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ハードウェア・スタートアップ向けクラウド「BERG」のMatt Webbが語る、ロンドンのスタートアップ・コミュニティTechCityの魅力

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読者の中には、TechCity の名前を耳にしたことがある人も少なくないだろう。イギリスのスタートアップ・ハブとして名高いロンドン東部に広がるこのエリアでは、近年、IoT (Internet of Things) を作り出すハードウェア・スタートアップの隆盛が顕著だ。 先月、グランドフロント大阪で、スタートアップ・イベント HackOsaka 2014 が開催されたが、その前日、筆者は TechC…

読者の中には、TechCity の名前を耳にしたことがある人も少なくないだろう。イギリスのスタートアップ・ハブとして名高いロンドン東部に広がるこのエリアでは、近年、IoT (Internet of Things) を作り出すハードウェア・スタートアップの隆盛が顕著だ。

先月、グランドフロント大阪で、スタートアップ・イベント HackOsaka 2014 が開催されたが、その前日、筆者は TechCity で活動するスタートアップ BERG の CEO Matt Webb と、世界的にも有名な Pebble の CEO Eric Migicovsky にインタビューする機会を得た。

本稿では Matt Webb の話を中心に取り上げたい。同席したジャーナリストの湯川鶴章氏や Eric からも質問が投げかけられ、リラックスした雰囲気の中で Matt の深い洞察を知ることができる貴重な機会となった。

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Pebble の CEO Eric Migicovsky(左)、BERG の CEO Matt Webb(右)

まずは、今、やっていることを教えて。(池田)

Matt: Matt Webb です。BERG の創業者です。プロダクトをネットにつなぐのをサポートするクラウドサービスを作っています。IoT が日常に流れ込んできていますが、IoT をやっているところは小さな会社が多いです。我々は彼らがプロダクトを作りやすくしています。

ハードウェアのスタートアップというのは、皆、共通の問題を抱えています。お客さんのプロダクトがネットにつながらなくなったら、どんなメッセージが表示されているかを確認してもらい、何度も方法も試してもらったり、ハードウェアが壊れたら、それがどんな状況なのかを聞き取る電話サービスも必要でしょう。でも、ハードウェアのスタートアップ一社一社は小さいので、すべての顧客サービスを自分で提供するのは難しいです。我々はクラウドにつながる API をハードウェアのスタートアップに渡し、ハードウェアを作ること以外の周辺サービスを提供することにしたのです。ハードウェアの Amazon Web Services ですね。

我々自身もネットにつながるプリンタを作っていたことがありますが、それに使っていたライブラリを集めて、ハードウェア・スタートアップに共通の問題を解決するサービスをすることにしました。

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チップにファームウェアを載せて、それをハードウェア・スタートアップに提供するようなことをやっているの?(Eric)

Matt: アイデアを考えついてから市場に早く出すことに注力しているので、現在はクラウドベースです。高性能な WebAPI を開発することができたので、これを提供することで、ウェブ開発者でもハードウェアを作れるようになりました。組込型の開発者だけではなくて。チップの世界へと足を踏み入れるのは、クラウドで勝ってからですね。

ウェブ開発者でもハードウェアを作れる環境を提供することで、ハードウェアの生まれ方が変わります。なぜなら、ウェブというのは、(プロダクトが完成を見るまでに)いろんなものが〝割り込んで来る〟分野ですよね。誰かがプロトタイピングしたものに、他の誰かが次々と何かを追加していく。違うプラットフォームでやっている人も加わって来る。この考え方をハードウェアの世界にももたらしたい。それこそが、BERG の目指しているものなんです。

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現在の BERG のユーザやお客さんは、どういう人たち?(池田)

Matt: この市場(ハードウェア向けクラウド)はまだできたばかりなのだけど、2つのグループに大別できます。俗に〝Hardware Innovative〟と呼ばれるハードウェア・スタートアップの人たちと、大企業の中でイノベーションをやっている人たちですね。大企業の人たちは必要なものを自社で持っているので、我々のサービスは必要ないのだけれど、プロトタイピングの段階でユーザ・エクスペリエンスを実験するのに組込型でやると時間がかかってしまうので、我々のサービスを使ってくれています。

他に面白いのは、London Hardware Collective というハードウェア・スタートアップの集まりですね。ロンドンでハードウェアを作り始めた会社が10〜20社くらい集まっていて、作ったアイテムは数百種くらいかな。Kickstarter でローンチしたり、顧客のために何かを作ったりしています。

「ロンドンは今や、ハードウェア・スタートアップの街だ」という記事を読んだことがあるんだけど、ロンドンはハードウェアのインキュベータとかも充実してるの?(池田)

Matt: サンフランシスコに PCH International という会社がやっている、Highway1 というインキュベータがあります。ハードウェアの世界ではいいインキュベータで、彼らの contract worker がロンドンで積極的に活動していましたが、それはひとまず終わりました。それ以外にも、ハードウェアのスタートアップに出資している昔ながらのVCが数人います。我々のシード資金調達も、そのようなところからしましたね。

ロンドンは非常に面白い街で、少し郊外のケンブリッジは電子産業で有名だし、ロンドンはすごくデザインに強い街なんです。エンジニアのハブにもなっている。5年前には何もなかったけれど、TechCity ができたことで、彼らは会社を立ち上げるという感覚を身に付けるようになったんです。

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つまり、TechCity はイギリスの他の地域からやってくる人も魅了していると?(Eric)

Matt: えぇ、そうです。面白い話があります。私の知っている会社はロンドン郊外でスタートしたのですが、Kickstarter で何かをローンチしたら、突然 TechCity に移ってきたのです。彼らは何をしていいかわからなかったけど、とりあえず TechCity に移ってきた。

そうして、2012年にはスタートアップの数が3,500社になりました。その2年前には15社だったのに。昨年はロンドン全域で、テックやデジタル系の会社からの新しい仕事の成長率が27%の伸びを見せたそうです。(筆者注:この数については諸説あるが、統計対象の違いによるものと考えられる。)

イギリス政府が資金調達やスタートアップのエンゲージメント積極的なの?(Eric)

Matt: 政府がもたらしてくれている最良のことは、TechCity という地域に、人々の注意を引いてくれていること。イギリスの金融危機はひどいものでした。そんな中、政府にはできて、他の組織にはできないことは何か。場所に光を当てて、そこに集まる人を魅了することだっだのです。

アメリカでは国外の人が働くのは大変かもしれないけど、ロンドンは、例えば、ポーランドにすごく優秀な iOS の開発者が居れば、その人を呼び寄せて仕事してもらうこともできるわけです。これは市場のスケールの違い(ヨーロッパという単一市場)から来ているものだけれども。

BERG は2013年の初めからシードラウンドの資金調達をはじめ、2013年9月にそれを終えたのだけど、この分野に投資してくれそうな個人投資家と会ったんです。ヨーロッパ全域では10人、イギリスでは12人、そしてアメリカでは100人。この人数の違いが、スタートアップの市場スケールの違いを物語っているわけですね。

でも、最初のドットコム・ブーム(1990年代末)のときに、アメリカに行ってしまったベンチャーキャピタリストとかは、最近イギリスに戻り始めました。私が TechCity に関わり始めたのは、サンフランシスコに行きたくないから。だって、ロンドンには友達がたくさん居るのに、ロンドンを離れたくないよ。(湯川氏と池田を指して)君達も東京にいるんじゃなくて、誰かにモノを言う前に、自分達が出身地の大阪に戻って来るべきじゃないの。(笑)

大都市ではコミュニティを作るのに時間がかかるけど、小さな街ではコミュニティを作って人々が会う機会を作りやすい。これはロンドンのような小さな街のメリットの一つだと思う。

最後に、現在のビジネスの状況はどう? BERG のビジネスはいい感じ?(池田)

Matt: えぇ、とっても楽しい。もともと BERG はデザイン・コンサルタンシーとしてスタートして、クライアント向けにサービスを提供していた。その後、スタートアップをするようになって、デザイン・コンサルタンシーをやっていたときには有効だった、あらゆるノウハウは使えなくなった。でも、マーケティングのやり方、プロジェクトのローンチのやり方、すべてを学ぶことができたのは、非常にエキサイティングな経験だ。

多くのスタートアップがイグジットを目指してアメリカに渡り、ベイエリアでアメリカ企業に買収されたりするのを狙っている。確かに、ヨーロッパは買収市場としては大きくない。なので、我々のようなスタートアップは、これからの動向を見守っている状況なんだ。ロンドンはニューヨークより数年後ろを走っているし、サンフランシスコよりは10年後ろかもしれないけど。

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時代の変化は速い。これは日本よりも欧米で顕著に思えるのだが、一年ぶり位に同じ街を訪れてみると、スタートアップのトレンドがガラリと変わっていたりする。コミュニティのコアにいる起業家の顔ぶれがそのままであることを考えると、ビジネスのピボットが頻繁に行われているのだろう。

ロンドンを拠点に活動する Matt が、新興のスタートアップ・ハブとしてベルリンを賞賛していたのは印象的だった。そして、ロンドンにもベルリンにも共通して言えることは、多種多様な人々が行き交い、スタートアップ・コミュニティが人種のるつぼ(melting pot)と化していることだ。スタートアップが世界的に受け入れられるサービスを作り出すために、これは日本のコミュニティにも求められる素地かもしれない。

Pebble の CEO Eric Migicovsky とのインタビューは、本稿の次編でお送りする予定だ。お楽しみに。

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HackOsaka 2014: コンペティションの優勝者は、Google Glass向け翻訳アプリを開発中の「Waygo」

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これは19日大阪で開催された、スタートアップ・カンファレンス「HackOsaka 2014」の取材の一部だ。 HackOsaka 2014 のクライマックスとなる最後のセッションでは、スタートアップ10社がピッチを行った。入賞上位に輝いたスタートアップを紹介したい。 Gold Prize: Waygo (副賞:50万円と、British Airways 提供によるロンドン往復航空券、トロフィー、P…

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これは19日大阪で開催された、スタートアップ・カンファレンス「HackOsaka 2014」の取材の一部だ。

HackOsaka 2014 のクライマックスとなる最後のセッションでは、スタートアップ10社がピッチを行った。入賞上位に輝いたスタートアップを紹介したい。

Gold Prize: Waygo

(副賞:50万円と、British Airways 提供によるロンドン往復航空券、トロフィー、Pebble Watch)

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Waygo CEO/founder Ryan Rogowski

Waygo は OCRを使った翻訳アプリだ。スマホのカメラを中国語にかざすと、インターネットにつながっていなくても翻訳して読み取ることができる。これまでにも、Echelon 2013 や Innovation Weekend Grand Finale 2013 の記事でも取り上げているので、我々の読者の中には既に知っている人も多いだろう。昨年には 500Startups のインキュベーション・プログラムに参加し、その後、90万ドルの資金調達を成功させている。

CEO の Ryan Rogowski が共有してくれたニュースが2つある。中国語→日本語に変換するバージョンが近々リリースされるということ、そして、Google Glass 向けの Waygo アプリのプロトタイプを開発中ということだ。メニューや看板を翻訳して読み取る上で、もはやスマホをかざす手間も必要なくなるわけだ。

半ば成功のステップを歩んでいて、既に創業者達が世界中を飛び回っている Waygo が Gold Prize を獲得したのは、シード前のスタートアップにチャンスを与えるという観点からはやや予想外だったが、それがコンペティションの公正さというものだろう。彼らのアプリがロンドンで受け入れられれば、ヨーロッパからアジアへの旅行者も増えるかもしれない。大いに期待しよう。

Silver Prize: TransferGo

(副賞:30万円とトロフィー、Pebble Watch)

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TransferGo Co-founder/CEO Daumantas Dvilinskas

世界には、家族が国外に居て、出稼ぎ先から送金するようなニーズが結構ある。銀行を使うと国際送金手数料が高いので、Western Union のような送金業者を使ったり、海外出稼ぎが多いフィリピン等では、モバイルで生活費を送金したりすることも極めて一般的だ。

リトアニアのビルニウスと、ロンドンに拠点を置く TransferGo は、国際送金を安価にするスタートアップだ。A国→B国に送金する際、次のような流れにになる。

  • ユーザは A国にある TransferGo の口座に送金(ユーザには、国内の振込手数料しかかからない)。
  • TransferGo はB国の自社口座から、翌営業日にB国の受取人に送金。

送金手数料は £2.50(約430円)/回+送金額の1.5% となっており、同社にとっての実質利益は70%と値は高い。一見、マネーロンダリングを助長するかのような雰囲気を伺わせるが、サービス提供国の金融当局からは、それぞれ免許を取得しているとのことだ。

2013年5月にローンチ、ローンチ当初の月間取引件数は941件だっだたが、2014年1月には6837件に達した。現在、2.1万人のユーザが居て、98% は友達に勧めたいと言っているとのことだ。現在はヨーロッパで展開しているが、近い将来、他地域への展開を検討しており、まずは最初にアジアでローンチを目指すとのことだ。

Bronze Prize: StudyPact

(副賞:10万円とトロフィー、Pebble Watch)
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StudyPact はユーザに学習機会の達成を促し、掲げた目標を達成できればお金がもらえ、達成できなかったらお金を支払うサービスだ。例えば、1週間で2時間、英会話の勉強をすることを目標に掲げ、達成できたら5ドルもらえるように設定したとする。達成したら5ドルもらえるが、達成できなかったら5ドルを支払い、この5ドルのうち半分の2.5ドルは応援してくれた他ユーザに分配され、残りの2.5ドルは StudyPact が受け取るしくみだ。

より効果的な学習環境を提供するため、DuolingoAnkiMemriseCourseraEdx などの学習教材プラットフォームと提携する。Anki を導入したプロトタイプが2週間後にリリースされる予定で、Android、Chrome、FireFox、iPhone 向けのアプリを開発する予定だ。Open Network Lab のアクセラレータ・プログラムに参加しているということなので、数ヶ月後に開催される同インキュベータの第8期のデモデイで、どのような成果を見せてくれるか楽しみだ。

Crosscorp Prize: Slumbor

(副賞:シンガポール、ジャカルタ、デリー、ホーチミンシティなどにある、Crosscorp のコワーキング・スペースが1年間無料で使える権利)

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AnSing Technology CEO Dr. Hu Junhao

Slumbor はシンガポールを拠点とするスタートアップで、枕の下にマットタイプのセンサーを配置することで、さまざまなバイタルデータを取得する。BLE (Bluetooth Low Energy)で取得した値をスマートフォンに転送、病気を予防することを目的としている。2014年1月〜5月、中国・深圳の IoT 専門インキュベータ「HAXLR8R(ハクセラレータ)」のプログラムに参加しており、その後、Kickstarter で資金調達を図りたいとしている。

入賞したのは以上4社のスタートアップだが、それ以外に注目に値するスタートアップを2社見つけたので、この機会に紹介しておきたい。

Ontrox

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Ontrox CEO 有田和樹氏

大阪に拠点を置く Ontrox はビッグデータを使って、交通渋滞の緩和を狙うスタートアップだ。ビッグデータを活用すると、さまざまな都市で見られる交通渋滞に一定のパターンが見受けられるという。Ontrox のアドバンテージは、同社固有の技術を使ってそれを見える化し、通常は長い時間がかかる計算をミリ秒単位で完了できる点にあると言う。

同じ技術は、コンピュータ・ネットワークのデータ・トラフィックを分析・最適化したり、ECサイトのユーザ行動を分析したりすることに活用できるとのことだ。JETRO の SVIP(Silicon Valley Innovative Program)の10社のうちの1つに採択され、シリコンバレーから全世界に通用するサービスのローンチを目指している。

Warrantee

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大阪に拠点を置くスタートアップの Warrantee は、数々の製品の保証書の電子化を目指している。製品を購入したとき、その製品に対する補償を有効にするには、必要事項を所定のフォーマットに記入して郵送したり、オンラインで入力したりする必要がある。しかし、この作業は面倒なので、実際には保証登録をしないまま製品を使い続けているユーザは多いだろう。

この登録作業をワンストップで提供するのが Warrantee だ。必要項目を予め入力しておけば、異なる複数のメーカーの複数の製品に、簡単に保証登録を完了することができる。メーカーのみならず、小売店が有償で追加補償サービスを提供するケースも多いので、これらの追加補償サービスへの登録をユーザに促すことで、Warrantee は小売店から一定の手数料を得られることを期待している。加えて、集まったユーザ情報を小売店は、新製品の発売や売出情報の告知に使うことができるので、プロモーションの観点からも、小売店から費用を徴収することができるだろう。


本稿で紹介したスタートアップは、いずれも、我々が日常的に東京で出会うスタートアップとは違った志向を持っていて、発想がユニークだった。その一つの理由は、彼らのうちの数社は、日本以外の市場からやってきていること、もう一つの理由は、数社は大阪を拠点としていることだろう。日本国内と海外でスタートアップの性格が異なることは容易に理解できるが、同じ日本国内でも、地域によって、違った視点が生まれることに改めて驚かされた。

今後、彼らの多くが、さまざまなイベントや THE BRIDGE 上で取り上げられる機会を楽しみにしたい。

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HackOsaka 2014: 大企業とスタートアップのコラボで〝おもろいもん〟を創る

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これは19日大阪で開催された、スタートアップ・カンファレンス「HackOsaka 2014」の取材の一部だ。 大阪を中心とする関西圏からは、Panasonic、シャープ、京セラ、オムロン、任天堂など、世界的にも名前が知られた大企業が数多く生まれている。地域のスタートアップ・コミュニティを活性化する上で、これらの大企業とスタートアップがどうコラボレーションしていくかは重要なトピックの一つである。 こ…

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左から:トーマツベンチャーサポート 斎藤祐馬氏、Bsize 八木啓太氏、
和える 矢島里佳氏、シャープ 上田徹氏、 KDDI∞Labo 江幡智広氏

これは19日大阪で開催された、スタートアップ・カンファレンス「HackOsaka 2014」の取材の一部だ。

大阪を中心とする関西圏からは、Panasonic、シャープ、京セラ、オムロン、任天堂など、世界的にも名前が知られた大企業が数多く生まれている。地域のスタートアップ・コミュニティを活性化する上で、これらの大企業とスタートアップがどうコラボレーションしていくかは重要なトピックの一つである。

この日2つ目となったセッションでは、コラボレーションの具体的な事例を交えながら、大企業とスタートアップの両側からの見方を議論した。パネリストは次の通り。

  • 八木啓太氏、Bsize 代表/デザインエンジニア
  • 矢島里佳氏、和える(あえる) 代表取締役
  • 上田徹氏、シャープ クラウド技術開発センター センター長
  • 江幡智広氏、KDDI 戦略推進部長 KDDI∞Labo ラボ長

モデレータは、トーマツベンチャーサポート 事業開発部長の斎藤祐馬氏が務めた。

スタートアップにできること、大企業にできないこと

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〝一人家電メーカー〟Bsize を創業した八木氏は、作りたい家電を作れるように、電子工学、デザイン、製造のすべての要素を自らマスターした人物だ。Bsize を創業する前、彼は製造工程を学ぶため富士フイルムに籍を置いた。銀塩写真の需要減からコダックが経営破綻に至った一方で、フイルム製造から化粧品を初めとする化学の会社に劇的な転身を成功させた富士フイルムの評価は、世間的にも高い。八木氏はそんな先駆的な会社とスタートアップの両方を経験している。

前職のことを悪く言うことはできませんが(笑)、富士フイルムのような先駆的と言われる会社でも保守的でした。我々はお客様にフィットするプロダクトを考えなければならないのに、上司や他部署をどう説得するかを考えてしまう。

これに対し、シャープという大企業に身を置きながら、スタートアップと数々のコラボレーションを実践している上田氏は、大企業にはできないことがあると教えてくれた。

ニーズがまるでないような市場、そして、その市場の需要が急速に伸びたりするのです。その多くは、インターネットによるものです。これは、大企業にはできない分野、逆に言えば、スタートアップにこそできる分野だと考えています。

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一方、KDDI は GREE に出資するなど、さまざまな新興ベンチャーやスタートアップと協業している。大手企業にはコンプライアンスや社内ルールがつきものだが、それに固執していたのはスタートアップとの提携はままならない。

既存のルールに則れば、たとえば、(提携先である)GREE の掲示板でユーザの誰かがマズい投稿をしないか、それを24時間リアルタイムでモニタしなければならない、ということになる。でも、そんなことは不可能。スタートアップとのコラボにあわせて、ルールをカスタマイズする必要がある。ファンドにLPとして参加するなどして、間接的にもスタートアップと付き合ってきて、付き合い方のノウハウが溜まって来たので、自社でも最近ファンドを作った。

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シャープやKDDIも数十年前まではベンチャーだったわけだが、日本産業を背負うまでに成長した現在、かつての自分達=ベンチャーと付き合う上で、いろんな制約に阻まれながらも、スタートアップ・コミュニティと関わろうとしているのだ。

時代を味方につける

「運も実力のうち」というのは、筆者の好きな言葉だ。何も他力本願というわけではなく、実力を持っていないと運もつかめないなので、実力も常に磨いておかないといけない。

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矢島氏が創業した 和える のコンセプトは、プロダクトを通して伝統的な職人のノウハウや精神を次世代へと受け継ぐことだ。同社が制作した藍染の赤ちゃん肌着は、藍染が抗菌効果があるにもかかわらず、直接肌に触れる形で使われる機会が無いことに疑問を抱いた矢島氏が、自ら考案し製品化したプロダクトだ。

特にプレスリリースを出したことはありません。メディアの方々から、問い合わせアドレスを通じて連絡をいただく感じです。6年前にローンチした頃は、職人さんに説明しても、なかなか意図を理解してもらえませんでしたが、最近では、皆が次の世代のことを考えるようになったでしょうね。現在では、200人の職人ネットワークができあがり、オリジナル商品を手作りで生産、販売しています。

他方、Bsize は東京・表参道にあるトヨタ自動車のショールーム「Intersect by Lexus」に製品を採用されるなど、大企業とのコラボレーションの好例が目立つ。八木氏はその背景について、メディアなどを含め世間に露出することが重要だと説明した。

あるメディアが記事のヘッドラインで、Bsize のことを〝一人家電メーカー〟と呼んだ。自分では一人であることが弱みだと思っていて、あたかも大企業のようなウェブサイトを作って、そのように見せていた。しかし、そのように呼ばれて、むしろそれが強みだということがわかった。創業に至ったストーリーも含めて、自分達が何者かということは露出した方がいい。

Osaka Innovation Hub で生まれる、コラボレーションの機会

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HackOsaka 2014 の会場ともなった、グランドフロント大阪には、スタートアップのオープンスペース「Osaka Innovation Hub」が入居している。シャープは、ここで CoCreation Jam と題して、同社の掃除機 COCOROBO を使ったハッカソンイベントを開催したそうだ。

上田氏は、そのときの様子を振り返りながら、起業家とのコラボレーションの可能性に胸をふくらませる。

弊社の社内では、こういうアイデアは絶対に出て来ないんです。CoCreation Jam のような機会を使って、ぜひこういうアイデアをシェアしてゆきたい。

THE BRIDGE でも、東京以外のスタートアップ動向の取材に注力しているが、今後、Osaka Innovation Hub で開催される数々のイベントにも注目してゆきたい。スタートアップが集まるインキュベーション・スペース等が各所に点在する東京と違って、大阪は多くのイベントが Osaka Innovation Hub に集約されているようなので、イベントカレンダーを定期的にチェックし、興味を抱いたイベントには、奮って参加していただきたい。

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HackOsaka 2014: 大阪をスタートアップ・ハブにするには?——IoTの雄3人が語る「スタートアップ・コミュニティの作り方」

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これは19日大阪で開催された、スタートアップ・カンファレンス「HackOsaka 2014」の取材の一部だ。関西地域のスタートアップ・コミュニティを活性化すべく、昨年には 500Startups の Dave McClure を招いて第一回が開催され、今回はその二回目となる。 イベントの目玉として、アメリカ・シリコンバレーから Pebble CEO の Eric Migicovsky、イギリス・ロ…

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これは19日大阪で開催された、スタートアップ・カンファレンス「HackOsaka 2014」の取材の一部だ。関西地域のスタートアップ・コミュニティを活性化すべく、昨年には 500Startups の Dave McClure を招いて第一回が開催され、今回はその二回目となる。

イベントの目玉として、アメリカ・シリコンバレーから Pebble CEO の Eric Migicovsky、イギリス・ロンドンから BERG の CEO Matt Webb が特別ゲストとして招かれた。Pebble は Y-Combinator 出身のスマートウォッチを制作するスタートアップで、 クラウドファンディング・サイト Kickstarter で出資受付開始から2時間で目標の10万ドルを達成、後に1,000万ドルを資金調達した。BERG はロンドンのスタートアップ・コミュニティ TechCity に本拠を置き、サードパーティ・デベロッパ向けに IoT 向けのクラウド環境を提供するほか、Little Printer という Google Calendar と連動して To-Do リストや新聞のヘッドラインが印刷される、小さなプリンタを開発している。

今回のイベントの最初のセッションでは、Pebble の Eric、BERG の Matt に加え、東京で 3D プリントのマーケットプレイス Rinkak を運営するカブクの稲田雅彦氏を招いて、パネル・ディスカッションが行われた。モデレータは、日本の著名なジャーナリストの一人である湯川鶴章氏が務めた。

シリコンバレー、ロンドン、東京の IoTトレンド

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パネルの冒頭、湯川氏は3人のパネリストに、それぞれが拠点とする地域の IoT のトレンドについて尋ねた。

カナダの Waterloo 大学で Pebble のプロトタイプを作っていた Eric が、シリコンバレーに引っ越してきて本格的にビジネスを始めたのは3年前のころだ。

生産ラインを持たないスタートアップがハードウェアを作ることはできるようになっていました。しかし、IoT スタートアップが投資家から資金を獲得することはできず、Kickstarter を使ってそれが可能になりました

もう一つ重要なのは、スマートフォンの普及です。皆がスマートフォンを持つようになったので、デバイスをインターネットにつなごうとするとき、接続のしくみを持たなくてよくなったのです。BLE(BlueTooth Low Energy)で、スマートフォンにつないでしまえば、そこからインターネットにつがるようになったので。

資金が調達できるようになったことと、皆がスマートフォンを持つようになったこと。この2つによって、Pebble のようなハードウェア・スタートアップが生まれているんだ。

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もともとデザインスタジオだった BERG が、IoT のしくみを手がけるようになったのは2012年からのことだ。彼はロンドンのスタートアップ・シーンについて現状を教えてくれた。

ここ数年で、ロンドンのスタートアップの数は、数千にまで劇的に増えました(関連記事)。ハードウェアにフォーカスしているスタートアップが多いわけではありませんが、ロンドンには優秀なデザイナーが数多く居るのです。今のところはまだ実験段階のようなものですが、それでも皆がハードウェア・スタートアップに着手し始めています。

一方、Rinkak の稲田氏は、東京のスタートアップが抱える課題について、いくつかの理由を挙げた。

東京では、ハードウェア・スタートアップの割合は、全スタートアップの5%くらいでしょう。数が少ない理由は3つに集約されます。

  • クラウドファンディングの市場が小さいこと。
  • 依然として、資金調達が難しいこと。
  • ハードウェア・スタートアップの成功事例が無いため、ソフトウェア・エンジニアがソフトウェア開発のみを続けていること。

特に、ソフトウェア・エンジニアは、ハードウェアのことを理解してくれません。我々は API を公開しているのですが、彼らには、その使い方がよくわからないようです。

資金調達や市場規模という点からは、東京はシリコンバレーの数年前の姿という見方もできる。ロンドンはそれ以上に、人材を初めとするコミュニティの要素が IoT 発展に大きく関係しているようだ。

これからの注目分野

続いて、湯川氏は3人に、IoT で今後最も注目している分野は何かと尋ねた。

Eric は、センサーが露出するようになってきていることが面白いと答えた。

BLE (Bluetooth Low Energy)の台頭です。これによって、スキーしているときだって、泳いでいるときだって、いつでもデータが取得できるようになりました。

いわゆるウエアラブル・コンピューティングだ。これに対し、Matt は少し違った分野に興味があると答えた。

ウエアラブル、それに、交通状況をフィードバックするスマートシティ、ヘルスケアなども興味深い。しかし、より興味あるのは家電の世界です。日常生活をより快適にしてくれるようなもの。パン焼き機がレシピをダウンロードしたり、冷蔵庫の牛乳が少なくなっていたらユーザがスーパーの前を通ったときにモバイルで告知してくれたりするようなものです。

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これに対し、稲田氏は独特の表現で、新しいデバイスと従来からあるデバイスの使われ方が変化していくだろうと語った。

デバイスがインターネットにつながることで、すべてのデバイスはユーザにより近づいてくる存在になります。その反面、これまで使っていたデバイスが、もう使わなくなって、壁の方へ遠ざかるようになるものもあるでしょう。

デバイスがユーザに近い存在になることによって、そのデバイスはファッション性を増すことになる。その結果、Pebble のスクリーンをユーザがボランタリーに作成し共有できる、Watch Face Generator のようなサイトが生まれたりもしている。このような展開はもともと Pebble が意図したものではないが、Pebble が hackble (内部構造にアクセスできる)なプラットフォームであるため、デベロッパのコミュニティを形成するようになったわけだ。では従来からあるメーカーは、hackable なプラットフォームには成り得ないのだろうか。Matt はこんな事例を紹介した。

Microsoft Kinnect にはジェスチャーセンサーが備わっていますね。本来はゲームでジェスチャーを読み取るためのものですが、これをハッキングして身体を3Dスキャンし、フィギュアを作ってしまった人たちが居るのです。Microsoft の意図がどうであれ、ユーザはハッキングを始めてしまいます。従来メーカーの生き残りは、コミュニティとうまくやっていけるかどうかにかかっているかもしれません。

大阪は、スタートアップ・ハブになれるか?

大阪は商人の街だ。日本を代表する企業の多くは東京に本拠を置いているが、依然、経営者の多くは関西出身者によって占められている。湯川氏は、海外からのゲスト2人に、大阪に商人が多い理由について、江戸時代から明治維新にかけての日本の歴史を説明しながらこう質問した。

私の父も商人だった。私が子供のころ、クラスメイトの両親は一人を除いて皆が商人だった。大阪には強い起業家精神が根ざしている。しかし、スタートアップ・ハブになれていない。みんな東京へ行ってしまう。どうすべきだろうか。

この状況は、少し前のロンドンにも似ていたと、Matt は語った。

ロンドンの会社も皆、アメリカに行ってしまう。それはロンドンに、資本が無く、大企業とつながる道が無く、コミュニティがなかったからだ。

企業の一つ一つが大きな組織ではないスタートアップではコミュニティの力が重要で、Eric はシリコンバレーでコミュニティの恩恵に預かっていることを強調する。

MVP(最小実現プロダクト)を作る上で、コミュニティからは、好意的な評価とそうではない評価が得られる。その中でもバランスを取りつつ、建設的だが批判的(constructive but overcritical)な考え方を持って仕事を続けることが重要だと思う。

経営者は孤独である。半ば独りよがりのような思い込みも、ディスラプティブなプロダクトを生み出すパッションにつながるし、一方で、人々からのフィードバックに耳を貸し、より世間に受け入れられるプロダクトを作る必要もある。従来企業なら、複数の役員が意見を戦わせることで、この相反する役割を担っていたように思えるが、スタートアップでは創業者一人が両方をこなさなければならない。それをサポートするコミュニティの力は、資金や市場機会と同様に重要だ。

IoT分野の雄が語る「コミュニティの作り方」

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左から:湯川鶴章氏、Pebble Eric Migicovsky、BERG Matt Webb、カブク稲田雅彦氏

コミュニティの無い地域でスタートアップしている起業家の目には、シリコンバレーの風景はまばゆく映る。Matt は昨年末にシリコンバレーを訪問したときのエピソードを紹介しれくれた。

UBER でタクシーに乗ってね、タクシードライバーと、ずーっと長話をしていたんだ。彼はシリコンバレーのスタートアップや彼らの動向に詳しくて、ずっとそんな話をしていた。しかし、彼はどこに駅があるか全然知らなかったんだ。こんなことは、ロンドンではあり得ない。(会場笑)

Matt はコミュニティを作る上で、名前をつけることが大事だ。ロンドン東部の Old Street 駅周辺は俗称 Silicon Roundabout と呼ばれたが、イギリス政府が積極的にスタートアップを誘致するにあたって TechCity と名付け、そこから人々の認知度が上がった(関連記事)。人々はこの名前を聞いて、起業家精神について考え始め、共に集まり、コミュニティを形成し始めた。

イベントをやることも大事だ。ロンドンでは、ハードウェア・スタートアップのイベントは、毎月2つくらいは開かれている。職探しのイベント、ネットワーキングのイベントは、ほぼ毎週。(Matt)

 

大阪の人たちは、既に重要なことを始めているよ。このイベントにもピッチ・コンテストがあるように。これは、コミュニティを形成する上で極めて重要。(Eric)

最後にモデレータの湯川氏は「大阪をどのようなスタートアップ・ハブにしたいか、考えてほしい。」と聴衆に質問を投げかけて、このセッションを終えた。

ロンドンの TechCity は、明らかにシリコンバレーとは違った道を歩き始めている。二番煎じに将来は無いからだ。東京や福岡とも違う、新たなスタートアップ文化が大阪から生まれることを切に願う。

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