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Grab、GoTo、Sea——東南アジアでスーパーアプリの覇権を握るのは誰か?【ゲスト寄稿】

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本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。 This article was first published in Entrepreneur APAC. <関連記事> ニュースレターの購読 注目すべき…

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。

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東南アジアでは、Grab と GoTo という、配車サービスをルーツとして IPO を目指す2つのデカコーンの競争が注目されている。しかし、実際に進行しているのは、世界でも有数の新興市場で、どちらのスーパーアプリが勝利を収めるかという、3つのバトルロイヤルだ。

Grab と GoTo の両社は、配車サービスやフードデリバリの枠を超えて進化している。Grab と GoTo は、配車サービスやフードデリバリだけでなく、モバイルフレンドリーな10カ国の ASEAN 地域であらゆる商品を販売するためのゲートウェイとなる、決済アプリという新たなコアを中心に未来を築いている。両社とも、シンガポールを拠点とする Sea という強力な第3の競合に直面している。

この興味深い問題は、誰が勝つかということではなく、どのようにして勝つかということだ。Grab、GoTo、Sea の3社は、すべてを支配するアプリクラスターの所有に向けて、それぞれ異なる道のりを歩んでいる。ここでは、3社のプロフィールを紹介し、5つの重要な戦略分野で各社がどのような地位を築いているかを見ていこう。

Image credit: kojinaka / 123RF

候補者

Grab は、2012年にマレーシアで設立され、その後すぐに本社をシンガポールに移し、バンコク、ハノイ、マニラなど、約300の都市圏で ASEAN 全体のプレゼンスを確立している。アプリ「GrabPay」を中心に、電子口座、ローン、保険などの金融商品を提供している。

  • 長所:幅広い地域での事業展開、各市場での現地事情に精通していること、全体的に優れたリーダーシップを発揮していること。
  • 短所:スーパーアプリの製品ポートフォリオに、2つの主要な要素が欠けていること。

GoTo は、GojekとTokopediaが最近合併してできた会社で、Gojekはバイクの運転手がストリートレベルの兵士であることから名付けられた。

  • 長所:GoTo は、商品の種類が圧倒的に多い。母国インドネシアの人口は2億7,000万人を超え、ASEAN の中では圧倒的に大きい。
  • 短所:GoTo はインドネシア以外ではあまり存在感がなく、熱心な競合参入者から本拠地のある市場を守らなければならない。

情報開示:Golden Gate Ventures は、Ruma Mapan の買収を通じて Gojek の小口株主となっている。また、Gojek のスピンアウト企業である GoPlay にも出資している。

Sea は、オンラインゲームの制作・販売会社Garenaを母体としている。Sea社は、多国籍ECプラットフォームのShopeeや決済アプリのSeaMoneyも所有している。

  • 長所:ニューヨーク証券取引所に上場している企業でありながら、収益性の高い人気のある2つの分野を持っていること。
  • 短所:??? 後ほど述べる。

5つの戦略的要素で候補者を採点

このスーパーアプリコンテストには、配車サービスとデリバリ、エンターテイメント、eコマース、決済アプリという4つの重要なビジネス競争分野がある。また、5つ目の「無形の領域」は、持続的なリーダーシップとビジョンを持つ創業者 CEO の存在が、全体として戦略的に価値があるとされている。以下に、それぞれの要素が重要である理由と、それぞれの要素について私が Grab、GoTo、Sea をどのように評価するかを示する。ここでは、1点を「完全に準備ができている」、0点を「全く準備ができていない」、その中間を0.5点とするシンプルなスコアリングシステムを使用した。

配車サービスとフードデリバリ

配車サービスだけでは利益が出ないかもしれないが、路上に車が走っていることは、いくつかの点で利益をもたらす。配車サービスは、ユーザ数を増やすためのロスリーダー(利益度外視の目玉商品)になる。フードデリバリは、利益を生み出すとともに、自社の決済アプリを受け入れてくれる加盟店のネットワークを構築する。これらの活動は、人々が企業の活動を実際に目にすることで、リアル世界でのブランド認知度を高めることにつながる。

  • Grab:1点。同社と提携しているタクシーやバイクのドライバーが、遠く離れた何百もの都市で仕事をこなしている。
  • GoTo:1点。Gojek の最先端車両サービス(現在は四輪車も含む)は、現在のところ主にインドネシアであるが、広く浸透している。
  • Sea:0点。配車サービスは行っておらず、フードデリバリも前四半期に開始したばかりで、競合に大きく遅れをとっている。

ストリーミングエンタテインメント

Insignia Ventures Partners の Yinglan Tan 氏が昨年 Wiredfocus に語ったように、テックプラットフォーム企業は「ユーザが長期的にプラットフォームに関与し続けるための計画が必要」で、これはストリーミングエンターテイメントの役割だ。注目を集めると同時に、注目を維持することで、自ら収益を生み出し、人々があなたの会社をスクリーンに映し出すようになるのだ。

  • Sea:1点。Sea 傘下の Garena は明らかに勝者だ。なぜなら、オンラインエンターテインメントでは、ゲームがルールだからだ。多くの若者がモバイルに最初にインストールするアプリはゲームだ。ゲームはソーシャル性が高く、インタラクティブであるため、注目を集めることができ、参入障壁が高く収益性の高いビジネスである。
  • GoTo:0.5点。GoTo のエンターテイメントユニット「GoPlay」は、アジアの長編映画やビデオシリーズをストリーミング配信している。これらも人気があるが、競争相手はたくさんいる。独自のニッチを開拓するために、同社は現在、ジャカルタを舞台にしたアメリカのシリーズ「Gossip Girl」のリメイク版など、GoPlay オリジナル作品を制作している。また、若者に人気のライブストリーミングサービスも開始している。これは、形式的なものだが、GoPlay のコンテンツがインドネシア中心であるのに対し、Garena のコンテンツは ASEAN 全体にアピールしているので0.5点とした。
  • Grab:0点。数年前、Grab はアジアの配給会社である Hooq と提携し映画やシリーズに進出したが、Hooq は倒産してしまった。現在、Grab にはエンターテイメントはサービス提供していない。

e コマース

Amazon の e コマースモデルは、大量の在庫を事前に購入して倉庫に保管するため、薄利多売となる。アジアの企業は、売り手と買い手をマッチングさせる軽量なマーケットプレイスモデルを好んで採用し、大量生産で高収益を実現している。しかし、東南アジアでは e コマースの競争が激しく、Alibaba(阿里巴巴)傘下の Lazada やインドネシアのユニコーン Bukalapak など、さまざまな企業が参入している。

  • Sea:1点。Sea の eコマース部門 Shopee は、ASEAN 全域で事業を展開しており、昨年は Tokopedia の母国であるインドネシアで、Tokopedia を上回るサイト訪問者数を記録した。ASEAN の e コマース事業者のトップリストには、Shopee が必ず含まれている。
  • GoTo:0.5点。Tokopedia は、Gojek との合併に強力なプラットフォームを提供している。十分にサポートされた事業者ネットワークはさまざまな商品を提供し、総取扱高は伸び続けている。しかし、インドネシアでは5社以上のユニコーンがトップの座を争っているため、プラットフォームの国内重視の姿勢が弱点となっている。もし Tokopedia が国内での戦いに負けるようなことがあれば、その見通しは厳しいものになるだろう。
  • Grab:0点。e コマースはサービス提供していない。

決済アプリ

中国での Alipay(支付宝)の成功が示すように、広く使われている決済アプリを所有することは、3つの大きなメリットをもたらす。アプリは有料サービスの収益源であり、(Ant Financial=螞蟻金融が行っているように)金融商品を販売するためのハブであり、さらにアプリを利用する顧客のデータの宝庫でもある。このデータを分析することで、今後のマーケティングの対象としたり、顧客の消費力を判断したり、さらには新しい製品ラインやパートナーシップへの戦略的ベンチャーを形成したりすることができる。

  • Grab:0.5点。GrabPay は強力で、東南アジア全域で人気が高まっている。また、Grab はインドネシアの OVO やベトナムの Moca のようなローカルプレーヤーとの提携を積極的に行い、最大の露出を図っている。しかし、これは、顧客を所有し、データを利用してより多くのサービスを販売するという点ではアキレス腱である。Grab が優位に立つためには、現地の決済会社を買収する必要があるだろう。
  • GoTo:0.5点。GoPay も人気が高まっており、大小の加盟店で受け入れられている。しかし、インドネシア以外の市場で GoPay が決済手段として選ばれるようになるとは考えにくい。また、Tokopedia との合併により、外部の加盟店が購入履歴へのアクセスを提供できなくなる可能性がある。
  • Sea:-0.5点。SeaMoney は、Garena のゲーマーや Shopee での買い物には問題なく利用できる。問題は、Sea が配車サービスやデリバリのインフラを持っていないことで、アプリの幅広いユーザー層や受け入れ可能な加盟店の幅広いネットワークを構築するチャンスが大きく制限されていることだ。この欠点は、多くの悪影響を及ぼす可能性があるため、Sea に罰則を与えなければならない。

創業者 CEO の存在

テックスタートアップは、元々の製品やビジネスモデルの規模を拡大するだけでは、大きく成長することはできない。技術革新と進化が必要であり、創業者(またはその一人)がこのような発展段階を経て会社をリードし続けることに価値がある。Alibaba では、Jack Ma(馬雲)氏が起業家としてのビジョンや文化を守り続けた。Apple は、Steve Jobs 氏の下で初期に繁栄し、彼が去ったときには低迷し、彼が戻ってきたときには再び奮起した。Amazon、Facebook、Airbnb、Microsoft、Intel など、いずれも主要な創業者が持続的にリーダーシップを発揮している。新しいリーダーへの引き継ぎは、会社が確固たる地位を築いてから行うのが理想的だ。

ASEAN のスーパーアプリ戦争では、まだ誰も確固たる地位を築いていない。これからたくさんの革新が起こるだろう。創業者 CEOが率いる企業は、無形だが大きな強みを持つことができるだろう。

  • Grab:1点。Anthony Tan 氏は、ハーバード大学の MBA 学生としてこのスタートアップを構想し、それ以来、スマートに同社をリードしてきた。
  • Sea:1点。Forrest Li 氏は、Garena がまだ創業後間もなかった頃に買収し、それを中心に Sea を構成する残りの部分を構築し、現在も指揮を執っている。
  • GoTo:0.5点。Gojek の主要創業者である Nadiem Makarim 氏は、現在インドネシアの教育文化大臣を務めている。Tokopedia の主要共同創業者らも、合併後の GoTo を率いることはないだろう。合併によって強力な新会社が誕生する一方で、2つの大企業を統合するという複雑な問題が発生し、リーダーシップチームには多くの負担がかかる。しかし、何人かの共同創業者は、まだビジョンを推進するために参加している。Gojek 元 CEO の Andre Soelistyo 氏と Tokopedia 元社長の Patrick Cao 氏のドリームチームは、インドネシアのビジネスを成功させるための20年にわたる知識を持っている。

トータルスコア

これまでのところ、レースは互角のように見えるが、私は優位に立てる可能性があると考えている。私の読みでは、Grab の強みは決済と地域拡大であり、Sea の強みはスティッキーなエンターテインメントと e コマースである。 GoTo の強みはインドネシアであり、総力戦に向けて準備を進めている。VC として好きなタイプの企業は、壁に背を向けて生き残りをかけて戦っている企業だ。GoTo はそのような企業だ。

東南アジアは大きく成長している。勝者は1人だけではなく、各関係者が戦略的に動く余地があり、買収からメガ合併まで幅広く考えられる。いずれにしても、期待できることが1つある。このバトルロイヤルがどのように展開するかを見ることで、他の市場におけるスーパーアプリのプラットフォーム企業の将来について多くのことを知ることができるだろう。

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日本の資産運用業界、ESG投資を重視する基調【ゲスト寄稿】

本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。Mark Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿) The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture c…

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。Mark Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist.


Image credit: 401(K) 2012 via Flickr
Creative Commons Attribution-Share Alike 2.0 Generic

ESG(Environmental, social and corporate governance)の朝が来たようだ。資産運用マネージャーたちは、投資活動における環境・社会・ガバナンスの原則に対する真実の瞬間に目覚めつつある。

もちろん、企業や金融機関は何年も前から ESG について語っている。企業のホームページを見ても、「私たちは、フィデューシャリー(受託者)と ESG の原則を企業行動の頂点に置いています」というような文言が無いものはなかなか無い。年次報告書には「Sustainability(持続可能性)」という項目があり、そこには並木道のある公園でセミの鳴き声を聞きながらピクニックをしている一家(通常は3人)の艶やかな写真が掲載されている。実際、ここ日本でも、ほぼ毎日のように企業がネットゼロ目標(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること)を発表しているように思える。

しかし、実際に ESG を実践するには、パンフレットに書かれているような言葉だけでは不十分だ。特に資産運用業界では、ESG への関心が高まっているようだ。私が関わった資産運用会社の多くは、大きく分けて2つのカテゴリに分かれる。

報告段階

最も多いグループは、棚卸しの段階にあるようだ。彼らは、膨大な数の保有資産の中から、ESG の遵守状況やエクスポージャー(金融資産のうち、市場の価格変動リスクにさらされている資産の割合)を判断しようとしている。この取り組みには、データ収集の努力とそれに続く報告手続が必要で、大規模なものになる可能性がある。

行動段階

もう一つの小さなグループは、より進んだ段階にある。これらの先見性のある企業は、おそらく棚卸しの段階と並行して、ESG の原則を自社のプロセスやビジネスモデルに深く連携することで、解き放たれる可能性のある将来の機会を模索している。単なる報告にとどまらず、保有するポートフォリオの ESG 行動に影響を与えようとするかもしれない。

前者については、ビッグ4のような伝統的な監査法人や大規模なコンサルティング会社が、おそらく最も適切なガイダンスを提供してくれるだろう。2つ目の「機会の探求」については、専門のコンサルタントやソートリーダー(思想的指導者)が新たに登場している。

ESG を実行し、その目標を達成するのは大変なことだ。私たちも、自分の小さな VC ファンドで ESG をどの程度実施するのが最も適切なのか、いまだに悩んでいる。このテーマについての専門知識を深めたいと考えている資産運用マネージャーには、私たちのネットワークの中で、両方のカテゴリの専門家や、私たちを支援してくれたアドバイザー、そして LP の何人かをご紹介したいと思う。

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gojekとGrab、そのUberを凌駕する事業戦略——アジアのスーパーアプリ、これまでと今後【ゲスト寄稿】

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本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Fast Company(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。 This article was first published in Fast Company. <関連記事> ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップ…

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Fast Company(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。

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Image credit: Grab/gojek

2009年、Uber の共同創業者らが会社設立の準備をしていた頃、アジアの若い起業家らがハーバード・ビジネス・スクールの MBA プログラムに入学してきた。その中から、まったく異なる進化を遂げた2つの配車スタートアップが誕生した。現在 Grab と呼ばれている会社は、マレーシアの学生である Anthony Tan 氏と Hooi Ling Tan 氏(二人は偶然苗字が同じなだけで血縁関係は無い)がビジネスプランコンテストに応募する際に考案したものだ。優勝はできなかったが、その後、東南アジアの ASEAN 10カ国の急成長都市で Uber を追い抜くまでになった。

一方、ジグザグの道のりでトップに立った同級生もいた。 Nadiem Makarim 氏は、故郷インドネシアの仲間とリモートで仕事をしながら、MBA を取得する際のサイドプロジェクトとして gojek を立ち上げた。この配車サービスは、マッサージセラピーから映画製作まで、さまざまなビジネスに異業種展開している。そして今週、gojek は e コマース大手の Tokopedia との合併という、インドネシア史上最大のビジネス取引を発表した。(情報開示:Golden Gate Venturesは、Ruma Mapan の買収を通じて gojek の小口株主となっている。また、gojek のスピンアウト企業である GoPlay にも投資している。)

gojek と Grab はともに、ベンチャー企業が資金を提供するデカコーンとなり、それぞれがニューヨークとアジアの証券取引所での IPO を目指している。そして、東南アジアの人々の携帯電話の画面に表示される、配車サービス以上のものを独占しようと競争している。Grab と gojekはそれぞれ、アメリカ市場ではまだ見られないものを提供している。それは、人々が購入したいと思うあらゆるものを販売するための潜在的なゲートウェイである決済アプリを備えた、スーパーアプリの組み合わせだ。

gojek の紆余曲折

Image credit: gojek

gojek は2010年にささやかにスタートした。遠く離れた創業者がパートタイムで指揮を執る、ローカルでローテクな事業だった。この会社は、インドネシアの首都ジャカルタで、ojek(インドネシア語でバイクタクシーのこと)のドライバに電話やツイッターで乗り物を予約するコールセンターに過ぎなかった。このモデルは高い成長を約束するものではなかったが、ドライバと客とやりとりを通じて貴重な経験を得ることができた。

スマートフォンの普及に伴い、gojek は2015年にモバイルアプリのプラットフォームとして再出発し、拡大を目指した。創業者のMakarim 氏は当時、フルタイム CEO を務めていたが、社内に技術スタッフはほとんどいなかった。そこで彼は、アプリの開発を を開発会社の Ice House Indonesia に委託した。このような奇妙で少々怪しげな戦術にもかかわらず、gojek は、現場での経験とインドネシアの新興市場の大きさを武器に、ベンチャーキャピタルから資金を集めることができた。インドネシアは世界で4番目に大きい国で、人口は2億7千万人を超えている。

そしてこの時点で、gojek はオンラインプラットフォーム企業を作るための標準的なプレイブックを覆した。慣例では、最初は1種類の製品やサービスに集中し、徐々に他の製品やサービスを追加していくというものだ。Amazon は本屋として4年間活動した後、音楽やビデオを扱うようになった。Uber は5年前に Uber Eats を追加したばかりだ。しかし、gojek は、ある意味で〝一つのことに集中する宿題〟をすでに済ませていたのだ。モバイルアプリとして再出発したとき、同社は MVP(最小単位製品)モードから、製品の種類を最大限に増やすことへと一気に加速した。配車サービスに加えて、調理済食品や食料品、処方箋薬の配達も開始した。2016年4月には、決済アプリという重要な要素が加った。車やバンを持つドライバが、バイクサービスのー団に加わった。そして、電撃的な買収が行われた。

gojek は、地元のサービスプロバイダと提携し、さまざまなサービスを提供した。マッサージセラピストが必要ですか? 掃除屋さん? gojek のドライバは、そのどちらか、または両方を客の家に届ける。また、トラックのレンタルや自動車修理も問題ない。この戦略は、「ラピッドプロトタイピング・フェイルファースト」の一形態と言えるだろう。今ではこれらのサービスのほとんどがなくなってしまった。VC からの資金調達と収益の増加により、gojek は、3つのスーパーアプリを中心に約20の製品ラインを持ち、より充実したラインナップを構築した。その中には、大規模なものも含まれており、さらに大きなものも登場している。

Image credit: gojek

決済アプリである GoPay には、保険や投資などの金融商品が付随している。このビジネスグループは、アリババのアリペイやアント・フィナンシャルと同様に、半独立してスピンアウトしている。GoPay には、決済大手の Paypal、Facebook、Google などが出資している。

印象的な動きとして、gojek はエンターテイメントのストリーミングに手を広げた。アプリ「GoPlay」では、アジアの長編映画や動画エピソードに加え、「Netflix Originals」にちなんで名付けられたカスタムメイド「GoPlay Originals」がストリーミングされている。これらの作品には、アメリカのティーン向けシリーズ「Gossip Girl」をジャカルタをテーマにリメイクしたものや、「Filosofi Kopi(インドネシア語で「コーヒーの哲学」)」などがある。「The Series」は、インドネシアの人気映画から派生したものだ。

gojek はインドネシアの e コマースプラットフォーム「Tokopedia」と合併、メガ企業 GoTo が誕生する。興味深いことに、Alibaba(阿里巴巴)は Tokopedia に、Tencent(騰訊)は gojek に出資しているため、新会社 GoTo は中国の大手企業を共同出資者として、上場を目指すことになる。

以前、gojek と Grab は合併の可能性があると思われていたが、その交渉は決裂した。まもなく単独での上場を予定している Grab は、製品の多様性では gojek に劣るが、ASEAN 全体での存在感ははるかに大きく、異なる種類のアプローチで Uber を東南アジアから追い出した実績がある。

Grab の勝利方程式

Image credit: Grab

gojek の Uber に対する主な強みは、渋滞を縫って移動できる軽快な Ojek のバイク群と、安い料金で呼べることだったが、Grab は多国籍企業としての急成長と各市場に対するローカルな感性を組み合わせた戦略で勝負に出た。Grab はこの組み合わせにより、各国で最も価値があり、かつ微妙な違いがあり、規制が厳しい分野のひとつである決済・金融サービスを開拓した。決済アプリは、潜在的な収益源であるだけでなく、顧客とその消費パターンに関するデータが常に蓄積されているという点でも、非常に価値がある。このデータを活用すれば、あらゆる製品やサービスのマーケティングに役立てることができる。

Grab は2012年にマレーシアの首都クアラルンプールでデビューした。初日からアプリを使って規模を拡大し、最初の1年でマニラとシンガポールに進出し、その後も都市部の市場を増やしている。現在、Grab は、ASEAN 10カ国のうち8カ国、約300の都市圏で事業を展開している。バンコクやホーチミンシティのような巨大都市から、ベトナムのベンチェーやマレーシアのタワウのような人口10万〜50万人程度の地方都市まで、さまざまな都市で展開している。

Grab はそれぞれの新市場において、外国の競合相手ではなく、現地のタクシードライバや車両オーナーのパートナーとして、より効率的に運賃を探せるプラットフォームを提供した。Grab は、Uber が対応していない現金払にも対応し、かつてはタクシーに乗ることさえためらわれていた都市で、安全性と信頼性を強調することで顧客に対応した。Uber はアメリカでは隔週払いの給与モデルを採用していたが、Grab はアジアの多くのドライバが、客がクレジットカードで支払をしても、毎日現金を必要としていることに気づいた。そこで Grab はまず週払で給与を提供し、その後ドライバを「GrabPay」アプリに切り替えさせ、乗車後すぐに支払を払い出せるようにした。

さらに、Grab は各市場で現地の投資家を募り、現地の技術者や管理者を採用した。これは、Uber がアメリカの資金に頼り、アメリカ人スタッフを〝輸入〟していたのと対照的である。現地投資家は、入手困難な配車サービスライセンスや決済ライセンスの取得など、さまざまな面で Grab に貢献している。 現地投資家は、Grab がフィリピンで繁栄することを確実にした一方で、gojek はそれから数年後の2019年にフィリピンの配車サービスライセンスを取得できなかった。シンガポールでは、政府系ファンドの Vertex が、Grab に多額の初期資金と繁栄する都市国家の市場へのアクセスを提供した。また、Grab は本社をマレーシアからシンガポールに移転し、豊富な人材を獲得した。Grab は多くの場所で、財閥系の富裕層に投資を依頼し、時には彼らを雇用することもあった。例えば、高級ホテル Shangri-La のオーナーと関係を持ち、このホテルの一等地に送迎レーンを確保したこともある。

今後の展望

Image Credit: Grab

Grab には世界的に大きな支援者がいる。主要な投資家には、ソフトバンクや Uber 自身などがいる。Uber は、ASEAN から撤退する際に ASEAN の資産を Grab の株式と交換した。Grab と gojek-Tokopedia 連合の両社が IPO 資金を得た暁には、両者の競合関係が注目される。そして何より、この2つの新進気鋭の企業の今後は、スーパーアプリのビジネスモデルの将来を占う上での試金石となるだろう。

Grab のスーパーアプリ・クラスターは gojek に比べてスリムだが、重要な決済・金融のコアを持っているという点で、まだ強力な力を持っている。gojek のストリーミングエンターテイメントは、強力な切り札になる可能性がある。gojek は、人々に注目され、自分の作品をスクリーンに表示させ、その状態を維持することができる。GoTo との合併で gojek のポートフォリオにオンラインショッピングが加われば、それは大きな力となるだろう。

Grab と GoTo は、スーパーアプリで配車サービスとその他の交通手段を提供するという、Uber の手法をはるかに超える領域を目指している。この軌道は理にかなっていると思う。配車サービスはどこで試みられても、商品を販売するためのユーザベースを構築するためのロスリーダー(訳注:集客数を上げるため、収益を度外視した低価格で販売する目玉商品のこと)として最も適していると思われる。アジアの2大企業は、従来の配車サービスアプリをタクシー乗り場に残し、業績を向上させるサービスをバンドルすることで Uber を凌駕している。

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弁護士・石原遥平氏に聞いた、スペースマーケットでの信託型ストックオプション設計と導入のリアル【ゲスト寄稿】

本稿は、淀屋橋・山上合同東京事務所パートナーで弁護士の石原遥平氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石原氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。 <解説:石原遥平氏> 弁護士。弁護士法人 淀屋橋・山上合同 東京事務所パートナー。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスター…

本稿は、淀屋橋・山上合同東京事務所パートナーで弁護士の石原遥平氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石原氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。

<解説:石原遥平氏>

石原遥平氏

弁護士。弁護士法人 淀屋橋・山上合同 東京事務所パートナー。

スペースマーケット取締役、RECEPTIONIST 社外監査役、シェアリングエコノミー協会シェアリングエコノミー認証制度統括ディレクター等を務める。

2016年から出向したスペースマーケットでは、自治体や企業提携交渉、資金調達、内部監査、上場審査対応等も担当し、2019年12月に東証マザーズ上場を担当マネージャーとして経験。

2020年4月に事務所に復帰し、2021年4月から同事務所パートナーに就任。

<聞き手:小原聖誉氏>

小原聖誉氏

2013年 AppBroadCast 創業。400万⼈にサービスが利⽤されたのち、2016年に KDDI グループの mediba へバイアウト

その後エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し3社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。 「若⼿起業家が選ぶすごい投資家」第1位選出(2019年・週刊東洋経済)。現在はスタートアップを⽀援する会社 StartPoint を創業し、起業プラットフォーム「StartPass」などを通じスタートアップ250社に経営リソースを提供。

著書に「凡人起業 35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。」(CCC メディアハウス)など。

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最近スタートアップ界隈で耳にすることが多くなった「信託型ストックオプション」について、前回は、資本政策のプロである公認会計士/税理士の方にお話を伺い、制度の概要や従来型ストックオプションとの違い、〝上場審査でNGにならないため〟の設計上の注意点などを伺いました。

今回は、実際に信託型ストックオプションを導入した上で上場を果たした企業の上場担当者に、現場のリアルな声を伺い、より実践的な活用方法・注意点などを探っていこうと思います。(小原)

Photo by CreditScoreGeek – Creative Commons License 2.0 Generic

石原さんは、2019年12月に上場したスペースマーケットで、実際にストックオプション制度の設計に関わっていらっしゃったんですよね。

そうです。私が入社する前に一度通常の税制適格ストックオプションが発行されていて、入社したのはちょうどその数ヶ月後というタイミングだったのですが、第1回目の発行以降に入社したメンバーはストックオプションをもらえていないという状況だったため、そこをフェアにするための何かいい制度はないか、という検討の中から、信託型ストックオプションを導入することになりました。

スペースマーケットでは、最初に従来型ストックオプションを1回 → シリーズ B の後に信託型ストックオプション → 最後にもう1回シリーズ C の後に従来型ストックオプション、と、合計3回発行しています。

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信託型ストックオプションはどういう段階・シーンで一番の選択肢となるのでしょうか?

本当のシード期(資金調達前または1回目の資金調達のフェーズ)ではあまりお勧めしません。理由としては、コストが高いことと、後述の人事制度が整っていない状況で導入しても運用が難しいこと等です。

目安としては、シリーズ A ~ B のフェーズくらいでしょうか。導入コストは安くても数百万円ほど必要になりますので、資金調達の使途として明示して調達するのもよいかもしれません。

導入の際の具体的なスケジュールとして、準備期間はどのくらいを見ておけばよいでしょうか?

事前の検討状況次第ですが、最速で約2ヶ月あれば導入可能だと思います。

信託型ストックオプションは「運用」が必要であると聞きましたが、具体的にはどのような作業が必要なのでしょうか?

この場合の「運用」とは、人事評価ポイントの付与、ということになると思います。

半期ごとなど、一定期間で対象者を評価し、事前に設計したルールに基づいてポイントを付与していくことになります。粛々と決められたガイドラインに沿って付与していくことになるので、「運用」といっても、むしろそこに恣意性などを入れないよう機械的に作業していくことが肝要です。

また、その該当期間ごとに社外監査役などで組織する外部委員会を組織し、恣意的な運用がなされていないかのチェックも行います。

通常のストックオプションと信託型ストックオプションを併用することはできるのでしょうか?

可能です。むしろ、初期は税制適格の無償ストックオプションを発行し、従業員が30人を超えた辺りから信託型を導入するくらいでいいと思います。

信託型ストックオプションを発行するにあたって、社内ではどのような議論をなされたのでしょうか?

具体的には以下のような点を議論しました。

  • PL へのヒットの有無とその影響
  • 監査法人の監査リスク、主幹事証券審査リスク、東証審査リスク
  • 導入上、運用上の問題
  • フェアバリュー算定した時の創業者の負担等

割当比率については転換当日にならないとわからないというのが信託型の特徴かと思いますが、実際に、転換時に対象者から不公平などの声は出なかったのでしょうか?

特に出なかったと認識しています。

予め決められた株数分のストックオプションをポイント付与数に応じて山分けすることになるので、当然最後まで誰に何株渡るかは不明なものの、想定の数字と大きく乖離しなかったことや、半期ごとの適切な上長からのコミュニケーションによってあくまで想定の数字だという説明をしていたことが奏功していると考えます。

信託型ストックオプションを普通株に転換する時にはどのような手続きを行うのでしょうか? イメージが湧いておりません。

対象者は証券会社に専用の口座を開設し、行使の意思表示、金額の払込、口座への株式の納入などを行います。従来型ストックオプションと特に変わらず、面倒な手続きではありません。

今振り返ってみても、もう一度信託型ストックオプションを導入したいと思いますか?

絶対に導入します。ただ、前述のとおりメリットとデメリットがあるので、税制適格の無償ストックオプションと組み合わせてポートフォリオを組んで実施すると思います。

また、同じ信託型の枠組みの中で、ポイント制度だけでなく、特別付与分という形でワンショットで何株分かのストックオプションを付与するというような設計も可能なので、うまく組み合わせてインセンティブを有効に維持できるよう、導入時にかなり議論して整備する必要はあります。

信託型ストックオプションを導入したことによって成功した会社の事例、反対に失敗した会社の事例があればお伺いしたいです。

退職者の対応(無償ストックオプションだと毎回消却と登記が必要で、その分を誰か別の人に分配するということはできない)の面で、圧倒的にコストも手間も省けたと思うので、そこは実務的なメリットはかなり大きいと思います。

一方で、まだ人事制度も整っていない会社が無理して導入して恣意的な運用がなされたり、そもそも現実化するかどうかの期待度が低い段階で導入してこれを給与の一部とされる賞与の代わりとしてコミュニケーションを取ってしまうようなことがあると、従業員から不信感を抱かれるリスクがあると思います。

信託型ストックオプションを是非導入すべき会社、反対に導入すべきでない会社というのはありますでしょうか?

IPO を目指すのであれば、有効なインセンティブの手段として導入すべきだと思いますが、逆にバイアウトを目指すのであれば導入すべきではないと考えます。


前回は、主に専門家の観点から、対外的(対監査・上場審査)な設計上の注意点のお話を多く伺うことができましたが、今回は、実際に導入された企業側のリアルな声から、対象者とのコミュニケーションや人事評価制度との兼ね合いなど、社内的な観点の注意点を具体的に知ることができました。

信託型ストックオプションは IPO を目指すスタートアップにとって非常に有効なインセンティブ制度といえそうですが、コストが高く、また、運用に当たっては人事評価制度と密接に関わるため、それらが整った段階で入念に準備をした上で導入すべきであり、そのタイミング以外では従来型の税制適格ストックオプションと上手く使い分けていくのがよさそうです。

信託型ストックオプションを本来の目的どおり、フェアで使い勝手のいいインセンティブ制度として効果を発揮させるためには、社内的な対応でいうと何よりも「明確で適切な人事評価制度」と「対象者とのコミュニケーション」が肝だといえるのではないか、と感じました。(小原)

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栄枯盛衰のClubhouse——自由で新鮮な体験が売りの音声SNSは、もはや「つるはし売り」の場に?【ゲスト寄稿】

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本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。彼は、日本で Shizen Capital(旧 Tachi.ai Ventures)のマネージングディレクターを務める。本稿は Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿) The guest post is first appeared on …

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。彼は、日本で Shizen Capital(旧 Tachi.ai Ventures)のマネージングディレクターを務める。本稿は Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist. He is the Managing Partner of Shizen Capital (formerly known as Tachi.ai Ventures) in Japan.


昨日、日本における Clubhouse の盛衰について興味深い議論をしていた。幸運なことに、日本での現象をよりよく理解している2人の方から教えていただくことができた。

Clubhouse は1月下旬に日本でローンチし、Apple App Store で無料アプリの第1位に躍り出た。政治家も使い始めた

それからわずか2ヶ月で、Clubhouse は、今は亡きプロ野球選手 Yogi Berra 氏の名言を具現化したような存在になってしまった。「あそこに行く気になる人はもういないはずだ。人が多すぎてね。

なぜ Clubhouse は日本で火がついたのか?

日本はさまざまな意味で Clubhouse にとって理想的な市場だ。誰もがスマートフォンを持っていて、高速鉄道や地下鉄でも、信頼性の高い 4G(現在は多くの場所で 5G)のネットワークに接続されている。もちろん、パンデミックの際には、在宅勤務に一部移行したことで Clubhouse に逃げ込む好機となった。しかし、日本では大規模災害よりも新型コロナウイルスの方が不便を強いられたため、多くの人がオフィスで働いた。そのような人たちにとっては、長い通勤時間や、上司が帰る前にオフィスを出るというタブーが組み合わさって、時間をつぶすための十分な機会となっている。

また、Clubhouse の持つ高級感は、日本の消費者にとっても魅力的だ。Trader Joe’s(アメリカのオーガニック食料品スーパーマーケット)の買い物袋を持って東京を歩けば、最近アメリカに行ったことがさりげなく伝わるように、シリコンバレーの権威ある招待制スマートフォンアプリに参加し、それをソーシャルメディアで発表することは、日本では深刻な FOMO(取り残される不安・恐怖)を生み出す。

では、なぜそれが消えてしまったのか

日本において Clubhouse FOMO の舞台となった主なメディアは Facebook であり、Twitter もある程度利用されていたが、LinkedIn は利用されていなかった。日本のビジネスプロフェッショナルは、LinkedIn よりも Facebook を多く利用している。Facebook は、サラリーマン、フリーランス、起業家、投資家にとって、友人関係だけでなく、仕事上のつながりを持つための主要なソーシャルネットワークとして機能している。Facebook の月間アクティブユーザ数は2,600万人だ。日本の VC の中で Facebook をやっていないのは私だけだと言われたこともある(おそらく私にとっては不利益なことだが、申し訳ないが一線を画している)。

一方、LinkedIn は10年近く前に日本に進出したにもかかわらず、日本でのアクティブユーザ数は現在でも数百万人程度だ。プロフェッショナル層の間で人気を集めている LinkedIn だが、日本では長い間、LinkedIn にアカウントを作成することに意味があった。これは、忠誠心と終身雇用を重んじる日本の大企業では、キャリアを損なう可能性のある行動だ(編注:転職活動をしていると見られるため)。

Facebook の問題点は(というか、一つの問題点だが)、ジャンクが多いことだ。そのため、 Clubhouse は日本での成功の犠牲になっていると言える。 Clubhouse のメンバーシップは主に Facebook を通じて広まったため、誰でも参加でき、誰もが参加し、あらゆる種類の思想的指導者のたわごとを広めることになった。

これと同じ現象を私はフランスで目の当たりにしたが、それは Cédric Giorgi 氏の素晴らしい、生意気なツイートに簡潔にまとめられている。

(訳)私は Clubhouse が大好きだ。この新しいネットワークとそこで交わされる会話や交流が本当に好きだ。しかし、それはインフォプレナーやつるはし売り、ビジネスコーチなどのための場所になりつつある。そうなるには、あまりにも早過ぎた。

しかし、フランスの Clubhouse が「vendeurs de pioche(つるはし売り)」に蹂躙されるまでには、数ヶ月を要したようだ。日本では3週間しかかからなかった。

訳注:「つるはし売り」とは、「ゴールドラッシュの時、最も金持ちになったのは金を掘る人ではなく、シャベルやつるはしを売る人だった」とする話に由来し、ここでは起業家が成長するための道具だとして、起業家に成功の方法を伝授すると吹聴し、その対価に高額な費用を請求する情報商材屋を揶揄している。

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注目を集める「信託型ストックオプション」、その使い方や長所短所を資本政策のプロ・石割由紀人氏に聞いた【ゲスト寄稿】

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本稿は、Gemstone 税理士法人のパートナーで公認会計士・税理士の石割由紀人氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石割氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。 <解説:石割由紀人氏> スタートアップ支援専門の会計事務所 Gemstone 税理士法人パートナー。 ニュースレター…

本稿は、Gemstone 税理士法人のパートナーで公認会計士・税理士の石割由紀人氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石割氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。

<解説:石割由紀人氏>

石割由紀人氏

スタートアップ支援専門の会計事務所 Gemstone 税理士法人パートナー。

監査法人・税理士法人、外資系通信ベンチャー企業管理部長、ベンチャーキャピタルを経てスタートアップ支援専門会計事務所を運営。株価算定(優先株式、PPA等)、ストックオプション評価等についても業界屈指の実績を有する。Gemstone 税理士法人の2020年度関与先新規上場実績は8社。

著書に「ベンチャーキャピタルからの資金調達術」(ぱる出版)、「資本政策立案マニュアル」(中央経済社)、「資本政策立案マニュアル第2版」(中央経済社)など。

<聞き手:小原聖誉氏>

小原聖誉氏

2013年 AppBroadCast 創業。400万⼈にサービスが利⽤されたのち、2016年に KDDI グループの mediba へバイアウト

その後エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し3社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。 「若⼿起業家が選ぶすごい投資家」第1位選出(2019年・週刊東洋経済)。現在はスタートアップを⽀援する会社 StartPoint を創業し、起業プラットフォーム「StartPass」などを通じスタートアップ250社に経営リソースを提供。

著書に「凡人起業 35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。」(CCC メディアハウス)など。


最近スタートアップ界隈で耳にすることも多くなった「信託型ストックオプション」という言葉、正しく理解していますか?

「信託ストックオプションを発行したことが理由で上場できなかった」などという誤った噂が流れることもあるなど、なんとなく難しそうな印象を抱いている人も多いかもしれませんが、実際には、設計や運用に注意が必要なものの、信託ストックオプションスキームそのものが上場審査でNGになるわけではありません。

今回は、そんな「信託型ストックオプション」について、会計の側面からスタートアップ支援を多数手がけるGemstone 税理士法人の石割先生に、スタートアップの社員インセンティブとして欠かせないストックオプションの基礎を踏まえつつ解説して頂きました。(小原)

Photo by CreditScoreGeek – Creative Commons License 2.0 Generic

「信託型ストックオプション」は、ストックオプションの新しい種類なのでしょうか?

種類ではなく、信託型という「箱」に入れる、という認識が近いかもしれません。

ストックオプションの種類としては、従来から知られるように、税制適格ストックオプション、税制非適格ストックオプション、有償時価発行ストックオプション等があり、無償か有償か? 行使時の課税があるか否か? 課税時の扱いが譲渡所得か給与所得か? の違いがあります。

無償発行されたストックオプションについて課税が生じるのは税制適格ストックオプションの要件を満たさない(税制非適格)場合

まずは3種類の従来型ストックオプションについて、使い分けやメリットデメリットなど、基本をおさらいしたいです。

従来型ストックオプションとして一般的なのは税制適格ストックオプションです。ストックオプションで一番課題になるのは、利益を受け取るストックオプション権者の課税の点ですので、税制適格にすることで、

  • 課税されるタイミングが行使時ではなく株式譲渡時
  • 所得の種類として譲渡所得であり申告分離課税なので、キャピタルゲイン課税が20%である(給与所得だと総合課税で累進課税となり、最大55%)

…という、税制上有利な取り扱いを受けることができます。

一方、税制適格ストックオプションは課税上優遇されますが、スタートアップファイナンスにおいては、弱点もあります。

まず、付与対象者は取締役・従業員に限定され、大株主(発行済株式数の1/3超)や社外協力者には付与できません。イコール、オーナーの持株比率希薄化防止には使えないこととなります。

さらに、M&A で EXITする場合、税制上の優遇措置を維持してストックオプションを譲渡することができません(ストックオプションを譲渡すると、税制非適格ストックオプションになってしまいます)。また、行使価格に上限があったり、行使期限も比較的短く設定されています。

税制適格ストックオプションに必要な要件は以下の6点です。

  1. 権利行使が付与決議の日から2年超10年以内であること。
  2. 譲渡禁止が定められていること。
  3. 付与対象者が会社又は子会社の取締役、執行役または使用人等であること。但し、大株主(未上場会社の場合は発行済株式数の1/3を超えて保有する株主、上場会社の場合は発行済株式数の1/10を超えて保有する株主)と大株主の特別利害関係者は除く。
  4. 新株予約権の行使価格の年間合計額が、1,200万円以下であること。
  5. 権利行使価額が契約締結時の時価以上であること。
  6. 証券会社等に信託を通じて売委託または譲渡により売却すること。

この弱点を補うのが有償ストックオプション(ストックオプションを時価発行するという仕組み)です。有償ストックオプションは、大株主の創業オーナーや社外協力者に対しても有償発行(時価発行)することで、行使時点での課税を免れるスキームを構築することができます。有償ストックオプションは無償とは異なり、ストックオプションの公正価値(時価)を払い込んでいるので、発行時には経済的利益が生じず課税されません。

権利行使時点でも(税制適格と同様に)ストックオプション権者は課税されないとされます。権利行使時点の株式時価とストックオプション発行価額と行使価額合計額の差額がストックオプション権者の得た利益となりますが、取得した株式の譲渡時点までは投資が継続しているので、未実現利益として課税されないと考えられるためです。

では、従来型ストックオプションの種類としては、有償ストックオプションが一番優れた発行形態となるのでしょうか?

それがそうとも言えません。理由は、有償ストックオプションではオプション価値の評価が難しく、ここがしばしば問題となることがあるためです。

有償ストックオプションは公正な評価額で時価発行されなければなりませんが、ストックオプションは株式(現物)ではなく、あくまで権利なので、株価から単純計算するのではなく、「ブラックショールズモデル」や「モンテカルロシミュレーション」と呼ばれる、デリバティブの特殊な手法を用いて価値を算定しなければなりません。

将来ダウンラウンドになった場合に失効させる条件の付与等、細かい設計も必要で、専門的な公認会計士に依頼するのが一般的です(この時価評価の妥当性が後に監査法人の監査で問題になったりすることもあります)。

その点、税制適格ストックオプションは一定の制約もありますが、設計がシンプルなので、一般従業員向けの少額ストックオプションとしては使い勝手のよさがあります。大株主(オーナー)、CXO など高額の割当をしたい人材、社外協力者など、税制適格が使えない場合には有償発行を選択する、というイメージでしょうか。

それではいよいよ本題で、「信託型ストックオプション」とは、何のために生まれたスキームなのでしょうか?

税制適格ストックオプションや有償ストックオプションといった従来型ストックオプションにはまだ解決できない弱点があるためです。大きく分けると以下の3点です。

  1. 今在籍している役員・従業員にしか付与できない。
    → 将来入社する優秀な人材に割安な行使価額でのストックオプションを付与することができない。
  2. 既発行ストックオプションと同様のインセンティブ効果を確保しようとするとストックオプションの発行規模が大きくなり希薄化してしまう。
    → 後から入社するほど条件が悪くなる。
  3. 実際の貢献度に応じてストックオプションを付与することができない。
    → 付与時点で分配比率が決まってしまうので、付与後の貢献度が期待より低く、権利行使時に評価が乖離していた場合など、フェアでなくなる可能性がある

では、「信託型ストックオプション」の具体的なスキームと、それによってどんな課題がどのように解決されるのかを教えてください。

スキームの概要については下記の図をご覧ください。

  1. オーナーと受託者の間で信託契約を締結し、オーナーが受託者に金銭を信託します。
  2. 受託者は、信託財産を受託者の固有財産と分別管理しなければなりません。発行会社は新株予約権を発行し、受託者は信託された資金を払い込みます。
  3. 信託期間中、一定の条件(プラン)に基づき、従業員等にポイントを付与します。
  4. 信託期間満了後、付与されたポイントに基づき、受託者が引き受けた新株予約権を従業員等に交付します。

このスキームの要点は、「受益者が存在しない信託である」という点です。信託税制の原則は「受益者課税」ですが、信託型ストックオプションではオーナーが金銭を信託設定した時点において、受益者が存在しない(最終的にストックオプションを付与される役員・従業員等が決まっていない)ので、受益者ではなく受託者に課税するという法人課税信託が適用されます。

この法人課税信託という特例によって行使価格を据え置くことが可能となり、将来の採用者に対して既存役職員と同条件で付与することができるようになります。

※法人課税信託

法人課税信託とは、受託者が個人であっても法人と見做して法人税法の規定を受けるという仕組です。(本来の課税対象は信託財産自体ですが、信託財産自体が納税手続を行うことが不可能なので、その事務を行っている受託者が代理納税していると捉えられ、受託者が個人でも法人税が課税されるということになります)

受託者は受託した段階で、信託財産について受贈益課税を受け、毎年法人税申告を行うこととなります。(この課税分はオーナーが最初に用意した金銭から差し引かれるため、信託設定する金額に+課税分を見込んだ金額を用意する必要があります)

ストックオプション付与対象者が確定し、「受益者が存在」するようになると、受託者から受益者へその直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとして、税制上の信託財産の帰属者が受託者から受益者に帳簿価額で移転します。しかも帳簿価額で資産負債を引き継ぎにより生じた収益は所得金額の計算上、総収入金額には算入されません。

以上の結果、ストックオプション権者によってストックオプションが行使され、株式を売却されるまでは所得税の課税は行われないこととなるのです。

また「委託者(オーナー)が受託者に一度信託して、後から配る」という信託の特性によって、誰に・どれだけ付与するかというのを、等級と査定に応じたポイントによる人事評価制度と組み合わせて判定し、実際の貢献度に即して最終的な付与時点の分配を決めることができるようになります。(設定時点にはいなかった人材にも付与することができますし、また例えば、大量に付与した人材が途中で辞めてしまいその時発行したストックオプションが無駄になる、などの事態も防ぐことができます)

つまり、「後から入社した人が不利になる」という課題を総合的に解決するスキームといえるのです。

スタートアップのインセンティブ設計に適した、素晴らしい仕組みのように聞こえますが、信託型ストックオプションならではの課題や注意点もあるのでしょうか?

このスキームではストックオプションを引き受けるための資金をオーナー自らが身銭を拠出するという特徴があり、なるべく資金負担額を小さくするため、オプション価値の評価を引き下げたいというバイアスが働きがちです。

しかし評価額の算定は後々監査や上場審査時に問題となるケースが多く、正確に行っておくことが非常に重要です。そしてその評価業務は専門家に依頼することになりますが、このコストが高額なため(500~1,000万程)、その費用の捻出も課題となります。

そのため、ストックオプションの特性と利点を考えると、できるだけ早い段階で設定をしたほうが望ましいのですが、評価業務にかかるコストを用意する為にはある程度の資金調達が行われるタイミングまで待たなければならないケースもあるでしょう。

また、受託者に誰を設定するのかという点において、前述のスキーム図では、一般的な信託の受託者として信託銀行の名前が入っていますが、非上場会社の信託型ストックオプションの信託においては、コストや規模の観点から信託銀行による商事信託(営利目的をもった反復継続的信託活動)ではなく、民事信託(単発無報酬で受託可能)とするため、多くの場合顧問税理士に依頼することになります。

この際、依頼する顧問税理士は信託の意味や受託者の義務責任を理解し、信託事務を行うことのできる能力を有する方である必要がありますし、また、既に他社の信託型ストックオプションで受託者になっている人は避けるため(複数回受託者をすると信託引き受けを業としているのではないか疑義が生じる可能性があるため)、受託者の選定においても一定の注意が必要です。

最近時折耳にする「信託型ストックオプションを発行したために株式上場できなかった」という噂に関しては、どうでしょうか?

東証、証券会社、監査法人等の統一見解として、信託型スキームそのものを NG としている訳ではないと思います(担当者レベルで批判的な人はいると思いますが)。信託型ストックオプションを認めてもらうためには信託組成が適切に行われていることと、ストックオプションの行使価格やオプション価値が公正に評価されていることが大前提となりますが、この点で個別具体的に問題が発生している事例があるのではないでしょうか?

※ 信託型ストックオプションを発行した後に上場した実際の事例

実際上場事例も増えてきており、特定の監査法人が信託型ストックオプションを無条件で門前払いしているということも無いと思われます(一方で、下記の証券会社や監査法人で信託型ストックオプションについてNGを出した事例も存在はするようです。)。

なお、証券会社や監査法人の担当者によっては信託型ストックオプションについて詳しくないこともあり、単純に「難色を示される」ということはありそうです。

スキームそのものが NG というわけではないけれども、実際審査時に問題となった事例もある、ということで、具体的にはどのような点が問題となるのでしょうか?

まず信託組成時の適切性として、受託者=受益者というような法人課税信託の要件を満たさないような信託組成を行わないことです。受託者自らが受益者になったりしますと、証券取引所や監査法人からNG指摘を受けることになるでしょうし、スキームの肝である法人課税信託という課税上の取り扱いも否定されるでしょう。
また、オプション評価業務を行う公認会計士も、受託者や受益者の立場にならないよう注意が必要です。受託者は専ら受益者のために行動しなければなりませんので、利益相反するような関係を絶対に回避すべきです。

さらに、オプション評価の公正性に関して、会計基準に即した注意点もあります。前項で出てきた「オーナーの資金負担額を減らしたいという動機」の為に、ストックオプションの評価に業績条件のノックアウト条項(一定の場合に権利が消滅する)が付されるケースがありますが、会計基準上、業績条件は公正な評価単価の算定上は考慮しないもの(失効数の見積もりに考慮すべきもの)とされています。

業績条件とは例えば、「〇〇〇〇年〇〇月期及び〇〇〇〇年〇〇月期の営業利益がいずれも〇〇〇百万円を超過した場合、各新株予約権者に割り当てられた新株予約権の数の〇〇%を限度として行使することができる。」といったものですが、このような業績条件は、新株発行による希薄化を懸念する既存株主の不安を払拭する効果がある一方、信頼性のある公正な価値評価であるかどうかという点において会計基準上の議論があり、将来的に規制が行われる可能性もあると思われます。


信託型ストックオプションの利点と注意点について、大まかに理解することができました。

信託型ストックオプションは、従来型ストックオプションの弱点を補うものではあるけれど、設計が複雑で注意点があり、またコストも大きいことから、従来型と上手く組み合わせて活用していくというイメージをもちました。

さらに、実際の貢献度に即した付与割合を後から決めることができるという点は、評価という点でフェアである一方、会社の規模的にまだ人事評価制度が未熟な時点では適用しづらく、また、フェアであるが故に入社スカウト時に特別条件として破格の付与数を約束する、というような恣意的なインセンティブは通用しないことになるのではとも思いました。

日々規制が変わる新しい仕組みでリスクがあることもあり、検討の際にはノウハウのある専門家への相談が必須といえるでしょう。(小原)

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未来の働き方はワーク・オンデマンド、その方法を提供する世界のスタートアップをご紹介【ゲスト寄稿】

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。 This article was first published in Entrepreneur APAC. <関連記事> ニュースレターの購読 注目すべき…

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。

This article was first published in Entrepreneur APAC.

<関連記事>


「ギグ・エコノミー」から「ギグ」という文言を削除する時が来ただろうか? ほとんどの電話がスマートになった今、誰も「スマートフォン」とは言わななった。そして今、私たちは、オンデマンドで必要に応じて仕事をすることが、仕事の未来だと思われる段階に来ている。すべての仕事ではなく、多くの仕事でだ。マッキンゼーの調査によると、61%の企業が今後数年の間に、より多くの短期労働者を雇用することを期待している。他の調査によると、専門職からブルーカラーの仕事まで、あらゆるカテゴリーでこの慣行が増加している。

市場の変化に柔軟に対応したいという雇用主のニーズと、それに合わせて仕事をしたいという人々のニーズや欲求——そんな2つの力がこのトレンドを後押ししており、その影響はスタートアップの領域で顕著に見られる。多くの新興企業が成長のために柔軟な人材を求めている一方で、必要な人的資源を提供し、サポートする企業も現れている。

東南アジアの VC である当社は、ASEAN10ヵ国で起きているこの現象を目の当たりににしている。このような動きは、モバイルテクノロジーを中心とした急速な近代化と、それに耐えうる伝統的な制度とが融合した、世界の中でも多様性に富んだ地域で独自に展開されることが多いのだ。匿名の例を挙げてみよう。新興企業 A 社は、2億7,000万人以上の人口を抱える広大な国インドネシアでモバイル決済アプリの普及に努めている。そのためには、道端の小さな屋台から実際のレストランまで、地元の飲食店を経営するワルンと呼ばれる業者を取り込むことが重要だった。ワルンは国中に存在するため、決済プラットフォームに登録するには、特定の地域を直接訪問する必要がある。そこで、オンデマンド人材派遣会社であるスタートアップ B 社が、数日後にはチームを結成して対応にあたった。

新しい人材派遣業は、オフラインとリアルの仕事をマッチングさせるマーケットプレイスを中心に展開されている。しかし、このような働き方を実現するためには、フレキシブルなスタッフを管理するためのツールや、最も需要の高い仕事のために労働者を訓練するなど、他の要素も必要だ。ここでは、世界と東南アジアの5つの産業分野における代表的なプレイヤーとビジネスモデルをご紹介する。

オンデマンド・スタッフィングのマーケットプレイス

Image credit: Upwork

企業がフレキシブルなスタッフィングを利用する理由の一つに、定期的なプロジェクトワークへの対応がある。これには Web 開発者やグラフィックデザイナーなどのホワイトカラーが関わっており、このような人材を対象としたオンラインマーケットプレイスの代表的な存在がアメリカの Upwork だ。人手を必要としているクライアントは、このサイトにプロジェクトを掲載し、その仕事に応募してきたフリーランサーを面接して選ぶことができる。

東南アジアのマーケットプレイスのスタートアップの多くはそれぞれ異なる、ブルーカラーやグレーカラーの仕事のニーズが多いからだ。マレーシアの GoGet は、興味深いダブルプラットフォームモデルを採用している。「ビジネス」ポータルでは、労働者からデータ入力スタッフ、展示会のヘルパーまで、さまざまな労働者をオンデマンドで提供しており、「ホーム&ライフ」ポータルでは、個人の買い物客、家事手伝い、列の立ち番などを個人で雇うことができる。一方、インドネシアの Sampingan(Golden Gate Ventures の投資先)は、企業の顧客にターンキーアプローチを提供することに重点を置いている。同社は、オンラインマーケティング用のナノインフルエンサーを含む、非常に幅広いブルーカラー/グレーカラーの労働者を擁し、ワークマネジメントツールとサービスを一式で提供している。後者は、それ自体が重要な製品ラインとなっている企業もある。

スケジューリングとスタッフ管理

クライアント企業にとって、フレキシブルなアワーリーワーカーの活用は、サラリーマンの場合よりも難しい。一人一人が特定の時間にしか働けないこともある。しかし、全員を効率的に採用し、必要に応じてチームでスケジュールを組み、給与支払のためにタイムレコーダー管理を行わなければならない。アメリカの WurkNow は、ブロックチェーンを利用したモバイルベースのシステムを提供している。

ベトナムでは、サムスンのようなグローバル企業からの受託製造が経済の大きな部分を占めている。スタートアップの Viet.co は、中小企業向けにオンデマンドの労働者と管理ツールを提供することで、ニッチな分野を開拓している。シンガポールに拠点を置く StaffAny は、会社の垣根を超えて働くことを可能にする管理スイートを持っている。これにより、ワーカーは仕事の機会を組み合わせて働くことができ、同時に ASEAN 全体の労働力をより流動的にすることができる。また、インドネシアの AdaKerja は、スケジューリング、給与計算、リクルーティングを1つのサービスにまとめ、これらの付加価値サービスを融合させている。

賃金への早期アクセス

欧米でも東南アジアでも、給料日までの生活を余儀なくされている労働者には、早期賃金アクセス(EWA)プログラムが人気だ。EWA には、プレペイデイ・ローン(給料日前貸出)を低金利で利用できるものと、これまでの労働時間に応じてお金を受け取ることができるものがある。アメリカでは、BranchPayActiv などの企業がこの分野の初期のリーダーだ。ASEAN のスタートアップでは、GajiGesaWagelyGajiku などが有名だ。

EWA サービスは通常、バンドルの一部として提供される。例えば Branch は、EWA とスケジュール管理や給与管理を統合したエンタープライズパッケージを販売している。PayActiv や Wagely などは、従業員が自分で予算を計画・管理できる「ファイナンシャル・ウェルネス」システムを提供している。

国境を越えた仕事の円滑化

今月初め、Papaya Global は1億米ドルを調達しユニコーン入り。それを祝して、NASDAQ MarketSite に社名が表示された。
Image credit: Papaya Global / NASDAQ

海外での雇用は、バーチャルなリモートワークの容易さと、経済のグローバル化が大きな要因となっている。我々の VC はシンガポールに本社を置いているが、ここでは世界中の人々が仕事をしているし、東南アジアの人々は家と仕事の間で物理的に国境を越えることも珍しくない。このような形態は、人材を確保するには最適だが、各国の雇用規制に対応するには頭痛の種となる。

アメリカの Deel やイスラエルの Papaya Global は、このような複雑な問題に対処するために設立され、それぞれ140カ国以上のコンプライアンスに対応している。シンガポールに拠点を置く Multiplier は、ASEAN 企業の国境を越えたコスト削減と人材アクセスの拡大を専門としており、これは東南アジア全域で成長しているスタートアップにとって非常に重要なニーズだ。

職業訓練

アメリカを拠点とする Lambda School は、コーディングやデータサイエンスのオンラインキャリアプログラムを提供しており、革新的な延納モデルを採用している。公務員が重要な雇用手段である中国では、Offcn Education Technologies(中公教育)が、公務員試験の準備やトレーニング、教員養成、職業訓練などのコースを提供し、ユニコーンの地位を獲得している。

ASEAN 諸国の政府は、オンデマンド・ワークへの支持を強めている。インドネシアでは、2020年の「オムニバス法案」で労働法を緩和し、迅速な臨時雇用を可能にしたほか、新型コロナウイルスによる経済的影響からの回復を早めるための大規模なプログラムを開始した。失業者は、近い将来の社会的支援と再就職のためのトレーニングを受けることができる「prakerja(就職前)」アカウントを取得できる。

prakerja プログラムは、人々を支援すると同時に、スタートアップのエコシステムを刺激するという二重のメリットがある。Kitalulus のような新しい企業がトレーニングを実施するために設立され、既存のスタートアップも後押しされている。急成長中のエドテック企業 Ruangguru は、初等・中等教育科目のオンライン家庭教師や自己学習用のモバイルプラットフォームを持っている。現在は、企業向けのトレーニングプラットフォームの提供にも乗り出している。コアラインと新ラインの両方が成長し続ければ、小学1年生からミドルエイジのキャリアチェンジまで、あらゆる段階でモバイルベースの学習を提供できる企業になるだろう。

結論

アウトソーシングは世界をフラットにした。オンデマンド・ワークは次の進化だ。理想的には、すべての人にとって経済がより効率的かつ効果的になることだ。

東南アジアでは、オンデマンドのスタートアップは課題を抱えている。例えば、優秀なトラックドライバーや倉庫作業員が履歴書を持っていないような地域では、ブルーカラーの労働者を事前に確認することは困難だ。しかし、ASEAN にはイノベーションを生み出すための多くの利点がある。この地域は巨大(総人口約7億人)かつ成長しており、モバイルフレンドリーだ。また、シンガポールだけでも4つの公用語を持つなど多様性に富んでいるため、スタートアップは設立当初から多彩な成長モードに入ることができる。未来の仕事の形が見えてきたとき、その多くが東南アジアで生まれてくることを期待している。

本稿の執筆には、Nidhi Singh 氏の協力を得た。

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VCもスタートアップも、サステナビリティが求められるようになる——テック界に迫るインパクト革命とは【ゲスト寄稿】

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本稿は Trista Bridges によるものだ。原文は BRIDGE 英語版に掲載した。 彼女は戦略とサステナブルビジネスの専門家であり、ビジネスを良い方向に変えることに情熱を注いでいる。サステナブルビジネス=スマートビジネスという強い信念のもと、サステナビリティを核としたビジネスモデルに向けて、マインドセット、ビジネス戦略、働き方をシフトさせるために「Read the Air」を共同設立した…

Trista Bridges
©Dan Taylor/Heisenberg Media

本稿は Trista Bridges によるものだ。原文は BRIDGE 英語版に掲載した。

彼女は戦略とサステナブルビジネスの専門家であり、ビジネスを良い方向に変えることに情熱を注いでいる。サステナブルビジネス=スマートビジネスという強い信念のもと、サステナビリティを核としたビジネスモデルに向けて、マインドセット、ビジネス戦略、働き方をシフトさせるために「Read the Air」を共同設立した。

デジタルメディア、ヘルスケア、消費財、金融サービスなど、さまざまな分野で活躍。最近発売された「Leading Sustainably: The Path to Sustainable Business and How the SDGs Changed Everything(仮訳:持続可能なビジネスへの道、いかに SDGs が全てを変えたか)」の共著者。

<これまでの Trista Bridge による記事>


日本では ESG 投資が飛躍的に拡大し、SDGs が政府、企業、個人を問わず受け入れられている。現在、「グリーンウォッシング」には事欠かないが、我々の社会観に根本的な変化が起きていることは否定できない。社会的平等から気候変動まで、そしてその間のすべての問題に至るまで、我々の世界はかなり大胆な問題を抱えていることが広く認識されている。これらの問題への取り組みの緊急性は高まっているが、どのように解決するのが最善か、またその責任は誰にあるのかについては、まだ結論が出ていない。

企業は今まで以上に行動を求められる

以前はこのような問題を解決するために、我々は本能的に国に頼っていた。しかし、政府だけでは対応できないことが分かってくる。マルチステークホルダーの世界へと移行し、世界の課題に対して様々な主体がより大きな役割を求められるようになってくる。企業以外では、現時点でさらなるステップアップを期待されているステークホルダーはほとんどいない。あらゆる規模の企業が、環境や社会へのマイナスの「影響」を最小限に抑え、プラスの「影響」を最大化するという、よりサステナブルなビジネスモデルの採用を求められている。例えば、最近の日本の「2050年カーボンニュートラル」宣言のような動きは、あらゆる規模の企業が二酸化炭素排出量を削減するための措置を講じる必要があることを意味している。すでに、Apple は2030年までにサプライチェーン全体で100%のカーボンニュートラルを達成するという約束をしているが、他の企業も同様の大胆な行動をとる必要があるだろう。

このようにインパクトの重要性が高まっていることは、我々がビジネスの価値を定義する方法を再検討する初期段階にあることを示している。財務力は常に重要だが、環境や社会への影響、そして自社のガバナンスに注意を払わない企業は、実際には成功を危険にさらしているという考えが広まっている。

Image credit: 401(K) 2012 via Flickr
Creative Commons Attribution-Share Alike 2.0 Generic

テック界に迫るインパクト革命

最近まで、これは大部分が上場企業の現象であり、テック系スタートアップのエコシステムは一般的にこの議論の外に置かれていた。しかし今では、テック業界にも本格的に導入されようとしている。ESG にスポットライトが当てられたのはビッグテックが最初だが、スタートアップや VC、その他のエコシステムのプレイヤーは、サステナビリティの要素について、これまでにないほど精査され始めている。しかし、イノベーターやその投資家は何に最も注意を払う必要があるのだろうか。 ここでは、このトレンドがテックエコシステムの2つのコアプレイヤーである VC とスタートアップのゲームをどのように変えているかについて、いくつかの考えを紹介しよう。

ベンチャーキャピタルへの影響

サステナビリティを重視した原則や慣行の採用は、控えめに言ってもベンチャーキャピタルの間ではほとんど行われていない。プライベートエクイティファームは近年 ESG の導入に向けて躍進し、場合によっては特定のインパクト投資ファンド(TPG の「Rise Fund」を参照)を開発したこともあるが、ベンチャーキャピタルファンドの参入は遅々として進まないのが現状だ。ヨーロッパのベンチャーキャピタルは現在のところ最も進んでおり、Idinvest/EurazeoAtomicoBalderton などのファンドが ESG やサステナビリティへの取り組みをいち早く進めている。最近になって、アメリカのベンチャーキャピタルでは、気候や多様性などのテーマに沿ったファンドが増加している。最後に、Sequoia のような有力ファンドが、サステナビリティ、特に気候技術(climate tech)に積極的に投資することを発表している。しかし、これはまだ始まりに過ぎず、ベンチャーキャピタルのコミュニティにはまだ道のりがあることは明らかである。とはいえ、今後数年でこの分野の投資が加速するであろう3つの重要な理由がある。

  1. リスクの軽減。金融とテクノロジーの両面で規制環境がますます厳しくなっており、消費者の意識が高まり、「良いビジネス」とは何かという基準が変化している中で、スタートアップがこれらの問題にどのように取り組んでいるかを考慮せずに投資を行うことは、ますますリスクが高くなっている。投資機会のスクリーニングに ESG 基準(最低でも)を使用することで、投資家はポートフォリオのリスクを軽減するための具体的な方法を得ることができる。
  2. リミテッドパートナー(LP)の利益。LP は、市場をリードするリターンをファンドに求めているが、サステナビリティの重要性も急速に高まってきている。場合によっては、ステークホルダー(株主、顧客、出資者)がサステナビリティを求めていることもある。また、ファミリーオフィスのように、個人が自分たちの価値観を投資方法に反映させたいと考えているケースもある。将来的には、VC がファンドの運営や投資活動に ESG の原則や実践を取り入れなければ、評判の良い LP から資金を調達することは困難になるかもしれない。
  3. 機会。これまでの技術の波は、接続性、効率性、情報の発見など、多くの第一階層の問題に取り組んできたが、次の波は、より根本的な社会的課題や環境的課題に取り組むことになるだろう。将来の価値は、これらの複雑な問題を解決するイノベーションによって牽引されることになるだろう。
Image credit: nosita via Pixabay

スタートアップへの影響

起業家が限られたリソースで会社を設立しようとするとき、一般的に言えば、彼らが最後に考えるのは自分たちの製品が環境や社会に与えるインパクトについてだ。そして、もっともなことだが、彼らが重視するのは、プロダクトマーケットフィットや顧客の獲得など、ビジネスの基本的なことに集中する傾向がある。しかし、スタートアップはバブルの中でビジネスを構築しているわけではない。本稿で述べた社会的・環境的ダイナミクスの多くは、今後のスタートアップの成功に影響を与えるだろう。現在では、スタートアップの規模拡大を支援する制度(資金調達やトレーニングなど)は以前よりも増えた一方で、スタートアップが事業を展開している環境は、ほんの10年前に同業他社が直面していた環境よりも、多くの点で複雑で競争の激しいものとなっている。そして、パンデミックによって、この状況はさらに複雑になっている。この新しいパラダイムに備え、成功するために、スタートアップは何ができるのだろうか?

  1. リスクを予測し、それに応じた準備をすること。今日のスタートアップは、過剰な規制や複雑さを恐れて、先代の人々が敬遠していた分野でイノベーションを起こしている。これは称賛に値することだが、一方で新たなリスクも抱えている。早期に社会や環境への影響を考慮したアプローチをとることで、将来的に起こりうる問題を回避することができる。例えば、AI を使ってイノベーションを起こしている起業家は、自分たちが開発したサービスのバイアスや悪質な利用の可能性について潜在的な問題を考慮しているだろうか。これらの潜在的な問題を回避するために、彼らはどのような行動をとることができるだろうか? あるいは、フードデリバリサービスは、公正な労働慣行やプラスチック包装廃棄物の山が環境に与える影響について考えているだろうか? これらの問題に早期に先手を打つことは、規制上、風評上、またはその他の理由で、将来起こりうる問題を回避するのに役立つ。
  2. 投資家の優先順位の変化に対応すること。当然のことながら、VC のサステナビリティへの関心は高まっているため、同じような取り組みをしているか、そうすることに意欲的なスタートアップに目を向けることになる。 VC がコミットメントを行う際には、LP やその他のステークホルダーに、ファンドと投資先が連携して動いていることを示す必要がある。これは、多くのスタートアップにとって大きな要求であることは言うまでもない。これを実現するためには、ベンチャーキャピタルはこれまでとは異なる方法で、多くの場合、これまで以上に積極的にスタートアップを支援する必要がある。
  3. サステナブルなイノベーションへの傾倒。心強いことに、気候技術(climate tech)、フードテック、サステナブルなファッション、フィンテック、ヘルスケアなどの分野では、スタートアップにとって無限のチャンスがある。効率的かつ低コストで炭素を効率的に捕捉・蓄積し、ヘルスケアへのアクセスにおける不平等を大幅に削減し、食糧システムの回復力を強化するような製品やサービスを構築するスタートアップは、次世代の勝者となるだろう。NorthvoltImpossible Foods、日本のユーグレナのような急成長中の成功事例は、すでにそれが実現しつつあることを証明している。今日ポジティブなインパクトを与える機会に取り組むことが、明日には配当につながるのだ。

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世界的な「後払い(Buy Now, Pay Later)」ブーム、東南アジアが牽引するかもしれない理由【ゲスト寄稿】

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本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。 This article was first published in Entrepreneur APAC. <関連記事> ニュースレターの購読 注目すべき…

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。

This article was first published in Entrepreneur APAC.

<関連記事>


1958年、ソビエトとアメリカの宇宙開発計画が人工衛星を軌道に乗せるための競争を繰り広げていた時、Bank of America は、地球上に多大な影響を及ぼすであろう商品を発売した。BankAmericard は、後に Visa となり、リボ払いのクレジットカードの普及の先駆けとなった。これは宇宙時代の消費者に「現代の支払方法」として宣伝された。

今、新しい支払方法が飛び立とうとしている。BNPL(Buy Now, Pay Later=後払)モバイルアプリの世界での利用は、2018〜2019年の1年間から162%急増した。アメリカでは昨年、BNPL は240億米ドルの購入額を占めた。パンデミックが始まったとき、従来のクレジットカードの取引量は減少したが、BNPL は e コマースの成長と並んで上昇を続けた。BNPL は、今後数年間でデジタル購買の中で最も急速に成長する形態になると予想されており、2025年までに世界中で3,500億米ドル近くの取引に達すると予測されている。

これまでのところ、BNPL の成長は、それぞれスウェーデン、アメリカ、オーストラリアに拠点を置く Klarna、Affirm、Afterpay などの欧米系スタートアップが牽引してきた。これらの企業は、他のいくつかの企業と合わせて年間30億米ドルを超える収益を上げ、昨年の Mastercard の収益の約20%に達すると予想されている。 しかし、東南アジアでは、BNPL には3つの特長がある。第一に、クレジットカードの普及率が低いため、BNPL にとっては競争が少ないこと。第二に、銀行がクレジットカード発行のために必要とする信用格付け機関が実現するのは、ほとんどの ASEAN 諸国では10年も先のことであること。 そして最後に、負債を嫌うアジアの文化は、「現金と同じ」と感じる「ゼロ金利」の分割払いを温かく受け入れていること、だ。

そのため、当社の東南アジアのベンチャーキャピタルは、ASEAN 10カ国の BNPL 新規参入企業に注目している。インドネシア、ベトナム、マレーシアなどの発展途上国や、小さいながらも高度に発展したシンガポールでは、課題を抱えている市場がある一方で、BNPL モデルのメリットに対する強い受容性も見られる。

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バリュープロポジションと ASEAN の成長

「Klarna」
Image credit: Klarna

クレジットカードの借金を回避したい、または回避する必要がある消費者のために、BNPL は古い概念を現代風にアレンジした分割払いプランを提供している。あなたがミレニアル世代(主要な見込み客層)で、新しいアパートの家具を探しているとしよう。Web 上で素敵なソファを見つけたものの、それは数百米ドルとあなたの給料では高額だ。理想的にはコーヒーテーブルも欲しいところだが、それだとさらに高くなってしまう。「カートに入れる」ボタンの隣には、数ヶ月間の支払をゼロ金利で分散できるオプションがあり、すぐにこのクレジットの資格を得ることができる。「たった5つの情報でリアルタイム審査できる」と、ある BNPL 企業の売り文句には書かれている。だから、あなたもソファを購入し、カートにテーブルを入れる。

この典型的なシナリオは、BNPL 企業がクレジットカード会社よりも加盟店に高い取引手数料を請求できる理由を示している。BNPL は、クリックスルーのコンバージョン率を高め、BNPL が無ければ発生しないような販売を促進する。さらに良いことに、それは AOV(平均注文量)を押し上げる。一方、新規顧客にはアプリが提供され、加盟店の商品の定期的なプロモーションが表示され、リピートビジネスも増加させる。

BNPL のアカウントを持つ顧客は、もちろん過剰な支出をしたくなるかもしれない。クレジットカードと同じように、延滞料が発生したり、有利子ローンを組んだりすることになるかもしれない。しかし、簡単で無利息のエントリーポイントを提供し、ワンタッチで口座の状態を透明化できるアプリと組み合わせることで、新規ユーザを維持するのに十分なのだ。特に東南アジアでは、文化的にクレジットカードが敬遠されている一方、無利息の分割払いがスマートな支出方法のように感じられている。欧米では60~80%であるのに対し、ASEAN のクレジットカードの普及率は低く、ほとんどの国では数%ないし20~30%となっている。対照的に、人口2億7,500万人を持つ東南アジア最大の国であるインドネシアでは、BNPL 企業の Kredivo と Akulaku の2社が、Google Play 上で既に1,000万件以上アプリがインストールされている。シンガポールで設立・拠点を置く Hoolah は、2020年の一年間で取引量を1,500%増加させた。

この急速な成長は、BNPL 企業がクレジットカード会社とは根本的に異なる点にも起因している。クレジットカードは、銀行口座間のリンクとしての役割を果たす。例えば、Visa や Mastercard は、実際にクレジットカードを発行する銀行から、あなたが購入した加盟店口座に送金する。一方、独立した BNPL は、ネットワークリンカーとバンカーを一つにまとめたものだ。Hoolah は買い手にクレジット機能を提供し、売り手にお金を直接支払う。これにより、従来の銀行取引のような手間をかけずに、新しい加盟店を簡単にオンボードすることができる。

明らかなマイナス面は、BNPL がより多くのリスクを負うことだ。景気後退の局面で、Visa は収益を失うかもしれないが、デフォルトについて心配する必要はない。しかし、BNPL 事業を立ち上げるとき、あなたはその日から立ち往生する可能性がある。そして、アントレプレナーシップのすべての分野でそうであるように、チャレンジをチャンスに変えることで成功することができる。

ASEAN の BNPL はどう輝くか

ネットプロテクションズが2020年に発表した世界の BNPL カオスマップ
Image credit: Net Protections

おそらく一番厄介なのは、クレジットに申し込む人の審査だ。それは迅速に行われなければならない。クレジットカードを利用する資格が無いかもしれないが、それにもかかわらずリスクが高いユーザを対象にしなければならないため、スイートスポットが存在する。さらに、東南アジアのような比較的新分野の市場では、従来の審査は厳しくなる。前述の通り、ほとんどの国にはアメリカ型の FICO スコアを作成する信用情報機関がない。多くの人々は、いずれにしても信用情報が乏しく、多くの人々は銀行から融資を受けていないか、あるいは最近融資を受け始めたばかりだ。

プラス面としては、デジタルウォレットの利用率が高いことが挙げられる。大手の GrabPay と GoPay は、人気の高い配車サービスや宅配サービスを提供する企業によって誕生したもので、ASEAN 全体で巨大なユーザ基盤を持ち、成長を続けている。シンガポールに拠点を置く Grab とジャカルタに拠点を置く Gojek だ。このようなウォレットを利用することで、詳細な支出履歴を把握することができる。

すべての要素を考慮すると、BNPL は今後5年から10年で東南アジアで爆発的に成長すると私は見ている。主要なプレイヤーは、リスク評価のためのアルゴリズムやデータセットを開発しており、時間が経てば経つほど価値が高まるだろう。ユーザが利用を始めた後のリスクに積極的に対処するために、BNPL 企業は顧客エンゲージメントや支払スケジュールの調整などの分野でイノベーションを起こしている。

また、欧米の BNPL がよく扱う取引よりも小規模な取引でも利益を上げられるようになってきている。(例えば、アメリカの Affirm は、2,000米ドル以上の Peloton 社製エクササイズバイクの購入に多くの資金を供給している。消費力が低いながら成長している ASEAN 市場では、平均的な買い物は200米ドル以下だ。最も多く購入されているのは衣料品や身の回りのアクセサリーなどである。)

また、従来の銀行やグローバルなクレジットカード会社を利用したいと考えていても、今のところ利用できていない顧客を、この地域の BNPL 企業が獲得していることがわかる。注目すべき新進気鋭の企業としては、Hoolah、Pace、Atome、日本の Paidy などが挙げられるだろう。 さて、ここで最後のポイントだが、こういった企業は自国や近隣の市場の強みを活かして成長しているが、サイバースペースには国境が無い。ASEAN のトップ企業は、英語と地元言語の両方でサービスを提供している。新しい消費者金融の質問は「財布の中に何が入っているか」ではなく「スマートフォンに何が入っているか」だ。その答えが東南アジアの BNPL アプリになる日が来ても驚かないでほしい。

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未来で働く人々に聞いた、2021年のスタートアップトレンド予測【ゲスト寄稿】

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本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。Mark Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿) The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture c…

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。Mark Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist.


Image credit: Pixabay

新しい年が明けると、しばしば私は未来を想像するのが好きなので、技術革新の新しいトレンドを予測することに生計を立てている人、典型的には起業家や仲間のVCにアドバイスを求めることが多い。
もちろん、2020年は他の年に比べて過激な異例の年であることが証明されているので(そして、2020年がついに終わりを迎えたと感じていられるのも、1月の最終週である今週までだ)、私が既に未来で働く人々から直接知恵を求めるのは今こそ適切だと思った。日本での最初のファンドを成功させることができたのは、以下の方々のおかげだ。彼らの言葉は福音だ。

(訳注:本稿はこれから生じることについて、未来視点から過去を振り返る形で書かれているものがあります。それらについては、日本語訳も過去形で表現しています。)

Jay Winder 氏(MakeLeaps 創業者。2018年にリコーが買収。)

私は常に、未来の世代が我々のことをどう見るかに興味を持っている。だから、私の予測は、将来、我々がどう見られるかに基づいている。我々の子孫は、直前の10年を振り返って見ることになるだろう。

ほとんどが共有されていた現実の経験が、すべてのニュースフィードに組み込まれた「確証バイアス・アズ・ア・サービス」アルゴリズムによって、何億もの個別の現実へと分裂していくのだ。

かつて中央集権的な情報源や権威への信頼が存在していた穴で、いくつかの新しい宗教が誕生した。

前述した点に関連して、デジタル希少性の革新の上に築かれた主権を持つインターネットネイティブの貨幣システムという、人類史上最も重要な発明の一つが誕生した。

Stephen Leguillon 氏(フランスのオンラインプライベートシェフ予約プラットフォーム「La Belle Assiette」およびケータリングプラットフォーム「GoCater」創業者。前者は Elior、後者は EZCater が買収。)

生産性 SaaS、マーケットプレイス、消費者向けビジネスは、フィンテックやインシュアテックのインフラ企業を利用して収益を増やすことになるだろう。例えば、マーケットプレイスは、Swan や Stripe Capital のような Banking as a Service(BaaS)のユーティリティをプラットフォームに利用し、マーケットプレイス上のサプライヤーのために銀行口座を開設したり、デットファイナンスを行ったりするだろう。あるいは、EC プラットフォームは、Seyna のような Insuarance as a Service の ユーティリティを使用して、製品の保証を販売することになるだろう。2021年には、このようなマネタイズ戦略がトレンドになるだろう。

Shopify の2020年の成功と新型コロナウイルス感染拡大が促したデジタル化の必要性から、ブランドや独立系小売業者は、アグリゲーターマーケットプレイスからの独立を加速させるだろう。ブランドや独立系小売業者は、DTC マーケティングと流通を倍増させていくだろう。これは、このトレンドを可能にする SaaS やインフラ企業に巨大な成長機会をもたらすだろう。

2021年の技術とビジネスの議論は、GAFA の独占とそのアンバンドリングに集中するだろう。実際の結論や行動は2021年には出てこないと思う。

Warren Hayashi 氏(オランダ発のグローバル決済企業 Adyen 創業者。2018年にIPO。)

分割払いは日常的な支払方法になるだろう。利便性の向上と家計の逼迫という双子の力によって、分割払いの選択肢が主流となり、この傾向は2021年には拡大すると予想されている。機械学習アルゴリズムは、これまで以上に瞬時にリスクを評価できるようになり、レジで「今買って後払い(buy now, pay later)」オプションを簡単に提供できるようになっている。小額商品や中額商品の場合、買い物客は今100ドルを支払う代わりに、毎月25ドルを4ヶ月間支払うことを知るようになる。このような透明性があることで、買い物を躊躇している買い物客も簡単に購入に踏み切ることができ、最悪のショッピングカート放棄を回避したいと考えている加盟店にとっては魅力的だ。

2021年には、「今買って後払い」オプションを提供するプロバイダは、高額な複数年契約に焦点を当てているところもあれば、50ドル程度のショッピングバスケットの分割払いプランを提供しようとしているところもあるため、それ自体が分かれ始めるだろう。ストリーミングサービスからフードデリバリープレミアムメンバーシップまで、あらゆるものを月ごとに支払うことに慣れてきた世帯の目には、分割払いプランは、たまたま終了日が決まっているだけのサブスクリプションのように見え始めている。

Marty Roberts 氏(医薬情報担当者(MR)支援「エンタッチ」創業者。2020年に東邦薬品が買収。)

私の直感では 2021年は反幕末的な予感がしている。我々は平常心と平穏に戻る。そして、我々はそれについて奇妙に感じるだろう。
私が正確に予測できることは、あなた(Bivens 氏)のファンドのための別の魅力的な投資機会に関与しているということだ。

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アーメン、マーティ。新しい年が穏やかで健康であることを祈っています。

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