(ケニアで)
ダイヤモンド社から2022年11月に刊行された、『Global EC Impact 全世界で売れ。』(重本憲吾・著)は、日本企業が「ECを梃子(てこ)にした海外事業成長」を実現するためのアプローチを、グローバル企業のベストプラクティスや現場での実事例に基づき徹底解説した書籍です。一足早くEC化が進んでいる中国のみならず、近年成長著しいASEAN、北米・欧州といった成熟国、インド・南米・アフリカといった新興国など世界各国の最新のEC動向を伝えています。
「ECはバリューチェーンの全体を磨く」。本書の編集を担当した花岡則夫の「編集後記」
日本国内のEC市場は確実に膨張しています。大手企業も、地方企業も、中小企業も全ての企業に等しく商機があります。国内EC事業を始めて短期間で数十億に伸ばした企業も現実にあります。
世界に目を向けると、日本とは比べ物にならないくらいのスピードでECが拡大し、それと共に市場も拡大しています。日本国内にいては分からない世界のEC市場の現実。貧しく市場が小さいと考えがちな中国の地方農村部の現実から、アフリカのEC市場の現実、南米の状況と、本当に驚く話だらけでした。日本でよく聞くアマゾンやアリババグループは、全世界でのシェアは大きくないどころか、小さいと言っても過言ではない事実を突きつけられました。
本書で重本憲吾氏が強調するように、グローバル大手EC企業はもはやECの枠組みを超え、顧客企業のビジネスをE2Eで支援できるリソースとシステムを構築しています。ECは単なる販売チャネルではなく、マーケティングチャネルでもあります。同時に重要なことは、大手EC企業は膨大なデータを活用してバリューチェーンの全体を磨き続けているのです。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、消費者の購買行動は実店舗からECへと向かいました。ECの売上は飛躍的に伸び、世界の消費額におけるECの構成比は2019年は12.5%でしたが、2021年には18.3%に増加しています。EC市場規模も3.2兆米ドル(約388兆円)にまで拡大したといいます(Euromonitor 調べ)。物流の技術革新と相まって、購買体験のDXは不可逆的に進行しており、今やEC活用の巧拙がグローバルでの競争力に直結する時代になりつつあるのです。
この潮流は、グローバル化に後れをとっている日本企業にとってチャンスそのものです。ECを梃子(てこ)にすることで、世界各国の消費者にスピーディーに商品を送り届けることができるだけではなく、認知向上やブランディングといったマーケティング活動も効率的に行えます。ポストコロナ時代の成長のカギは、「いかに有力EC企業との関係を強化し、彼らのビジネスソリューションを活用し尽くすか」にかかっているのです。
日本は人口も経済も下降線を描いています。事業拡大のためには世界市場に目を向けなくてはならないでしょう。その時、世界のEC事業を知っているか、そうでないかでは大きな違いです。
まずは本書で基本と現状を理解することをおススメします。(花岡則夫)
「EC・デジタルを梃子に、ポストコロナの事業成長を」。重本憲吾氏からのメッセージ
私が初めてプロジェクトで中国を訪れたのは2011年秋のことでした。その頃はアリババがW11(※)を開始して数年が経った頃で、日本でも「アリババがはじめた大規模ECイベントが活況らしい」と話題になりつつありました。とはいえ、当時はまだ日系企業がEC担当者を置くことはまれであったし、「生まれては消える数ある販売チャネルのうちの1つ」という位置づけでした。それが、あれよあれよという間に10年後の2021年となってみると、W11は流通総額5403億元(約10兆8060億円)の世界的なECイベントとして認知されています。
※W11(ダブルイレブン)は、シングルデー(11月11日)を祝った中国のECイベントで、世界最大のECイベント。
(インドネシアで)
(フィリピンで)
そして、現在ではECが販売チャネルのみならず、マーケティングチャネルとしても大きな存在感を示すようになったことは、本書でも示したとおりです。カルフールなどの近代小売チェーンが京東と組んでECプラットフォーム内に店舗を開いたり、B2BECを介してトラディショナルトレード(個人経営の零細小売)のデジタル実装を進めたり、まさに“EC everywhere”の様相を呈しています。さらに、中国では拼多多(ピンドウドウ)に代表される共同購入ECやフードデリバリー系ECが近年急成長するなど、プレイヤーの栄枯盛衰のスピード感もECチャネルの難しさであり面白さでもあると思います。
私自身、これまで数多くのEC企業との商談経験がありますが、2010年代前半の当時から、アリババや京東のバイヤーは、既存流通のバイヤーと比べ明らかに異なる“匂い”を発していました。年齢的にも20~30代と若く、流ちょうに英語を使いこなし、いかにECプラットフォーム上でメーカーと協働で顧客を創造するかを熱弁していた。まさに若き才能がECチャネルに結集しつつあったのであり、その後ECが消費者の支持を受けて急速にシェアを伸ばしていくのは、ある意味で必然であったと言えます。
(インドネシアの零細店舗オーナーが使用している「B2B EC」)
コロナが落ち着いた22年秋頃から、タイ、フィリピン、インドネシアなどのASEANから、さらにはケニア・タンザニアに至るまで、成長著しい各国市場を見て回りましたが、コロナ禍を経てさらにECが生活の現場に入り込んでいることを目の当たりにしました。特に「B2B EC」の伸びは顕著で、零細店舗のオーナーがスマートフォンのアプリを使ってB2B ECプラットフォーマーに商品を発注している様子が世界各国で見受けられました。コロナ中にメーカーや卸との対面営業が困難になったことや、オーナーがECの便利さに触れたこと等がその要因なのですが、世界同時進行でEC化の波が進んでいるのです。今後、「ECを制するメーカーが(オフラインも含めた)市場を制する」ことになるのは間違いないと思われます。
(ケニアで)
本書は、中国をはじめ世界各地でECシフトが進み、流通構造が変化する様子を10年余にわたって第一線で観察し続ける幸運に恵まれた私が、その知見、経験を集大成したものです。これまで、概して日系消費財企業の世界進出は後手に回ってきました。また、さまざまなところでポストコロナ時代の不安やリスクが語られる昨今でありますが、日系企業にとって、「EC」を補助線に引いて世界マーケットを見渡せば、実はポストコロナの世界はチャンスに満ちあふれていることを実感いただけると思います。長年の世界各地でのコンサルティングプロジェクトや市場視察を通じ、日系企業の「商品力」は欧米系やローカル系に負けないことは常々実感しています。ぜひ、EC・デジタルを梃子(てこ)に自社商品を世界各国の消費者に送り届けることで、ポストコロナにおいてさらなる事業成長を図っていただきたい。本書がそのための1つの羅針盤になり得るのであれば幸いです。
今後も「日本の良いモノを世界へ」をキーワードに、日系企業の皆様のGo To Market をご支援していきたいと思います。その最新成果は再度何らかの形でご報告できればと思っています。(重本憲吾)
重本憲吾(しげもと・けんご)
PwCコンサルティング合同会社 流通・消費財グループのパートナー。日系消
費財企業のグローバル成長を支援するチームのリードを務める。18年以上に
わたり、消費財メーカーを中心に、営業・マーケティングを含むバリューチェー
ン全般に対する経営コンサルティングサービスを提供。ロジックとクリエイティビ
ティを融合させた、改革の担い手である現場社員のエンゲージメントを高める
改革アプローチを得意とする。
2012年より活動拠点を中国・ASEANに移し、アジアでの日系消費財メーカ
ーの成長を支援するコンサルティングに従事。EC・デジタル強化、新規事業
立ち上げ、地方都市での配荷拡大、バックオフィス基盤の再構築など、現地
CXOの右腕として数々の変革アジェンダの構想から実行までをサポートして
いる。
PwC Japanグループ
PwC Japanグループは、日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバ
ーファームおよびそれらの関連会社の総称です。各法人は独立した別法人と
して事業を行っています。
複雑化・多様化する企業の経営課題に対し、PwC Japanグループでは、監
査およびアシュアランス、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務、そ
して法務における卓越した専門性を結集し、それらを有機的に協働させる体制
を整えています。また、公認会計士、税理士、弁護士、その他専門スタッフ約
10,200人を擁するプロフェッショナル・サービス・ネットワークとして、クライアン
トニーズにより的確に対応したサービスの提供に努めています。
PwCコンサルティング合同会社
PwCコンサルティング合同会社は、経営戦略の策定から実行まで総合的なコ
ンサルティングサービスを提供しています。PwCグローバルネットワークと連携
しながら、クライアントが直面する複雑で困難な経営課題の解決に取り組み、
グローバル市場で競争力を高めることを支援します。