成層圏遊覧の岩谷技研が松竹から資金調達、新時代の「旅」の創造に向けた連携と挑戦

図中左から:松竹ベンチャーズ 代表取締役社長 井上貴弘氏、岩谷技研 創業者兼代表取締役社長 岩谷圭介氏、松竹 事業開発本部 イノベーション推進部 新事業共創室 兼 松竹ベンチャーズ 執行役員 間中雅俊氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

松竹グループのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)である松竹ベンチャーズは1月、北海道江別市に本拠を置く宇宙開発スタートアップの岩谷(いわや)技研に約5,000万円を出資したことが明らかになりました。

岩谷技研は、高高度ガス気球と気密キャビンを開発し、「誰でも頑張れば用意できる程度の経済的負担のみで宇宙に行ける」をミッションに掲げています。すでに2人乗り気球キャビン「T-10 EARTHER」の訓練飛行を開始しており、来夏の商業運航開始を予定しています。

松竹と岩谷技研。一見すると全く異なる事業領域の2社が、宇宙旅行という壮大なプロジェクトで連携することになりました。2社の出会いから生まれた連携は、どのようにして実現するのか。今回は両社の担当者に話を伺い、その経緯と将来への展望を探りました。

異業種企業の出会いから生まれた夢の連携

岩谷技研オフィス

きっかけは、インキュベイトファンドの赤浦さんから岩谷さんの話を聞いたことでした。その後、私たちから岩谷さんに連絡を取り、事業概要を伺いました。岩谷さんの話は非常に夢がある内容で、このようなチャレンジをしている人がいることに個人的に驚きました。(井上氏)

北海道は、その広い大地や環境特性などから、一次産業と食、宇宙、環境とエネルギーの3つの領域に特化したスタートアップを集積させ支援していくことを明らかにしています。岩谷技研もこの領域の一つ宇宙のスタートアップで、北海道にオフィスや工場があります。ほどなくして、札幌の岩谷技研本社を訪れた際の印象を井上さんは次のように語りました。

10台ぐらいの3Dプリンターが並ぶその場所は、社長室というより、実験や研究を行う場所のようでした。岩谷さんは言葉だけでなく、すぐに実践される方だと感じましたね。(井上氏)

東京から北海道まで来てくださった井上さんには非常に感謝しています。来ていただいた方がポジティブであっても、実際に(出資や連携が)決まるかどうかは別問題ですが、井上さんの訪問は非常に心地良いものでした。(岩谷氏)

ところで、エンタメ領域で数々の事業を展開する松竹と、宇宙領域で事業を展開する岩谷技研。CVCが出資する場合は、財務リターンに加え、戦略リターン、すなわち、事業面で何らかのシナジーが生まれる可能性が求められます。この点については、どうだったのでしょうか。

一つは、宇宙旅行というコンセプトに対する興奮と魅力です。松竹はエンターテインメント事業を展開しており、その根幹にはお客様にわくわくを提供することがあります。この点で、岩谷技研との間には根本的な親和性があると考えました。(間中氏)

その上で、「商業飛行の成功への挑戦に対して、松竹としてできる限りのサポートを提供したい」と間中氏は力を込めます。一方の岩谷氏は、松竹ベンチャーズからの出資について、次のような思いを抱いていたと言います。

私たちにとって、新しいビジネスを作る前に、技術の開発が非常に重要です。新しいものを作る過程には多くの障害が伴いますが、それを乗り越えていくためには、私たちの事業を純粋に応援してくれる出資者が必要です。松竹ベンチャーズは、そのような信頼とコミットメントを持ってくれるパートナーだと感じました。(岩谷氏)

エンタメ×宇宙で生まれる新しい体験

気球実験の様子

松竹ベンチャーズの井上氏は、両社の連携の可能性について、宇宙遊覧の体験に直接関連するコンテンツとして、宇宙へ上がる際の映像制作や、VRを通じた体験の提供などを挙げました。

それ以外にも、宇宙遊覧に関連するイベントや旅行のパッケージの提供を通じて、宇宙へ行く前後のわくわくするようなコンテンツを提供することもできるでしょう。さらに、外国からのお客様を含め、富裕層をターゲットにした文化体験の提供も重要な連携点です。

宇宙に関しては、将来的には宇宙ステーションでの滞在や宇宙旅行、さらには将来的には星に降り立つことなど、滞在の仕方や楽しみ方が重要になってくると思います。この点で、松竹は滞在を楽しんでいただく方法を提供することに長けていると感じています。(井上氏)

岩谷技研の岩谷氏も、こうした松竹ベンチャーズからの提案を前向きに捉えています。特に、メディア・コンテンツの力の重要性を強調しました。

私たちは、多くのパートナーと共にこれまで歩んできました。これからも、さまざまな関係者との連携を深めながら、具体的な計画を形にしていくことが重要だと考えています。松竹との連携についても、これから詳細を詰めていく過程で、良い形が見つかればと思っています。

エンタメやメディアの力が非常に大切だと考えています。人間は、できると信じたものは必ず達成するんですよ。そうやって科学や技術を進化させてきました。人々の意識を変え、新しい可能性を信じさせることができるのは、メディアやエンターテインメントの力です。(岩谷氏)

岩谷氏によれば、岩谷技研は今春からの試験的な遊覧フライトを実施し、今夏の商業運行開始に向けて全力で取り組んでいるそうです。「エンタメの可能性」と「宇宙への挑戦」が手を携え、まったく新しい”旅”の体験を創造しようとしています。ここから生み出される新しい価値に、注目が集まることでしょう。

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