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税制からオープンイノベーションを促進ーー経済産業政策局 金指氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は経済産業省産業創造課長の金指壽(かなざしひさし)氏に登場いただきます。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けします! Sign Up 金指壽…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は経済産業省産業創造課長の金指壽(かなざしひさし)氏に登場いただきます。

金指壽氏は経済産業省で産業創造課長としてオープンイノベーション促進税制の執行を現場で推進された人物です。2019年からこの任務に就き、それ以前は3年間ロサンゼルスに駐在し、日本企業のアメリカ市場展開を支援してきました。米国で体験したイノベーションのダイナミズムを取り入れようと制度設計などに携わっておられます。

本稿では同氏が中心になって推進されたオープンイノベーション促進税制を中心にコロナ禍での状況、日米エコシステムの相違点などについてコメントをいただきました。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部、回答は金指氏、文中敬称略)

オープンイノベーションへの取り組み

オープンイノベーション促進税制は国内の事業会社またはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)がスタートアップとの協業を目的に一定額以上の新規発行株式を取得する場合、その取得金額の25%が所得控除される制度です。2020年4月1日から2年間が対象期間で、オープンイノベーションを目的に5年以上の株式保有、1億円以上の出資などが条件になっています。

この制度を推進した金指さんはどのような意図で制度設計に臨んだのでしょうか。

どのような経緯から今回のオープンイノベーション促進税制は考案されたのでしょうか

金指:(海外での経験から)ダイナミズムを推し進めるのがイノベーションの基本だと肝に銘じて、そこから何ができるかということを問題意識として持っていました。それで約2年前に今のポストに着任してから重点的に取り組んできたのがオープンイノベーションへの取り組みでした。イノベーションを狭義に捉えると、まず、ベンチャー支援が頭をよぎります。ベンチャー界隈だけ見てみても、最近は本当にベンチャーに非常に優秀な人たちが集まってきていて、この10年で日本のベンチャーエコシステムも大きく様変わりしていると実感しています。

大企業からの転職・創業組も随分と増えました

金指:仰る通りです。他方、ベンチャーのみに注目をしていたのでは、やはりクルマの片輪のみ手当てしていることになります。その対をなす大手企業にも有用な人材や資金、技術があるわけです。大企業では、どうしても過去の成功体験の裏返しという意味合いも含め、そうしたヒト、モノ、カネを組織の中に抱え込でしまう傾向があります。それを外向きに開放していただく一つの方法としてベンチャーとの連携を促す、という視点が重要です。

そうすることで大企業とベンチャー企業のオープンイノベーションを促進することで、ベンチャーの競争力強化にも繋がりますし、大企業のヒト・モノ・カネを外向きに出すことで、より大規模なイノベーションにつながり、それは大企業側の競争力の強化にもつながります。こうしたオープンイノベーションを促進するツールとして何があるかを考えた時、例えば税制を使ってそこにインセンティブを付与できる設計があれば、オープンイノベーションを活性化させることができるのではないか。これがオープンイノベーション税制の考案のきっかけです。

具体的な反響は

金指:去年の4月から制度自体は始まっているので(取材した2月時点の実績として)オープンイノベーションの実績が確認できて制度の利用が見込まれているのが約50件、投資総額にして160億円程度の案件に対して、この税制を使っていただく予定がすでに立っています。年度末に向けて相談件数も増えていますし、多くの企業に利用していただける制度になりつつあるのかな、と考えています。

課題感としてどのようなものを感じましたか

金指:昨年はコロナ禍という課題に向き合った1年でもありました。前半戦は、「持続化」がキーワードになっていました。コロナ禍は、本当に先行きを見通すことが難しい問題で、厳しいビジネス環境の変化に対して如何に事業の持続を実現するか、という点に注力し、経済対策を中心に支援策を講じてきました。そこから少しずつフェーズが変わってきて、秋口以降は持続化から「ポストコロナ、ウィズコロナ」というものを意識してどのようなサポートができるのかを考えた上で、政策の軸足を移していった次第です。

確かにコロナ禍で大きな産業構造の変革の入り口に立たされた感はありました。行政による改革支援で何か特徴的な変化は

金指:政権の柱、成長戦略の柱として「デジタル」「グリーン」があります。ちょうど先般、産業競争力強化法の改正法案を国会へ提出させて頂きましたが、グリーン社会への転換を実現するために、これも税制措置ですが、脱炭素の実現を加速するための設備投資に、過去最大規模の税制インセンティブを措置しています。こうした支援策を活用し、事業変革をサポートできればと考えています。

デジタルは、ビジネス変革を興すための共通のツールです。気候変動もまさに3年前に赴任していたカリフォルニアで実感しましたけれども、決して経営に対する制約要因ではないと考えています。逆にイノベーションのチャンスだと捉えていて、(気候変動などの社会的要請に)対応するためには企業の積極的な投資をどうやって引き出していくか、またそこにどのようなインセンティブをつけていくのか、を大きな課題として認識しています。

コロナ禍における持続化と成長

言わずもがなではありますが、コロナ禍は、経済活動に大きな影響を与えました。人の接触を避けるという制約条件は、社会生活、産業構造におけるデジタル化を大きく推進させるきっかけとなったとして後世に語り継がれるターニングポイントとなったはずです。金指さんに引き続きスタートアップ・エコシステム、オープンイノベーションにおける影響をお聞きしました。

コロナ禍についてもう少し詳しく、エコシステムに対してどのような影響があったとお考えでしょうか

金指:製造業は「V字」的に持ち直しているのですが、飲食や旅館、輸送系は大変厳しい。上に上がっているものと下に下がっているものがバラバラで「K字」とも言われる状況です。こういう中にあるので、どうしても赤字に陥った企業も出て来ざるを得ません。

飲食ひとつとっても店舗の位置をオフィス近くでランチ需要でやってきたところから、その出店場所を見直して持ち帰りを念頭に住宅街の近くに移すとか、メニュー自体を見直すとか。こういうプロセスの見直しもイノベーションの一つだと思っています。このような企業努力を後押しし、赤字を黒字に如何に早く戻していけるか、という点についても、先ほど挙げた産業競争力強化法の中で支援策を講じています。

投資環境は思ったよりも大きく下げることはなかったようです

金指:正直、コロナが発生した際には、今後の投資環境はどうなるかと不安も感じていました。リーマンショックでは相当にベンチャー投資が落ち込みましたし、回復基調に戻るまで5、6年ほどかかりました。折角ここまでイノベーションエコシステムが回り始めたのに、こうした状況になってしまうと厳しい。実際のところは、これはVCやCVCのみなさんが本当に頑張っていただいていると感謝しているのですが、思った程はベンチャー投資が落ち込まず、ほぼ2019年の水準で保たれました。

一方「K字」にある通り、厳しい企業にはとことん厳しい環境になりました

金指:仰る通りです。こういう状況下でビジネスプランが思ったよりも下振れしている企業については、少し長めでエクイティに近い形の融資である(新型コロナ対策)資本性劣後ローンといった措置も講じています。さらに今後、ベンチャーの再生局面のようなものが出てくれば、中小企業の再生ノウハウが蓄積されている中小企業基盤整備機構という独立行政法人にベンチャー再生機能を持ってもらうことも考えています。

コロナ禍であっても前向きに勝負ができるベンチャー企業もいらっしゃいます。特に最近は、ディープテックという言葉を耳にするようになってきたと思います。この領域でも人材の質が本当に上がってきていて、資本政策もよく練られています。なんでもかんでも調達はとりあえずエクイティ、というのではなく、ディープテックベンチャーの量産フェーズなどはデットで調達した方が良いといった考え方が支配的になっています。シリコンバレーも同様です。金融機関の方も、新規の融資先開拓という点でベンチャーへの融資に前向きな温度感が出てきています。これを国の方で一定のリスクを引き受ける形で繋いでいく支援策(債務保証制度)も今後創設予定です。

また、日本ではファンドによる海外投資が全投資額の50%までしか行えないという規制があります。最近は、国の方もそうではなくて、むしろ海外とのオープンイノベーションも支援していくと考えています。オープンイノベーション促進税制も、海外ベンチャーへの投資も支援対象としたという点で非常に画期的なものでした。こうした流れを受ける形で、海外とのオープンイノベーションが見込めるVCについては、海外投資の50%規制を緩和することも、産業競争力強化法の改正法案には入れ込んでおり、今の政策ニーズにあったものにしています。

非上場株式の流動化と新しいIPOプロセス

インタビューも終盤に差し掛かり、金指さんに国内エコシステムを日米で比較した際の違いや弱点についても尋ねました。特に米中・インドで未上場ながら評価額を大きく伸ばす「ユニコーン」の存在は、かねてより日本市場との差異として指摘されています。マザーズがその受け皿となる一方、早期の株式公開は大胆な成長投資・研究開発投資を抑制萎縮させる危険性もはらみます。

日本のエコシステムを金指さんの視点で俯瞰して、これからの課題点をどう考えますか

金指:今後、ベンチャーと事業会社がどのようにしてイノベーションを伸ばしていくのかという観点で個人的に着目しているのが非上場株式の流通拡大という視点です。ベンチャー支援の観点からは、日本には、上場しやすい優位性を持った「マザーズ」という上場市場があります。海外ベンチャー含めて魅力を感じていますし、売買も活発なので評価されてよいと思っているのですが、一方で、より大きな成長、ユニコーン創出に繋げていくという観点では、時に大きくない規模での上場がマイナスに働く場合もあり得ます。

早期上場はマネーゲーム的な「上場ゴール」なんて言葉も生みました

金指:海外では未上場の状態で必要な資金を大きく調達し、成長に向けての準備期間を十分長く取ることでユニコーン化していくプロセスが確立しています。国内でもそうしたケースが少しずつ出初めていますが、日本では未上場株式の取引はまだまだ未成熟です。早期の上場を目指すだけでなく、別のプロセス、未上場の期間を長くとって、より大きな成長に挑戦していく、こうした取組を活性化していくためには、未上場株式の流通拡大が不可欠だと思っています。

未上場株が正しく流動化すればスタートアップ投資の回収サイクルも短くなりますし、エンジェルからVC、その後の事業会社などのプレーヤーにバトンを渡していくという手法も取りやすくなります

金指:狭義のベンチャーということに留まらず、事業会社ひとつとってみても上場というものの捉え方が日本とアメリカでは随分と違います。上場は信用力や資金調達力を上げるということもポジティブに働きますが、ケースバイケースで非上場化というものがもっと選択肢として認識されても良いのではないか、と考えています。

日米の株取引は正三角形と逆三角形の違いとよく言われます。アメリカは正三角形で上場取引は少なく、未上場の取引が圧倒的に多い。一方、日本は逆三角形で、未上場の取引が圧倒的に少ない。この未上場の部分を広げることで、例えば事業会社が非上場化して長期的な視点で研究開発投資を厚くしていくみたいな話も可能になってきます。

株式公開の選択肢についても幅が広がってます

金指:そうです。アメリカで新しい上場の仕組みとして注目されているのがダイレクトリスティングとSPACです。ダイレクトリスティングは、基本的には新規の資金調達を行わずにそのまま市場に株式を公開する方法でロックアップがかからずに発行済株式の取引をすぐに行うことが可能です。一方、SPACは、特別目的会社を先に上場させた上で投資家から資金を調達し、子会社として企業を買収し、上場させていくプロセスです。

両方ともにキーワードは「市場原理」で、株価の設定をできるだけ市場に委ねるという考え方が根底にあります。これが、証券会社の引き受けを中心に行われてきたこれまでの伝統的なIPOと異なる点です。ダイレクトリスティングやSPACといった新規の公開プロセスと伝統的な公開プロセス、これもある意味競争かもしれません。

ただし、SPACやダイレクトリスティングが公正に機能するためにも、やはり未上場株の取引の活性化が不可欠です。こうした新たなIPOプロセスの効果と手法も念頭に置きつつ、未上場株の取引を如何に活発化させていくかが次の課題になるのではないかと考えています。

ありがとうございました

若手アーティストを支援する「新時代の版画」の可能性ーーDNPとTRiCERAの共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 アートを社会に実装する共創の取り組みはこれまでにもいくつか取り上げてきました。The Chain MuseumとKDDIによる日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(A…

写真左から:TRiCERA代表取締役の井口泰氏、DNPアートコミュニケーションズ取締役の篠田秀実氏、DNPメディア・アートの相田哲生氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

アートを社会に実装する共創の取り組みはこれまでにもいくつか取り上げてきました。The Chain MuseumとKDDIによる日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(ARTS & CULTURE PROGRAM)の取り組みや、東急とヘラルボニーによる「障害のある作家のアート」が街に染み出すROADCASTプロジェクトがそれです。

そして今回ご紹介するTRiCERAと大日本印刷(以下、DNP)の共創事例は、よりアーティストにフォーカスを移したものになるかもしれません。

現在の世界のアート市場は7.5兆円、国内については3,500億円ほどと推計されています。一方、実際に作品販売において生計を立てられているアーティストはわずかであり、その理由として乏しい販売のチャネルがありました。大きな作品であれば運搬するだけでもコストがかかります。この問題を解決しようとしたのがTRiCERAで、彼らはアーティストと作品を求める消費者を繋ぐマーケットプレイスを展開しています。

今回の共創事例では、ここにDNPの印刷技術を組み合わせることで、より作品販売の可能性を広げることに成功しています。詳しい取り組みについて、DNPのみなさんとTRiCERA代表取締役の井口泰さんにお話を伺いました。

アート販売の課題と版画がもたらす可能性

国内におけるアート作品を販売する方法は画廊・ギャラリーを通じてのものが一般的で、それ以外に大手デパートや催事、インターネットサイトで直接販売する方法もあります。画商などが間に入って取り扱うケースは別として、自分で直接販売する場合にはそれなりのノウハウとコストが必要になります。海外にも販路を広げようとすると難易度はさらに上がります。

TRiCERAが提供するのはアーティストのC2Cマーケットプレイスで、参加申請に通ったアート作品の情報をアップロードし、売買が成立すれば梱包をするだけで、あとはTRiCERA側が集荷・搬送、販売手続きを担ってくれる仕組みになっています。海外販売時の税関対応も彼らがやってくれます。

しかしここでもうひとつ大きな課題が立ちはだかります。価格です。井口さんが「多くの時間をかけて制作を行うアーティストの作品価格は高価格になってしまうため、知名度がない状態では作品が良くても売れないことが多い」と指摘するように、一点ものの作品は数カ月かかって制作するものも珍しくなく、それなりの価格を必要とします。

しかし高額になればなるほど一般の人には届きにくいものになってしまいます。

そこでアイデアとして出てくるのがグッズや複製品の考え方です。特に版画にできる作品の場合は価格を抑えることができるので有効です。ただ、版画も簡単な方法ではなく、版下を作るだけで数十万円のコストが必要になるそうです。このハードルをクリアしたのがDNPの高精彩複製技術でした。

TRiCERAは市場創造のために作品単品だけでなく複製画販売の可能性を検討していました。一方のDNPでは、国内外の美術館が保有する名画のライセンスを管理するビジネスを展開しています。ただこれまではリアルな展覧会や美術館での告知と販売がメインで、オンラインマーケティングや海外も含めた販売(EC)が着手できていないという課題感がありました。

TRiCERAが手がける若手アーティストの作品についても同様です。DNP高精彩出力技術『プリモアート』では、国内外の美術館が保有する名画やマンガ・アニメ原画をアーカイブし、複製する事業をしていたものの、現代若手アーティスト作品については着手できていなかったんです。(DNP 篠田さん 相田さん モタイさん)

昨年1月にKDDI ∞ Laboの定例会で出会った両社は検討を重ね、各国から選りすぐった13名のアーティストによる限定エディション・高精彩複製作品の販売にこぎつけます。結果、昨年11月から約3カ月の期間でのトライアル販売では、国内外から予想以上に販売に繋がったというお話でした。

実際に販売された作品

現代アートでは複雑な配色、ストロークやタッチがあるため、従来の印刷では細かい部分には手が及びませんでした。今回はDNPが持つ10色インキ用のカラーマネジメント、さらに原画の撮影には1億画素を超えるカメラを用いることでそれらを再現できました。版画の魅力の一つはイメージを楽しめるという点です。だからこそ色彩の表現、アーティストの筆の痕跡を忠実に再現する必要があるのです。(TRiCERA 井口さん)

共創の取り組みはまだ始まったばかりです。版画を初めて制作したアーティストの反応も上々で、DNPサイドとしても原画だけでなく複製画の販売の可能性、アーティストや作品による販売数の違いなどマーケティングデータを収集できたことも大きかったそうです。これらの反響を手に両社は次の仕掛けに向けて取り組みを続けます。

DNPは、文化(アート)を次代へ継承するだけでなく、アートの力が経済成長の原動力にもなると考え、その理解・認知拡大や、他産業分野(観光、まちづくり、教育等)と連携した取組みを進めています。今回の取り組みでは若手アーティストの作品を「高精彩出力技術・プリモアート」で製造し「新しい版画」と位置づけて販売をしていくことで、アーティストが自立して活躍できる環境を提供しました。

若手アーティストが世界で活躍できる社会づくりにつなげることと、アート市場をより一層活性化し拡大させていきたいです。また、アートを身近な存在にしていくため、著作権の管理や二次利用の推進、各種メディアやプロモーション手法、新たなアーティストの発掘・育成などについても今後協業を検討していきます。(DNP 篠田さん 相田さん モタイさん)

デジタル技術とマーケットプレイスの組み合わせで生まれた「新時代の版画」作品はアートに取り組む人、楽しむ人にとって新しい選択肢となるのでしょうか。

編集部では引き続き共創の取り組みをお伝えしていきます。

大手「30代社長」に見る新規事業づくりの可能性ーーデロイトトーマツベンチャーサポート斎藤氏

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はデロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)の代表取締役社長、斎藤 祐馬さんに登場いただきます。2010年に同社立ち上げに参画し、2019年から現職に就任されています。 大手企業とスタートアップを「朝につなぐ」Mornin…

デロイト トーマツ ベンチャーサポート代表取締役社長、斎藤祐馬氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はデロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)の代表取締役社長、斎藤 祐馬さんに登場いただきます。2010年に同社立ち上げに参画し、2019年から現職に就任されています。

大手企業とスタートアップを「朝につなぐ」Morning Pitchを2013年から開始し、毎週木曜日の朝7時から累計で1,700社以上の企業が登壇、毎回数百人を集める人気企画となりました。2010年代のスタートアップエコシステムはまだ若く、特に大手とスタートアップという枠組みは手探りの状態でした。Morning Pitchが朝7時という早朝に始まったのも、こういった企画への参加に体制を整えている企業は少なく、本気度さえあれば、「業務外」でも参加できる集まりとしたかったからだそうです。

企画開始から約8年、350回以上のステージを経て斎藤さんが掴んだ手応えと見えてきた世界観とはどのようなものだったのでしょうか。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中敬称略)

若手企業内人材の「強み」

斎藤さんとの会話で確認できたのは大手企業の新規事業への取り組み、特に他社との協業による「オープンイノベーション」に対する考え方の変化です。新規事業は大きく分けて社内で作るか、他社を買ってくる(M&A)かのいずれかでした。ここに第三の手法として「協業」をもう少し先に進めたオープンイノベーションの誕生が2010年代のひとつの特徴です。

アクセラレーションプログラムのような短期集中型の企画や、Morning Pitchといったマッチングイベントが多数開催されたことでこの活動が広く認知されることになります。変化は携わる人々に反映されていきます。起業家や大手企業内の新規事業、ジョイントベンチャーなどに関わる人たちの数や質が上がってきたのが2014年頃からです。

やはり大手企業の人材の質は変わりましたよね

斎藤:私もNewsPicks NewSchoolで「大企業30代社長創出」という講座を実施しているのですが、特徴的な技術力を持つ方もいらっしゃるんですよ。伝統的な重工業のような企業の中のエースみたいな方たちがいらっしゃって、実際に起業されたんですが最初から高い評価が付くんですね。

起業なんて一度も考えたことなかったけど、企業の中で社長をやるということについては興味があって講座にやってきて、いざやることを考えたらこれは起業した方がいいなと考えられて起業された方もいます。それ以外にも元々海外で博士号を取っていてグローバルでも戦える研究者とか、そういう方って以前のスタートアップにはいなかったと思います。

2040年に時価総額トップ10を塗り替えられるかってひとつの大きな基準だと思うんです。米国では20年以上前から優秀な方が起業した結果としてGAFAMができたわけですから、日本でもこういったトップオブトップの方が起業し始めているので、10年後・20年後が楽しみですよね。

大手企業出身の人材の強みってどこにあると思いますか

斎藤:成功体験や経験があるのに大金を手にしているわけでもなくハングリー精神が強い、っていう状況が特徴的だと思うんです。大手企業の中で新規事業を経験したことがある人ってここに当てはまることが多く、構造的に経験があった上でハングリーでいられることが成功につながる鍵だと感じています。日本は上場しやすい環境なので創業者利益を得た結果、モチベーションを保ちづらくなることも多い。

起業の成功のポイントは事業と人と資金の三つだと思いますが、これを子会社社長で一定割合経験できるのも大きいですよね。資金面は確かに自分の持ち出しでやるわけではないので、自分で起業した場合、初めてのケースになるかもしれません。しかし、事業と人のところはとても近い。例えば一回100人の組織を作った経験があれば、スタートアップした後にも同じようなことが起こるわけです。確実に挑戦しやすくなると思います。

変化した大手企業のオープンイノベーションへの取り組み

人々の考え方が変化し、大手企業にいることがローリスクでなくなりつつある今、彼らのキャリアに新たな選択肢としての「起業」が生まれ始めています。そういった状況の中で、大手企業でのキャリアを捨ててスタートアップに挑戦する起業家たちが上場していったのはご存知の通りですが、大手企業出身で社内起業を成功させるケースも目立ち始めました。

例えばJR東日本とサインポストの合弁会社「TOUCH TO GO」の阿久津 智紀氏はJR東日本出身の30代社長ですし、三井住友フィナンシャルグループと弁護士ドットコムが出資した「SMBCクラウドサイン」代表の三嶋 英城氏も同じく30代で三井住友フィナンシャルグループ出身です。

ここで課題になるのが制度設計です。オープンイノベーション的な新規事業の作り方で必要なのは子会社の箱ではなく、起業家に匹敵する優秀な社内人材をいかにして発掘し、モチベーション高く打席に立たせ、時として適切に撤退する「ルール」が必要です。斎藤さんは自身の経験を含め、最初の一例目を作ることが大切と振り返ります。

こういった社内起業の場合、最初の制度づくりが大変そうですが何か型のようなものってありそうですか

斎藤:もちろん成功しやすい制度設計はあります。ただ、一番大事なのは最初の事例を創ることです。例えば我々もデロイトトーマツの社内ベンチャーとして一つの形を作ることができた面があり、その経験を基に社内新規事業制度を運用しているのですが、事例が明確だと公募の数も集まりやすく成功事例をインキュベーションしやすい構造になっています。

なので、最初の事例を創り切ることが何より重要だと思います。加えて、エコシステムって言葉があるじゃないですか。エコシステムの本質って『何か自分でもできるかも』って思わせることだと思うんですよ。スタートアップって俺も頑張ればなんとかなるっていう文化があると思うんです。これまで大手企業にはそのベースが薄かったけれど、今は以前より身近に存在するようになっています。

この動きを加速させるコツって何でしょうか

斎藤:ここ近年で事例がやっと出てきた感じで、2回目、3回目は早いですよね。1回目が大変なんですよ。デロイト トーマツの社内起業制度でも今、3つほど事業が立ち上がっていて事例が出てくるとどんどん優秀な人が集まる。一度でも身近な人が事業を作ると連鎖が起こるんですよね。

あと難しいのが資本政策やインセンティブの設計ですよね。100%子会社のままではどうしても一事業部門のような感じで終わってしまう。ストックオプションなどのインセンティブの設計も自由度が少ないですよね

斎藤:そうですね、本当に企業として大きくしていこうとなった時、親会社がリスクマネーを支えきれないケースが多いです。そうなると他の大手企業を巻き込んで資金を入れてもらうとか、提携するなどの動きが必要になる。外部資金が入れば、必然的にその株式の「出口」を必要とすることになりますから上場という選択肢が出てきます。

100%子会社でできるなら本体事業としてやればいいという考えもあり、最近は最初からジョイントベンチャーで始めるケースも多くなっていますよ。あと、先ほどお話した30代社長の集まりでもいろいろな企業の30代社長がやってきてノウハウの交換をしています。ストックオプションを持たせるにはどうしたらいいか、とか、そういうノウハウはこれまでにはあまりなかったんですよね。こういった具体的なノウハウをコミュニティやコンサルティング、政策立案支援など様々な方法で広げていきたいです。

もう少し大きな枠組みで、国の支援制度などもいくつか出てきていますよね。この辺りの制度設計で必要なものって何があるでしょうか

斎藤:国や行政には応援と規制の両側面がありますよね。スタートアップへの応援という視点では機運が高まってこの言葉自体がメディアにも出てくるようになりました。これはこの10年ですごい進捗だったと思います。一方で、規制についてはまだまだ物足りないですよね。スタートアップって規制が緩和されたその瞬間にどんどん生まれてくるという側面がありますが、そこがなかなか進んでいない。

これはスタートアップが輩出する政治家がもっと増えないと変わらない面もあります。フィリピンやインドネシアといった国ではユニコーン企業を作った起業家が大臣になり政治の世界へ転身するケースがありますが、国内でも実業家の方々が政治家になるようなルートがどんどんでき、社会を変えていくような流れを仕掛けていきたいと思います。

ありがとうございました

5Gで警備人材不足の解消へ、鍵は警備ロボの「視力向上」ー三井不動産とSEQSENSEが実証実験

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 KDDIと三井不動産、無人警備ロボット「SQ-2」を展開するSEQSENSE(シークセンス)の三社は2021年3月16日、事業共創の取り組みとして5G通信とロボットを活用した警備の省人化に関す…

写真左から:SEQSENSE事業部マネージャーの笹井仁氏、代表取締役社長の中村壮一郎氏、三井不動産商業施設本部 施設管理部統括の添田実氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

KDDIと三井不動産、無人警備ロボット「SQ-2」を展開するSEQSENSE(シークセンス)の三社は2021年3月16日、事業共創の取り組みとして5G通信とロボットを活用した警備の省人化に関する実証実験を完了しました。埼玉県富士見市にある商業施設「三井ショッピングパーク ららぽーと富士見」にて実施されたもので、本来人が目視で確認する商業施設内の異常を、SQ-2の自律走行警備にて細部にわたり確認できるかを検証しています。

事業共創プログラム「∞(ムゲン)の翼」のプロジェクトとして実施されたもので、KDDIは館内に5G環境構築と機器を提供し、三井不動産とSEQSENSEが中心となって商業施設における警備省人化に必要な検証データや各種フィードバックを取得しています。

今回の取り組みについて、三井不動産の添田実氏と、SEQSENSE代表取締役社長の中村壮一郎氏、事業部マネージャーの笹井仁氏にお話を聞きました。

施設における警備の課題

今回の実証実験に投入されたSEQSENSEのSQ-2は、これまでにもオフィスビルの自律走行型警備ロボットとして実績を積んできた筐体で、今年2月には東京都庁でも導入実験を実施、予め決められたルートの自律巡回や指定場所の写真撮影、ロボットに搭載されているカメラ映像のリアルタイム監視などを検証しています。全高約1,3メートル、重さは65キログラムの筐体で、大手町ビルヂングや成田空港第三ターミナルへの導入実績があります。

「警備に限らず施設の管理業務全般に言えることですが、求職者が非常に少なく、この5年くらいは人手不足が顕著になってきました。一方で商業施設事業として成り立たせるためには、管理コストの上昇も抑えていく必要があります。そういった状況の中で安全安心を提供し続ける品質維持が、非常に大きなミッションになっています」(添田さん)。

警備の仕事はさまざまありますが、基本となる内部巡回では、不審な人がいないか、防災設備に問題がないかなどを目視で確認し、問題を未然に防いでいます。さらに商業施設では、迷子の対応や交通誘導、落とし物の受付など幅広い仕事が発生します。広大な商業施設の巡回は館内を歩いて回る必要があり、時間を要する仕事です。SQ-2がこの部分を代替してくれることで、ロボットが巡回している間に落とし物台帳登録などの事務処理を済ませるといったマルチタスク処理が可能になる、というわけです。

「SQ-2は自律走行の精度が高く、館内くまなく巡回できるのを確認しました。以前の巡回時と違うことが起きていたらアラートを出せる機能もあり、ずっと目視で映像を見ている必要もありません。人間が巡回することにかなり近いことが実現できると感じています」(添田さん)。

自律移動型のセキュリティロボット「SQ-2」

実はオフィスビルと商業施設では同じ警備業務でもかなり勝手が違うそうです。新たなチャレンジとなった点をSEQSENSEサイドはこのように説明してくれました。

「オフィスビルでの実績は増えてきていますが、警備ロボットにとって大きなマーケットである商業施設へも進出を目指しているため、ららぽーとでのトライはよい機会でした。今回の走行試験で当社のロボットがこれまで事業を展開してきたオフィスビルよりもはるかに人通りが多い環境で安定した走行を実現したことは大きな自信になりました。一方で、商業施設で発生するテナントの入れ替え・レイアウト変更、オフィスビルにはない施設の広大さがロボットが自律走行に利用する3次元地図の編集作成作業に影響を与えるという、新たな課題も見えてきました」(笹井さん)。

5Gが可能にする「視力向上」の理由

ららぽーと富士見での実証実験では、このSQ-2が持つ「目」の解像度を上げる検証も行いました。SQ-2は元々4G/LTE回線を使い、遠隔への映像・画像送信を行います。巡回中に撮影した消火器などの状態をリアルタイムに防災センターから確認しています。

一方、こういった広大な館内における通信には環境の問題がつきまといます。SQ-2は元々高精細な画像を送信することができる筐体なのですが、送信する際の通信環境が悪ければそれに合わせた圧縮レンジの画像を送る仕様になっており、施設を5G化することでつねに高精細な映像の配信が可能です。

実は警備に必要な画像には思っている以上に高精細な情報が必要となります。巡回業務で目視確認しているものは、消火器に貼られた5センチくらいのラベルの情報や小さな落とし物、こぼれた飲み物など多岐にわたるためです。

「現状では、どうしても細かい部分は映像からは見づらいと言われており、5Gには一定の効果があると感じました。また通信が早くなることで、いまロボット側で処理していることをクラウド側でできるようになると、ロボット側のCPUを下げられ、価格を下げられる可能性があると考えています。一方で、高画質化によっては録画画像の保存容量が増えるなど、新たな課題も浮き彫りになりました」(笹井さん)。

今回の検証を通じて商業施設における警備の省人化、5G環境の有用性や課題が見えてきました。結果を踏まえ、3社では引き続き商業施設における警備省人化に向けた事業共創の取り組みを継続していく予定です。

「高精細な映像で遠隔から確認できるとなると、今後、より足回りが強化されたり、屋外対応したりすることで、利用シーンが増えていくことは期待したいですね。たとえば万が一地震などの災害が発生した際、人間より先に館内を巡回させるなどを検討しておきたいと考えています。天井から何か落ちてこないかなど、先にロボットで館内状態を高精細な映像で確認できれば、危険を避けることができます。また、外部の庭の夜間不審者対応も危険が伴う業務であるため、通常2~3人で行かざるを得ない状況です。そこをまずロボットが行くようなことができるといいと考えています」(添田さん)。

「SEQSENSEは会社の第一歩としてまずは警備の分野に取り組んできました。今後もより安全により動くものを作っていきたいと思っています。さらに、施設管理においては警備以外も人手不足が深刻です。さまざまな分野のサービスロボットを、大企業への技術提供による協業も含め、取り組んでいきたいと考えています」(中村さん)。

 

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出すROADCASTプロジェクト、ヘラルボニーと東急が共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本…

写真左から:ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さん、東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本来の権利や生活に関わる取り組み」を企業は無視することができなくなりつつあります。

一方、こういった取り組みにはアイデアが必要です。今回ご紹介するヘラルボニーと東急の共創事例は、人と社会、企業それぞれが持っている課題を和らげつつ、持続可能な取り組みとしてまとめることに成功しています。街のビルボードをアートに変える取り組みについて、ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さんと東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さんにその裏側をお聞きしました。

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出す

街の中に溢れる屋外広告のスペースを出稿したい広告主とマッチングするプラットフォーム、それが東急の展開する「ROADCAST」です。この広告スペースに出稿がない空き期間をアートで華やかに演出しようというのが、今回の「Wall Art MUSEUM STORE」プロジェクトになります。

一方、タッグを組んだヘラルボニーは知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを元に事業を展開するスタートアップです。今回の共創プロジェクトでは、東急の管理する壁面広告の「空き枠」にヘラルボニーが管理するアートを配置しよう、というものでした。

もう少し具体的に説明すると、通常、壁面広告には下地となる枠があります。ここは空いている期間に何も表示されないか、空き枠募集の電話番号などが記載されることが多くなります。当然ながら見た目は悪く、空いている期間が長いと人気がないような印象を持たれてしまいます。

「Wall Art MUSEUM STORE」作品

東急や壁面広告枠を提供する不動産事業者にとっては、広告出稿がない期間も壁面を華やかに演出できると同時に、福祉への取り組みに協力することもできます。また、ヘラルボニー側も預かる作家の作品を一人でも多くの人々に届けることができるようになる、というわけです。

アイデアなのはここで作家の作品を買えるような導線を作ったことです。

QRコードを掲載してそこからオンラインストアで、アート作品をプリントしたグッズなどを購入できる仕組みなのですが、松田さんのお話では直接ここからやってくると同時に、街中でヘラルボニーの作品を知った人たちが自然とサイトに集まるようになったとされていました。片山さんはプロジェクトの狙いをこう語ります。

「売上の一部はアーティストと福祉施設に還元され、福祉分野の経済的活性化につなげます。渋谷、原宿、表参道、虎ノ門、新宿、銀座など約40箇所から開始し、今後もウォールアートを増やしていく計画です。開始から約3か月で300件ほどのQRコード読込があり、そのうち約30%が商品の購入ページに遷移しています。

ROADCASTは、屋外広告という切り口で街のちょっとした空きスペースを活用して街の価値向上につなげていく事業です。景観を害するものとして街の嫌われ者だったり、効果測定が難しくただただコストのかかる広告媒体だった屋外広告の可能性を追求し、アート展示など街の賑わい形成につながるメディアとしての整備やDX推進による効果測定の仕組み化など、街にとっても広告主にとってもWin-Winな存在を目指したいです」(片山さん)。

東急アクセラレートプログラムでの出会い

壁面アートからグッズを購入できる(ヘラルボニーのECサイト)

両社の共創は、東急が実施するアクセラレートプログラムにヘラルボニーが参加したことで始まります。

「元々ROADCASTは、落書きに悩む壁を中心に街中の数十~百箇所で広告を同時展開し、街の賑わい形成や落書き抑止という街への貢献を意識して展開をしていました。一方で殺風景な壁に戻ってしまう広告未稼働時がもったいないと感じており、持続可能な形で街や社会に貢献できる活用方法を模索していたんです。そんな折、ヘラルボニーの全日本仮囲いアートミュージアムという取り組みをお伺いし、それを発展させる形で、街をまるごとミュージアムショップにできないかというアイデアをヘラルボニーさんと話し合いました。期間限定のイベント的にアートを展示して終わりではなく、持続性のある展開としてじわじわと街中にウォールアートを増やしつつ、ウォールアートからECへと誘導して物販収益につなげているのがポイントです」(片山さん)。

街全体をアートミュージアムにしよう、という方向性はすぐに固まるものの、屋外でヘラルボニーのアートを展示すると施工コストが大きくなってしまいます。福祉という観点ではよい取り組みも持続性がなければイベントで終わります。そこで出たアイデアが壁面設置の下地パネルそのものをアート作品に変える、というものだったのです。下地パネルの製作・施工コストもそこから生まれる物販収益から回収することにしました。

「知的障害のあるアーティストとの接点はまだまだ少ないため、街を通してアート作品を掲出することで繋がりを生み出せたことには大きな意義があったと考えています。両社にとってプラスになるような仕組みを整えるのに苦戦しましたが、QRコードから売れた分の売り上げをシェアする仕組みを構築したことで、ヘラルボニーは壁面で販売し、ROADCASTさんは未利用壁面を活用できる、両者にとって持続可能な方法ができたと思います。結果、街でアート作品を発見した、というSNS投稿が見られるようになりました。壁面から弊社について検索した人など、認知度の向上に繋がっているのではと考えています」(松田さん)。

片山さんによれば、壁面を貸している物件所有者の方からも好評をいただいているそうで、こういった形で少しずつ、SDGsなどの活動に寄与できるという点も評価されているのだとか。今後は時期ごとに企画を練ってWall Art MUSEUM STOREならではのアート展示やアートを落とし込んだプロダクトの取り扱いにも挑戦したいとお話されていました。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

伝統メディアを「デジタル化」させるキメラ、凸版印刷とタッグ

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 伝統的なメディア・パブリッシャーが抱える悩みのタネはビジネスモデルです。紙をデジタルにするだけでなく、ビジネスモデル・体制からコンテンツを作る考え方、読者との向き合い、あらゆる面で従来の手法を…

写真左から:凸版印刷の菅原健春氏、キメラ代表取締役の大東洋克氏、凸版印刷の内田多氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

伝統的なメディア・パブリッシャーが抱える悩みのタネはビジネスモデルです。紙をデジタルにするだけでなく、ビジネスモデル・体制からコンテンツを作る考え方、読者との向き合い、あらゆる面で従来の手法を見直さなければならないからです。この課題に取り組もうという共創が、凸版印刷とデジタルパブリッシャー支援を手がけるキメラの提携になります。2019年末には両社の資本を含めた業務提携の取り組みが公表されています。

そこで本稿では両社が手がけるパブリッシャーのデジタル化ソリューション「Ximera Ae」(キメラ・エーイー)を中心に、伝統的なメディアが抱える課題とその解決方法について両社のお話を伺いました。

デジタルメディアのグロース支援

キメラが提供するのは「読者ロイヤルティ」を中心に据えたデジタルメディア事業グロース支援事業で、各メディアが抱える複雑な課題を伴走のスタイルで解決しています。海外製ツールである記事コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat(チャートビート)」の日本総代理店としても、導入と分析ノウハウの支援でメディアと向き合っており、2019年1月以来、パブリッシャー19社・51媒体(2021年2月末時点)に向けてデジタルメディアの事業評価やグロース支援を手がけた実績を持ちます。

Ximera Aeサービスイメージ

また、こうやって積み上げたメディアへの読者エンゲージメント向上ノウハウを基に、メディアが制作するコンテンツの価値を訴求し、マネタイズするサブスクリプション管理プラットフォーム「Ximera Ae」を自社開発しています。同時に、共創・協業する凸版印刷とは、出版社などのメディア営業網を活用して「Ximera Ae」の販売連携をしています。

「キメラは『パブリッシャーの未来を共に創る』企業です。有益な情報を提供することで時代を動かし、⽂化を築いてきたパブリッシャーを深くリスペクトしています。既存のメディアビジネスが苦境にある中で、真摯にコンテンツに向き合う⽅々が報われる世界を作り、今⼀度インターネットの本来の価値を創造したいと考えています。2021年からは、初の自社開発プロダクトである、サブスクリプション管理プラットフォーム『Ximera Ae』を通じ、デジタルメディアのマネタイズ選択肢を広げていきたいです」。(大東さん)

伝統メディアの課題

これまでもパブリッシャーのデジタル化は「電子書籍」などでじわじわと進んできた経緯がありました。一方、ここ数年で一気に顕在化してきた課金・サブスクリプションモデルへの対応は、読者数を大きく稼ぐ必要のある広告モデルと相反する部分があります。また、考えるべきポイントも流入経路から読者ロイヤリティなど多岐に渡るため、パブリッシャーが抱える課題や悩みは更に複雑さを増します。大東さんは現状をこう分析します。

「Yahoo!ニュースやSmartNewsなどのニュースプラットフォーム、TwitterやFacebookといったソーシャルメディア、はたまたnoteなどの個人によるコンテンツ発信モデルの台頭により、『マスメディア』と呼ばれていた新聞、雑誌、テレビが、インターネットを通じたコンテンツ発信および読者とのコミュニケーションにおいて、相対的に強みが発揮できない状況になりつつあります。

一方、コンテンツの発信手法や形態の多様化により、ユーザーが視聴・閲読できるコンテンツが膨大になっている状況下では、デジタルメディアは、ページビュー数に依存した広告収益(視聴・閲読は無料)モデルのみでは、従来のアナログの事業形態時の収益を補完・置換できる規模・成長性を見込むことが難しくなっているのも事実です」。(大東さん)

凸版印刷とキメラが特に注目しているのが、大手・中堅の伝統的なメディア企業だそうです。

特にビジネスモデルに直結するテーマでもあることから信頼関係は重要で、その点で凸版印刷の持つ関係性は大手出版社などとの取り組みをする上で大きくプラスに働いているというお話でした。一方、凸版印刷の菅原さんと内田さんはこういった提案先に対し、不足するSaaSプロダクトの営業ノウハウをキメラと協力して補完したことも明かしてくれました。

顧客とのすり合わせを重ねてソリューションを提供する受注産業・営業スタイルの凸版印刷内では、キメラのSaaS型プロダクトの営業経験・ノウハウが不足しており、キメラと凸版印刷、パブリッシャーの3者連携の実現・成果創出に結びつけることができなかったんです。そこでキメラチームの協力を得ながら、凸版印刷内でのセールスファネルの勉強会やヒアリングシートの整備・更新、受け渡し基準の明確化などを積み重ね、改善しながら連携していってます。

「パブリッシャーは、サブスクリプションモデルの構築に際し、技術的な開発仕様の検討で手一杯になり、サブスクリプションの事業計画や運用体制構築まで手が回らない状況も多くなりがちです。こうした問題に対して構造的な課題抽出と解決を実現し、メディアの本分としての価値ある情報発信に集中しやすい環境づくりが可能、とお伝えするようにしていますね」。(菅原さん・内田さん)

印刷を中心に出版社などのメディア企業と長らく関係を構築してきたのが凸版印刷です。エコシステム全体を考えた際、パブリッシャーのビジネスモデル、デジタル化を推進することは業界全体の下支えになるのは間違いありません。

両社は以前、本メディアでも取材したトッパンCVCのチームのアプローチをきっかけに協業・資本提携の話が始まったそうです。事業部等で協業検討を進め、黒子のようにメディアグロースを支えるという方向性が一致したことでその後の協業が加速したというお話でした。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

店舗とサイト「間」の購買体験を探せーーアイスタイルとKDDI「@cosme TOKYO -virtual store-」での共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR …

写真左から:KDDI 藤倉皓平と下桐希、コスメネクスト(Flagship store事業部/@cosmeTOKYO)坂井亮介氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

KDDIとアイスタイルは1月8日から、XRを活用したバーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」を提供開始しています。利用者はスマートフォン向けアプリ「au XR Door」内に設置された店舗へ仮想的に来店し、化粧品ブランドの購買体験を楽しめるというものです。

このバーチャル店舗では、花王の化粧品ブランド「KANEBO」「KATE」「SOFINA iP」の商品が販売されるほか、バーチャル空間で仮想的に商品を手に取ってテスターを利用したり、8K(5G推奨)の高画質できめ細やかに表現された店舗の内観や商品の色彩によって、実際に来店したような体験が可能になっています。KDDIとアイスタイルは今回のバーチャル店舗での取り組みを通じ、先端技術を活用したビジネスモデルの共同創出も狙うとしています。

アイスタイルでは2020年1月にJR原宿駅前に体験型のフラッグシップショップ「@cosme TOKYO」をオープンさせており、600ブランド2万アイテムを展開していました。両社は感染症拡大をきっかけにEC利用が拡大するなか、この店舗でのワクワクするような体験とXR・5Gを活用した完全非接触の購買を融合させた取り組みとして、今回のバーチャル店舗を開始しています。

本稿ではKDDI・アイスタイルの両社でこの共創案件を担当したアイスタイル坂井氏、KDDI下桐氏、藤倉氏のお二人に話を伺いました(文中の太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部)。

スマホのみ「没入体験」への挑戦

バーチャル店舗「@cosme TOKYO -virtual store-」においてユーザーは「au XR Door」アプリを立ち上げてスマホをかざすと、360°画像としてバーチャル店舗を歩き回ることが可能になります。

また、商品棚の前で手に取った商品をタップすると@cosmeの公式通販「@cosme SHOPPING」へ遷移し、商品購入ができます。行きたい場所についてはフロアマップから直接移動することも可能で、花王の商品の一部については各ブランド棚や店舗内1Fに設置されたテスターバーにて、テスターを使ったような体験ができるようになっています。

KDDIは今回の協業で5G・XR技術の提供を実施し、アイスタイルは「@cosme TOKYO」で得たリモート接客などのノウハウや@cosmeとのクチコミデータベースとの連携を担う、という分担になっています。

スマホのみで没入体験を目指したバーチャル店舗(@cosmeブログより)

今回のバーチャル店舗設置の狙いについて教えてください

坂井:2020年1月にJR原宿駅前にオープンした新体験フラッグシップショップ「@cosme TOKYO」ではワクワクする空間やランキング売り場、手書きのポップ、カウンセリングなど店舗でしか体験できないお買い物の楽しさをお届けしており、600ブランド2万アイテム以上の幅広い品ぞろえとさまざまな楽しい仕掛けを用意しました。

今回の取り組みには『購買体験』をどうアップデートしていくのかというテーマがあります。これは@cosme視点ではあるのですが、「@cosme TOKYO」のような店舗によるリアル購買とeコマースによるオンライン購買があった時、この中間にあるような体験を作れないか、というのが狙いのひとつです。

なるほど「店舗とコマースの中間」の体験は新しい視点ですね

坂井:仮想空間に入るとワクワクしたようなコンテンツが溢れていて体験もできる。買いたい場合は買える。これは2次元のeコマースだけではなかなか表現しきれない部分です。一方、来店には物理的な移動や接触がハードルです。これをスマートフォンひとつで実現しようという、本当の最初の一歩がau XR Doorの取り組みなんです。

実際に使ってみると没入っぽい体験でありながらスマートフォンのみで利用できるので、手軽な反面、スペースを必要とするなど戸惑いもありました

KDDI:実は今回、「@cosme TOKYO -virtual store-」に使ったアプリ「au XR Door」はそもそもVRヘッドセットを利用してXRサービスを企画・開発しているチームが新たに提案したものなんです。

VRヘッドセットは特に女性が着用する際、髪型が崩れるなどの運用面の課題がありました。また、機材も必要になるので、一人で体験するにはややハードルが高かったんです。そこで没入体験でありながらスマートフォンだけでそれを実現できないか、そう考えた結果があの「どこでもドア」体験だったんです。実際に利用データを見てみると、仮想店舗に来店した人はポップをズームで見ていたりと実際の来店と同様のアプローチが優先される、ということが徐々に見えてきています。

一方、課題があることも認識していて、例えば歩き回るスペースがない場合にどうするのかとか、ユーザーからの定性的なフィードバックや、実際のデータから見えてくる「つまづき」を参考に今後のアップデートを議論しているところです。

まだ始まったばかりですが、この新しい購買体験のヒントは見えてきましたか?

坂井:コスメって本当に多くの種類があるので、それらを自宅にいながらにしていくつも試せる、例えば自分の顔に合った商品を見つける、といったこともできるようになるかもしれません。こういった魅力的なブランドとの出会いの方法をアップデートできるんじゃないかと考えています。

データの活用についてはいかがでしょう。来店した人の属性データなどから多様な商品のおすすめをする、といった流れは想像できそうです

坂井:データをAIで読み解いたりそれをマッチングに使うことはeコマースでも可能です。どちらかというと、それ以上にヒューマンタッチが重要で、つまり接客ですね。お客さんの肌にあったパーソナライズされた提案活動、これが化粧品には大切なんです。ここについてはもちろんテクノロジーも使いますが、オンラインカウンセリングのような人の力を組み合わせた、テックタッチ・ヒューマンタッチを融合させた空間づくりには挑戦していきます。

スマホのみで没入体験を目指したバーチャル店舗(@cosmeブログより)

少し話を変えて、コロナの影響と実際の利用ユーザーからの反応についても教えてください

KDDI:そもそもKDDIでは新型コロナウイルス感染症の影響で売上に悩んでいる化粧品メーカーや小売に対して、リアル店舗やECとは異なる新たな販路として、実店舗のVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)を再現し、在庫がなくても店舗体験をユーザーに提供できる低コストのバーチャルストアを企画していました。特にテスターを試すのが憚られる中、手に取ったかのような体験ができる機能やARのメイクアップ機能は実物がなくても商品確認ができる、という点で非常に重要と考えています。

坂井:これはコロナ感染拡大の以前からですが、小売りのDXや店舗体験の可視化・価値化はテーマにありました。やはり化粧品はリアル店舗にお越しいただいてから始まるUXが多かったんです。そうこうしている内に感染症が拡大し、店舗としての魅力である「巡ること=出会うこと」「試すこと=手にとること」「相談すること」ができなくなってしまったんですね。

なるほど

坂井:今回のケースでは、こういった本来提供できるUXの価値が下がっている状況をバーチャル体験で補う、というのが目標にありました。そこでオンライン/バーチャル上での出会いの場である店舗を立ち上げ、店舗やオンライン上から仮想的に商品を手に取ったり、テスターを使ったような体験と「公式通販」から商品の購入ができる、というところまで用意した、というのがここまでの取り組みですね。

協業のスピード感はどのような流れだったのでしょうか

坂井:とあるメーカーさんにお繋ぎいただいたのがキッカケです。目指す方向やイメージはお互いすぐにリンクしていたと思っておりまして、この仲間たちなら絶対に新しい価値が見出せると思ったことを覚えています。実施に至るまでのハードルは時間と環境ですかね。

KDDI:私たちもオンラインとオフラインを融合させた顧客体験をXR Doorを通じて実現できると感じたため、ご紹介いただいた後、KDDI側からも協業をお願いしました。

坂井:ただ、とにかく時間もなくて、9月中旬に初めてKDDIさんとお会いしてから4社を跨ぐ横断プロジェクトが生まれ、毎週のように打ち合わせを重ね、12月にはデモを出すというところまでもっていったのは素晴らしいスピード感でしたね。今回はずっとコロナ感染拡大との闘いでもあり、本当はお披露目を@cosmeTOKYO1周年のリアルイベントでさせていただきたかったですが、緊急事態宣言により延期となったのは心残りです。

反響はいかがですか

坂井:リアルな店舗とECのオムニチャネル化・OMOという発想自体はお持ちの人が多いですが、我々は店舗”体験”のオンライン化にこだわりました。また他企業がすでに展開しているブラウザ用の表面的なバーチャルサイトではまだまだ表現が難しいです。その点において、将来を見越したチャレンジであり「らしさ」があると化粧品業界の関係者から注目をいただいています。

KDDI:@cosmeブログでは「@cosme TOKYO -virtual store-」の記事が約50万閲覧を超え、XR Doorの新規ユーザー数も増えています。多くのユーザーにバーチャルストアの可能性を感じていただけているのではないかと思う一方、緊急事態宣言が発令された結果、リアル店舗と連携した取り組みがまだ実現できていないのが課題です。この件についてはアフターコロナに向けて準備しております。

ありがとうございました

エンターテインメント領域で新たな産業創出をーーテレビ東京コミュニケーションズの投資活動

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたヤマトHDのスタートアップ投資に続いてお届けするのは、テレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動です。 テレビ東京のグループはテレビ東京ホールディングスをトップに、中核となる地上波とBS放送のテレビ東京とBSテレビ東京、テレビ通販やEC…

テレビ東京コミュニケーションズ メディア事業開発本部 ビジネスデザイン部 遠藤哲也氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたヤマトHDのスタートアップ投資に続いてお届けするのは、テレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動です。

テレビ東京のグループはテレビ東京ホールディングスをトップに、中核となる地上波とBS放送のテレビ東京とBSテレビ東京、テレビ通販やEC、コンテンツなどの周辺事業を手がける連結子会社12社、そしてコミュニケーション領域として動画配信事業などを手がけるテレビ東京コミュニケーションズが集まって構成されています。

テレビ東京ホールディングスが昨年に公表した中期経営計画では、コロナ禍における厳しい広告収入を前提としており、放送収益の落ち込みを最小限に抑えつつ、アニメ・コンテンツ事業やイベント、通販といった放送外・周辺領域の事業展開を強化するとしています。

本記事ではその中にあってクロスメディアや動画配信、IP事業などを手がけるテレビ東京コミュニケーションズが窓口となって推進する、スタートアップ投資の活動についてお伺いしました。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はテレビ東京コミュニケーションズBusiness Producerの遠藤哲也さん)

事業本体からの投資活動ということですが、どのようなフォーカスで出資されていますか
遠藤:スタートアップとの事業シナジーを目的に出資をはじめました。投資領域は日本国内オンリーで、エンターテインメント領域に出資をしております。CVC形態ではなくプリンシパル投資のみです。出資した企業との事業連携により、実益をスタートアップと創出できるよう意識しております。出資後、すぐに現場に実装できるよう、密なコミュニケーションを取らせて頂き、各部署にスタートアップサービスの紹介、連携推進をしております。またメディア戦略や事業戦略のアドバイスも行っており、積極的な企業グロースのバックアップをさせて頂いております。

かなり明確な投資方針でわかりやすいですね。具体的なケーススタディはどのようなものがありますか
遠藤:出資先のZeppyとはデジタル経済番組の共同制作を実施しています。Zeppyは投資領域に特化したYouTubeコンテンツ制作を手がけていて、「投資をもっと普通のことに」をミッションに、投資の大衆化を目指し活動している企業です。株式投資専門チャンネルとしては国内最大級で、このZeppyに所属するYouTuberと連携することで、幅広い属性の個人投資家やYouTubeを日常的に視聴する一般層へのリーチを目的とした取り組みをしています。

また、同様に出資先のSEPALとは保有IPを活用したグッズ販売を実施しています。LINEと連動したECシステムで、若年層へシームレスなグッズセールスを目的とした取り組みです。彼らのECサービス「Live self order」はイベント事業者を中心に一気に活用が広がっています。

マーケットを変革するためにも、スタートアップは文字通りスタートしたら「アップ」し続けるべきだと思っています。世の中のニーズを捉え、経済の牽引役となる新たな産業を創出するべきです。私自身、スタートアップでマーケットへチャレンジしてきた経験もあり、現職でもそういった果敢にチャレンジするスタートアップを本気でバックアップしたいと思っています。

具体的な出資のポリシーや意思決定のフローはどのようになっていますか
遠藤:マイノリティ出資、リードを取ってのマジョリティ出資など、出資先企業毎に違います。出資時の重要な判断軸は、(1)経営者、(2)事業シナジー含めてのマーケットの成長性、(3)優位性です。

初面談から出資までのスケジュールとして、おおよそ3〜4カ月は頂いております。現場担当がスタートアップと面談し、その後、私に案件の報告があります。マーケットとビジネスモデルが弊社の事業拡張領域とフィットするのであれば、私の方で改めて面談のお時間を頂いております。更にビジネスゲインやキャピタルゲイン、共に見込めるようであればDD(デューデリジェンス)に進んで出資計画書を作成します。その後、役員に提案して細かい部分でのフィードバック、最終チェックを経て出資委員会での決議、出資という流れになります。

新たなアイデアや技術、ビジネスモデルに挑戦する方々と一緒に共創し、新たな産業創出にチャレンジしていきたいですね。

ありがとうございました。
ということでテレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資活動についてお届けしました。次回もお楽しみに。

激動の松竹と共創:問われる「松竹ID」の可能性 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 前半では感染症拡大で歌舞伎が受けた影響と、そこから大きく開いたデジタル化への扉について松竹取締役、船越直人さんにお話を伺いました。後半はさらに具体的なアクションについて同じく取締役兼松竹芸能会長の井上貴弘さんにお話しいただきます。 松竹には歌舞伎の他にも映画や、テレビタレントなどを擁する松竹芸能といっ…

松竹 取締役 事業開発副本部長 イノベーション推進部門担当・井上貴弘氏(松竹芸能 会長)

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

前半では感染症拡大で歌舞伎が受けた影響と、そこから大きく開いたデジタル化への扉について松竹取締役、船越直人さんにお話を伺いました。後半はさらに具体的なアクションについて同じく取締役兼松竹芸能会長の井上貴弘さんにお話しいただきます。

松竹には歌舞伎の他にも映画や、テレビタレントなどを擁する松竹芸能といったグループ企業が存在しています。特にタレントマネジメントについては2017年にUUUMと提携するなど、デジタル化を見据えた新たな人材育成にも力を入れています。また、これまでの資産として松竹を取り巻くファンの存在も重要です。昨年LINEとの提携発表では巨大なユーザーベースをID化して活用する「松竹ID」の構想にも触れられていました。具体的な松竹のデジタル化はどのように進むのでしょうか(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中敬称略) 。

配信の力学がタレントビジネスを変える

ここからは井上さんにお聞きします。エンターテインメントを考える上で、タレントの存在は言わずもがな重要ですが、ここ最近はYouTuberに代表される新たな「アマ以上のプロ」の存在が目立ってきています。改めてプロダクションとしてのポジションはどのように変化するとお考えでしょうか

井上:これからは芸能プロダクションという存在は、クリエイターたちにきちんと価値を提供していかないと存在意義が問われると思います。

私たちのグループに松竹芸能というプロダクションがあります。そこのケースで言えば、松竹芸能にとって、主戦場はやはり地上波のゴールデン番組だったのです。極端な例では、少し前の「放送局によって優劣が顕著だった時代」に、どのような番組に出演することがタレントの現在と将来にとってベストかの判断の前に、とにかく影響力のある放送局のゴールデン番組の方が、力の無い放送局の深夜番組よりも良い、みたいな感覚があったと思います。本来は、そのタレントが深夜番組で司会をやった方が将来につながるにも関わらず、とにかくゴールデン番組でひな壇に座らせた方が良いということです。

昭和から平成にかけての黄金期ですね

井上:今の芸能プロダクションの幹部の方々はこういった「テレビ中心」に育ってきた人が多いです。意識を変えようとしているけど、まだ「地上波全盛時代」の感覚が残っている。その中でも、この時代に、どうすれば自分達のタレントを発信できるかに気付いた人達が、「地上波だけじゃないんだ」という結論にたどり着き、新しいメディアに積極的に取り組みながら、地上波とのバランスを取り、素晴らしいタレント育成をされています。

他の事務所の芸人さんや、過去にゴールデンで活躍したタレント、引退したスポーツ選手などオンライン配信で活躍する「プロ」が一気に増えました

井上:YouTube等の新しいメディアで自分を発信し始めていますよね。プロダクションとしてはこういった個人の潜在的な価値を見極めて、この人の場合はYouTubeを上手く使っていこうとか、本当の意味でプロデュースする力がないとダメになってくると思います。

これまでも地上波を中心に「どうやってこの人を売り出していこうか」ということをやってきているので、YouTube等の新しいメディアにおいても、人を育てるという点においては同じです。ただ、過去の地上波の成功体験に縛られてしまうと、新しいメディアの可能性への切り替えが上手くいかない。ここの切り替えのスピードをどうやって上げるかというのが重要ですね。

問われる「松竹ID」の可能性

舞台やテレビ・映画といった媒体を通じて関わってきた顧客との接点が変わる

井上:お客さんが求めている情報を届けることをやりたいと思っています。そして、集まったデータからどういう映画や舞台を作るべきかを、逆算で導き出すこともやってみたいですね。映画と伝統芸能である歌舞伎を持っている会社は他にはありません。データ数は多くないかもしれませんが、価値のあるデータが取れると考えています。

なるほど、顧客との関わりだけでなく、作るものにも確かに影響が与えられそうですね

井上:現在、MR(複合現実:Mixed Reality)を活用した歌舞伎を作っています。今後、技術が進化してデバイスが軽量化すると、例えば地方の巡業の際、低コストで、舞台に仮想的な演出をすることが可能になると思います。また、単純に360°カメラで映像を撮るということだけではなく身体データも取って、デバイス上で舞台の興奮を伝えるようなこともできると思っています。

去年の中頃から、事業共創については積極的に取組んでいます。コロナ禍で当社の業績は大きな打撃を受けており、そのスピードがやや遅くなっていることは事実ですが、しっかりと取り組みたいと考えています。特に、オープンイノベーションに関わる若手社員を育てることは、今後のパートナーシップの戦略を考える上でも、最も重要であり、全力で取り組んでいきます。

スタートアップやベンチャーキャピタルの方々で、「松竹とはこういうことができないのか」という話があれば聞かせていただきたいと考えています。

ありがとうございました

物流・サプライチェーンを変革するーーヤマトホールディングスの「KURONEKO Innovation Fund」

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、大日本印刷のスタートアップ投資活動に続いてお届けするのは、ヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトHD)の「KURONEKO Innovation Fund(YMT-GB 投資事業有限責任組合)」です。 ヤマトHDは昨年4月にグローバル・ブレインと共同で50…

ヤマトホールディングス・オープンイノベーション推進機能の森憲司さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、大日本印刷のスタートアップ投資活動に続いてお届けするのは、ヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトHD)の「KURONEKO Innovation Fund(YMT-GB 投資事業有限責任組合)」です。

ヤマトHDは昨年4月にグローバル・ブレインと共同で50億円のファンドを立ち上げました。また同社はファンドの立ち上げに先立ち、中計などの上位概念として経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を公表しています。

この中で3つの構造改革として宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)、ECエコシステムの確立、法人向け物流事業の強化が強調されており、それにまつわるデータプラットフォームやラストマイルデリバリーなどの構築を目指すとしています。KURONEKO Innovation Fundもこの構想の一環として設立された経緯から、出資の範囲も自然とこの計画に沿っています。

物流やサプライチェーンなどをテーマに幅広い技術やビジネスモデルを持ったスタートアップに5,000万円から数億円の規模で投資を予定しています。またこの窓口を活用し、資金だけでなくヤマト運輸やグループ各社が保有する経営資源を活用する協業も視野に入れた、本格的な協業体制が始まろうとしています。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はヤマトHD オープンイノベーション推進機能の森憲司さん)

共創・出資のケーススタディと狙い

物流やサプライチェーンと一言で表現してもその範囲は相当に広くなります。ヤマトHDと言えば宅急便ですが、サプライチェーン全体で考えると資材(B2B)物流に在庫管理、個宅配送などのモビリティに関する分野、代引きに代表されるフィンテック分野、全てのデータを解析・活用するAIやマーケティング分野などかなり幅広いテーマが対象になります。

こういった可能性に対して出資や協業含め、さまざまな共創パターンに対応しようという意欲的なファンド構成になっている、というお話でした。その中で、昨年12月に注目の第一号案件が発表されました。本命のラストマイルデリバリーに関連する自動運転技術への出資です。

昨年12月に第一号案件の公表がありましたね。どういったスタートアップなのでしょうか

森:はい、昨年の12月に中国の自動配送ロボット開発企業Yours Technologies(以下、Yours)への出資を決定しました。同社は2018年の創業と若いスタートアップですが、開発するコンピュータービジョンの自動運転技術を活用し、次世代物流及び小売店向けにラストワンマイル配送のロボットソリューションを提供しています。

労働人口の減少やEC荷物の増加、感染症に対応した配送ニーズの高まりなどを背景に今後、ラストワンマイルにおける配送業務の効率化が必要となってきます。上記実現に向けて同社との技術交流を図り、日本国内における自動配送ロボットの活用に向けて検討を進めていきます。

自動運転宅配は各国で技術競争がある中、中国のスタートアップを選んだ理由は何ですか

森:まず前提として、どこかの国に特化することは無く、グローバルにおいて最も優れた技術を持つスタートアップの方にリーチし、一緒に取り組んでいきたいと思っています。
その前提において、本件は、中国で素晴らしい技術を持っているスタートアップの方と巡り会えた事案となります。

ただし、本件を通じて中国国内スタートアップから当ファンドの認知を得るとともに、同国市場での投資活動の活性化に繋げたいという狙いはありますね。

ーー少し補足しておくと、自動配送ロボットにはAmazonのScoutやStarshipTechnologies、国内はZMPや楽天が中国EC大手の京東集団と共同でテスト運用を開始するなどの動きがあり、技術的にも実用化の一歩手前まできている感があります。その中で彼らがYoursを選んだ理由は「コスト」と「実運用の実績」だったそうです。

自動運転には通常、LiDARというセンサーが必要になるのですがこれは大変高額で、盗難や破損の危険性のある自動配達への利用にはハードルがあったそうです。また、規制の関係から日本国内では課題の残る実社会での運用についても、その点が寛容な中国市場での実績がプラスに働いた、というお話でした。

質問に戻ります。

自動配送はわかりやすい出資ケースですが、ここに特化するわけではないですよね

森:そうですね、あくまで最初の公表ケースだったということで、それよりも前に一件、英国ロンドン拠点のDoddle Parcel Services Ltd(以下、Doddle)との共創が始まっています。彼らが提供する「Click & Collectシステム」を導入したもので、ヤマト運輸と契約していただいた特定のECサイトで購入した商品を、お客さまの生活導線上の店舗で受け取ることができる、というものです。全国のスーパーやドラッグストアなど600店舗から申込をいただいて昨年11月から開始しています。

ECで購入した商品を宅配ではなく提携している店舗で受け取れるということですね

森:はい、特定のECサイトで商品を購入した後に、ヤマト運輸から届くメールにて受け取り店舗が選べるようになります。お客さまが受け取り店舗を選ぶと、そこに商品が届きますので、来店時に二次元バーコードを提示していただき荷物を受け取る、という流れですね。生活導線上にある店舗で受け取れることで、お客さまの利便性を拡大するだけでなく、受け取り店舗は新規顧客の集客効果や、クーポン発行による購買促進効果が見込める、といった具合です。

彼らとの共創を考えた狙いはどこにあるのでしょうか

森:消費者の生活が多様化している中で、受け取り方法も多様化させていく必要があると考えていました。Doddleの開発するプラットフォームを利用することで従来の荷物の受け取り方法を拡大させることができると考え、EC事業者向けソリューションを開発する事業部と共同で渉外を行ったのがきっかけです。

彼らとのディスカッションの中で、Doddleが市場をよく理解してソリューションを開発していることがわかり、パートナーとして日本でのサービスを一緒に開発していきたいと思い、サービスローンチに至りました。

出資と共創の両面でケーススタディをお話しいただきましたが、意思決定のプロセス、特に出資についてはどのようなフローになっていますか

森:パートナーのグローバル・ブレイン様とソーシングから投資検討まで二人三脚で行い、スタートアップ企業様の時間軸と同じスピード感で投資実行できるような設計としています。役割的には、グローバル・ブレイン様が主にファイナンス面、弊社が協業やビジネス面を検討し共同で投資検討をする形です。さらに弊社内での議論についても、社長はじめ主要役員へクイックに情報を連携できる仕組みを構築し、早期に検討結果を出せる体制をとっています。

M&Aや本体出資も選択肢として用意した上で、CVCの役割をどのように設定されましたか

森:CVCの役割は数年先の世界を変える有望なスタートアップに投資し、物流業界のデジタルトランスフォーメーションを推進する革新的な技術・ビジネス、そして熱い想いを持った「パートナー」に、ヤマトグループの経営資源、資金、協業創出の場を提供することで共に成長を目指すことが狙いです。中長期的な役割がCVCで、スタートアップの成長のために資金のみでなくヤマトグループのリソースを提供することで、共に成長できるエコシステムを構築したいと考えています。

ヤマトグループの事業には非常に裾野が広い分野が関係してくると考えているため、幅広い分野のスタートアップの方と会話をさせていただき、共に新しい運ぶを創り出すという「運創」の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。

ありがとうございました。

ということでヤマトHDのCVC活動についてお届けしました。次回はテレビ東京コミュニケーションズの取り組みにバトンをお渡ししてお送りします。