インタビュー

脱炭素社会に向け新事業を開拓、モビリティのニーズをテクノロジーで分析——出光とスマートドライブの共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けします! Sign Up 18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命は…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命は、石炭と蒸気機関を中心としたものでした。20世紀は石炭から石油への転換が図られた時代だと言っていいでしょう。そして21世紀に入り、もう5分の1ほどが経過しましたが、地球温暖化や SDGs(持続可能な開発目標)が声高に叫ばれるようになり、急がれているのは化石燃料を中心とした炭素社会からの脱却です。この影響を最も多く受ける産業の一つは石油業界で、世界中のオイルメジャーは生き残りをかけて、次なる主軸事業の開拓へと奔走しています。

出光興産は2021年2月、電気自動車(EV)事業への参入を発表しました。レース車両の開発などを手がけるタジマモーターコーポレーションと合弁で新会社「出光タジマEV」を2021年4月に設立、新規格「超小型モビリティ」に準拠した、4人乗り且つ、一般の家庭用電源で充電可能な超小型EVを2022年に市場投入します。この EV は全国に拡がる出光興産のガソリンスタンド等を通じて展開される予定で、ガソリンスタンドは車のエネルギーの供給拠点からモビリティサービスを更に拡大した拠点へと変貌を遂げます。

超小型 EVデザインコンセプト

超小型モビリティは完成しつつあるものの、ユーザのニーズにあわせて、より使いやすいものにする必要があります。来年の本格展開開始に先立ち、このモビリティがどのように利用されるかの知見を貯めるべく、出光興産とタジマモーターは2019年から、岐阜県高山市や千葉県館山市、市原市などの地方エリアで、モビリティを使ったカーシェアリングサービスの実証を展開してきました。この実証ではモビリティやユーザの動きを可視化するため、スマートドライブの技術が活かされています。

出光興産とスマートドライブがどのような経緯でタッグを組むことになったのか、そして、どのような共創成果が生まれているのかについて、出光興産モビリティ戦略室の朝日洋充さんと、スマートドライブ先進技術事業開発部ディレクターの石野真吾さんに話を伺いました。

ドライブデータの可視化で見えてきた、次世代のモビリティと社会のカタチ

スマートドライブは、2013年に創業したモビリティデータを活用したサービスを提供するスタートアップです。創業以来「移動の進化を後押しする」をビジョンとして、マルチデバイスでの移動データの取得から解析・可視化・活用まで、移動にまつわる様々なモビリティサービスを提供しています。

スマートドライブビジネスモデル

出光タジマ EV が開発する EV は8時間の充電で120kmの走行が可能。この仕様を決めるのにも、スマートドライブの「Mobility Data Platform」で収集されたデータが一役買いました。

住民の利用では買い物や子供の送迎といった短距離移動の需要があり、営業などに使う商用でも、1日の移動距離が15~20キロメートルだったことから、軽自動車ほど高い性能は必要ないと判断しました。EV の設計に関わるこのようなことも、カーシェアリングサービスの実証実験を通じて得られたデータからわかったことです。(出光興産 朝日さん)

端的に、従来からある移動手段として使ってもらうだけでは、この EV の可能性を引き出せたとは言えません。カーシェアリングのメリットを享受できるのは、住民以外にも地域外から現地を訪れる観光客です。公共交通機関が必ずしも便利ではない地方エリアでは、小型であれば幅の狭い道路も運転しやすく、MaaS としての可能性も広がります。旅先で観光客が発信する SNS データを収集・解析するスタートアップであるナイトレイ社にも参加してもらい、稼働率向上や観光地開拓につなげる取り組みも行いました。

出光興産様も当社も、今まで向き合ったことのない課題、つまり正解がないなかでディスカッションを重ねていき、お互いが持っている知見や強みを出し合いながら、手探りながらも目指すべき方向に向かっていった感じですね。行きづまった場合であっても、ナイトレイさんなど違う技術・強みのある会社様にも参画してもらって、ユーザーが使って便利なものや役立つものを探っていきました。(スマートドライブ 石野さん)

出光興産とスマートドライブが協業に至ったきっかけ

出光興産はかねてから、KDDI ∞ Labo の主旨に賛同する大企業群「パートナー連合」に参加していました。朝日さんは ∞ Labo の定例会に参加していたメンバー(出光興産のオープンイノベーション担当者)から「超小型EVをもっとよくできるパートナー企業があるよ」と紹介され、両社が持つアセットがうまく組み合わせられると考え、タッグを組むことにしたそうです。ディスカッションが始まったのが2020年2月、その1ヶ月後にはスマートドライブがプロジェクトに関わることになりました。

当社はスタートアップなので、さまざまなお客様に知っていただくというフェーズにいます。しっかりとしたパートナー様とキッチリとプロジェクトに取り組ませていただいているというのは、信用度向上という観点において非常に重要と考えています。

実際、出光興産様との超小型EVのプロジェクトを新聞記事で読んだお客様(他社)が、展示会で当社ブースにお立ち寄りいただき、違うプロジェクトをご一緒するといった、理想的なスパイラルが起こっています。(スマートドライブ 石野さん)

出光興産とスマートドライブの間には資本関係はありません。スマートドライブは SaaS のビジネスモデルなので、Mobility Data Platform サービスを出光興産が利用する座組です。当然、クルマやモビリティとのインテグレーションはユーザである出光興産が実施することになりますが、出光興産が社運をかけた新事業に関わることで新たなユースケースを開拓できるとの判断から、スマートドライブも深くコミットしています。

MaaS やスマートシティなどのサービスが増える中で、蓄積した移動データをどう利活用するか、お客様から意見を求められることはよくあります。創業から8年にわたり、移動データの利活用に主軸を置いて事業を行ってきたので、業種別の使われ方についても知見が溜まっています。

お客様に合わせて我々が仕組みをカスタマイズするのではなく、むしろ、お客様がどう組み合わせて使うか、お客様の今あるプラットフォームや他社のプラットフォームとどう連携させるかなど、柔軟に提案するようにしています。(スマートドライブ 石野さん)

オープンイノベーションは、解決すべき一つの課題に対して、大企業1社とスタートアップ1社で完結しようとされがちかもしれません。スマートドライブは近年、MarTech(マーケティングテック)を提供するスタートアップとの連携も積極的に行うなど、得られた移動データのさまざまなソリューションへの応用を提案しています。これこそ、オープンイノベーションの真髄であり、直接的にプロジェクトに関わった大企業やスタートアップ以外にも、さらに多くの企業を巻き込む形で事業機会を創造することにつながるわけです。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

アプリコットとTLMが合体、新ファンド「mint」爆誕ーー独立系シード投資の有力候補に

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ニュースサマリ:創業期(シード期)のスタートアップ投資を手がけるアプリコット・ベンチャーズとTLMは5月26日、新ファンド 「mint(投資組合の名称はApricot Venture Fund 2投資事業有限責任組合)」 の設立を伝えている。GP(ジェネラルパートナー)には白川智樹氏と木暮圭佑氏、アプリコットベンチャーズおよびTLMが就任する。ファンドは30億円規模での設立を予定しており、現在、ミ…

ニュースサマリ:創業期(シード期)のスタートアップ投資を手がけるアプリコット・ベンチャーズとTLMは5月26日、新ファンド 「mint(投資組合の名称はApricot Venture Fund 2投資事業有限責任組合)」 の設立を伝えている。GP(ジェネラルパートナー)には白川智樹氏と木暮圭佑氏、アプリコットベンチャーズおよびTLMが就任する。ファンドは30億円規模での設立を予定しており、現在、ミクシィ、ギフティー、マイナビ、個人投資家らがLP(リミテッドパートナー)として出資参加している。

既に6社への投資を完了しているが、具体的な社名等は非公開。投資対象は国内におけるプレシードのIT系スタートアップで、1社あたりの最大投資額は3億円。平均して1,000万円から3,000万円の出資ケースを想定している。

白川氏が代表取締役を務めるアプリコット・ベンチャーズは2018年1月設立。同年4月に7億円規模の「Apricot Venture Fund1号」を組成し、インキュベイトファンドや東急、マイナビらが出資していた。一方のTLMは2015年4月に1億円規模の1号ファンド「TLM1号」、2018年に7億円規模の2号ファンドを立ち上げている。主な出資者は個人経営者やミクシィ、サイバーエージェント、アドウェイズ、ユナイテッドら。法人としてのTLMは昨年7月に設立したばかり。

アプリコット・ベンチャーズの投資先は合計で24社、無人コンビニの「600」や飲食向けデジタルマーケティングの「favy」らに出資している。TLMはビジネスソーシャルの「YOUTRUST」や特化型ファッションC2C「モノカブ」、女性エンパワメントのSHEが主な投資先。出資だけでなく起業支援にも力を入れており、オフィス支援の「FLAP」や社会人向け起業支援プログラム「Springboard」など、両社がこれまで手がけてきたプログラムも継続される。

話題のポイント:TLMの木暮さんから「合体するんです」と話を伺った際、正直、アプリコットの白川さんが共同パートナーになるとは夢にも思いませんでした。でもお話を聞くにつれ、ああなるほどよく考えられたチームだと思った次第です。お二人の馴れ初めを説明させていただきます。

今、国内においてテック系スタートアップのシード支援を担うファンドは独立系だとEast Ventures(EV)とインキュベイトファンド(IF)の歴史が長く、それぞれから出身者が次世代のファンドを立ち上げています。EVからは佐俣アンリさんが設立したANRIや、今回mintを設立したTLMの木暮さんもEVで経験を積んだ人物です。また、IFからはSkyland Venturesやプライマルキャピタル、サムライインキュベートも初期の立ち上げにはIFが支援していますし、同じくmintを設立したアプリコット・ベンチャーズもIFが出資する形で立ち上がっています。なお、アプリコットの白川さんはサイバーエージェントのCVCであるサイバーエージェント・キャピタル(在籍当時はベンチャーズ)の出身で、こちらもシード投資の国内有力候補です。

mintとなった両社のこれまでの投資先

つまり、木暮さん・白川さん共に国内シード投資の本流をそれぞれ経験した人物、ということは押さえておいてよいポイントだと思います。シード期の投資ファンドは個性的なチームが多く、EVとIFではやはり文化は異なります。その流れはそれぞれに受け継がれていることが多く、特に創業期の伴走が長くなるシードでは、出資を受ける際の重要な要素のひとつになります。

Mintの合体を語る上で参考になるのがNOWです。NOWは独立系シード投資の中でも異質な存在で、家入一真さんと梶谷亮介さんが共同代表のファンドなのですが、方や現役の連続起業家であり経営者でありエンジェル投資家という家入さんと、みずほ証券や新生企業投資などで投資、IPO支援を手がけた梶谷さんがコンビを組んでいます。家入さんはBASEの共同創業者としても知られていますが、代表の鶴岡裕太さんをはじめ、ごまんといる起業家候補から原石を発見する天才です。一方の梶谷さんは増え続けるポートフォリオを管理し、ファンドをファンドとして運営する大番頭さんみたいな存在です。

話を聞くとmintも同じような関係性が見えてきます。木暮さんはモノカブの濱田航平さんやYOUTRUSTの岩崎由夏さんなど、起業家が輝き出す前の原石の段階で発掘する嗅覚をお持ちです。一方の白川さんは起業支援プログラムなどの整備にも見える通り、投資ファンドを組織として運営する経験が豊富にあります。お互いにない力を持っているということでよい補完関係が期待できそうです。

きっかけはとある投資家の会合で白川さんから木暮さんに共同運営の話題を持ちかけられたことから始まったそうです。先にも書いた通り、今、国内のテック・シード投資は源流からの分岐が多く、やや戦国時代に突入している感があります。既存ファンドから独立して新たに組織を立ち上げようにも、かなりの個性がなければ他が強すぎて資金が集まりません。さらに言えば、シングルGPと呼ばれる一本足打法では何もかもを代表一人で背負う必要があります。

出資先のスタートアップにはチームが大切だと伝えておきながら、自分たちが組織戦に持ち込めていないというのもネガティブです。2010年代の初期ならまだしも、今はスタートアップエコシステムもかなり成熟して厚みが出てきました。主力となる独立系VCはシードに限らず、ほぼ組織戦に入っています。

二人が特に重視したのはカルチャーの違いを乗り越えられるか、という点だったそうです。役割については明確な分担が見えていますし、投資についても、それぞれの色合いは異なります(補足ですが、今後も木暮さん・白川さんはそれぞれ独自の視点で投資するそうです)。一方、肌が合うかどうかは別の問題です。これについては相当に考えたらしく、数カ月かけて話し合ったというお話でした。

ここ数年、スタートアップ系のファンドには共同GPとして主要なキャピタリスト・人材が移籍するケースが増えています。インキュベイトファンドに元マッキンゼーのポール・マクナニーさんが5人目のGPとして参加したのは記憶に新しいですが、それ以前にもCAVマフィア、ジェネシア・ベンチャーズに鈴木隆宏さんが共同GPとして参加、それに続く形でANRIに伊藤忠テクノロジーベンチャーズの主力打者、 河野純一郎さん が移籍したり、ちょっと遡ってiSGSに国内としては初の女性GPとして 佐藤真希子さん が参加して社名まで変えた例があります。

今後もこういった合併・移籍は増えていくかもしれません。

学生起業家と駆け出し投資家の二人三脚ーーPOL・加茂倫明さん × サイバーエージェント・キャピタル・北尾崇【Monthly Pitch ポッドキャスト】

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載 起業家と投資家の関係はこの10年で随分と変化しました。スマートフォンシフトといったトレンドの変化、Y Combinatorなどの登場でシード投資のハードルが一気に下がり、投資サイド・起業家サイド共に大きく数が増えたことが大きな要因です。特にシード期から志を共にするような場合、その関係は十数年に及…

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

起業家と投資家の関係はこの10年で随分と変化しました。スマートフォンシフトといったトレンドの変化、Y Combinatorなどの登場でシード投資のハードルが一気に下がり、投資サイド・起業家サイド共に大きく数が増えたことが大きな要因です。特にシード期から志を共にするような場合、その関係は十数年に及ぶこともあります。事業における最愛のパートナーたちはどのようにして出会い、成長し、そしてその後の関係はどのようなものになるのでしょうか。

シード投資を長年に渡って手がけてきたサイバーエージェント・キャピタル(CAC)では、この「投資家と起業家」の関係に注目した連載を開始します。毎月開催される「Monthly Pitch」にこれまで参加してくれたキャピタリストと創業者のお二人をお招きし、出会いのきっかけや乗り越えたハードル、関係構築のポイントなど、ここだけでしか聞けない裏話を語っていただきます。

前回に登場いただいた副業プラットフォーム「シューマツワーカー」代表取締役の松村幸弥 さんに続いて、今回は全国の理系大学生が登録する採用プラットフォーム「LabBase」を運営するPOL代表取締役の加茂倫明さんです。学生時代からテック系スタートアップでインターンを続け、起業への道を歩み出した加茂さんと、駆け出しの頃のサイバーエージェント・キャピタル、シニア・ヴァイス・プレジデント北尾崇とのエピソードをお届けします。

同じ関西出身ということもあって意気投合した二人は、「研究者たちの未来を加速する」という未来に向かって創業期を駆け抜けます。起業家と投資家という役割はありつつも、若い同世代の同志として泥臭くできることからなんでもやったそうです。二人が語る「テレアポ」エピソードは微笑ましく、同時に今の成長があるからこそ振り返れるものだと感じました。2019年には10億円の資金調達にも成功し、採用事業に次ぐ新たな事業へのトライも始まったPOL。学生起業家はどのようにして投資家と出会い、成長していったのか、二人のエピソードをぜひお聞きください。(ポッドキャスト収録の一部をお送りします。太字の質問はMonthly Pitch編集部)

ーーお二人は年齢も近いと思うんですが、関西の気のいいお兄ちゃんが急に「出資させてくれ」と来た時、どういう印象でしたか

加茂:まず、北尾さんの「初めて」をいただけて嬉しいなと思いましたね(笑)。ぜひPOLを大成功させて、いいストーリーにしたいなと思います。

LabBaseを思いついて開発しはじめる前に、PR TIMESにプレスリリースを打ちました。対投資家さん目的というよりは、対企業さん目的のニーズ検証のために最初にプレスリリースを打つということをすれば、問い合わせがどのくらいくるかでニーズが見えるし、お話を聞きながら作った方がいいものが作れると考えたからです。そのプレスリリースを見て北尾さんが声をかけてくれたという背景があります。

北尾さんとコミュニケーションする中で、出資してもらう投資家さんをどういう基準で選ぶかを考えました。POLの事業を伸ばすために必要な強み、力とは何か?ということについて要素を出していき、それを持っている投資家さんをリストアップして、お会いして、お願いしていくという動きをとりました。北尾さんは「なんでもやります」っていう気概がプンプン伝わってきて、実際に投資していただいた後もオフィスに来てもらって、めちゃめちゃテレアポをしてもらったりとか(笑)、本当に有言実行でした。北尾さんが営業も含めてがっつり助けてくれるという魅力を感じて、じゃあ僕らとしてもぜひ北尾さんに、サイバーエージェントさんにお願いします、という形になりました。

ーーいい話だな(笑)北尾さんテレアポしたの!

北尾:しましたね(笑)テレアポのコツを見つけたいなと思ってやってるうちに、一番刺さるのが「東京大学の加茂です」っていうトークから人事に切り込むのが一番アポ率がよくて。

加茂:「東京大学の加茂ですが、あのー、人事の方いらっしゃいますか?」みたいな感じで行くと、受付が、「お、エントリーしたい学生かな?」って勘違いして人事にパスしてくれるっていう受付突破のゲリラ的戦略があって(笑)。まぁ今はやってないですけど。立ち上げ期は結構やってましたね。

ーーいろいろな起業家の方々とお会いする中で、加茂さんが出す新しいサービスがすごく反響がありそうだというところから投資家と起業家という関係値に変わっていったわけですね

北尾:そうですね。なんとかPOLのリードを取れた!と。振り返ると本当にいろんな会社から手が上がっていたので。

初期の投資家の方々も、シードでBEENEXTさんにBeyond Next VenturesさんにDNX Venturesさん、エンジェル投資家もそうそうたる方々が参加されていて、すごい人気だったことはよく分かります。
2016年9月にあの有名な吉田さんと共同で創業されていますが、資本政策や投資家との向き合い方について吉田さんや他の方々からどんなアドバイスがありましたか

加茂:結構いただきました。一番大きかったポイントは、学生起業だとよくあるケースのように、すでに繋がっている投資家さんの中からいい投資家さんを選ぶという流れで出資元を決めるという風に僕も考えていました。ですがちょっと待てと。本来的には資金調達って、ミッション達成とか事業を成功させていくためにやるわけで、そのためにお金を出してもらうのが本丸ではあるんですが、加えていろんな支援もしてもらいたい。

どういった投資家さんとご一緒すべきか。そこを定義してから探し出して、まだ繋がっていなかったら会いに行くというプロセスを経た上で決める方がより戦略的だよね、というアドバイスを吉田さんからもらい、確かにと思ってそのように活動しました。シードの段階で入っていただいたベンチャーキャピタルの方はだいたいその流れです。SaaSの経験が強いのはBEENEXTさんやDNXさん、大学や研究者とのつながりが強いのはBeyond Next Venturesさん、グローバルではBEENEXTさんもDNXさんも強い、みたいな流れで投資家さんを選ばせてもらいました。北尾さんだけですね、なんか友情が強いからっていうのは(笑)。

ーーポッドキャストではそのほかのエピソードも語っていただいています。シード期の起業家が投資家とどのようにコミュニケーションしたのか、ぜひお聞きください。

消費者のココロを掴め!ヒットメーカーに聞く「エンタメスタートアップの勝ち筋」ーー小学館 少女コミックSho-Comi 編集長 畑中雅美さん

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は小学館 少女コミックSho-Comi 編集長の畑中雅美(はたなかまさみ)氏に登場いただきます。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けします!…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は小学館 少女コミックSho-Comi 編集長の畑中雅美(はたなかまさみ)氏に登場いただきます。

畑中雅美氏は関西大学総合情報学部を卒業し、1998年小学館に入社。以降、小学館『Cheese!』など少女漫画誌の編集者として、「僕は妹に恋をする」などの数々のヒット作を支え、映像化にも関わってきました。2019年からは、創刊53周年を迎えた日本を代表する女性向け漫画雑誌『少女コミックSho-Comi』の編集長を務めておられます。

本稿では、出版界におけるヒットメーカーの視点から見たアイデアの見つけ方、ヒット作の見極め方、また、スタートアップにも応用できる MVP(必要最低限度製品) の実践方法などについて、お話を伺いました。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine 編集部、回答は畑中氏、文中敬称略)

ヒット作の生み出し方

作品作りの際は、どんな点を意識していますか

畑中:人の苦しみや悲しみに寄り添うことを意識しています。そもそもですが、漫画はいつ読まれるかというと、人が物語を欲するときです。この世でいちばんのベストセラーが「聖書」というのはよく知られていますが、なぜ、聖書が売れるのか。それは、やはり心の拠りどころになったり、癒やしてくれたりするからだと思います。

本にはいろいろな役割があっていいと思いますが、私は、10代〜30代の女性向けの物語を作る部署に所属することが多かったので、読者の女性たちが漫画を読みたいときはどんなときだろうと考えています。

もちろん、最高にハッピーなときにも漫画を読んでもらいたいですが、できるなら、しんどくてやりきれないなと思ったとき、ふっと漫画を開いたお陰で、疲れがとれるような気持ちになり、ぐっすり眠れて、翌日学校や会社に行けると良いな、と思っています。

その苦しみや悲しみに寄り添う方法について、もう少し詳しく教えてください

畑中:物語には、現実逃避型と現実直視型の2タイプがあると思います。どちらも面白いと思いつつも、私は漫画という生活必需品ではない存在が、読者にとってどうしても必要な存在になるのは、癒やしを欲する時だと思ってるんです。「漫画っぽい」という言葉は、荒唐無稽を意味したり、時に揶揄を含みます。けれど、その「漫画っぽい」夢物語を読むことで、読者は「自分も頑張ろう」と思えたり、辛い現実から一時救われたりしているのだと。だから企画を考える時には「逃避したい現実って、いま何なんだろうな」というのを常に考えています。

数年前の例でいうと、LINEをみんながやり始め、一日に何百件もやり取りしています、という高校生がニュースに出ていたり、SNSにハマってお風呂の中でも返信しちゃうということが話題になっていました。そのニュースを見た時、「そろそろ、これがしんどい子が出るだろうな」と思いました。

小学校に入学するときに「友だち100人できるかな」なんて童謡を皆で歌って、友だちが多い人こそ正解、いないとダメ、いじめられている、みたいな先入観を持ちやすい雰囲気がある日本で、SNSによって友だちの数が可視化されるようになったということじゃないですか。いいねの数、友達の数を他の子と比べてしまったり、返事が遅いと思われたくなくてお風呂の中でまで返信するなんて猛烈営業マンでもしないような即レス状況があるとすると、友達の多い主人公は現実で求められている理想像に近すぎてウンザリして、逆に「私、友だち要らないんだけど」と言う主人公こそ、そろそろ読みたい人もいるんじゃないかな、と。

2021年現在の人々の苦しみや痛みは、どんなものがあると感じていますか

畑中:昭和の時代に男性が言っていたことを、女の子が望んでいる感じがします。たとえば、仕事を一生懸命やっていたら、つい彼氏に連絡するのを忘れてしまった。でも、別にそれは、彼のことが嫌いとか、彼をないがしろにしているわけではなくて、一生懸命仕事をしていたから。

そのことを彼氏はわかってくれていて、「大丈夫だよ」「がんばっている君が好きだよ」と言って待っていてくれる、夢のような男性が現れるみたいな漫画がいくつか出ているんです。これは、完全に昭和のお父さんたちが言っていたこと。昭和の男性がそうだったように、いまの女の子たちは、ちょっと気を張って仕事をしすぎなんでしょう。

どのようにして、ヒット作を出せるようになったんですか

畑中:私は新入社員で小学館に入社して、漫画の編集部に配属されました。最初そんなに仕事もないので、ただ先輩たちが打ち合わせをしている様子とかを盗み聞きしていたんです。そうしたら、みんな熱心なんですね。ただ、びっくりするぐらい、ヒットが出る編集者は一部で、ほとんどの先輩はヒットを出していない。すごく一生懸命打ち合わせをしているのにです。でも、打ち合わせを聞いていると、ヒットを出している先輩編集者と出していない先輩編集者でそれほど内容が違うわけではない。

「この違いは何から来るのだろう?」と思い、最初はどの作家さんを担当できるか、という運もあるのかな、って思ったんですが、そうではなさそうと気づき始めました。

作家さんが推敲を重ねたネームに対して、編集者は「面白い!ばっちりOKです、これで進めてください」と言ってGOサインを出す。「面白さ」に対して、編集者が太鼓判を押したわけです。ところが、漫画が出来上がってみると、ヒットを出したことがない編集者がOKを出した漫画は、読者アンケートが低く、ヒット作を出している先輩編集者がOKを出した作品は、読者アンケートトップ。…これこそが肝だと。つまり、ヒットを出したことがない編集者は、そもそもジャッジが間違ってるんですよ。OKじゃないのに、OKと言ってしまっている。

私たちの漫画編集者の世界では、どんなアドバイスを作家さんにできるかが重要視されがちなのですが、それよりも、OKか否かのジャッジの正しさの方が大切なんじゃないか、と思うようになりました。

ヒットを出さない先輩編集者の作品も、ある意味面白いんです。視聴率は低いけど面白いドラマなんてよくありますよね。読者アンケートで上位にならない作品にOKを出した先輩編集者の感性に大いに共感しつつも、ビジネスとして考えたときには、やはり問題だと思いました。売れないと作家さんは食べていけなくなって、どれほど才能があっても作家をやめてしまう。私の仕事はヒットを出すことであり、逆にいい漫画か否かのジャッジは、むしろすべきではと思うようになりました。考えてみれば小学生の描いた拙い4コマ漫画ですら、尊い作品ですからね。芸術性の有る無しを私ごときが判断するなどおこがましい。私は仕事人としてヒットするか否かだけを判断する編集者になろうと思いました。

最初は過去の漫画作品を読んで、自分なりに読者アンケートの予想を立ててみたんです。まずは、世の中の本の売れ行きと、自分の予測の差異を確かめました。2~3週間くらいで、ざっくりは当てることができるようになりました。ちなみにこれ、メソッドとして新入社員にやってもらったりもしましたが、正直誰でもできるようになりました。

物語の現実直視型と現実逃避型の分析は、どんなことがきっかけで、見えるようになったんですか

畑中:いろいろと細かく調べていくと、裕福な家庭の子や、成績の良い子は現実直視型が大好きということに気づいたんです。成績の良い子にとって、たとえば模試という現実を直視させてくれるシステムは自分が今弱いポイントを教えてくれて、その結果を受けて弱点克服に励む。現実で直視したダメな部分は改善できる部分だからこそ、現実直視することが楽しい。

反対に、それができない場所にいる子もいる。テストで全部赤点…でも、そんなことはテストを受ける前から知っている。しかも、ちょっとや、そっとで勉強をしても追いつかない。なぜなら、自分がどこの勉強から振り落とされたかがはっきりわかっているから。そういう子たちは、現実を直視して良い事なんてひとつもない。現実なんて、むしろ毎日誰よりも直視しているんですよ。だからこそ、そんな自分でも何かできるんじゃないか、自分には秘めた才能があるんじゃないか、ある日覚醒して、自分の可能性が広がることを信じさせてくれる物語が癒やしになる。現実ではなかなか起こらないかもしれない「漫画っぽい」物語、現実逃避の物語を楽しいと感じる。

そして、偏差値の分布がピラミッド状になるように、そういう現実に毎日直面している人の方が数が多かったりする。だからこそ、現実逃避型の物語の方がヒット作となりやすい。

ただ勿論、現実を見つめたい感情と、夢を見たいという感情は、殆どの人が両方持っています。なので大抵は、(現実直視型かの現実逃避型かの)どちらかだけではなく、ハイブリッドで物語を作ります。

時代とともに、人々が持つペインが変化


以前のインタビューで、ハリーポッターやワンピースなどを例に挙げて、自分が与えられた役割や責任に応えていく、というタイプの物語に、90年代後半からヒットの傾向が変わったというお話をされていました

畑中:90年代前半の「努力」の物語って、報われるかどうか解らないことを頑張る物語が多かったと思うんですよ。たとえばサラリーマンの話でたとえると、新入社員で会社に入ったとき、お前なんか、役立たずに決まってるって上司に言われ、誰からも期待されてないけど、なにくそと頑張り、バカにしてきた上司を見返し、何者かになっていく…とか。昭和の名残を感じる粗筋というか。

でも、90年代後半に生まれた物語って、(パチンと手をたたいて)ハイ、あなた新入社員だけど、今日から社長です!かくかくしかじか、こういう事情で、君しかいないんだよ、という期待をいきなり背負う形の努力をする物語の方が一気に優勢になり始めた。

戦後のどさくさみたいな時期が落ち着いて、社会は年功序列で固定化され始め、上司が多すぎて自分が思い通りに仕事を出来るようになるのは40歳を過ぎてから。つまり新入社員なら20年以上後輩として先輩に従わないといけないってこと?そういう大人の世界が子どもの世界にも降りてきて、学校や先輩とか、いろんなものが積み重なっていることが苦しみの現実だとすると、感覚としては(着実にしか自分の歩みを進められない世界だけれど)、「いや~、でも、やらせてくれよ。いますぐチャンスをくれたら、俺にはやれることがあるかもしれないのに」という不満を、皆が持っているんだろうな、と2000年頃は思っていました。

それから20年経ちました。今ですか? 今は、何にもしないで居られたら、と思っている人が多いんじゃないでしょうか(笑)。

今の人たちの持つ苦しみや悲しみ、いわゆるペインは、どのようなものでしょうか

畑中:今の人たちは、20年前に比べて他人の苦しみをものすごく知っていると思います。今の10代は特に、SNSで他人の痛みを本当にたくさん触れて知っている分、自分の痛みを逆に言いだしづらくなっている。10代の中から、多様性という言葉の気持ち悪さみたいな話が、出始めたりしている。多様性といいながら、結局は大人にとって都合の良い多様性を求められているだけなんじゃないかと苦しんでるようです。

それに対して、私たち大人も、ちゃんと語れない。本当は教えているはずなんですよ。まずは、基本的な人権というのがあって、何人(なんぴと)たりとも、他人に自分の権利を侵されない、と。多様性と言いながら、なぜ小児性愛は許されないか?というと、それは他人の権利を侵害するから。

要はなにをしても自由だけれど、他人に被害を与えない範囲でないといけない。そこがいちばん根っこの部分、というのは小中学校で習っているけれど、そういうことを大人が語ってるかっていうと、そうでもない。で、いろんな人に気を遣い、ビジネスで成功するってことも、それも搾取なんじゃないかとか考えてしまう。嬉しいことがあっても、それをSNSに上げることはマウントを取ったと感じる人がいるんじゃないかと気を遣う。どんなことでも、ある角度から見ると、黒い部分がある。どこまでが許されて、どこでダメだと言われるのか。何もかもダメと言われるんじゃないか、炎上を避けるように正解探しばかりしてしまって、人生しんどいと感じているようです。

YouTuberになりたいというよりは、気楽でいたい。(映画「ニッポン無責任時代」の)植木等さんみたいな。必死になんなきゃいけないのはわかっている。ちゃんとする気満々だからこそ、なんか気楽な稼業だって言いたい、みたいなところがあるんでしょうね。

そういう他者危害(排除)の原則さえ守れば自由で、いろいろと可能性があることを、もっと伝えてあげないと苦しくなるばかりですよね

畑中:そうですね、「暗殺教室」という漫画を読むと子どもの頃どれほど大人に期待していたか実感します。先生を殺していいですよってスタートですけれど、先生のほうが何枚も上手で、かっこいい話。先生のこと殺したいと思ったことのある子どもは、意外と沢山いると思って、でもじゃあなぜそんなことを考えるかと言えば、先生のことを尊敬したかったからですよね。期待していたせいで、がっかりしてしまった。だから、子どもの本当の望みは殺すことではなく、先生や周りの大人が素敵な存在で、色んなことを教えてくれることなんだなと。それを体現するような物語です。

コロナ禍という頼もしい姿を一番見せて欲しい時に、大人たちが毎日互いをバッシングしたり、我先に買いだめしたり利己的に動く様子を日々ニュースやSNSで子ども達に見せてしまったことは、本当に胸が痛いです。

コミックにおける MVP の考え方

アイデアの検証は、どのようにされているんですか

畑中:アイデアに関しては、本当に単純で、常にネガティブな意見とか、苦しんでいるものがないかなと探しています。新しい事、物が出てきているときには、同時に、そのことで苦しんでいることがいっぱいあると思うので、そこは意識します。その上で、悩みと本当の望みはイコールとは限らないということを意識しています。

たとえば、「80歳を超える高齢ドライバーに運転免許を返納してもらいたいけれど、どう説得すればいいか?」みたいなことにその子供世代である40~50代が頭を抱えて、自主返納する芸能人を賞賛したりしていますけど、じゃあ高齢者から自力で移動する術を奪って、若者がその代わりに彼らの送り迎えをする未来を夢見ているかと言えば、絶対違うじゃないですか。こういう状況で見せて欲しい絵物語というのは、免許返納の物語ではなく、自動運転が完全に整備されて、死ぬまで自力で車に乗れる世界の話かなぁ…とか。

今だけでなく、過去のアーカイブもよく探ります。今の苦しみと、同じ構造のものが過去必ずあったはず、と思うんですよね。人間の感情って、時代が違っても同じだったりするので。
今苦しんでいるこの問題は、この時代のこれと似てるな、ならば、この話とこれを、ドッキングさせたら、新しい物語になるんじゃないかなっていう風に考えたりもします。

そのほか、ここしばらく流行っていない、でも昔めちゃくちゃ流行ったというものって、やはり回顧し、再び流行が来るんです。それは、どうしても根本的に好きなプロットなんだと思うんですね。そことの組み合わせをやりますね。で、それをやるって決めたときに、仮想読者を立てます。これを支持するのは、何人ぐらいいるかっていうことを考えます。で、その数が、ものすごく少なそうだった時には、社会的に意義があるかどうかで考えます。

ヒット作以外でも、力を入れている作品とかもあるんですか

畑中:ごく稀ではありますが、社会的にものすごく意義があるから進めるというケースもあります。たとえば『Cheese!』の「37.5℃の涙」。『Cheese!』はラブストーリーばかりの雑誌ですが、そこで、子どもが熱を出したときとかに預かってくれる幼児保育士という人に焦点を当てた漫画を連載しています。

要は働くお母さんのいちばんの苦しみはそれだろう、と思ったんですよね。病気の子どもを置いていくなんて、子供より仕事を選ぶのかと自分を責めている。「別に問題ないんだよ、そもそも、あなたは病気に関しては素人だから、幼児保育士に見てもらった方が、子どもの安全のためにも良いよ」という内容です。

『Cheese!』を読んでいる読者の中にも、働くお母さんも絶対にいるはずだから、少数派かもしれないけれど、その読者を喜ばせるものになるし、それは意義もあるし、雑誌にとってもいいだろうと思っていました。結果的に売れて、TBSさんでドラマ化もしました。

閾値を超えたなという、ヒットの確かめ方はありますか

畑中:どんな夢を見せるかを意識して打ち合わせするので、逆を言えば、かなり明確に「こういう人が読者」とイメージしています。なので、まずはそのイメージした読者層の方々に愛されることが最初の目標となるわけで、毎回ではないですが、たとえばTwitterで知った見ず知らずのある1人の女の子をターゲットに、この子がいつかこの漫画を読んでくれて喜んでくれたらいいなと夢想しながら打ち合わせし、帯や宣伝物を作ったりする時もあります。
勝手にこっそり、その子のつぶやきを見ていて、ある日読んでくれたことが解った時は、大興奮します。そういうときには、正しかったんだなと思いますし。やはりヒットしますね。

ありがとうございました

税制からオープンイノベーションを促進ーー経済産業政策局 金指氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は経済産業省産業創造課長の金指壽(かなざしひさし)氏に登場いただきます。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報をお届けします! Sign Up 金指壽…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回は経済産業省産業創造課長の金指壽(かなざしひさし)氏に登場いただきます。

金指壽氏は経済産業省で産業創造課長としてオープンイノベーション促進税制の執行を現場で推進された人物です。2019年からこの任務に就き、それ以前は3年間ロサンゼルスに駐在し、日本企業のアメリカ市場展開を支援してきました。米国で体験したイノベーションのダイナミズムを取り入れようと制度設計などに携わっておられます。

本稿では同氏が中心になって推進されたオープンイノベーション促進税制を中心にコロナ禍での状況、日米エコシステムの相違点などについてコメントをいただきました。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine編集部、回答は金指氏、文中敬称略)

オープンイノベーションへの取り組み

オープンイノベーション促進税制は国内の事業会社またはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)がスタートアップとの協業を目的に一定額以上の新規発行株式を取得する場合、その取得金額の25%が所得控除される制度です。2020年4月1日から2年間が対象期間で、オープンイノベーションを目的に5年以上の株式保有、1億円以上の出資などが条件になっています。

この制度を推進した金指さんはどのような意図で制度設計に臨んだのでしょうか。

どのような経緯から今回のオープンイノベーション促進税制は考案されたのでしょうか

金指:(海外での経験から)ダイナミズムを推し進めるのがイノベーションの基本だと肝に銘じて、そこから何ができるかということを問題意識として持っていました。それで約2年前に今のポストに着任してから重点的に取り組んできたのがオープンイノベーションへの取り組みでした。イノベーションを狭義に捉えると、まず、ベンチャー支援が頭をよぎります。ベンチャー界隈だけ見てみても、最近は本当にベンチャーに非常に優秀な人たちが集まってきていて、この10年で日本のベンチャーエコシステムも大きく様変わりしていると実感しています。

大企業からの転職・創業組も随分と増えました

金指:仰る通りです。他方、ベンチャーのみに注目をしていたのでは、やはりクルマの片輪のみ手当てしていることになります。その対をなす大手企業にも有用な人材や資金、技術があるわけです。大企業では、どうしても過去の成功体験の裏返しという意味合いも含め、そうしたヒト、モノ、カネを組織の中に抱え込でしまう傾向があります。それを外向きに開放していただく一つの方法としてベンチャーとの連携を促す、という視点が重要です。

そうすることで大企業とベンチャー企業のオープンイノベーションを促進することで、ベンチャーの競争力強化にも繋がりますし、大企業のヒト・モノ・カネを外向きに出すことで、より大規模なイノベーションにつながり、それは大企業側の競争力の強化にもつながります。こうしたオープンイノベーションを促進するツールとして何があるかを考えた時、例えば税制を使ってそこにインセンティブを付与できる設計があれば、オープンイノベーションを活性化させることができるのではないか。これがオープンイノベーション税制の考案のきっかけです。

具体的な反響は

金指:去年の4月から制度自体は始まっているので(取材した2月時点の実績として)オープンイノベーションの実績が確認できて制度の利用が見込まれているのが約50件、投資総額にして160億円程度の案件に対して、この税制を使っていただく予定がすでに立っています。年度末に向けて相談件数も増えていますし、多くの企業に利用していただける制度になりつつあるのかな、と考えています。

課題感としてどのようなものを感じましたか

金指:昨年はコロナ禍という課題に向き合った1年でもありました。前半戦は、「持続化」がキーワードになっていました。コロナ禍は、本当に先行きを見通すことが難しい問題で、厳しいビジネス環境の変化に対して如何に事業の持続を実現するか、という点に注力し、経済対策を中心に支援策を講じてきました。そこから少しずつフェーズが変わってきて、秋口以降は持続化から「ポストコロナ、ウィズコロナ」というものを意識してどのようなサポートができるのかを考えた上で、政策の軸足を移していった次第です。

確かにコロナ禍で大きな産業構造の変革の入り口に立たされた感はありました。行政による改革支援で何か特徴的な変化は

金指:政権の柱、成長戦略の柱として「デジタル」「グリーン」があります。ちょうど先般、産業競争力強化法の改正法案を国会へ提出させて頂きましたが、グリーン社会への転換を実現するために、これも税制措置ですが、脱炭素の実現を加速するための設備投資に、過去最大規模の税制インセンティブを措置しています。こうした支援策を活用し、事業変革をサポートできればと考えています。

デジタルは、ビジネス変革を興すための共通のツールです。気候変動もまさに3年前に赴任していたカリフォルニアで実感しましたけれども、決して経営に対する制約要因ではないと考えています。逆にイノベーションのチャンスだと捉えていて、(気候変動などの社会的要請に)対応するためには企業の積極的な投資をどうやって引き出していくか、またそこにどのようなインセンティブをつけていくのか、を大きな課題として認識しています。

コロナ禍における持続化と成長

言わずもがなではありますが、コロナ禍は、経済活動に大きな影響を与えました。人の接触を避けるという制約条件は、社会生活、産業構造におけるデジタル化を大きく推進させるきっかけとなったとして後世に語り継がれるターニングポイントとなったはずです。金指さんに引き続きスタートアップ・エコシステム、オープンイノベーションにおける影響をお聞きしました。

コロナ禍についてもう少し詳しく、エコシステムに対してどのような影響があったとお考えでしょうか

金指:製造業は「V字」的に持ち直しているのですが、飲食や旅館、輸送系は大変厳しい。上に上がっているものと下に下がっているものがバラバラで「K字」とも言われる状況です。こういう中にあるので、どうしても赤字に陥った企業も出て来ざるを得ません。

飲食ひとつとっても店舗の位置をオフィス近くでランチ需要でやってきたところから、その出店場所を見直して持ち帰りを念頭に住宅街の近くに移すとか、メニュー自体を見直すとか。こういうプロセスの見直しもイノベーションの一つだと思っています。このような企業努力を後押しし、赤字を黒字に如何に早く戻していけるか、という点についても、先ほど挙げた産業競争力強化法の中で支援策を講じています。

投資環境は思ったよりも大きく下げることはなかったようです

金指:正直、コロナが発生した際には、今後の投資環境はどうなるかと不安も感じていました。リーマンショックでは相当にベンチャー投資が落ち込みましたし、回復基調に戻るまで5、6年ほどかかりました。折角ここまでイノベーションエコシステムが回り始めたのに、こうした状況になってしまうと厳しい。実際のところは、これはVCやCVCのみなさんが本当に頑張っていただいていると感謝しているのですが、思った程はベンチャー投資が落ち込まず、ほぼ2019年の水準で保たれました。

一方「K字」にある通り、厳しい企業にはとことん厳しい環境になりました

金指:仰る通りです。こういう状況下でビジネスプランが思ったよりも下振れしている企業については、少し長めでエクイティに近い形の融資である(新型コロナ対策)資本性劣後ローンといった措置も講じています。さらに今後、ベンチャーの再生局面のようなものが出てくれば、中小企業の再生ノウハウが蓄積されている中小企業基盤整備機構という独立行政法人にベンチャー再生機能を持ってもらうことも考えています。

コロナ禍であっても前向きに勝負ができるベンチャー企業もいらっしゃいます。特に最近は、ディープテックという言葉を耳にするようになってきたと思います。この領域でも人材の質が本当に上がってきていて、資本政策もよく練られています。なんでもかんでも調達はとりあえずエクイティ、というのではなく、ディープテックベンチャーの量産フェーズなどはデットで調達した方が良いといった考え方が支配的になっています。シリコンバレーも同様です。金融機関の方も、新規の融資先開拓という点でベンチャーへの融資に前向きな温度感が出てきています。これを国の方で一定のリスクを引き受ける形で繋いでいく支援策(債務保証制度)も今後創設予定です。

また、日本ではファンドによる海外投資が全投資額の50%までしか行えないという規制があります。最近は、国の方もそうではなくて、むしろ海外とのオープンイノベーションも支援していくと考えています。オープンイノベーション促進税制も、海外ベンチャーへの投資も支援対象としたという点で非常に画期的なものでした。こうした流れを受ける形で、海外とのオープンイノベーションが見込めるVCについては、海外投資の50%規制を緩和することも、産業競争力強化法の改正法案には入れ込んでおり、今の政策ニーズにあったものにしています。

非上場株式の流動化と新しいIPOプロセス

インタビューも終盤に差し掛かり、金指さんに国内エコシステムを日米で比較した際の違いや弱点についても尋ねました。特に米中・インドで未上場ながら評価額を大きく伸ばす「ユニコーン」の存在は、かねてより日本市場との差異として指摘されています。マザーズがその受け皿となる一方、早期の株式公開は大胆な成長投資・研究開発投資を抑制萎縮させる危険性もはらみます。

日本のエコシステムを金指さんの視点で俯瞰して、これからの課題点をどう考えますか

金指:今後、ベンチャーと事業会社がどのようにしてイノベーションを伸ばしていくのかという観点で個人的に着目しているのが非上場株式の流通拡大という視点です。ベンチャー支援の観点からは、日本には、上場しやすい優位性を持った「マザーズ」という上場市場があります。海外ベンチャー含めて魅力を感じていますし、売買も活発なので評価されてよいと思っているのですが、一方で、より大きな成長、ユニコーン創出に繋げていくという観点では、時に大きくない規模での上場がマイナスに働く場合もあり得ます。

早期上場はマネーゲーム的な「上場ゴール」なんて言葉も生みました

金指:海外では未上場の状態で必要な資金を大きく調達し、成長に向けての準備期間を十分長く取ることでユニコーン化していくプロセスが確立しています。国内でもそうしたケースが少しずつ出初めていますが、日本では未上場株式の取引はまだまだ未成熟です。早期の上場を目指すだけでなく、別のプロセス、未上場の期間を長くとって、より大きな成長に挑戦していく、こうした取組を活性化していくためには、未上場株式の流通拡大が不可欠だと思っています。

未上場株が正しく流動化すればスタートアップ投資の回収サイクルも短くなりますし、エンジェルからVC、その後の事業会社などのプレーヤーにバトンを渡していくという手法も取りやすくなります

金指:狭義のベンチャーということに留まらず、事業会社ひとつとってみても上場というものの捉え方が日本とアメリカでは随分と違います。上場は信用力や資金調達力を上げるということもポジティブに働きますが、ケースバイケースで非上場化というものがもっと選択肢として認識されても良いのではないか、と考えています。

日米の株取引は正三角形と逆三角形の違いとよく言われます。アメリカは正三角形で上場取引は少なく、未上場の取引が圧倒的に多い。一方、日本は逆三角形で、未上場の取引が圧倒的に少ない。この未上場の部分を広げることで、例えば事業会社が非上場化して長期的な視点で研究開発投資を厚くしていくみたいな話も可能になってきます。

株式公開の選択肢についても幅が広がってます

金指:そうです。アメリカで新しい上場の仕組みとして注目されているのがダイレクトリスティングとSPACです。ダイレクトリスティングは、基本的には新規の資金調達を行わずにそのまま市場に株式を公開する方法でロックアップがかからずに発行済株式の取引をすぐに行うことが可能です。一方、SPACは、特別目的会社を先に上場させた上で投資家から資金を調達し、子会社として企業を買収し、上場させていくプロセスです。

両方ともにキーワードは「市場原理」で、株価の設定をできるだけ市場に委ねるという考え方が根底にあります。これが、証券会社の引き受けを中心に行われてきたこれまでの伝統的なIPOと異なる点です。ダイレクトリスティングやSPACといった新規の公開プロセスと伝統的な公開プロセス、これもある意味競争かもしれません。

ただし、SPACやダイレクトリスティングが公正に機能するためにも、やはり未上場株の取引の活性化が不可欠です。こうした新たなIPOプロセスの効果と手法も念頭に置きつつ、未上場株の取引を如何に活発化させていくかが次の課題になるのではないかと考えています。

ありがとうございました

弁護士・石原遥平氏に聞いた、スペースマーケットでの信託型ストックオプション設計と導入のリアル【ゲスト寄稿】

本稿は、淀屋橋・山上合同東京事務所パートナーで弁護士の石原遥平氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石原氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。 <解説:石原遥平氏> 弁護士。弁護士法人 淀屋橋・山上合同 東京事務所パートナー。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスター…

本稿は、淀屋橋・山上合同東京事務所パートナーで弁護士の石原遥平氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石原氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。

<解説:石原遥平氏>

石原遥平氏

弁護士。弁護士法人 淀屋橋・山上合同 東京事務所パートナー。

スペースマーケット取締役、RECEPTIONIST 社外監査役、シェアリングエコノミー協会シェアリングエコノミー認証制度統括ディレクター等を務める。

2016年から出向したスペースマーケットでは、自治体や企業提携交渉、資金調達、内部監査、上場審査対応等も担当し、2019年12月に東証マザーズ上場を担当マネージャーとして経験。

2020年4月に事務所に復帰し、2021年4月から同事務所パートナーに就任。

<聞き手:小原聖誉氏>

小原聖誉氏

2013年 AppBroadCast 創業。400万⼈にサービスが利⽤されたのち、2016年に KDDI グループの mediba へバイアウト

その後エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し3社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。 「若⼿起業家が選ぶすごい投資家」第1位選出(2019年・週刊東洋経済)。現在はスタートアップを⽀援する会社 StartPoint を創業し、起業プラットフォーム「StartPass」などを通じスタートアップ250社に経営リソースを提供。

著書に「凡人起業 35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。」(CCC メディアハウス)など。

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最近スタートアップ界隈で耳にすることが多くなった「信託型ストックオプション」について、前回は、資本政策のプロである公認会計士/税理士の方にお話を伺い、制度の概要や従来型ストックオプションとの違い、〝上場審査でNGにならないため〟の設計上の注意点などを伺いました。

今回は、実際に信託型ストックオプションを導入した上で上場を果たした企業の上場担当者に、現場のリアルな声を伺い、より実践的な活用方法・注意点などを探っていこうと思います。(小原)

Photo by CreditScoreGeek – Creative Commons License 2.0 Generic

石原さんは、2019年12月に上場したスペースマーケットで、実際にストックオプション制度の設計に関わっていらっしゃったんですよね。

そうです。私が入社する前に一度通常の税制適格ストックオプションが発行されていて、入社したのはちょうどその数ヶ月後というタイミングだったのですが、第1回目の発行以降に入社したメンバーはストックオプションをもらえていないという状況だったため、そこをフェアにするための何かいい制度はないか、という検討の中から、信託型ストックオプションを導入することになりました。

スペースマーケットでは、最初に従来型ストックオプションを1回 → シリーズ B の後に信託型ストックオプション → 最後にもう1回シリーズ C の後に従来型ストックオプション、と、合計3回発行しています。

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信託型ストックオプションはどういう段階・シーンで一番の選択肢となるのでしょうか?

本当のシード期(資金調達前または1回目の資金調達のフェーズ)ではあまりお勧めしません。理由としては、コストが高いことと、後述の人事制度が整っていない状況で導入しても運用が難しいこと等です。

目安としては、シリーズ A ~ B のフェーズくらいでしょうか。導入コストは安くても数百万円ほど必要になりますので、資金調達の使途として明示して調達するのもよいかもしれません。

導入の際の具体的なスケジュールとして、準備期間はどのくらいを見ておけばよいでしょうか?

事前の検討状況次第ですが、最速で約2ヶ月あれば導入可能だと思います。

信託型ストックオプションは「運用」が必要であると聞きましたが、具体的にはどのような作業が必要なのでしょうか?

この場合の「運用」とは、人事評価ポイントの付与、ということになると思います。

半期ごとなど、一定期間で対象者を評価し、事前に設計したルールに基づいてポイントを付与していくことになります。粛々と決められたガイドラインに沿って付与していくことになるので、「運用」といっても、むしろそこに恣意性などを入れないよう機械的に作業していくことが肝要です。

また、その該当期間ごとに社外監査役などで組織する外部委員会を組織し、恣意的な運用がなされていないかのチェックも行います。

通常のストックオプションと信託型ストックオプションを併用することはできるのでしょうか?

可能です。むしろ、初期は税制適格の無償ストックオプションを発行し、従業員が30人を超えた辺りから信託型を導入するくらいでいいと思います。

信託型ストックオプションを発行するにあたって、社内ではどのような議論をなされたのでしょうか?

具体的には以下のような点を議論しました。

  • PL へのヒットの有無とその影響
  • 監査法人の監査リスク、主幹事証券審査リスク、東証審査リスク
  • 導入上、運用上の問題
  • フェアバリュー算定した時の創業者の負担等

割当比率については転換当日にならないとわからないというのが信託型の特徴かと思いますが、実際に、転換時に対象者から不公平などの声は出なかったのでしょうか?

特に出なかったと認識しています。

予め決められた株数分のストックオプションをポイント付与数に応じて山分けすることになるので、当然最後まで誰に何株渡るかは不明なものの、想定の数字と大きく乖離しなかったことや、半期ごとの適切な上長からのコミュニケーションによってあくまで想定の数字だという説明をしていたことが奏功していると考えます。

信託型ストックオプションを普通株に転換する時にはどのような手続きを行うのでしょうか? イメージが湧いておりません。

対象者は証券会社に専用の口座を開設し、行使の意思表示、金額の払込、口座への株式の納入などを行います。従来型ストックオプションと特に変わらず、面倒な手続きではありません。

今振り返ってみても、もう一度信託型ストックオプションを導入したいと思いますか?

絶対に導入します。ただ、前述のとおりメリットとデメリットがあるので、税制適格の無償ストックオプションと組み合わせてポートフォリオを組んで実施すると思います。

また、同じ信託型の枠組みの中で、ポイント制度だけでなく、特別付与分という形でワンショットで何株分かのストックオプションを付与するというような設計も可能なので、うまく組み合わせてインセンティブを有効に維持できるよう、導入時にかなり議論して整備する必要はあります。

信託型ストックオプションを導入したことによって成功した会社の事例、反対に失敗した会社の事例があればお伺いしたいです。

退職者の対応(無償ストックオプションだと毎回消却と登記が必要で、その分を誰か別の人に分配するということはできない)の面で、圧倒的にコストも手間も省けたと思うので、そこは実務的なメリットはかなり大きいと思います。

一方で、まだ人事制度も整っていない会社が無理して導入して恣意的な運用がなされたり、そもそも現実化するかどうかの期待度が低い段階で導入してこれを給与の一部とされる賞与の代わりとしてコミュニケーションを取ってしまうようなことがあると、従業員から不信感を抱かれるリスクがあると思います。

信託型ストックオプションを是非導入すべき会社、反対に導入すべきでない会社というのはありますでしょうか?

IPO を目指すのであれば、有効なインセンティブの手段として導入すべきだと思いますが、逆にバイアウトを目指すのであれば導入すべきではないと考えます。


前回は、主に専門家の観点から、対外的(対監査・上場審査)な設計上の注意点のお話を多く伺うことができましたが、今回は、実際に導入された企業側のリアルな声から、対象者とのコミュニケーションや人事評価制度との兼ね合いなど、社内的な観点の注意点を具体的に知ることができました。

信託型ストックオプションは IPO を目指すスタートアップにとって非常に有効なインセンティブ制度といえそうですが、コストが高く、また、運用に当たっては人事評価制度と密接に関わるため、それらが整った段階で入念に準備をした上で導入すべきであり、そのタイミング以外では従来型の税制適格ストックオプションと上手く使い分けていくのがよさそうです。

信託型ストックオプションを本来の目的どおり、フェアで使い勝手のいいインセンティブ制度として効果を発揮させるためには、社内的な対応でいうと何よりも「明確で適切な人事評価制度」と「対象者とのコミュニケーション」が肝だといえるのではないか、と感じました。(小原)

大丸松坂屋百貨店ファッションサブスク「AnotherADdress」の挑戦、成功の鍵は“社内起業”にあり

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。 大手企業による新規事業の立ち上げは社内・買収・オープンイノベーション(共創)が主な手法です。中でも難しいと言われてきたのが社内人材による新規事業で、例えば本業を覆すような取り組みは長らく「イノベーションの…

写真左から:日立物流サプライチェーン・ソリューション2部 寺島和歩氏、スマートロジスティクス推進部 花輪直之氏、大丸松坂屋百貨店 AnotherADdress事業責任者 田端竜也氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。

大手企業による新規事業の立ち上げは社内・買収・オープンイノベーション(共創)が主な手法です。中でも難しいと言われてきたのが社内人材による新規事業で、例えば本業を覆すような取り組みは長らく「イノベーションのジレンマ」として多くの経営者・新規事業担当者の頭を悩ませてきました。自社を否定する事業を中から生み出すことは難しく、革新的なアイデアを社外と共に作る「オープンイノベーション・共創」が加速した背景もここにあります。

一方、この10年で社内新規事業の作り方も解像度が上がり、社内に「もうひとつの事業体」を作る社内起業の方法も徐々にですがアップデートが進んでいるようです。今回、取り上げる大丸松坂屋百貨店「AnotherADdress」もそのひとつで、立ち上げにおいて物流面をサポートした日立物流との連携を含めて、大丸松坂屋百貨店 AnotherADdress事業責任者 田端竜也氏(写真右)と、日立物流 スマートロジスティクス推進部 花輪直之氏(写真中央)、サプライチェーン・ソリューション2部 寺島和歩氏(写真左)にお話を伺いました。

新品かレンタルか、百貨店のジレンマ

大丸松坂屋百貨店が新たに立ち上げたサービス、それがファッションレンタル「AnotherADdress」です。ユーザーは50の国内外ハイブランドから自分でファッションを選ぶことができるのが特徴で、1カ月で3着利用できて料金は11,880円。価格帯は4万円から20万円台のものが取り揃えられており、到着後の交換も可能です。往復送料やクリーニング代金も月額料金に含まれていて、ブランドはメゾン・マルジェラやMARNI、シーバイクロエなど女性中心のサービスとなっています。

ファッションのサブスクリプション・レンタルは特に目新しいサービスではありません。国内でこの分野の草分けとなった「airCloset」の開始は2014年で、その後もアパレルメーカーやスタートアップが主導したサービスなどがいくつか立ち上がっています。

しかしこれまで百貨店にとって、このレンタルというモデルを採用するのにはハードルが高かったそうです。当然ですが、小売やブランドとしては新品を消費者に届けることがこれまでの商流の中心でした。

特にハイブランドは2次流通を嫌います。価格の安さや中古品の流通はブランド価値を毀損するからです。つまり、ハイブランドと長らく手を取り合ってきた百貨店がレンタル事業を立ち上げるというのはまさに「ジレンマ」に当たるわけです。

一方、世の中は持続可能な社会を求めるようになりました。所有から共有へと消費スタイルが変化しつつある中、ジレンマに対峙するタイミングを誤れば、次にやってくる大きな波に乗ることはできません。この事業を立ち上げた大丸松坂屋百貨店 AnotherADdress事業責任者、田端竜也さんは数十年前、百貨店業界が「ECでファッションを売れるはずがない」と否定した結果が今にあると振り返ります。

「まず今回の取り組みは百貨店業界だけでなく、アパレル業界やクリーニング業界にとって長年のしがらみを超える取り組みとなったことから、非常に大きな反響を社内外でもらっています。初月の会員目標は立ち上げ3日で達成し、新たな取り組みの依頼も舞い込むようになりました。

服は使い捨てではないという信念のもと、ファッションの本質的な価値やサスティナブルな取り組みを重視し、社会や環境にとって持続性の高いビジネスモデルへ転換することを目指すサービスとして立ち上げました。大丸松坂屋百貨店にとって本事業は、これまでの百貨店の構造からの転換と、持続的な未来を実現するための新たな挑戦の第一歩なのです」(田端さん)。

社内にもうひとつの「社内」を作る

AnotherADdressの立ち上げは社内ベンチャー型で実施されました。田端さんは大丸松坂屋百貨店にて長年、新規事業への取り組みを実施してきた経験から課題感をこのように振り返ります。

「大手の新規事業開発における課題はいくつかあります。例えば企画と実行を分離することによる立ち上げ熱量の喪失、部門横断型のPJT形式による事業責任の不明確さと意思決定に伴う膨大な社内調整作業などがそれです。

結果、新規事業に必要なスピード感を欠如するなど、長年新規事業に携わる中で課題を感じてきました。特にここ最近は、オープンイノベーションの文脈で、多くのベンチャー企業と接する中で非常に致命的であると再認識していました」(田端さん)。

田端さんのお話をお聞きし、今回の取り組みには経営トップ層がしっかりとこの事業にコミットしていること、それと田端さんという社内人材が企画から実行まで一貫して責任を請け負っている点が特徴であると感じました。

子会社として切り出すまではしなかったそうですが、内部統制については本体とは全く別のものにしてあるそうで、例えば商品管理については大丸松坂屋百貨店が管理するPOSを使わず、会計についても一般的なクラウド会計サービスを採用するなど、完全に独立したものを部門として用意したそうです。

「今回は私が事業の企画・構想そして立ち上げ、今後の運用まで一貫して担当してきました。社内ベンチャー型で会社には本事業への出資者に近い立ち位置で接してもらい、お金からシステムに至るまで切り離して、権限と責任を明確にして社内調整を排除しました。これにより数々の意思決定の際にスピード感を持って事業立ち上げに当たることができました」(田端さん)。

予算については事業計画に基づいて通常の会社の資本金にあたる予算が立てられ、数年後の主要なKPIをモニタリングすることで継続や撤退などの意思決定が設定されているというお話です。経営者として成長に合わせた増資や資本政策に不必要な時間を取られないのは社内ベンチャー型のメリットのひとつです。

物流をどうする

経営層がコミットし、社内に別の統制を作ることでこれまでの商習慣を大きく変える可能性のある事業を立ち上げることに成功したのが「AnotherADdress」です。

一方、同じくファッションを扱う事業でありながら、サプライチェーンについてはこれまでのノウハウとは異なるものを用意しなければなりません。田端さんはここでスピード感を保つため、共創の仕組みを活用することにします。

「事業を立ち上げるにあたり、1年ほど前倉庫運営をどうするか悩んでいました。そんな折、KDDI ∞ Laboで同じく事業共創パートナーとなっていた日立物流さんを紹介いただきました。日立物流さん側も今後シェアリングや、ベンチャー型の事業立ち上げニーズが高まることを想定し、新規事業としてRFIDを活用したシェアリング対応のWMSの立ち上げを企画されていたんです。

話し合いの結果、外部連携1号案件として、双方の思惑が一致して今回の連携が実現しました。多少の横領域で土地勘があるもののゼロからのスタートだったこともあり、仕様のすり合わせには多大なコミュニケーションを要しましたが、健全に前を向いて進めることができたと感じています」(田端さん)。

日立物流が提供したのはレンタル・サブスク事業者向けのRFID個品管理サービス「レコビス」でした。所有から利用へと消費スタイルが移る中、サプライチェーン側としてレンタル事業運営に必要な貸出予約機能や製品1品ごとの個品管理、クリーニングなどの物流機能をワンストップで提供するものです。

今回の取り組みでは、ハイブランド・ファッションという繊細なアイテムの取り扱いがハードルになったようです。

「ファッションサブスクという消費者様に衣料を貸し出すビジネスモデルですので、貸出頻度・使用による商品の状態変化を1点1点管理する必要がありました。一方、物流としては管理レベルが細かければ細かいだけ煩雑となる訳ですが、煩雑な運用を如何に効率的に品質高く行えるか、運用そしてシステムを含めた仕組みづくりが大きなハードルでした。

両社初の試みでしたので、運用を検討する中で、大丸松坂屋百貨店様がお持ちのサブスク運営に関するノウハウと、弊社の物流運営に関するノウハウを持ち寄り、真剣に議論を重ねることで、サービスを作り上げることができたと思っています」(寺島さん・花輪さん)。

大手には優秀な人材やアセットが豊富に揃っている一方、新しい取り組みについては必ず本流との間になんらかのジレンマが発生します。また、大きな流れに沿った内部統制の仕組みは小さく生み出すモデルには不釣り合いです。そういう意味で大丸松坂屋百貨店の事例は、自社の持つアセットを有効に活用しつつ動きやすいビークルを作った例と言えます。

「完全に顧客・システム・お金(会計管理)を切り離した形で事業をベンチャー型で立ち上げるのは会社にとって初めての取り組みであり、まずは立ち上げに成功したことで、会社にとっても一つの大きなモデルを示すことができたと考えています。

今後、こういった事業立ち上げをどんどんやっていこうという社内気運になっていることも非常に大きいです。一方で事業は立ち上げたばかり、色々な課題が今後出てくることが見える中で、スピード感をもってグロースハックしていけるかが最大の課題であり、挑戦だと思っています」(田端さん)。

編集部では引き続き、大手企業の新しい事業への取り組みをお伝えしていきます。

パッケージをデジタル化するshizai、ANRIやGBら1.2億円出資

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ニュースサマリ:オリジナルパッケージの制作から資材管理・オペレーションまで最適化支援する「shizai」4月5日、ANRI、グローバル・ブレイン、および個人投資家を引受先とする第三者割当増資の実施を公表している。調達した資金は日本政策金融公庫からの融資を合わせて1億2,000万円。出資・投融資比率や株価、参加した個人投資家の氏名などは開示していない。またこれに合わせて資材プラットフォームshiza…

ニュースサマリ:オリジナルパッケージの制作から資材管理・オペレーションまで最適化支援する「shizai」4月5日、ANRI、グローバル・ブレイン、および個人投資家を引受先とする第三者割当増資の実施を公表している。調達した資金は日本政策金融公庫からの融資を合わせて1億2,000万円。出資・投融資比率や株価、参加した個人投資家の氏名などは開示していない。またこれに合わせて資材プラットフォームshizaiの正式公開も伝えている。

shizaiは消費材メーカーが必要とするパッケージやその梱包を企画、制作し、その資材管理までを一気通貫で管理するプラットフォーム。例えば化粧品などの商品を想定した場合、その容器となるボトルや化粧箱、配送する際の梱包までパッケージに関するものが対象となる。また、その材料となる段ボールや包装紙などの資材を管理したり、包装自体を実施する際の倉庫やオペレーション作業まで管理できるものとなっている。shizai自体は印刷工場や倉庫を持たず、製作ができる印刷会社などと提携し、プラットフォーマーとして利用メーカーとこれら事業者をつなぐ役割を担う。

同社によると、こういったオーダーに発生した中間事業者を廃して直接取引とすることで、価格と納期を最適化し、パッケージに関わるコストを平均で20%ほどカットできるとしている。また、昨今の環境配慮への取り組みから、パッケージに利用される包装資材やインキなどを地球にやさしい素材へと切り替える活動も推進する。国内の消費者向けEC市場は物販系だけで10兆円あり、そのEC化率は7%未満に留まる一方、成長率は8%を超える(2018ねんから19年)。

話題のポイント:shizaiのリリースに合わせて同社代表取締役の鈴木暢之さんにClubhouseで公開取材させていただきました。創業の理由にサステイナブルな社会実現という理念が織り込まれているのがまさに今であり、かつ、こういうスタートアップが今後増えていくことを期待したい、そんな内容でした。ビジネスモデルやサービスの詳細についてお聞きしているのでぜひお聞きいただければ。

※この収録は同社の許可を得て掲載させていただいております。

若手アーティストを支援する「新時代の版画」の可能性ーーDNPとTRiCERAの共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 アートを社会に実装する共創の取り組みはこれまでにもいくつか取り上げてきました。The Chain MuseumとKDDIによる日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(A…

写真左から:TRiCERA代表取締役の井口泰氏、DNPアートコミュニケーションズ取締役の篠田秀実氏、DNPメディア・アートの相田哲生氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

アートを社会に実装する共創の取り組みはこれまでにもいくつか取り上げてきました。The Chain MuseumとKDDIによる日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(ARTS & CULTURE PROGRAM)の取り組みや、東急とヘラルボニーによる「障害のある作家のアート」が街に染み出すROADCASTプロジェクトがそれです。

そして今回ご紹介するTRiCERAと大日本印刷(以下、DNP)の共創事例は、よりアーティストにフォーカスを移したものになるかもしれません。

現在の世界のアート市場は7.5兆円、国内については3,500億円ほどと推計されています。一方、実際に作品販売において生計を立てられているアーティストはわずかであり、その理由として乏しい販売のチャネルがありました。大きな作品であれば運搬するだけでもコストがかかります。この問題を解決しようとしたのがTRiCERAで、彼らはアーティストと作品を求める消費者を繋ぐマーケットプレイスを展開しています。

今回の共創事例では、ここにDNPの印刷技術を組み合わせることで、より作品販売の可能性を広げることに成功しています。詳しい取り組みについて、DNPのみなさんとTRiCERA代表取締役の井口泰さんにお話を伺いました。

アート販売の課題と版画がもたらす可能性

国内におけるアート作品を販売する方法は画廊・ギャラリーを通じてのものが一般的で、それ以外に大手デパートや催事、インターネットサイトで直接販売する方法もあります。画商などが間に入って取り扱うケースは別として、自分で直接販売する場合にはそれなりのノウハウとコストが必要になります。海外にも販路を広げようとすると難易度はさらに上がります。

TRiCERAが提供するのはアーティストのC2Cマーケットプレイスで、参加申請に通ったアート作品の情報をアップロードし、売買が成立すれば梱包をするだけで、あとはTRiCERA側が集荷・搬送、販売手続きを担ってくれる仕組みになっています。海外販売時の税関対応も彼らがやってくれます。

しかしここでもうひとつ大きな課題が立ちはだかります。価格です。井口さんが「多くの時間をかけて制作を行うアーティストの作品価格は高価格になってしまうため、知名度がない状態では作品が良くても売れないことが多い」と指摘するように、一点ものの作品は数カ月かかって制作するものも珍しくなく、それなりの価格を必要とします。

しかし高額になればなるほど一般の人には届きにくいものになってしまいます。

そこでアイデアとして出てくるのがグッズや複製品の考え方です。特に版画にできる作品の場合は価格を抑えることができるので有効です。ただ、版画も簡単な方法ではなく、版下を作るだけで数十万円のコストが必要になるそうです。このハードルをクリアしたのがDNPの高精彩複製技術でした。

TRiCERAは市場創造のために作品単品だけでなく複製画販売の可能性を検討していました。一方のDNPでは、国内外の美術館が保有する名画のライセンスを管理するビジネスを展開しています。ただこれまではリアルな展覧会や美術館での告知と販売がメインで、オンラインマーケティングや海外も含めた販売(EC)が着手できていないという課題感がありました。

TRiCERAが手がける若手アーティストの作品についても同様です。DNP高精彩出力技術『プリモアート』では、国内外の美術館が保有する名画やマンガ・アニメ原画をアーカイブし、複製する事業をしていたものの、現代若手アーティスト作品については着手できていなかったんです。(DNP 篠田さん 相田さん モタイさん)

昨年1月にKDDI ∞ Laboの定例会で出会った両社は検討を重ね、各国から選りすぐった13名のアーティストによる限定エディション・高精彩複製作品の販売にこぎつけます。結果、昨年11月から約3カ月の期間でのトライアル販売では、国内外から予想以上に販売に繋がったというお話でした。

実際に販売された作品

現代アートでは複雑な配色、ストロークやタッチがあるため、従来の印刷では細かい部分には手が及びませんでした。今回はDNPが持つ10色インキ用のカラーマネジメント、さらに原画の撮影には1億画素を超えるカメラを用いることでそれらを再現できました。版画の魅力の一つはイメージを楽しめるという点です。だからこそ色彩の表現、アーティストの筆の痕跡を忠実に再現する必要があるのです。(TRiCERA 井口さん)

共創の取り組みはまだ始まったばかりです。版画を初めて制作したアーティストの反応も上々で、DNPサイドとしても原画だけでなく複製画の販売の可能性、アーティストや作品による販売数の違いなどマーケティングデータを収集できたことも大きかったそうです。これらの反響を手に両社は次の仕掛けに向けて取り組みを続けます。

DNPは、文化(アート)を次代へ継承するだけでなく、アートの力が経済成長の原動力にもなると考え、その理解・認知拡大や、他産業分野(観光、まちづくり、教育等)と連携した取組みを進めています。今回の取り組みでは若手アーティストの作品を「高精彩出力技術・プリモアート」で製造し「新しい版画」と位置づけて販売をしていくことで、アーティストが自立して活躍できる環境を提供しました。

若手アーティストが世界で活躍できる社会づくりにつなげることと、アート市場をより一層活性化し拡大させていきたいです。また、アートを身近な存在にしていくため、著作権の管理や二次利用の推進、各種メディアやプロモーション手法、新たなアーティストの発掘・育成などについても今後協業を検討していきます。(DNP 篠田さん 相田さん モタイさん)

デジタル技術とマーケットプレイスの組み合わせで生まれた「新時代の版画」作品はアートに取り組む人、楽しむ人にとって新しい選択肢となるのでしょうか。

編集部では引き続き共創の取り組みをお伝えしていきます。

注目を集める「信託型ストックオプション」、その使い方や長所短所を資本政策のプロ・石割由紀人氏に聞いた【ゲスト寄稿】

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本稿は、Gemstone 税理士法人のパートナーで公認会計士・税理士の石割由紀人氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石割氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。 <解説:石割由紀人氏> スタートアップ支援専門の会計事務所 Gemstone 税理士法人パートナー。 ニュースレター…

本稿は、Gemstone 税理士法人のパートナーで公認会計士・税理士の石割由紀人氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石割氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。

<解説:石割由紀人氏>

石割由紀人氏

スタートアップ支援専門の会計事務所 Gemstone 税理士法人パートナー。

監査法人・税理士法人、外資系通信ベンチャー企業管理部長、ベンチャーキャピタルを経てスタートアップ支援専門会計事務所を運営。株価算定(優先株式、PPA等)、ストックオプション評価等についても業界屈指の実績を有する。Gemstone 税理士法人の2020年度関与先新規上場実績は8社。

著書に「ベンチャーキャピタルからの資金調達術」(ぱる出版)、「資本政策立案マニュアル」(中央経済社)、「資本政策立案マニュアル第2版」(中央経済社)など。

<聞き手:小原聖誉氏>

小原聖誉氏

2013年 AppBroadCast 創業。400万⼈にサービスが利⽤されたのち、2016年に KDDI グループの mediba へバイアウト

その後エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し3社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。 「若⼿起業家が選ぶすごい投資家」第1位選出(2019年・週刊東洋経済)。現在はスタートアップを⽀援する会社 StartPoint を創業し、起業プラットフォーム「StartPass」などを通じスタートアップ250社に経営リソースを提供。

著書に「凡人起業 35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。」(CCC メディアハウス)など。


最近スタートアップ界隈で耳にすることも多くなった「信託型ストックオプション」という言葉、正しく理解していますか?

「信託ストックオプションを発行したことが理由で上場できなかった」などという誤った噂が流れることもあるなど、なんとなく難しそうな印象を抱いている人も多いかもしれませんが、実際には、設計や運用に注意が必要なものの、信託ストックオプションスキームそのものが上場審査でNGになるわけではありません。

今回は、そんな「信託型ストックオプション」について、会計の側面からスタートアップ支援を多数手がけるGemstone 税理士法人の石割先生に、スタートアップの社員インセンティブとして欠かせないストックオプションの基礎を踏まえつつ解説して頂きました。(小原)

Photo by CreditScoreGeek – Creative Commons License 2.0 Generic

「信託型ストックオプション」は、ストックオプションの新しい種類なのでしょうか?

種類ではなく、信託型という「箱」に入れる、という認識が近いかもしれません。

ストックオプションの種類としては、従来から知られるように、税制適格ストックオプション、税制非適格ストックオプション、有償時価発行ストックオプション等があり、無償か有償か? 行使時の課税があるか否か? 課税時の扱いが譲渡所得か給与所得か? の違いがあります。

無償発行されたストックオプションについて課税が生じるのは税制適格ストックオプションの要件を満たさない(税制非適格)場合

まずは3種類の従来型ストックオプションについて、使い分けやメリットデメリットなど、基本をおさらいしたいです。

従来型ストックオプションとして一般的なのは税制適格ストックオプションです。ストックオプションで一番課題になるのは、利益を受け取るストックオプション権者の課税の点ですので、税制適格にすることで、

  • 課税されるタイミングが行使時ではなく株式譲渡時
  • 所得の種類として譲渡所得であり申告分離課税なので、キャピタルゲイン課税が20%である(給与所得だと総合課税で累進課税となり、最大55%)

…という、税制上有利な取り扱いを受けることができます。

一方、税制適格ストックオプションは課税上優遇されますが、スタートアップファイナンスにおいては、弱点もあります。

まず、付与対象者は取締役・従業員に限定され、大株主(発行済株式数の1/3超)や社外協力者には付与できません。イコール、オーナーの持株比率希薄化防止には使えないこととなります。

さらに、M&A で EXITする場合、税制上の優遇措置を維持してストックオプションを譲渡することができません(ストックオプションを譲渡すると、税制非適格ストックオプションになってしまいます)。また、行使価格に上限があったり、行使期限も比較的短く設定されています。

税制適格ストックオプションに必要な要件は以下の6点です。

  1. 権利行使が付与決議の日から2年超10年以内であること。
  2. 譲渡禁止が定められていること。
  3. 付与対象者が会社又は子会社の取締役、執行役または使用人等であること。但し、大株主(未上場会社の場合は発行済株式数の1/3を超えて保有する株主、上場会社の場合は発行済株式数の1/10を超えて保有する株主)と大株主の特別利害関係者は除く。
  4. 新株予約権の行使価格の年間合計額が、1,200万円以下であること。
  5. 権利行使価額が契約締結時の時価以上であること。
  6. 証券会社等に信託を通じて売委託または譲渡により売却すること。

この弱点を補うのが有償ストックオプション(ストックオプションを時価発行するという仕組み)です。有償ストックオプションは、大株主の創業オーナーや社外協力者に対しても有償発行(時価発行)することで、行使時点での課税を免れるスキームを構築することができます。有償ストックオプションは無償とは異なり、ストックオプションの公正価値(時価)を払い込んでいるので、発行時には経済的利益が生じず課税されません。

権利行使時点でも(税制適格と同様に)ストックオプション権者は課税されないとされます。権利行使時点の株式時価とストックオプション発行価額と行使価額合計額の差額がストックオプション権者の得た利益となりますが、取得した株式の譲渡時点までは投資が継続しているので、未実現利益として課税されないと考えられるためです。

では、従来型ストックオプションの種類としては、有償ストックオプションが一番優れた発行形態となるのでしょうか?

それがそうとも言えません。理由は、有償ストックオプションではオプション価値の評価が難しく、ここがしばしば問題となることがあるためです。

有償ストックオプションは公正な評価額で時価発行されなければなりませんが、ストックオプションは株式(現物)ではなく、あくまで権利なので、株価から単純計算するのではなく、「ブラックショールズモデル」や「モンテカルロシミュレーション」と呼ばれる、デリバティブの特殊な手法を用いて価値を算定しなければなりません。

将来ダウンラウンドになった場合に失効させる条件の付与等、細かい設計も必要で、専門的な公認会計士に依頼するのが一般的です(この時価評価の妥当性が後に監査法人の監査で問題になったりすることもあります)。

その点、税制適格ストックオプションは一定の制約もありますが、設計がシンプルなので、一般従業員向けの少額ストックオプションとしては使い勝手のよさがあります。大株主(オーナー)、CXO など高額の割当をしたい人材、社外協力者など、税制適格が使えない場合には有償発行を選択する、というイメージでしょうか。

それではいよいよ本題で、「信託型ストックオプション」とは、何のために生まれたスキームなのでしょうか?

税制適格ストックオプションや有償ストックオプションといった従来型ストックオプションにはまだ解決できない弱点があるためです。大きく分けると以下の3点です。

  1. 今在籍している役員・従業員にしか付与できない。
    → 将来入社する優秀な人材に割安な行使価額でのストックオプションを付与することができない。
  2. 既発行ストックオプションと同様のインセンティブ効果を確保しようとするとストックオプションの発行規模が大きくなり希薄化してしまう。
    → 後から入社するほど条件が悪くなる。
  3. 実際の貢献度に応じてストックオプションを付与することができない。
    → 付与時点で分配比率が決まってしまうので、付与後の貢献度が期待より低く、権利行使時に評価が乖離していた場合など、フェアでなくなる可能性がある

では、「信託型ストックオプション」の具体的なスキームと、それによってどんな課題がどのように解決されるのかを教えてください。

スキームの概要については下記の図をご覧ください。

  1. オーナーと受託者の間で信託契約を締結し、オーナーが受託者に金銭を信託します。
  2. 受託者は、信託財産を受託者の固有財産と分別管理しなければなりません。発行会社は新株予約権を発行し、受託者は信託された資金を払い込みます。
  3. 信託期間中、一定の条件(プラン)に基づき、従業員等にポイントを付与します。
  4. 信託期間満了後、付与されたポイントに基づき、受託者が引き受けた新株予約権を従業員等に交付します。

このスキームの要点は、「受益者が存在しない信託である」という点です。信託税制の原則は「受益者課税」ですが、信託型ストックオプションではオーナーが金銭を信託設定した時点において、受益者が存在しない(最終的にストックオプションを付与される役員・従業員等が決まっていない)ので、受益者ではなく受託者に課税するという法人課税信託が適用されます。

この法人課税信託という特例によって行使価格を据え置くことが可能となり、将来の採用者に対して既存役職員と同条件で付与することができるようになります。

※法人課税信託

法人課税信託とは、受託者が個人であっても法人と見做して法人税法の規定を受けるという仕組です。(本来の課税対象は信託財産自体ですが、信託財産自体が納税手続を行うことが不可能なので、その事務を行っている受託者が代理納税していると捉えられ、受託者が個人でも法人税が課税されるということになります)

受託者は受託した段階で、信託財産について受贈益課税を受け、毎年法人税申告を行うこととなります。(この課税分はオーナーが最初に用意した金銭から差し引かれるため、信託設定する金額に+課税分を見込んだ金額を用意する必要があります)

ストックオプション付与対象者が確定し、「受益者が存在」するようになると、受託者から受益者へその直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとして、税制上の信託財産の帰属者が受託者から受益者に帳簿価額で移転します。しかも帳簿価額で資産負債を引き継ぎにより生じた収益は所得金額の計算上、総収入金額には算入されません。

以上の結果、ストックオプション権者によってストックオプションが行使され、株式を売却されるまでは所得税の課税は行われないこととなるのです。

また「委託者(オーナー)が受託者に一度信託して、後から配る」という信託の特性によって、誰に・どれだけ付与するかというのを、等級と査定に応じたポイントによる人事評価制度と組み合わせて判定し、実際の貢献度に即して最終的な付与時点の分配を決めることができるようになります。(設定時点にはいなかった人材にも付与することができますし、また例えば、大量に付与した人材が途中で辞めてしまいその時発行したストックオプションが無駄になる、などの事態も防ぐことができます)

つまり、「後から入社した人が不利になる」という課題を総合的に解決するスキームといえるのです。

スタートアップのインセンティブ設計に適した、素晴らしい仕組みのように聞こえますが、信託型ストックオプションならではの課題や注意点もあるのでしょうか?

このスキームではストックオプションを引き受けるための資金をオーナー自らが身銭を拠出するという特徴があり、なるべく資金負担額を小さくするため、オプション価値の評価を引き下げたいというバイアスが働きがちです。

しかし評価額の算定は後々監査や上場審査時に問題となるケースが多く、正確に行っておくことが非常に重要です。そしてその評価業務は専門家に依頼することになりますが、このコストが高額なため(500~1,000万程)、その費用の捻出も課題となります。

そのため、ストックオプションの特性と利点を考えると、できるだけ早い段階で設定をしたほうが望ましいのですが、評価業務にかかるコストを用意する為にはある程度の資金調達が行われるタイミングまで待たなければならないケースもあるでしょう。

また、受託者に誰を設定するのかという点において、前述のスキーム図では、一般的な信託の受託者として信託銀行の名前が入っていますが、非上場会社の信託型ストックオプションの信託においては、コストや規模の観点から信託銀行による商事信託(営利目的をもった反復継続的信託活動)ではなく、民事信託(単発無報酬で受託可能)とするため、多くの場合顧問税理士に依頼することになります。

この際、依頼する顧問税理士は信託の意味や受託者の義務責任を理解し、信託事務を行うことのできる能力を有する方である必要がありますし、また、既に他社の信託型ストックオプションで受託者になっている人は避けるため(複数回受託者をすると信託引き受けを業としているのではないか疑義が生じる可能性があるため)、受託者の選定においても一定の注意が必要です。

最近時折耳にする「信託型ストックオプションを発行したために株式上場できなかった」という噂に関しては、どうでしょうか?

東証、証券会社、監査法人等の統一見解として、信託型スキームそのものを NG としている訳ではないと思います(担当者レベルで批判的な人はいると思いますが)。信託型ストックオプションを認めてもらうためには信託組成が適切に行われていることと、ストックオプションの行使価格やオプション価値が公正に評価されていることが大前提となりますが、この点で個別具体的に問題が発生している事例があるのではないでしょうか?

※ 信託型ストックオプションを発行した後に上場した実際の事例

実際上場事例も増えてきており、特定の監査法人が信託型ストックオプションを無条件で門前払いしているということも無いと思われます(一方で、下記の証券会社や監査法人で信託型ストックオプションについてNGを出した事例も存在はするようです。)。

なお、証券会社や監査法人の担当者によっては信託型ストックオプションについて詳しくないこともあり、単純に「難色を示される」ということはありそうです。

スキームそのものが NG というわけではないけれども、実際審査時に問題となった事例もある、ということで、具体的にはどのような点が問題となるのでしょうか?

まず信託組成時の適切性として、受託者=受益者というような法人課税信託の要件を満たさないような信託組成を行わないことです。受託者自らが受益者になったりしますと、証券取引所や監査法人からNG指摘を受けることになるでしょうし、スキームの肝である法人課税信託という課税上の取り扱いも否定されるでしょう。
また、オプション評価業務を行う公認会計士も、受託者や受益者の立場にならないよう注意が必要です。受託者は専ら受益者のために行動しなければなりませんので、利益相反するような関係を絶対に回避すべきです。

さらに、オプション評価の公正性に関して、会計基準に即した注意点もあります。前項で出てきた「オーナーの資金負担額を減らしたいという動機」の為に、ストックオプションの評価に業績条件のノックアウト条項(一定の場合に権利が消滅する)が付されるケースがありますが、会計基準上、業績条件は公正な評価単価の算定上は考慮しないもの(失効数の見積もりに考慮すべきもの)とされています。

業績条件とは例えば、「〇〇〇〇年〇〇月期及び〇〇〇〇年〇〇月期の営業利益がいずれも〇〇〇百万円を超過した場合、各新株予約権者に割り当てられた新株予約権の数の〇〇%を限度として行使することができる。」といったものですが、このような業績条件は、新株発行による希薄化を懸念する既存株主の不安を払拭する効果がある一方、信頼性のある公正な価値評価であるかどうかという点において会計基準上の議論があり、将来的に規制が行われる可能性もあると思われます。


信託型ストックオプションの利点と注意点について、大まかに理解することができました。

信託型ストックオプションは、従来型ストックオプションの弱点を補うものではあるけれど、設計が複雑で注意点があり、またコストも大きいことから、従来型と上手く組み合わせて活用していくというイメージをもちました。

さらに、実際の貢献度に即した付与割合を後から決めることができるという点は、評価という点でフェアである一方、会社の規模的にまだ人事評価制度が未熟な時点では適用しづらく、また、フェアであるが故に入社スカウト時に特別条件として破格の付与数を約束する、というような恣意的なインセンティブは通用しないことになるのではとも思いました。

日々規制が変わる新しい仕組みでリスクがあることもあり、検討の際にはノウハウのある専門家への相談が必須といえるでしょう。(小原)