松竹がCVCを設立、エンタメ中心にスタートアップの共創プログラムも開始

新設される松竹ベンチャーズのメンバー7名。中央が代表の井上貴弘氏。Image credit: Shochiku

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

松竹は6月30日、コーポレート・ベンチャー・キャピタルとして「松竹ベンチャーズ株式会社」を7月1日付で設立すると発表しました。投資事業とスタートアップとの共創事業創出を目的としたもので、伝統芸能や映画などでこれまで培ってきたエンターテインメント事業を中心に、不動産などの自社事業の強化、新しい領域でのビジネス機会を模索するとしています。

また、同時にスタートアップとの共創を目的としたアクセラレータープログラム「Shochiku Accelerator2022 Entertainment Festival」の開催も公表しました。プロダクトやサービスを持っている、もしくは期間中に立ち上げの見込みがある企業が対象で、募集期間は6月30日から8月10日まで。9月末までの選考期間を経て12月にはプレゼンテーションの機会となるデモデイも予定しています。

松竹グループとの共創テーマとしては映画や演劇の新規IP開発、観劇体験の創出、ファンエンゲージメント、不動産事業のDXなどが挙げられています。

本稿ではファンドの設立に至った経緯、ファンド周辺の活動を通じて取り組みたいスタートアップとの共創、今回新たに開始されるプログラムの内容について、松竹ベンチャーズの代表であり、松竹常務取締役の井上貴弘さんに話を伺いました。

CVC設立の経緯について伺えますか?

井上:検討を始めたのは2016年頃です。LP出資や若手社員のVCへの出向といった取り組みから始め、2019年にアクセラレータープログラムを実施しました。当時は、その後にCVCを立ち上げるかどうかも決まっていませんでしたが、大きな人口減少が予想される国内マーケットに依存している我々のビジネスに危機感を持っていました。

松竹グループとして、マーケットや領域を広げたサービスを展開していく必要があると感じていたのです。

コロナ禍では、その必要性を強烈に感じることになりました。これまで、お客様に劇場や映画館へお越し頂くことを前提としたビジネスを中心に取り組んできましたが、2020年は全ての劇場や映画館が営業できず、2021年以降も公演中止や入場制限が続いていました。当社の収益の状況は厳しく新しい挑戦は抑制せざるを得ない状況でした。

その期間に準備を進めた。

井上:スタートアップとの共創やCVC活動を開始するにあたり、人材育成が重要だと考えていました。我々の会社は演劇や映画などのモノづくりを主軸としてきたので、モノづくりをする人材育成の仕組みは出来ていました。

しかし、新しい事業を作っていく人材の育成はあまり仕組み化できていませんでした。そこで2020年から21年にかけては、LP出資しているVCや事業会社のCVCに若手社員の出向を受け入れて頂き、研修の機会を得ました。

もちろん半年や1年で全てを習得できるものではないと承知していますが、何より重要なのはスタートアップ企業と仕事をすることに必要な「心構え」だと考えていました。

スタートアップ企業の皆さんは、意思決定のスピードや物事に取り組む姿勢が違う。真剣さが違う。ただ、創業時の松竹も、きっとそういうマインドで商売をしていたと思うんです。スタートアップ企業やVCの皆さんと同じ環境で働くことで、そういう心構えを、出向した若手社員に学んでほしかったんです。まだ未熟な部分もありますが、色んな方々のお力添えのおかげで、そういったマインドを持ったメンバーが揃ったと思っています。

今年1月に開設した、バーチャルプロダクション対応の撮影スタジオ「代官山メタバーススタジオ」。今年1月には、歌舞伎を題材にした『META歌舞伎 Genji Memories』を制作・生配信した。Image credit: Miecle

CVCでの投資方針について教えてください。

井上:我々のコア事業であるエンタテインメントと不動産の領域を対象にしていきたいと考えています。

映像コンテンツにおいては、これまで映画館、ご家庭のテレビ、モバイル機器でご覧いただくスタイルが主流でしたが、今後は違った形、例えば、メタバース空間での楽しみも考えられると思います。

松竹では今年1月にバーチャルプロダクションやxRの研究開発拠点として「代官山メタバーススタジオ」を開設し、新しい技術を用いた映像制作にも挑戦していきます。新しい技術や従来と異なる映像の作り方に強みをもつスタートアップと一緒に取り組みたいです。

松竹といえば歌舞伎など伝統芸能があります。

井上:演劇においては、劇場にお越しいただくお客様に今までにない演出をお楽しみいただきたいと考えています。2015年と2016年のラスベガスの歌舞伎公演では、プロジェクションマッピングや三面スクリーンを用いるなど、テクノロジーの活用を少しずつ進めてきました。

今年の後半には、劇場空間でxRの技術を活用し、お客様に楽しんでいただけるような新たな実験をしようと思っています。近年は漫画やアニメを題材にした歌舞伎にも取り組んでいますので、そういった演目にも新しい技術を取り入れたいと思っています。

また歌舞伎の巡業においても、何か新しい可能性を見出したいところです。全国の市民ホールや芝居小屋を回るのですが、出演者やスタッフなど多くのメンバーで動きます。例えば、MRグラスや LED パネルを用いると、持っていく機材や人数を軽減できる可能性があります。

AR アプリ『Reverse Reality ~KABUKI Performance “Shakkyo”~』。体験者のタブレットのカメラ越しに、片岡愛之助演じる獅子の精が出現して舞踊を披露する。Image credit: Shochiku

松竹ベンチャーズとして不動産領域も挙げられていますがこちらはどのようなものになるのでしょうか。

井上:不動産においては、本社のほか、歌舞伎座を始めとする劇場や映画館を複数展開している東銀座(東京・中央区)がメインエリアです。この地域の開発では、首都高速道路を覆蓋化(ふくがいか)し、公園などの公共施設として活用する構想があります。

そこで今春、同エリア内に物件を所有する企業の皆さんと「東銀座まちづくり推進協議会」を立ち上げ、再開発に向けた取り組みを始めました。日本の魅力や文化を世界に発信する場として、ライブエンタテインメントの街づくりをしたいと思っています。新しい技術やサービスを使って、街の活性につながる企画を一緒に作っていけるようなスタートアップとご一緒したいと考えています。

松竹本社付近の東銀座周辺。
Image credit: Shochiku

共創プログラムも開始されますが、どういった内容になるのでしょうか。

井上:共創テーマの例は「映画・演劇の新規 IP の開発」、「ファンエンゲージメントの向上」「エンタテインメントを活かした街づくり」、「新たな観劇体験の創出」、「エンタテインメント・不動産事業の DX 」を想定しています。

アセットとしては、劇場や映画館といった有形資産のほかに、無形の資産もあります。我々は、伝統を守りながら革新的なものづくりの挑戦を100年以上続けてきました。挑戦を繰り返しながら、挑戦を一時的なムーヴメントに終わらせずに文化として紡いでいく。

そういったDNAや物事の考え方は我々の強みだと感じており、スタートアップの皆さんの考え方や技術を組み合わせると、良い化学反応が起きるのではないかと期待しています。

ありがとうございました。

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