タグ LayerX

10年起業家:全ては自責から始まる/土屋・福島氏対談

SHARE:

(前回からのつづき)これまで2回に渡り、創業からおよそ10年を迎えた土屋尚史氏と福島良典氏の軌跡を振り返った。最終回となる今回はお二人との対談で、経営者に必要な課題解決、意思決定の変化を語っていいただく。(文中の太字の質問は筆者、敬称は略させていただいてます) 自分と向き合う ーー10年の振り返りありがとうございました。福島さんは2回目の起業になるわけですが、経営における前回からの気付き、学びを改…

土屋尚史氏

(前回からのつづき)これまで2回に渡り、創業からおよそ10年を迎えた土屋尚史氏と福島良典氏の軌跡を振り返った。最終回となる今回はお二人との対談で、経営者に必要な課題解決、意思決定の変化を語っていいただく。(文中の太字の質問は筆者、敬称は略させていただいてます)

自分と向き合う

ーー10年の振り返りありがとうございました。福島さんは2回目の起業になるわけですが、経営における前回からの気付き、学びを改めて

福島:前回から学んだことがひとつあって、僕ら、上場後に一度、完全に組織崩壊を経験してるんです。四半期ごとに数字を追ってそれにプレッシャーを与えるというマネージメントをしていたんですね。土屋さんと同じで、自分たちもまずそれがダメだってことを認めたんです。

その上で、改めてビジョンとかどういう人と働きたいのかとか、どういう世界を作りたいのかとか、そういうことをめちゃくちゃ頑張って社員に伝えたんです。それによって起こった変化で辞めていった人ももちろんいます。今さらそんなこと言われても、と。その時の強烈な経験は本当に今でも凄く覚えています。今振り返るともっとあの時こうしていれば、事前にこうしていればという思いがあって、そういった部分は今のLayerXに生かしたいなと常々思ってます。

ーー土屋さんもまずは自分と向き合うことから始めましたよね

土屋:経営上の課題が起こった時は、先ほどの話の中でもお伝えした通り、一旦、全てはまず、経営者の責任だと認めることからスタートなのかなと。けど、これって難しくてやっぱり認めたくない、認められないというケースは散見されます。

結局、何かが起こった時に社員のせいだとかビジネス環境が悪かったとか、外部環境のせいにしてしまいたくなるんです。でもこれを一旦、外部環境の変化に対応できなかった自分の責任というものを認めることができたらそこが出発点です。

ーー自責して一旦リセットする。その後は

土屋:本当に抽象的な言葉ではあるんですが、泥水を啜るってあるじゃないですか。本当に課題を少しずつ改善し、続けるしかないというか。結局自分たちも組織の問題から解決までに2年半かかったわけです。もしこれをやり方は分からないですが、例えば短期間にバッサリといってその時の社員の感情とかそういうものを殺してまでやる方法もあったかもしれません。

でもね、やっぱり解決って段階的で、問題が何かを見つけるフェーズ、社員の感情が閉ざされていて、それをゆっくりと溶かしていくフェーズ、そしてそこから膝を突き合わせて『やるしかない』って行動するフェーズがあるんです。組織の空気やマーケットの空気をしっかりと読んだ上で、アクセル踏んだり、メッセージを出したりする。

組織に問題を抱えた時、周囲からも随分と心配されました。けれど最終的には諦めさえしなかったら結局、解決はするんです。

ーー組織だけじゃなく、課題との向き合い方でカルチャーの重要性はここ数年、スタートアップの間にも浸透し始めてます

福島:数字の奴隷じゃないですが、売上が全ての傷を癒す、みたいな格言がベンチャー界隈に漂ってるじゃないですか。それは単に経営者が麻痺させてるだけです。大事なのはミッションや行動指針といったカルチャーであり、例えば採用にしてもスキルだけを見るのではなくカルチャーを見ようとか、その辺りは徹底的にやってますね。今のところ大きな失敗は起こっていないと思ってますし、根本的な意味でブレることはないだろうと思ってます。

土屋:数字に神が宿ると言ってた福島さんとは別人だね(笑。

福島:確かに。当時の理想はインスタグラムで、少人数組織のプロダクト・レッド・グロース(製品による自律成長)でしたからね(笑。ただ、数字はファクトベースでの意思決定の上にあるもので、技法とかスキルの話なんです。

それよりも結局お前らの組織どこに向かってんの?っていうのを数字が支えられないのは、数字が独り歩きして暴走した結果なんですよね。でも物事の出発点って定量じゃなくて定性的なものじゃないですか。やっぱりそれをなぜやりたいかというものに対して数値目標を置いたとしても、そこの数字を動かすのは感情の力なんですよ。

ーーところで、福島さんはLayerXとして改めて組織づくりされていますが、これまでの経験を活かして次はどのような組織を目指してますか

福島:そうですね、もう一つ高いレベルでいくと、いい組織ってある人がそのビジネスにおける市場価値を100として、その組織に入ることで150になる、そういう組織なんだと思うんです。だからウチで働く意味があるよね、という。そしてそこで働くことで150の走り方を学び、覚えた後はやはりその人は高い市場価値になるので、どこでも働けるようになる。

こういう育成の部分ってあまりベンチャーは投資してこなかったところだと思うんです。LayerXではあと5年で3、400人を採用するつもりで、おそらくそういう勝負のビジネスなんですが、じゃあそういった人を中途市場で取ってこようとしてもその考え方自体がやはりナンセンスです。この会社には育成の仕組みがありますとかこういう研修が受けられます、ではなく、本当に働いていたら自然と力が身につく、そういうことですね。

サッカーと同じです。下部組織まで作ってあそこでプレーしたらあの人と一緒にやれるとか、あの方法が身につくとか。そういう意識で組織作りについてはもう一段上の世界で挑戦したいと思ってます。

それと僕もGunosyで最大、150人ぐらいまでしか見てないんですよね。4000人の会社を率いたことがないわけで、早くそのフェーズに行きたい。でね、やっぱり失敗するんですよ。多分。手酷い失敗をすると思うんですけど、その時にそれを受け止めて学びたいですね。

プロダクトを当てにいく

福島良典氏

ーところでお二人のお話伺って、やはり課題との向き合いが印象に残りました。よい起業家は課題発見が上手い、と言われますがどのようにして課題を見つけていますか?

福島:今までやってみたことのなかったことを色々試してみましたね。例えばコンサルタント。これまでやったことなかったですけど、色々試す中で、結局、自分が得意じゃないことをちゃんと理解できたというか。それが最近の気付きなんですよね。

インボイスのプロダクトもそうなんですが、明らかにお客さんの反応が違ってたんです。最初は本当に小さいですよ。反応してくれるのは10人とか100人とかなんですけど、明らかに何かが起こっている。起業した当時は気づけなかったことに今は明確に気付くことができる。

土屋:以前福島さんが今のLayerX インボイスがプロダクトにも全然なってなかった時期にグッドパッチの管理部にこういうものを考えているんだけどと持ち込んだんですよね。その時、僕も同席してみてたんだけど正直、あの時点では何が引っかかるのか分からなかった。それでも福島さんが直接やってきてインタビューしてるわけです。

最初の起業のスタートアップであればまだしも、シリアルの起業家が顧客の最前線に立って自分で営業してるっていうのはやはり凄いなと。ただあの時点では、導入するイメージが全く湧いてこなかったし、そもそもこれ、プロダクトになるの?って感じだったんだけど、結局、半年後ぐらいには現場が導入していましたね。

福島:強烈なアハ体験というか、私はやはりこれが理想じゃない?という体験やプロダクトを作ることが起業家として一番得意なんです。だから課題の見つけ方も多分そうなんです。課題って多分、教科書に書いてある課題なんですよ。例えば温室効果ガスが増えるから地球温暖化をなくそう、とか。本当に普通の話です。

ーー普遍的な問題から始める

福島:今の起業家の方ってやはりピッチコンテストとかで、君の会社は何が違うの?とかグーグルがやってきたらどうするの?とかそういう質問を浴びせ続けられてるので、何かトリッキーな課題を見つけないといけないような、そういう錯覚を持っていると思うんです。そんなものより、ごく普通の課題を狙って、決めたら徹底的にユーザーを観察してその背後に何が起こっているのかを見つける。

そうしたら大量にマーケティング施策を打つじゃないですけど、あの感覚をやっぱり私は覚えているので、伸びるんですよね。なんだかそこを見つけることが大事なんじゃないのかなと。その先にあるプロダクトのアハ体験というか、ユーザーが熱狂しているところも、最初はやっぱり10人とか100人の熱狂なわけで。

みなさん凄い数字に慣れちゃってるじゃないですか。フリマアプリの流通額が月間で数百億円超えましたとか、創業数年のスタートアップが数十億円を調達しました、とか。ああいう数字に慣れるとたった10人が熱狂していることに対して『凄いものを見つけました』とか『ウチの会社いけてます』っていう自信を持てないんじゃないかな、と思うわけです。

ーーなるほど、課題そのものよりもそれを抱える人々から解法を導く。土屋さんは?

土屋:福島さんと僕は割と経営の感覚というのかな、考え方が近いと思っていて、あるパターンの中から解法を持ってくる、というのはあると思ってます。福島さんって情報のインプット量や見てる範囲が広範囲だし、それなりに深いところまで考えてると思うんです。

結局、この範囲の中にある事象をカテゴリとして考えた時、最終的にはそれを総合的に俯瞰しながらここだ、という決め方をしてるんじゃないかなと。福島さんは勉強熱心だし、インターネット上の情報だけじゃなく生のユーザーの課題もそう、過去の凄い起業家の方々との経験がパターンになっていて、その認知力がズバ抜けてるんですよね。だからパターン化できる。それは特に思ってますね。

ーーちなみに観察ってどの程度までやるんですか

福島:めちゃくちゃ観察しますよ。例えばプロダクトを出すとするじゃないですか?『これいかがですか?』って聞いたら『いいですね』って答えるに決まってるんですよ。じゃなくて、いいって言ったけどあの人本当に翌日にアクセスしてるのかなとか、本当にいいって思ってたらまた使ってくれるはずなんです。おすすめしてくれるはずなんです。じゃあ、今、この瞬間に誰かにおすすめしてくれますか?って聞いて『いや、ちょっと』となれば全然刺さってない。いいですね、今から誰それに紹介しますよとなっていれば多分ヒットしてる。

その最初のところにいかに感度を高く持てるかどうかですね。自信を持てるかどうか。そこがあると回り出す。プロダクトを広げるとどうしても全然合わないユーザーとかが出てくるんですが、本質的に感じている課題は一緒なのです。とにかくプロダクトを改善するとまた新たな課題に気付ける、そういうフィードバックループみたいなものってあるんですよね。だから実は自分は課題を探しにはいってないんですよ。プロダクトを当てにいってるんです。

お時間になりました。今回は興味深いお話どうもありがとうございました。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


10年起業家:ギアチェンジの時、上場の意味

SHARE:

(前回からのつづき)シリコンバレーで出会った起業家と学生はやがて2社の上場企業を生み出した。しかし話はそう簡単なものではない。一社はチームに大きな問題を抱え、もう一社はジェットコースターのような日々を過ごすことになる。10年が経過した今、スタートアップが上場する意味とは何かを振り返る。 グッドパッチ、上場を目指す Gunosyを開発した学生3人は連続起業家となった木村新司氏と出会う。サービス立ち上…

Gunosyで知名度を上げたグッドパッチは上場を目指しチームを拡大させる(写真提供:グッドパッチ)

(前回からのつづき)シリコンバレーで出会った起業家と学生はやがて2社の上場企業を生み出した。しかし話はそう簡単なものではない。一社はチームに大きな問題を抱え、もう一社はジェットコースターのような日々を過ごすことになる。10年が経過した今、スタートアップが上場する意味とは何かを振り返る。

グッドパッチ、上場を目指す

Gunosyを開発した学生3人は連続起業家となった木村新司氏と出会う。サービス立ち上げの翌年、法人としてのGunosyが動き出した。一方、そのきっかけを作ることになった土屋尚史氏もまた、プライベートなデザイン会社としてだけでなく、もう少し先の世界を見たいと思うようになる。

「私も全然資金調達とか考えずにグッドパッチを起業したんですが、やはりGunosyが大きくヒットした翌年には、社員を20名近く抱えるようになったんです。そもそもスタートアップ自体が好きで、大企業と一緒に仕事をするというよりも彼らと一緒に仕事をしたかったんですよね。だからどこかで影響を受けていたんでしょう、ワンチャンス、そういう機会があったら挑戦してやろう、という野心的な気持ちは持っていました」(土屋氏)。

グッドパッチが最初に外部の投資家から調達をすることになったのは創業から2年後の2013年12月。DG インキュベーションから1億円の資金調達だった。その後、2016年にシリーズBラウンド(参加した投資家はDG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメント、FiNC。調達金は4億円)、その翌年の2017年にはシリーズCラウンドでSBI インベストメントと三井住友海上キャピタルから総額4億円を調達している。

黒字を達成して数十人のチームを擁するまでに成長した、クライアントワーク中心のデザイン会社が上場を目指すというのは珍しいステップだった。外部投資家を入れれば、当然ながら経営はそれまで以上にガバナンスを求められるようになる。1人気ままなオーナー社長ではいられなくなるのだ。それでも土屋氏もまた、社会の公器となる道を選んだ。

「迷いですか?全然ありましたよ(笑。まあそれでももし、やれるチャンスがあるのなら挑戦してやろうと。ただ、最初の起業ですから上手くいかないだろう、正直に言うと、どうしようもなければ会社を売ればいいや、ぐらいに思っていました。それでもそれから会社が成長し、今で言うミッションやビジョンのようなものを考え出した時、社会的な存在意義が見えてきて、自分がこの会社をやり続ける意味がありそうだなと感じたんです。そこからですね。腹が括れたというか。もちろんそういう意味では周囲のスタートアップや起業家の方々の刺激はすごく大きかったと思います」(土屋氏)。

その後、グッドパッチは調達した資金と積み上がる依頼を糧に、急速にチームを大きくする。当時を振り返って土屋氏は、この急成長にあまり恐怖を感じず、その勢いに身を任せていたと語る。自分は本質的には正しい選択をしている、失敗も数多く知っている、だから大丈夫ーー。しかしその先に待ち受けていたのはシリーズBラウンドを前後して経験した組織崩壊だった。

成長痛を経験し、それでもグッドパッチは踏みとどまる。

「組織が成長する中、私はキャッシュというか売上を重要視していたんです。組織が危うい状態になっていた時でも昨年比で45%とかの売上成長があった。もし、あの時、調達した資金を未来への投資だ、などと言って既存事業をおざなりにしていたら今はなかったでしょうね。それともうひとつ。あの時、悪い経営であるということを自分が認めなかったらダメだっただろうなとも思っています。もしも致命傷があったとしたらそれですね」。

成長のジェットコースターに乗ったGunosy

2014年当時の福島氏。目の覚めるようなマーケティング施策は驚きの連続だったようだ(ニュースレコメンドエンジンのGunosyがKDDIと資本業務提携、調達金額は12億円かーーTVCMも開始へ

話を巻き戻そう。Gunosyは2011年10月に産声を上げ、その翌年の12年10月に法人化することになる。事業にすることを考えていなかった福島氏ら3人の学生たちは、木村氏によって大きく人生を変えることになり、それまで二人三脚で立ち上げを支援した土屋氏の元から卒業することになる。

「当時はとにかくGunosyをTwitterで呟いてる人を見つけては『いいね!』して回ったり、一部機能がうまく動いてくれなくて炎上した時の対応を一緒にやったりしてました(笑。ただ、当時彼らは就職すると聞いていたので自分としては起業した方がいいのに、ぐらいに思っていました。彼らは優秀だし、Gunosyの成長と共にグッドパッチにも仕事が舞い込んできましたから。そうこうしてる時、確かアプリを開発する段階だったかな、福島さんから電話があって『起業することになりました』と」(土屋氏)。

数万ユーザーどころじゃない、百万ユーザーが見える位置にいたGunosyであれば欲しいと思う企業はいくらでも出てくるはずだ。学生だけでの起業に不安があるなら売却するという手もある。ーーそんな風に考えていた土屋氏の元に届いた彼らからの報告は意外に映る。そして学生たちが土屋氏と一緒に作っていたGunosyは「株式会社Gunosy」となり、徐々に彼の手を離れることになる。

そこからGunosyの急成長が始まった。本格的なマーケティング施策の開始だ。

アトランティスを創業してグリーに売却した木村氏はアド・テクノロジーのプロだった。スマートフォンシフトが進む当時、企業はいつかやってくる「手のひらの市場」に広告を出稿することになるだろう。そう考えた彼らはまず、Gunosyを一大メディアに成長させる道から歩みを始める。

投下したマーケティング予算は莫大で、赤字は毎月数千万円にも上った。メディア成長のために先行投資して大きく「Jカーブ」を掘る、典型的なスタートアップの戦い方だ。福島氏は冷静に事態を眺めつつ、突然の成長ジェットコースターに乗った気分をこう振り返る。

「自分たちで確かに信じてる理論はあったんですよ。数字がここまで行った時、こういう数字が出てるので理論上こうなるはずだ、とか。でも、周囲からは厳しい意見をものすごく言われてなんだろうこのギャップは、と。走ってる自分たちは爆速でも、何て言うんですかね、飛行機に乗ってても自分が速く動いている感じってしないじゃないですか。あんな感覚でしたね。やれることをやろうと。

明確にこうやれば利益が付いてくるというのは投資を踏んだ時に分かっていたんです。ただ、Facebook広告などに資金を投下していたんですが、その規模が大きすぎて訳が分からないとは思っていました。木村さんは『やるから』と。そういう感じで」(福島氏)。

Gunosyはその後、2013年10月からエンジェルとして参加していた木村氏が正式に共同代表として就任し、徐々に事業としての輪郭を明瞭にしていく。土屋氏はやや寂しさも感じつつ、ギアチェンジを果たした両社はそれぞれ別々の道を歩み出すことになる。

そして上場へ

グッドパッチは2020年にマザーズへ上場する(UI/UXデザイン支援のグッドパッチ、東証マザーズ上場へ、評価額は43億円規模に

木村氏の参加で資本を得たGunosyはその後、大きく踏み込みを続けながら2014年にKDDIとJAFCOを外部株主に迎え、さらに大胆に踏み込みを続けた。結果、ダウンロード数を900万件手前まで伸ばした2015年4月、東証マザーズへ上場を果たすことになる。学生たちが趣味の延長でサービスを立ち上げてから4年弱、ここから一気に二桁億円以上の事業を作ることに成功したのだ。

あれから紆余曲折あり今、福島氏はGunosyを離れてLayerX代表取締役として新しい道を歩んでいる。彼は改めて上場の意味をこのように語ってくれた。

「当時と今でまず、大前提として未上場の資金調達マーケットってほぼなく、Gunosyは累計で30億円ぐらいを集めたんですが、それが本当に限界ぐらいでした。だから当時、ニュースアプリでそこまで掘ることはできず、けれどもあるシナリオを考えると60億円ぐらい必要だと試算が出たんです。最悪のケースを考えると上場しか資金を集める方法がない。だから公開しようというのが当時の考え方でしたね。

今は随分と考え方は変わっていて、ある程度の会社がベンチャーから成熟した企業に成長するまでって、やっぱり初期の頃は役員たちがオーナーシップ持ってバシバシ意思決定した方がいいんですけど、あるタイミングからやはり変わると思うんです。

組織が一定以上のサイズになると、その決め方だと伸びなくなる。そういう瞬間があって、そこが上場のタイミングなんじゃないかなと考えてます。投資しているファンドは償還などの期限があるので、現実的にはもうちょっと早くなるとかそういう事情はあるかもしれませんが、資金調達のために上場を急ぐことはもうないかなと。

それとまた違った視点で海外投資家からの声というのもあります。海外の機関投資家の方々って君たちのミッションは何かとか、何を成し遂げたいのか、とか日本の産業構造がこうある中で君たちはどこにポジションしているのか、という30年、50年のスパンの話を聞いてくるんです。なぜか未上場の投資の方がロングスパンのように言われることがあるんですが、全く逆で、上場企業の方が投資に関しては長期視点を求められるんです」(福島氏)。

Gunosyの上場を見届け、5年後となる2020年にグッドパッチは同じく東証マザーズに上場する。あれから1年経った今、デザイン会社として株式を公開する意味を土屋氏はこう語ってくれた。

「結果的になんですが、企業って上場してから組織的に崩れることが割と多かったなと思うんです。そう言う意味で自分たちはその前に組織崩壊を経験できたことはよかったかなと考えるようになりました。

なので、上場を後にしてマイナスは本当になく、自分たちはおそらくデザインとデジタル領域のスタートアップと理解されることが多いんですけど、このビッグマーケットでデザインは価値があるがまだまだ認知や信頼が足りないという中、上場してポジションを得られたことはやはり大きかったと思います。会社の認知度もそうですし、そこから得られる信用というものは特にこの領域でチャレンジしようという人たちの採用にかなりプラスとして寄与してくれています。

特に需給のバランスではデザイナーって本当に見つからない状況になっているんです。それまで平均年収400万円とか、デザインが好きだからやってます、みたいなマーケットだったんですが、自分たちがデジタル領域に可能性を拡大できたことで報酬も上がっていく。そういうことを上場によってプロモーションできた価値、意味合いはあっただろうなと思っています」。

次につづく/全ては自責から始まる:土屋・福島氏対談

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


10年起業家:世界を変えた「お節介」のワケ

SHARE:

2010年代を駆け抜けたグッドパッチとGunosy。まだスタートアップという概念もままならない2011年を前後して創業したこの2社は、とあるきっかけで出会い、成長のチャンスを得てそれぞれの存在価値を見出すようになる。学生たちが作ったアプリはやがて情報をつなぐインフラとなり、そのデザインをきっかけに次の扉を開いた起業家は上場を目指すことになった。 起業家の身の上にはその過程で何が起こり、どのように乗…

サービス開始当初のGunosy、グッドパッチはこのデザインを手がけたことで脚光を浴びることになる

2010年代を駆け抜けたグッドパッチとGunosy。まだスタートアップという概念もままならない2011年を前後して創業したこの2社は、とあるきっかけで出会い、成長のチャンスを得てそれぞれの存在価値を見出すようになる。学生たちが作ったアプリはやがて情報をつなぐインフラとなり、そのデザインをきっかけに次の扉を開いた起業家は上場を目指すことになった。

起業家の身の上にはその過程で何が起こり、どのように乗り越えていったのか。

本誌ではグッドパッチ創業者の土屋尚史氏と、Gunosy共同創業者であり、現在はLayerX代表取締役を務める福島良典氏にこれまでの10年を振り返っていただく機会を得た。これから数回にわたりこれまでの道のりをお伝えする。

まずは彼らの出会いと成長から話を始める。

東大生たちとの出会い

Gunosyを立ち上げた頃の関喜史氏、福島良典氏、吉田宏司氏(写真左側、手前から・グッドパッチ提供)

大阪でいくつかの仕事を経て、デザインに自分の仕事を見出しつつあった1人の青年がいた。若かりし頃の土屋氏だ。グッドパッチの創業は2011年9月。次の人生を求めて渡米したこの年から約9年後の2020年6月、デザイン企業として同社は東証マザーズへ上場を果たすことになる。

そのきっかけとなったのがこの渡米で出会った1人の東大生、Gunosy共同創業者の関喜史氏だ。関氏はシリコンバレーで出会ったこの起業家にある一通のメッセージを送る。全てはここから始まった。

「9月に(シリコンバレーから)東京へ戻ってきて、グッドパッチを創業することになるんですけど、創業の1カ月後ですかね。サンフランシスコ滞在時にシリコンバレーを一緒に旅してた関さんからメッセージが届いたんですね。大学の友人たちとサービスを作ったので登録してください、と」(土屋氏)。

2011年当時はスティーブン・ローゼンバウム氏の書籍「キュレーション」が日本語版としても発行され、コンテンツ発見の新たな体験が模索されていた頃だ。それまでオンライン・ニュースの情報収集と言えばRSSリーダーが主流だったが、この年を皮切りに日本でもさまざまなニュース・アプリが登場することになる。

土屋氏のメッセージに届いた「Gunosy」はそのひとつだった。彼は「ここに当時のトップページがあるんですけど」と、学生たちが作ったサイトを見せつつその時の衝撃を語る。

「当時、シリコンバレーにも似たようなニュースキュレーションのサービスがあって、おおって感動したのを覚えてます。ただ、とにかくサイトデザインがヤバかった(笑。関さんにこれ面白そうなんだけどデザイン大丈夫?って聞いて。それで開発した福島さん、吉田(宏司)さん、関さんの三人と話をして、じゃあ自分がやろうかと。さすがに大学生からお金取るわけにいかないからいいよ、タダでって」(土屋氏)。

iPhoneが登場し、スマートフォンシフトがこれから起ころうとする中、デザインが整ったGunosyは瞬く間にユーザーを集め、数万人が利用する人気アプリに成長した。そしてそのデザインを手がけたグッドパッチの元に仕事の依頼が舞い込むようになり、土屋氏は創業からわずか2年で事業を軌道に乗せることに成功する。

世界を変えた「お節介」のワケ

東大生3人が作ったGunosyの最初のサイト。パワーポイントでデザインした

ところで立ち上げの際、Gunosyはあくまで東大生のプロジェクトであり、法人化はもとよりビジネスモデルも何もない、純粋な「興味」で始まっている。福島氏は開発当初をこう振り返る。

「本当に法人化とか考えてなくて、創業者3人とも大学院まで今で言うAIですね、機械学習とかウェブマイニングとかの研究をしていて。3人ともITサービスやアプリが大好きで、何か作りたいよねみたいなノリだったんです。

ただ、それだけで作ってもつまらないから、自分たちが困っていることや研究した内容を使って何かできないかなというのは考えてました。それで共通項として出てきたのが情報収集だったんです。当時から情報は氾濫していて、それを何とかフィルタリングしてニュースを送るサービスにできないだろうかと」(福島氏)。

1万件のタイトルよりもおすすめされた10件の情報の方が価値があるーーそれなら自分が使いたい。そう考えた3人は「最初のユーザー=制作者」という考え方でアルゴリズムの開発に着手する。「今日のニュースどうだった」を繰り返し調整し、サイトは見よう見まね、ツールはパワーポイントで作った。

筆者はふと、土屋氏になぜ事業にするつもりもない学生たちのプロジェクトの手伝いをしようと思ったのか尋ねてみた。

「直感ですね。関さんたちは正直、出会った当時はあまりよく知らなかったんですが、大学院ですごい研究をしているということだけは聞いていました。あと、RSSリーダーで情報収集するということの課題は自分も感じていたんです。日本の東大というトップの学生3人がアルゴリズムを組んでニュースサービスを作っている。その時、直感的に日本からもしかしたらグーグルのような企業が生まれるのかもしれないなと思ったんです。

シリコンバレーに行ってたこともあって、当時のインターネットサービスってスタンフォードの学生が中退してスタートアップした、というストーリーをよく読んでいて、もしかしたら同じような未来が見えるのかもしれないと。だから手弁当でやるよ、と言ったんです」(土屋氏)。

土屋氏の予想はGunosyが法人化したことで半分当たることになる。予想外だったのは学生たちだけでの起業ではなかった、という点だ。

Gunosy、法人化へ

写真中央:木村新司氏

Gunosyは2011年10月に産声を上げ、その翌年の12年10月に法人化することになる。事業にすることを考えていなかった福島氏ら3人の学生に転機が訪れたのは1人の人物、現在、Gunosyの会長を務める木村新司氏との出会いだ。

木村氏もまた福島氏らと同じく東大出身で、2007年にモバイル・アドネットワークの先駆けとなるアトランティスを創業している起業家だった。Gunosyが生まれた2011年に木村氏は同社をグリーに売却し、彼もまた土屋氏と同じく、東大生が作ったこのニュースキュレーション・サービスに新たな可能性を見出そうとしていた。

Gunosyを事業化するにあたっての課題はマネタイズモデルだ。未成熟なスマートフォンアプリの市場でユーザー課金は期待が薄い。しかし木村氏が経験した広告技術を組み合わせれば、勝ち筋が見える。そうして彼らは手を取り合うことになった。

ただ、福島氏は見えない未来にそこはかとない恐怖も感じていたようだ。

「やっぱり最初はビジネスになるなんて全く思ってなかったですよ。当時、映画「ソーシャルネットワーク」ってあったじゃないですか。自分たちがそういう風になっていくなんて想像できなかったですね。まあ一言で言えばビビってたんですよ。

一年ぐらいかな、法人化とか考えずに卒業まで時間あったので、会社にした方がいいとか言われたんですけど、一旦、自分たちにそういう自信がないから社会人になってもサービスを続けられるように改善を続けていこう、という話はしてました。

ただ、思ったよりもユーザーがついてくれた。今思えば大した数字じゃないですよ。けど、当時の学生からするともの凄いインパクトがあった。多分、数万人とかのユーザーがアクティブな状態だったんですが、それが凄いことかどうかもよく分かっていなかったですね」(福島氏)。

自分たちの困りごとと研究のために作ったアプリが「当たった」。いや、当たったかどうかも分からないまま、彼らは木村氏と出会い、いよいよ自分の将来を真剣に考え出す。当時、就職先が決まっていた福島氏は冷静にスタートアップに飛び込むリスクとメリットを天秤にかけてひとつの答えを導き出す。

「いろいろ考えた時、スタートアップに飛び込んでもリスクがないなって思ったんです。自分たちがやってみた結果、その一年ですごい技術力もつきましたし、普通に働くよりもいろんな意思決定がいっぱいできたんです。世の中では新卒のレールを外れると大企業行けなくなるとか言うんですが、今は明確にそれが嘘だって自信持って言えます。

当時はそこまでの確信はなかったですけど、起業したことで大企業に行けなくなってもいいや、何とかなるだろう、と。逆にここでやらなければ自分が老人になった時、似たようなサービスが日本から出てグーグルみたいな会社ができました、それを自分以外の人間がやっていたとしたらもの凄い後悔するだろうなと」(福島氏)。

その感情に気がついた学生3人は木村氏と共に動き出す。学生プロジェクトではない「社会の公器」としてのGunosyを立ち上げることになった。

次につづく/10年起業家:ギアチェンジの時

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


シード期の「波乗り」に優れた4社、彼らの資金調達方法とは

SHARE:

スタートアップにおける初期のマイルストーンにPMFがあります。いわゆるプロダクトが自走する段階で、市場がその価値を認めてサービスを利用・購入し、かつ、オーガニックにその利用数が伸びていく状況です。KPIは明確で、経営陣はもとよりチーム全員が毎日何をやれば自社の資産が積み上がるか理解しています。P/LよりもB/Sが積み上がるイメージです。 一方でここまでに至るには、市場の痛みを発見し、そこに対して誰…

Photo by Gary Barnes from Pexels

スタートアップにおける初期のマイルストーンにPMFがあります。いわゆるプロダクトが自走する段階で、市場がその価値を認めてサービスを利用・購入し、かつ、オーガニックにその利用数が伸びていく状況です。KPIは明確で、経営陣はもとよりチーム全員が毎日何をやれば自社の資産が積み上がるか理解しています。P/LよりもB/Sが積み上がるイメージです。

一方でここまでに至るには、市場の痛みを発見し、そこに対して誰よりもよい体験を提供しなければなりません。ここ最近大きく話題になった音声ソーシャルの市場は日本国内でも数年前からあるあると言われながらなかなかトレンドには至っていませんでしたが、コロナ禍における人恋しさやClubhouseのバイラルの巧みさなどが相まって一気にトレンド入りしたのはご存知の通りです。

市場ペインや提供体験、そしてトレンド・テクノロジーなど複雑すぎるほどの変数がピッタリと重なるタイミングを見つけるのは本当に奇跡です。スタートアップが難しいと言われる所以はここにあります。

では起業家はどのようにしてこのタイミングを見つけるのでしょうか。ひとつの答えに「波が来るまで待つ」という方法があります。シード期に必要な資金はチーム構成にもよりますが、業務委託など含めて4〜5人を回すにはやはり年間で最低でも数千万円必要になります。飴を舐めながら我慢してという方法もかつてはありましたが、今はステージも変わっています。

そしてこのシード期には明確な「終わり」があります。つまり、資金が尽きた時です。

私はここ1カ月ほど幾つかのスタートアップを取材したのですが、それぞれのプロダクトの素晴らしさはもちろん、同時に彼らは「波の待ち方・乗り方」が大変優れた数社でもありました。ここにケーススタディを共有することで、これから起業する方の参考になればとまとめてみようと思います。

圧倒的な総合力で間合いを詰めたLayerX

LayerX社内での開発風景(写真提供:LayerX)

ブロックチェーンという可能性が語られ出したのはやはりビットコインによるトレードが大きかったのではないでしょうか。一方で、この自律分散の仕組みが実際に社会実装されるまでには数年の時間を要することになりました。ここにチャレンジしているのがLayerXです。

Gunosy共同創業者である福島良典さんを中心にLayerXを設立したのは2018年8月。GunosyとAnyPayによる合弁会社で、両社が50%ずつを出資し福島さんが代表取締役社長に就任しました。その1年後の2019年7月に福島氏は1株3万円でGunosyが保有する5,000株の内4,500株を譲受するMBOを実施(その後、AnyPay保有分も経営陣にて買取)しています。この時開示されたLayerXの2019年3月期決算状況は売上高1億400万円で営業利益100万円、純利益は0円でした。

福島さんが独立した際、どのようなプロダクトでこの自律分散の技術を社会にデビューさせるのか、私も含め多くの人が興味を持っていたのではないでしょうか。当時はビットコインの大きな暴落などがあり、いい意味で変な熱狂が去った後です。DiFiやDEXなどのプロダクトを予想していましたが、彼らが取った戦略は協業や合弁会社を作る、というものでした。

MBOを成立させた直後の2019年11月には三菱UFJフィナンシャル・グループと協業し、翌年4月には三井物産らと共同で三井物産デジタル・アセットマネジメント(三井物産 54%、LayerX 36%、SMBC日興証券 5%、三井住友信託銀行 5%)を設立しています。

ここで証券のデジタル化(STO)を推進するサービス・プロダクトをリリースするのかと思いきや、出てきたのはもっと現実味のある「業務デジタル化」に関連するものでした。資産管理サービスにおける差別化は手数料です。業務を効率化すれば手数料を軽減させ、競合との差別化要因にすることができます。これを実際にJVを作り、アセットマネジメントの業務に関わる実務を「自社ゴト」として経験し、そこで得られた非効率を改善するというアプローチを取ったのです。

そしてここから生まれたのが請求書業務の「受け取り」を効率化するサービスでした。LayerXインボイスを自社の資産管理業務だけでなく、より幅広い企業のペインにも対応するものとしてデビューさせたのです。

こうしてLayerXは創業から約3年という期間に「請求書AIクラウド LayerXインボイス」によるDX(デジタルトランスフォーメーション)事業、ブロックチェーン技術を活用した不動産・インフラなどのアセットマネジメントを三井物産デジタル・アセットマネジメントと共同で推進するMDM事業、ブロックチェーンや秘匿化技術の技術開発、社会実装などを長期目線で研究開発する「LayerX Labs」の運営という3つの柱を立てることに成功しました。今年3月には共同代表制に移行して体制もモリモリ強化しています。

LayerXの3年間はこうやって言葉にすると綺麗ですが、実際どこまでを計画して動いていたのかはわかりません。ただ近年のスタートアップの中では抜群のタイミングで事業を組み立てた例であることは間違いないと思います。

意味のある受託で波を掴んだ3Sunny

3Sunnyが公開しているカルチャーデック

いやいや、ファンタジスタ福島さんたちのプレーは参考にならないよ、という方もいらっしゃると思います。私もそうです。そこでお聞きいただきたいのが3Sunnyのケースです。こちらについてはポッドキャストでも語っていただいていますが、創業のタイミングで全く地の利のない業界(しかも非常に難しい医療分野)へのチャレンジをされています。さらにリクルートやグリーなどの大手を経験したメンバーで30代後半のスタートアップというそれなりにバーンが高いチームです。

どうやってシードを乗り切ったのでしょうか。

彼らの創業が2016年7月でANRIからの出資金が2,000万円でした。ヒットをようやく掴んだCAREBOOKの誕生が2018年5月、この状況をみてANOBAKAが追加出資に応じたのが2018年12月(5,000万円)なので、創業からの約2年間は最初の出資金である2,000万円でやりくりしなければなりません。ただ20代の学生起業家ならいざしらず、30代家庭持ちを加えた構成ではまあ、無理でしょう。

答えは受託なんですが、やり方が興味深かったです。創業しているメンバーが3人いらっしゃって、代表の志水文人さんが新しいプロダクトについて考える役で、それ以外の2人の取締役が資金が足りなくなりそうになると「どこからか」関連する仕事をとってきてくれていたそうです。その額は1億円を下らないそうで、結果、CAREBOOKはトレンドの波を掴んで浮上に成功します。あと、志水さんたちテレアポがすごく上手だったというのも聞き逃せない重要スキルと感じました。

受託がよいという話ではありませんが、創業メンバーがもし1人とかだとこういったチームプレーができません。また、創業メンバーがそれぞれ自分ゴトとして取り組んでいなければ「外らからカネを引っ張ってくる」という感覚を持てないかもしれません。特にシード期の投資サイドが「チームを見る」と言われる所以かなと。

応援団と一緒に旅をするアル

画像クレジット:「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です」より

B向けのサービスで受託開発をきっかけに業界内ペインを探しつつ、プロダクト化に成功する事例がLayerXと3Sunnyであれば、 C向けはどういうケースがあるでしょうか。メディアビジネスのように、まずはユーザーとインプレッションを最大化させてNo.1を取り、そこから広告などのビジネスを展開する「Jカーブ」タイプのモデルが一般的とされてきました。一方、同じような戦略を取る企業が増えてしまい、いつまでカーブを堀つづけるのか分からない不安に駆られるケースもあると思います。

そういう意味で、漫画さがしアプリ「アル」を展開する古川健介さんの「プロセスエコノミー」はひとつのモデルだと思います。メディアによるアフィリエイトなども多少はあると思いますが、それ以上に際立った方法が「アル開発室」というコミュニティの存在で、そこでは毎日、自分たちの開発に関わるエピソードやノウハウをメンバーに共有することで、それを会費という形の売上にしています。現在は非公開のようですが、月額980円で私が拝見した数週間前には2,000人ほどの参加者がいらっしゃいました。

彼らは常時接続ソーシャルの「00:00 Studio」も展開しており、クリエイターや漫画好きがロイヤリティの高いファンとして存在しています。彼らに対して参加できる場所を提供し、一緒に応援してもらいながら開発を続けている、というわけです。学生起業家で最近取材した動画関連事業のTranSe(トランス)さんも同様の方法を採用していたので、C寄りのサービスでロイヤリティの高いファン層から集める方法としては今後、メジャーになるような気がしています。

社内ベンチャーからステップしたMyRefer

社内ベンチャー制度から3年でスピンアウトしたMyRefer(写真は切2018年のもの、一番左が代表取締役の鈴木貴史氏)

LayerXにも似た手法なのですが、ここ最近スピンオフ(連結から外れて独立)の話題をポツポツと聞くようになりました。事例としてはMyReferやミラティブなどがあり、親会社の連結を外れて切り出した後にスタートアップ資金を注入する方法が一般的なようです。連結を外れることで柔軟な資本政策・業務提携を可能にし、かつ、スピンアウトのように切り出した子会社のままではなく明確に上場(外部資本のイグジット)を目指す点が特徴になります。

MyReferについてはこの記事で詳しく書いておきましたが、初期はパーソルホールディングスの社内ベンチャーとして2015年に創業し、1億円の資金とパーソルブランドの信用を背景にビジネスを展開します。3年ほどの事業展開で370社10万人の導入実績が付いたことからスピンアウトとして切り出し、外部資本として当時のグリーベンチャーズ(現在のSTRIVE)とパーソルHDが出資する形で再スタート。この判断は正しく、今年3月にはシリーズBの大型調達に成功しています。

この方法の魅力はやはり大資本・信用力でビジネスが展開できる点です。一方、ガバナンスなどを社内ベンチャーとして積極的に切り分ける方法を上手にやらないと、スピード感のない「起業ゴッコ」で終わる怖さもあります。

大企業の新規事業のあり方は「社内、買収、オープンイノベーション」と言われています。この中で難しいとされるのが社内なんですが、実は大企業には優秀な人材が多く在籍しており、単にやり方が整ってなかったのではないかというのが私の最近の仮説です。この件については別途取材しているものもあるので、またどこかでまとめてみたいと思います。

ということで、シード期の乗り切り方を幾つかのパターンでまとめてみました。色々な立場で新規事業に取り組まれていると思いますが、何かの参考になれば幸いです。

※補足:タイトルに「資金調達方法」としていますが、増資によるものではなく、新規事業を立ち上げるために何らかの方法で資金を引っ張ってっくるという意味合いで付けています。一応補足までに。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


LayerX、Gunosy・DMMでCTO歴任の松本勇気を代表取締役CTOに選任、福島氏と共同代表体制に

SHARE:

ニュースサマリ:業務プロセスデジタル化を推進するLayerXは3月1日、代表取締役CTOとして松本勇気の就任を公表している。本日付の株主総会および取締役会による選任決議を経たもので、本日から同社は代表取締役CEOの福島良典氏と共同代表体制となる。 経済活動のデジタル化をミッションとする同社は現在、「請求書AIクラウド LayerX INVOICE」によるDX(デジタルトランスフォーメーション)事業…

写真左から:代表取締役CEOの福島良典氏、代表取締役CTOの松本勇気氏

ニュースサマリ:業務プロセスデジタル化を推進するLayerXは3月1日、代表取締役CTOとして松本勇気の就任を公表している。本日付の株主総会および取締役会による選任決議を経たもので、本日から同社は代表取締役CEOの福島良典氏と共同代表体制となる。

経済活動のデジタル化をミッションとする同社は現在、「請求書AIクラウド LayerX INVOICE」によるDX(デジタルトランスフォーメーション)事業、ブロックチェーン技術を活用した不動産・インフラなどのアセットマネジメントを三井物産デジタル・アセットマネジメントと共同で推進するMDM事業、ブロックチェーンや秘匿化技術の技術開発、社会実装などを長期目線で研究開発する「LayerX Labs」の運営を手がけている。

今回共同代表に就任する松本氏はこの内、MDM事業部およびLayerX Labsを管掌することになる。また、これまでCTOとして技術部門を率いた榎本悠介氏は引き続き取締役としてDX事業部を管掌する。

松本勇気氏は東京大学在学時に福島氏らが共同創業したGunosyに入社し、CTOとして技術組織全体を統括した人物で、同社においてLayerXの前身 となるブロックチェーンR&D組織を立ち上げた人物。2018年からはDMMに移籍し、同じくCTOとして技術組織改革に着手した。2019年には日本CTO協会理事に就任している。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


LayerXが 「LayerX INVOICE」公開、クラウド請求書を最初のプロダクトに選んだワケ

SHARE:

ニュースサマリ:経済デジタル化支援のLayerXは1月13日、経理業務を効率化する請求書AIクラウド「LayerX INVOICE」を公開した。LayerX INVOICEは請求書の受け取り後、AI-OCRによって請求書を自動でデータ化した上、仕訳データや振込データの自動作成及び会計システム連携をシームレスに実行してくれる。 開発にあたりLayerXでは月間の受領請求書枚数が1万枚を超える大手など…

LayerX社内での開発風景。彼らはオフィスに戻った(写真提供:LayerX)

ニュースサマリ:経済デジタル化支援のLayerXは1月13日、経理業務を効率化する請求書AIクラウド「LayerX INVOICE」を公開した。LayerX INVOICEは請求書の受け取り後、AI-OCRによって請求書を自動でデータ化した上、仕訳データや振込データの自動作成及び会計システム連携をシームレスに実行してくれる。

開発にあたりLayerXでは月間の受領請求書枚数が1万枚を超える大手など含む100社以上にヒアリングを実施し、課題を抽出した上で機能拡充を実施した。昨年10月からは一部の企業に対してβ版の提供を開始しており、連携する会計システムはfreee、マネーフォワードクラウド会計、弥生会計など主要なシステムが対応している。これら会計システムに連携する仕訳データを自動で作成・連携できるほか、銀行の振込データも同様に自動で作成可能となっている。

LayerX INVOICE

また、紙の請求書についても連携パートナーと協力して代理受領・データ化を請け負う。紙の請求書を代理で受け取り後、スキャンすることで紙の受領が必要なケースでもオフィスに出社せず、クラウドのみで完結できるとした。

初期費用と月額費用が必要で、請求書の対応枚数によっていくつかのプランに分かれる。詳しい価格については問い合わせが必要。同社は国内で発令されている緊急事態宣言において企業のリモートワークが推奨される状況をふまえ、今日から3カ月間の無料トライアル期間を設けている。

話題のポイント:2018年8月の創業から追いかけてるLayerXから待望のプロダクトがリリースされました。同社はこれまで自律分散技術を活用した業務プロセスのデジタル化を主力事業として活動してきていましたが、どれも大手とのコラボレーションによるものでした。LayerXのこれまでについてはこちらの記事を参照ください。

参考記事

さて、経済活動のデジタル化を掲げるLayerXはなぜ最初のプロダクトにクラウド請求書を選んだのでしょうか?実際、この手のツール類は連携するマネーフォワードやfreeeなどをはじめ、各社出揃った感がありますし、クラウドファクタリングのOLTAは完全無料のツールとして提供を開始するなど、違ったフェーズに入っているのが現状だと思います。ということでLayerXの福島良典さんに同社の現在地についてお話を伺いました(太字の質問はすべて筆者、回答は福島さん)。

LayerXではこれまで主に企業との協業スキームでデジタル化の支援を実施してきた。クラウド請求書が溢れる中、このプロダクトを最初のテーマに選んだ理由は

福島:LayerXでは三井物産様を始め、SMBC日興証券様、三井住友信託銀行様とジョイントベンチャーを作り事業運営をしています(三井物産デジタル・アセットマネジメント、以下MDM)。半年前の調達時にBRIDGEさんに寄稿させていただきましたように、この事業運営で得た知見を元に「より汎用的なソリューションとして提供していけるような体制をLayerXとしても作りたい」と考えていました。

請求書のプロセスのどこにチャンスを見出した

福島:MDMはデジタルなアセマネ会社として「今までアセット化されなかったものの証券化、今までアクセスできなかったものに対する投資の開放、裏側の業務プロセスデジタル化による金融機関の生産性向上」を目指しており、この裏側の業務プロセスのデジタル化(=コーポレートDX)では、SaaSの導入と既存SaaSでできないことを切り分け、既存SaaSの導入で効率化できる部分は導入・活用を進めてきました。

既存SaaSでカバーできていなかった領域として「請求書受領から支払いまでの効率化」ソリューションがあり、この部分を自社プロダクトとして開発し始めました。これを複数の企業にみせたところ非常に反響が良く、汎用のプロダクトとして展開することを決定した次第です。

経済活動をデジタル化する、という大きなミッションを掲げているが、企業とのアライアンスや今回のプロダクトリリースを通じて、LayerXがどのぐらいの地点に辿り着いたか認識を教えてほしい

福島:あらためて、LayerXのミッションは「すべての経済活動を、デジタル化する。」ことです。昨秋に自身で書いたこちらのnoteでも触れておりますが、当社では、デジタル化のレベルは大きく四つあると考えています。超要約して書くならば「ツール→業務→企業間・業界間・産業間」と最適化される対象が広がっていくイメージです。

DX時代の金融機関における「経営のソフトウェア化」(福島さんのnoteより)

当社が注力するブロックチェーンや秘匿化技術は「Level4のデジタル化」の根幹となる技術です。一方日本の産業界の現状はLevel1-2のDXがやっと進み始めたところです。

まだまだ国内企業のデジタル化への取り組みはこれから、という状況

福島:今まで、デジタル化が真剣に取り組む必要に迫られていなかったのは、デジタルの持つ優位性が「インターフェースをデジタルに変える」だけだったからではないでしょうか。これでは変化の幅は限られます。LayerXが(JV事業やSaaS事業において)取り組むデジタル化はLevel1-2からスタートしLevel3に移行するように解決していきます。同時に、祖業であるブロックチェーン事業については「LayerX Labs」という形を残し、5年10年単位で確実に来る大きな波を、沖にでて待ちつづけています。これらが合流する形でLevel4のデジタル化を実現していきます。

大手含めてかなりの検証を重ねた上での勝負だと思う。勝ち筋は

福島:こちらも、実はBRIDGEへの寄稿で触れていますが、インターネット×エンタープライズはチャンスが大きい産業だと思っています。なかでも請求活動は企業の最も基本的な活動の一つです。請求書業務を上述の「レベル分け」で例えてみます。Level1だと請求書の「pdf化、データ化」が実現されるイメージです。

Level2-3が今回提供するLayerX IINVOICEの範囲で、「手入力がなくなる・システム間の転記がなくなる・ミスや漏れなどを機械的にアラートする」など業務のデジタル化がされるイメージです。次に来るLevel4が「請求書の標準化・規格化によってデータのやり取りだけで完結する、デジタルマネーと請求書が結びつくことで催促や担保の概念が変わる、IoTデバイスをトリガーに役務提供や実際に物が動いたら決済される」など、業界間や産業間をまたいだ最適化になるイメージです。

このようなデジタル化が進むことで、従来の「サービスの単発売り切り型の経営」から、そのサービスを継続的に提供し、絶えず改善しながら顧客のライフタイムバリューをどう高めるかという「サービス産業的な経営(=ソフトウェア経営)」に変わっていくと考えています。

ありがとうございました。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


経済活動のデジタル化、LayerXという旅の始まり

SHARE:

本稿はスタートアップ自身がストーリーを投稿する「POST」記事です LayerXは本日、新たな増資についての情報を公開させていただきました。詳細はそちらをご確認いただくとして、本稿では、僕らがこれから掲げる「経済活動のデジタル化」について、今の考えを記しておきたいと思います。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けし…

Layerx_001
LayerX代表取締役、福島良典

本稿はスタートアップ自身がストーリーを投稿する「POST」記事です

LayerXは本日、新たな増資についての情報を公開させていただきました。詳細はそちらをご確認いただくとして、本稿では、僕らがこれから掲げる「経済活動のデジタル化」について、今の考えを記しておきたいと思います。

なぜ今、DX、デジタル化なのか

ミッション自体はコロナ前から「すべての経済活動を、デジタル化する」に変えることを考えていて、前のもの(Evaluate Everything)は主に社内向けでした。やってることが大きく変わったということではなく、伝え方を変えたという感じです。

新型コロナウイルスの影響でDXが進む、みたいな話もありますが実は関係なく、ワークフローのデジタル化が2020年代のビッグトレンドになることは以前から考えていて、今回の件でそれが確定的になったなと、そういう見方をしています。

もともとソフトウェア技術の進歩は、ある地点から離れたある地点にデジタルに情報を伝えるということから始まり、次にいわゆる機械学習的なものが出てきて、人の作業 、知的作業がソフトウェア化されていったものなんですね。

じゃあブロックチェーンで何が起こっているかというと、人が作っていたガバナンスとか作ってたワークフロー、例えば何かを承認したらそれをもとに請求作業をやるとか、合意したことによって実行されますとか、それぞれガバナンスじゃないですか。

そういった、今まで人がやらざるをえなかったことが、技術でカバーできるようになってきたことが大きな変化で、さらに裏側のコンピューティングのコストがずっと下がり続けているということも含めて、今、 結構変わり始めるタイミングなのかなと思っています。

LayerXの提携戦略

ではこの状況に対してどう動くか。

僕らが発表している提携は2種類ありまして、ひとつがDXしたい先。例えば三井物産さんというのは「DXしたい主体」ということで、そういったパートナーがあります。

もうひとつは「欠かせない役割を担ってくれる」パートナーです。

例えば、証券のワークフローを作る時、「証券を買います」って時に契約しない人なんていないので、必ずワークフローの中に「契約」というものを持っているわけです。あるいは配当するときとか決算をしめる時に会計ソフトを使わないアセットマネジメントの会社があるかというと、絶対使うじゃないですか。

配当する時に、銀行送金を使わない会社だって存在しない。そこのデジタル化をやっているのが電子契約だったら弁護士ドットコムさんのクラウドサインだし、会計ソフトだったらマネーフォワードさんとかfreeeさんだったりするわけです。銀行APIについては先進的な取り組みをされているGMOあおぞらネット銀行さんです。今回は3社(弁護士ドットコム、マネーフォワード、GMOあおぞらネット銀行)と提携を発表させていただいています。

つまり、先ほどの業務のワークフローとか業務のデジタル化をする時にこういった「欠かせない役割」を持っている先が僕らのパートナーシップの発表を出しているところなんです。

また、僕らはデジタルになることですべてを平等に繋げることができるようになると思っています。

この反対がベンダーロックインとかそういった概念で、会計ソフトだったらこれを使わなきゃいけない、契約サービスだったら社内ワークフロー的に印鑑を使ってくださいとか、そういった何かのルールにロックインされた状態が不便な状態です。

逆にデジタル化していくっていうのは、何とでも繋げますよと。例えば会計ソフトで社内リソース管理で使っているERPと会計ソフトが分離していますという時も、その裏の共通のデータを一元管理するものって作れますよねとか、そういったところをやっていくパートナーです。

LayerXが全部作るってありえないと思うんですよね、めちゃくちゃUXのいい電子契約サービスを作れますかっていうとそれは専門でやってる人の方がいいでしょう。

ただ会計とその電子契約を結んで何かのワークフローを作るというところはLayerXが専門にやっているところなので、逆に言うとお客様ごとにカスタマイズして○○銀行さんのためのAPIですってものはやっぱり作らないと思うんです。そういった補完関係としてのパートナーシップを今どんどん発表しています。

Layerx_002

DX事業はどう進める

整理すると「顧客」と「顧客のDXに使われる技術」みたいな分け方です。会計ソフトとか電子契約みたいなのは技術側で、僕らが顧客にしているのはそういったツールを入れてDXをしたい先で、三井物産さんやMUFGさんなどがそれにあたります。

実際どのように進めているのかというと、三井物産さんと僕らは今ジョイントベンチャーを作って一緒にアセットマネジメント会社を運営しています。JVを作る背景として、PoCではなく商用化を推し進めるためにその先にあるビジネスのエグゼキューションを意識しています。従来一般的とされてきた受委託の関係ではなく、双方がリスクを取ってJVをつくり一緒にやっていくことでインセンティブを一致させていく、そういった考えで運営しています。

それで実際ワークフローを作る時、先ほどのパートナー企業様のツールを使っているんですね。実際に印鑑を使わない電子契約サービスだとか、独自の会計システムを用意するんじゃなくて、クラウド会計システムを使って、その裏側の業務フロー、請求書と繋いでとか電子契約と繋いでとかは内製化してるんですけど、ツール自体はクラウド会計を使ってるんです。

お金のやりとり、投資家からお金が振り込まれましたとか、逆にファンド側から配当としてお金を振り込みますとか、譲渡した時に権利者同士でお金の やり取りをしますとか、そういうところは銀行APIで繋いでいます。

こうやって実際に合弁会社を作り、業務フローを作っていく中で「役割として」必要となるパートナーが見えてきたので、このような提携戦略を進めています。さらにこれは三井物産さんに限った話じゃなくて、ここで得た知見を元に、より汎用的なソリューションとして提供していけるような体制をLayerXとしても作りたいと考えてます。

経済のデジタル化とは

デジタル化をどう表現するか、なんですがまず、チャネルの変化がありますよね。

例えば銀行。デジタルバンキングによりインターネット上で送金もできるし投資信託も買えるとか、あるいは店舗、百貨店に行ってたのがアマゾンとか楽天で買えるようになりました。紙やテレビでニュースを見てたみたいな人がスマホでニュースとか動画を見るようになったとか。

いわゆるユーザーチャネルのデジタルシフトが、今までの「デジタル化」です。

僕らがフォーカスしているデジタル化はどちらかというと、その裏側で働いている人のデジタル化というところが大きな違いになります。例えばSaaSが広がって、契約の証明をするのがデジタルになりましたとか、会計ソフトがデジタルになりましたみたいなのがあると思うんですけど、その間のワークフローは全てアナログだったりします。

契約書をチェックして請求書を送って相手からお金を送ってもらい、これをまた確認しました、という一連の動きはおそらく多くの会社で「部分部分」はデジタルになっていても、全体はデジタルなっていないのかなと思っています。

特に直近のパンデミックによって、そういった部分のデジタル化が単なる経済的な意味じゃなくて社会的な意味でも重要になりました。

日本は人口が少なくなっていく国でどうやって人の労働力に頼らず、デジタルにシフトしていって生産性を保つとか、そういったところが今後の大きなデジタル化の流れになるのかなと思います。

LayerXがやっていくデジタル化は単にマーケティングをデジタルでやります、チャンネルをデジタルで用意しますじゃなくて、働き方がデジタルになりますみたいなところにフォーカスしてやっていこうと思っています。

ブロックチェーンはマストなのか

ブロックチェーンの世界って、どうしてもインターフェースから最後のデータのトランザクションのやり取りまで「全部ブロックチェーンで」みたいな考え方がなぜか当たり前に考えられているんですけど、ソフトウェアの技術はレイヤー化していくもので、この部分は「例えばこう使って」みたいなことができたらいいよねと思っています。

なのでブロックチェーンはマストではないけどベターと考えています。

例えばガバナンスの整合性をとる作業とか、重い産業(※)だとよくあるのが部署によって見ているデーターベースが違いますとか、会社間を跨ったサプライチェーンの管理や証券の管理をする際には相性が良く、実装しやすいのは真実だろうと思います。

※LayerXでは金融機関やサプライチェーンが長きにわたる企業、製造業を「重い産業」と称しています

一方、相性が悪いところで今ブロックチェーンを使うべきかというとそうは思わないです。例えばデジタル署名の入り口みたいなところに、敢えてブロックチェーン的な処理を入れてウォレットを持ってということをやるのがマストかというとそうは思わない。

あと、ブロックチェーンという言葉の意味が広くなってしまっている状況も考える必要があります。

ブロックチェーンも適材適所と言いますか、例えば単にヒストリカルに改ざんされにくいデーターベースを社内で残したいということなら、Amazonが出しているQLDBのような分散化されてないけどブロックチェーン的にヒストリカルデータを簡単にトレースバックもトレースフォワードもできるみたいな技術があるんです。

また、ワークフローがデジタル署名をトリガーに走るというものであればHyperledgerみたいなものとか、逆に金融機関同士の(個別の)データは同じ金融機関同士でないと取引は見れちゃいけないが、証券の取引整合性は全体で担保したいといったケースはcordaとか、そういったユースケースによって当然技術って選ばれるものが変わってくるのかなと思ってます。

なので (ブロックチェーンは)マストではないが、ベターではあると思う。なくても実現できるが、ブロックチェーン的な技術を使った方がコストが下がるとか楽に実装できるのに、あえてなぜそれを使わないのっていうのを「why not blockchain」と僕らは言っています。つまり、一番上の目標にDXを掲げていて技術選択としてブロックチェーンを使っていくという考え方なんです。

Layerx_003

インターネットエンタープライズのゆくえ

産業は最初は群雄割拠で始まって、どんどん統廃合が繰り返されていって、その上でその産業の成熟期になると大きいもの同士の合併とか生産性を上げていくというのが、ソフトウェア業界に限らず広く一般的なことです。

明治維新の頃の商社や戦後の自動車産業、飛行機産業はいっぱいベンチャーがあったが今は淘汰が進んで数社しか残っていません。これと同じことがインターネット産業でも起こると思っています。メディアでもコマースでもゲームでも起こると思います。

皆さんの中でも思い浮かぶ勝ち組って決まってませんか?例えば、ZコーポレーションがLINEと統合だとか、ZOZOを買収するとかって完全に成熟産業の動きです。日本のEコマース率は6〜7%くらいですかね、メディアのインターネット化率も100%ではありません。なのでどんどん大きくなっていくとは思いますが、その成長を享受できるのがベンチャー企業なのか、すでに参入したテックジャイアントなのかというと、後者になってきているのが今の現実的なインターネットメディア市場の見方です。

逆に「インターネットエンタープライズ市場」はまだこれからベンチャーが活躍する、新しいルールを作っていくチャンスがある産業だと思っています。インターネットメディア産業を否定するわけではなく、僕はそういうビジョンとか考え方を持ってベンチャー企業がやる意義のある仕事っていうのは、エンタープライズ側にどんどんシフトしてきているんじゃないかなと。

例えばTencent(騰訊)やAlibaba(阿里巴巴集团)はインターネットメディア産業の象徴だと理解されているかもしれませんが、実はTencentの会長はもうエンタープライズ向けの会社になると明言しているし、次の成長の柱としてSME向けの決済ツール、金融のツールを売っていて、実際売り上げの比率でいうと3割くらいになっているんですね。一方のAlibabaはAnt Financial(蚂蚁金服)とビークルを分けてしまっているので、売上の詳細は不明ですが同じくらいあるんじゃないでしょうか。

Amazonも営業利益のほとんどはAWSの売り上げです、Microsoftもエンタープライズ向けビジネスですよねもちろんB2C向けのサービスも持っていますが。GoogleもAWS的なGCPのビジネスを拡大していて、テックジャイアントと言われるところもエンタープライズ向けにシフトしてきています。

旅のはじまり

LayerXでの取り組みは、時間をかけてしっかりやっていこうと思っています。というのも、こういったエンタープライズの領域はtoCのビジネスのように、売り上げが0だったものが数年で何百億にというように急激に伸びるってことはそんなに起こらないと思うんです。

営業活動が必要ですし、ボタンを押すだけでユーザーがスケールしていくみたいな、スケールをお金で買うみたいな手段がそんなにある産業ではないので、地道な改善活動、地道な説得、地道な実装をやっていく。一方で、どこかでそれらが普及した先にスケーラブルな成長があると思います。最初は線形の伸びに見えるが、長い時間軸で見ると指数関数的になっていたみたいな、そういう類の産業かなと思っています。

なので時間をかけてやるのが大前提です。しっかりとキャッシュフローを積み上げて10年20年のタイムスパンで大きな波を作れればいいのかなと、それくらいの期間でやっていくくらいで考えています 。

産業的にはここの業界で先行してきたエムスリーやモノタロウはそういった思想で20年経営して、今や1兆円を超える時価総額になっています。それくらいの成長を思い描いていますが、2年後3年後に突然数千億にという類の市場ではないのかなと思っています。

via PR TIMES STORY

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


30億円調達のLayerX、「経済活動のデジタル化」で世界を変える

SHARE:

期待のスタートアップ「LayerX」が大型調達だ。 一部で報道されている通り、経済活動のデジタル化を担うLayerXは今日、増資の発表をする。(追記:正式に公表された)第三者割当増資によるもので、引き受けたのはジャフコ、 ANRI、YJキャピタルの3社。出資総額は30億円になる。評価額や出資比率、払込日などの詳細は開示されていない。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーン…

LayerX
LayerXチーム(提供:LayerX)

期待のスタートアップ「LayerX」が大型調達だ。

一部で報道されている通り、経済活動のデジタル化を担うLayerXは今日、増資の発表をする。(追記:正式に公表された)第三者割当増資によるもので、引き受けたのはジャフコ、 ANRI、YJキャピタルの3社。出資総額は30億円になる。評価額や出資比率、払込日などの詳細は開示されていない。

LayerXが外部資金を受け入れるのは2019年8月に実施したMBO以来初。調達した資金は商用化のための事業会社設立や対応する事業、プロダクト開発、人材採用に投資される。

経済活動のデジタル化とは

LayerXを一言で表すことは難しい。設立当初こそブロックチェーン技術にフォーカスした開発集団、というイメージはあったが、わかりやすいプロダクトは持たず、企業のデジタル化に特化した支援事業を手掛けるとしたからだ。言い換えれば「受託開発企業」とも取れる。

しかし、創業者はあの福島良典氏だ。学生時代に手掛けたニュース・キュレーションサービス「Gunosy」は事業として成長し、2017年には東証一部への鞍替えも果たしている。彼が小さな受託会社を作って引っ込みたいと思う方が間違っている。

では、具体的に何が起こるのか。これまでも本誌では彼の心の内を紐解いてきた。

<参考記事>

彼らのビジョンの中心には主にブロックチェーンによってもたらされる新たな概念、プロセスの自律分散化、資産の証券化、個人がテクノロジーを活用して最大化される、そういった世界観が示されていた。

一方、ここ1年の彼らの活動は極めて現実的だ。特に提携戦略は創業間もないスタートアップの面影は一切ない王道をいくものだった。2019年11月の三菱UFJフィナンシャル・グループとの協業に始まり、今年4月には三井物産らと共同で三井物産デジタル・アセットマネジメント(三井物産 54%、LayerX 36%、SMBC日興証券 5%、三井住友信託銀行 5%)を設立。ここでは実際の資産管理事業に取り組む。

さらにブロックチェーンを活用した世界的な金融パートナーであるR3とも公式な提携を結び、GMOあおぞらネット銀行との提携で次世代金融サービスに乗り出すことも明らかにしている。

以前の取材で夢のように語っていた世界を一歩ずつ現実のもとへ近づけている。しかも世の中は未曾有の感染症拡大の結果、デジタル化をさらに進めたいと求めるようになってしまった。彼らが変えようと思っていた世界の方からもやってくる、そんな事態になってしまったのだ。

Layerx_001
今年3月に改訂したLayerXのミッション

では具体的に歩みを進めたLayerXはどこに向かうのだろうか。福島氏から今回の資金調達について使途や狙いについてメッセージをもらっているので全文を掲載したい。

今までのシステム会社とかコンサル会社っていうものが取れなかったリスクを取りたいと思っています。例えばDXってよく言われるんですが、それはデジタル知識をコンサルすることとか、デジタルなシステムを作ることではないと思ってるんですよね。

会社としての業務フローとかビジネスモデルとかワークフローをデジタル技術を前提に作ることだと思っていて、なので一緒にエグゼキューションしないと理想的なDXにならない気がしているんです。もちろんシステムを作る、コンサルをするっていうのは重要なステップなんですが最終的にビジネスとして、どうデジタルが活用されているのかみたいなところを頑張って作っていくことが必要なのかなと思っています。

それで、その一つの形がLayerXと三井物産さん、SMBC日興証券さん、三井住友信託銀行さんとの合弁会社で、実はLayerXとして億単位の資金を投じて資金リスクを取っているんです。単にシステムを作っていくっていうところだけでもビジネスとして回ってるんですけど、その先のビジネスをエクゼキューションするには、僕らも資金リスクを取らないといけない。

身銭を切って、自分たちのインセンティブを一致させないと本当の改善は生まれないと思っています。そのインセンティブを一致させるためのリスクの取り方として、30億円の資金を使っていこうと、そういう考え方でいます。

そう考えると1社作るのに数億円必要で、10個のソリューションってことになると、数十億円必要。そういう使い方をしていくイメージかなと。

また、LayerXでやりたいことの一つが、ソフトウェア業界の常識をトラディショナルな産業に輸出すること、これもある種のDXだと思っています。横の業界で見たら当たり前のことが、すごいイノベーションになるっていうことは世の中ですごくいっぱいあると思うんですよね。

例えばアメリカのシリコンバレーのリーンスタートアップみたいなやり方って、トヨタのカイゼン方式、かんばん方式ををスタートアップ流にしたものです。トヨタ式マネージメントを研究していた人が、ある種理論的にスタートアップの改善はこうやるべきだ、効率のよいリソース配分はこうやるべきだっていうのを提唱して、皆それに従ってやっている。

例えばデジタルなワークフローを作るという時、僕のキャリアから言うと元々メディア、ニュースアプリをやっていたと、これは違う見方をするとメディアのDXをやっていたと言えます。

僕は逆にメディアに関しては素人でした。

当然業務知識は学んでいったんですけど。その上でソフトウェア的な技術、例えばニュースの推薦はこうやればできる、スパム記事の判定は人手ではこうやっているが、ソフトウェアでやるとこうだよねとか、ニュースのKPIもこうやれば人間が勘で評価しているものをデジタルに評価できるようになるよねとか。

そういうシステムを整えていくことによって今まであり得なかった世界、アナログな世界では絶対あり得なかったようなものを作ったわけです。これは見方を変えるとメディアのDXだなと思っていまして、同じようにソフトウェアの常識を金融業界や物流業界に持ち込むとなった時に、全然違った見方ができるんじゃないかと思っているんです。

なので、すごい業務知識のあるコンサル出身者ですという人を採用したいというよりは、ソフトウェア業界で働いていたけど、こうした世界って面白いなと思ってもらえる人、今まではメディアとかコマースとかゲームとかを作ってたけど、業務のワークフローをデジタル化するとか、銀行の裏側のシステムとか、物流の裏側のシステム、人がカバーしている仕組みも僕らはシステムと呼んでいますが、そう言ったシステムをデジタルに変えて改善できるようにしていく、効率を上げていくって面白いジャンルだと思うような人に参加して欲しいと思ってます。

とはいえ業務知識は必要なので、勉強するのが楽しいという性質がある人と一緒に仕事がしたい。みなさんがイメージするITコンサルやSIerではなくて、普通のスタートアップのソフトウェアエンジニアがそういったところの改善活動に関わっているという、民族大移動を起こしていきたいと思っています。

本誌では、後ほどの正式発表を待って福島氏の手記を公開する。LayerXがはじめる、旅の物語だ。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


スタートアップのオフィス解約、改めて問われるその価値

SHARE:

ニュースサマリ:新型コロナウィルスによる様々な混乱で、スタートアップ経営者の頭を悩ませるのが固定費の問題だ。特にWork From Homeへの移行が進む中、固定のオフィスはその存在意義を問われることとなった。飲食店など物理的に店舗が必要なケースと異なり、テクノロジー系のスタートアップの多くは、オフィスに倉庫や装置的な役割を持たせることは少ない。厄介なのは個人情報の扱いでISMSなどを導入し、固定…

pexels-photo-1181355
Photo by Christina Morillo on Pexels.com

ニュースサマリ:新型コロナウィルスによる様々な混乱で、スタートアップ経営者の頭を悩ませるのが固定費の問題だ。特にWork From Homeへの移行が進む中、固定のオフィスはその存在意義を問われることとなった。飲食店など物理的に店舗が必要なケースと異なり、テクノロジー系のスタートアップの多くは、オフィスに倉庫や装置的な役割を持たせることは少ない。厄介なのは個人情報の扱いでISMSなどを導入し、固定場所での作業を義務付けた場合ぐらいだろう。

国土交通省も17日に、家賃の支払いが厳しくなったテナントに対する支援策を公表している。家賃支払い猶予や免除に応じたビル所有者に対し税金・社会保険料の納付を1年間猶予をするものだが、問題の長期化が囁かれる中、テナント・ビルオーナー双方がどこまで持ちこたえらるかは不透明なままだ。

話題のポイント:筆者の周辺でもオフィスを解約しました、という声がちらほら聞こえてきたので、ソーシャル上でどれぐらいの方が考えているのか問いかけたところ、数時間で5、6社の方から情報が集まりました。その後も情報いただきましたが、多くは長期化を見据えての資金確保が目的で、トラブルについても働き方(リモートへの移行)というよりは、増床や移転したばかりで契約に問題を抱えてしまったケースがあるようです。

  • 移転プロジェクトを進めている最中に緊急事態宣言が発令され、解約しようにもできない状態に。感染症拡大防止のため工事も思うように進まず、板挟みの状態でコストだけが重くのしかかる(数百名規模)
  • 縮小移転も含めて考えているが、増床したばかりで双方デメリットしかないので、ビル所有者に期間中の減免を相談している。しかし売上が明らかに下がるなどのエビデンスがないと応じられないという回答(十数名規模)

ビル所有者も事業者ですからここで安易に引くわけにはいかない、という声も届いています。一方、この機会をさらにポジティブに捉えてチャレンジしているケースもありました。

オフィスの価値をどう考えるか

d36528-6-441250-1
LayerX、日本橋エリアに本社オフィスを移転(2019年11月)

ブロックチェーン関連事業を展開するLayerXもオフィス移転を決めた一社です。創業者の福島良典さんはGunosyの共同創業者でもあり、数百名規模のチームや大型オフィスも経験した人物です。現在のオフィスは日本橋にあるのですが、以前、オフィスについてはこのような考え方を披露していました。

<参考記事>

特に近年、スタートアップの間で激化しているのが採用ですが、ここに重要な要素となるのがコーポレートカルチャーの考え方です。スキルマッチしたとしてもカルチャーが合わなければ離職は当然で、オフィスは経営陣の考え方が色濃く表現されることになるので非常に大切になります。

そこで福島さんにこのコロナ禍をどう見ているか聞いてみたのですが、まず、状況が不確実で緊急事態宣言の状況が数年続くようなことはないにしても、半自粛の期間が1年半から3年ほど続くのではと、かなり厳しめに予想しているということでした。こういう状況下で筋肉質にならなくてよい、という合理性は皆無です。また、やはり今回の意思決定もカルチャーに基づいたところが大きいようです。

「当社はキャッシュフロー、財務体質も万全です。一方、強い会社・成功する会社は、こういった未曾有の状況に対して必ず素早く体質改善を行う会社、アンラーニングして新しい標準を学ぶ会社だと考えています。10年後にメインストリームとして残っている会社は、迅速に意思決定し、実行する会社だよね、そういう文化を強めていこうという中でオフィス解約を決断しました」(福島さん)。

具体的なロジックとして先程の見通しから「直近1年半ほどはフルサイズのオフィスは必要ないという嵐への対策」と、「新しいスタンダードに対応するために一旦フラットな状態にしよう」という意思決定があったそうです。ところでこの、新しいスタンダードへの対応というのが大変福島さんらしい、LayerXのチームらしい考え方だなと思うんですね。福島さんはこの点についてこう続けてくれてます。

「単純なコスト削減だけの目的ではなく「ニュースタンダードでの働き方」が主流になると考えたからです。その時オフィスの位置づけは、全員が出社して全員で働く場所というよりは、何気ない雑談からの「気づきを得るため」「文化を強めるためにあえて顔を合わせる時間を作る」ための場所になると考えました。

今あるオフィスの形は変わり、その前提に合わせた、サイズ・設備に一旦ゼロフラットで考え直すために解約しました。また、今回のような状況を想定したわけでは有りませんが、移転の際、どういった事があるか本当にわからないのがベンチャーなので、移転・解約しやすいようにセットアップオフィスで流動的に動けるようにしようと決めていたことも今回の素早い意思決定につながっています」。

リモート前提のチームワーク「Work From Anywhere」

もう一社、今回の件でいち早く意思決定していたのが副業採用プラットフォーム「Offers(オファーズ)」を運営するoverflowです。創業者の鈴木裕斗さんも福島さん同様、オフィスの機能性とカルチャーを因数分解して考えており、現在の状況に照らし合わせて迅速に動いていました。

<参考記事>

次のグラフは鈴木さんから提供を受けたもので、Offersのユーザー約100名のアンケート結果です。右上のリモート前提の働き方について多くの方が肯定的に捉えていることがわかります。もちろん、副業などでこういった新しい働き方に慣れている方のバイアスがあるのは理解した上で、それでも高い割合です。

0syO0t3N (1).png_large

先程のブログの中で鈴木さんはこれからのオフィスについてこのように指摘しています。

機能べースで考えると、これからは定住する場所ではなく「集まりたいときに集まれる場所」のほうが必要になりそうな気がします。月イチの全社会や曜日を決めた定例など

これはオフィスがあることを前提とした「リモートワーク」ではなく、仕事に必要な機能に応じて場所を設定し、どこでも働ける環境を創る「Work From Anywhere」の考え方です。特に個人にフォーカスした技術を求められる仕事(デザイナーやプログラマーなど)の場合、当然ですが、接客業のような場所の必要性はありません。経営者・発注者に要求されるのはそこのパフォーマンスの最大化です。集まったほうがよければ場所が必要ですし、離れた方がよければそこに必要な費用を支給すればOKとなります。

現在は緊急湯避難的に「自宅勤務」という形を要請されていますが、この状況を通じて気がついた経営者・技術者たちからパラダイムシフトは発生するのではないでしょうか。

所有オフィスはどうなる

Screenshot 2020-04-23 at 15.13.04
スペースマーケットで特集されているテレワークスペース

では、現在のオフィスはどうなるのか。もちろん大局は全く不透明ですが、この非常時に動きを見せているAirbnbにヒントがありました。長期滞在とリモートワーク利用の拡大です。

<参考記事>

この動きを日本でキャッチアップしているのがスペースマーケットです。同社代表の重松大輔さんにお話聞いたところ、確かにパーティー等のイベント利用はかなり厳しい反面、こういったビジネス利用については問い合わせが急増しているそうです。在宅で落ち着いて仕事に集中できないというケースもあれば、セキュリティの関係で作業が難しいという話もあります。

一方、スペースマーケットでは今回の件に関わらず、ビジネス利用については強化する考え方があったそうです。

いわゆる「新しい働き方」に対応したオフィス分散化の動きを睨んだもので、スペースマーケットに登録している場所でワークスペースとして利活用できるケースを増やそうというものです。都内オフィスの家賃高騰は随分と言われてきた課題でしたので、理にかなった予想でしたが、感染症拡大という不可抗力でこれが一気に進んだ形になっています。

現在、スペースマーケットでは急ピッチでホストに連絡を取り、ワークスペースとして500箇所以上を用意されているということでした。現在、場所が空いてしまったことでホスト側の登録も大きく伸ばしているということから、この動きは続くのではないでしょうか。

新しいスタンダードでオフィスをどう想像する

非常事態を受けて動き出す、スタートアップたちのオフィスの考え方をまとめてみました。ここで浮き彫りになるのが、新しいスタンダードを前に各社、経営陣が考える場所や働き方についての視点の重要性です。ハンコの無駄が指摘されていますが、商習慣というのは相手あっての話なので、ネットワーク効果が効いた状態では変えることが難しいわけです。しかし、今回の状況はそれをゼロリセットしようとしました。

もちろん現状維持という方もいるでしょうが、ここまで大きく前提が変わると、何らかの改善点が出てくる可能性の方が高くなります。今回、考え方を共有してくれた経営者の視点が何かのヒントになるかもしれません。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録


LayerXが三井物産ら3社と新会社設立、ブロックチェーン活用の資産管理事業を共創へ

SHARE:

ブロックチェーン関連事業を展開するLayerXは3月19日、三井物産、SMBC日興証券、三井住友信託銀行と合同で新会社を設立することを発表した。ブロックチェーン技術を活用した次世代アセットマネジメント事業分野での協業を開始する。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けします! Sign Up 今回の協業では、ブロック…

Screen Shot 2020-03-25 at 9.03.13 PM

ブロックチェーン関連事業を展開するLayerXは3月19日、三井物産、SMBC日興証券、三井住友信託銀行と合同で新会社を設立することを発表した。ブロックチェーン技術を活用した次世代アセットマネジメント事業分野での協業を開始する。

今回の協業では、ブロックチェーン技術を活用した効率的な資金調達も視野に入れながら、より多くの優良な実物資産の証券化商品を推進する。具体的には(1)取引、管理、執行の各時間コストを削減(2)運用会社の透明性向上(3)ファンド設計の規格化、小口化、適切な流動性の付与(4)従来ではコスト面等で割に合わなかった投資対象の証券化」等を実現し、より投資家の利益に資する形で届けることを目指す。

三井物産グループの実物資産のソーシング力及び運用力と、LayerXのブロックチェーンを含む総合的な技術力、SMBC日興証券及び三井住友信託銀行の金融商品取引、販売、資産管理のノウハウを掛け合わせることで、次世代のアセットマネジメント事業を共創する。

via PR TIMES

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録