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激動の松竹と共創:コロナ禍で見えた歌舞伎のデジタル化とチャンス Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は歌舞伎・舞台芸術のデジタル化に向けた取り組みを推進する松竹の話題です。 感染症拡大で歌舞伎・舞台芸術に大きな影響がある中、昨年9月にLINEと提携して積極的なデジタル化の方針を打ち出したのが松竹です。「松竹DX(デジタルトラ…

松竹株式会社 船越 直人 取締役 演劇興行部門担当

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は歌舞伎・舞台芸術のデジタル化に向けた取り組みを推進する松竹の話題です。

感染症拡大で歌舞伎・舞台芸術に大きな影響がある中、昨年9月にLINEと提携して積極的なデジタル化の方針を打ち出したのが松竹です。「松竹DX(デジタルトランスフォーメーション)コンソーシアム」を基盤に、興行のあり方や、歌舞伎俳優・タレントとの関係性、そしてコンテンツの未来を大きく変えようとする動きが活発化しています。

松竹の考えるエンターテインメントの近未来像はどのように変化するのでしょうか?

インタビューでは前半に歌舞伎を中心とした舞台芸術の今と未来について、松竹取締役として歌舞伎を中心に事業推進・製作を担当されている船越直人さんにお話しいただきます。後半では松竹が進めるデジタル化について、同じく取締役として同社のイノベーション推進を担当されている井上貴弘さんにお話を伺いました(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中の敬称は略させていただきます) 。

コロナで大きく動いた舞台芸術

松竹の事業共創活動についてお聞きする前に、大きな影響を受けた歌舞伎・舞台について状況を教えていただけますか

船越:松竹のみならず演劇界が受けた影響は計り知れないものがあります。野田秀樹さん等が声掛けをして、大小さまざまな興行会社、劇団、舞台製作会社など、「演劇に関わっている」という一点で二、三百ほどの会社が横に繋がった「緊急事態舞台芸術ネットワーク」という組織体も立ち上がりました。共同で何かの運動をしようというよりは、演劇現場の実態を纏めた声として、行政サイドに伝えることを目的としています。松竹はその中で、演劇の一ジャンルとして歌舞伎の現状や、劇場の運営がどうなっているのかを伝えていく役割を担っています。

どこの劇場もそうですが、すっかり客足が遠のいてしまったのが状況です。不要不急というワードが頻りに繰り返されますが、ライブエンターテイメント自体、その最たるものじゃないかと指摘されかねないムードの中で「我々の生業は不要なのだろうか?」という自問から始まりました。

素人考えで「舞台にいけないならテレビやインターネット配信で」というアイデアを思い付いてしまうのですが

船越:これまで歌舞伎は、映像として例えばテレビ中継などでお茶の間に届けられることに対して抵抗感がある俳優さんも少なくありませんでした。「生のライブを見てもらって初めてわかってもらえる、評価される。映像ではその希少価値が十分に伝わらない。」と思い込んでいる傾向は強かったかもしれません。映像として記録に残ることに賛成でない人もいましたし、ましてやインターネット配信なんて・・・夢のまた夢でした。

映像技術の進歩は必ずしも演劇にとって良いことばかりではなく、例えば4Kや8Kの時代となると、鬘と地肌の境目や、女形を務める俳優さんの髭剃り跡など、余計なものまで見えるかもしれない・・・そうなると台無しだと。

でも、結局はコロナを機に、そういう抵抗感がほぼ意味を成さなくなった。リアルのコミュニケーションを封じられる中で、演劇は本当に存在意義があるのか、日本の伝統芸術だと言われてきたが、ダイレクトな表現以外の方法を使っても評価され続けるのだろうか?と。

かなりの危機感ですね

船越:このコロナは長引くかもしれないと思い始めたのがアクセルになったと思います。去年の3月は全ての公演が中止になりましたし、折角作ったものが全く世に出ないのは本当に残念無念という俳優さんの気持ちを受けて、無料で配信という形に進みました。長らくその是非の議論が続いていた課題が、わずか数カ月で一気に前進へと転じたのです。

こういう状況であったとしても、以前の考え方を守りたいという人も一定数いらっしゃるんじゃないでしょうか
船越:ある程度いると思います。ただ、伝統的な手法を重んじる一方で、若い世代の俳優さんを中心に表現の手段の一つとして配信をうまく活用しようという流れも徐々に始まっています。リアルとデジタルのコラボレーションという意味では、中村獅童という歌舞伎俳優と、初音ミクという仮想空間上のアイドルが共演した「超歌舞伎」はその先駆けかもしれません。以前からこういうチャレンジもありましたが、コロナ禍をきっかけに一気にその模索が加速することになった感じですね。

歌舞伎のデジタル化と新たなビジネスチャンス

少し話を変えて、具体的な「歌舞伎のデジタル化」について教えてください。いろいろ手をつけるべきことがあると思うのですがどこから着手されていますか

船越:まずこれまでなかった「配信室」というものを設置して、松竹内部の体制をきちんと整えようとしています。

これまで歌舞伎はある意味「密」という空間が楽しみを生み出していました。コロナ禍が世の中を覆い、「密」ではない「疎」の空間を求められている中で、「密」で得ていたものに近い体験をいかにして届けるかが重要となると思っています。これは私見ですが、例えば舞台中継などは今までもテレビ放送やDVDという手段で提供していたわけで、インターネット・ライブ配信というチャンネルに代わっただけでは大きな変化にはならないし、魅力的な体験にはならないのではないか、というのが私の印象です。

まさに歌舞伎俳優のみなさんが懸念とされていた点ですよね

船越:例えば「超歌舞伎」は、リアルな俳優とデジタル空間のアバターが共演するという、多くの人たちがある程度予想していたことを実現したわけです。今までになかった試みですが、予想はできた。それ以外に何が衝撃的だったのかというと、生放送中に視聴者から色んなコメントが画面上にテロップ表記されるんですよね。クライマックスになると、実際の舞台で大向こう(掛け声)が掛かって拍手が鳴り止まない時のように、画面上に文字が溢れて演者が見えないほどでした。これも私見に過ぎませんが、演劇を提供する側にとって一番ショッキングだったのはむしろそっちの現象でした。俳優の顔にコメントを被せる、顔が隠れるなんてことはあってはならないことでしたし、謂わばご法度行為だったのです。

なるほど、言われれば確かに

船越:演者の顔が隠れるぐらいのコメントの洪水は視聴者の高揚感の表れであり、参加している感が体現されていて、視聴者が望んでいたのはむしろこの体験なんじゃないのかなと思いました。一方通行ではなくて、今進行している実演を共有しているという同時体験が大切なんだと思います。

私が支配人として歌舞伎座の新開場に臨んだ時、祖母、娘、孫娘の3世代で歌舞伎座に来られた方がいらっしゃったんですね。「3世代揃って歌舞伎座に行くことが夢でした」とおっしゃっていました。7、8年前ですので、車椅子に乗っておられたおばあさんは、今はもしかしたら、外出すら難しい状態かもしれない。極論ですが、もう出歩けないけど、「歌舞伎座に行くのが楽しみだった」という方にVRやARでそれに近い疑似体験を提供できれば、そういう技術進歩は4K、8Kの高精細画像よりも演劇にとっては大きな意味を持つかもしれません。

映像を配信するにしても、例えば視聴者側に視点の切り替えをする機能をお渡しすれば、劇場へ足を運んでも味わえない、配信ならではの特別な体験が可能になるかもしれません。指定席を離れ、場面によっていろんな客席に座って、違うアングルから歌舞伎を見るという、新しい需要の掘り起こしができるかもしれません。

デジタル化と一言で言っても技術は幅広いわけです。どのあたりから取り組まれるのでしょうか

船越:やはり舞台があること、アナログであることに魅力があるのは確かです。デジタルへの挑戦は大切ですが、まずは遠いものから埋めていくのが正しいと思っています。例えばチケット販売についてもデジタル化は進んでいますし、そういう利便性を上げるというところから進めるべきではないでしょうか。

弊社は昨年から「歌舞伎オンデマンド」という配信サービスをスタートさせていますが、今のところ、これは国内向けです。本来であれば、海外も含めた展開をするべきで、その需要もあると思っています。実は歌舞伎は100年近く、海外公演という歴史を紡いできた経緯があります。「KABUKI」の認知度が高いのもそういう先人たちの努力の賜物であると思っています。配信は実際の舞台へアクセスできない人へ届ける手段としては画期的ですから、海外在住のファンに届けるのは最善の使い方だなと思っています。

確かに新たなビジネスのチャンスとして海外市場への視点は面白いですね

船越:ただ、安易に歌舞伎のコンテンツをデジタル化する、という入り方をすると、本質的な価値を見失うことになりかねません。現在は直接熱量を感じてもらうことそのものがネガティブ要素になっているので、どうにもなりませんが、これでしか伝わらないものもあります。俳優をはじめとする表現者達は、その価値をまず認識し、絶対無二のものに高めること、それを体現するため技量を研ぎ澄ますことに専念しなければなりません。他で代替できない価値でなければ「不要」のカテゴリーに分類されても仕方ないのです。興行を担う人も、歌舞伎自体を作り上げる人も、何が魅力なのか、今本当に魅力的なのかを真剣に考えることが大切ですね。

(後半につづく)

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コロナ禍で進んだ共創のオンライン化ーー主要4社が語る「オープンイノベーションのリアル」座談会 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 前半では日本国内におけるオープンイノベーション、協業・共創の10年を専業プレーヤーとして現場に取り組んできたAUBA、Creww、01Booster、KDDI ∞ Laboのみなさんに振り返っていただきました。後半は2020年に世界的な社会問題となったパンデミックの影響をお聞きします。 企業と企業が結…

写真左から:eiicon company 代表/founder/中村 亜由子さん、01Booster(ゼロワンブースター)代表取締役CEO/鈴木 規文さん、Creww 代表取締役CEO/伊地知 天さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

前半では日本国内におけるオープンイノベーション、協業・共創の10年を専業プレーヤーとして現場に取り組んできたAUBA、Creww、01Booster、KDDI ∞ Laboのみなさんに振り返っていただきました。後半は2020年に世界的な社会問題となったパンデミックの影響をお聞きします。

企業と企業が結びつく際、創業者・代表者の意思疎通は何よりも大切です。コミュニケーションの基本である「対面」が奪われた時、共創の現場には何が起こったのでしょうか。オープンイノベーションの現場にもたらされたオンライン化はどのように働いたのか、各社が模索した企業共創のフレームワークや失敗談についても多いに語っていただきました。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部、回答は以下の方々です・敬称略)

座談会参加者
eiicon company代表・founder/中村亜由子さん
01Booster(ゼロワンブースター)代表取締役CEO/鈴木規文さん
Creww代表取締役CEO/伊地知天さん
KDDI ∞ Labo(KDDI)/石井亮平さん

コロナ禍によるトレンドの変化

コロナ禍による影響についてお聞きしたいです。共創・協業の現場は会ってナンボ、というリアル重視でしたが、みなさんどのような対応や検討をされていますか

中村:弊社のプラットフォームはもともと地の利に関係なく企業同士が出会えるように設計されたオンラインプラットフォームであるため、コロナ禍においては活用されるケースがかなり増えましたね。イベントの相次ぐ中止で、リアルの場で出会いを担保されていた企業がオンラインに移行された結果です。面談の実現率は4月以降、コロナウイルス発生前の約1.5倍になっていて、7割の企業様が面談自体もオンラインで実施しています。
公開できるケースとしてWEB上にも多数事例を掲載していますが、例えば森創さんはオンラインでのマッチングへシフトされた一社で、パチンコ部品開発製造のノウハウから、新市場領域進出を検討しており、オンライン面談から共同開発が決定しています。

石井:私たちはこれまで実際に合わないと共創は始まらないという「リアル最強説」を唱えてきたのですが、オンラインにシフトしたことで新しい発見もありました。特に共創は決裁権を持っているキーマンの理解が大切なのですが、リアルなイベントだとどうしても時間が合わないなどで参加ができないケースがあったんですね。それがオンラインになったことで参加の敷居が低くなり、事業部への説明や協業に繋がりやすい環境ができた、というのはあります。

オンラインの課題をどう見ていますか

中村:リアルで会えないからオンラインでやるしかない、という企業の意識の変化は私も感じていますし実際、数字にも出ています。オフラインであった偶発的な出会いをどう演出するのか、という点は大切ですね。

昨年12月にバーチャルコワーキングスペース「SHABERUBA(シャベルバ)」を開始して、アイコンが近づくとオンラインで会話できるような仕組みを提供することにしました。今月開催する「Japan Open Innovation Fes(JOIF)」でも同様の偶発的な出会いを演出できるように、参加者の方々の名札アイコンに近づいて話しかけると商談できるようにしています。オンラインであってもオフライン同様の体験ができるようなイベントが理想です。

鈴木:コロナ禍で大手企業のDX化への取り組みが待ったなしで進みましたよね。2020年度のオープンイノベーション活動の大半はオンラインで行われました。ミーティング、ピッチコンテストでも、メンタリングでも、デモデイでもほとんどがオンラインでした。各社がオンラインコミュニケーションに慣れ、オンラインでもいろいろできることを認識できたということはとてもポジティブな効果だと思います。

逆にオフラインでしかできない価値も浮き彫りにしたということかと思います。細かいことですが、スタートアップとのコミュニケーションでSlack等のオンラインツールがよく使われますが、まだ使えない大手企業は多いです。このコロナ禍においてSlack等のアプリケーションが解禁される企業が増えたということも特徴です。

Crewwはオンライン化を以前から実施されていましたよね

伊地知:そうですねコロナ禍の前からCrewwが開催するアクセラレータープログラムのほとんどがオンライン上で行われていました。事業化に向けた最後のプレゼンテーションなど要所要所では対面もありましたが、基本は日本全国のスタートアップが参加するのでオンラインコミュニケーションが多かったです。ですので、プログラム自体には大きな変化ではないという印象ですが、先にもお話したように、特に地方の中堅企業からのお問い合わせが急速に増え続けています。これは、デジタル化に対する危機感という部分も大きいのかと思います。

産業創出の仕組みとケーススタディ

KDDIはインキュベーションとファンドという形でスタートし、現在は共創プラットフォームへと仕組みを進化させています。大きな産業を創出する上で重要なポイントをどう考えていますか

石井:共創を積極的に仕掛ける「∞の翼」や大手のアセットとスタートアップを繋げる「支援プログラム」などを通じてライトな協業ぐらいは仕組み化できるようになりました。しかし、新しい産業を生み出すような大きな規模の協業はやはりキーマンをしっかり繋げることが大切です。例えばJR東日本さんとKDDIで共同発表した品川開発「空間自在プロジェクト」のケースもやはり両社の中心人物が繋がった結果、実現しています。ただ、こういった重要人物は普段あまりイベントには出てこられなかったりなので、発掘することから始めないといけません。これを仕組み化して、どこまでこういったキーマンが乗ってきてくれるのか、そこが私たちの腕の見せ所なのかなと思っています。

またこれまでの反省としてマッチングして「後よろしく」、ではダメですね。確かにリソースにも限りはありますが、KDDIもしっかり入って2社間ではなく3社共創を目指すことが必要です。今年は実はKDDI ∞ Laboとして10年目のメモリアルイヤーなんです。2020年から始まった大きな危機とチャンスに溢れた中、5Gというインフラも開始しました。企業にとっては産業同士が混じり合って構造を大きく変え、デジタル化を一気に進める最後の機会だと考えていますので、一緒に挑戦したいですね。

企業をどんどん登録してデータベース型のマッチングを目指したのがAUBAだったと思います。ソーシングやマッチングはなんとかなりそうなのですが、具体的なハンズオンはどのように考えておられますか

中村:これまでに登録していただいている企業数は1.7万社で、昨年1年で5000社以上の企業さまに新規でご登録いただいています。共創が発生したケースは750件になりました。確かに継続的にコンタクトを実施される企業さんが増えていて、雪国まいたけさんのように1年以上活用いただいて共同研究に進まれる例もありますし、医療機器のファイテンさんのケースでは3カ月という短い期間に21社とコンタクトしていくつかの共創を並行進行させる、という事例もあります。

自律自走が可能なプラットフォームとして展開をしていますが、一方でハンズオンは必要だと考えています。そのため、私たちも実はしっかりハンズオンの支援をしているというのが現状です。プラットフォームユーザーに対してはオンラインでコンサルタントがつき、Enterpriseのお客様には対面も含めしっかり張り付きの形でコンサルタントがサポートしています。

プラットフォームに蓄積されてきたデータを活用しノウハウ化しており、共創のプロである自負はありますが、大手の進める事業化や社会実装については、我々単体で支援するというより、専業のプレーヤーと共にご支援させていただく方が様々な角度からの強固な支援ができるのではないかとも考えており、今後はコンソーシアム型で役割を分担できるような仕組みがあればよいのではないかと思っています。

一方のゼロワンさんはややコンサルティング的なアプローチですよね

鈴木:オープンイノベーションは社内外の壁を越えた資源の最適再配分手続きで、画一的なモデルはありません。オープンイノベーションは、比較優位性があるものだけ自社に取り込み、ないものは社外に貢献する雰囲気を推進させました。

傾向的にスタートアップは大手の販売チャネルが魅力的なのでマーケティング領域が多くなりますが、プロダクトがある場合は品質保証や仕入れのノウハウが求められる場合もありますし、人材をスタートアップに送り込む「ベンチャー留学」のような取り組みもあります。スタートアップのグロースに必要な資源をいかに特定し、社内から調達することが柔軟にできなければなりませんが、多くの大手企業はまだ試行錯誤されています。そのために、人材の交流や移動が重要で、人材の流動が進めば、資源の再配分の効率化がさらに進むと期待しています。

こういった仕組み化の結果としてのケーススタディとして特徴的な例などありますか

伊地知:技術との掛け算などは増えてきていますね。具体的な事例としては、大手企業とスタートアップが協業してウェアラブルデバイスを開発していたり、地方のネジを製造する企業がAIスタートアップと協業をした事例もあります。実際にいくつか事例もありますが、大学や企業に眠る特許などの知財をビジネス化していくハブとしてスタートアップが注目されるというのも今後は増えていくと思います。

手法については本当に増えてきたと思います。新規事業創出やオープンイノベーション活動の手段・手法としてアクセラレーターやCVCやビジネスマッチングやスタジオなどはあると思いますが、開催側のリテラシーやニーズによって何が適切な方法かというのは変わっていきます。多くの企業がイノベーション活動に本腰を入れてきているなか、必要とされる手段手法も多様化してきているというのが現状かと思います。

鈴木:アクセラレータープログラムもどれ一つとして同じ型のものはないですし、CVC、プログラマティックM&A、スタートアップスタジオ、EIR、ベンチー留学等いろいろな活動があり、これらはオープンイノベーションのパラダイムの中の手続きに過ぎません。綺麗な解はないので、最初は「型」を学び、一部の企業が自社にあったオープンイノベーションを模索し始めました。大手企業が事業ポートフォリオを変えるとき、大規模なM&Aや協業案件でなければ合理性はありません。スタートアップへのマイナー投資を繰り返しても、目的には相当遠いでしょう。ただし、一発必中で大型のM&Aや提携を成功させるのは難易度が高いので、プログラマティックなオープンイノベーション活動を繰り返し、小さな失敗から学び、体制・文化を整えたところが、結果としてイノベーション能力を高めるのは当然なことだと思います。

伊地知:地域やテーマに絞って複数の企業が参加をして開催するイノベーションプログラムのニーズは近年高まってきたと思いますし、慣れている企業ですと、自社のリソースや人材を外に出してスタートアップスタジオ型のプログラムに参画などもされています。Crewwのスタジオプログラムでは、大手企業の社員など本業がある人たちが集まりゼロイチプロダクトを作るという事をやっていて、登録者数は既に約1,700人になっています。今後は、イノベーション人材の育成という観点で、このような課外活動への参加や、大手企業からスタートアップに人を出向させるようなニーズも増えていくかと思います。

ありがとうございました

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加速し始めた地方企業の共創ーー主要4社が語る「オープンイノベーションのリアル」座談会 Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 ここ10年の企業のオープンイノベーションや協業・共創環境を語る時、特徴的なポジションとして「専業プレーヤー」の存在が挙げられます。戦略コンサルティング・ファームやベンチャーキャピタルによる支援先の売却支援のような個別企業の取り組みを支援するものではなく、より幅広いプラットフォーム的な役割を担うものです…

写真左から:eiicon company 代表/founder/中村 亜由子さん、01Booster(ゼロワンブースター)代表取締役CEO/鈴木 規文さん、Creww 代表取締役CEO/伊地知 天さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

ここ10年の企業のオープンイノベーションや協業・共創環境を語る時、特徴的なポジションとして「専業プレーヤー」の存在が挙げられます。戦略コンサルティング・ファームやベンチャーキャピタルによる支援先の売却支援のような個別企業の取り組みを支援するものではなく、より幅広いプラットフォーム的な役割を担うものです。

大きくは協業・出資先を探し出すソーシングの機能を持ったデータベースと、より事業そのものにフォーカスしたハンズオンのものに分かれます。前者にはCrunchBaseやAngelListがあり、後者にはTechStarsや Y Combinatorなどが立ち上げたアクセラレーション方式がありました。特に後者はファンドでもありながら、その後のラウンドで企業との結びつきをより強くイメージした企業協賛型のプログラムが生まれており、これが日本国内でも数多く取り組まれたのはご存知の通りです。一方で主導する企業側には高度なスタートアップ投資への知識・理解、そしてなにより社内での体制が必要となり、各社が本格的に取り組みを本格化させるには数年の時間が必要でした。

このように、日本国内で新しい形でのオープンイノベーションへの取り組みが始まって10年が経過します。各社の取り組み姿勢や状況はどのように変化したのでしょうか?本稿では国内でいち早く、このオープンイノベーションに関わる専業プレーヤーとして独自の取り組みを続けた4社に集まっていただき、国内における共創の現在地について語っていただきました。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部、回答は以下の方々・敬称略)

座談会参加者
eiicon company代表・founder/中村亜由子さん
01Booster(ゼロワンブースター)代表取締役CEO/鈴木規文さん
Creww代表取締役CEO/伊地知天さん
KDDI ∞ Labo(KDDI)/石井亮平さん

オープンイノベーションは10年でどう変わった

オープンイノベーション、企業協業を支援する立場で取り組んできた4社のみなさんに集まっていただきましたが、まず、この5年から10年の市場環境の変化について聞きたいと思います。KDDI ∞ Laboは2011年開始なので中でも最も古いプレーヤーになりました

石井:そうですね、KDDI ∞ Laboは今年でちょうど10年を迎えますが、開始当時はフィーチャーフォンからスマートフォンに代わるタイミングでした。いわゆる『ガラケービジネス』が崩れていくという中で、スマホのビジネスをどう作るのかという明確な課題があったんです。通信キャリアもアプリで差別化が必要と考え、新しいスタートアップと一緒に協業するのがよいだろうというのが出発点でした。ただ、これが2010年代半ばになると、アプリビジネスにおいて勝敗がはっきりしてきて、スタートアップがリアルとかIoTに主戦場を移し始めてきたんですね。

KDDIはウェブ上だけであれば送客などで力を発揮できたかもしれませんが、ビジネスが「リアル」になってくると勝手が変わってきます。そこでリアルなアセットを持つ大企業の力を借りてみんなでスタートアップとの協業・共創に挑戦しようと発展したのが、現在も続くパートナー連合の考え方です。ただ、まだまだ自主的にこういった共創活動を推進しようというのはごく一部の企業に留まっている印象はありますね。

Crewwは2012年から開始していますが傾向に変化はありますか

伊地知:2012年にオープンイノベーションプログラムの提供を開始をしてから首都圏では多数のプログラムが開催されていましたが、首都圏以外での取り組みは限定されていました。ここ数年、地方の中堅企業とスタートアップの共創がCrewwのプラットフォーム上で多数開催されるようになりましたね。総じてシード期のスタートアップと地方の中堅企業との相性は非常に良いと感じています。例えば、プロダクトがある程度検証できていてあとは拡販だという時は、スタートアップは大手企業と組むことをイメージしやすいと思います。一方で、プロトタイプを検証していくフェーズではそれほど大きな顧客基盤が必要ではありません。むしろ規模より検証までのスピードをあげることの方がプライオリティが高いケースがよくあります。

なるほど地方の中小企業にも協業や共創の考え方が広がりつつあると。AUBAは2017年から開始していますが同じような状況でしょうか

中村:私たちはあらゆる企業のオープンイノベーション実践をフツウゴト化するため、2017年に立ち上がったのですが地方の中小企業さんなどは当初、無料でも使ってもらえなかったりしましたね。オープンイノベーションって首都圏の話でしょ?という感覚はあったと思います。

ただそれが徐々に変化してきて、19年に前政権下で各自治体がイノベーション予算を使えるようになり、地域に企業を誘致・支援する機運が高まったのがひとつのきっかけになったと思います。最初はスタートアップに会える、会えないという課題感でしたが、現在は協業した上で社会実装をどうするかとか、事業化をどのようにすればよいか、といったフェーズに移っています。

伊地知:地方の中堅企業ですとオーナー社長の場合も多く、フットワークが軽いのでスピーディーに協業や検証に進むことができます。スタートアップもフェーズによって組むべき相手が本来違うはずなので、「地方中堅企業xスタートアップ」というのは本質的にWin-Winになりやすいモデルなんです。地方には技術に優れている企業も沢山いらっしゃるので技術とのコラボレーション事例というのも今後どんどん増えていくと思います。また、日本企業と海外スタートアップのようなクロスボーダーの取り組みも今後はニーズとして高まっていくと思いますので、ぜひこういった仕掛けもしていきたいですね。

具体的な事例にはどういったものがありますか

中村:例えば宮崎県の近海かつお漁業を生業とする浅野水産と大手町のAIスタートアップFACTORIUM(ファクトリアム)の事例では、漁労長の勘をAI化するという「ベテランのAI化」を目指し、水産業の高齢化に対する解決策を共創により模索されるケースがありますね。

現在は様々なセクターのデジタル化が叫ばれるようになりましたが、特に地方創生、一次産業のデジタル化やAIの活用はまだ社会実装が進んでいない状況です。一方これまでは都心部に数の多いスタートアップと地方の事業者が繋がることはほぼなかったのですが、プラットフォームができたことでAUBAの利用が進んでいる状況です。

ゼロワンブースターさんも2012年開始で多数の共創プログラムを手がけられたと思いますが、企業のオープンイノベーションに対する考え方はどのように変わったと感じられてますか

鈴木:オープンイノベーションのブームがピークを越え、結果の不透明さが浮き彫りになったことにより、社内コンセンサスを得る難易度が増しましたね。コロナ禍において、イノベーションの必要性は高まっていますが、不透明な結果に対して合理的な意思決定がしにくくなるため追加投資を慎重になっているケースが増えている印象です。

ただ、中長期的にはイノベーション活動が活発な企業の方が収益性が高いというのが統計上出ているわけで、ここに短期業績主義のジレンマがあります。ゆえにプラットフォーマーは、時間軸と企業単位の壁を超え、データや事例を示し続け、意思決定のサポートをしなければなりません。また、イノベーション活動は大抵、組織ではなく「特定の個人」の思いによりドライブされています。その「個」を援護するのも我々の役割で、弊社「イノベーション担当者コミュニティ」はご担当者を支える大変意義深い場になっています。

失敗したケース

新規事業というのは失敗の連続、特に非連続な成長を求めるパターンでは、慣れないことも多く、必然的に成功確率は下がると思います。スタートアップや他の企業との協業・共創でミスが発生するケースはどういうものがありましたか

中村:契約を結ぶ前に進むケースは危険ですね。法的な拘束力を持たない進め方、特に口約束でNDAも結ばないまま進行させる中小のケースは度々目にしました。NDAの中にNDAとは関係のない内容が入っていて、締結した後に知財をロックされた、なんていう事例もあります。特許庁がオープンイノベーションに関するガイドラインを作っているのでそういうものを参考にするとミスは減ると思います。

鈴木:そうですね、オープンイノベーションは相互の活動ですし、大手企業にも、スタートアップにも文化があります。どちらか片方の当事者のお行儀を責めてはなりません。大手企業の方が傾向的に変化への対応が鈍いのも事実です。下請けを選ぶことに慣れている会社はどうしてもスタートアップを下請け扱いし、イコールパートナーシップが成り立たないケースはありました。

大手企業の人事異動もスタートアップにとっての組みづらさに繋がります。熱量のある大手企業側の担当者が異動してしまえば、揺り戻しがきて、スタートアップへの協力姿勢は低下します。それだけであればいいのですが、大抵前任者否定的な体制になることが多いため、施策の連続性が保てないのです。そのためには、社内全体の文化や風土をオープンイノベーションマインドに変える必要があり、相当の時間がかかってでも取り組まざるを得なくなっていると思います。

伊地知:10年近くこの分野で多くの企業と一緒にやってきた結果、上手くいくパターンと上手くいかないパターンが見えてきました。上手くいっている企業はオープンイノベーションのゴールを「継続的にイノベーションを生み出せる組織づくり」とし、その過程での新規事業創出の手法(ビジネスマッチング、CVC、アクセラレーター)はあくまでゴールに行き着くまでの途中経過であると考えている場合が多いです。もちろん各社全力でそれぞれの新規事業の創出に取り組むのですが、この一連の取り組み・経験を通じて、毎年自社のイノベーションのステージが上がっていっていることを定性的・定量的にKPIとして計っていますね。

新規事業における時間軸・視点の置き方は確かに難しいですよね

伊地知:上手くいかないパターンとしては、ビジネスマッチングやアクセラレーターを単発で実施して、どれくらいの規模のビジネスが生まれたかを評価にしている場合です。これですと、いきなり大きな売上を生むビジネスが生まれない限り、翌年の継続はなかなか難しくなります。仮に初回から大きなビジネスが生まれたとしても次回以降の再現性はありませんし、ノウハウを積み上げて人や組織を進化させていく中長期の活動がオープンイノベーションの本質的な価値をつくり上げていくと思います。

実際に全くスタートアップとの関わりがなかった建築・土木分野の企業でも、アクセラレータープログラムでスタートアップとの協業を経て、出資に至り次のイノベーション創出の取り組みを探されていたりします。また、金融系企業のケースですと、最初はベンチャーキャピタルへのLP出資から始まり、スタートアップとの協業、出資、専門部署の立ち上げ、海外企業の探索、海外企業との協業・出資など4年間ほどでかなりイノベーティブな取り組みを自走されるようになっています。企業がオープンイノベーションをどのように評価するかというKPIの設定を間違えると継続性がなくなり、その設定を上手くやれば年々イノベーティブな組織になっていくという現象を何度も目の当たりにしています。

後半につづく

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企業とスポーツの新しい関係を模索ーーookamiと第一生命の共創 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディーをお届けします。 前半では、スポーツエンターテインメント事業Player!を運営するookamiと第一生命保険の取り組みについて、スタートアップサイドからこのプロジェクトの狙いをお伝えしました。後半では第一生命…

第一生命保険・イノベーション推進部の野村直矢さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディーをお届けします。

前半では、スポーツエンターテインメント事業Player!を運営するookamiと第一生命保険の取り組みについて、スタートアップサイドからこのプロジェクトの狙いをお伝えしました。後半では第一生命サイドで本プロジェクトを企画・推進する同社イノベーション推進部の野村直矢さんにお話を伺います。

同社がスポーツエンターテインメント事業に参戦する意義や目指すゴールについて語っていただきました。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答は第一生命イノベーション推進部の野村さん)

企業がスポーツチームを「応援」する課題

共創に至った経緯について教えてください

野村:実は第一生命では約1年前から、寄付機能がついたスポーツ応援プラットフォーム構築のプロジェクトが動いていました。これは本来東京オリンピック前のローンチを見据えていたのですが、コロナ禍でオリンピックも延期になりその想定が崩れた経緯があります。

なるほど、オリンピックはスポーツに注目の集まる格好のタイミングでしたよね

野村:そんな中、ステイホームを余儀なくされるアスリート自身が、YouTubeの動画投稿やクラウドファンディングを実施するトレンドが生まれましたよね。つまり自前で新たにプラットフォームを構築する意義が薄れてしまったんです。

その中で、自分たちがやろうとしていたことに近しいプラットフォームを運営するookami社と出会い、第一生命からコラボできないかと打診しました。

なぜスポーツエンターテインメント事業が持ち上がっていたのでしょうか

野村:第一生命はQOL向上や頑張る人の応援をする・寄り添うことを理念に掲げています。そこで今回は、ookami社との共創という形で「Cheerding」(Cheerdingは”Cheer up”+”Funding”をかけ合わせた造語)プロジェクトを立ち上げ、マイナースポーツのアスリートやそのファンを切り口に、動画コンテンツでスポーツのことを知ってもらいつつ、寄付機能でファンの想いを届ける仕組みを考えました。

コロナ等も影響し、スタートアップとの共創となりましたが、協業することで得られたフィードバックなどはありますか?

野村:スポーツチームやアスリートをエンタープライズが応援する形として、まず協賛金が求められる点に違和感を感じていたんです。実際、今回のプロジェクトでもフォーカスしたいスポーツ団体から「まずは協賛金を」と求められたりしました。

そこで今回は第一生命として協賛金を出すことなく、ファンと選手が想いをカタチにし、繋がれることにこだわりました。ookami社がコネクションを有する大学スポーツチームを軸に交渉し、大手企業として協賛金無しでスポーツのプロジェクトにかかわることができたことは、私たちだけではできなかったことだと思います。

協賛金ありきではなく、別の関係性を模索した

野村:はい、第一生命が保険のお客さまとしてあまり接点を持たない若い世代の反応を見ることも今回のプロジェクトの目的にありました。結果、社外の関係先や保険のお客さまからも、この「Cheerding」プロジェクトに参画したいという声がかかり、想定していたよりも影響の広がりが大きくありましたね。テレビ局からもお声がけがあり、関連する番組を放映し、番組に連動させる形でCAMPFIREのプロジェクトを展開しています。

協業によって新しい関係が見えたり、具体的な反響があるのはよいですね

野村:社内からは、このような新しい取組に関心がなさそうな部署や社員からも連絡があり、「実はこういうの好きだった」とか「寄付したよ」などポジティブな反応を多くもらいました。こうした波及の価値をしっかり分析し、若い世代に今回のプロジェクトだけでなく、第一生命のファンになってもらえるような仕掛けを両社で検討していきたいです。

「Cheerding」プロジェクトに少しでも興味を持っていただいた方には、ぜひPlayer!のwebやアプリに触れたり、テレビ番組を見たり、CAMPFIREのプロジェクトに参加したり、自分にあった方法で共感をカタチにしてもらえたら嬉しいです!

ありがとうございました

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DNPの社内外をつなぐ事業共創のハブーー大日本印刷のスタートアップ投資

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたフジテレビの「フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(FSV)」に続いてお届けするのは、大日本印刷(以下、DNP)のスタートアップ投資活動についてお届けします。 DNPは連結売上高1.4兆円、従業員数3.8万人(共に2020年3月末時点)の日本を代表す…

大日本印刷・モタイ五郎氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたフジテレビの「フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(FSV)」に続いてお届けするのは、大日本印刷(以下、DNP)のスタートアップ投資活動についてお届けします。

DNPは連結売上高1.4兆円、従業員数3.8万人(共に2020年3月末時点)の日本を代表する総合印刷企業です。その事業範囲は広く、生活空間やモビリティ、素材、エレクトロニクスにライフサイエンスなど多岐にわたっています。

6月に開示されている中期経営計画でも示されている通り、DNPでは次の視点として社会課題の解決を掲げ、第三の創業を目指すとしています。既存にあった個別企業のニーズ・課題解決からより大きな社会全体の問題解決へと視点を移し、注力事業として「IoT・次世代通信関連事業」「データ流通関連事業」「環境関連事業」「モビリティ関連事業」を掲げています。

今回取材したDNPのスタートアップ投資はこの一環として活動をされているそうです。機動力のある少額出資と、多岐にわたる事業ポートフォリオに対して新しいスタートアップやテクノロジーのアイデアを社内に適切に繋ぐ「社内外ハブ」のような役割を担うというお話でした。本稿ではさらに詳しいお話を伺います。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答は大日本印刷のモタイ五郎さん)

DNPはCVCとして切り出すのではなく、本体投資の部門として活動されています。部署自体が立ち上がった背景などについて教えていただけますか

モタイ:DNPは「知とコミュニケーション」「住まいとモビリティ」「食とヘルスケア」「環境とエネルギー」という4つの成長領域を設定しています。この成長領域において、(1)IoT・次世代通信関連、(2)データ流通関連、(3)モビリティ関連、(4)環境関連、の4事業を主な注力事業と設定し、社会課題を解決するとともに人々の期待に応える新しい価値を創出することで、持続可能な社会の実現に貢献しようと考えています。

一方、刻々と変化する社会課題に対応すること、社会を支える世代の価値観を知るには、新技術や新たな着眼点で破壊的なビジネスモデルを狙うスタートアップの力が必要です。そこでDNPでは、新事業創出に向けてスタートアップとの共創促進の打ち手として、少額出資機能を設置しました。

この部署では幅広い事業部門やグループ会社との連携など、本社の直接投資だからこそできる機動的な意思決定のプロセスを運用しています。スタートアップには出資検討段階からハンズオンする担当者がついて、DNPの様々な事業部門やパートナーとの連携を支援します。出版印刷などの情報コミュニケーション分野を始め、食品包装や建装材、モビリティなどの生活・産業分野、電子デバイスやディスプレイ部材などのエレクトロニクス分野など、幅広い事業領域のアセットを提供しています。

具体的にどういったケースでスタートアップに出資または事業連携をしていくのでしょうか。またその方法は

モタイ:投資の方針ですが、新しいビジネスやテクノロジーを持つスタートアップで、DNP独自の「P&I(印刷と情報)」の強みを掛け合わせて、強い事業ポートフォリオ構築に取り組める各社と連携・共創をしたいと考えています。

最初はこういう部署でこういう事業ができるかもという事業部のメンバーとディスカッションをして、詳しく聞いてみたいということであれば面談を設定するところから始まります。スタートアップの事業内容を十分に理解し、その強みを活かして複数の事業部門、グループ会社との連携可能性を各部門のメンバーも含めて一緒に議論し、事業プランを練っていくような形です。

また、本社と事業部でも求めているものが異なり、本社のリクエストとしては数年(4〜5年)で事業を大きく変えるようなものが主眼になりますが、やはり足元がある事業部との接点づくりとなるとより短い期間で形になるものが多くなります。ただ、事業部の中にも新しいことをやらないといけない、という認識が生まれているのは事実です。

4事業を将来的なフォーカスとして掲げられていますが、特に注目しているテクノロジーはありますか

モタイ:AIやIoTは注目していますね。データを活用できる時代に入っていて、これまで取れなかったデータが取れるようになりました。こういう技術を活用し、私たちが強みとするサプライチェーンやヘルスケア、メディアでどのように活用できるのか検討したいと思っています。

また、前述の通り本社としてはより大きな視点で全体を見る必要がありますので、より幅広い応用が効く基盤的な技術が必要です。一方、各事業に近い所だとサービスやパッケージングされている、すぐに連携がイメージできるものがやはりよいですね。

具体的な共創のケーススタディを教えてください

モタイ:2020年7月に、モノのシェアリングサービス「AliceStyle」を手掛けるピーステックラボへの出資をしました。近年、伸張が期待されるシェアリングエコノミー市場がどの様に拡大していくのか、また、DNPの強みを活用した事業にはどのような可能性があるのか、そういった視点を出資先であるピーステックラボのハンズオン支援をしながら検討を進めています。

モノのシェアリングサービス「AliceStyle」

例えば、従来からDNPで販売しているアート作品の複製画を、AliceStyleを通じてサブスクリプション型でレンタルするビジネスを一緒に検討しています。今まで見いだせなかった新たなユーザーへアプローチすることができそうです。

掲げる持続可能な社会を作る、という点でシェア経済の確立は重要です

モタイ:はい、ただシェアリングエコノミー市場は拡大が期待される一方、利用者にもサービス事業者にも安心・安全や信頼性といった要素が求められています。DNPがこれまで多様な企業との取引で培ってきた知見やサービス、技術を活用できるのではないかと考えております。

このチームは広大な企業の適切な部門と、新たなテクノロジーやビジネスモデルを繋ぐ「ハブ」のような役割なんですね。今は何人ぐらいでやられてるんですか

モタイ:現在は限られた人数で幅広い事業分野を対応しているため、現状は国内スタートアップが中心です。今後は徐々に海外に対象をひろげていきたいです。特にエレクトロニクスやフォトイメージングなどの事業分野はグローバルにも対応していきたいと考えています。

大企業で幅広い事業分野を手掛けていると、どうしても自社の強みやアセットになかなか気づかないこともあります。是非スタートアップの方からも声をかけていただき、事業共創のきっかけにしていただければと思っています。

ありがとうございました。

ということでDNPのスタートアップ投資活動についてお届けしました。次回はヤマトHDの取り組みにバトンをお渡ししてお送りします。

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「Cheerding」でマイナースポーツを盛り上げろーーookamiと第一生命の共創 Vol.1

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 スポーツエンターテインメント事業「Player!」を運営するookamiと第一生命保険は、若手アスリート・マイナースポーツの支援や普及を目的としたプロジェクト「Cheerding」の共同事業を発…

ookami事業開発本部ブランドコミュニーケーションチーム/須藤斐紗子さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

スポーツエンターテインメント事業「Player!」を運営するookamiと第一生命保険は、若手アスリート・マイナースポーツの支援や普及を目的としたプロジェクト「Cheerding」の共同事業を発表しています。

モバイルアプリPlayer!はプロ・アマのスポーツ試合途中経過や結果とともに、実況観戦する他のユーザと生の感動をリアルタイムに共有できるスポーツSNSです。2015年の公開以降、昨年1月には月間アクティブユーザー数400万人を突破しており、年間約2万試合を超えるスポーツイベントの情報が発信されるプラットフォームに成長しました。

前半ではスポーツをデジタルの視点から支えることの意義や、今回第一生命と共創に至った経緯などについてookami事業開発本部ブランドコミュニーケーションチームの須藤斐紗子さんにお話を伺いました。

寄付機能でエコシステムをつくる

今回のookamiと第一生命の取り組み「Cheerding」は、若手アスリートやマイナースポーツの普及をサポートするという目的のプロジェクトです。なかなか普段目にする機会が少ないマイナースポーツにフォーカスを当てることで、エンターテインメントとしてのスポーツの価値を広げることも目指しています。

マイナースポーツはどうしてもメディア等への露出も少なく、同じ興味を持つ仲間を見つけることが難しいという課題がありました。今回のプロジェクトは、そうした「とにかく知ってもらう機会」を作るため、既存のPlayer!にマイナースポーツの枠を設け、デジタル上で知る機会をユーザーに向け提供しています。

「マイナースポーツと言われる競技のアスリートやチームは注目を浴びたり、とにかく「知ってもらう」機会、競技の普及に課題を抱えている場合が多いです。一方で一度接点さえ持ってしまえば、面白いスポーツは沢山あります。このような競技とファンをつなぐような取り組みを目指しています」(須藤さん)。

また、ookamiでは既にPlayer!にて、浦和レッズや鹿島アントラーズなどと寄付機能やギフティングのような形でファンからチームにお金を入れてもらう、スポーツを通したチームへのエンゲージメント企画の経験を持ちます。このプロジェクトでも持続的にこの活動を支えるためのエコシステムの設計として、寄付機能による応援システムも導入し、よりファンがエンゲージメントを高めやすい環境を整えたそうです。

Player!内、Cheerding特設ページと実際のサポート画面

マイナースポーツに光を当てる

ある国でマイナースポーツとされるスポーツが、ある国ではメジャースポーツである、そういったことも珍しくはありません。また、マイナースポーツをどう定義するかにもよりますが、たとえメディアに露出が少ない競技であっても、競技人口が多かったり、本当に熱狂的なファンがいるといったケースもあるでしょう。

そういった視点で今回、両社が取り上げた「ラクロス」と「アメリカンフットボール」は特徴的な競技と言えるのではないでしょうか。ラクロスはカナダで国技とされる人気のスポーツですし、またアメリカンフットボールは米国4大スポーツのひとつですが、共に日本では一部のファンの競技に留まっている印象があります。

「初回の取り組みでは、ラクロスとアメフトを選定させていただきました。どちらの競技もチームで実施する競技で、助け合う/協力するという競技性も第一生命様のブランドに合致するという意味も込められています。また、熱狂的な競技者がいる一方でなかなか注目されることの少ないスポーツであることと、今回「マイナースポーツを盛り上げる」という大きなテーマにて共に盛り上げてくれる期待値の高いチームがいるところから逆算的に競技を選定しました」(須藤さん)。

なお今回のプロジェクトでは法政大学アメリカンフットボール部や青山学院大学女子ラクロス部など、大学のスポーツチームが参加対象になっています。

Cheerdingをリリースしたところ、狙い通りプロジェクトには多くの競技チームから「うちも連携できないか」との連絡が舞い込んでいるそうで、現在では5つのチームがCheerdingの対象サポートチームとして登録されています。

「どんな競技であれチームや選手の魅力を伝えることで、スポーツ感の格差なくみなさんが好きなスポーツに出会い、自由に応援できる世界を目指しています。若手アスリートのストーリーや想い、マイナーと言われる競技の面白さ、そういったものが発信されるお手伝いを引き続き行っていきます」(須藤さん)。

後半はookamiと共創に取り組んだ第一生命のエピソードをお送りします。

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MS-Japan、ハヤテと設立した20億円CVCの真意とは?——カギは、経営管理Techとステージ不問のスタートアップ支援

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経営管理部門や士業人材の転職支援大手 MS-Japan(東証:6539)は先月、20億円規模の CVC(GP: ハヤテインベストメント、LP: MS-Japan) を設立したことを発表した。リクルート出身で現代表取締役の有本隆浩氏が創業してから約30年、ハイクラス人材の人材紹介に特化してきたことが功を奏し、MS-Japan の利益率は業界トップクラス(46.2%)だ。人材紹介事業への登録者数は毎年…

左から:常務取締役 藤江眞之氏、代表取締役 有本隆浩氏、取締役 山本拓氏
Image credit: MS-Japan

経営管理部門や士業人材の転職支援大手 MS-Japan(東証:6539)は先月、20億円規模の CVC(GP: ハヤテインベストメント、LP: MS-Japan) を設立したことを発表した。リクルート出身で現代表取締役の有本隆浩氏が創業してから約30年、ハイクラス人材の人材紹介に特化してきたことが功を奏し、MS-Japan の利益率は業界トップクラス(46.2%)だ。人材紹介事業への登録者数は毎年2桁%のペースで成長し、昨年度には売上高が40億円を突破した。

人材会社が CVC を作るのは MS-Japan が初めてではない。ウィルグループ(東証:6089)は「HRTech ファンド(GP: フューチャーベンチャーキャピタル、LP: ウィルグループ)」を2017年に、パーソルホールディングス(東証:2181)は事業統合前のパーソルおよびテンプスタッフ時代から見ると、それぞれは2015年に PERSOL INNOVATION FUND、2016年に Temp Innovation Fund を設立している。

これまでの人材会社の CVC は直接的あるいは間接的に、本業にシナジーのある HRTech のスタートアップへの投資を主眼に置いていた。CVC は本業である自社のオープンイノベーションを加速するビークルという位置付けもあるから、これはある種当然のことだが、MS-Japan の新しい CVC は全方位型のオールラウンドな投資活動を目指すようだ。その理由や背景を探ってみた。

<参考文献>

日本経済の経営中枢を支えるネットワークの存在

「Manegy(マネジー)」
Image credit: MS-Japan

日本における管理部門関係者など専門人材領域のマーケットの規模は235億円程度とされ(2017年現在)、MS-Japan はこの領域でトップシェアを誇ると見られる。創業以来30年でのべ26,000人以上の転職を支援してきたというから、かなり多くの有名企業の経営管理部門に MS-Japan から紹介を受けて転職した人材が在籍すると考えていいだろう。

引越後には物件を紹介してくれた不動産屋との連絡は途絶えるように、転職が済んだら紹介会社との関係は疎遠になってしまうように思えるが、MS-Japan では2017年にスタートした「Managy(マネジー)」という自社メディアが、事後も転職者をネットワークし続けるのに一役買っている。Managey には今後、経営管理データマネジメントプラットフォーム(DMP)としての収益も期待されているようだ。

MS-Japan の CVC から資金を調達したスタートアップが期待できるのは、MS-Japan が30年で培ってきたこの経営管理部門の人材ネットワークだろう。彼らは経営判断を求められるポジションにいるので、スタートアップが企業経営に役立ちそうなソリューションを提供できるなら、マーケティングや営業活動の時間やコストを省いて成約に結びつけられる可能性が高いだろう。

経営判断するポジションの人へのリーチを確保し、より成約率の高い営業チャネルを提供しようとするスタートアップもいるくらいだ。あるサービスを導入した A 社の体験を B 社と経営層レベルで共有する、といった情報交換も Managy のユーザ同士でできるだろう。この種の会社経営にレバレッジを利かせられるかもしれないサービス群を、MS-Japan では経営管理 Tech と呼んでいる。

今回 CVC が組成される前から、MS-Japan は難関資格講座の KIYO ラーニング(2020年7月に IPO、東証:7353)、VR 配信プラットフォーム運営のシータ、メンタルヘルステックのラフールなどに出資してきた。一見すると戦略が見えづらいポートフォリオだが、いずれも会社経営に寄与するサービスを提供するスタートアップ群と見れば、なるほど合点が行くわけだ。

代表取締役 有本隆浩氏
Image credit: MS-Japan

当社は日本市場の7〜8割に人材を提供していて、日頃から人材の問題、お金の問題の相談を受けることも多い。そんな兼ね合いから間接的には IPO も支援してきた。これまでに投資したスタートアップが2社上場したこともあり、ファンドを立ち上げることにした。

(CVC では)マイナー出資をして終わりとかではなく、ガッツリ一緒にやれるスタートアップと組んでいきたい。投資をする側もされる側も、皆が喜ぶのがベンチャー支援だと考えており、次の日本を背負えるような会社を支援していきたい。(有本氏)

MS-Japan の今回の CVC 組成には自社の DX を加速したい思いも見え隠れする。転職人材の職種や求められるスキルは時代と共に変化しているとはいえ、人材紹介業の本質は極めて伝統的な事業形態である。MS-Japan は今後も市場シェアを拡大するだろうし、人材流動性の高まりから業界規模も成長を続けるだろうが、次なる活路を見出す必要はある。前出の DMP 活用の事業もそんな一例だ。

〝ポスト IPOの谷〟を埋めたいハヤテ

ハヤテインベストメント代表取締役 杉原行洋氏
Image credit: Mario Suzuki

ひと頃前「シリーズ A クランチ」という言葉をよく聞いた。別の言い方をするなら「死の谷」だ。VC の多さや調達条件の緩さなどからシード期には資金調達に成功したスタートアップが、その後、アーリー期(シリーズ A 以降)で資金調達に苦しむ事象を言い表した言葉だ。VC が増えるなどして環境は以前より改善されたようだが、それでも死の谷は起業家が避けて通れない道程と言える。

ハヤテインベストメント代表取締役の杉原行洋氏によれば、スタートアップには IPO 後にも谷が訪れるという。

(IPO したスタートアップのことをスタートアップと呼び続けるべきどうかについては議論が分かれるが、筆者はある人物に「調達金額から言って、日本の IPO はアメリカのスタートアップのシリーズ B ラウンドあたり。IPO してもまだまだスタートアップだよ」と諭されたことがある。推薦委員を務めさせていただく J-Startup にも、少なからず上場企業が含まれることもうなづけた。)

さて杉原氏との話を続けることにしよう。 IPO するまでのスタートアップは、基本的に VC からのエクイティファイナンスで資金を調達している。IPO した後はどうか。上場しているので証券市場、つまりは一般投資家から資金を調達することになるわけで、本来ならば、IR がうまくいっていれば VC からよりも資金調達しやすいはずだが、そうは問屋が卸さない。

日本の上場会社約3,700社のうち、証券アナリストによって、個人投資家が投資判断の参考にできる決算分析レポートが出されているのは全銘柄の7分の1程度に過ぎない。この情報非対称を補うために xenodata が「xenoFlash(ゼノ・フラッシュ)」というプロダクトを出していることを、BRIDGE の読者なら覚えているかもしれない。

Image credit: Hayate Investment

この問題は上場を果たしたばかりのスタートアップにも立ちはだかる。ざっくり、東証マザーズに上場している企業をスタートアップと定義するなら、東証全体におけるポスト IPO のスタートアップは全銘柄の9%程度。彼らが証券アナリストにフィーチャーされる確率は決して高くない。かくして投資家の目にも留まりにくくなり、上場しても思ったように市場から資金調達がうまくいかないというシナリオだ。

時価総額が1,000億円に届くまではアナリストに調査してもらえない。時価総額を上げるには調査を受ける必要があり、一方、調査を受けるには時価総額が必要になるという、まさに「鶏と卵」の関係。この状況を打破しない限り、ユニコーン(筆者注:上場後だが敢えてユニコーンと呼んでいる)はなかなか生まれない。(杉原氏)

IPO 後のスタートアップが市場以外や VC から調達するケースも存在するが、そもそも VC の多くは上場時のキャピタルゲインに収益の多くを依存する以上、ポスト IPO のスタートアップの資金調達を VC が支援できるケースはレアである。ならばどうするか。公開されている株を買ってあげればいい。これを相応の規模でシステマティックにやるとしたら投資信託になる。

左から:杉崎嵐氏、取締役 安島真澄氏、投資本部 中尾隆彦氏、CTO 小柴晋氏
Image credit: Hayate Investment

同社はグループ内で、以前から日本の上場企業の株式を組み込んだ私募ファンドを組成・運用している。現時点でどのような銘柄が組み入れられているかは不明だが、国内の中小型株式を中心に投資しており、投資家には大手証券会社が発掘できていない有望企業を掘り当てることに定評がある。アナリスト1人あたり、1日4~5件の企業面談をこなすことで高パフォーマンスを実現しているようだ。

CVC でプレ IPO を、私募ファンドでポスト IPO を支援できれば、IPO を境に断絶してしまうスタートアップへの支援は継続的なものになる。CVC であれば、出資者である事業会社の創業者の知見を投資先にフィードバックすることもでき、また、出資者が制限をつけなければ、IPO 後に株式を売って利益確定する必要は必ずしもないし、シナジーがあれば資本関係を維持することもできる。

ハヤテインベストメントでは2007年から10年間、ユナイテッド(東証:2497)の CVC を共同運営していた実績がある。プレ IPO、ポスト IPO に関わらずスタートアップの資金重要が高まっていることを受け、ハヤテインベストメントでは CVC 事業を本格化させる。複数企業の CVC 運営を実現できれば、スタートアップに複数 CVC をワンストップで紹介できるプラットフォームを実現できる可能性もある。

Image credit: Hayate Investment

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ベンチャーキャピタルに必要な「持続可能社会」への取り組みーーグローバル・ブレイン百合本氏 Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、前回に引き続き、昨年12月に新たな投資戦略を公表したグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さんにお話を伺います。 前編では地政学的な知見から中国・インドの変化に着目し、よりグローバルな投資戦略を進める姿をお話いただきました。後…

グローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、前回に引き続き、昨年12月に新たな投資戦略を公表したグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さんにお話を伺います。

前編では地政学的な知見から中国・インドの変化に着目し、よりグローバルな投資戦略を進める姿をお話いただきました。後半はグローバル・ブレインの投資における企業成長のノウハウから新たな領域へのチャレンジについてお聞きします。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さん。文中敬称略)

少し話を変えて、グローバル・ブレインとしての新たな投資領域についても伺わせてください。現在、KDDIも含めて1500億円以上のファンドを運営されています

百合本:おかげさまで1998年に設立し、2001年に森トラスト様から10億円のファンドをお預かりしてから2021年で20周年という形になります。昨年には新たにキリン様や農林中央金庫様、セイコーエプソン様、ヤマトホールディングス様からCVCをお預かりいたしまして200憶円のファンドを追加し、また三井不動産様の投資の組み入れも終わりまして、第2号をスタートさせていただきました。

現在の運用残高は(全体で)1,524億円ということで、1,500億円を突破いたしました。(グローバル・ブレインの純投資ファンドの)7号は組み入れが進んでおりまして、2021年には新しい8号の準備を開始すると同時にグロースファンドも設立したい考えです。また、現在7つのファンドを運営させていただいておりますけれども、まだ空いてる領域がありまして、モビリティであったりエネルギーといった分野についてもチャレンジしたいと思っています。

振り返れば2010年代のスタートアップ投資はまだまだ不確定要素が多い領域だったように思います。グローバル・ブレインが成長できた要因はどこにあるとお考えでしょうか

百合本:我々の戦略というのはソーシングの窓口を広くして(投資した企業に対して)徹底的にバリューアップをして成長させる、というものです。年間で5,000社ぐらい投資検討させて頂いていて、ビジネスや財務法務、知財、デザインといった部分を検証し、最終的には50社から100社ぐらいの企業に投資を実行しています。

現在、キャピタリストが約30名在籍しているのですが、それ以外にも支援チームを作っておりまして、バリューアップやビジネスデベロップメント、人材採用、PR、デザイン、IPO支援それから労務管理、知財戦略といった部分を支援させていただいております。そして最後にIPO支援やM&A支援をしてエグジット率を高めるというのが鉄板戦略になっています。

特に時間がかかると言われてきたライフサイエンスの領域には専門チームを作るなど体制も強化されています

百合本:ライフサイエンスについては1年半ほど前からソーシングなどを進めた結果、投資件数も5件ぐらい実績が出てきました。ソーシングについてはSequoia Capitalなどのシンジケート案件に参加するなどしています。注力領域としてはアドバンスドセラピーと言われている遺伝子治療だったり、マイクロバイオ、医療機器では診断から治療までのトータルソリューションなどの分野で投資計画を立てていますね。

体制については現在、5名の研究者出身のメンバーで構成していて、そこでカバーできない部分については、専任アドバイザー制度というのも設けて慶応大学医学部の岡野教授などにアドバイザーをお願いしています。

インパクト投資や持続可能な社会への取り組みについても積極的に発言されていました

百合本:インパクト投資は社会的だけでなく、経済的リターンを追求するという点でESG投資と違います。それとインパクト投資は社会的なペインをテクノロジーで解決することができる点が分かりやすいですよね。また、社会的なリターンを評価する「インパクト評価」ができるようになったことも、大きな要因です。投資家についても大きなBlackRockのようなプレーヤーが出てきておりまして非常に盛り上がってる領域です。

例えば講演でも例示したのですが、Andreessen Horowitzやビル・ゲイツ財団などが出資をしているApeel Sciencesという企業は食料コーティングをする技術を開発しています。これを活用すれば食品の保存期間を延ばしてフードロスや冷凍冷蔵設備がないところに食糧を提供するといったことができます。

ベンチャーキャピタルとして持続可能な社会についても言及がありました

百合本:グローバル・ブレインとしてのSDGsへの取り組みは、例えばワークショップやソーシャルスタートアップ支援といった次世代の育成などもやっているのですが、やはり注目しているのはカーボンニュートラルです。

ここは非常に重要だと思っていまして2050年までに主要各国が排出ゼロを目指す中、業界リーダーとしてもしっかりと取り組みたいです。オフィスでの資源消費量を削減したり、プラスティックスマート運動なども大切なのですが、一番重要なのはやはり脱炭素、サーキュラーエコノミーに対する投資を加速していくことです。

我々としてこの地球温暖化であるとかサーキュラーエコノミー、脱炭素などの問題に真剣に対処するためにも、関連のスタートアップへ投資するだけでなく、大企業さんと協業を推進することで解決したいと思っています。

コロナ禍によって大きく動いた2020年でしたが、これからの10年は産業デジタル化がさらに加速することからオープンイノベーションへの取り組みもさらに重要性を増しそうですね

百合本:はい、アフターコロナは本格的なオープンイノベーション、つまり大手企業がスタートアップ企業の尖った技術やサービスを活用してDXを推進していく、そういう時代が到来すると考えています。今の状況は企業にとって百年に一度ぐらいのチャンスだと考え、今回、公表させていただいた戦略がグローバルで開かれたオープンイノベーションの推進に役立つと期待しています。

ありがとうございました

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開いた中国とインドの窓、加速するグローバル投資戦略ーーグローバル・ブレイン百合本氏 Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は昨年12月に年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2020(GBAF 2020)」で新たな投資戦略を公表したグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さんにお話を伺います。 ニュースレタ…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は昨年12月に年次カンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2020(GBAF 2020)」で新たな投資戦略を公表したグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さんにお話を伺います。

グローバル・ブレインとKDDIは2012年に設立された「KDDI Open Innovation Fund」を皮切りに、これまで300億円のファンド活動を通じて国内のオープンイノベーションを牽引し、85企業へ出資を実施しています。また、2019年には持続可能な社会づくりを目指し、地域課題をITで解決することを目的とした30億円の地方創生ファンド「KDDI Regional Initiatives Fund」も共同で立ち上げています。

さて、昨年発表されたグローバル・ブレインの新たな投資戦略では、特に米中間摩擦をきっかけとする中国やインドでの投資状況の変化が語られていました。

コロナ禍によって次の10年に起こるであろう産業デジタル化・パラダイムシフトが加速したと言われる中、企業にはより幅広い視野で新たな事業成長のアイデアを追求する姿勢が求められそうです。その具体的な視点について、先日発表された戦略を元に百合本氏に語っていただきました。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦さん。文中敬称略)

GBAF 2020での新戦略発表を興味深く拝聴したのですが、特に中国・インドへのフォーカスが強かった印象です

百合本:そうですね、中国の全体のトレンドは2018年ぐらいから実はダウントレンドだったのですが、これに関わる投資件数・金額とも回復をしています。投資トレンドは規制緩和とイグジットが判断の材料としては絶対なものでして、特に規制緩和についてはネガティブリストというものがあるのですが、2018年には48項目あった(外資系資金の)制限事項が現在33項目まで削減されております。

領域としてはエンタープライズソリューションであるとかインダストリー4.0、ヘルスケアなどで、金額的にはフィンティックやモビリティなどが大成長しているんです。ちなみに今、中国はユニコーン(輩出国ランキング)では第2位ですね。インドは3位でイギリスが4位なんですけども、日本は10位以下です。

中国はこれまで外資の参入には障壁が高かったですよね

百合本:確かに中国に投資したけど(資金を)持ち出すことができないよねっていう話があったのですが、2020年に緩和されまして、中国元でも外資でも外に持ち出せるようになっています。手続きも非常に緩和されておりまして、私たちとしては安心して中国に投資できる状況になったと判断しています。

グローバル・ブレイン(以下、GB)も中国に進出するわけなんですけども、原則シリーズAで対象としてはモビリティーやエネルギー、フィンティックなどに絞り込んで投資をする予定です。おかげさまで第一号の案件も決まっておりまして、基本的には上海に出る予定で、北京や深圳なども展開を考えています。

もう一つの話題、インドも大きく投資状況が変化していると聞きました

百合本:GBAFでもお話した通り、特筆すべきは中国との間の軋轢で、インドのスタートアップに対する投資は中国が大体30パーセントくらい占めていたのですが、それが今、全くないという状況なんです。またスマホアプリのTikTokなども使えない状況で禁止されていたりします。

ここに着目したのがGAFAだったと

百合本:そうなんです。インド三大財閥のリライアンス・インダストリーズにデジタルサービスを提供するReliance Jio Platformsという企業があるのですが、Facebookが約6,000億円、Googleが約4,800億円、つまり1兆円くらいの資金でこの会社の株式を買い取っている状況です。Amazonも8,000億円ぐらいインドへの投資を決めるなどレッドオーシャンな状況ですね。

インドのスタートアップのシーンとしては大体4万社ぐらいのアクティブな企業がありまして、エドテックやフィンティック、オートモーティブ、モビリティ、ヘルスケアなどが成長を遂げております。そのうち大体20パーセントがディープテックでありまして、AI、IoT、ブロックチェーン、ビックデータみたいなところが成長を遂げております。

中国に続いてインドにも進出する

百合本:はい、インドについてはシリーズAで、対象としてはヘルスケア、モビリティそれからロジスティクスといった領域に投資をしていきたいですね。すでに2件投資をしており、今年中にはバンガロールにオフィスを構える予定です。

グローバル・ブレインとしての海外投資について勝ち筋が見えてきたとお話されていましたが、改めてケーススタディについて教えていただけますか

百合本:海外投資についてはイスラエルのLoom SystemsのM&Aが確かに大きな成果だったと考えています。海外投資先のエグジット成功モデルと見てまして、ServiceNowという会社に売却を成功させました。ServiceNowはワークロー全般を自動化するSaaSプラットフォームを提供している企業で、NY市場の上場企業で今の時価総額が10兆円という企業です。

我々の海外投資戦略のプリンシパルは現地、もしくはグローバル・トップティアと一緒に投資を実施するというのが第一です。第二は日本やアジアの戦略パートナーとしてのポジショニングで、三番目は共同投資の関係を構築するためにボードを確実に取る、四番目はシリーズA、Bぐらいのステージをターゲットにしてるというものになります。

これらのプリンシパルに基づいて一昨年にAspectivaというイスラエルの企業に投資をしていまして、これはJVPというイスラエルナンバーワンのVCさんと共同投資でした。こちらの企業は15カ月でWalmartさんに売却することができまして、Loom Systemsについても同じくJVPさんとの共同投資案件です。このような形で海外にも随分投資をしておりまして、今までは日本のイグジットが結構多かったんですけども、海外の案件もどんどん増えてくると考えています。

国内もエグジットがIPO含めて多かったですね。2020年はIPO全体でも100件を超えていました

百合本:2020年の実績は投資件数、投資金額ともほぼ例年と同水準で終えることができました。コロナ禍ではあったのですが、年間で約150億円ほどの投資と追加投資を入れまして100件ほどの投資結果となっています。これは日本で最高のレベル水準と考えています。

2020年のエグジットは7件ということで、IPOが4件、M&Aが3件という結果です。ハンドメイドECのクリーマ、ロボアドバイザーのウェルスナビ、クリングルファーマが12月に東証マザーズに公開をし、NBT Partnersも韓国KOSDAQに上場しました。M&Aはスマートキャンプがマネーフォワードに買収されています。

話をグローバルに戻します。百合本さんはテクノロジーやイノベーションについて、地政学的な視点で取り組む必要性をお話されていました

百合本:領域と地域、さらに投資や支援、ソーシングみたいなところを同時進行的に三軸かつ加速度的に回す戦略を今年から来年に向けて取っています。これを「GBの三次元戦略加速度モデル」としているのですが、地政学については私も随分と本を読みました。この新戦略の構築にあたってはこの地政学の知見がだいぶ生きているんじゃないかなと。

GBとしては日本をはじめとして韓国・ソウル、インドネシア、シンガポール、それからロンドン、サンフランシスコに拠点を持っているのですが、更にグローバル化を進めたいと考えております。グローバル化の地政学的な背景としては、アメリカの国際政治学者であるイアン・ブレマー氏が提唱している「Gゼロ」です。いわゆるアメリカというのが世界のリーダー的な地位を完全に放棄してしまい、カオス的な状況になりました。完全に冷戦の時代に入っているという状況の中、こういう時期というのは我々のグローバル戦略にとって非常にチャンスなのです。

具体的に言うと米中間のデカップリングによって米中間の投資活動は弱まります。それによって、今まで全然開いていなかった中国のスタートアップへの窓が開きました。中国とアメリカの戦争によって、日本の際立った技術を持つ大企業やスタートアップに対して非常に中国が関心を寄せています。これにより中国の大企業やスタートアップには関係を構築する大きなチャンスが到来しているのです。

なるほど、中国のテクノロジーは規制のあり方や深圳を中心とするハードウェアサプライチェーンなど独特の進化を遂げていて魅力的ですよね

百合本:それから先の話にもあった通り、インドと中国の争いによってGAFAが進出してくるなどインドのスタートアップシーンというのはレッドオーシャン化しつつありますが、逆に今、(日本にとっては)少し窓が開いている状況かなと。

こういった地政学的なものを考慮に入れて、どこが空いてるのかを的確に判断して機動的にかつコストを最小化に動くことが重要になると考えています。(後半につづく)

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メルカリと鹿島アントラーズが「ピッチコンテスト」をやるワケーー地域づくりを担う「スタジアムラボ」の役割

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ニュースサマリ:鹿島アントラーズ・エフ・シー(以下、鹿島アントラーズ)は1月27日、ピッチコンテスト「Pitch & Match」の開催を伝えている。プロサッカークラブの経営資源を活用してスタートアップや企業の新たな技術・サービスと協業し、エンターテインメントとテクノロジーの融合した地域づくりを目指すとしている。 このイベントは鹿島アントラーズが実証実験など事業促進の機会を提供し、同クラブ…

鹿島アントラーズウェブサイト

ニュースサマリ:鹿島アントラーズ・エフ・シー(以下、鹿島アントラーズ)は1月27日、ピッチコンテスト「Pitch & Match」の開催を伝えている。プロサッカークラブの経営資源を活用してスタートアップや企業の新たな技術・サービスと協業し、エンターテインメントとテクノロジーの融合した地域づくりを目指すとしている。

このイベントは鹿島アントラーズが実証実験など事業促進の機会を提供し、同クラブや鹿嶋市と共同で事業化、社会実装を目指すプログラム。登壇を希望する企業や団体は2月12日までにこちらのフォームから応募が必要その後、19日まで選考をした上で、最大10社程度が最終のピッチステージに駒を進めることになる。ピッチイベントの開催日は3月5日を予定している。募集するテーマは次の通り。

  • 先端的な技術が実装されたスマートシティ、スマートスタジアムの実現
  • 技術を用いたエンターテインメントの実現
  • ヒト・モノ・コトをつなぐカシマスタジアムという場を活かした取組み
  • プロスポーツクラブを中心としたサステイナブルな地域づくり
  • 地域コミュニティにおけるウェルビーイングの向上
  • その他鹿島アントラーズをハブとした課題解決に向けた取組み

同クラブでは昨年2月に鹿嶋市および親会社であるメルカリと「鹿嶋市における地方創生事業に関する包括連携協定」を締結している。また、昨年10月には他の企業、地方自治体とともにオープンイノベーション・プログラム「SmartCityX」に参画し、「スポー ツ×テクノロジー」をテーマとした地域課題解決の取り組みを実施している。

ホームとなるカシマスタジアムでは、第5世代(5G)移動通信システムが実装されており、昨年9月にはNTTドコモの協力のもと「5G×マルチアングル映像体験」の実証実験を実施した。今回募集するアイデアや技術、サービスはこういった社会実装活動をさらに多数の企業・スタートアップ、団体にまで広げるものとなる。

話題のポイント:鹿島アントラーズがピッチコンテスト!と聞いて「スポーツテック盛り上がってるな〜」と思ったのですが、話はそう単純ではなく、というかもっと広くて楽しいお話でした。メルカリの取締役会長であり、鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役の小泉文明さんにお話伺いましたが、キーワードになるのは「地域創生の実験場(ラボ)」かなと思います。

隔週2万人がやってくる「実験場」

さて、こちらの図ですがメルカリの研究開発プロジェクト「R4D」で扱っている「poimo」の動く様子です。poimoは東京大学・川原研究室・新山研究室と共同で研究している「空気でふくらませることができるパーソナルモビリティ」だそうです。

で、この方がpoimoに乗って走ってるこの場所、これがカシマスタジアムなんですね。通常、こういったモビリティについては(特に動力を使うものであれば)規制などで厳しく制限されているので、勝手に公道を走ったり、ましてや「おいらスタートアップだゼ!」とナイショで営業したりするとすぐに叱られることになります。

一方、鹿島アントラーズのホームスタジアムは彼らの運営ですので、こういう実験も自由にできることになるわけです。スタジアムは広く、コロナ禍の今であれば当然ながら「非接触デリバリ」というのは非常に重要なラストワンマイルソリューションです。もし、何かのフードデリバリをやりたいとなった場合、地域でやることもひとつですが、隔週で2万人がやってくるスタジアムでやることができれば十分な実証結果が得られるはずです。これをさらに鹿嶋エリア、地域で展開すれば段階的にサービスの芽が成長することになります。

 鹿島アントラーズを小泉さんたちは「スタジアムを持ったラボ(実験場)」と表現していましたが、非常に理にかなったインキュベーション、アクセラレーションの仕組みだなと感じるわけです。

スポーツをハブとした地域づくりモデル

資料提供:鹿島アントラーズ

ということで、今回のピッチコンテストはニュースの通り、鹿島アントラーズのアセットをうまく活用して地域を盛り上げる、新しい事業の芽を探し出す・一緒に作ろうという試みです。出資だ!株だ!とかのマネーゲームっぽい話というよりは(資本提携必要だったらケースで応じるというお話ですが)、実直にこの「鹿嶋」という地域を使った壮大な社会実験をとにかく一緒にやろうぜという意気込みが根底にありました。

彼らのホームタウンとなるのはメインの鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市、鹿行(ろっこう)5市で、人口は合計27万6,000人。J1としては最もコンパクトな地域になるそうです。ホームの「カシマスタジアム」にはゲームのある隔週で県外など含め2万人がやってくるそうです。またファンクラブ会員としても2.4万人が参加しており、非常に魅力的なユーザーベースを保有している状況があります。

メルカリが鹿島アントラーズのスポンサーを経て、筆頭株主になったのは2019年です。そこから数年はこういったアセットを整理し、クラブのパートナーやスポンサーなどの企業、鹿嶋市などの行政、そしてメルカリが強みとするテックを巻き込んだ様々な取り組みを地味に仕組んでいったそうです。

例えばカシマスタジアム敷地内にはアントラーズスポーツクリニックが併設されているのですが、ここにパートナー企業となったシーメンスのMRIを導入することで選手ケアだけでなく、地域医療の課題(整形外科)にも貢献できるようになっています。

また、スポーツとはちょっと遠いところで、地域のIT人材を育成するために、鹿嶋市の小学校においてプログラミング教育の提供も実施しています。これは鹿嶋市と締結した「地方創生に関する包括連携協定」のスキームを活用したもので、導入にはパートナー企業ユナイテッドのグループ企業、キラメックスが活躍しています。

クラブではライフスタイルのオリジナルブランドを立ち上げている(画像:鹿島アントラーズ

今、同クラブは「スポーツクラブからライフスタイルを提供するクラブへ」というビジョンを掲げています。スポーツテックと考えるとスタジアムで来場するファンの人たちに楽しい体験を提供することにフォーカスしてしまいますが(もちろんそれも重要でありつつ)、もう少し大きな視点で「鹿嶋」という地域を、どうテクノロジーで変貌させるのか、というアイデアが求められるように感じました。

そしてもしこのスキームで大きく社会実装に成功したスタートアップは他の地域でも大きくスケールする可能性が出てくるはずです。株だ!出資だ!なんて話もこのタイミングで出てくるのではないでしょうか。

スポーツクラブをハブとしたオープンイノベーションの取り組みは非常に理にかなっており、スポーツを中心にファンや地域、そしてテクノロジーが融合した先には、大きな果実が生まれそうな予感がすごくしています。

訂正:記事初出時に誤ってpoimoの別の搭乗写真を掲載しましたが、現在は正しい写真に差し替えてあります。訂正してお詫びいたします。

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