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オープンイノベーションの現在地と可能性

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コロナ禍に端を発した社会環境の変化が新しいパラダイムへの扉を開こうとしています。ここ最近、国内スタートアップにおける幾つかの特徴的な動きがありました。 令和トラベルはシードながら22.5億円を集めた NOT A HOTELの「まだない」物件に数千人が殺到した BASEやSTORES、食べチョクなどが生産者と消費者を直接繋ぎ出した クラウドファンディングが市民権を得て、数百億円の流通を作っている ピ…

PexelsBruno Scramgnonによる写真

コロナ禍に端を発した社会環境の変化が新しいパラダイムへの扉を開こうとしています。ここ最近、国内スタートアップにおける幾つかの特徴的な動きがありました。

ピーター・ティール氏の名著「ZERO to ONE(ゼロトゥワン・君はゼロから何を生み出せるか/NHK出版)」に示されている通り、イノベーションの創出がなければ未来はありません。また彼が「ほとんどの人はグローバリゼーションが世界の未来を左右すると思っているけれど、実はテクノロジーの方がはるかに重要だ」と語るように、何もない場所からの価値・体験創出にはテクノロジーの力が必要不可欠です。

昨年5月にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構)がまとめたオープンイノベーション白書(第三版)には、国内におけるイノベーション、共創の状況が示されています。白書ではイノベーション大きく「発明牽引型、普及・発展型、21世紀型」の三類に分けており、インスタントラーメンやウォークマン、発光ダイオードやトヨタ生産方式といった「かつての日本」を支えた発明牽引型のテクノロジー・イノベーションは影を潜め、GAFAMやBATの台頭に見られるような海外勢の新たなイノベーションの創出に苦戦している様子を浮き彫りにしています。

また白書では対GDPにおける国内企業の研究・開発にかける費用や研究者の数、論文・特許数が他国に比較して高い水準にあるとしつつ、スタートアップ創出のエコシステムや、大手企業における取り組みはまだまだ改善の余地があるとしていました。

一方、ここ10年でスタートアップした企業で時価総額1,000億円以上(7月1日時点・マザーズのみ)の企業はメルカリを始めフリー、ビジョナル、弁護士ドットコム、BASE、ウェルスナビ、メドレー、ユーザベース、プレイドなど厚みが増してきています。東証一部への鞍替え上場を果たした企業も少なくありません。エコシステムの成長も着実に進んでおり、冒頭に示した通りシリアル起業家がプロダクト公開前にも関わらず20億円以上の大型調達を果たすケースも出てきています。これらは市場やタイミングもありますが、起業家・投資家の間の信頼関係が成熟してきている証拠とも言えます。

では、大手側はどうでしょうか。ここ数年、大手のイノベーション創出の仕組みとして、外部との協業・共創を狙ったオープンイノベーションの取り組みを採用する企業が徐々に増えてきています。先ほどの白書には8割近くの欧米企業が共創活動を取り入れているのに対し、国内企業も半数ほどが取り組みを開始していると回答しています。ただ、そこに対して割いている人員、予算についても欧米に比較して低い水準に留まっているので、まだ手探りの状態であることは間違いなさそうです。

共創に重要な大手の中長期ビジョン

ZERO to ONEには基礎的な考え方としての「独占」が示されており、将来生み出す価値の重要性を指摘しています。

「答えはキャッシュフローだ。こう言うと、ニューヨークタイムズは黒字でツイッターは赤字なのに変じゃないかと思うかもしれない。でも、偉大な企業かどうかは、将来のキャッシュフローを創出する能力で決まる。投資家はツイッターがこれからの一〇年間に独占利益を取り込むことができると予想し、新聞の独占は終わったと考えている」(ZERO to ONEより引用)。

もちろん大手企業も優秀な経営層が中長期のビジョンを掲げてこの将来価値を目指すわけですが、やはりイノベーションのジレンマ、組織肥大に伴うスピードの鈍化など課題を抱える場面がどうしても出てきてしまいます。そこで役立つのがスタートアップとの共創、というわけです。逆に言えば、スタートアップ側が大きなイノベーションを目指して大手と連携する場合は足元のキャッシュフローではなく、この将来価値を見据えた話をする必要がある、とも言えます。

おなじみとなったらくらくメルカリ便

例えばメルカリは創業からわずか2年後の2015年に売上ゼロの状態でヤマト運輸と業務提携を結ぶのですが、この際、当時の小泉文明さんは交渉の裏側をこのように説明していました。

「日本で勝ち切るために優先順位を考えた。フリマアプリはバリューチェーンの中にロジスティクスが含まれるので、ここを損なうと体験がよくなくなる。だから1年以上かけてヤマト運輸に提案をしていた。(中略)また、会うだけじゃダメで、私は当時のヤマト運輸の決算説明会資料を読み込んで、彼らのストラテジーをまず理解した。その上で『B2Cを増やす』という文脈があったので、それに対してメルカリがどう役に立つのかを説明したんです」(小泉さん)

あれから6年。両社の取り組みはらくらくメルカリ便などとして定着し、また、ヤマトホールディングスの2021年3月期(通期)の連結業績はYoYで6.7%の約1.7兆円、利益は108%伸長の921億円と大きく伸びています。決算資料の総括に「消費行動の変化による『全産業のEC化』に対して最適解を追求」とある通り、当時の協業提案の方向性が間違ってなかったことを示しています。

メルカリの例はスタートアップ側からのアプローチでしたが、中長期の新たな価値創造に向けて大手側も動いています。KDDIが推進する共創プラットフォーム事業「KDDI ∞ Labo」では、大手各社と連携したパートナー連合のネットワークを構築しており、各社の共創の取り組みを「#スタートアップに会いたい!」というリレー形式で公開しています。

TRIBUSで募集している社会課題

この中でリコーはスタートアップとの共創プログラム「TRIBUS(トライバス)」を通じてと新たな社会の選択肢を実装しようというメッセージを伝えています。例えば「次世代太陽電池で作る『充電のない世界』」というテーマでは、独自に開発した太陽電池に関するテクノロジーをアセットに「充電しなくてもよい生活体験」を共に創造できるスタートアップを募集していました。

複数企業が乗り合いになるオープンイノベーションでは特にビジョンやパーパス(存在意義)と時間軸が重要になります。メルカリとヤマトHDのように、テクノロジーによる全産業EC化という大義名分に向かって数年以内に「見える」結果が出せるのがベストケースと言えそうです。

大手アセットとスタートアップのテクノロジー融合

ティール氏は独占的な企業の特徴として「プロプライエタリ・テクノロジー、ネットワーク効果、規模の経済、そしてブランド」とまとめています。中でもプロプライエタリ・テクノロジーは他社と自社を差別化する大きな要因になるものです。例としてGoogleの検索アルゴリズムやPayPalの決済体験が挙げられています。

国内でプロプライエタリ・テクノロジーを共創で実現したひとつのスタートアップがIoTプラットフォームのソラコムです。モバイル通信をクラウド化するというアイデアで、創業わずか3年ながら200億円という破格の価格でKDDIグループ入りしました。そして売却するだけでなく、両社は協業を重ね、そこから3年で8万件しかなかった回線契約数を300万件にまで拡大させています。

ソラコムはグループ入りした当時、プラットフォーマーとして多種多様なキャリアと契約する必要があり、5Gの新規格となるNB-IoTへの取り組みについてまた新たな交渉を必要としていました。当時のインタビューでソラコム代表の玉川憲さんはこう言及しています。

「今後の展開でひとつハードルがあったんです。それがこれから始まるであろう5Gへの取り組みでした。現在、セルラー網とLPWAでネットワークを提供していますが、新規格となるNB-IoTへの取り組みはまた新たにキャリアと交渉が必要だったんです。自分たちがMNNOでいる限りいずれかのキャリアと契約しなければならず、これがボトルネックでした。さらにキャリアはこういった新しい規格をすぐにMVNOみたいに開放するとは限りません」(KDDI買収時の玉川さんインタビューより)。

KDDIは、IoTの回線契約数において弱かったわけではありません。当時からテレマティクスを中心に圧倒的な数字を持っていました。しかし、ライフスタイルへ通信を融合させるという将来価値を考えた際、ソラコムの世界的にも例を見ないプロプライエタリ・テクノロジーは必要不可欠だった、というわけです。

先にご紹介した「#スタートアップに会いたい!」というリレー形式のコーナーでも、大手各社は自社で共有できるアセットを紹介しています。例えば第一三共ヘルスケアグループでは、幅広い製剤研究(固形製剤、半固形製剤、液剤等)や開発ノウハウの提供をするとしていますし、日本郵便では日々蓄積されている多種多様なサプライチェーンデータや全国約18万本のポストを活用できるとしています。

これらの公開されているアセットを把握しておけば、ソラコムのように自社だけでブレイクスルーするのに時間がかかる市場を、いち早く攻略できるようになるかもしれません。

(※情報開示:BRIDGEでは一部のコンテンツについてKDDIが運営するMUGENLABO Magazineと連携し、転載掲載を実施しています)

全てのビジネスがフィンテック化する4つのフェーズ【業界解説・クラウドリアルティ鬼頭氏】

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 全産業デジタル化の流れが不可避として認識される中、大きな構造の変化がいろいろな場所で発生しています。単なるデジタルツール・インターネットへの置き換えではなく、業界構造自体が変わり、認識の変化に追いつけないプレーヤーは否応なく淘汰されてしまいます。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートア…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

全産業デジタル化の流れが不可避として認識される中、大きな構造の変化がいろいろな場所で発生しています。単なるデジタルツール・インターネットへの置き換えではなく、業界構造自体が変わり、認識の変化に追いつけないプレーヤーは否応なく淘汰されてしまいます。

一方、デジタル化・業界構造の変化は一言で語れるほど簡単なものでないのも事実です。先人たちが築き上げた構造は堅牢なものが多く、ゲームチェンジャーたちは想像もつかない方法で攻めてくるからです。

MUGENLABO Magazine編集部では、このダイナミックな変化を業界のゲームチェンジャーたちの解説と共に紐解くシリーズを開始することにしました。初回はEmbedded Financeというワードが話題になり始めている金融業界の変化について、クラウドリアルティ代表取締役、鬼頭武嗣さんにお話しいただきます。

著名VCのAndreessen Horowitzが「Every Company Will Be a Fintech Company(あらゆる企業はフィンテック化する)」と論じたのが2019年の年末でした。あれから2年、パンデミックの影響もあり、この流れは加速しているように感じます。

では、具体的にこの構造変化はどのように起こり、そしてどうなっていくのか。鬼頭さんの解説に耳を傾けてみましょう。

MUGENLABO
鬼頭さんの原稿や最近書かれているnoteなんかもそうですが、なかなかすぐに理解はできない内容ですね。
鬼頭
確かに難しいと思います。
MUGENLABO
考えるべき要素が凄く多いからどうしても頭がこんがらがるというか。Andreessen Horowitz(a16z)があらゆるスタートアップはフィンテック企業になっていくという考え方を提唱していますが、特にBaaS(Banking as a Service)が国内でもそろそろ動きが出てきそうな感じですよね。
鬼頭
そうですね、日本でもモジュール化された金融機能をAPIで提供する企業が増えているんですが、本格的な社会実装はまさにこれからっていうところかなと思いますね。
MUGENLABO
ということで本題に入る前にちょっと前提の整理をしたいと思います。あらゆる企業がフィンテック化していくという考え方って、金融というこれまで複雑な仕組みをアンバンドリングしてそのピースをAPIで繋いでいく感じなんですよね?つまりバラバラにして提供するスタートアップが出てきたことで生まれたわけじゃないですか。誰でもAPIを叩けば金融サービスを自分たちのものとして提供できる、という。

一方でこれって従来、例えば決済代行だったりこれまでにもサービスはあったわけです。今、この提唱されている内容って以前と比較して何が違ってて、どのような未来になっていくのか、そのあたりがまだ私の中でもやもやとしているんですね。

鬼頭
やっぱり金融業界って「縦」に閉じた構造だったんです。それがここにきて金融の機能自体が「水平」に、かつ業界を超えて広がっており、やはり大きな転換点に来ているかなと思っています。
MUGENLABO
それが横に展開していく、と。なるほど、分かったような分からないような。あと、技術とは別に規制や構造のお話もありますよね。省庁から出されている規制や法令に加えて業界構造の商習慣とか。
鬼頭
そうですね、焦らずゆっくりと紐解いていきましょう。
MUGENLABO
はい。先走りました。
鬼頭
ただこの辺りを理解したい場合、金融というものを抽象化して捉えることが本質的な理解につながると思いますよ。例えば銀行って言われた時、多くの人は銀行業を営む企業としての銀行のイメージを持つと思うんです。ではその企業としての銀行はどういう機能や価値を顧客に提供しているのか、というところまで掘り下げて整理する。信用創造だったり決済、送金などですよね。金融って結局、形がない産業ですので基本的に扱っているものが概念だけだって気づくはずです。金融の様々な提供価値の本質を抽象化して理解できていると、アナロジーとして”金融”が使えるようになります。
MUGENLABO
確かに。モノはひとつもないですね。これはこれで哲学的な・・・

鬼頭
話を戻しましょう(笑。これまでの「縦」構造だった金融では、例えば銀行を例に挙げると、昔は残高確認にしろ振込みにしろユーザーが店頭まで行かなければならなかったじゃないですか。これがウェブやモバイルでできるようになった。
MUGENLABO
モバイルシフトが特に大きかったですよね。
鬼頭
これって顧客接点がユーザーに近いところに移ってきた、という変化と考えることができるんです。例えばこれまでだったら、各銀行がそれぞれ立派な店舗を構えないといけなかったのが、物理的なユーザー接点はモバイル一つで済むようになったわけです。

別の言い方をすると、これまでは顧客接点と銀行機能が一対一で対応していたものが、一つのモバイルと複数の銀行が提供する金融機能という一対Nの関係になった。これがまず金融における第一段階のアーキテクチャの変化です。

MUGENLABO
金融にとって顧客接点の変化って大きなポイントなんですね。
鬼頭
日本での象徴的な出来事としてはとしてはやはり、マネーフォワードだったりfreeeのようなフィンテック企業が登場し、銀行とのAPI連携を基に顧客接点と金融機能を分離したことが挙げられると思います。そしてこの変化を支えたのがスマートフォンというデバイスです。
MUGENLABO
確かに銀行もウェブ化はもっと前からやってましたからね。
鬼頭
そうです。スマホの普及があったからこそ変化が加速した格好です。ガラケーってあれ自体がインフラ提供者による垂直統合の思想で作られていて縦の構造だったんです。一方のスマホはインフラとアプリケーションが水平分業されている世界観なんですよね。このデバイスやソフトウェア産業のアーキテクチャが少なからず金融業界の構造変化にも影響を与えていると思っていますよ。
MUGENLABO
ということは2000年頃からじわじわと金融の構造変化、アンバンドリング化は起こってきたと。実際、フィンテックっていう言葉自体が出てきたのもその頃ですよね。

鬼頭
ごく初期のタイミングですね。その頃は銀行のみなさんが自分たちの銀行のウェブ化を推進していた頃だと思います。2007年にiPhoneが発表されて、2011年から14年ぐらいですかね、いわゆるアプリ経済圏というものが大きくなりました。初期はゲームでしたが、徐々に生活サービスに広がっていき、家計簿アプリなどが登場してくるわけです。
MUGENLABO
金融変化の第一段階では、結果として顧客接点が窓口からウェブ・スマホに移っていったんですよね。鬼頭さんのお話では、その後、サービスのAPI化が進んでいくわけですが、ここのフェーズでは何が起こったんですか。
鬼頭
まず日本の状況からお話しますね。大きな動きがあったのは去年なんですが、金融商品販売法の法改正があって、金融サービス仲介業という枠組みが創設されて2020年6月に公布されました。

これは何かというと、これまで金融業界の仲介業というのは銀行であれば銀行代理業者、証券であれば金融商品取引法における金融商品仲介業者、保険であれば保険業法における保険募集人や保険仲立人などがバラバラにあってそれぞれに規制の枠組みが存在していたんです。これがワンストップで「金融サービス仲介業」っていうライセンスにまとめられ、仲介事業者は銀行・証券・保険の全てのサービスを提供することができるようになりました。

MUGENLABO
なるほど。便利。
鬼頭
これまでの仲介業というのは金融機関の代理人というポジションでした。しかし金融サービス仲介業は逆で、ユーザーの視点に立った代理人としてのふるまいを期待されているんです。個人的にはこのポジションの変化が大きいかなと思っています。
MUGENLABO
顧客接点が銀行窓口からスマホに移り、その次にサービス提供側のポジションが事業者側から利用側に移った、という感じですね。このライセンスを持った事業者の方が増えると具体的に世界観はどのように変化するんですか。
鬼頭
そうですね、例えば今まで保険のサービスを提供していた仲介業の方々は当然保険は提供できているわけですが、同時にそのお客さんに資産運用の相談をされても積み立ての保険ぐらいしか提案できるものがなかったんです。ただ、このライセンスを持っていれば投資信託や上場株式など別のものを提案できる。これは顧客接点がユーザー側に移ったのと同じぐらい大きな変化になると考えています。
MUGENLABO
確かにこういう制度があると、各社サービスを業種またいで提供する必要が出てきますね。ユーザーはスマホアプリひとつでお金も下ろせるし株も買えるし、保険も申し込むことができると。
鬼頭
そうなんです。ここでAPIの有用性が高まるわけです。様々な金融サービスを組み合わせて提供するためにはAPIで各種金融機関と繋がることが重要になってくるんです。
MUGENLABO
確かに全部スクラッチで作っていったら大変です。既存でサービス出している事業者はAPI用意して仲介業の方に提供すれば新しいビジネスにもなりますしね。ちなみに海外ではPLAIDがこういったAPIの集合体として有名ですが、国内にはまだ各種APIを束ねるような事業者は出てきていないんですか。
鬼頭
国内はまだですね。海外ですとAPIエクスチェンジと呼ばれる、いわばマーケットプレイスのような存在もあります。海外では日本の金融庁的な機関が関わっている、公的な団体がこれらを提供するケースもあって、例えば一番有名なのはシンガポールです。ASEAN Financial Innovation Networkが現地の金融規制当局と連携してAPIエクスチェンジを提供しています。
MUGENLABO
じゃあ私がシンガポールで保険や銀行、証券なんかを混ぜたサービスを作ろうと思えば、API叩くだけでできちゃう?
鬼頭
今はまだそこまで簡単じゃないですけど(笑。提供されているサンドボックス環境で色々なAPIを試せるので、企業はそういった公開されているAPIを検証しながら自社のプロダクトに組み込むことができるようになっています。
MUGENLABO
ということはいわゆる金融外の一般的な事業者の方々で新たに金融分野に事業を広げようという方が出てきている?
鬼頭
まさに「Embedded Finance」という言葉がそれで、海外中心にどんどん出てきていますよ。

MUGENLABO
なるほど、ただ、鬼頭さんはAPI化とEmbedded Financeをフェーズとしては分けてますよね?API叩くのも、サービスを貼り付けるっていうんですかね、組み合わせるのも考え方としては同じに思えるんですが?何が違うんですか?
鬼頭
第三のフェーズですが、まさに様々な業界やユーザーのライフサイクルの中で体験があると思うのですが、その中に金融機能をサービスとして埋め込んでいく段階になります。多分一番わかりやすい例がeコマースだと思うのですが、当然、モノを買えば決済の必要が出てきますよね。そのサイトに決済の金融機能を埋め込んでいくのがよくあるパターンかなと思っています。で、この決済が終わった後です。買ったモノに少額の保険を組み合わせた体験を提供したり、例えば少し購入金額に足りない場合は少額融資の提案をする、なんてことができるようになるわけです。
MUGENLABO
なるほど、今までは買えるだけだったけど、それに加えて金融サービスが加わると購買体験も変化しますね。
鬼頭
さらにビジネス向けであれば、サプライチェーンファイナンスのような形も出てくると思います。
MUGENLABO
なるほど、これまでのものと何が異なるんですか?例えば、eコマースを提供する事業者が年間にこれだけ売上があるからお金貸しても大丈夫だろう、という与信を取ってじゃああなたには10万円は貸しますよっていうのがサプライチェーンファイナンスの例ですよね。
鬼頭
そうですね、例えば事業者を階層に分けて考えるといいかもしれません。商品のサプライヤーがメーカー、卸、コマースプラットフォーム、小売と分かれているとします。先ほどお話されたのはコマースプラットフォームと小売の間のデータでのみ与信を取っていますよね。けど、メーカーから小売までデータやサービスが繋がっている世界では、消費者が小売に支払った段階で、メーカーにまで売掛が支払われることが分かるわけです。

これまではこの一つのサプライヤー単位でしかデータを見ていなかったかもしれませんが、APIで全体が繋がった世界では、全体の商流が見えてくるようになるので、金融機関も全体像を把握しながら融資や与信判断できるようになるわけです。リアルタイムかつ広範囲にデータを取得し、それを最適化できるようになるのがこのフェーズです。マルチティアとかディープティア・サプライチェーンファイナンスと言われるものです。

MUGENLABO
金融業界がAPIを使って銀行や証券・保険といったサービスを横断して使えるようになるのが第二フェーズ。そこから非金融事業者にもその範囲が広がって、データも全体像が把握できるようになることで、与信判断など別の信用が生まれるのがその次のフェーズ。
鬼頭
ということになりますね。
MUGENLABO
さらにその先の第四フェーズっていうのがあるんですよね。もう第三で十分な気がするんですが・・・・。
鬼頭
また第四フェーズでは色合いが変わってくるんです。第三フェーズでは金融以外の取引と組み合わされることで、例えば先ほどのサプライチェーンファイナンスの与信判断のように金融取引のために使えるデータも格段に増えるのですが、その次になると手段と目的が入れ替わるんです。
MUGENLABO
???????
鬼頭
頭の使い方で混乱しますよね(笑。金融取引にデータを使うのではなく、データ取引に金融のアナロジーを使う、という世界観です。
MUGENLABO
いいですよ。続けてください(※混乱中
鬼頭
情報銀行ってご存知ですか?
MUGENLABO
うっすらと。情報を銀行のように集めて、例えば人の信用情報を異なる企業間でも「引き出して」使えるようにするという考え方ですよね。ブロックチェーンまわりで話題になっていました。
鬼頭
情報銀行ってお金を扱うわけじゃないんですが、銀行って付いていることからも分かる通り、やはり金融のアナロジーを使っているんですね。例えばフィットネスサービスがあるとします。運営する事業者の方はここに生命保険を付けることで事業の拡大が狙えるわけです。
MUGENLABO
これは第三フェーズの話ですよね。API叩けば保険が付けられる。
鬼頭
ただ販売するだけでは何をおすすめしてよいかわからないので、フィットネスですからバイタルデータを取得して活用することができますよね。
MUGENLABO
ああ、なるほど。年齢や性別などの情報も保険には必要ですもんね。
鬼頭
もしこの個人が持っているデータをどこかに預けて事業者の方が利用しやすくしたらどうなるでしょうか。
MUGENLABO
ああ、なるほど、個人に紐づいた健康情報がどこかから引き出せるのであれば、フィットネス事業に関係なく、健康状態に基づいた保険商品を販売できますね。

鬼頭
そうです。第四のフェーズでは、このように個人や企業に紐づいた色々なデータを取引しやすくするため一度、銀行のような機関に集約していくような形になると考えています。そして事業者は必要に応じてその情報を引き出すことで得られた対価を、情報銀行を通じてそのデータの権利者に還元してくことになります。これは銀行が預金者から預かったお金を企業に貸し付けて、そこから得られた金利収入で預金者に利息を支払う流れと全く同じですよね。
MUGENLABO
第三フェーズではサプライチェーンのように繋がっている人たちで相互に情報のやりとりを俯瞰できるようになっていましたが、第四フェーズでは一旦そのデータ自体をどこかに集約して必要に応じて利用できるようになるという。
鬼頭
そういうことです。金融取引のためにデータを使うのではなく、データやそれに紐づく権利などが取引される世界観というのがそれです。先ほどは間接金融のアナロジーを用いた情報銀行を例に挙げましたが、当然直接金融のアナロジーを用いたデータ取引所という考え方もありますし、デリバティブのような概念も存在します。既に海外ではデータのバリュエーションをどう行うか、といった議論もされています。
MUGENLABO
ダイナミックな変化ですね。おさらいすると、第一フェーズでは金融取引の顧客接点が金融機関から消費者に移り、1対1だったシンプルなコミュニケーションが1対Nに広がりました。消費者の利便性を高めるためにオンライン化とスマホへの顧客接点の集約が進み、複数の金融機関の口座情報が一つのスマホで確認できるようになった。その次に銀行・証券・保険といった全ての業態の金融機関の機能がそれぞれAPI化され、サービスとして使いたいモノだけを自由に組み合わせて利用できるようになった。第三フェーズでは、そうやって開放された様々な金融機能がAPIで非金融分野の様々なサービスと繋がり、生活や企業活動の中に金融が溶け込んでいく。

そして最後はこういった個々に生まれた情報が、金融商品のような取引対象として扱われ、情報銀行のような機関を通じて、必要な事業者が必要なタイミングで取得したりその対価を支払ったりするようになる、と。鬼頭さん、こういった理解って各金融機関の方々も研究されていると思うのですが、どうして日本ではAPI化、第二フェーズあたりで足踏みをしているのでしょうか。

鬼頭
金融機関のAPIによっても参照系と更新系があって、例えば参照系は口座情報の確認とかですよね。これは進んでます。ただオープンにするまでにはなかなか至っていないのが現状です。例えばマネーフォワードさんやfreeeさんのところに提供して終わり、という具合です。開放まではされていません。こうした状況を変えるには先に説明した通り、こういったAPIを相互運用性を持たせる形で束ねる存在が必要で、誰かが手を上げる必要があります。
MUGENLABO
なるほど
鬼頭
また、現実的な課題としてコストの問題があって、例えば口座の残高確認をスマホでやったとして、それにかかるシステムのコストを誰に転嫁しますか?という問題が出てくる。そうなると当然銀行側がAPIを提供してもそれに対して利用する事業者さんが手数料を上乗せしにくい。このコストの問題がやはり大きいというのは課題として聞いています。
MUGENLABO
ということで長時間に渡り、鬼頭さんにEmbedded Finance、全ての事業者がフィンテックに変わっていく4つのフェーズについて解説いただきました。ありがとうございました。
鬼頭
ありがとうございました。

アニメ・マンガを起点にスタートアップとの共創めざす大日本印刷(DNP)

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 KDDI ∞ Laboの事業共創プログラム「∞の翼(ムゲンノツバサ) 」は、大企業2社以上で策定した事業テーマに基づき、スタートアップと共に新規事業創出を目指すプログラムです。2021年度は、事業の要となる MVP(Minimum Viable Product)のローンチを目指します。 ニュースレター…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDI ∞ Laboの事業共創プログラム「∞の翼(ムゲンノツバサ) 」は、大企業2社以上で策定した事業テーマに基づき、スタートアップと共に新規事業創出を目指すプログラムです。2021年度は、事業の要となる MVP(Minimum Viable Product)のローンチを目指します。

本稿では、今年度の「∞の翼」に参加するパートナーの一社である大日本印刷(以降、DNP)にお話を伺いました。採択されたスタートアップ、DNP、KDDI の3社により、これまでにないアニメ・マンガIP(知的財産権)を活用した、新しい価値を提供するビジネスの創出を目指します。

 

DNP の歴史——受託、自社事業、そして共創へ

DNPは出版印刷業を祖業とする会社です。DNPの前身は、1876年に創業した秀英舎と1907年に設立した日清印刷で、1950年頃までは、出版印刷を中心とした事業を行ってきました。その後、印刷技術の応用によって事業領域を拡大する「拡印刷」を推進、印刷する対象を紙からフィルムや金属などに拡げることで、包装や建材、エレクトロニクス製品までを手がける総合印刷会社へと発展しました。さらに1970年代には印刷用の組版をコンピューターで行うCTSを導入し、そのデジタル化のノウハウがその後のICカードやネットワーク関連のビジネスで活かされました。そういった意味では、我々がデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼んでいるのに近い大きな転換を、DNPは約40年も前に経験していたことになります。

社会環境が大きく変化する今、DNPは、「P&I(印刷と情報)」の強みを活かし、さまざまなパートナーとの対話・協働を通して、将来にわたって人々や社会に価値を提供することを目指しています。2021年3月期からの3か年の中期経営計画では、イノベーションによる新たな価値創造が柱に据えられ、「知とコミュニケーション」「食とヘルスケア」「住まいとモビリティ」「環境とエネルギー」の4つの成長領域で事業注力することが明らかになっています。また、受託事業のみならず、自社事業、そして共創事業にも取り組むことで、さまざまなパートナーの強みと自社の強みを掛け合わせ社会課題解決につながる価値を生み出そうとしています。

今回の「∞の翼」でスタートアップとの共創に手を挙げていただいたのは、DNP コンテンツコミュニケーション本部 イベント・MD推進部の皆さんです。前述した中期経営計画でも記された DNPが注力する成長領域の一つ「知とコミュニケーション」の一翼を担っています。コンテンツコミュニケーション本部の目標は、受託・自社・共創の類を問わず、コンテンツ分野に特化してコミュニケーションをサービス化し、それを事業化していくこと。その象徴的存在が、今年4月に渋谷モディに開設された「東京アニメセンター in DNP PLAZA SHIBUYA」です。

共創を象徴する場として、渋谷にオープンした東京アニメセンターin DNP PLAZA SHIBUYA

東京アニメセンターとは

東京アニメセンターが創設されたのは、2006年の秋葉原。当初は、アニメプロダクション各社が加盟する一般社団法人日本動画協会(The Association of Japanese Animations、以下:AJA)がアニメ産業の発展と情報発信の場として展開していました。DNPは2017年にAJAと提携し、東京・市谷のオープンイノベーション施設「DNP プラザ」内に「東京アニメセンター in DNP PLAZA」を開設。さらに、今年に入り、DNPはパートナーの強みを掛け合わせ、リアルとバーチャルの双方を行き来できる新しい体験価値と経済圏を創出する「XR コミュニケーション事業」を打ち出し、これを具現化する場所の一つとして東京・渋谷のモディ内に「東京アニメセンター in DNP PLAZA SHIBUYA」としてリニューアルオープンしました。

東京アニメセンターが紹介するテーマであるXRのアプリ「HoloModels」を使ったクレヨンしんちゃんのコンテンツ
©臼井儀人/双葉社 ©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK ©HoloModels™/©Gugenka®
引用元:https://gugenka.jp/digital/holomodels_shinchan.php

この新しい東京アニメセンターで、DNPはアニメ・マンガ・ゲーム等のコンテンツホルダーと協業し、リアルとバーチャル双方の多様な表現手法を使ってコンテンツの魅力を発信します。ここを「XRコミュニケーション事業」の基軸となる拠点として、生活者とコンテンツ・企業をつなぐ新しいコミュニケーションモデルの創出を推進しています。東京アニメセンターではコンテンツホルダーの協力を得て、企画展形式でさまざまなキャラクターとXRの融合事例を体験させてくれます。オープンを記念した初回の企画展は、「原作30周年記念展 クレヨンしんちゃん オラのミリョク新発見だゾ」を開催しました。

「リテールテイメント」を実現する DNP の自動販売機
大阪・心斎橋PARCO内のクレヨンしんちゃんオフィシャルショップ「アクションデパート心斎橋店」に設置
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK
引用元:https://www.dnp.co.jp/news/detail/10158923_1587.html

また、DNPではアニメキャラクターとコミュニケーションできる特典を提供する、小売(リテール)と娯楽(エンターテイメント)が融合した買い物体験「リテールテイメント」というコンセプトを生み出しています。この体験を実現するサービスの一つは DNPが開発した自動販売機で、情報表示用のディスプレーを搭載し、キャラクターグッズの購入時に、商品に応じた特典コンテンツの表示やキャラクターとの合成写真が撮影できます。また、購入時のディスプレーに表示された2次元コードをスマートフォン等で読み取ることで、撮影した写真が自分のスマートフォンに転送されたり、バーチャルなイベントに参加したりすることができます。

「スタートアップと共に、これまでに無かったビジネスを創造したい」

東京アニメセンターの企画展内スクリーンエリアで、スタートアップとの共創について語る DNPの渡邉氏、上田氏、モタイ氏
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK

今回の「∞の翼」では、幅広な顧客基盤やソリューションを持つDNP、通信インフラやパートナー連合を有するKDDI、さらに、アニメやマンガといったIPを持つコンテンツホルダーとの関係性がある中で、スタートアップからのユニークな提案が求められます。DNPでは、展示でもない、リアルグッズでもない、イベントでもない、これまでに無かったアニメ・マンガ起点の新しいサービスの提案に期待しています。今年度の「∞の翼」の目標としてMVPのローンチが掲げられているように、上田氏はDNPとしても「東京アニメセンターを通じて生活者に実際に提供させていただき、具体的なサービスモデルのイメージが描けるような形まで、プログラムの中で推進していきたい。」と強調します。

スタートアップとは、その会社ならではの技術と我々のアセットとを組み合わせることで、MVPを作り上げていきたいと思いますが、提案いただくものは、ハードウェア、ソフトウェアを問いません。中には、ブロックチェーン、NFT、インフラとなる技術も活用できると考えます。

企業向けへの展開も、十分に可能性があります。例えば、東京アニメセンターで生活者に接客するキャラクターも、東京アニメセンターを飛び出して、小売店舗の店頭で接客することも可能です。様々な業界に対して、コンテンツを活用したコミュニケーションモデルの創出=ビジネスの発展につながると考えています。(上田氏)

DNP自らがアニメやマンガのコンテンツホルダーなわけではありませんが、彼らが強固な関係を持つコンテンツホルダーや、アニメプロダクションらに共同で事業提案などが可能であるため、スタートアップ単独では難しい事業展開のハードルをかなり下げることができます。ここからスタートアップとの共創で生まれる新たなサービスは、日本のみならず、海外のアニメファンらも魅了する可能性があります。DNPやKDDIは必要に応じて、そういった海外展開の側面支援にも対応するそうです。これまでに見たこともない、アニメ・マンガ起点の新サービス・新ビジネスの誕生に向けて、アイデアと野望に満ちたスタートアップの参加を楽しみにしたいと思います。

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出すROADCASTプロジェクト、ヘラルボニーと東急が共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本…

写真左から:ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さん、東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本来の権利や生活に関わる取り組み」を企業は無視することができなくなりつつあります。

一方、こういった取り組みにはアイデアが必要です。今回ご紹介するヘラルボニーと東急の共創事例は、人と社会、企業それぞれが持っている課題を和らげつつ、持続可能な取り組みとしてまとめることに成功しています。街のビルボードをアートに変える取り組みについて、ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さんと東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さんにその裏側をお聞きしました。

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出す

街の中に溢れる屋外広告のスペースを出稿したい広告主とマッチングするプラットフォーム、それが東急の展開する「ROADCAST」です。この広告スペースに出稿がない空き期間をアートで華やかに演出しようというのが、今回の「Wall Art MUSEUM STORE」プロジェクトになります。

一方、タッグを組んだヘラルボニーは知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを元に事業を展開するスタートアップです。今回の共創プロジェクトでは、東急の管理する壁面広告の「空き枠」にヘラルボニーが管理するアートを配置しよう、というものでした。

もう少し具体的に説明すると、通常、壁面広告には下地となる枠があります。ここは空いている期間に何も表示されないか、空き枠募集の電話番号などが記載されることが多くなります。当然ながら見た目は悪く、空いている期間が長いと人気がないような印象を持たれてしまいます。

「Wall Art MUSEUM STORE」作品

東急や壁面広告枠を提供する不動産事業者にとっては、広告出稿がない期間も壁面を華やかに演出できると同時に、福祉への取り組みに協力することもできます。また、ヘラルボニー側も預かる作家の作品を一人でも多くの人々に届けることができるようになる、というわけです。

アイデアなのはここで作家の作品を買えるような導線を作ったことです。

QRコードを掲載してそこからオンラインストアで、アート作品をプリントしたグッズなどを購入できる仕組みなのですが、松田さんのお話では直接ここからやってくると同時に、街中でヘラルボニーの作品を知った人たちが自然とサイトに集まるようになったとされていました。片山さんはプロジェクトの狙いをこう語ります。

「売上の一部はアーティストと福祉施設に還元され、福祉分野の経済的活性化につなげます。渋谷、原宿、表参道、虎ノ門、新宿、銀座など約40箇所から開始し、今後もウォールアートを増やしていく計画です。開始から約3か月で300件ほどのQRコード読込があり、そのうち約30%が商品の購入ページに遷移しています。

ROADCASTは、屋外広告という切り口で街のちょっとした空きスペースを活用して街の価値向上につなげていく事業です。景観を害するものとして街の嫌われ者だったり、効果測定が難しくただただコストのかかる広告媒体だった屋外広告の可能性を追求し、アート展示など街の賑わい形成につながるメディアとしての整備やDX推進による効果測定の仕組み化など、街にとっても広告主にとってもWin-Winな存在を目指したいです」(片山さん)。

東急アクセラレートプログラムでの出会い

壁面アートからグッズを購入できる(ヘラルボニーのECサイト)

両社の共創は、東急が実施するアクセラレートプログラムにヘラルボニーが参加したことで始まります。

「元々ROADCASTは、落書きに悩む壁を中心に街中の数十~百箇所で広告を同時展開し、街の賑わい形成や落書き抑止という街への貢献を意識して展開をしていました。一方で殺風景な壁に戻ってしまう広告未稼働時がもったいないと感じており、持続可能な形で街や社会に貢献できる活用方法を模索していたんです。そんな折、ヘラルボニーの全日本仮囲いアートミュージアムという取り組みをお伺いし、それを発展させる形で、街をまるごとミュージアムショップにできないかというアイデアをヘラルボニーさんと話し合いました。期間限定のイベント的にアートを展示して終わりではなく、持続性のある展開としてじわじわと街中にウォールアートを増やしつつ、ウォールアートからECへと誘導して物販収益につなげているのがポイントです」(片山さん)。

街全体をアートミュージアムにしよう、という方向性はすぐに固まるものの、屋外でヘラルボニーのアートを展示すると施工コストが大きくなってしまいます。福祉という観点ではよい取り組みも持続性がなければイベントで終わります。そこで出たアイデアが壁面設置の下地パネルそのものをアート作品に変える、というものだったのです。下地パネルの製作・施工コストもそこから生まれる物販収益から回収することにしました。

「知的障害のあるアーティストとの接点はまだまだ少ないため、街を通してアート作品を掲出することで繋がりを生み出せたことには大きな意義があったと考えています。両社にとってプラスになるような仕組みを整えるのに苦戦しましたが、QRコードから売れた分の売り上げをシェアする仕組みを構築したことで、ヘラルボニーは壁面で販売し、ROADCASTさんは未利用壁面を活用できる、両者にとって持続可能な方法ができたと思います。結果、街でアート作品を発見した、というSNS投稿が見られるようになりました。壁面から弊社について検索した人など、認知度の向上に繋がっているのではと考えています」(松田さん)。

片山さんによれば、壁面を貸している物件所有者の方からも好評をいただいているそうで、こういった形で少しずつ、SDGsなどの活動に寄与できるという点も評価されているのだとか。今後は時期ごとに企画を練ってWall Art MUSEUM STOREならではのアート展示やアートを落とし込んだプロダクトの取り扱いにも挑戦したいとお話されていました。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

伝統メディアを「デジタル化」させるキメラ、凸版印刷とタッグ

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 伝統的なメディア・パブリッシャーが抱える悩みのタネはビジネスモデルです。紙をデジタルにするだけでなく、ビジネスモデル・体制からコンテンツを作る考え方、読者との向き合い、あらゆる面で従来の手法を…

写真左から:凸版印刷の菅原健春氏、キメラ代表取締役の大東洋克氏、凸版印刷の内田多氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

伝統的なメディア・パブリッシャーが抱える悩みのタネはビジネスモデルです。紙をデジタルにするだけでなく、ビジネスモデル・体制からコンテンツを作る考え方、読者との向き合い、あらゆる面で従来の手法を見直さなければならないからです。この課題に取り組もうという共創が、凸版印刷とデジタルパブリッシャー支援を手がけるキメラの提携になります。2019年末には両社の資本を含めた業務提携の取り組みが公表されています。

そこで本稿では両社が手がけるパブリッシャーのデジタル化ソリューション「Ximera Ae」(キメラ・エーイー)を中心に、伝統的なメディアが抱える課題とその解決方法について両社のお話を伺いました。

デジタルメディアのグロース支援

キメラが提供するのは「読者ロイヤルティ」を中心に据えたデジタルメディア事業グロース支援事業で、各メディアが抱える複雑な課題を伴走のスタイルで解決しています。海外製ツールである記事コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat(チャートビート)」の日本総代理店としても、導入と分析ノウハウの支援でメディアと向き合っており、2019年1月以来、パブリッシャー19社・51媒体(2021年2月末時点)に向けてデジタルメディアの事業評価やグロース支援を手がけた実績を持ちます。

Ximera Aeサービスイメージ

また、こうやって積み上げたメディアへの読者エンゲージメント向上ノウハウを基に、メディアが制作するコンテンツの価値を訴求し、マネタイズするサブスクリプション管理プラットフォーム「Ximera Ae」を自社開発しています。同時に、共創・協業する凸版印刷とは、出版社などのメディア営業網を活用して「Ximera Ae」の販売連携をしています。

「キメラは『パブリッシャーの未来を共に創る』企業です。有益な情報を提供することで時代を動かし、⽂化を築いてきたパブリッシャーを深くリスペクトしています。既存のメディアビジネスが苦境にある中で、真摯にコンテンツに向き合う⽅々が報われる世界を作り、今⼀度インターネットの本来の価値を創造したいと考えています。2021年からは、初の自社開発プロダクトである、サブスクリプション管理プラットフォーム『Ximera Ae』を通じ、デジタルメディアのマネタイズ選択肢を広げていきたいです」。(大東さん)

伝統メディアの課題

これまでもパブリッシャーのデジタル化は「電子書籍」などでじわじわと進んできた経緯がありました。一方、ここ数年で一気に顕在化してきた課金・サブスクリプションモデルへの対応は、読者数を大きく稼ぐ必要のある広告モデルと相反する部分があります。また、考えるべきポイントも流入経路から読者ロイヤリティなど多岐に渡るため、パブリッシャーが抱える課題や悩みは更に複雑さを増します。大東さんは現状をこう分析します。

「Yahoo!ニュースやSmartNewsなどのニュースプラットフォーム、TwitterやFacebookといったソーシャルメディア、はたまたnoteなどの個人によるコンテンツ発信モデルの台頭により、『マスメディア』と呼ばれていた新聞、雑誌、テレビが、インターネットを通じたコンテンツ発信および読者とのコミュニケーションにおいて、相対的に強みが発揮できない状況になりつつあります。

一方、コンテンツの発信手法や形態の多様化により、ユーザーが視聴・閲読できるコンテンツが膨大になっている状況下では、デジタルメディアは、ページビュー数に依存した広告収益(視聴・閲読は無料)モデルのみでは、従来のアナログの事業形態時の収益を補完・置換できる規模・成長性を見込むことが難しくなっているのも事実です」。(大東さん)

凸版印刷とキメラが特に注目しているのが、大手・中堅の伝統的なメディア企業だそうです。

特にビジネスモデルに直結するテーマでもあることから信頼関係は重要で、その点で凸版印刷の持つ関係性は大手出版社などとの取り組みをする上で大きくプラスに働いているというお話でした。一方、凸版印刷の菅原さんと内田さんはこういった提案先に対し、不足するSaaSプロダクトの営業ノウハウをキメラと協力して補完したことも明かしてくれました。

顧客とのすり合わせを重ねてソリューションを提供する受注産業・営業スタイルの凸版印刷内では、キメラのSaaS型プロダクトの営業経験・ノウハウが不足しており、キメラと凸版印刷、パブリッシャーの3者連携の実現・成果創出に結びつけることができなかったんです。そこでキメラチームの協力を得ながら、凸版印刷内でのセールスファネルの勉強会やヒアリングシートの整備・更新、受け渡し基準の明確化などを積み重ね、改善しながら連携していってます。

「パブリッシャーは、サブスクリプションモデルの構築に際し、技術的な開発仕様の検討で手一杯になり、サブスクリプションの事業計画や運用体制構築まで手が回らない状況も多くなりがちです。こうした問題に対して構造的な課題抽出と解決を実現し、メディアの本分としての価値ある情報発信に集中しやすい環境づくりが可能、とお伝えするようにしていますね」。(菅原さん・内田さん)

印刷を中心に出版社などのメディア企業と長らく関係を構築してきたのが凸版印刷です。エコシステム全体を考えた際、パブリッシャーのビジネスモデル、デジタル化を推進することは業界全体の下支えになるのは間違いありません。

両社は以前、本メディアでも取材したトッパンCVCのチームのアプローチをきっかけに協業・資本提携の話が始まったそうです。事業部等で協業検討を進め、黒子のようにメディアグロースを支えるという方向性が一致したことでその後の協業が加速したというお話でした。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

店舗とサイト「間」の購買体験を探せーーアイスタイルとKDDI「@cosme TOKYO -virtual store-」での共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR …

写真左から:KDDI 藤倉皓平と下桐希、コスメネクスト(Flagship store事業部/@cosmeTOKYO)坂井亮介氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR Door」内に設置された店舗へ仮想的に来店し、化粧品ブランドの購買体験を楽しめるというものです。

このバーチャル店舗では、花王の化粧品ブランド「KANEBO」「KATE」「SOFINA iP」の商品が販売されるほか、バーチャル空間で仮想的に商品を手に取ってテスターを利用したり、8K(5G推奨)の高画質できめ細やかに表現された店舗の内観や商品の色彩によって、実際に来店したような体験が可能になっています。KDDIとアイスタイルは今回のバーチャル店舗での取り組みを通じ、先端技術を活用したビジネスモデルの共同創出も狙うとしています。

アイスタイルでは2020年1月にJR原宿駅前に体験型のフラッグシップショップ「@cosme TOKYO」をオープンさせており、600ブランド2万アイテムを展開していました。両社は感染症拡大をきっかけにEC利用が拡大するなか、この店舗でのワクワクするような体験とXR・5Gを活用した完全非接触の購買を融合させた取り組みとして、今回のバーチャル店舗を開始しています。

本稿ではKDDI・アイスタイルの両社でこの共創案件を担当したアイスタイル坂井氏、KDDI下桐氏、藤倉氏のお二人に話を伺いました(文中の太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部)。

スマホのみ「没入体験」への挑戦

バーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」においてユーザーは「au XR Door」アプリを立ち上げてスマホをかざすと、360°画像としてバーチャル店舗を歩き回ることが可能になります。

また、商品棚の前で手に取った商品をタップすると@cosmeの公式通販「@cosme SHOPPING」へ遷移し、商品購入ができます。行きたい場所についてはフロアマップから直接移動することも可能で、花王の商品の一部については各ブランド棚や店舗内1Fに設置されたテスターバーにて、テスターを使ったような体験ができるようになっています。

KDDIは今回の協業で5G・XR技術の提供を実施し、アイスタイルは「@cosme TOKYO」で得たリモート接客などのノウハウや@cosmeとのクチコミデータベースとの連携を担う、という分担になっています。

スマホのみで没入体験を目指したバーチャル店舗(@cosmeブログより)

今回のバーチャル店舗設置の狙いについて教えてください

坂井:2020年1月にJR原宿駅前にオープンした新体験フラッグシップショップ「@cosme TOKYO」ではワクワクする空間やランキング売り場、手書きのポップ、カウンセリングなど店舗でしか体験できないお買い物の楽しさをお届けしており、600ブランド2万アイテム以上の幅広い品ぞろえとさまざまな楽しい仕掛けを用意しました。

今回の取り組みには『購買体験』をどうアップデートしていくのかというテーマがあります。これは@cosme視点ではあるのですが、「@cosme TOKYO」のような店舗によるリアル購買とeコマースによるオンライン購買があった時、この中間にあるような体験を作れないか、というのが狙いのひとつです。

なるほど「店舗とコマースの中間」の体験は新しい視点ですね

坂井:仮想空間に入るとワクワクしたようなコンテンツが溢れていて体験もできる。買いたい場合は買える。これは2次元のeコマースだけではなかなか表現しきれない部分です。一方、来店には物理的な移動や接触がハードルです。これをスマートフォンひとつで実現しようという、本当の最初の一歩がau XR Doorの取り組みなんです。

実際に使ってみると没入っぽい体験でありながらスマートフォンのみで利用できるので、手軽な反面、スペースを必要とするなど戸惑いもありました

KDDI:実は今回、「@cosme TOKYO -virtual store-」に使ったアプリ「au XR Door」はそもそもVRヘッドセットを利用してXRサービスを企画・開発しているチームが新たに提案したものなんです。

VRヘッドセットは特に女性が着用する際、髪型が崩れるなどの運用面の課題がありました。また、機材も必要になるので、一人で体験するにはややハードルが高かったんです。そこで没入体験でありながらスマートフォンだけでそれを実現できないか、そう考えた結果があの「どこでもドア」体験だったんです。実際に利用データを見てみると、仮想店舗に来店した人はポップをズームで見ていたりと実際の来店と同様のアプローチが優先される、ということが徐々に見えてきています。

一方、課題があることも認識していて、例えば歩き回るスペースがない場合にどうするのかとか、ユーザーからの定性的なフィードバックや、実際のデータから見えてくる「つまづき」を参考に今後のアップデートを議論しているところです。

まだ始まったばかりですが、この新しい購買体験のヒントは見えてきましたか?

坂井:コスメって本当に多くの種類があるので、それらを自宅にいながらにしていくつも試せる、例えば自分の顔に合った商品を見つける、といったこともできるようになるかもしれません。こういった魅力的なブランドとの出会いの方法をアップデートできるんじゃないかと考えています。

データの活用についてはいかがでしょう。来店した人の属性データなどから多様な商品のおすすめをする、といった流れは想像できそうです

坂井:データをAIで読み解いたりそれをマッチングに使うことはeコマースでも可能です。どちらかというと、それ以上にヒューマンタッチが重要で、つまり接客ですね。お客さんの肌にあったパーソナライズされた提案活動、これが化粧品には大切なんです。ここについてはもちろんテクノロジーも使いますが、オンラインカウンセリングのような人の力を組み合わせた、テックタッチ・ヒューマンタッチを融合させた空間づくりには挑戦していきます。

スマホのみで没入体験を目指したバーチャル店舗(@cosmeブログより)

少し話を変えて、コロナの影響と実際の利用ユーザーからの反応についても教えてください

KDDI:そもそもKDDIでは新型コロナウイルス感染症の影響で売上に悩んでいる化粧品メーカーや小売に対して、リアル店舗やECとは異なる新たな販路として、実店舗のVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)を再現し、在庫がなくても店舗体験をユーザーに提供できる低コストのバーチャルストアを企画していました。特にテスターを試すのが憚られる中、手に取ったかのような体験ができる機能やARのメイクアップ機能は実物がなくても商品確認ができる、という点で非常に重要と考えています。

坂井:これはコロナ感染拡大の以前からですが、小売りのDXや店舗体験の可視化・価値化はテーマにありました。やはり化粧品はリアル店舗にお越しいただいてから始まるUXが多かったんです。そうこうしている内に感染症が拡大し、店舗としての魅力である「巡ること=出会うこと」「試すこと=手にとること」「相談すること」ができなくなってしまったんですね。

なるほど

坂井:今回のケースでは、こういった本来提供できるUXの価値が下がっている状況をバーチャル体験で補う、というのが目標にありました。そこでオンライン/バーチャル上での出会いの場である店舗を立ち上げ、店舗やオンライン上から仮想的に商品を手に取ったり、テスターを使ったような体験と「公式通販」から商品の購入ができる、というところまで用意した、というのがここまでの取り組みですね。

協業のスピード感はどのような流れだったのでしょうか

坂井:とあるメーカーさんにお繋ぎいただいたのがキッカケです。目指す方向やイメージはお互いすぐにリンクしていたと思っておりまして、この仲間たちなら絶対に新しい価値が見出せると思ったことを覚えています。実施に至るまでのハードルは時間と環境ですかね。

KDDI:私たちもオンラインとオフラインを融合させた顧客体験をXR Doorを通じて実現できると感じたため、ご紹介いただいた後、KDDI側からも協業をお願いしました。

坂井:ただ、とにかく時間もなくて、9月中旬に初めてKDDIさんとお会いしてから4社を跨ぐ横断プロジェクトが生まれ、毎週のように打ち合わせを重ね、12月にはデモを出すというところまでもっていったのは素晴らしいスピード感でしたね。今回はずっとコロナ感染拡大との闘いでもあり、本当はお披露目を@cosmeTOKYO1周年のリアルイベントでさせていただきたかったですが、緊急事態宣言により延期となったのは心残りです。

反響はいかがですか

坂井:リアルな店舗とECのオムニチャネル化・OMOという発想自体はお持ちの人が多いですが、我々は店舗”体験”のオンライン化にこだわりました。また他企業がすでに展開しているブラウザ用の表面的なバーチャルサイトではまだまだ表現が難しいです。その点において、将来を見越したチャレンジであり「らしさ」があると化粧品業界の関係者から注目をいただいています。

KDDI:@cosmeブログでは「@cosme TOKYO -virtual store-」の記事が約50万閲覧を超え、XR Doorの新規ユーザー数も増えています。多くのユーザーにバーチャルストアの可能性を感じていただけているのではないかと思う一方、緊急事態宣言が発令された結果、リアル店舗と連携した取り組みがまだ実現できていないのが課題です。この件についてはアフターコロナに向けて準備しております。

ありがとうございました

エンターテインメント領域で新たな産業創出をーーテレビ東京コミュニケーションズの投資活動

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたヤマトHDのスタートアップ投資に続いてお届けするのは、テレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動です。 テレビ東京のグループはテレビ東京ホールディングスをトップに、中核となる地上波とBS放送のテレビ東京とBSテレビ東京、テレビ通販やEC…

テレビ東京コミュニケーションズ メディア事業開発本部 ビジネスデザイン部 遠藤哲也氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたヤマトHDのスタートアップ投資に続いてお届けするのは、テレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動です。

テレビ東京のグループはテレビ東京ホールディングスをトップに、中核となる地上波とBS放送のテレビ東京とBSテレビ東京、テレビ通販やEC、コンテンツなどの周辺事業を手がける連結子会社12社、そしてコミュニケーション領域として動画配信事業などを手がけるテレビ東京コミュニケーションズが集まって構成されています。

テレビ東京ホールディングスが昨年に公表した中期経営計画では、コロナ禍における厳しい広告収入を前提としており、放送収益の落ち込みを最小限に抑えつつ、アニメ・コンテンツ事業やイベント、通販といった放送外・周辺領域の事業展開を強化するとしています。

本記事ではその中にあってクロスメディアや動画配信、IP事業などを手がけるテレビ東京コミュニケーションズが窓口となって推進する、スタートアップ投資の活動についてお伺いしました。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はテレビ東京コミュニケーションズBusiness Producerの遠藤哲也さん)

事業本体からの投資活動ということですが、どのようなフォーカスで出資されていますか
遠藤:スタートアップとの事業シナジーを目的に出資をはじめました。投資領域は日本国内オンリーで、エンターテインメント領域に出資をしております。CVC形態ではなくプリンシパル投資のみです。出資した企業との事業連携により、実益をスタートアップと創出できるよう意識しております。出資後、すぐに現場に実装できるよう、密なコミュニケーションを取らせて頂き、各部署にスタートアップサービスの紹介、連携推進をしております。またメディア戦略や事業戦略のアドバイスも行っており、積極的な企業グロースのバックアップをさせて頂いております。

かなり明確な投資方針でわかりやすいですね。具体的なケーススタディはどのようなものがありますか
遠藤:出資先のZeppyとはデジタル経済番組の共同制作を実施しています。Zeppyは投資領域に特化したYouTubeコンテンツ制作を手がけていて、「投資をもっと普通のことに」をミッションに、投資の大衆化を目指し活動している企業です。株式投資専門チャンネルとしては国内最大級で、このZeppyに所属するYouTuberと連携することで、幅広い属性の個人投資家やYouTubeを日常的に視聴する一般層へのリーチを目的とした取り組みをしています。

また、同様に出資先のSEPALとは保有IPを活用したグッズ販売を実施しています。LINEと連動したECシステムで、若年層へシームレスなグッズセールスを目的とした取り組みです。彼らのECサービス「Live self order」はイベント事業者を中心に一気に活用が広がっています。

マーケットを変革するためにも、スタートアップは文字通りスタートしたら「アップ」し続けるべきだと思っています。世の中のニーズを捉え、経済の牽引役となる新たな産業を創出するべきです。私自身、スタートアップでマーケットへチャレンジしてきた経験もあり、現職でもそういった果敢にチャレンジするスタートアップを本気でバックアップしたいと思っています。

具体的な出資のポリシーや意思決定のフローはどのようになっていますか
遠藤:マイノリティ出資、リードを取ってのマジョリティ出資など、出資先企業毎に違います。出資時の重要な判断軸は、(1)経営者、(2)事業シナジー含めてのマーケットの成長性、(3)優位性です。

初面談から出資までのスケジュールとして、おおよそ3〜4カ月は頂いております。現場担当がスタートアップと面談し、その後、私に案件の報告があります。マーケットとビジネスモデルが弊社の事業拡張領域とフィットするのであれば、私の方で改めて面談のお時間を頂いております。更にビジネスゲインやキャピタルゲイン、共に見込めるようであればDD(デューデリジェンス)に進んで出資計画書を作成します。その後、役員に提案して細かい部分でのフィードバック、最終チェックを経て出資委員会での決議、出資という流れになります。

新たなアイデアや技術、ビジネスモデルに挑戦する方々と一緒に共創し、新たな産業創出にチャレンジしていきたいですね。

ありがとうございました。
ということでテレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動についてお届けしました。次回もお楽しみに。

激動の松竹と共創:問われる「松竹ID」の可能性 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 前半では感染症拡大で歌舞伎が受けた影響と、そこから大きく開いたデジタル化への扉について松竹取締役、船越直人さんにお話を伺いました。後半はさらに具体的なアクションについて同じく取締役兼松竹芸能会長の井上貴弘さんにお話しいただきます。 松竹には歌舞伎の他にも映画や、テレビタレントなどを擁する松竹芸能といっ…

松竹 取締役 事業開発副本部長 イノベーション推進部門担当・井上貴弘氏(松竹芸能 会長)

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

前半では感染症拡大で歌舞伎が受けた影響と、そこから大きく開いたデジタル化への扉について松竹取締役、船越直人さんにお話を伺いました。後半はさらに具体的なアクションについて同じく取締役兼松竹芸能会長の井上貴弘さんにお話しいただきます。

松竹には歌舞伎の他にも映画や、テレビタレントなどを擁する松竹芸能といったグループ企業が存在しています。特にタレントマネジメントについては2017年にUUUMと提携するなど、デジタル化を見据えた新たな人材育成にも力を入れています。また、これまでの資産として松竹を取り巻くファンの存在も重要です。昨年LINEとの提携発表では巨大なユーザーベースをID化して活用する「松竹ID」の構想にも触れられていました。具体的な松竹のデジタル化はどのように進むのでしょうか(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中敬称略) 。

配信の力学がタレントビジネスを変える

ここからは井上さんにお聞きします。エンターテインメントを考える上で、タレントの存在は言わずもがな重要ですが、ここ最近はYouTuberに代表される新たな「アマ以上のプロ」の存在が目立ってきています。改めてプロダクションとしてのポジションはどのように変化するとお考えでしょうか

井上:これからは芸能プロダクションという存在は、クリエイターたちにきちんと価値を提供していかないと存在意義が問われると思います。

私たちのグループに松竹芸能というプロダクションがあります。そこのケースで言えば、松竹芸能にとって、主戦場はやはり地上波のゴールデン番組だったのです。極端な例では、少し前の「放送局によって優劣が顕著だった時代」に、どのような番組に出演することがタレントの現在と将来にとってベストかの判断の前に、とにかく影響力のある放送局のゴールデン番組の方が、力の無い放送局の深夜番組よりも良い、みたいな感覚があったと思います。本来は、そのタレントが深夜番組で司会をやった方が将来につながるにも関わらず、とにかくゴールデン番組でひな壇に座らせた方が良いということです。

昭和から平成にかけての黄金期ですね

井上:今の芸能プロダクションの幹部の方々はこういった「テレビ中心」に育ってきた人が多いです。意識を変えようとしているけど、まだ「地上波全盛時代」の感覚が残っている。その中でも、この時代に、どうすれば自分達のタレントを発信できるかに気付いた人達が、「地上波だけじゃないんだ」という結論にたどり着き、新しいメディアに積極的に取り組みながら、地上波とのバランスを取り、素晴らしいタレント育成をされています。

他の事務所の芸人さんや、過去にゴールデンで活躍したタレント、引退したスポーツ選手などオンライン配信で活躍する「プロ」が一気に増えました

井上:YouTube等の新しいメディアで自分を発信し始めていますよね。プロダクションとしてはこういった個人の潜在的な価値を見極めて、この人の場合はYouTubeを上手く使っていこうとか、本当の意味でプロデュースする力がないとダメになってくると思います。

これまでも地上波を中心に「どうやってこの人を売り出していこうか」ということをやってきているので、YouTube等の新しいメディアにおいても、人を育てるという点においては同じです。ただ、過去の地上波の成功体験に縛られてしまうと、新しいメディアの可能性への切り替えが上手くいかない。ここの切り替えのスピードをどうやって上げるかというのが重要ですね。

問われる「松竹ID」の可能性

舞台やテレビ・映画といった媒体を通じて関わってきた顧客との接点が変わる

井上:お客さんが求めている情報を届けることをやりたいと思っています。そして、集まったデータからどういう映画や舞台を作るべきかを、逆算で導き出すこともやってみたいですね。映画と伝統芸能である歌舞伎を持っている会社は他にはありません。データ数は多くないかもしれませんが、価値のあるデータが取れると考えています。

なるほど、顧客との関わりだけでなく、作るものにも確かに影響が与えられそうですね

井上:現在、MR(複合現実:Mixed Reality)を活用した歌舞伎を作っています。今後、技術が進化してデバイスが軽量化すると、例えば地方の巡業の際、低コストで、舞台に仮想的な演出をすることが可能になると思います。また、単純に360°カメラで映像を撮るということだけではなく身体データも取って、デバイス上で舞台の興奮を伝えるようなこともできると思っています。

去年の中頃から、事業共創については積極的に取組んでいます。コロナ禍で当社の業績は大きな打撃を受けており、そのスピードがやや遅くなっていることは事実ですが、しっかりと取り組みたいと考えています。特に、オープンイノベーションに関わる若手社員を育てることは、今後のパートナーシップの戦略を考える上でも、最も重要であり、全力で取り組んでいきます。

スタートアップやベンチャーキャピタルの方々で、「松竹とはこういうことができないのか」という話があれば聞かせていただきたいと考えています。

ありがとうございました

物流・サプライチェーンを変革するーーヤマトホールディングスの「KURONEKO Innovation Fund」

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、大日本印刷のスタートアップ投資活動に続いてお届けするのは、ヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトHD)の「KURONEKO Innovation Fund(YMT-GB 投資事業有限責任組合)」です。 ヤマトHDは昨年4月にグローバル・ブレインと共同で50…

ヤマトホールディングス・オープンイノベーション推進機能の森憲司さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、大日本印刷のスタートアップ投資活動に続いてお届けするのは、ヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトHD)の「KURONEKO Innovation Fund(YMT-GB 投資事業有限責任組合)」です。

ヤマトHDは昨年4月にグローバル・ブレインと共同で50億円のファンドを立ち上げました。また同社はファンドの立ち上げに先立ち、中計などの上位概念として経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を公表しています。

この中で3つの構造改革として宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)、ECエコシステムの確立、法人向け物流事業の強化が強調されており、それにまつわるデータプラットフォームやラストマイルデリバリーなどの構築を目指すとしています。KURONEKO Innovation Fundもこの構想の一環として設立された経緯から、出資の範囲も自然とこの計画に沿っています。

物流やサプライチェーンなどをテーマに幅広い技術やビジネスモデルを持ったスタートアップに5,000万円から数億円の規模で投資を予定しています。またこの窓口を活用し、資金だけでなくヤマト運輸やグループ各社が保有する経営資源を活用する協業も視野に入れた、本格的な協業体制が始まろうとしています。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はヤマトHD オープンイノベーション推進機能の森憲司さん)

共創・出資のケーススタディと狙い

物流やサプライチェーンと一言で表現してもその範囲は相当に広くなります。ヤマトHDと言えば宅急便ですが、サプライチェーン全体で考えると資材(B2B)物流に在庫管理、個宅配送などのモビリティに関する分野、代引きに代表されるフィンテック分野、全てのデータを解析・活用するAIやマーケティング分野などかなり幅広いテーマが対象になります。

こういった可能性に対して出資や協業含め、さまざまな共創パターンに対応しようという意欲的なファンド構成になっている、というお話でした。その中で、昨年12月に注目の第一号案件が発表されました。本命のラストマイルデリバリーに関連する自動運転技術への出資です。

昨年12月に第一号案件の公表がありましたね。どういったスタートアップなのでしょうか

森:はい、昨年の12月に中国の自動配送ロボット開発企業Yours Technologies(以下、Yours)への出資を決定しました。同社は2018年の創業と若いスタートアップですが、開発するコンピュータービジョンの自動運転技術を活用し、次世代物流及び小売店向けにラストワンマイル配送のロボットソリューションを提供しています。

労働人口の減少やEC荷物の増加、感染症に対応した配送ニーズの高まりなどを背景に今後、ラストワンマイルにおける配送業務の効率化が必要となってきます。上記実現に向けて同社との技術交流を図り、日本国内における自動配送ロボットの活用に向けて検討を進めていきます。

自動運転宅配は各国で技術競争がある中、中国のスタートアップを選んだ理由は何ですか

森:まず前提として、どこかの国に特化することは無く、グローバルにおいて最も優れた技術を持つスタートアップの方にリーチし、一緒に取り組んでいきたいと思っています。
その前提において、本件は、中国で素晴らしい技術を持っているスタートアップの方と巡り会えた事案となります。

ただし、本件を通じて中国国内スタートアップから当ファンドの認知を得るとともに、同国市場での投資活動の活性化に繋げたいという狙いはありますね。

ーー少し補足しておくと、自動配送ロボットにはAmazonのScoutやStarshipTechnologies、国内はZMPや楽天が中国EC大手の京東集団と共同でテスト運用を開始するなどの動きがあり、技術的にも実用化の一歩手前まできている感があります。その中で彼らがYoursを選んだ理由は「コスト」と「実運用の実績」だったそうです。

自動運転には通常、LiDARというセンサーが必要になるのですがこれは大変高額で、盗難や破損の危険性のある自動配達への利用にはハードルがあったそうです。また、規制の関係から日本国内では課題の残る実社会での運用についても、その点が寛容な中国市場での実績がプラスに働いた、というお話でした。

質問に戻ります。

自動配送はわかりやすい出資ケースですが、ここに特化するわけではないですよね

森:そうですね、あくまで最初の公表ケースだったということで、それよりも前に一件、英国ロンドン拠点のDoddle Parcel Services Ltd(以下、Doddle)との共創が始まっています。彼らが提供する「Click & Collectシステム」を導入したもので、ヤマト運輸と契約していただいた特定のECサイトで購入した商品を、お客さまの生活導線上の店舗で受け取ることができる、というものです。全国のスーパーやドラッグストアなど600店舗から申込をいただいて昨年11月から開始しています。

ECで購入した商品を宅配ではなく提携している店舗で受け取れるということですね

森:はい、特定のECサイトで商品を購入した後に、ヤマト運輸から届くメールにて受け取り店舗が選べるようになります。お客さまが受け取り店舗を選ぶと、そこに商品が届きますので、来店時に二次元バーコードを提示していただき荷物を受け取る、という流れですね。生活導線上にある店舗で受け取れることで、お客さまの利便性を拡大するだけでなく、受け取り店舗は新規顧客の集客効果や、クーポン発行による購買促進効果が見込める、といった具合です。

彼らとの共創を考えた狙いはどこにあるのでしょうか

森:消費者の生活が多様化している中で、受け取り方法も多様化させていく必要があると考えていました。Doddleの開発するプラットフォームを利用することで従来の荷物の受け取り方法を拡大させることができると考え、EC事業者向けソリューションを開発する事業部と共同で渉外を行ったのがきっかけです。

彼らとのディスカッションの中で、Doddleが市場をよく理解してソリューションを開発していることがわかり、パートナーとして日本でのサービスを一緒に開発していきたいと思い、サービスローンチに至りました。

出資と共創の両面でケーススタディをお話しいただきましたが、意思決定のプロセス、特に出資についてはどのようなフローになっていますか

森:パートナーのグローバル・ブレイン様とソーシングから投資検討まで二人三脚で行い、スタートアップ企業様の時間軸と同じスピード感で投資実行できるような設計としています。役割的には、グローバル・ブレイン様が主にファイナンス面、弊社が協業やビジネス面を検討し共同で投資検討をする形です。さらに弊社内での議論についても、社長はじめ主要役員へクイックに情報を連携できる仕組みを構築し、早期に検討結果を出せる体制をとっています。

M&Aや本体出資も選択肢として用意した上で、CVCの役割をどのように設定されましたか

森:CVCの役割は数年先の世界を変える有望なスタートアップに投資し、物流業界のデジタルトランスフォーメーションを推進する革新的な技術・ビジネス、そして熱い想いを持った「パートナー」に、ヤマトグループの経営資源、資金、協業創出の場を提供することで共に成長を目指すことが狙いです。中長期的な役割がCVCで、スタートアップの成長のために資金のみでなくヤマトグループのリソースを提供することで、共に成長できるエコシステムを構築したいと考えています。

ヤマトグループの事業には非常に裾野が広い分野が関係してくると考えているため、幅広い分野のスタートアップの方と会話をさせていただき、共に新しい運ぶを創り出すという「運創」の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。

ありがとうございました。

ということでヤマトHDのCVC活動についてお届けしました。次回はテレビ東京コミュニケーションズの取り組みにバトンをお渡ししてお送りします。

激動の松竹と共創:コロナ禍で見えた歌舞伎のデジタル化とチャンス Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は歌舞伎・舞台芸術のデジタル化に向けた取り組みを推進する松竹の話題です。 感染症拡大で歌舞伎・舞台芸術に大きな影響がある中、昨年9月にLINEと提携して積極的なデジタル化の方針を打ち出したのが松竹です。「松竹DX(デジタルトラ…

松竹株式会社 船越 直人 取締役 演劇興行部門担当

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は歌舞伎・舞台芸術のデジタル化に向けた取り組みを推進する松竹の話題です。

感染症拡大で歌舞伎・舞台芸術に大きな影響がある中、昨年9月にLINEと提携して積極的なデジタル化の方針を打ち出したのが松竹です。「松竹DX(デジタルトランスフォーメーション)コンソーシアム」を基盤に、興行のあり方や、歌舞伎俳優・タレントとの関係性、そしてコンテンツの未来を大きく変えようとする動きが活発化しています。

松竹の考えるエンターテインメントの近未来像はどのように変化するのでしょうか?

インタビューでは前半に歌舞伎を中心とした舞台芸術の今と未来について、松竹取締役として歌舞伎を中心に事業推進・製作を担当されている船越直人さんにお話しいただきます。後半では松竹が進めるデジタル化について、同じく取締役として同社のイノベーション推進を担当されている井上貴弘さんにお話を伺いました(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中の敬称は略させていただきます) 。

コロナで大きく動いた舞台芸術

松竹の事業共創活動についてお聞きする前に、大きな影響を受けた歌舞伎・舞台について状況を教えていただけますか

船越:松竹のみならず演劇界が受けた影響は計り知れないものがあります。野田秀樹さん等が声掛けをして、大小さまざまな興行会社、劇団、舞台製作会社など、「演劇に関わっている」という一点で二、三百ほどの会社が横に繋がった「緊急事態舞台芸術ネットワーク」という組織体も立ち上がりました。共同で何かの運動をしようというよりは、演劇現場の実態を纏めた声として、行政サイドに伝えることを目的としています。松竹はその中で、演劇の一ジャンルとして歌舞伎の現状や、劇場の運営がどうなっているのかを伝えていく役割を担っています。

どこの劇場もそうですが、すっかり客足が遠のいてしまったのが状況です。不要不急というワードが頻りに繰り返されますが、ライブエンターテイメント自体、その最たるものじゃないかと指摘されかねないムードの中で「我々の生業は不要なのだろうか?」という自問から始まりました。

素人考えで「舞台にいけないならテレビやインターネット配信で」というアイデアを思い付いてしまうのですが

船越:これまで歌舞伎は、映像として例えばテレビ中継などでお茶の間に届けられることに対して抵抗感がある俳優さんも少なくありませんでした。「生のライブを見てもらって初めてわかってもらえる、評価される。映像ではその希少価値が十分に伝わらない。」と思い込んでいる傾向は強かったかもしれません。映像として記録に残ることに賛成でない人もいましたし、ましてやインターネット配信なんて・・・夢のまた夢でした。

映像技術の進歩は必ずしも演劇にとって良いことばかりではなく、例えば4Kや8Kの時代となると、鬘と地肌の境目や、女形を務める俳優さんの髭剃り跡など、余計なものまで見えるかもしれない・・・そうなると台無しだと。

でも、結局はコロナを機に、そういう抵抗感がほぼ意味を成さなくなった。リアルのコミュニケーションを封じられる中で、演劇は本当に存在意義があるのか、日本の伝統芸術だと言われてきたが、ダイレクトな表現以外の方法を使っても評価され続けるのだろうか?と。

かなりの危機感ですね

船越:このコロナは長引くかもしれないと思い始めたのがアクセルになったと思います。去年の3月は全ての公演が中止になりましたし、折角作ったものが全く世に出ないのは本当に残念無念という俳優さんの気持ちを受けて、無料で配信という形に進みました。長らくその是非の議論が続いていた課題が、わずか数カ月で一気に前進へと転じたのです。

こういう状況であったとしても、以前の考え方を守りたいという人も一定数いらっしゃるんじゃないでしょうか
船越:ある程度いると思います。ただ、伝統的な手法を重んじる一方で、若い世代の俳優さんを中心に表現の手段の一つとして配信をうまく活用しようという流れも徐々に始まっています。リアルとデジタルのコラボレーションという意味では、中村獅童という歌舞伎俳優と、初音ミクという仮想空間上のアイドルが共演した「超歌舞伎」はその先駆けかもしれません。以前からこういうチャレンジもありましたが、コロナ禍をきっかけに一気にその模索が加速することになった感じですね。

歌舞伎のデジタル化と新たなビジネスチャンス

少し話を変えて、具体的な「歌舞伎のデジタル化」について教えてください。いろいろ手をつけるべきことがあると思うのですがどこから着手されていますか

船越:まずこれまでなかった「配信室」というものを設置して、松竹内部の体制をきちんと整えようとしています。

これまで歌舞伎はある意味「密」という空間が楽しみを生み出していました。コロナ禍が世の中を覆い、「密」ではない「疎」の空間を求められている中で、「密」で得ていたものに近い体験をいかにして届けるかが重要となると思っています。これは私見ですが、例えば舞台中継などは今までもテレビ放送やDVDという手段で提供していたわけで、インターネット・ライブ配信というチャンネルに代わっただけでは大きな変化にはならないし、魅力的な体験にはならないのではないか、というのが私の印象です。

まさに歌舞伎俳優のみなさんが懸念とされていた点ですよね

船越:例えば「超歌舞伎」は、リアルな俳優とデジタル空間のアバターが共演するという、多くの人たちがある程度予想していたことを実現したわけです。今までになかった試みですが、予想はできた。それ以外に何が衝撃的だったのかというと、生放送中に視聴者から色んなコメントが画面上にテロップ表記されるんですよね。クライマックスになると、実際の舞台で大向こう(掛け声)が掛かって拍手が鳴り止まない時のように、画面上に文字が溢れて演者が見えないほどでした。これも私見に過ぎませんが、演劇を提供する側にとって一番ショッキングだったのはむしろそっちの現象でした。俳優の顔にコメントを被せる、顔が隠れるなんてことはあってはならないことでしたし、謂わばご法度行為だったのです。

なるほど、言われれば確かに

船越:演者の顔が隠れるぐらいのコメントの洪水は視聴者の高揚感の表れであり、参加している感が体現されていて、視聴者が望んでいたのはむしろこの体験なんじゃないのかなと思いました。一方通行ではなくて、今進行している実演を共有しているという同時体験が大切なんだと思います。

私が支配人として歌舞伎座の新開場に臨んだ時、祖母、娘、孫娘の3世代で歌舞伎座に来られた方がいらっしゃったんですね。「3世代揃って歌舞伎座に行くことが夢でした」とおっしゃっていました。7、8年前ですので、車椅子に乗っておられたおばあさんは、今はもしかしたら、外出すら難しい状態かもしれない。極論ですが、もう出歩けないけど、「歌舞伎座に行くのが楽しみだった」という方にVRやARでそれに近い疑似体験を提供できれば、そういう技術進歩は4K、8Kの高精細画像よりも演劇にとっては大きな意味を持つかもしれません。

映像を配信するにしても、例えば視聴者側に視点の切り替えをする機能をお渡しすれば、劇場へ足を運んでも味わえない、配信ならではの特別な体験が可能になるかもしれません。指定席を離れ、場面によっていろんな客席に座って、違うアングルから歌舞伎を見るという、新しい需要の掘り起こしができるかもしれません。

デジタル化と一言で言っても技術は幅広いわけです。どのあたりから取り組まれるのでしょうか

船越:やはり舞台があること、アナログであることに魅力があるのは確かです。デジタルへの挑戦は大切ですが、まずは遠いものから埋めていくのが正しいと思っています。例えばチケット販売についてもデジタル化は進んでいますし、そういう利便性を上げるというところから進めるべきではないでしょうか。

弊社は昨年から「歌舞伎オンデマンド」という配信サービスをスタートさせていますが、今のところ、これは国内向けです。本来であれば、海外も含めた展開をするべきで、その需要もあると思っています。実は歌舞伎は100年近く、海外公演という歴史を紡いできた経緯があります。「KABUKI」の認知度が高いのもそういう先人たちの努力の賜物であると思っています。配信は実際の舞台へアクセスできない人へ届ける手段としては画期的ですから、海外在住のファンに届けるのは最善の使い方だなと思っています。

確かに新たなビジネスのチャンスとして海外市場への視点は面白いですね

船越:ただ、安易に歌舞伎のコンテンツをデジタル化する、という入り方をすると、本質的な価値を見失うことになりかねません。現在は直接熱量を感じてもらうことそのものがネガティブ要素になっているので、どうにもなりませんが、これでしか伝わらないものもあります。俳優をはじめとする表現者達は、その価値をまず認識し、絶対無二のものに高めること、それを体現するため技量を研ぎ澄ますことに専念しなければなりません。他で代替できない価値でなければ「不要」のカテゴリーに分類されても仕方ないのです。興行を担う人も、歌舞伎自体を作り上げる人も、何が魅力なのか、今本当に魅力的なのかを真剣に考えることが大切ですね。

(後半につづく)