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都市型農業:環境汚染と食料危機へのサステイナブルなアンサー【ゲスト寄稿】

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本稿は、Queue の 取締役副社長兼 CCO 三橋啓多氏による寄稿。Queue のスタートアップ事例データベース「Sunryse.」の事例紹介記事「INSIGHT」から転載した。 三橋氏は2014年、リクルートホールディングス社内事業立案コンテスト「RING(旧:NewRING)」で学生初のグランプリを獲得し事業化。その後、国内大手広告会社や外資系広告会社などのインターンとフリーのプログラマー。…

三橋啓多氏

本稿は、Queue の 取締役副社長兼 CCO 三橋啓多氏による寄稿。Queue のスタートアップ事例データベース「Sunryse.」の事例紹介記事「INSIGHT」から転載した

三橋氏は2014年、リクルートホールディングス社内事業立案コンテスト「RING(旧:NewRING)」で学生初のグランプリを獲得し事業化。その後、国内大手広告会社や外資系広告会社などのインターンとフリーのプログラマー。ハードウェアスタートアップのコンサルティングなどに従事した。

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Image credit: Infarm

都市型農業とは?

都市型農業とは、その名の通り、農地の多い郊外ではなく人口の多い都市部で農作物を育てる農業のことを指す。身近な例では、屋上菜園や屋内での水耕栽培がそれに当たる。近年この都市型農業に取り組むスタートアップへの注目が集まっている。今日の Insight では、その背景と未来を考えていきたいと思う。

人口増加・集中と食糧危機

国連の調査によると、2050年までに地球の人口は100億人に迫ると予測されている。さらに、この内の約7割が都市部に居住すると予測されている。人類は、タダでさえ飢餓人口の増加しているこの惑星で、これらの増加・集中した人口の必要とする食糧を安定供給するシステムを構築する必要があるのだ。

人口増加・集中によって引き起こされる問題は、単なる不足だけではない。「安全な食」へのアクセスの需要も高騰することが考えられる。人口が増加・集中することで、都市部における食料品への需要が増大する一方、生鮮食品の供給は流通量のキャパシティや消費期限などの要因により限界がある。それが、有機作物であればなおさらである。

さらに、問題の影響範囲は食糧自体の供給だけにとどまらない。

人が暮らしていくには、食糧以外にも衛生的な水が必要になる。飲水を含めた生活用水の供給である。すでに、世界の一部の都市圏では水不足が深刻であり、ニューデリーやカリフォルニアが有名だ。当然、農業は大量の水を必要とする。つまり、人口増加・集中によって引き起こされる農作物への需要増は、生活用水・飲料水の不足という問題と同時にやってくる。

流通にも問題を抱えている。東京を含む世界の大都市圏では、都市部の交通・流通に深刻な問題を抱えている都市が少なくない。都市圏に人口が集中することで、移動する人の増加によりさらなる問題を引き起こすだけでなく、流通のためのトラックや自動車の氾濫を伴うことが容易に想像できる。それは同時に、環境負荷の増大を意味する。

都市型農業は、この八方塞がりに思える状況に対して、アンサーを返そうとしている。

生産地と消費地を一致させるというアンサー

Image credit: Infarm

都市型農業が目指しているのは、都市圏での農作物の生産を実現することで、運搬の必要を極限まで減らした農作物の生産・流通の新しい形であり、それが当たり前になった未来の都市の姿だ。都市型農業に取り組むスタートアップの代表格とされるのは、ベルリンを拠点とする「infarm」である。infarm は野菜やハーブ類を効率的かつ安全に栽培できるラックを開発しており、それを世界中のスーパーマーケットやレストランに導入している。

このようなラック型農業の特徴は、「都市型」「垂直型」「屋内」の3つのキーワードで表現できる。

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都市型農業

生活者の多い都市圏での農作物の生産が可能になると、当然のことながら流通コストを大幅にカットする事ができる。これはサプライチェーンにおけるコストカットにとどまらず、環境への負荷の軽減を意味する。infarm の本社があるドイツをはじめ、ヨーロッパ諸国では、消費者のサステイナビリティへのこだわりが日本に比べて強いと言える。そのため、同じ値段、あるいは多少高くても環境負荷の少ない製品を選ぶ消費者が少なくない。この点、都市型農業は従来型の農業に比較して大きなアドバンテージがあると言える。

垂直型農業

ラックのような空間で農作物が可能になると、従来型の農業のように農地を横に拡大するという選択肢に加えて、「縦に積む」という事が可能になる。このような特徴から、ラック型の農業のことを「垂直型農業」、従来型の農業を「水平型農業」と呼び対比する事ができる。理論上、「垂直型農業」は「水平型農業」に比較すると、土地活用の効率において大きなアドバンテージがある。

屋内農業

ラックの中で、かつ屋内で生産が可能ということは、天候に左右されず安定した農作物の生産を可能にする。と同時に、栽培環境のコントロールを適切に行う事ができれば、季節に関係なく農作物を生産することも可能だ。さらに、外部要因による作物の病気の心配などもないため、農薬を使わない生産も可能になる。

プラスアルファ:テクノロジーによるアドバンテージ

さらに、ラック内へセンサー類を搭載し、そのフィードバックを生育環境に与えることによって、効率的で安定的な生産も可能になる。屋内・かつラック型であることは、テクノロジーの応用可能性の拡大を意味する。

Image credit: Queue

toC サービスとしての都市型農業

infarm のようなtoB型の都市型農業サービスは、都市圏の生活者の食を支える役割を担おうとしている。それに対して、toC 型の都市型農業サービスも存在する。彼らはまた別の視点から、都市型農業のサービスを展開している。

ここでは、「Click & Grow」を紹介したい。Click & Grow は家庭菜園を、小さなスペースで簡単に設置できる「スマートガーデン」と種の入ったポッドを販売している。この「スマートガーデン」を使えば、誰もが新鮮で GMO フリー(non-Genetically Modified Organism、遺伝子組換えでない)なオーガニック食品を簡単に家庭で栽培できる。オーガニック食品やサステイナブル食品への意識が高い消費者をメインターゲットに、個々人が手軽に各家庭で野菜や果物等の食品を育成できるスマートガーデンをソリューションとして提供している。このように、安全な食へのアクセスという点では、toB 型のサービスの持っている価値提供と似ているが、これだけではないのだ。

都市部に居住する人口の35%は高いレベルでの心身的不安を抱えていると報告されている。この状況は 2050年までに悪化し続けると予想されている。このような状況に対して、屋内植物は、消費を通じて健康を改善し、ストレスを減らし、空気の質と人々の幸福レベルを改善することが証明されている。自宅に家庭菜園があることで、生活の質の向上を提供価値としておいているのが Click & Grow の特徴の一つだ。

Image credit: Click & Grow

都市型農業の見据える農業の未来

これまで見てきたように、生産の部分に抜本的な変革を与えるという点で、infarm のようなサービスは「農業 × テクノロジー」の領域において最も進歩的なアプローチの一つと言えるだろう。

さて、農業や水産業などの分野で、「6次産業」という言葉がある。これは、生産業者(第一次産業)が食品加工(第二次産業)・流通販売(第三次産業)までカバーしている事業形態のことを指している。これは、主として生産業者の活性化の文脈で語られる事が多い言葉だ。

生産・加工・流通・販売を一つの事業者が行うという点では、都市型農業サービスはまさに、6次産業を地で行く存在だ。ただ、6次産業の意味するところと異なるのは、生産の部分に抜本的な変革をしているのが都市型農業である、ということになる。ともすれば、既存の生産者に対して強大な競合になりうる。

既存プレイヤーは、都市型農業サービスの到来に、どのように備えるべきだろうか。

我々はテクノロジーの専門家であって、農業の専門家ではない。そのため、この問に対する答えを示すことは控えようと思う。しかしながら、冒頭で見たように、従来の農業では来る人口増加・集中に対しての対応は難しいのではないかと感じている。そのため、よほどの経済的な障壁がない限り、都市型農業の到来は必然に思える。

時代の変化とテクノロジーの進化による既存プレイヤーの淘汰は、他の分野で幾度となく繰り返されてきた。それが農業にも及ぼうとしているのではないか。

一方で、テクノロジーによっては代替できない価値があることも、歴史が証明してきた。アメリカでは、2019年12月20日から26日の週にかけて、アナログレコードの週間売上記録が塗り替えられたそうだ。

より豊かでサステイナブルな未来へ向けて、農業領域において新興勢力と既存プレイヤーの、より良い棲み分けが進むことを願う。

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ベルリン発の都市農業ソリューション「Infarm」、JR東日本から資金調達し日本市場進出——スーパー「紀ノ国屋」で、屋内栽培の農作物を販売へ

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 ※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから。 デジタルエージェンシーのインフォバーンは26日、ベルリンのスタートアップカンファレンス Tech Open Air(TOA)のワールドツアーイベント東京版「TOA WORLD TOUR Tokyo」を都内で開催している。この席上、基調講演に登壇したベルリン発の都市農業(アーバンファーミング)ソリューション「Infa…

左から:Erez Galonska 氏(Infarm CEO)、堤口貴子氏(紀ノ国屋 代表取締役社長)、山下俊一郎氏(ムロオ代表取締役社長)、表輝幸氏(JR 東日本 執行役員 事業創造本部副本部長)、平石郁生氏(Infarm Japan マネージングディレクター)
Image credit: Masaru Ikeda

 ※この記事は英語で書かれた記事を日本語訳したものです。英語版の記事はコチラから。

デジタルエージェンシーのインフォバーンは26日、ベルリンのスタートアップカンファレンス Tech Open Air(TOA)のワールドツアーイベント東京版「TOA WORLD TOUR Tokyo」を都内で開催している。この席上、基調講演に登壇したベルリン発の都市農業(アーバンファーミング)ソリューション「Infarm」の 創業者で CEO の Erez Galonska 氏は、同社が JR 東日本(東証:9020)から出資を受け、JR 東日本傘下の高級スーパー「紀ノ国屋」で Infarm の仕組みを使った屋内(店内)栽培の農作物の販売を今夏開始することを明らかにした。

Infarm の運営会社 Indoor Urban Farming(ドイツ法人)は昨年、ロンドン拠点 VC の Atmico をリードインベスターとして、合計1億米ドルのシリーズ B ラウンドを完了したことで話題を呼んだ。同社の創業以来の累積調達金額は1億3,450万米ドル。今回、JR 東日本が参加した調達ラウンドは、JR 東日本および紀ノ国屋との協業と日本市場進出に向けて設定されたもので、ラウンドステージは定義されていない。BRIDGE の取材に対し、Infarm は今回調達額の開示をしなかった。

Infarm は2013年、イスラエル生まれの Galonska 兄弟(Guy Galonska 氏、Erez Galonska 氏)、 Osnat Michaeli 氏の3人により創業された。冬の寒さで農作物の育たないドイツにおいて、通年、環境に左右されず新鮮な野菜を手軽に食べられるようにするアイデアを実現した。BRIDGE で初めて取り上げたのは、サンブリッジ グローバルベンチャーズが開催していた世界のスタートアップショーケースイベント「Innovation Weekend Grand Finale 2015」で優勝した際のことだ。

Osnat Michaeli 氏(CMO)、Erez Galonska 氏(CEO)、Guy Galonska 氏(CTO)
Image credit: Robert Rieger, FvF Productions UG

Infarm のソリューションでは、室内の温度や湿度、光、pH などが常時クラウドを通じて最適制御され、気候を問わず、ハーブやレタスなどの葉野菜を安定的に栽培できる。電気、水、WiFi さえあれば稼働可能で、モジュール式であるため配置場所についても非常に柔軟だ。現在は種付けなどを Infarm の施設で行い、出荷できるようになった株が半自動的に搬出される。当該株は店内の Infarm 設備に運搬・ストックされるので、消費者は野菜が育っている最中にある新鮮な状態のまま店頭で購入できる。

現在までに、Infarm は本拠地であるドイツはもとより、フランス、スイス、ルクセンブルグ、イギリス、デンマーク、カナダ、アメリカに進出しており、Irma(デンマーク)、Kroger/QFC(アメリカ)、Marks and Spencer(イギリス)、Metro(ヨーロッパ各国)、Edeka(ドイツ)といった現地スーパーと提携し、屋内(店内)栽培の農作物を販売している。世界で600以上の Farming Units を店舗や流通センターで展開し、毎月の植物収穫量は25万株以上。紀ノ国屋での販売は日本においてはもとより、アジアでも初の試みとなる。日本国内では、紀ノ国屋のいずれかの店舗で今夏にも Infarm による農作物販売が開始される見込みだ。

Infarm は日本市場の進出にあたり、日本法人 Infarm Japan を設立する。Infarm Japan のマネージングディレクターには、前出の Innovation Weekend Grand Finale 2015 の主催者で、現在はファンド運用やスタートアップの市場進出などを支援するドリームビジョン代表取締役社長の平石郁生氏が就任する。なお、ドリームビジョンはサンブリッジ グローバルベンチャーズのファンド運用を引き継いでおり、Infarm のシードラウンドにおける投資家である。

Infarm のアーバンファーミングソリューション「Inhub」
Image credit: Infarm

また、国内最大のチルド物流ネットワークを持つコールドサプライチェーン企業ムロオが物流面で協力する。ムロオの代表取締役社長である山下俊一郎氏は、平石氏が法政大学経営大学院(MBA)で客員教授を務めていた際の教え子であり、ムロオのコールドサプライチェーンが Infarm が日本国内で拠点展開する上で施設配置をしやすいとの判断からだ。

Erez Galonska 氏は BRIDGE のインタビューに対し、次のように語ってくれた。

日本市場に進出できることをうれしく思っている。食糧ロスの多さ、台風などの自然災害に見舞われサステイナブルな農業が難しいこと、農家の高齢化などの問題を抱える日本においては、半自動的に新鮮な野菜を届けられる Infarm の進出は意義深い。(中略)

JR 東日本や紀ノ国屋がイノベーションを探していたことからも、今回、Infarm は彼らと組むことでシナジーが見出せると考えた。日本進出にあたり、商品の品揃えもローカライズする。水菜、パクチーなどアジアの野菜を扱うことも考えられるだろう。

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