような、投資家に理解してもらっていると経営をしやすい。経営者は投資家への説明コストを最低限にとどめ、本来集中すべきことに集中できるからだ。

僕の場合は、Antenna の時代に近藤さんと知り合えたのはよかった。当時資金調達することはなかったけれど、その時に近藤さんと会ったことから今に繋がる。VC は他の VC をたくさん知っているので、そこからさらに人脈は広がる。起業家を見ているとムダな時間の使い方をしている人がすごく多いように思うが、ほとんどの投資家は、起業家と初めて会った時にそのスタートアップのことを初めて知るので、その瞬間に互いにもっと深く知り合えるように、事業以外の話もいっぱいした方がいいと思う。

Q4. subsclife にとってこれまでのハードシングスは? そして、それをどう克服したか?

なんとか担当者に subsclife のファンになってもらって、社内調整してもらうしかない。だから情熱は大事

町野:サブスクは、商品を仕入れる必要があるので、先にお金が出ていくビジネス。運転資金なので、エクイティファイナンスよりもバックファイナンスの方が必要になる金額は大きい。サービスが売れれば売れるほどファイナンスが必要になるが、まだ赤字のスタートアップが金融機関からデットファイナンスを得るのは非常に難しい。一時期はエクイティで得た資金を充当するなどして凌いだ。

ーーそんな中で、どうやって突破口を開いたのか?

町野:バックファイナンスができないと、サブスク事業が行き詰まるのはわかっていた。なので事業を始める当初の段階で、まず一社リース会社を口説いて、当社にリース枠を与えてもらえるよう注力した。実績はまだ無い会社だったなので、ここはもう論理ではなく情熱の世界。なんとか担当者に subsclife のファンになってもらって、社内調整してもらうしかない。だから情熱は大事。

PL/BS に純然たる欠陥がある会社なので(笑)、序盤はまずリース枠を開けてもらって、実績を積んだら、また枠を伸ばしてもらうということの繰り返し。それで現在に至っている。エクイティファイナンスでの資金調達はリスクマネーなのでデットほど厳しくないだろうが、とにかく、赤字のスタートアップがデットでファイナンスをするのは、それはそれは大変だった。

ーー成長著しい subsclife にとって、会社を大きくする上での課題は?

町野:会社を大きくしていく上で、チームを育てていくのは大変なこと。subsclife は現在20人くらいのチームだが、このくらいの規模になってくると、メンバーのモチベーションを保ちながら、同じ方向を向いて進むのが大変。どの経営者も言っていることだが、僕らも強いチームを作るために体制づくりをいろいろやっていかないといけない。

一方、コロナ禍でリモートでの勤務を余儀なくされた今、社内でよく言ってるのは、チーム感が毎日0.1%くらいずつ削がれていっている気がするということ。チームワークという点では、圧倒的に話す機会が減る。偶然の発見ができる環境を作れないチーム体制で、スタートアップが大手企業に勝てるはずがない。その中でどういう出勤体制がいいかを考えるのに苦労している。

Q5. subsclife が目指すもの、そして起業家コミュニティに期待することは?

インテリアという領域に対しては、どんどんやっていこうと思っている。もっと起業家の仲間が増えることを期待したい

町野:subsclife が目指しているイグジットは、2023年か2024年をターゲットに、東証マザーズへの上場だ。ユーザは順調に増えているが、裾野を広げるために家具のほかに家電にもサブスクの幅を拡大したし、インテリアという領域に対しては、どんどんやっていこうと思っている。

ーー競合も増えてきた。先行する優位性を保つために、KPI のメンテナンスなどはどうしているか?

町野:家具業界は旧態依然としているが、僕らは家具を売る(実際にはサブスク形式で提供する)ことに関しては、売り方を徹底的に科学している。例えば、法人営業について見ると、顧客のリード獲得から納品まで一連のプロセスがあるわけだが、ああでもない、こうでもないと週単位のレベルで変えながら最適化している。3ヶ月前と比べてみても、全く違うやり方で営業している。

商品の調達についても、subsclife の仕入先は400ブランドに上るが、仕入れのプロセスについても徹底して最適化するようにしているところ。まだまだ足りないので、さらに進めていきたい。

ーー antenna で企業内起業をされ、subsclife では外へ飛び出して自ら起業された町野さん。両方を知る立場から、企業内起業されている方に、外へ飛び出すことを勧めるか?

町野:絶対に外へ飛び出して自分でやった方がいいと思う。企業内起業は例えるなら、Zoom でハワイを見ているような感じ。そんなのは実際に現地で体験するハワイにはかなわない。企業内起業は、そんなバーチャルなもののように思う。もちろん、企業内で起業すると、別のプロフィット部門にいじめられることもあるかもしれないが、それって全然ムダな経験で、起業そのものには何ら関係ない。

人はどこかに逃げ道があると、そちらへ行ってしまう。人間ってそういうものだから。人間はやっぱり追い詰められた時にパワーを発揮するので、飛び出してやらないと自分の本当の力は出せないと思う。ほら、テスラだって一時期は本当に資金繰り危ないと言われたけど、今はちゃんとやれてる。企業内起業できる人は、絶対に能力的に独立してもできる。ただ恐怖観念がまさっているだけだ。

僕が以前 antenna をやった2012年当時と比べると、今は圧倒的にスタートアップはやりやすくなっているし、調達もだいぶやりやすくなっている。一回バンジーを飛ぶと、二回目以降飛ぶのはすごく簡単になる。もっと起業家の仲間が増えることを期待したい。

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国内エコシステムとスタートアップ・IPOの意義ーー大和証券・丸尾氏 Vol.2

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 IPOの意義とはなんだろうか。資金調達の手段であり、社会的な信用の獲得であり、企業に正しいガバナンスを与えるものでもある。一方、マーケットが求める「極めて短期の結果」に疲弊し、オルタナティブを求める考え方も出てきている。 新しいスタートアップエコシステムの創造ロジック「リーン・スタートアップ」の著者、…

大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

IPOの意義とはなんだろうか。資金調達の手段であり、社会的な信用の獲得であり、企業に正しいガバナンスを与えるものでもある。一方、マーケットが求める「極めて短期の結果」に疲弊し、オルタナティブを求める考え方も出てきている。

新しいスタートアップエコシステムの創造ロジック「リーン・スタートアップ」の著者、エリック・リース氏は2011年の著書で既にこの問題点を突いており、より長期的な成果の視点に立った「長期株式取引所」の考え方を披露している。10年たった今、彼は長期経営をテーマとした新証券取引所「Long Term Stock Exchange」を2019年に開設した。

丸尾氏は拡大するマーケットにおけるIPOの意義を、大きなエコシステム全体で俯瞰する必要があると説く。

エコシステムとIPOの役割

「例えばサイバーエージェントってマクアケやサイバーバズ、BASEなどに出資して、彼らが上場することで資金を回収していますよね。こういった利益がないとAbemaのような新しいチャレンジはできない。エニグモの須田さん(将啓氏・代表取締役)も上場後に個人として投資している。こう考えると、上場した企業や起業家は投資にまわるわけです。PKSHA Technologyは上場してCVCを作った。こうすることで自分たちが張れないAI技術に株主となって挑戦ができる」。

BASEは上場時の時価総額が250億円程度だった。しかし今(※執筆時、2020年12月9日時点)の評価額は2500億円に届こうという規模にまで膨らんだ。感染症拡大がEC需要を押し上げたことが要因のひとつではあるが、これにより、彼らはより有利な条件で資金調達を進めることができる。株の希釈も最小限に抑えることができるからだ。そしてBASEもまた、新たなスタートアップへの投資を通じて、エコシステムの一員としての役割を果たそうとしている。

世の中に必要なことをやる

取材の終わり、長年多くの起業家、経営者と向き合ってきた丸尾氏に、次の世代の起業家と投資家に求めるものを聞いた。

「この経営者はやるやつか、そういう目で見ている時はキャピタリストに近いかもしれません。あと大切なのは長い目ですね。(支援側で)すぐに商売にならないなと思ってすぐに引いたんでは長い付き合いにならない。だから大事な会社や起業家にはしっかりと担当をつけます。大手企業では当然のようにやってきましたが、若い経営者ともやりますよ。

確かにね、起業家で金が欲しいから上場するという時代もありました。でもね、志がないものは退場してます。BASEの鶴岡さんとかはお金よりも成し遂げたいものがある。これが大きく変わったところです。世の中にはこれが必要なんだという。それって無理じゃないの?というところで事業をしてくるわけですから、我々はIPOでそのチャンスを拡大させるわけです。発想がね、お金や自分だけではなく、地球だったりイノベーション目線なんです。そう言う人が次の1兆円企業を作ると思ってますよ」。

今、世の中ではSDGsに代表される、持続可能な社会づくりが大きく叫ばれるようになった。ITバブルが発生した2000年以降、世の中には過剰な生産によって資本主義のゆがみのようなものが発生している。2030年に向けて活動する起業家には、長期の視点に立ったビジョンがより強く求められるようになった。

彼らは社会の課題や要請にどう答えるのかを問われているのだ。

数年前まではROE重視だったが、脱炭素やSDGs、ESG投資への潮流はますます加速していく。今は地球に優しい、そういったことに資する企業を支援していきたいし、新しい取り組みにあえて挑んでいく、強い大和でありたいです。

「これまでITやゲームなど、その時代、時代に応じたトレンドを作ってきました。赤字上場という新たな選択肢の道も開きましたし、BASEのようにマーケットでバリュエーションを出して次の成長資金を獲得してもらう。こういう起業家たちの『やりたい』をこれからも後押ししたいし、世の中のためになる企業の発展を支援していきたいです」。

(了)

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前例なき「赤字上場」が生んだものーー大和証券・丸尾氏 Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 エリックリース氏の著書「リーン・スタートアップ」が出版されたのが2011年。新たな事業を「構築、学習、計測」というアジャイルなフローに落とし込んだ、新たな起業の手法は世界的に大きなブームとなった。時を同じくして日本でもY Combinatorらが発祥となるアクセラレーションプログラムが開始となり、スマ…

大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

エリックリース氏の著書「リーン・スタートアップ」が出版されたのが2011年。新たな事業を「構築、学習、計測」というアジャイルなフローに落とし込んだ、新たな起業の手法は世界的に大きなブームとなった。時を同じくして日本でもY Combinatorらが発祥となるアクセラレーションプログラムが開始となり、スマートフォンシフトの後押しもあって多くのスタートアップたちを生み出すことに成功する。

日本におけるテックスタートアップ・エコシステムの新たな幕開けだ。KDDI ∞ Laboもその中で産声を上げた。

このエコシステムにおける重要なマイルストーン、それがIPO(新規株式公開)になる。1999年から2000年にかけて発生した日本のITバブルではソフトバンクやヤフー、楽天、サイバーエージェントなどの企業が株式市場で大きく勃興し、その後に続くディー・エヌ・エーやミクシィ、グリーなど、国内インターネット企業が躍進する基盤を作った。

そして2010年代、新たなエコシステムの中で大きく成長したメルカリやラクスル、freee、BASEといった新興企業の多くを主幹事として株式市場に送り出した証券会社、それが大和証券だ。ヤフーやGMO、サイバーエージェントにミクシィにディー・エヌ・エーなど、黎明期からこの国内エコシステムを眺めてきた株式市場の水先案内人は、2010年代に何を見つけ、そして次の世代に何を期待するのか。

本稿は国内エコシステムの今と未来を知るをテーマに、大和証券の専務取締役、丸尾浩一氏に10年の振り返りと、次世代の起業家に求めるものを伺った。

初モノの大和

2019年度の売上高1,961億円、営業利益252億円、グループ企業103社の大連合を組むインターネット企業、それがGMOインターネットグループだ。直近の連結時価総額が約1.6兆円(※)にもなる、このGMOインターネットを中心に構成される10社の上場企業の内、9社は大和証券が主幹事を引き受けている。

「熊谷さん(正寿氏、代表取締役会長兼社長 グループ代表)は周囲をやる気にさせてどんどん上場させていく。やりたいんだと。だからことごとくウチで(主幹事を)やらせてもらった。上場会社をたくさん作るというGMO独自の経営戦略をしっかり支える。それが我々の役目」。

2000年ITバブルで株価が乱高下する際、当時部長だった頃から丸尾氏は経営者の側でマーケットのアドバイスを送り続けた。サイバーエージェントに楽天、ミクシィ、GMO。数多くのIT銘柄を支えてきた彼は長期にわたる信頼関係こそが重要、そう振り返る。

ITバブルから約10年、時代の変わり目となったのがモバイルインターネットの隆盛だ。いわゆる「ガラケー」プラットフォームは数々のアプリやゲームを生み出し、新たな起業のエコシステムを作り出した。この流れはその後のスマートフォン・シフトへと続き、今のスタートアップエコシステムを形作る基礎となった。大和はこの新しい潮流の中、次々と「誰もやらない」初モノ銘柄を世に送り続ける。

「リブセンス(2011年12月上場)は当時、25歳の最年少上場でしたよね。レアジョブ(2014年6月上場)もオンライン英会話という分野の草分けでした。コロプラ(2012年12月上場)はスマホゲームで、エニグモ(2012年7月上場)も越境ECというテーマの先駆けです。昨日、上場の承認が下りたポピンズホールディングス(2020年12月21日に上場、取材日時点は承認段階)は女性活躍を支援するというミッションを掲げていて、『SDGs(持続可能な開発目標)IPO』として第三者にオピニオンを取ってIPOの資金使途を明確にしたスキーム。本邦初と考えています。誰もやらないことをやる。自分たちが率先して画期的なことをやろうじゃないかと」。

大和が国内インターネット黎明期からIT・ネットに張り続けるには訳がある。重厚長大な企業相手だと競争環境が厳しい。「だからこそ大和の基礎は徹底的に他社がやらないことをやった。全ては勝つため」(丸尾氏)。

初モノに強い大和ーー。この基盤を受け継ぎ、彼らは今のITスタートアップたちの水先案内人となることを選んだのだ。

日本ベンチャーキャピタルが公表している資料によれば、2010年のIPO件数は22件。世の中はリーマンショック後の東日本大震災という過酷な時期でもあった。2012年に第二次安倍内閣が発足してからは翌年に東京オリンピックが決定するなど、徐々に明るい話題も増えてくるが、何者かも分からない新興のテック・スタートアップにとっては厳しい冬の時代だったことは間違いない。

そんな中、丸尾氏はある「初モノ」に挑戦することになる。クラウドワークスの赤字上場だ。

前例なき、クラウドワークスの赤字上場

クラウドワークス代表取締役の吉田浩一郎氏(撮影は2013年12月)

2010年代の半ば、主要なインターネットビジネスはまだまだゲームが中心だったが、デジタル化の流れはじわじわと現実世界に染み出していく。それまで電話で配車していたタクシーは、徐々にアプリで事前決済まで済ませた「移動サービス」となり、個人で不要になったものはスマホ経由で気軽に売買できるようになった。一方で市場はまだまだ実験的な空気に支配されている。シェアやオンデマンドといった新たな経済活動がマス層に本格的に広がるのは2010年代後半を待たねばならなかった。

課題はリードタイムだ。世の中が変わることはわかっている。けどその時が来るまでをどう過ごせばよいか。スタートアップたちは各社、独自の資本政策でこの「いつかやってくる波」を待つ必要があった。クラウドソーシングという、個人をエンパワメントする時代を見据えたクラウドワークスもそのひとつだった。

「大和証券がすごいなと思うのは(Tech系の赤字上場は)初めてですから。普通は絶対やらない。引受部が断る。無理。でもね、最初にやることが大事なんですよ。当然、うまくいかなかったら責任問題になる。だから僕らもリスク取ってやってるんですよ」。

丸尾氏が創業者の吉田浩一郎氏と出会ったのは、とあるキャピタリストからの紹介が縁だったそうだ。クラウドワークスの創業は2011年11月。そこからわずか3年後の2014年12月に東証マザーズに新規上場を果たすことになるのだが、丸尾氏も「今ではありえない突貫工事」と振り返るほど、株式公開までの道のりは痺れるチャレンジだったようだ。

「最初に(紹介を受けたキャピタリストから)レクチャーを受けた時、数千万円の黒字で進んでたんですね。(上場申請の)直前になって、急に吉田さんから連絡があり、丸尾さん相談があると。(ある方から丸尾さんに相談しろと言われたらしく、赤字での上場を相談されて)いや、黒字にしないと無理ですよと言ったんですがなんとかならないかと。ご自身でも上場するんだと周囲に伝えているし、当時クラウドソーシングはゲームに次ぐプラットフォームになる、派遣市場の黎明期と同じなんだと。投資銀行部門にぜひこれやりたいと話しまして。上場引受実務担当者に賛同してもらわないと無理なわけです。結果、やります!と決めてくれた。普通、赤字上場のようなチャレンジは大組織の中では、中々難しいものなんです」。

新規上場の際、前期が赤字であっても足元の直前期は黒字というケースが通例だ。バイオやロボットなど、長期にわたって公開市場での資金調達を前提とする場合と異なり、インターネット銘柄での赤字上場はサイバーエージェント以来、14年ぶりの出来事になる。そして上場から4年後の2018年9月期、クラウドワークスの総契約額は100億円を突破し、無事黒字化を果たす。

「情熱ですね。(主幹事として2019年に上場した)BASEの鶴岡さん(裕太氏・代表取締役)を紹介してくれたのも吉田さんです。これをきっかけにコミュニティが広がりました」。

そもそもクラウドワークスが上場した東証マザーズは株式公開市場の中でも若い企業を対象に、成長のステップとして活用されることの多いマーケットだ。真に50年、100年と続く企業を生み出すための日本独自のエコシステムといってもよい。クラウドワークスはその点で、正しくこの機能を活用したケースだった。

大和の思い切った「初モノ」は国内のスタートアップエコシステムに大きな影響を与える。これをきっかけにラクスル(2018年5月上場)やメルカリ(2018年6月上場)など、足元が赤字であってもマーケットと共にその後の成長を見据える新たな選択肢が増えることとなったのだ。(後半につづく)

※Bloomberg記事より10月14日時点の数字として

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