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Fortune 500の9割以上が使うクラウドサービス「Box」の技術トップSam Schillace氏にインタビュー

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今週は東京で新経済サミットが開催されており、アメリカをはじめ世界中からIT企業やテック・スタートアップのエグゼクティブが来日している。そんな中の一人、今年1月にニューヨーク証取に上場を果たした Box の 技術トップ [1] Samuel Schillace 氏が時間を割いてインタビューに応じてくれた。Samuel は後に Google Docs の原型となったサービス「Writely」を開発し、…

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左から:Box SVP of Engineering Samuel Schillace 氏、ボックス・ジャパン 代表取締役社長 古市克典氏

今週は東京で新経済サミットが開催されており、アメリカをはじめ世界中からIT企業やテック・スタートアップのエグゼクティブが来日している。そんな中の一人、今年1月にニューヨーク証取に上場を果たした Box の 技術トップ [1] Samuel Schillace 氏が時間を割いてインタビューに応じてくれた。Samuel は後に Google Docs の原型となったサービス「Writely」を開発し、Google へ売却したシリアル・アントレプレナーとしても有名だ。

エンタープライズ・ユーザのニーズを取り入れ、他サービスと一線を画すBox

アメリカの Fortune 500 企業の90%以上が使っているという Box は、同じクラウドでありながら、個人ユーザのコミュニティからエンタープライズへと浸透してきた Dropbox や Evernote とは、その市場戦略やサービス面で一線を画している。

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エンタープライズ・ユーザのニーズを取り入れ、共有したファイルのアクセス権限を細かく設定できるなど、セキュリティの確保という点でも一段上を行っているようだ。

アメリカにはいくつか自前のデータセンターがあるが、お客から預かっているデータを、違うロケーションの別なデータセンターでバックアップしている。さらに、そのバックアップしたデータのバックアップ(セカンダリ・バックアップ)として、AWS (Amazon Web Services) を利用したりしている。(Samuel Schillace 氏)

Dropbox やそれ以外にも多くのクラウドサービスが AWS をバックエンドに利用していることは広く知られている。もちろん、AWS のフォールトトレランス(耐障害性)に問題はないのだが、Box はバックエンドからユーザ・エクスペリエンス(UX)を提供するフロントエンドまで、サービス全体のアークテクチャーを一貫した流儀で貫きたいという思想を持っているようだ。

<4月13日13時訂正更新>

Evernote 広報より「Evernote はAWSをバックエンドに使っておらず、box さん同様に自前で管理しております。」との指摘がありましたので、当初の記述にあった Evernote が AWS を使っているとする記述を削除しました。

日本にも多くの顧客を抱える Box なので、おそらくサードパーティの提供する CDN [2] などは利用しているだろう。しかし、コアとなるバックエンドを自前で構築していくとなると、AWS を利用しているサービスなどと比べ、多拠点展開に時間がかかるのではないだろうか。日本の顧客がアメリカのサーバにアクセスするとなれば、レイテンシー(伝送遅延)の問題が気になるところだ。他のクラウド大手のように、日本にデータセンターを立ち上げる計画はないのだろうか。

日本にストレージは立ち上げる計画がある。具体的な日付を言うことはまだできないが、オープンするのはまもなくだ。特に SSL 通信ではユーザとサーバ間で5回のハンドシェイクをするので時間がかかる。だから、日本にストレージを配置すれば、スピードは格段に早くなる。

新経済サミットでも BGP [3] の最適化ソリューションを提供するスタートアップと話ができた。このような技術にも高い関心を持っている。(Samuel Schillace 氏)

仕事の概念を変えるクラウド

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Image credit: www.box.com

Box の日本法人、ボックス・ジャパンの社長を務める古市克典氏によれば、日本における Box のユーザは数百社にのぼり、その業態はメディア、ヘルスケア、製造業、建設会社、教育産業など多岐にわたる。現時点では名前を明かせないとのことだが、有名大学への Box の導入も決まっているのだそうだ。

筆者の記憶が正しければ、「セキュリティを考えれば、組織のメールサーバはオンプレミスじゃないと…」という雰囲気が企業の間でまだ強かった頃、Gmail(or Google Apps)が某大学に導入されて、そこからあらゆる組織のメール環境が Gmail にリプレイスされていった歴史を彷彿させる。クラウドサービスにとって、学術機関に採用されるというのは、ある種の〝キャズム越え〟の儀式みたいなものなのかもしれない。

新経済サミットでも、日本が OECD 参加国の中でも労働生産性の低い国にランクしていることが話題に上がっていました。一言申し上げたいのは、Box は単なるクラウドではなく、皆さんの仕事のやり方を変えるプラットフォームに成りうるということです。(古市克典氏)

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クラウドサービスが世に登場してから、仕事のやり方は大幅に変わった。その昔は、一つのプロジェクトに臨むチームは同じ部屋に机を並べて仕事するのが普通だったが、現在では物理的な場所や組織の枠組みを越えて、チーム・ビルディングされることも多くなった。フリーランサーはもとより、会社員でさえ社外の人たちと協業する機会はさらに増えていくだろうし、クラウドは、会社と従業員の関係にも新たな定義を求めるようになるだろう。

スタートアップ・コミュニティとの関わり方

海外のITサービスが日本市場に参入するとき、エンタープライズ向けには SI(システム・インテグレータ)を通じたパートナーセールスの戦略をとることが一般的だ。この点において、Box は伊藤忠商事、伊藤忠テクノソリューションズ、マクニカネットワークス、三井情報と協業関係にあるが、一方でスタートアップ・コミュニティとの関係も重視する必要があるだろう。例えば、クラウドサービスとして先行する Evernote は、ハッカソン・イベントなどを通じてコミュニティ・エンゲージメントに注力している。

サンフランシスコで Boxdev という1日カンファレンスを開催していて、年に一度、ユーザやデベロッパなどが一同に集まります。サードパーティ・デベロッパは、Box と連携可能なプラグインやツールを出していて、ワークフロー、セキュリティ・ツール、多機能プリンタにそのまま印刷物を出力できるものなど、数千件以上が「Box OneCloud」上で公開されています。(Samuel Schillace 氏)

サンフランシスコの本社以外に、現在、Box がオフィス拠点を構えるのはロンドンと東京。ロンドン・オフィスは EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)でのサービス展開をカバーする一方、東京オフィスは基本的に(アジアというより)日本市場に特化したマーケティング活動を行っている。このことからも、同社の日本市場に対する期待の表れを伺い知ることができるだろう。

話によれば、Sam は筆者とのインタビューを終えた後、東京のインキュベータを数カ所訪問するということだった。Box が日本のスタートアップ・コミュニティとどのように関わっていくか、今後の彼らの活動に注目したい。

Box OneCloud
Box OneCloud

<参考文献>


  1. 正式な肩書きは、SVP of Engineering。
  2. Contents Delivery Network。ファイルサイズの大きいデジタルコンテンツをネットワーク経由で配信するために最適化されたネットワークのこと。代表的なものに、Akamai や AWS CloudFront など。
  3. Border Gateway Protocol。データセンターや ISP などで扱われている上位層の通信手順。