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DXの型:0次流通を体現した「マクアケ」とノウハウ提供型SaaSの「ノバセル」(2/2)

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr 型8:0次流通 (前回からのつづき)8つ目の型は「0次流通」です。1次流通(小売)より前の仮想的流通(プレマーケティング)を指した造語ですが、この型のポイントは、企画の意思決定工程をデジタ…

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr

型8:0次流通

画像クレジット:ジェネシア・ベンチャーズ

(前回からのつづき)8つ目の型は「0次流通」です。1次流通(小売)より前の仮想的流通(プレマーケティング)を指した造語ですが、この型のポイントは、企画の意思決定工程をデジタル化することによって製販の分離ならぬ「製販の逆転」が可能になり、無駄のない効率的な企業活動ができるという点です。

クラウドファンディング大手のマクアケは、ビジネスモデルとしてこの型を体現することで、消費者とメーカーの双方に大きな付加価値をもたらしています。とりわけ、新たな企画製品を検討しているメーカーに対して先行予約販売のノウハウを提供する取り組み(Makuake Incubation Studio)が製造業向けのオープンイノベーションプラットフォームとして機能している点については、メーカーのDXを大きく促進するという意味で特筆に値するものと思います。

なお、このメーカー×マクアケの座組みを一社単体で実現し得るプレイヤーとしてはD2C企業があり、私たちの支援先ではTOKYO MIX CURRYを運営するFOODCODE、TAIROED CAFEを展開するカンカク等が、デジタル化した顧客接点を軸に企画〜生産〜販売のPDCAを高速かつ柔軟に回しています。またメーカー以外の業種では、ソーシャルゲーム業界で新タイトルの「引き」を測るためにゲームのリリースに先立って公開する事前登録サイト(ティザーサイト)も、一種の0次流通と言えるのではないかと思います。

型9:ノウハウ提供型SaaS

画像クレジット:ジェネシア・ベンチャーズ

9つ目の型は、「ノウハウ提供型SaaS」です。コスト削減のみを目的とするSaaSと比較した場合、利用者がコストメリット以外に付加価値を享受できるという点で優位性があります。

この型の特徴は、従来特定分野のスペシャリストのもとに偏在していた専門的な知見やノウハウを、広く一般のユーザーに届けられることにあります。もともとソフトウェアが持つ特徴として語られてきたこの民主化というメリットは、ソフトウェアをサービスとして提供するSaaSには色濃く反映されるはずであり、実際にそれを地で行くプレイヤーがあらゆる領域で立ち上がっています。

世界トップクラスの技術者集団が自社プロダクトの開発、分析のために内製したシステム/フレームワークを一般向けに製品化したGoogle Cloud Platform、自らが広告主としてテレビCMを出稿する過程で感じた非効率や課題欲求を「運用型テレビCM」という外販サービスに昇華させたノバセル、会員制の飲食店を経営する過程で蓄積した集客ノウハウやCRMの手法を飲食店向けのバーティカルSaaSとして提供するfavyなど、その事例は枚挙にいとまがありません。

私たちの支援先では、信越化学工業出身の起業家が製造業のスキル教育管理のノウハウを凝縮して作り出したスキルノートがこの型を織り込んで順調に業績を伸ばしています。

ノウハウ提供型SaaSは、ユーザー企業の視点では人材採用難という課題の解消に有効です。例えばマーケティングを強化するためにP&G出身の敏腕マーケターを採用するのはコストや希少性の観点で難易度が高い一方、P&G出身の起業家が生み出したノウハウ提供型のSaaSを月額数十万円で利用することは可能なのです。

一方ベンダー企業の視点でも、プロダクトが元々内包しているノウハウに加えて、ユーザーが提供してくれる情報や知見がさらにそのノウハウを増長させていくという点でネットワーク効果が利くため、単価向上や解約率の低下といったメリットを享受しやすいモデルであるということが言えます。

もちろん、SaaSの導入メリットからコストの視点を取り払うことはできず、どんなSaaSであっても対オンプレミスや対人件費、あるいはそれらを包含したTCO(Total Cost of Ownershipの略で、総費用の意)でコスト優位性が認められる必要はあるため、単純な左から右へのシフトというよりは、左(コストメリット)をカバーした上でいかに右(ノウハウやネットワーク効果)の要素を加えられるかという見方をする方が正確かと思います。

何れにせよ要旨としては、コスト優位性のみを売りにするプロダクトは構造的に顧客が離反しやすいため、今後はSaaSに限らずあらゆるB2Bビジネスの成長性を検討する上で重要な観点の一つになっていくものと考えます。

おわりに

本稿では、私たちが普段思考のフレームワークとして使用しているDXの型について、その一部を例示しながらご紹介してきました。背景としては、冒頭にも述べた通り、真のDXを実現させるためには各々の企業がバラバラに効率化や個別最適を追求するのではなく、スタートアップも、大企業も、VCも、政府機関も、社会全体が同じ方向を向いて取り組みを進めていく必要があるという強い思いがあります。

DXを通じて、データによる取引の透明化や低コスト化といったソフトウェアの効能が企業内オペレーションや企業間取引、消費者体験にまで広く染み出していくことで、結果的に機会の偏在や情報の非対称性が解消され、受注者と発注者、提供者と利用者、企業と従業員との間に嘘のない関係が再構築される。そんな社会を、皆さんと共に作っていけると良いなと考えています。

関連リンク:DXの型 #6-9 | DX-Compass by Genesia.

関連リンク:成長企業が押さえるべきDX「5つの型」ーーデジタルトランスフォーメーション【DXの羅針盤】

DXの型:ソフトウェア利用が前提のハードウェア提供、半自動化(1/2)

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr DXの「型」 私たちジェネシア・ベンチャーズでは、日々世の中の普遍的なトレンドに沿った有望なビジネスモデルの発掘、支援に注力する中で、デジタルを起点に消費者体験や企業間取引を持続可能な形に…

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@snsk_sgr

DXの「型」

私たちジェネシア・ベンチャーズでは、日々世の中の普遍的なトレンドに沿った有望なビジネスモデルの発掘、支援に注力する中で、デジタルを起点に消費者体験や企業間取引を持続可能な形に昇華する「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」にも一定の「型」があることに気づき、それらを進んで蓄積してきました。

昨年11月に公開した『DXの羅針盤』では、DXビジネスの基本型として5つの型に言及しましたが、今回はその続編として、新たに4つの型を紹介したいと思います。社内で蓄積しているフレームワークを広く公開、共有することにより、DX領域で起業を志す方や大手企業の中にいながら新たなビジネスモデルの構築を志す方、はたまた投資家としてDXスタートアップへの出資や成長支援を手がける方が、皆で同じ方向を向き、ともに豊かな社会を実現していくための一助になれば幸いです。

型6:ソフトウェアの利用を前提としたハードウェアの提供(”SaaS plus a box“)

画像クレジット:ジェネシア・ベンチャーズ

6つめの型は、「ソフトウェアの利用を前提としたハードウェアの提供」です。海外では”SaaS plus a box”とも表現されますが、この型の要諦は、ソフトウェアを起点に顧客との関係を構築(再構築)することにあります。

ハードウェア単体での販売の場合、顧客との関係性は単発で終わってしまいますが、ソフトウェアが顧客とのアンカーの役割を果たすことによって、顧客接点がフロー型からストック型へと変容し、コモディティー化しがちなハードウェアの消費価値を長く持続させることができます。

モノからコトへのシフトが謳われはじめて久しいですが、その本質はハードウェアがソフトウェアに100%置き換わることではなく、顧客接点のデジタル化をトリガーとして顧客の購買対象が機能から体験へと変わることに他なりません。 iOSとAppStoreを起点に携帯電話やオーディオプレイヤー、デジタル時計の利用価値を再構築したAppleはこの型の代表例と言えますが、他にもオンラインレッスン/コミュニティーSaaSを起点にエアロバイクを提供販売するPelotonや、自家用車の消費体験をモバイルアプリ+付帯サービスでアップデートするNIOなど、顧客の体験価値を戦略の軸に据えて大きく成長する新興プレイヤーが増えています。

私たちの支援先では、モバイルアプリ/オンラインコミュニティーに生育管理機器を組み合わせて都市型マイクロファーミング事業を展開するプランティオも、その新たな体験価値が多くのユーザーに受け容れられています。

型7:半自動

画像クレジット:ジェネシア・ベンチャーズ

 7番目の型は、「半自動」です。デジタルとアナログの間、完全自動と完全マニュアルの間とも言えますが、これまで相反するものとして棲み分けが行われていたソフトウェアや機械による自動化(例:金融のアルゴリズムトレーディングや広告のリアルタイムビッディング)と人的なオペレーション(例:接客や配送をはじめとする現場産業)の二者が、互いの良いところを取り合って折衷型を成すケースが増えています。

これまでも、労働力不足という国家的・長期的な課題を背景に多くの企業が機械化、自動化を推進してきましたが、ここ数年のSaaSの導入普及によって業務効率化のハードルが下がっていること、また20-30代の若年層を中心にウェブ業界から既存産業へ、あるいは反対に既存産業からウェブ業界へとクロスボーダーの人材流動化が進み始めています。

これに伴い、産業間のノウハウ移転や共有が始まっていることなどを主な背景として、デジタルとアナログ双方のメリット・デメリットを理解した上で最適な組み合わせを選んで滑らかなオペレーションを敷ける素地が産業全体で整ってきているように感じます。

とりわけ、クロステック(既存産業×IT)領域のスタートアップを含む新規事業においてはこの型が重視されます。というのも、複雑なオペレーションが絡む業界課題を解いていく上で完全自動のアプローチはそもそもオプションから外れる上、仮に物理的な供給能力の調達ができたとしても、その過程に介在する属人的なオペレーションを解消できなければスケーラブルな事業成長は可能にならないからです。

では半自動を実現するにあたって何が必要かと言えば、全体の工程を分割可能な最小単位まで丁寧に分解し、自動化しやすい工程から順に効率化した上で再度工程間を紡ぎ合わせて全体最適を担保すること、これに尽きると思います。

私たちの支援先では、インドネシアにおいて運送業者とドライバーのマッチングプラットフォームを提供するLogislyがこの型を磨き込んで事業を大きく伸ばしていますし、日本でデスクワーカーのワークフロー最適化に取り組むBizteXも、祖業のRPA(=完全自動)単体では実現し得ない(一方で顧客の本質的な目的である)ワークフローの最適化という課題を解くべく新たに開始したiPaaS事業において、半自動のエッセンスをプロダクトに織り込んで成長を遂げています。(次につづく)

関連リンク:DXの型 #6-9 | DX-Compass by Genesia.

関連リンク:成長企業が押さえるべきDX「5つの型」ーーデジタルトランスフォーメーション【DXの羅針盤】

ジェネシア・ベンチャーズが80億円ファンドをクローズ、シード注力で産業のデジタル化を推進

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ニュースサマリ:独立系ベンチャーキャピタルのジェネシア・ベンチャーズは26日、 2018年12月に公表していた 2号ファンドの最終募集が完了したことを伝えている。集まった資金は総額80億円で、前回公表時から新たに参加、公表となったLP投資家は藍澤證券、オリエンタルランド・イノベーションズ、日本ユニシス(LP参加は同社が運営するCVCF2投資事業有限責任組合)、キヤノンマーケティングジャパン、グリー…

ニュースサマリ:独立系ベンチャーキャピタルのジェネシア・ベンチャーズは26日、 2018年12月に公表していた 2号ファンドの最終募集が完了したことを伝えている。集まった資金は総額80億円で、前回公表時から新たに参加、公表となったLP投資家は藍澤證券、オリエンタルランド・イノベーションズ、日本ユニシス(LP参加は同社が運営するCVCF2投資事業有限責任組合)、キヤノンマーケティングジャパン、グリー、大日本印刷、日本政策投資銀行、博報堂DYベンチャーズ(LP参加は同社が運営するHAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND投資事業有限責任組合)、みずほ証券プリンシパルインベストメントとなっている。

1号ファンドは2017年12月に総額40億円を集めており、リード投資家として日本・東南アジア地域(主にASEAN主要国)のシード・アーリーステージのスタートアップ47社(内、海外12社)に投資実行しており、2号ファンドはこれまでに国内29社、海外11社への投資を完了している。1号に引き続き投資ポリシーとして変わらずシード、アーリーステージのテクノロジースタートアップに対し、リード投資家として参加する。

投資領域としてはデジタル化で産業構造を変化させるデジタル・トランスフォーメーションを狙う領域や、個人のエンパワメント、OMOやC2Cなど経済のサプライチェーン構造に関わる領域、そしてメディア・エンターテインメントとなっている。

同社の説明によれば、プレシリーズAあたりまでのラウンドに参加し、1社あたり追加を含めた最大で5億円までの投資枠を設定している。また、今回、LP投資家として非公開ながら個人投資家もファンドに出資参加しており、こういった有力なエンジェル投資家との連携でシード期からのバトンタッチをスムーズにする考えだそうだ。

話題のポイント:ジェネシアが 2号ファンドの募集完了を伝えています。 2号ファンド自体は一昨年の秋に公表されているもので、予定通りの着地になったようです。ジェネシアと言えば、産業構造自体のデジタル化による変革、いわゆる「DX」を志向する起業家支援が特徴的で、建設業人材の助太刀や多くの企業で採用されている人事評価のHR Brain、小売流通のサプライチェーン改善CO-NECT、オフィスや働き方を改革するACALLなどが主な出資先としてあります。どれも業務効率改善から一歩先に進んだ各領域のビジネスモデルに関わるサービスを展開しており、今後、こういった産業領域で新たな事業を求める企業との協業や買収などの加速が期待されています。

いわゆるオープンイノベーション文脈なのですが、ここについてジェネシアではLPとなった事業会社と支援先をマッチングさせるような機会提供も定期的に実施しているというお話でした。ちなみにジェネシアの代表を務める田島聡一さんはJVCAのオープンイノベーション委員会で大企業連携の部門も担当しており、自身の運営するファンドだけでなくもう少し広い視点で、国内のオープンイノベーションを推進する役割も担っています。

ジェネシアが支援するLogislyは独特なB2B SaaSモデルを展開している/画像:同社ウェブサイト

もう一つ、領域の話で言うとASEANでのシード投資にも力を入れています。主にこの部分を担うのがもう一人のジェネラル・パートナー鈴木隆宏氏で、東南アジア・ローカルで発生しているある状況について教えてくれました。

「東南アジアだと(1)人件費が安い(2)決済の未発達などの理由からSaaSの月額サブスクリプションでのMRR/ARRのビジネスではないモデルが出てきつつあります。例えば物流の支援先Logislyの事例では、「業務効率化」支援的な側面であるトラックマネジメントシステムといった「SaaS機能」は無償で顧客へ提供し、彼らの業務フローに深く入り込んでいき、その先にある物流ニーズに合わせてトラックをマッチングするところでトランザクション手数料を取る「取引効率化」の2軸で事業を作り込んでいくスタートアップが増えてきています。また業務効率化支援的な側面を持ったSaaS機能を無償提供(もしくはかなり安価で提供)することで、顧客の面を取りやすいと言うこともあります」(鈴木氏)。

東南アジアでは国内で隆盛しているSaaSモデルだと単価が安くなりすぎてビジネスにならず、どうしてもワンショットのモデルに偏るそうです。結果、フリーミアム的なアプローチが増加しているそうです。このように、日本国内とはまた違った事情で新たなモデルが生まれるケースには興味が湧きました。

胆力を試されるシードVC

MOSH創業メンバー・画像提供:MOSH

ジェネシアのもう一つの顔、それがシードVCです。数あるファンドの中でもスタートアップのシードを担う面々はEast  VenturesやANRI、STRIVE、インキュベイトファンドなどがあり、ジェネシアもそこにラインナップされています。シード期の起業家は判断が非常に難しく、例えば海外ではこういった課題を解決するため、2010年代にはY  Combinatorのような仕組み化が進みました。いわゆる数の論理です。

一方国内では、どうしても市場の特性から起業家の数が限られる傾向にあり、結果、一人ひとりの職人的な見極めと、どこまで支援し続けるかという判断力が常に試されることになります。

個人をエンパワメントするMOSHもそういったケースの1社です。先ごろ、BASEをリードとする3億円の増資に成功しましたが、そこに至るまではジェネシアを中心に数回に渡って支援を続けたそうです。

創業者の籔和弥さんは元々Rettyに在籍していたこともあり、前職で出資者として面識もあった田島さんたちが創業を支援することになります。しかしサービスECというのは差別化が難しく、2017年7月の創業からしばらくは我慢の日々が続きます。田島さんにとって見極めのポイントは「こだわり」だったそうです。MOSHという個人が活躍する社会を支えるプラットフォームの世界観を作り込み、そこにこだわっていつかはこの価値に気がついてくれる日がやってくると信じていたそうです。

もちろん盲目的にではなく、ロジックとしても社会のデジタル化が進むこと、産業構造の変革をフォーマットとして分析してそこのシフトが発生すると予想しており、結果、機能としてMOSHは決済ができることを優先させていたことも今回の波を逃さなかった要因とお話されていました。

なかなかこの辺りの価値観を伝えるのが大変だったようですが、こういった各社で評価が分かれる点もシードVCの興味深い点です。

法人向け電力オークション「エネオク」運営にジェネシアVが出資、取引総額は42億円に

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ニュースサマリー:法人特化型の電力リバースオークション「エネオク」を運営するエナーバンクは27日、ジェネシア・ベンチャーズを引受先とした第三者割当増資を実施したと発表した。調達金額は約5000万円。 エネオクは工場やビルオーナーなどの施設を保有する法人と全国の電力小売事業者をリバースオークション(繰り下げ方式入札)でマッチングするプラットフォーム。同社プレスリリースによれば、2018年10月にサー…

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エネオクウェブサイト

ニュースサマリー:法人特化型の電力リバースオークション「エネオク」を運営するエナーバンクは27日、ジェネシア・ベンチャーズを引受先とした第三者割当増資を実施したと発表した。調達金額は約5000万円。

エネオクは工場やビルオーナーなどの施設を保有する法人と全国の電力小売事業者をリバースオークション(繰り下げ方式入札)でマッチングするプラットフォーム。同社プレスリリースによれば、2018年10月にサービス開始以降、既に取引総額は42憶4000万円に達し、452施設がオークションを利用した実績を持つ。

話題のポイント:電力自由化が始まって以降、日本においても個人を含むすべての事業者が自由に電力供給の事業者をフレキシブルに選択できるようになりました。経済産業省・資源エネルギー庁が公開するデータによれば、現段階において登録されている小売電気事業者の数は664事業者とされています。これは、自由化が始まった2016年04月の登録件数291事業者と比較するとおよそ2.3倍規模に拡大していることが分かります。

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電力小売全面自由化の進捗状況・資源エネルギー庁

エネオクは、こうした小売り電気事業者と施設を運営する法人側を価格・用途の面で繋げる最適なオークションプラットフォームを提供しています。オークションの形は、リバースオークション型(繰り下げ方式)が採用されているため、法人は最適な価格の事業者と契約を結ぶことが可能となります。

一方、必ずしも最安の事業者と契約が自動的にされるわけではなく、入札された金額や様々な要素を考慮し、小売り電気事業者と直接チャット上で交渉することが可能でそれに応じて納得がいけば、契約を成立させることができます。

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エネオクの仕組み/エナーバンク

同社公開のケーススタディーによれば、工場を始めゴルフ場などのスポーツ施設、オフィスビルなどの複合商業施設での導入事例で年間数百万円から最大で数千万円までの電力コスト削減の貢献実績を公表しています。今回の調達を境に同社は、全国の民間施設や官公庁・自治体への導入に力を入れていくとしています。

「全国での店舗を運営するチェーン店舗(飲食、小売、ホテル、商業施設)などは、エリアごとに需給契約を行って契約を一本化できていないことがよくあり、それをまとめるだけでも管理の上でメリットがあります。調達を丸投げできるエネオクで、複数施設でボリューム効かせた一括オークションを実施してコストの最適化が図れることを訴求していきます」(同社創業者、代表取締役の村中健一氏)。

また、環境省も参加する、再生可能エネルギーをグローバル企業単位で押し進めることを目標に置く国際イニシアティブ「RE100」においてエネオクは調達選定システムとして参画しているそうです。

「RE100は持続可能な社会を実現のために、グローバル基準でかつ官民一体で目標を定めて推進する重要な取り組みです。2040年もしくは2050年までに100%を達成する計画を出すことが加盟の条件とされています。しかし、各社が再エネの取り組みをビジネス的に内在し、投資・リターンで考えることができれば、達成を2030年、もしくはもっと手前に前倒しすることができると考えています。そういった面における「エネオク」の役割は大きい思っています」(村中氏)。

新型コロナと戦うスタートアップたち、その取り組みの方法と傾向

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ニュースサマリ:新型コロナウィルスによる感染症拡大は、私たちの生活を急激に変えようとしている。大型連休を前に公表された「感染症予防10のポイント」では、オンライン帰省や遠隔診療・在宅勤務など、情報テクノロジー前提の施策を政府が要請するという事態にまで発展した。 そしてここに必要とされるサービスを作ってきたのがここ数年のテクノロジー系スタートアップたちだ。日本ベンチャーキャピタル協会は4月20日、「…

ニュースサマリ:新型コロナウィルスによる感染症拡大は、私たちの生活を急激に変えようとしている。大型連休を前に公表された「感染症予防10のポイント」では、オンライン帰省や遠隔診療・在宅勤務など、情報テクノロジー前提の施策を政府が要請するという事態にまで発展した。

そしてここに必要とされるサービスを作ってきたのがここ数年のテクノロジー系スタートアップたちだ。日本ベンチャーキャピタル協会は4月20日、「コロナと戦うベンチャーリスト」を一般公開し、政府に対してベンチャーエコシステムの重要性を訴えると同時に、支援や対策を提言している。

重要なポイント:混乱期が拡大し、徐々にテック業界への影響も明らかになりつつある。Candor社が調査したデータによると、海外では旅行や移動などのサービス、例えばKayakやExpediaといったサービスは採用をストップしている。その一方、ZoomやDocuSign、Amazonなどの仕事や生活をオンライン化するもの、Twitch、Twitter、TikTokといったメディアは逆に採用を積極化させているという。ただ、Airbnbも旅行からリモートワーク利用、Uberも移動からフードデリバリーやモノの配達など、状況に応じたサービスのシフト・拡大をするなど適応能力の高さを見せている。

詳細情報:では、国内でこの状況に適応しようとしているスタートアップはどのような動きを見せているだろうか。JVCAのように情報を取りまとめている例をいくつか紹介する。

独立系ベンチャーキャピタル

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独立系ベンチャーキャピタルのジェネシア・ベンチャーズでは、新型コロナウイルスの影響を受けている人々に向けての支援先の取り組みをまとめた。建設業向けにマッチングを提供する助太刀はサービスの6カ月間無償化だけでなく、融資や助成金などの制度をわかりやすく提供するなど、事業者が抱える最も困難な課題にフォーカスを当てている。以下は本誌に公開してくれた各社の取り組みをまとめたもの。

助太刀:建設業界でも多くの現場で工事が中止・中断となり始めており、これは中小建設事業者にとっては仕事がなくなることを意味します。そして、これから多くの建設事業者が厳しい経営状況を迎えることが予想されます。「助太刀」アプリ上では、職人さんを探す“現場”よりも、仕事を探す“職人さん”が増えるという、これまでとは違うユースケースも表れています。そんな方々に向けて、「支援概要(建設業で働く仲間へ)」の公開と、サービスの無償提供を始めています。

アットハース:自宅隔離などで、生活サポートを求める在留外国人が増加している中、口座開設、水道・ガス・電気の申し込み、国からの10万円給付の役所手続きなどの生活サポートをアットハースが無償提供します。

みーつけあ:(3/10時点で)名古屋市では新型コロナウィルス の感染拡大防止対策として、一部地域のデイサービスへの休業要請が行われました。昨今の介護ヘルパーの不足もあり、要介護者に介護サービスの提供が十分に行き届かないこと、生活レベルの低下や生活に無理が生じることによる家庭内での事故などが危惧されました。その状況を少しでも軽減すべく、また事故のリスクを最小限に抑えるためにも、介護を要する人、介護を提供できる人のマッチングサービスをリリースしました。

Linc:休校や外出自粛の影響で学習が進まない留学生(主に中国人)に向けて、Eラーニングサービス『Linc Study』の一部機能の無償開放と、日本語学校のオンライン化をサポートするプロジェクトを開始しています。すでに、横浜国際教育学院とは提携を発表しています。

CO-NECT:アナログな受発注業務を簡単にデジタル受発注に置き換えられるツールを、もともと発注側は無料で利用できますが、今回「テレワークをしたいけれど会社に行かないと注文内容を確認できない」といった声を受け、受注側向けの無料プランを設置・提供しています。

フォトラクション:労働力を国外に頼っているアジア諸国では、季節労働者が激減する中で工事を続行しなければいけないという深刻な状況が続いていることを認識し、アジア諸国、特に東南アジアを中心に、建築・土木の生産支援クラウドサービス「Photoruction」を無償提供しています。日本語、英語だけではなく、中国語、ベトナム語、インドネシア語の5か国語に対応しています。

maricuru:予定していた結婚式やパーティを泣く泣くキャンセルした方、感染リスクや高額なキャンセル料に悩んで判断ができずにいる方、今後状況がどうなるか分からないことから申込みができずにいる方などに向けて、オンライン結婚式・パーティのプロデュース「#ズムパ」を無償提供しています。「お祝いしたい」や「感謝を伝えたい」ニーズ(欲求)はなくならないものと考え、新しい文化をつくっていけたらと思っています。

BizteX:RPA既存ユーザからの「リモートワーク時でも予約実行やロボットの対応ができるRPAを導入しておいて良かった」「一部業務をRPA化させておいたことで、有事においても業務を止めることなく進行できている」といった意見を受け、有事においても新しいワークスタイルに挑戦しようとする企業を応援しようと、クラウドRPAの無償提供を始めています。

Autify:WEBアプリケーションを対象として、品質向上、バグの自動チェック、見た目のチェックを含めた監視用などに活用できる、AIを用いたソフトウェアテスト自動化プラットフォーム「Autify」を無償提供しています。なお、対象のアプリケーションがCOVID-19に関連した有志のプロジェクトや医療機関等の場合は、通常よりも長い無償提供期間を設けています。

Aerial Partners:これまで、仮想通貨への投資を行う法人や個人に対して、仮想通貨取引に精通した適切な専門家をマッチングすることで、仮想通貨のトレードによる会計・税金計算の煩雑さを解決してきたというナレッジを活かし、(仮想通貨に関連せずとも)融資・助成金に関する無料相談を受け付ける相談窓口をLINE@にて開設、申請の支援までを無償でサポート。グループ法人であるAerial税理士法人による会計・税務顧問も無償提供しています。

MOSH:オフラインからオンラインでのサービス提供への切り替えが進みつつある事業者がある一方で、多くの事業者、特に整体師や美容師など、施術サービス中心の事業者にとって、オンラインへの移行は簡単ではありません。これらの事情から、スタンダードプランの無償化と、決済手数料の減額を実施しています。

Manabie:Quipperの共同創業者であり、リクルート/スタディサプリを経て、約9年間グローバルのオンライン教育に関わってきた代表の本間さんが、その知見を詰め込んだ「学校のオンライン移行ガイドブック」を公開しています。東南アジアメインだった事業に加え、日本の学校のDX(オンライン化のコンサル)も開始しています。

Napps Technologies:もともとNoCodeスマホアプリ作成サービスの予定でしたが、flutterの技術をそのまま活用し、主に飲食店向けの「クラウド店舗」としてリリースしました。飲食店も試行錯誤の中で、これまでテイクアウトしてなかったお店が、テイクアウトを始めたり、作り置きを宅配便で送ったり、国税庁が期間限定でテイクアウト用の酒販免許を発行することを発表したりといった動きの中で、その一助になればと、サービスの無償提供も行っています。実際の店舗接客に近い対応を再現したUXも特徴です。

プランティオ:外出自粛中の家庭内でもできる趣味のひとつとして、野菜や花を育て始める人も多いようです。アメリカでは多くの種苗会社に注文が殺到。とある会社では、3月後半の売上が、前年比で300%まで上がったとか。日本でもホームセンターを訪れる人が増加しているようです。そんな方々に向けて、プランティオが自家採種したタネを無償(送料のみ)でお送りするプロジェクトを実施しています。

シェアリングエコノミー協会

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シェアやオンデマンドなどのサービスを取りまとめているシェアリングエコノミー協会では、加盟各社が実施している取り組みを「#私たちがシェアできること」としてまとめている。例えばスペースのマーケットプレースを提供するスペースマーケットでは、イベント自粛などで発生したキャンセルの手数料分を無料にすると同時に、増加するテレワークなどのスペース利用需要に対し、割引のクーポンを発行するなどの支援策を展開している。

スペースマーケット
#私たちがシェアできること:外出できない日々が続く中、 テレワークやZoomを始めとしたオンラインミーティングをする機会が増えた方も多いと思います。スペースマーケットはコロナウイルスの収束に向け、テレワークやオンラインミーティングを応援する取り組みを行っています。紹介ページ:テレワーク応援プラン

#私たちがシェアできること:外出自粛要請に伴うスペースの予約キャンセルにおいて発生 する「サービス料金※」を、一定期間「無料」とする対応をしています。紹介ページ:外出自粛要請に伴うサービス料金(※)無料の対象期間について

OLTAがパートナー14社と協力して手数料無償化

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このように任意団体や出資元等のつながりとは別に、事業パートナーと協力して支援プログラムを立ち上げたのがOLTAだ。クラウドファクタリングを提供するパートナー企業14社と合同で、資金繰りに課題を抱える中小企業を対象に、買取手数料無料(※初回のみ)の提供を公表した。パートナー企業が提供するサービスサイトを通じて利用する顧客に対して適用される。

<参考リリース>

クラウドファクタリングは中小企業を中心に、売掛金の買取を実施するサービス。通常は2%から9%の手数料が発生するが、これを初回に限り無償化した。

ノート:この状況下、1社で何かことを起こそうというのは難しい。スタートアップであればなおさらだ。今こそ、横のつながりがどこにあるかを考え、協力して情報を発信すると面の力が生まれる。届けたい、困った人たちに情報を届ける方法を考える上での参考になれば幸いだ。

禍いの春に、私たちはどのようにビジョンの実現を目指すか

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本稿はスタートアップ自身がストーリーを投稿する「POST」記事です ここ最近、新型コロナウイルスの影響を受けて、支援先スタートアップの起業家からの相談が増えています。内容は次のようなケースです。 コンタクトしている投資家が一律、投資スタンスを消極化させている 企業価値の評価が平時よりも一段厳しくなっている そうした印象がある中で、投資家とどのように資金調達の交渉をしていくべきか? また、新規でお会…

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本稿はスタートアップ自身がストーリーを投稿する「POST」記事です

ここ最近、新型コロナウイルスの影響を受けて、支援先スタートアップの起業家からの相談が増えています。内容は次のようなケースです。

  • コンタクトしている投資家が一律、投資スタンスを消極化させている
  • 企業価値の評価が平時よりも一段厳しくなっている

そうした印象がある中で、投資家とどのように資金調達の交渉をしていくべきか?

また、新規でお会いする起業家からも、「前向きに投資検討を進めてくれていたVCから、(新型コロナウイルスの影響で)急に投資検討が難しくなったと言われてしまったので、株価を下げてでもクイックに資金調達したい」といった主旨の相談が増えています。

私自身もベンチャーキャピタルのGP(代表)として、投資家から資金をお預かりして独立系のVCを運営している、いわば起業家という立場でもあるので、自分の事業やアイデアが存続できなくなる、チームやメンバーを守れなくなる、というちぎれそうな不安はとてもよくわかるつもりです。だからといって気休めを言うわけではありませんが、そんな不安を抱えている起業家のみなさんにお伝えしたいことがあります。

まず、一時的な様子見はあると思いますが、ここ数年でたくさんのファンドが既に資金を集め終わっているので、新規投資が止まることは原則ありません。私の周りのVCでも、こういう時だからこそ積極的に投資をしていこう、という話が出ています。

ただし、投資案件の選別はこれまで以上に進むと思います。コロナショックがこの先どうなるか、アフターコロナがどうなるか、様々な論調がある中でもその行く末は誰にもわからない。そんな今、誰でも大胆な一手を控えることは避けられません。

このような状況下でも資金を引っ張ってこられるのは、以下のような会社です。(なお、事業領域が魅力的なことは大前提です)

1.「強いチーム」がつくれている

未曾有の状況下でも会社を経営し、事業を推し進めていくのは「人」です。自分たちが実現するビジョンを決して見失わずに今何をすべきかをしっかりと見極め、計画を立ててリソースを配分し、一丸となって実行できる。そんなバランスのよい強いチームを最優先でつくれているという信頼感は強大です。チームの健やかな雰囲気も大切です。

2.経営管理、コスト管理がしっかりとできている

仮説検証フェーズのスタートアップでは、“守備”を後回しにしてしまいがちです。しかしながら、実現可能性の高い計画・戦略はしっかりとした管理が大前提。適切な経営管理ができていてこそ、戦略も裏打ちできます。それは、投資家が知りたい情報を的確に提示できるということにもなります。資金調達が一刻一秒を争う時こそ、“守備”を強化しましょう。

3.コロナショックを楽観的に捉えず、影響を保守的に見積もった上で、事業面や資金調達面で多数の戦略オプション(プランB)を用意している

ポジティブシンキングは欠かせませんが、予測できない事態を楽観的に捉えすぎることはリスクです。多分大丈夫だろうではなく、念のため手を打っておこうという判断ができるか。いかに最悪のケースまでイメージし、一本足打法ではなく選択肢を増やしておけるか。リスクヘッジが必要です。

4.攻めのスタンスがベストエフォートベースで持てている

不安を煽る情報にさらされ、どうしても悲観的・消極的になりがちですが、それでは投資家の応援(資金)を集めることはできません。アフターコロナを見据えて、いつ何にどれだけリソースを投下するか、勝ち筋を描き思い切ってそれを実行できるか。できる限り“攻め”の手を止めないことです。

5.中長期戦略が解像度高く持てている

先行きの見えない中では、誰しも道しるべを持っておきたいものです。中長期的な様々なケースをイメージした複数の戦略シナリオを可視化し、チームと共有することで、慌てたり焦ったりすることなく着実に進んでいけるはずです。

こういう時だからこそ、事業や組織を筋肉質にしましょう。属人的な業務を仕組み化しましょう。(セールス、マーケティング、開発など)あらゆるROIを最大化させましょう。エクイティ、銀行借入、補助金などやれることは全部やりましょう。とにかく先手先手で動きましょう。この状況とうまく向き合いましょう。

あるべき未来を創ろうとしている私たちの前途は、絶対に明るいはず。力を合わせて乗り切りましょう。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズ代表取締役で、ジェネラル・パートナーの田島聡一氏によるもの。Twitterアカウントは@soichi_tajima

総合商社とDXの事業創造

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総合商社。東アジアの辺境にあるこの島国の産業の成り立ちは、総合商社の機能なしには語りえません。 資源が乏しく食料自給率の低い日本に、世界各地の資源・エネルギーや食料の供給網を構築し、また、日本企業が製造する自動車等の工業製品を世界各地に輸出展開する機能を担い、加工貿易を支えてきました。総合商社はあらゆる産業のサプライチェーンに介在し、次なる事業機会を見出す存在となったのです。 一方、DX(デジタル…

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総合商社。東アジアの辺境にあるこの島国の産業の成り立ちは、総合商社の機能なしには語りえません。

資源が乏しく食料自給率の低い日本に、世界各地の資源・エネルギーや食料の供給網を構築し、また、日本企業が製造する自動車等の工業製品を世界各地に輸出展開する機能を担い、加工貿易を支えてきました。総合商社はあらゆる産業のサプライチェーンに介在し、次なる事業機会を見出す存在となったのです。

一方、DX(デジタルトランスフォーメーション)が声高に叫ばれる時代において、デジタル技術を活用することでこのサプライチェーンを最適化し、業界全体に新たな付加価値を提供しようとするスタートアップが、国内外で数多く登場しています。

そこで本稿では総合商社のビジネスモデルの変遷を振り、「産業のDX」を推進する上での総合商社の期待役割についてまとめてみたいと思います(本稿は総合商社とDX Part 1.0 ~総合商社の軌跡と課題~の要約版です)。

総合商社のこれまで(その1):トレード

商社の祖業は、トレードです。あらゆる業界の商材を扱うトレーディングカンパニーとして、日々の人々の暮らしや企業活動を支える多様な商品のサプライチェーンに総合商社は介在しています。

_トレード

筆者の水谷も、2013年に総合商社に新卒で入社し、複数のトレード案件に携わらせて頂きました。自動車部品向けの鉄鋼製品から電力小売事業者向けのバイオマス電力まで、ダイナミックなトレード案件の申請に係る稟議書が世界各地の拠点から引っ切りなしに上申されては、ハンコが押されていきました。

トレード案件における商社の介在価値は多岐に渡ります。

現地におけるマーケティングや取引先との販売交渉、在庫管理やJIT(ジャストインタイム)納入、煩雑な貿易実務といった販売や物流に係るオペレーション事由に加え、商社を商流に挟むことによる信用補完や運転資金の手当てといったファイナンス事由などです。

しかし、商社機能自体は他社との差別化も難しく、また、取引先企業も海外事業の経験値を蓄積していくことでトレードマージンの確保は困難になって久しく、1990年代には「商社冬の時代」に突入していきます。

総合商社のこれまで(その2):事業投資

総合商社の祖業であるトレードに代わり、現在の総合商社の大きな収益源となったのは事業投資です。トレードを通じて培った商材に関する知見やネットワークを駆使して、資源・エネルギー権益やメーカー、卸や小売といった様々な事業者に出資参画することで事業収益を享受するようになりました。

_事業投資

例えば、総合商社が東南アジアや中東、アフリカ等の新興国を中心に取り組む発電所の開発・運営事業は、元々、日系メーカー製の発電所設備を各国の電力会社に納入するトレードが起点となって開始されたものです。現在、総合商社は発電所の開発や運営についてのノウハウを蓄積する、世界的にも競争力のある事業者になっています。

しかしながらここで問題が発生します。それが「分断化」です

トレードを起点に事業投資を進めてきた結果として、業界内の特定の商流に紐づく緩やかな垂直統合型のビジネスモデルが発生しました。この垂直統合型のビジネスモデルによって、各商流ごとの情報はタコ壺化し、分断化が発生したのです。

残念ながら、総合商社単独では介在するサプライチェーン全体の改善余地を効率的、且つ、リアルタイムに関知し、取引先に最適解を提案するための術を持っていませんし、サプライチェーンとして全体最適を図るケイパビリティは持ち合わせていません。

ここにテクノロジーを活用したサービス事業者にとって次代の産業を支えるための巨大な商機があると考えています。

_垂直統合

産業のDXを推進するビジネスモデル

1990年代のインターネットの商用化以降、今までにITによるデジタル化が進んできた産業領域は、広告と小売、ゲーム等が挙げられます。

また、他の産業領域においてもデジタル技術を活用することでアナログなオペレーションを自動化・半自動化し、蓄積されるデータを活用して新たな付加価値を提供するプレイヤーが続々と登場しています。産業のDXを推進する流れは不可逆なトレンドなのです。

これらプレイヤーのビジネスモデルは、主に以下の5種類の内の一つ、若しくは、複数の組合せによって推進されます。

  1. B to B のSaaS(若しくはBPO)
  2. 事業者のマッチングサービス
  3. 商品のマーケットプレイス
  4. SPA(製造小売事業)の延長線としてサプライチェーンを強固に垂直統合するD2Cモデル
  5. オンラインを起点にマーケや製販仕のオペレーションを構築し、業界内の一事業者として戦うOMOモデル

例えば、飲食店や小売店の卸事業者への発注をスマホで簡単にできるようにするCONNECTというサービスを手掛けるCO-NECT社や、通販事業者を中心に対象とした在庫管理サービス「ロジクラ」を手掛けるニューレボ社は、B to B SaaS型のモデルです。

彼らは(1)を初期的なビジネスモデルとしながら、今後、蓄積される取引データを活用してより奥行きのある流通を最適化するビジネスを展開していく素地を整えています。

また昨今、話題になることも多いD2Cは、製品の企画開発段階から調達、製造、マーケ、販売、決済、サポートまでをオンラインベースで最適化する垂直統合型の一貫体制を敷くもので、ユニクロやZARA等のSPA(製造小売業)の延長線にあるビジネスモデルと解釈することが可能です。

業界のサプライチェーンを俯瞰して事業機会を見出す

それでは、産業のDXを推進していく上で、新たな事業機会となる空白地帯をどのように見出していけばよいでしょうか。各業界のサプライチェーンにおけるそれぞれの工程を横軸に配置し、各工程に介在するファクターを「ヒト」と「モノ・コト」に分解した切り口で事業領域を検討するものが、以下の表です。

_サプライチェーンと事業領域

この表は、製造業を念頭に横軸のサプライチェーンの各工程を並べていますが、業界や製品ごとに変更しながら活用していくことができると思います。「ヒト」は、エンドユーザーは勿論、各工程において従事する専門職や個人事業者、エージェントにフォーカスするもので、「モノ・コト」は、対象となる商材のみならず、各工程におけるオペレーションや業務対象となる事項、事業者間のコミュニケーションチャネルにフォーカスを当てるものです。

サプライチェーンを俯瞰し、各領域で事業を手掛けるプレイヤーをこの表上にプロットしたときに有力プレイヤーが手を付けていない空白地帯は、デジタル技術を活用して新たな付加価値を提供する可能性がある領域と考えています。

では建築・建設業界を例にサンプルをみてみましょう。

_サプライチェーンと事業領域(建設・不動産)

「建設・不動産」の上流工程に当たる建設や、下流工程にあたる不動産流通においては、既に複数の支援先スタートアップが事業開発を進めておりますが、最上流の原材料や資機材選定、或いは、中流にあたる不動産販売の領域は、ジェネシアにとって「空白地帯」となっています。

例えばこの空白地帯において、オペレーションの効率化を促す機能提供(B to B SaaSやBPO)が求められているのか、または、情報の非対称に起因するマーケットプレイスやマッチングプラットフォームが求められているのか、或いはOMO型の優位性を確立して一事業者としての勝機を見出すのか、いくつかの選択肢からドミノの倒し方について解像度を高めていくことができると考えています。

新規事業や起業を検討中の方は、製造業や建設・不動産、電力・エネルギー、住宅設備や医薬品等、様々な巨大産業のサプライチェーンを俯瞰しながら、事業アイディアを検討する際に参考にしてもらえればと思います。

産業DXにおける総合商社の役割

それでは最後にこのデジタル化時代に、巨大産業のサプライチェーンに潜む事業機会を掴み、推進していく主体は果たして誰になるのかについて記しておきます。産業革命以降、産業の黒子としてサプライチェーンを支えてきた総合商社が自社で事業を内製化して立ち上げて行くことは、主に以下の理由から難しいと考えています。

  1. 自社プロダクトの開発経験が乏しいこと
  2. 時間の掛かる新規事業の立ち上げ、及び、継続に必要な社内の収益基準を満たしづらいこと

これらも踏まえると、産業のDXを推進する上で、総合商社はゼロイチフェーズではなく、拡大フェーズのスタートアップとの協業を加速することで、自社の持つ優位性を最も発揮することができると考えています。

今後、DXに積極的な総合商社にとって、スタートアップへの規模感のある出資は勿論、人材獲得を目的の一つとするM&Aの実施は、生き残りに向けて必須となるでしょう。今まさに、事業機会のあるDXの空白地帯が、各商社にとってそのまま不毛地帯になるかの分水嶺を迎えています。

また、産業のDXを推進する上で、総合商社にとってもう一つ重要な機能役割が、起業家輩出です。視座の高いビジョンを掲げてゼロイチでの事業立ち上げにチャレンジしたいという気概を持つ総合商社出身者が、今後も会社の枠を飛び出して起業したり、重要ポジションでスタートアップに転職する事例は、ますます増加していくものと予想しています。

ジェネシア・ベンチャーズでも、総合商社出身の起業家が経営するスタートアップを複数支援させて頂いておりますが、様々な産業領域における豊富な事業経験とグローバルな視座を持って巨大な産業創造にチャレンジする商社パーソンは、巨大産業のDXを推進していく事業に対して、Founder Market Fitする方が多いと考えています。

ということで総合商社を鏡にして産業のDXを推進する事業機会についてまとめてみました。社会全体でDXのトレンドが上向きとなっている中で、産業競争力を強化するビジネスモデルについて、日々、検討していますが、アイディアのお持ちの方がいれば、是非、ディスカッションさせてください!

<参考情報>

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。Twitterアカウントは@KokiMizutani。毎週、事業プラン相談「DX Cafe by Genesia.」を開催中。くわしくはこちらから。

創業期に「従業員」は採用しなくていい

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創業期の起業家のみなさん、組織戦略やチームづくりに頭を悩ませていませんか? 「組織戦略に絶対的な自信がある」「自分なら最強のチームがつくれる」という方はおそらく稀でしょうし、チームビルディングやマネジメント経験の少ない若手起業家のみなさんなどは特に先行き不安なこともあるのではないでしょうか? 創業すぐ、友人や知人など、継続的な関係性を経て、信頼できるからこそ選んだ初期メンバーだけの数人のチームなら…

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創業期の起業家のみなさん、組織戦略やチームづくりに頭を悩ませていませんか?

「組織戦略に絶対的な自信がある」「自分なら最強のチームがつくれる」という方はおそらく稀でしょうし、チームビルディングやマネジメント経験の少ない若手起業家のみなさんなどは特に先行き不安なこともあるのではないでしょうか?

創業すぐ、友人や知人など、継続的な関係性を経て、信頼できるからこそ選んだ初期メンバーだけの数人のチームなら、不安を感じることも少ないかもしれません。また、そうしたメンバーのリファラル(紹介)で採用がうまくいっていれば、もう少しチームが大きくなっても問題は起こりづらいかもしれません。

一般的にはリファラル採用は、属性の近いメンバーが集まり、コンフリクトの起こりづらい組織づくりに有効だと言われています。スタートアップはそうした関係性のあるメンバーで始まることが多いと思います。友人と共同創業、前職の同じ事業部の仲間が経営メンバー、といった感じです。

そのため、創業期には組織の課題というものにそれほどマインドシェアを割く必要がないケースもありますが、一方で、私たちが見ている限りでは、組織の課題というものは、3人でも5人でも、上記のようなリファラル採用が成立している組織でも起こり得ます。

例えば、重要なことから日々の細かなことまでどうも意思決定の軸がずれる、コミュニケーション量の不足でお互いの行動が見えづらくなり疑心暗鬼になる、そして情報共有の質が落ちてくる、ルールを制定したりツールを導入しようとしたときに反発が起こる、陰でネガティブな話題をまき散らされる、いったことです。

組織の課題というものは、顕在化してきて初めて対策をとるというケースがほとんどです。しかし、それでは手遅れということもありますし(数名の組織なんて簡単に壊れてしまいます)、必要以上に問題解決にマインドシェアを割くことになってしまうこともあります。なので、組織戦略とまではいかなくとも、まずは組織づくりの入り口を意識することから始めましょう。

創業期のスタートアップの採用や組織づくりの成功事例に関する情報はいろいろあるものの、その全てが必ずしも自分(あなた)にとって再現性のあるものとは限りません。一方で、回避すべきポイントを押さえておき、ある程度「同じ轍を踏まない」ということをするのは可能だと思います。

そのために、特に採用時に意識しておくべき“回避”のヒントを3つお伝えしたいと思います。

スキルフィットだけで採用しない

なぜ採用をするのか?と言われれば、企業価値向上のためでしょう。スタートアップにおける企業価値向上とは、PMF(プロダクトマーケットフィット)を早め、売上を立てること。そのためにはざっくりと、ビジネスサイドのメンバーと開発のメンバーが必要、といったことになります。

要するに、採用したい人に求める成果は比較的はっきりしているので、「成果を出せそう」というスキルや経験からの予測を判断基準に採用することになります。しかしながら、スキルだけを求めてしまうと、その人は成果だけに固執し、経営やチームづくりについては考えてくれなかったり、周りにも同じことを求めたりするかもしれません。

成果を出すために手段を選ばない人もいるでしょう。そうなると、重要な意思決定の局面で軸がずれることが起こり得ます。そういった人の見極めには、一緒に3カ月働いてみる、戦略について議論してみる、といった採用の前段階を踏むことをおすすめします。

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目的と手段を混同している人を採用しない

最近はミーハーな気持ちでスタートアップに目を向けている人も多く、目的と手段を混同している人を散見するようになりました。そういった人を見極めるためには、「未来の話」をたくさん聞き出しましょう。「人生を賭けてどんなことを成し遂げたいと思っていますか?」「あなたの“自己実現”とはどんなことですか?」などです。

その回答が「会社を上場させたい」「CFOになりたい」などだったとしたら、それは手段を目的化している可能性があります。「成長したい」という回答も同様です。自己実現やビジョンなど、抽象的な話に終始するとしても、お互いにそれに共感できるのかはとても重要です。まずは「見ている山のてっぺん=ビジョン」をすり合わせるのです。これをカルチャーフィットと表現することもできます。登り方=戦略は、ビジョンさえすり合っていれば、その後いくらでも議論することができます。

“従業員目線”の人を採用しない

カルチャーフィットしているメンバーだけを集めていれば、チームカルチャーという点で著しく差異が生まれたり、コンフリクトが起こったりするケースはあまりないかもしれませんが、個としての目線(立場)の違いによりそれが起こるケースはあり得ます。目線の違いとは何かといえば、「経営目線」か「従業員目線」かということです。

経営目線の人が見ているのは「会社やチームの未来」です。一方で、従業員目線の人が見ているのは「自分の未来」です。前者は主語が「自分たち」、後者は主語が「自分」という違いもあるかもしれません。なので、最初から「雇われる自分/雇われている自分」という目線が強い人は、採用しない方が賢明かもしれません。

「企業価値を上げるためにどうする?」という議論に、「自分はこうしたい/自分はこうしたくない」というコメントをしてくる可能性があるからです。そのマインドを変えるのは相当に難しいので、創業期は特に「自分たちはこうあるべきだ/チームとしてこうありたい」という目線の人を選ぶようにしましょう。見極めには、「チームで問題が起こりました。こんなときどうしますか?」といったケーススタディ的な質問や議論が役立ちます。

いかがでしょうか。

目の前の採用候補者が、あなたの目にとても魅力的に映ったとしても、上記3点について、ぜひ一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。それらが問題ないと判断できるようであれば、目の前のその人は、あなたのチームを成功に導くキーマンになってくれるでしょう。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのアソシエイト、一戸将未氏によるもの。Twitterアカウントは@ichinohe_GV。特に、初めての起業や若手の起業家の方への具体的なアドバイスを実施している。1月28日には、同社GPで東南アジア投資責任者の鈴木隆宏氏によるメンタリングデーも開催予定。くわしくはこちらから。

事業アイデアは見つけなくていい

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起業を考えているみなさん、事業アイデアを見つけるのに苦労していませんか? 特に大学生などの比較的年齢を若くして起業を考えている方は、事業アイデアがなかなか思い浮かばないか、もしくはいくつかアイデアはあるにしても実際に起業するのはためらわれているような方も多いかもしれません。 一方、ベテラン層と言われる起業家の方々は、事業アイデアの発掘からその実現まで計画的である方が多いように見受けられます。一体こ…

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起業を考えているみなさん、事業アイデアを見つけるのに苦労していませんか?

特に大学生などの比較的年齢を若くして起業を考えている方は、事業アイデアがなかなか思い浮かばないか、もしくはいくつかアイデアはあるにしても実際に起業するのはためらわれているような方も多いかもしれません。

一方、ベテラン層と言われる起業家の方々は、事業アイデアの発掘からその実現まで計画的である方が多いように見受けられます。一体この違いはどこから生まれてくるのでしょうか?

おそらくほとんどの方が「特定の業界についての深い見識があるかどうか」という回答を想定されると思います。もちろんそれも一つではあるのですが、普段多くの起業家の方とお話していて、それだけが回答ではないのではないかと思い始めました。

私が思うに、その違いは、「あるべき世界を描けているかどうか」ということかと思われます。

ではこの”あるべき世界”とは何なのでしょうか。

“あるべき”世界を描く

“あるべき世界”というのは人によってバラバラです。“実現したい世界”とも言い換えられるかもしれません。

事業というのは、ある人・集団が思い描く理想の世界と現実の世界とのギャップをうめるために存在するものであり、例えば、私たちの場合だと、「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」というビジョンを掲げておりますが、このビジョンが”実現したい世界”、つまり”あるべき世界”であり、この世界と現実の世界とのギャップをうめるためにベンチャーキャピタルという事業を行っているわけであります。

つまり、現実の世界からの延長で事業を考えるのではなく、”あるべき世界”からの逆算で事業を考えるのです。

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特定の業界で働いてきた経験がありその業界についての見識がどれだけ深い人でも、この”あるべき世界”というものが描けていない限り、現実の世界とのギャップが見つけられず、結果的にその人が起業するに至るということはないでしょう。

なので、起業したいという想いがあるならば、事業アイデアを見つけようとするのではなく、”あるべき世界”を描こうと意識することをオススメします。

もし事業アイデアを先に考えついた場合でも、その事業によってどういった世界が実現されるのか、自分は何を想ってそのアイデアを考えついたのかなどを考えてみると、事業に対する想いや事業の奥深さなどが異なってくるのではないでしょうか。

若手が起業しやすいマーケット

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単発バイトアプリを運営するタイミー(同社ウェブサイトより)

一方で、特に起業においては、自身の強みや特性などを勘案して、ある程度現実の世界からの延長で事業について考えることも重要です。ベテラン層の場合は、冒頭でも触れた通り「特定の業界についての深い見識」が最たる例ですが、若手の場合はどういったものが考えられるのでしょうか。ここでは大きく2つ取り上げます。

①既得権益が存在しないマーケット

既得権益が存在しないマーケットの多くは今後新たに立ち上がるマーケットです。ブロックチェーンやVR/ARなどの技術面での新興マーケットや、LGBTなどの多様性の広がりによって立ち上がるマーケットもその一つかと思われます。ただ注意が必要なのは、既得権益が存在しないからといって大人な戦い方が必要ないわけではありませんし、その業界についてのラーニングが「よーいどん」の形になるため、若さがディスアドバーンテージとなりにくいだけの話です。

こちらは、例えば、LGBT向けの求人情報サイトを運営するJobRainbowなどが挙げられます。

②新たなUXの構築が必要とされるマーケット

もう一つは、シェアリングサービスなどに代表される、UX(ユーザー体験)の再構築がなされていくマーケットです。ここでは、初期的には若者をターゲットとすることが多いため、そのユーザー目線を徹底できる若手の方が事業を立ち上げやすい場合が多いです。

例えば単発バイトアプリを運営するタイミーや、中国と日本で動画メディアを運営し同時に総合広告プランニングを提供するバベル、音楽・エンタメ市場で事業を展開しているSpectra、ミレニアル世代向けデジタルクレジット事業を提供予定のCrezitなどが挙げれられます。

いかがだったでしょうか。

日々多くの起業家の方にお会いする中で事業アイデアを見つけるのに苦労しているという方が多いのですが、以上のことを意識してみるとまた違った目線で事業、ひいては世界を捉えられるのではないでしょうか。

まずはぜひ”あるべき世界”を描くところから始めてみてください。

<参考情報>

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのアソシエイト、一戸将未氏によるもの。Twitterアカウントは@ichinohe_GV。毎週火曜日に25歳以下の起業家を対象として事業の壁打ちを行う「Founders Gate」を開催。12月17日(火・夜7時〜)には、25歳以下の起業家を対象とした「事業アイデア勉強会」を開催予定。くわしくはこちらから

広告業界の歴史に学ぶDX、3つのステップーーデジタルトランスフォーメーション【DXの羅針盤】

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Software is eating the world. あらゆる分野にソフトウェアの効用が染み出し、産業のサービス化が不可逆な流れで進行しています。製造、物流、印刷、不動産等、インターネットで完結しない領域において起きるイノベーション、つまり既存産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)には今後大きな成長余地があります。では数ある産業の中で最も早くDXが進行した業界はどこか。 その筆頭にな…

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Photo by Jose Francisco Fernandez Saura on Pexels.com

Software is eating the world.

あらゆる分野にソフトウェアの効用が染み出し、産業のサービス化が不可逆な流れで進行しています。製造、物流、印刷、不動産等、インターネットで完結しない領域において起きるイノベーション、つまり既存産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)には今後大きな成長余地があります。では数ある産業の中で最も早くDXが進行した業界はどこか。

その筆頭になるのが広告業界です。

本稿では、DXの「はしり」とも言える広告業界が辿ってきた変遷を振り返ることで、他の産業においてこれから起こるであろうパラダイムシフトを推察する種にしたいと思います。(本稿は原文「DXのはしり」のサマリー版になります)

広告業界の歴史

こう‐こく〔クワウ‐〕【広告】[名](スル)1 広く世間一般に告げ知らせること。2 商業上の目的で、商品やサービス、事業などの情報を積極的に世間に広く宣伝すること。また、そのための文書や放送など。(goo辞書)

そもそも、広告とは何か。辞書的には、上記の通り商品やサービスを世間に広く告げ知らせることを指しますが、昨今のテクノロジーによる変化の過程を踏まえると、その本質は「マッチング」です。そんな広告はこれまで大きく三つの段階を経て進化を遂げています。

  • オフライン取引の時代
  • データ化と可測化の時代
  • 直接取引と自動化(半自動化)の時代

それぞれ見ていきましょう。

第一段階:オフライン取引

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日本の広告業界の歴史は意外にも古く、その創世は江戸時代初期にまで遡ります。越後屋(現在の三越)が江戸全域に配布した引札(今でいうチラシ)が広告の始まりと言われていますが、仲介業としての広告代理店が興ったのは明治時代の後期です。明治34年(1901年)には電通の前身である日本広告が設立され、朧げながら「広告業界」の原型が見え始めます。

初期の広告は自社の商品を広く一般に知らしめたい広告主と、新聞、雑誌をはじめとするマスメディアが直接取引を行うか、あるいは上述の代理店が広告主とマスメディアの間を取り持って広告を最適な形で最適な媒体に出稿する、というシンプルな構造になっていました。

その後、ラジオやテレビといったニューメディアの出現で飛躍的に成長していきましたが、あくまでアナログ、オフラインの場で広告枠の売買が行われていたという点において、原初的なビジネス形態であったと言えます。

第二段階:「データ化」と「可測化」

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1990年代後半から2000年代にかけてはウェブメディアが、スマートフォンが普及した2010年以降はモバイルアプリが台頭したことにより、人々の可処分時間の投下対象がマスメディア一極集中から複数メディアへ分散されました。

この第二段階における大きな変化点としては、広告の配信面であるメディアおよびその上で流通する広告素材がデジタル化したことで(=広告の「データ化」)、いつ、どの広告が、いくらで、どの媒体に何回表示され、そのうち何人が反応を示したかということがデータとして計測可能になったということです(=広告の「可測化」)。

もちろん、従来型のマスメディアも依然として影響力をもつ媒体ではありますが、新聞や雑誌が電子書籍になり、テレビがインターネットに結線されてスマートデバイスになり、ラジオのアプリ化も進む現代においては、純粋なオフライン取引だけで成り立つ広告ビジネスはほとんどなくなってきています。

また、広告配信を仲介する広告代理店やメディアレップといった中間プレイヤーにとっても、配信成果が可視化されることによって、介在価値を目に見える形で継続的に提供することを求められるようになったという点で、業界のパワーバランスに構造的な変化をもたらすターニングポイントであったと言えます。

第三段階:「直接取引」と「自動化(半自動化)」

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メディア・アグリゲーターとしてのアドネットワークが登場してからさらに数年後、2010年頃には「アドエクスチェンジ」という広告の取引市場が誕生しました。アドエクスチェンジは、広告枠をインプレッション(ウェブページやアプリにおける一回毎の表示配信)単位で取引する市場であり、広告主とメディアの需給バランスから広告枠の価値を算定して配信価格を決定します。

第一段階のオフライン取引が第二段階でデータ化・可測化され、また配信効率を最適化するためのアドネットワークが出来上がったことで、広告は取引市場(マーケットプレイス)でリアルタイムに売買される対象になったのです。

取引市場ができたことにより、広告を出稿する側の広告主は、広告素材の内容やサイズ、入札価格等の諸条件を決めさえすれば、広告代理店を介さずに直接広告を配信、管理することが可能になりましたが、複数のアドエクスチェンジやアドネットワークを個別で管理するには大きな負荷が伴います。

その負荷を解消するために登場したのが、広告主側の広告効果を最大化させるDSP(Demand Side Platform)と媒体側の収益を最大化させるためのSSP(Supply Side Platform)です。

DSPの代表例としては、DoubleClick Bid Manager、Rocket Fuel、FreakOut、MicroAd BLADE等があり、私たちの支援先では位置情報ターゲティングを専門とするGeoLogic Adがこの分野で順調に事業を伸ばしています。SSPではPubMatic、Rubicon Project、国産ではfluctやAd Generationが高いシェアを取っています。

従来広告代理店が担っていた役割がDSPに、メディアレップが担っていた役割がSSPに、それぞれデジタルトランスフォームしたと言い換えることもできます。

これらのエンパワーメントツールは、広告主と媒体社に、広告の「直接取引」と運用の「自動化(半自動化)」というオプションをもたらしました。

さらに近年では、集客力の強いメディアとそうでないメディアの間の格差が拡大するにつれてSSPの存在感や役割にも変化が見られるようになっており、また一方の広告主も、高単価商材を取り扱うブランド企業を中心に、プレミア媒体に厳選して出稿することで成果向上を図りたい意向を持つ企業が増えています。

そこで、双方のニーズを折衷する形で、限られた広告主とメディアしか参画できないPMP(Private Market Place)と呼ばれるプライベートな取引所が誕生しました。「直接取引」と「自動化(半自動化)」に加えて、この「オープン・マーケットプレイス→参加者を限定したプライベート化」の流れも、今後様々な業界にも応用可能なトレンドと考えられます。

おわりに

これがざっくりとした広告業界のデジタルトランスフォーメーションの流れになります。

他の産業領域におけるアドネットワーク、アドエクスチェンジ、DSP、SSP、PMPなどがあるとしたらどういうプレイヤー/事業プランになるかという点については社内でも日々考えを練っていますが、もしアイディアをお持ちの方がいれば、ぜひ一度ディスカッションしましょう!

<参考情報>

DXの羅針盤 | DX-Compass by Genesia.

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー相良俊輔氏によるもの。Twitterアカウントは@snsk_sgr。11月15日から毎週、朝の事業プラン相談「DX Cafe by Genesia.」を開催予定。くわしくはこちらから。