インタビュー

黎明期のオンライン診療「ピル処方」スマルナはどう立ち上がったーーネクイノ・石井健一さん×ANOBAKA・萩谷聡さん【Monthly Pitch ポッドキャスト】

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 起業家と投資家の関係はこの10年で随分と変化しました。スマートフォンシフトといったトレンドの変化、Y Combinatorなどの登場でシード投資のハードルが一気に下がり、投資サイド・起業家サイド共に大きく数が増えたことが大きな要因です。特にシード期から志を共にするような場合、その関係は十数年に及…

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載

起業家と投資家の関係はこの10年で随分と変化しました。スマートフォンシフトといったトレンドの変化、Y Combinatorなどの登場でシード投資のハードルが一気に下がり、投資サイド・起業家サイド共に大きく数が増えたことが大きな要因です。特にシード期から志を共にするような場合、その関係は十数年に及ぶこともあります。事業における最愛のパートナーたちはどのようにして出会い、成長し、そしてその後の関係はどのようなものになるのでしょうか。

シード投資を長年に渡って手がけてきたサイバーエージェント・キャピタル(CAC)では、この「投資家と起業家」の関係に注目した連載を開始します。毎月開催される「Monthly Pitch」にこれまで参加してくれたキャピタリストと創業者のお二人をお招きし、出会いのきっかけや乗り越えたハードル、関係構築のポイントなど、ここだけでしか聞けない裏話を語っていただきます。

最終回となる今回、登場いただくのは2018年6月にリリースされたオンライン診療でピルを処方するアプリ「スマルナ」を提供するネクイノ代表取締役の石井健一さんと、創業期から二人三脚で事業成長を見守ったANOBAKAの萩谷聡さんです。ご自身も薬剤師である石井さんは医療におけるコミュニケーションをテクノロジーで改善し、医療空間と体験を変えるべく2016年にネクイノ(旧社名はネクストイノベーション)を創業します。

ビジネスコンテストをきっかけに萩谷さんたち投資家と出会い、オンライン診療黎明期の市場で果敢にチャレンジを繰り返します。本命と考えていたスマルナがリリースされる前後は、会社が持つかどうかギリギリの状況でしたが、この状況を見事乗り越え現在、若い世代を中心にピル処方のスタンダード・ソリューションに成長しています。立ち上がり期の市場をどう乗り越えたのか、お二人にお話を伺いました。(ポッドキャスト収録の一部をお送りします。太字の質問はMonthly Pitch編集部)

ースマルナが大きく躍進した時のこと少し振り返っていただいてもよろしいですか?

石井:ビジネスモデルが分かりづらい、業界が分かりづらい、勝ち筋が分かりづらいという状態でしょう?かつシード期で自信満々で入った花粉症のトラクションが上がらないという状態だったので、2018年の夏に入って下さった投資家の方々には、シード期の方々と同じように、「よくぞ会ってくださいました!」っていうのが正直なところですね。ただ、これってスマルナが動いていた直後なんですよ。そのスマルナの手応えがとてつもなく良くて、もう絶対にこれは何とかなるなと思って動かしていたのを覚えています。

ー萩谷さんにとって、その信頼度は全く揺るがないものだったんですか?

萩谷:そうです。花粉症や他の疾患についても、なかなかな刺さり具合だなと思ってるタイミングで、「スマルナ」という女性向けサービスを出した瞬間の足元のニーズが凄くて。もう、これは本当にPMFというか、ツイッターでもいい口コミがいきなりガーンと流れているし、やっぱり違うなと。でも、その時トラクションとしてはまだまだだったんですけど、ここに絞れば行けるかなと、僕らもフォロー投資して、他の投資家も紹介しやすくなったという感じでしたね。

ー企業家のギリギリのストーリーってよく聞きますけれど、通帳残高50万円はなかなかしびれますね

石井:そんな中、5月に3人採用してるんですけどね(笑)。その内の一人が出てるので、皆様、ぜひネクイノのウォンテッドリーを覗いていただければと思います。開発の柱になっているメンバーがその時期に入ってくれています。

ー社員数はいま何人ですか?

石井:全員で90人ぐらいですね。

ー2018年8月は奇跡のステージだったと思います。そこからスマルナはダウンロード数を積み上げていって、その翌々年には20万ダウンロードとなり、昨年12月には累計調達額20億円。ここまでの道のりで成長痛などありませんでしたか?

石井:毎日が成長痛ですかね。一つ言えるのは、僕、あちこちでよく喋らせていただくんですけど、やっぱり仕事するのって何をするかじゃなく、誰とするかのほうが大事だと思ってるんですよ。ネクイノを作る前に一緒に仕事をしていたり、知り合いだったメンバーがネクイノの1周目のメンバーなんですよ。彼らのほとんどが今も会社に残ってくれていて、今まさに役員として柱となってくれているんです。よく、スタートアップのシリーズA前後で、さぁ右腕どうする?左腕どうする?みたいな議論ってあるじゃないですか。そこは完全にパスで来ました。

ーそれはいいですね

石井:ただ、これ、一方で最初はめちゃくちゃバーンが高いんですよ。バーンが高いので、よくぞ萩谷さんが飲んでくれたと思っています。

萩谷:起業家みたいな方が最初からチームメンバーにいて、切れ者の方も多かったので、その辺りは任せられるっていう感じでしたね。一発目のラウンドもすごく少額という感じではなく、ニッセイとうちで7,500万ぐらいの出資だったので、しっかり集められたというところが良かったかもしれないですね。

ーーーポッドキャストではそのほかのエピソードも語っていただいています。シード期の起業家が投資家とどのようにコミュニケーションしたのか、ぜひお聞きください。

生活を変えるスマートホーム、HOMMAの戦略と挑戦

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コロナ禍において大きく考え方が変わったもののひとつに暮らし方、働き方があると思います。企業も敏感にその流れを受け止めていて、例えばJR東日本とKDDIは、品川駅を中心に地方へサテライト拠点をつくる分散型のまちづくり事業をスタートさせています。また、生活用品大手、無印良品では2015年から地域のくらしにフォーカスした情報発信活動「ローカルニッポン」を開始していますが、このライフスタイルの変化により二…

HOMMA創業者・CEOの本間毅氏

コロナ禍において大きく考え方が変わったもののひとつに暮らし方、働き方があると思います。企業も敏感にその流れを受け止めていて、例えばJR東日本とKDDIは、品川駅を中心に地方へサテライト拠点をつくる分散型のまちづくり事業をスタートさせています。また、生活用品大手、無印良品では2015年から地域のくらしにフォーカスした情報発信活動「ローカルニッポン」を開始していますが、このライフスタイルの変化により二拠点生活やワーケーションといった「別の視点」がより強く加わることになりました。地域の魅力発見だけでなく「自分ゴト」として考える人も増えたのではないでしょうか。

ライフスタイルの変化で最も大きな割合を占めるのが衣食住の中の「住」です。

雨風を凌ぐものであり、家族というコミュニティを育む場所であり、そして資産としての側面もあります。さまざまな機能を兼ね備えた「住」ですが、スマートデバイスの数々や車におけるTeslaのようなダイナミックなイノベーションはまだ起こっていない領域で、特に国内における戸建て住宅の市場は新規着工の住宅数が43万戸(2019年・建築着工統計調査)で横ばい、事業社についても2013年の飯田グループHD(住宅系6社が統合)や2020年のPLT(パナソニック系とトヨタ系が統合)が誕生するなど「熟成」が進みつつある市場とも言えます。

大きな転換点にあってやや停滞した巨大市場に対し、ダイナミックな変化を仕掛けようというのがHOMMAです。シリコンバレーを拠点に、日本人の連続起業家である本間毅氏がスタートアップさせたこの取り組みは何度か本誌でも取り上げさせていただきました。

同社は今年5月にシリーズAラウンドのファーストクローズを終え、800万ドルの調達に成功しています。出資したのは既存投資家のB Dash Ventures、Mistletoe、D4V、Convertible Note(転換社債)でレモンガス、城東テクノ、野原ホールディングス、Goldengate Investment Clubがフォローオンとして参加しています。

また、新規の投資家としてNTTドコモ・ベンチャーズ、コクヨ、プロパティーエージェント、アクアクララ、サニーサイドアップ、個人投資家として杉原章郎氏、大前創希氏、藤野英人氏、藤森義明氏、石塚亮氏らも参加しています。同社のこれまでの累計調達額(株式のみ)は約2,600万ドルに到達しており、これら調達した資金でHOMMAの住宅およびスマートホーム技術の開発強化を進めるとしています。

HOMMA HAUSの体験

HOMMA HAUS Mount Tabor

HOMMAが開発する「HOMMA HAUS」は独自に開発した「Cornerstone AI」というスマートホームプラットフォームをビルトインした住宅です。複数のIoT機器やセンサーを住宅に組み込むことで、住んでいる人に合わせて家が動く、そういった体験を提供しようとしています。実際に住んでいる本間さんにどのようなものになっているのか尋ねたところ「感じないぐらいに自然」な体験を実現できているとお話してくれました。

例えば生活の中で何度もやっている照明の操作は、自分たちでも気が付かないほど当たり前の行動になっています。しかし、HOMMA  HAUSでは人が入ることで明かりが灯り、仕事の時間には自動的に調光して青い光を、リラックスしたい時には温かい光に変更してくれるなど、自分のライフスタイルに家が合わせて動いてくれる、と表現されていました。

空調についても、センサーが家に組み込まれているので、人の動きを感知して家が操作してくれるといった具合です。キーレス、エアコンレスといったコントロールを必要としない(※念のためマニュアル操作のパネルはあるそうです)生活は、一度慣れてしまうと元に戻れないスムーズな体験になるのだとか。これらの機能はネットを通じてアップデートがかかります。

※修正:操作パネルではなく操作が可能なアプリでした。修正させていただきます。

また、家単体ではなく、コミュニティとしてのHOMMA HAUSも魅力のひとつです。

HOMMAは住宅という大掛かりな仕組みをアップデートするため、ステップバイステップの戦略を組んできました。テストモデルのHOMMA ZEROは現在、同社のオフィスとしても活躍しており、その次のHOMMA ONE(一戸建て)はすぐに買い手がつきました。これらの建築・分譲ステップを踏みながら、本間さんたちは開発ノウハウと分譲販売のファイナンシャルモデルを設計したそうです。

HOMMA HAUS Mount Tabor

現在、HOMMAでは昨年11月から18戸のHOMMA HAUSが立ち並ぶ分譲戸建ての HOMMA HAUS Mount Taborを建築中です。特にお話を伺っていて興味深かったのがコミュニティだからこそできるサービスの可能性です。HOMMA HAUSにはスマートロックやセキュリティが家自体にインストールされているため、例えば掃除や宅配、メンテナンスといった外部サービスを自宅にいることなく受けることが考えられます。この際にも事業社としては一定の数がまとまっている方が当然、スケールメリットを見出しやすくなります。

本間さんは自分たちだけで建てるプロジェクトをステップ2と称しており、今後の可能性としてHOMMA独自のスマートホーム・プラットフォームのテクノロジーをライセンスするという考え方も示してくれました。

前述した通り、特に国内の戸建て住宅市場は横ばいが続いており、空き家についても2033年には1955万戸(2018年は846万戸・住宅土地統計調べ)に拡大するという試算があります。スタートアップが単独で街を作るという考え方はやや時間軸に問題があるかもしれませんが、例えばこういった空き家の課題を既存プレーヤーと一緒にアップデートしたり、大手ホームビルダーが差別化要因として彼らのプラットフォームを採用するなどすれば、ダイナミックな動きが期待できるかもしれません。

実際に自分たちがホームビルダーとして建てたからこそ分かるペインポイントも強みだとお話されていました。

サステナビリティへの取り組み

スマートホームで売却1号となったHOMMA ONE

インタビューの終わり、本間さんは家づくりをした経験から持続可能な社会への取り組みについても考え方を教えてくれました。そもそもスマート化することでの節電や環境負荷の低い建材を使うなど、見える形の行動をされているそうなのですが、それ以上に印象的だったのが地域社会とのつながりについてでした。

冒頭に書いた地域分散の考え方はコロナ禍で一気に大きな転換点を迎えたと思いますが、やはり都会の生活に慣れた人が突然、生活環境を大きく変えるというのは心理的な負荷がかかります。しかし、もし、その街に従来使っていたものと同様のスマートなインフラが整っていたらどうでしょう。

現在はまだ頭の中の話、としつつ、本間さんは地域にHOMMAのプラットフォームをインストールしたコミュニティを創るアイデアを教えてくれました。この方法は既存のホームビルダーと連携して実施する考え方で、実現すれば、意外と早くにワークフロムローカルが現実のものとして目の前に現れるかもしれません。

コロナ禍によってライフスタイルに発生した大きな変化は私たちの生き方や働き方、家族との向き合い方に大きな影響を与えました。元に戻すことが難しくなった今、パラダイムの扉は大きく開きます。そこにどのような体験を用意するのか、テクノロジー・スタートアップの役割が問われることになりそうです。

創業から10年、「バーチャル経理アシスタント」へのピボットで生き残ったメリービズが描く未来

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国税庁のデータによれば、企業が設立されてから10年経過して生き残っている確率は6.3%。もっとも、時代ニーズの変化に迅速に呼応するのがスタートアップの得意技なので、失敗した事業は早々に閉じ、心機一転して新たな事業に臨むというのも賢明な判断だ。しかし、やはり一つの新会社が10年以上続くというのは賞賛に値することである。アメリカの独立記念日に創業したというそのスタートアップは今日から11年目の事業期に…

左から:取締役 太田剛志氏、代表取締役 工藤博樹氏、取締役 山室佑太郎氏
Photo credit: Michael Holmes

国税庁のデータによれば、企業が設立されてから10年経過して生き残っている確率は6.3%。もっとも、時代ニーズの変化に迅速に呼応するのがスタートアップの得意技なので、失敗した事業は早々に閉じ、心機一転して新たな事業に臨むというのも賢明な判断だ。しかし、やはり一つの新会社が10年以上続くというのは賞賛に値することである。アメリカの独立記念日に創業したというそのスタートアップは今日から11年目の事業期に突入した。バーチャル経理アシスタントのメリービズだ。

10年前、経費の記帳代行サービスから始まった同社は、その後、記帳だけではなく経理業務を包括的に請け負うバーチャル経理アシスタントへとピボットを図った。この時ピボットができていなかったら、今のメリービズは存在しなかっただろうと、メリービズの創業者で代表取締役の工藤博樹氏は4年前を振り返る。この頃、ピボットを支援すべく参画したのが太田剛志氏であり、彼はその後、取締役に就任。もう一人の取締役である山室佑太郎氏は、インターンから取締役になったというメリービズの歴史を知る人物である。

ピボットは成功だったと言っていいだろう。大きな投資さえしなければ事業は黒字化しているが、そこはスタートアップなので計画は常に前のめりだ。バーチャル経理アシスタントが軌道に載ったという外部的な評価も得られたのだろう。同社はピボットして約1年後の2018年6月(発表は同年9月)に、みずほフィナンシャルグループ系総合リース大手の芙蓉総合リース(東証:8424)と、芙蓉総合リースの子会社アクリーティブから1億5,000万円を調達。その後、芙蓉総合リースから追加調達し持分法適用会社となっている

記帳代行を事業の柱にしていた頃、サービスをもっとテクノロジー寄りに振ろうとしていた。しかし、ユーザさんから、記帳代行だけでなく経理業務をまるっとやってもらえないか、と言われたのが事業転換のきっかけになった。当初は中小企業をターゲットにしていたが、今では多くの大手企業が経理業務を任せてくれている。経理業務まるごとのところもあれば、経費精算、記帳・仕訳入力、請求書発行だけなど、依頼される範囲はさまざまだ。(工藤氏)

先週オンライン開催された MerryBiz の10周年記念イベントの一コマ。
Photo credit: MerryBiz

大手企業で社内に経理が無いというケースは稀だろうが、働き方改革やコロナ禍のリモートワーク増で、残業を減らしたい、出社しないで経理が回る体制を作りたいなど、時流はメリービズに味方している。成長著しいスタートアップが  WeWork に入居するように、事業成長に経理の要員体制が間に合わない会社がメリービズを使うケースもある。最近では、J-SOX(内部統制報告制度)対応など大規模ユーザならではのニーズも寄せられるようになり、メリービズでは機能整備や追加にも余念がない。

10年前の創業時に、いきなりバーチャル経理アシスタントを始められたか、というと、それは無理だったと思う。一つには、受け入れてくれるユーザ企業側のケイパビリティの課題。そこへ SaaS のカルチャーが浸透してきて、企業経営の核となるデータを外部委託することに、かなり抵抗感は無くなった。現在の我々の立ち位置は、経理業務の外部仮想化みたいなところ。これをバックオフィス業務全般の仮想化にまで広げていけないかと思っている。(工藤氏)

現在は、芙蓉総合リースの持分法適用会社のメリービズだが、無論、これは工藤氏が目指した最終的なイグジットの形ではない。昨年、経費精算ソリューションを開発するクラウドキャストが MTI の傘下に入ったときに、彼らはそこから IPO を目指すことをお伝えした。時代のニーズやトレンドに歩調を合わせる必要があり、B 向けにサービス浸透の時間を要するフィンテックスタートアップにとっては、大企業をタッグを組んでサービスを強化しながら時を待ち、タイミングを見計らって一気に波に乗る手法は良策なのかもしれない。

工藤氏は、メリービズがビジネスのインフラになることをミッションに掲げており、「この仕組みで社会的なインパクトをもたらすことができた」と確信を得るためにも IPO を目指したいと語った。また他方で、さまざまな理由で仕事に出られない人たちに、自宅にいながら専門知識を生かして十分な収入が得られる仕組みを創出できたことも意義深い。前年比75%のスピードで成長する需要に応えるべく、同社では今後、現在1,000人ほどいる在宅プロ人材の拡充をさらに強化する計画だ。

街づくりからCaaSへ、サービス開発を通じて組織のDXに取り組む東急とフラーの挑戦

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けします! Sign Up 少子高齢化や労働人口減少はさまざまな業界に影響を与えますが…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。

少子高齢化や労働人口減少はさまざまな業界に影響を与えますが、特に移動する人々の利用が売上に直結してきた鉄道会社にとっては悩ましい現実です。東急では長年にわたる事業多角化の努力が功を奏し、2020年3月期で交通事業は全体売上に占める割合は17.4%と低く抑えられています。同社が新規事業開発の一環として、スタートアップとの事業共創に向けた活動に着手したのは、鉄道会社の中でもかなり早かったのは偶然ではないでしょう。

東京の城南・城西エリアから横浜に連なる地域を事業エリアとする東急は、これまでも地元住民らと連携した街づくりに傾倒してきました。それらは現在、CaaS(City as a Service)構想に代表されるデジタルとリアルを融合させた街づくりへと進化し、東急のグループ会社のみならず、スタートアップを巻き込んだ活動へとつながっています。日本の中でも最も住民人口が多いエリアを変化させていくことは、日本の将来像を想起させる〝大きな社会実験〟とも言えます。

今回はスタートアップとの共創を数多く展開する東急と、創業10年目にして国内数カ所に拠点を構える自由な勤務形態を実践するフラーとの取り組みを取り上げます。東急で CaaS 構想を推進する小林乙哉さんと、アプリの開発を通じてこのプロジェクトに関わるフラーの林浩之さんにお話を伺いました。

街づくりから CaaS へ——時代に応じたサービスの変化

鉄道会社各社は創業当初から、地方自治体や地域住民らと深く連携して街づくりに関与してきました。東急にとって、渋沢栄一氏が創業した田園都市株式会社が東急のルーツの一つであり、鉄道事業よりも先に街づくり事業が存在したことは興味深い事実です、田園調布や田園都市など、世界的にも評価の高い街づくりに東急が傾倒してきたのは、そんな渋沢氏や創業者の五島慶太氏の遺志が深く DNA として刻まれているからなのでしょう。

東急アクセラレートプログラム2020デモデーの様子(写真提供:BRIDGE)

従来からの街づくりに代えて、東急が CaaS に取り組み始めた背景について、小林氏は次のように説明します。

これまでの街づくりは、行政や、東急含む大企業など一部の組織が担ってきましたが、今後の人口減少社会においては行政や企業のできることは限られてきています。街の個性を生かして、街をより良くして持続可能な状態にするには、地域の住民や事業者の方々の主体的な取り組みが重要になってきます。(東急 小林さん)

田園都市株式会社の設立から101年目を迎えた2019年9月2日、東急は東京急行電鉄から社名を変更。この際に発表した長期経営構想の中で、2050年に向けたプランとして「東急ならではの社会価値提供による世界があこがれる街づくりの実現」を掲げており、その実現の肝となるのがオープンイノベーションであり、具体的な構想の一つとして打ち出されたのが CaaS です。この構想では認証、決済、センシングなどの技術を基盤に、得られたフィードバックを社会課題解決や都市政策に反映することを目指します。

CaaS では、地域の住民や事業者の方々に活動の主体となって頂きたいのですが、現状はまだ、そうした方々に街づくりへ関与してもらうための仕組みが社会的に整備されていません。その足掛かりとして取り組むことになったのが、フラーさんと共同で開発しているアプリ「common(コモン)」です。

common は、駅を基点とした特定の地域内の人たち同士のコミュニケーションを支援します。今年3月にリリースしたばかりですが、当初は地域の人同士で話題交換ができるよう、「投稿」と「質問」という2つの機能を提供します。〝デジタル化された街の掲示板〟と捉えていただければわかりやすいです。住民や事業者の方々が街のことに直接関われるようにすることを目標にしています。(東急 小林さん)

受発注の関係ではなく、デジタルパートナーとしてプロジェクト参加するフラー

「common」サービスイメージ

2011年に創業したフラーは、モバイルアプリやアプリデベロッパ向けのサービスを数多く開発してきました。創業者の出身地である新潟、創業地つくばと東京をつなぐ中間地点にあたる柏の葉の2カ所に本社を構え、従業員は現在100名ほどに上ります。ここ4年ほどは目立った資金調達を発表していなかったフラーですが、今年3月には地方創生事業の支援を念頭に置いた「KDDI Regional Initiatives Fund」から投資を受けました。これまでに培った技術を使って、街のデジタルトランスフォーメーションにも注力します。

東急様が「ビジョンが存在し、どう具現化していくのか」という最上流の段階でフラーにお声がけいただいたのはよかったです。その段階で協業に移れたことで「戦略の立案」から並走することが出来ました。ビジョンのレイヤーから意識を合わせることができ、ともに先々の将来像を目指す体制が構築出来ました。

ハードな街づくりに強い東急ですが、デジタル領域でも生活者を知り、よりよい柔軟な街を提供することが求められています。東急にとって最大の要素は「デジタル人材の不足」、その領域における蓄積されたノウハウや経験が薄いことも課題でした。そこでフラーはデジタル戦略の立案およびサービス設計の出来る人材を中心に開発チームを組成しました。(フラー 林さん)

林氏が「協業」という言葉で説明しているように、東急とフラーの間柄は、この種のアプリ開発にありがちな受発注の関係ではありません。日本で長年続いている従来型の責任分界点を明確化するシステム開発の現場では、発注側が RFP(提案依頼書)を書き、それに基づいて、受注側が実装方法を提案し、発注側に RFP を書ける人がいなければ、コンサルファームが発注側に入って支援することもしばしばです。ただ、今回のような CaaS のケースでは、何に取り組むかを一から共に考える必要があリました。

小林氏によれば、東急は CaaS に関わるデジタル人材のチームの内製化を目標に掲げています。このことは契約前段階でフラーにも伝えられていて、今回のプロジェクトでは、フラーは東急から受託開発する立場ではなく準委任契約とすることで、フラーの開発チームが東急の内製組織同様にワークできるようにしました。一般的な IT 企業では考えにくいことですが、フラーの開発陣が持つスキルやノウハウは次第に東急社員にトランスファーされ、東急はアプリの開発などを通じて、組織としてデジタルトランスフォーメーション(DX)を目指すことができます。

従来の受発注関係でなく、IT ベンチャーが大企業の人材の一部機能を担う存在となって、中から組織を DX していくやり方は、提供するサービスに加えて自らも変革を加速できるという点において、一石二鳥と言えるでしょう。アプリ common もまた、開発・リリースして終わりではなく、東急とフラーの混成デジタルチームの成長に応じてアップデートされていくので、ユーザもその変化を楽しみにすることができます。

編集部では引き続き共創の取り組みをお伝えしていきます。

起業家と「アートをシェアする」価値を信じた投資家たちーーANDART・松園詩織さん × 藤田ファンド・坡山里帆さん【Monthly Pitch公開取材】

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本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 起業家と投資家の関係はこの10年で随分と変化しました。スマートフォンシフトといったトレンドの変化、Y Combinatorなどの登場でシード投資のハードルが一気に下がり、投資サイド・起業家サイド共に大きく数が増えたことが大きな要因です。特にシード期から志を共にするような場合、その関係は十数年に及…

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

起業家と投資家の関係はこの10年で随分と変化しました。スマートフォンシフトといったトレンドの変化、Y Combinatorなどの登場でシード投資のハードルが一気に下がり、投資サイド・起業家サイド共に大きく数が増えたことが大きな要因です。特にシード期から志を共にするような場合、その関係は十数年に及ぶこともあります。事業における最愛のパートナーたちはどのようにして出会い、成長し、そしてその後の関係はどのようなものになるのでしょうか。

シード投資を長年に渡って手がけてきたサイバーエージェント・キャピタル(CAC)では、この「投資家と起業家」の関係に注目した連載を開始します。毎月開催される「Monthly Pitch」にこれまで参加してくれたキャピタリストと創業者のお二人をお招きし、出会いのきっかけや乗り越えたハードル、関係構築のポイントなど、ここだけでしか聞けない裏話を語っていただきます。

今回のゲストはサイバーエージェントグループ出身の起業家、ANDARTの松園詩織さんにお越しいただきます。学生時代にインターンで参加したスタートアップ「アトコレ」での経験を元に、CyberZ時代にも新しい事業の立ち上げに果敢に挑戦した松園さんは自然と起業の道を歩むことになります。

しかし、彼女が選んだテーマは「アートのシェア」。説明コストが高すぎるスタートアップは投資家から嫌厭されますが、彼女の可能性を見出していた「藤田ファンド」は出身者枠から出資することを決定します。その後もGMOインターネットの熊谷正寿さんや幻冬社の見城徹さん、アトコレ創業者でそれぞれが起業家として成長した成田修造さんや中川綾太郎さん、石田健さんなど錚々たる面々を味方につけていきます。

そして今、NFTの登場で大きく潮目が変わりつつあるアート市場で次のステップに進もうとしている松園さんに、藤田ファンドの坡山里帆さんと共にお話を伺いました。(ポッドキャスト収録の一部をお送りします。太字の質問はMonthly Pitch編集部)

ー今日は本当にいい話が聞けると思うんですけれど、いわゆる投資家の方々が最も嫌う「分かりにくいサービス」ですよね

松園:そうなんです。まさに、「家で飾れないってどういうこと!?」っていうのがあるんですよね。この1〜2か月で、デジタルで資産を持つとか、たとえばスニーカーのサービスなど、ファッションをデジタル上で持つようなものが出てきて、やっとちょっと伝わり始めていますが、立ち上げ時はハテナの嵐でたいへんでした。

ー「月の土地を売ります」という話とそんなに変わらないですからね。これだけ分かりにくいサービスで、しかもアート領域でというのは説明するのがかなり大変だったと思います。ANDARTの資本政策として、どういう方々が投資家に入っているかという部分を教えてもらえますか

松園:まず、私自身がファウンダーとしてお金をかき集めるところから始めて、サイバーエージェントの同僚の高木と2人で立ち上げたところから始まっているんですが、藤田社長率いる藤田ファンドさんがまずイエスを下さったのを皮切りに、幻冬舎の見城社長、GMOインターネットの熊谷社長が最初の本当に何もないところから、「まあ、おまえがやるんだったらなんとかなるんじゃないの」という期待値のみで支援してくださったというのが正直なところだと思います。

ー坡山さんはその頃、藤田ファンドとしてのお付き合いがあったんですか

坡山:松園さんは会社の大先輩ではあるんですけど、お会いしたのはピッチを聞き、藤田ファンドとして投資を検討させていただいたところからですね。松園さんと高木さんのお二人にお会いして、という感じです。

ー松園さんは、元CyberZですよね?その頃の経験をお話しいただけますか

松園:CyberZを選んだのは、先輩に、いちばん厳しい環境を教えてくださいと聞いて回って、多く声が上がったのがCyberZだったからでした。まずは営業をやらせていただいたんですが、社内のビジネスコンテストが定期的にあり、一年目の後半にはYouTuberのマネージメントおよびPRを行い、それをマーケティングとして活用させていただくという新規事業を提案したところ、「じゃあお前やれば」って言われて。外部からのアルバイトを2、3人雇わせてもらってゴリゴリ回していました。

ーーーポッドキャストではそのほかのエピソードも語っていただいています。シード期の起業家が投資家とどのようにコミュニケーションしたのか、ぜひお聞きください。

アニメ・マンガを起点にスタートアップとの共創めざす大日本印刷(DNP)

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 KDDI ∞ Laboの事業共創プログラム「∞の翼(ムゲンノツバサ) 」は、大企業2社以上で策定した事業テーマに基づき、スタートアップと共に新規事業創出を目指すプログラムです。2021年度は、事業の要となる MVP(Minimum Viable Product)のローンチを目指します。 ニュースレター…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDI ∞ Laboの事業共創プログラム「∞の翼(ムゲンノツバサ) 」は、大企業2社以上で策定した事業テーマに基づき、スタートアップと共に新規事業創出を目指すプログラムです。2021年度は、事業の要となる MVP(Minimum Viable Product)のローンチを目指します。

本稿では、今年度の「∞の翼」に参加するパートナーの一社である大日本印刷(以降、DNP)にお話を伺いました。採択されたスタートアップ、DNP、KDDI の3社により、これまでにないアニメ・マンガIP(知的財産権)を活用した、新しい価値を提供するビジネスの創出を目指します。

 

DNP の歴史——受託、自社事業、そして共創へ

DNPは出版印刷業を祖業とする会社です。DNPの前身は、1876年に創業した秀英舎と1907年に設立した日清印刷で、1950年頃までは、出版印刷を中心とした事業を行ってきました。その後、印刷技術の応用によって事業領域を拡大する「拡印刷」を推進、印刷する対象を紙からフィルムや金属などに拡げることで、包装や建材、エレクトロニクス製品までを手がける総合印刷会社へと発展しました。さらに1970年代には印刷用の組版をコンピューターで行うCTSを導入し、そのデジタル化のノウハウがその後のICカードやネットワーク関連のビジネスで活かされました。そういった意味では、我々がデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼んでいるのに近い大きな転換を、DNPは約40年も前に経験していたことになります。

社会環境が大きく変化する今、DNPは、「P&I(印刷と情報)」の強みを活かし、さまざまなパートナーとの対話・協働を通して、将来にわたって人々や社会に価値を提供することを目指しています。2021年3月期からの3か年の中期経営計画では、イノベーションによる新たな価値創造が柱に据えられ、「知とコミュニケーション」「食とヘルスケア」「住まいとモビリティ」「環境とエネルギー」の4つの成長領域で事業注力することが明らかになっています。また、受託事業のみならず、自社事業、そして共創事業にも取り組むことで、さまざまなパートナーの強みと自社の強みを掛け合わせ社会課題解決につながる価値を生み出そうとしています。

今回の「∞の翼」でスタートアップとの共創に手を挙げていただいたのは、DNP コンテンツコミュニケーション本部 イベント・MD推進部の皆さんです。前述した中期経営計画でも記された DNPが注力する成長領域の一つ「知とコミュニケーション」の一翼を担っています。コンテンツコミュニケーション本部の目標は、受託・自社・共創の類を問わず、コンテンツ分野に特化してコミュニケーションをサービス化し、それを事業化していくこと。その象徴的存在が、今年4月に渋谷モディに開設された「東京アニメセンター in DNP PLAZA SHIBUYA」です。

共創を象徴する場として、渋谷にオープンした東京アニメセンターin DNP PLAZA SHIBUYA

東京アニメセンターとは

東京アニメセンターが創設されたのは、2006年の秋葉原。当初は、アニメプロダクション各社が加盟する一般社団法人日本動画協会(The Association of Japanese Animations、以下:AJA)がアニメ産業の発展と情報発信の場として展開していました。DNPは2017年にAJAと提携し、東京・市谷のオープンイノベーション施設「DNP プラザ」内に「東京アニメセンター in DNP PLAZA」を開設。さらに、今年に入り、DNPはパートナーの強みを掛け合わせ、リアルとバーチャルの双方を行き来できる新しい体験価値と経済圏を創出する「XR コミュニケーション事業」を打ち出し、これを具現化する場所の一つとして東京・渋谷のモディ内に「東京アニメセンター in DNP PLAZA SHIBUYA」としてリニューアルオープンしました。

東京アニメセンターが紹介するテーマであるXRのアプリ「HoloModels」を使ったクレヨンしんちゃんのコンテンツ
©臼井儀人/双葉社 ©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK ©HoloModels™/©Gugenka®
引用元:https://gugenka.jp/digital/holomodels_shinchan.php

この新しい東京アニメセンターで、DNPはアニメ・マンガ・ゲーム等のコンテンツホルダーと協業し、リアルとバーチャル双方の多様な表現手法を使ってコンテンツの魅力を発信します。ここを「XRコミュニケーション事業」の基軸となる拠点として、生活者とコンテンツ・企業をつなぐ新しいコミュニケーションモデルの創出を推進しています。東京アニメセンターではコンテンツホルダーの協力を得て、企画展形式でさまざまなキャラクターとXRの融合事例を体験させてくれます。オープンを記念した初回の企画展は、「原作30周年記念展 クレヨンしんちゃん オラのミリョク新発見だゾ」を開催しました。

「リテールテイメント」を実現する DNP の自動販売機
大阪・心斎橋PARCO内のクレヨンしんちゃんオフィシャルショップ「アクションデパート心斎橋店」に設置
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK
引用元:https://www.dnp.co.jp/news/detail/10158923_1587.html

また、DNPではアニメキャラクターとコミュニケーションできる特典を提供する、小売(リテール)と娯楽(エンターテイメント)が融合した買い物体験「リテールテイメント」というコンセプトを生み出しています。この体験を実現するサービスの一つは DNPが開発した自動販売機で、情報表示用のディスプレーを搭載し、キャラクターグッズの購入時に、商品に応じた特典コンテンツの表示やキャラクターとの合成写真が撮影できます。また、購入時のディスプレーに表示された2次元コードをスマートフォン等で読み取ることで、撮影した写真が自分のスマートフォンに転送されたり、バーチャルなイベントに参加したりすることができます。

「スタートアップと共に、これまでに無かったビジネスを創造したい」

東京アニメセンターの企画展内スクリーンエリアで、スタートアップとの共創について語る DNPの渡邉氏、上田氏、モタイ氏
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK

今回の「∞の翼」では、幅広な顧客基盤やソリューションを持つDNP、通信インフラやパートナー連合を有するKDDI、さらに、アニメやマンガといったIPを持つコンテンツホルダーとの関係性がある中で、スタートアップからのユニークな提案が求められます。DNPでは、展示でもない、リアルグッズでもない、イベントでもない、これまでに無かったアニメ・マンガ起点の新しいサービスの提案に期待しています。今年度の「∞の翼」の目標としてMVPのローンチが掲げられているように、上田氏はDNPとしても「東京アニメセンターを通じて生活者に実際に提供させていただき、具体的なサービスモデルのイメージが描けるような形まで、プログラムの中で推進していきたい。」と強調します。

スタートアップとは、その会社ならではの技術と我々のアセットとを組み合わせることで、MVPを作り上げていきたいと思いますが、提案いただくものは、ハードウェア、ソフトウェアを問いません。中には、ブロックチェーン、NFT、インフラとなる技術も活用できると考えます。

企業向けへの展開も、十分に可能性があります。例えば、東京アニメセンターで生活者に接客するキャラクターも、東京アニメセンターを飛び出して、小売店舗の店頭で接客することも可能です。様々な業界に対して、コンテンツを活用したコミュニケーションモデルの創出=ビジネスの発展につながると考えています。(上田氏)

DNP自らがアニメやマンガのコンテンツホルダーなわけではありませんが、彼らが強固な関係を持つコンテンツホルダーや、アニメプロダクションらに共同で事業提案などが可能であるため、スタートアップ単独では難しい事業展開のハードルをかなり下げることができます。ここからスタートアップとの共創で生まれる新たなサービスは、日本のみならず、海外のアニメファンらも魅了する可能性があります。DNPやKDDIは必要に応じて、そういった海外展開の側面支援にも対応するそうです。これまでに見たこともない、アニメ・マンガ起点の新サービス・新ビジネスの誕生に向けて、アイデアと野望に満ちたスタートアップの参加を楽しみにしたいと思います。

ソニー・ミュージックエンタテインメントがスタートアップと取り組む、新たなファンビジネスの創出

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 KDDI ∞ Laboの事業共創プログラム「∞の翼(ムゲンノツバサ) 」は、大企業2社以上で策定した事業テーマに基づき、スタートアップと共に新規事業創出を目指すプログラムです。2021年度は、事業の要となる MVP(Minimum Viable Product)のローンチを目指します。 ニュースレター…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDI ∞ Laboの事業共創プログラム「∞の翼(ムゲンノツバサ) 」は、大企業2社以上で策定した事業テーマに基づき、スタートアップと共に新規事業創出を目指すプログラムです。2021年度は、事業の要となる MVP(Minimum Viable Product)のローンチを目指します。

本稿では、今年度の「∞の翼」に参加いただくパートナーの一つソニー・ミュージックエンタテインメントさま(以降、SME)にお話を伺いました。採択されたスタートアップ、SME、KDDI の3社により、新たなコンテンツマーケティング手法を創出し、データを活用した新たなファンビジネスの創出を目指します。

変化を続けるエンタメ業界、その先陣を走り続けるSME

SMEの前身であるCBS・ソニーが設立されたのは半世紀以上前のことです。日本のソニーとアメリカのCBSとのジョイントベンチャーとしてスタートしました。当時の流通媒体であるレコード盤のプレスや販売だけでなく、アーティストの発掘やマネジメントを行うプロダクション機能を社内に有していたことは、人気のある楽曲やコンテンツを生み出し続ける今日のSMEに繋がっています。一方、エンターテイメントは、変化の激しい業界でもあります。SMEはこれまでに他社と合弁企業を設立したり、新事業に特化した会社を設立しグループを再編したりするなど、時代に呼応して自らの形を変えてきました。

モバイルデータプランの低廉化や聴取デバイスの普及により、5年くらい前を岐路に、音楽の消費方法は一気にダウンロード型からストリーミング型へと変化してきました。依然として消費の半数以上はCDが占めているものの、ストリーミングのシェアは近年存在感を増しています。しかし、ここで憂慮すべきは音楽市場全体が縮小傾向にあることです。我々は以前に比べて可処分時間の多くを音楽消費に回せるようになり、市場規模は拡大しているのではないかと誤解しがちですが、日本レコード協会が発表している統計資料によると、ここ数年は前年比85%程度の割合でダウントレンドにあります。

従来の経営資源だけに頼らない新ビジネスの創造を目指して、SMEは数年前から、ベンチャーキャピタルへの出資などを通じてスタートアップへの関与を深めてきました。2018年、社会課題解決を目指すアクセラレータプログラム「ENTX(エンタエックス)」を立ち上げ、また、2020年にはアメリカの有名アクセラレータTechStarsが運営する音楽系アクセラレータプログラム「TechStars Music」に参加するなど、社外の知見も活用すべくスタートアップとの協業や投資活動を強化してきました。「∞の翼」では、SMEが持つ経営資源の一つマーケティングデータを活用、新たな柱に育つ可能性のあるファンビジネスのMVP共創を目指します。

マーケティングテクノロジーで、新しいファンビジネスを生み出したい

SMEは、エンターテイメントのコンテンツホルダーというだけでなく、マーケティングデータの宝庫でもあります。アーティスト発掘の「Puzzle Project」、SNSを中心に活動するクリエイターを支援するレーベル「Be」, クリエイターのコラボレーションスペース「MECRE(メクル)」、そして、小説を音楽にするユニット「YOASOBI」を生み出した 「monogatary.com」など、コンテンツを消費者に届ける上でさまざまなタッチポイントを模索しており、その結果として得られるのがマーケティングデータです。

21年春に再編されたソニー・ミュージックマーケティングユナイテッドは、エンタメ作品やサービスのパッケージ商品およびデジタルコンテンツの企画・販売、アーティストを中心としたプロモーション活動を行なうマーケティング会社です。営業推進活動、プロモーション活動、イベントの企画・制作、マーチャンダイジング、サイト制作・運営といったプロモーション業務のほか、データ分析を駆使して効果的なマーケティング手法の提案も行います。アーティストやコンテンツ毎に、DSPやSNS各社から得られるデータを収集・可視化・分析ツールを独自開発していますが、消費者をグループ内の別ドメインへ誘導できる施策立案に向け、スタートアップとの共創に賭けたいとの意気込みを持っています。

デジタルというのはわかりやすい視点ですが、我々がビジネスをしていく上で、デジタルだけに特化していくということはありません。テーマとして、データをどうビジネスに活かしていくか、というのが、共創するスタートアップに求めたい一つの視点です。

ただ、アウトプットはデジタルに限らなくてもいいし、そこのこだわりは全くありません。事業化を念頭には置くものの、最初からマネタイズポイントを設定するという考えも無いです。(北山氏)

SMEの傘下には、日本やアジアの各地で展開するライブハウス「Zepp」、ライブそのものを企画・運営する興行会社や、アーティストのパフォーマンスを支援する事業会社までも多数存在します。現在、コロナ禍でリアルな環境でのイベント開催には一定の制約を伴いますが、アフターコロナを見据えた新たなファンビジネスの開発には、SMEが持つこうしたリアルな事業アセットの活用も視野に入れることができるでしょう。

データの宝庫だからできる、オープンイノベーションのカタチ

AIやMarTech(Marketing Tech)スタートアップを経営する起業家の口からよく聞くのは、「データが集まるところに優秀なデータサイエンティストが集まる」という鉄則です。データを事業に活かすには、データを集め、それらを分析し、それを施策に反映する、というプロセスが必要になります。今年度のプログラムで最終的に採択されるのは一社が想定されていますが、得意分野毎の役割分担が必要な場合は、複数のスタートアップが採択され連携してプログラムに関わる可能性もあります。

SMEが抱えている課題をズバリ解決していくことを念頭に置いたプログラムと言えます。そのためには、「我々のアセットを最大限活用してください」とか、逆に「全く活用しないでください」というつもりもありません。いろんなデータを集めることはこれまでにもできている。僕らが目指すのはその先で、そこからどんなビジネスができるのかを共に考えていきたい。(古澤氏)

このプロジェクトを進める上で、SMEと採択されたスタートアップは共に NDAを交わした上で、SMEからデータの提供を受けることができます。共有できないデータもいくつか存在するようですが、アーティストやコンテンツ毎の再生回数、流入経路、ユーザの特性が匿名化された状態でのデモグラフィックデータなど、SMEからは必要に応じてデータが開示される予定です。

データの数や種類は、社内にも非常に多く蓄積されています。もちろん、社内でも分析はできているのですが、それらを元に世の中に働きかけていく上で最適化すべき点を、スタートアップと共に、AIやアルゴリズムなどを使った新しい手法で探れないかというのが今回の主旨です。SMEにとっても、KDDIにとっても、スタートアップにとっても有益になるようなら、そこからビジネスを目指せる可能性があると思っています。(野澤氏)

言うまでもなく、これはオープンイノベーションの一つの形です。プログラムを通じて、SME自身がDX(デジタルトランスフォーメーション)することも念頭に置いています。北山氏は参加するスタートアップとの関係は受発注ではなく、あくまでパートナーとして対等な関係で臨みたいとの意向を強調しました。必要になるコストは必要に応じて SMEが拠出を検討しますが、共創の中で生まれた成果物については、関わったSME、KDDI、スタートアップでイーブンな関係で交渉することを前提にしているそうです。

オリエンタルランド・イノベーションズが目指す事業共創のカタチ

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたテレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資に続いてお届けするのはオリエンタルランドのスタートアップ投資活動です。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けします…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたテレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資に続いてお届けするのはオリエンタルランドのスタートアップ投資活動です。

オリエンタルランドは、東京ディズニーランドや東京ディズニーシーなどの運営で知られます。1960年、三井不動産と京成電鉄等が出資して設立された同社は、米ウォルト・ディズニー社との誘致交渉が実を結び、会社設立から23年たった1983年にアメリカ国外で初のディズニーテーマパーク「東京ディズニーランド」を開園しました。開園に至るまでの創業メンバーの苦労は、日々新しい事業やサービスの生み出しに奔走する起業家のスピリットにも相通ずるものがあるのではないでしょうか。

1996年に東証一部に上場、そして今では主な連結子会社13社などを擁するまでに成長し、会社設立60周年となる昨年、CVC としてオリエンタルランド・イノベーションズを設立しました。同社からはこれまでに、ホテル兼住宅の企画・販売・運営の NOT A HOTEL、リテールテックのアドインテ、デジタル学習塾のコノセル、HRテックのリフカムといった、オリエンタルランドの本業とは、一見シナジーを読み解けない分野のスタートアップに出資しています。

オリエンタルランドが CVC を作った理由は何か? また、投資先の一つである NOT A HOTEL に出資したのはなぜか? オリエンタルランド・イノベーションズ代表取締役社長の豊福力也さんにお話を伺いました。

千葉・舞浜の一極集中からの脱却

オリエンタルランドグループの事業内容

オリエンタルランドが、スタートアップへの出資および支援活動、新規事業創出や同社グループとの協業促進を目的として設立したのがオリエンタルランド・イノベーションズです。100%オリエンタルランドから出資された CVC で、バランスシートからの出資枠として30億円が確保されています。テーマパークの運営のみならず、ホテル運営、不動産管理など、幅広い年齢層の顧客との関係性や事業を通じた知見の蓄積は多岐にわたります。

「オリエンタルランドのCVC」と聞くと、テーマパーク周辺や関連事業とのシナジーに重点を置いたスタートアップとの協業を念頭に置いているのかと思いきや、オリエンタルランド・イノベーションズは敢えて、オリエンタルランドとの既存事業とは直接リンクしない新規事業を創出することに重きを置いているようです。同社のアセットの多くは、主軸事業の拠点がある千葉県舞浜市に集中していますが、仮にそれだけを前提とした共創では、ビジネスの広がりに限界が生じてしまいます。

豊福:オリエンタルランドグループのビジョンである「夢・感動・喜び・やすらぎ」の提供に資する新規事業領域であれば、当社から投資するスタートアップのテーマは問いません。テーマ例としては「人事領域」「子ども領域」「スマートシティ」「社会的課題の解決」の4つを掲げています。

舞浜周辺にはグループ全体で3万人の従業員がいるので、従業員に対してサービスのポップアップをすることもできるかもしれませんし、例えば、お子さま向けのサービスを展開されるスタートアップから、我々が株主に入ることでポジティブなイメージを出せるという声もいただいており、そういう意図で活用いただくこともできるかもしれません。

これまでに投資した NOT A HOTEL 様、アドインテ様、コノセル様の3社は OMO(Online merges Offline)に関わる会社で、当社との共創で目指す一つの可能性としては、デジタル起点でリアルの場を持つビジネスにおいて、オペレーション分野に経験のある我々がお役に立てる部分があるのではないかと思っています。

通常、大企業との事業共創と言うと、ミドルステージ以降のスタートアップとの連携が目立ちます。アーリー段階だと PMF(プロダクトマーケットフィット)が完了していないことが多く、大企業もスタートアップのどのようなアセットや強みと連携していいかわかりにくいからです。シードスタートアップと付き合うのは、大企業からしてみれば骨の折れる部分も多いと思いますが、オリエンタルランド・イノベーションズでは、シードのスタートアップとの共創に、人材もアサインして精一杯伴走する用意があると強調します。

〝チャレンジする〟CVC

NOT A HOTEL FUKUOKA の完成予想図(NOT A HOTEL 提供)

NOT A HOTEL は、宮崎を代表するスタートアップであるアラタナ(2020年4月に ZOZO が買収)の創業者で、連続起業家の濵渦伸次氏が立ち上げた新たなスタートアップです。ここ数年デュアラー(2拠点に住まいを構える人)が増えたり、コロナ禍のリモートワーク増で人々の生活様式が変化したりする状況を受け、ホテルとして貸し出せ、オーナー自らも別荘として使うことができる柔軟な不動産形態をテクノロジーで実現するサービスの開発を進めています。

NOT A HOTEL が興味深いのは、同社のプロダクトである不動産物件の販売やホテルとしての営業開始はまだ先のことなのに、すでに多額の資金調達に成功していることです。報道によれば、NOT A HOTEL は2020年6月までに複数のVCや個人投資家から10億円を調達、2021年3月にオリエンタルランド・イノベーションズからも資金調達しました(調達額非開示)。濵渦氏の過去の実績が多分に影響しているとはいえ、プロダクトも無いアーリーな段階でCVCがコミットしたのは珍しいのではないでしょうか。

豊福:我々ができるサポートを全力でしていきたいと思っています。NOT A HOTEL 様との関係では、我々からは、オペレーションなどの面で、持っている知見を使って貢献ができればと考えております。

また、通常、我々のグループのホテルなどでは、ハードウェアを作ってから、その上にソフトウェア、オペレーションを載せていくというアプローチを取りますが、NOT A HOTEL 様はソフトでできるものはソフトでやるという、我々の提供するおもてなしの手法とは異なる山の登り方でアプローチされており、そういったところを勉強したいという思いがあります。

5月中旬、NOT A HOTEL は、福岡で都市型コンドミニアムとフランチャイズ募集の開始を発表しました。ホテル業はコロナ禍において最も影響を受けている業界の一つで、オリエンタルランドのグループは全事業売上の15%前後(IR 資料による)をホテル事業で稼ぎ出しています。コロナ収束後もまた天災や疫病の蔓延など不測の事態が起こった場合に備え、柔軟性を追求した宿泊ビジネスから学ぶものは少なくないはずです。
豊福氏によれば、オリエンタルランド・イノベーションズでは、共創のために、あらゆる選択肢を提示する用意があるそうです。シードラウンドでの出資に始まり、投資したスタートアップが希望するのであれば M&A、一緒に事業を作っていくのであれば JV、あるいは20%程度の株式を保有して、オリエンタルランドグループから人を出向させ、事業を一緒にグロースするといった考えもあります。シードからイグジットまでお世話になれる、オールラウンド対応可能な新進気鋭の共創相手と言えるかもしれません。

ということでオリエンタルランド・イノベーションズのスタートアップ投資活動についてお届けしました。次回もお楽しみに。

脱炭素社会に向け新事業を開拓、モビリティのニーズをテクノロジーで分析——出光とスマートドライブの共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けします! Sign Up 18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命は…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命は、石炭と蒸気機関を中心としたものでした。20世紀は石炭から石油への転換が図られた時代だと言っていいでしょう。そして21世紀に入り、もう5分の1ほどが経過しましたが、地球温暖化や SDGs(持続可能な開発目標)が声高に叫ばれるようになり、急がれているのは化石燃料を中心とした炭素社会からの脱却です。この影響を最も多く受ける産業の一つは石油業界で、世界中のオイルメジャーは生き残りをかけて、次なる主軸事業の開拓へと奔走しています。

出光興産は2021年2月、電気自動車(EV)事業への参入を発表しました。レース車両の開発などを手がけるタジマモーターコーポレーションと合弁で新会社「出光タジマEV」を2021年4月に設立、新規格「超小型モビリティ」に準拠した、4人乗り且つ、一般の家庭用電源で充電可能な超小型EVを2022年に市場投入します。この EV は全国に拡がる出光興産のガソリンスタンド等を通じて展開される予定で、ガソリンスタンドは車のエネルギーの供給拠点からモビリティサービスを更に拡大した拠点へと変貌を遂げます。

超小型 EVデザインコンセプト

超小型モビリティは完成しつつあるものの、ユーザのニーズにあわせて、より使いやすいものにする必要があります。来年の本格展開開始に先立ち、このモビリティがどのように利用されるかの知見を貯めるべく、出光興産とタジマモーターは2019年から、岐阜県高山市や千葉県館山市、市原市などの地方エリアで、モビリティを使ったカーシェアリングサービスの実証を展開してきました。この実証ではモビリティやユーザの動きを可視化するため、スマートドライブの技術が活かされています。

出光興産とスマートドライブがどのような経緯でタッグを組むことになったのか、そして、どのような共創成果が生まれているのかについて、出光興産モビリティ戦略室の朝日洋充さんと、スマートドライブ先進技術事業開発部ディレクターの石野真吾さんに話を伺いました。

ドライブデータの可視化で見えてきた、次世代のモビリティと社会のカタチ

スマートドライブは、2013年に創業したモビリティデータを活用したサービスを提供するスタートアップです。創業以来「移動の進化を後押しする」をビジョンとして、マルチデバイスでの移動データの取得から解析・可視化・活用まで、移動にまつわる様々なモビリティサービスを提供しています。

スマートドライブビジネスモデル

出光タジマ EV が開発する EV は8時間の充電で120kmの走行が可能。この仕様を決めるのにも、スマートドライブの「Mobility Data Platform」で収集されたデータが一役買いました。

住民の利用では買い物や子供の送迎といった短距離移動の需要があり、営業などに使う商用でも、1日の移動距離が15~20キロメートルだったことから、軽自動車ほど高い性能は必要ないと判断しました。EV の設計に関わるこのようなことも、カーシェアリングサービスの実証実験を通じて得られたデータからわかったことです。(出光興産 朝日さん)

端的に、従来からある移動手段として使ってもらうだけでは、この EV の可能性を引き出せたとは言えません。カーシェアリングのメリットを享受できるのは、住民以外にも地域外から現地を訪れる観光客です。公共交通機関が必ずしも便利ではない地方エリアでは、小型であれば幅の狭い道路も運転しやすく、MaaS としての可能性も広がります。旅先で観光客が発信する SNS データを収集・解析するスタートアップであるナイトレイ社にも参加してもらい、稼働率向上や観光地開拓につなげる取り組みも行いました。

出光興産様も当社も、今まで向き合ったことのない課題、つまり正解がないなかでディスカッションを重ねていき、お互いが持っている知見や強みを出し合いながら、手探りながらも目指すべき方向に向かっていった感じですね。行きづまった場合であっても、ナイトレイさんなど違う技術・強みのある会社様にも参画してもらって、ユーザーが使って便利なものや役立つものを探っていきました。(スマートドライブ 石野さん)

出光興産とスマートドライブが協業に至ったきっかけ

出光興産はかねてから、KDDI ∞ Labo の主旨に賛同する大企業群「パートナー連合」に参加していました。朝日さんは ∞ Labo の定例会に参加していたメンバー(出光興産のオープンイノベーション担当者)から「超小型EVをもっとよくできるパートナー企業があるよ」と紹介され、両社が持つアセットがうまく組み合わせられると考え、タッグを組むことにしたそうです。ディスカッションが始まったのが2020年2月、その1ヶ月後にはスマートドライブがプロジェクトに関わることになりました。

当社はスタートアップなので、さまざまなお客様に知っていただくというフェーズにいます。しっかりとしたパートナー様とキッチリとプロジェクトに取り組ませていただいているというのは、信用度向上という観点において非常に重要と考えています。

実際、出光興産様との超小型EVのプロジェクトを新聞記事で読んだお客様(他社)が、展示会で当社ブースにお立ち寄りいただき、違うプロジェクトをご一緒するといった、理想的なスパイラルが起こっています。(スマートドライブ 石野さん)

出光興産とスマートドライブの間には資本関係はありません。スマートドライブは SaaS のビジネスモデルなので、Mobility Data Platform サービスを出光興産が利用する座組です。当然、クルマやモビリティとのインテグレーションはユーザである出光興産が実施することになりますが、出光興産が社運をかけた新事業に関わることで新たなユースケースを開拓できるとの判断から、スマートドライブも深くコミットしています。

MaaS やスマートシティなどのサービスが増える中で、蓄積した移動データをどう利活用するか、お客様から意見を求められることはよくあります。創業から8年にわたり、移動データの利活用に主軸を置いて事業を行ってきたので、業種別の使われ方についても知見が溜まっています。

お客様に合わせて我々が仕組みをカスタマイズするのではなく、むしろ、お客様がどう組み合わせて使うか、お客様の今あるプラットフォームや他社のプラットフォームとどう連携させるかなど、柔軟に提案するようにしています。(スマートドライブ 石野さん)

オープンイノベーションは、解決すべき一つの課題に対して、大企業1社とスタートアップ1社で完結しようとされがちかもしれません。スマートドライブは近年、MarTech(マーケティングテック)を提供するスタートアップとの連携も積極的に行うなど、得られた移動データのさまざまなソリューションへの応用を提案しています。これこそ、オープンイノベーションの真髄であり、直接的にプロジェクトに関わった大企業やスタートアップ以外にも、さらに多くの企業を巻き込む形で事業機会を創造することにつながるわけです。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

アプリコットとTLMが合体、新ファンド「mint」爆誕ーー独立系シード投資の有力候補に

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ニュースサマリ:創業期(シード期)のスタートアップ投資を手がけるアプリコット・ベンチャーズとTLMは5月26日、新ファンド 「mint(投資組合の名称はApricot Venture Fund 2投資事業有限責任組合)」 の設立を伝えている。GP(ジェネラルパートナー)には白川智樹氏と木暮圭佑氏、アプリコットベンチャーズおよびTLMが就任する。ファンドは30億円規模での設立を予定しており、現在、ミ…

ニュースサマリ:創業期(シード期)のスタートアップ投資を手がけるアプリコット・ベンチャーズとTLMは5月26日、新ファンド 「mint(投資組合の名称はApricot Venture Fund 2投資事業有限責任組合)」 の設立を伝えている。GP(ジェネラルパートナー)には白川智樹氏と木暮圭佑氏、アプリコットベンチャーズおよびTLMが就任する。ファンドは30億円規模での設立を予定しており、現在、ミクシィ、ギフティー、マイナビ、個人投資家らがLP(リミテッドパートナー)として出資参加している。

既に6社への投資を完了しているが、具体的な社名等は非公開。投資対象は国内におけるプレシードのIT系スタートアップで、1社あたりの最大投資額は3億円。平均して1,000万円から3,000万円の出資ケースを想定している。

白川氏が代表取締役を務めるアプリコット・ベンチャーズは2018年1月設立。同年4月に7億円規模の「Apricot Venture Fund1号」を組成し、インキュベイトファンドや東急、マイナビらが出資していた。一方のTLMは2015年4月に1億円規模の1号ファンド「TLM1号」、2018年に7億円規模の2号ファンドを立ち上げている。主な出資者は個人経営者やミクシィ、サイバーエージェント、アドウェイズ、ユナイテッドら。法人としてのTLMは昨年7月に設立したばかり。

アプリコット・ベンチャーズの投資先は合計で24社、無人コンビニの「600」や飲食向けデジタルマーケティングの「favy」らに出資している。TLMはビジネスソーシャルの「YOUTRUST」や特化型ファッションC2C「モノカブ」、女性エンパワメントのSHEが主な投資先。出資だけでなく起業支援にも力を入れており、オフィス支援の「FLAP」や社会人向け起業支援プログラム「Springboard」など、両社がこれまで手がけてきたプログラムも継続される。

話題のポイント:TLMの木暮さんから「合体するんです」と話を伺った際、正直、アプリコットの白川さんが共同パートナーになるとは夢にも思いませんでした。でもお話を聞くにつれ、ああなるほどよく考えられたチームだと思った次第です。お二人の馴れ初めを説明させていただきます。

今、国内においてテック系スタートアップのシード支援を担うファンドは独立系だとEast Ventures(EV)とインキュベイトファンド(IF)の歴史が長く、それぞれから出身者が次世代のファンドを立ち上げています。EVからは佐俣アンリさんが設立したANRIや、今回mintを設立したTLMの木暮さんもEVで経験を積んだ人物です。また、IFからはSkyland Venturesやプライマルキャピタル、サムライインキュベートも初期の立ち上げにはIFが支援していますし、同じくmintを設立したアプリコット・ベンチャーズもIFが出資する形で立ち上がっています。なお、アプリコットの白川さんはサイバーエージェントのCVCであるサイバーエージェント・キャピタル(在籍当時はベンチャーズ)の出身で、こちらもシード投資の国内有力候補です。

mintとなった両社のこれまでの投資先

つまり、木暮さん・白川さん共に国内シード投資の本流をそれぞれ経験した人物、ということは押さえておいてよいポイントだと思います。シード期の投資ファンドは個性的なチームが多く、EVとIFではやはり文化は異なります。その流れはそれぞれに受け継がれていることが多く、特に創業期の伴走が長くなるシードでは、出資を受ける際の重要な要素のひとつになります。

Mintの合体を語る上で参考になるのがNOWです。NOWは独立系シード投資の中でも異質な存在で、家入一真さんと梶谷亮介さんが共同代表のファンドなのですが、方や現役の連続起業家であり経営者でありエンジェル投資家という家入さんと、みずほ証券や新生企業投資などで投資、IPO支援を手がけた梶谷さんがコンビを組んでいます。家入さんはBASEの共同創業者としても知られていますが、代表の鶴岡裕太さんをはじめ、ごまんといる起業家候補から原石を発見する天才です。一方の梶谷さんは増え続けるポートフォリオを管理し、ファンドをファンドとして運営する大番頭さんみたいな存在です。

話を聞くとmintも同じような関係性が見えてきます。木暮さんはモノカブの濱田航平さんやYOUTRUSTの岩崎由夏さんなど、起業家が輝き出す前の原石の段階で発掘する嗅覚をお持ちです。一方の白川さんは起業支援プログラムなどの整備にも見える通り、投資ファンドを組織として運営する経験が豊富にあります。お互いにない力を持っているということでよい補完関係が期待できそうです。

きっかけはとある投資家の会合で白川さんから木暮さんに共同運営の話題を持ちかけられたことから始まったそうです。先にも書いた通り、今、国内のテック・シード投資は源流からの分岐が多く、やや戦国時代に突入している感があります。既存ファンドから独立して新たに組織を立ち上げようにも、かなりの個性がなければ他が強すぎて資金が集まりません。さらに言えば、シングルGPと呼ばれる一本足打法では何もかもを代表一人で背負う必要があります。

出資先のスタートアップにはチームが大切だと伝えておきながら、自分たちが組織戦に持ち込めていないというのもネガティブです。2010年代の初期ならまだしも、今はスタートアップエコシステムもかなり成熟して厚みが出てきました。主力となる独立系VCはシードに限らず、ほぼ組織戦に入っています。

二人が特に重視したのはカルチャーの違いを乗り越えられるか、という点だったそうです。役割については明確な分担が見えていますし、投資についても、それぞれの色合いは異なります(補足ですが、今後も木暮さん・白川さんはそれぞれ独自の視点で投資するそうです)。一方、肌が合うかどうかは別の問題です。これについては相当に考えたらしく、数カ月かけて話し合ったというお話でした。

ここ数年、スタートアップ系のファンドには共同GPとして主要なキャピタリスト・人材が移籍するケースが増えています。インキュベイトファンドに元マッキンゼーのポール・マクナニーさんが5人目のGPとして参加したのは記憶に新しいですが、それ以前にもCAVマフィア、ジェネシア・ベンチャーズに鈴木隆宏さんが共同GPとして参加、それに続く形でANRIに伊藤忠テクノロジーベンチャーズの主力打者、 河野純一郎さん が移籍したり、ちょっと遡ってiSGSに国内としては初の女性GPとして 佐藤真希子さん が参加して社名まで変えた例があります。

今後もこういった合併・移籍は増えていくかもしれません。