医用工学研究所とKDDIが協業——医療現場からの匿名データ×アナリティクスで、健康増進に貢献

医用工学研究所 代表取締役 北岡義国氏
Image credit: MEI

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

健康ビッグデータという言葉があります。医療現場から、血圧、心拍数、体温、呼吸数、血糖値など、患者の生理学視点で計測されたさまざまなデータが、匿名化・集合化されることで、病気になってからの医療だけでなく、人々の健康増進や治療の最適化に活かせるようになるというものです。

高齢化社会を迎えている日本では、医療費をはじめとする国家負担・社会負担が増大する傾向にあたり、病気が重篤化する未病の段階での早期発見、治療、また、日々の健康維持に向けた働きかけが重要です。こうしたデータを利活用した健康増進や医療最適化の市場は、デジタルトランスフォーメーションが生み出す新たな市場として注目されています。

今年4月、電子カルテ由来の医療データの知見を持つ医用工学研究所とKDDIが資本業務提携を開始しました。KDDIが医用工学研究所に出資したことで、医用工学研究所はKDDIの持分法適用会社にないました。この提携を通じて、両社は何を実現しようとしているのか。医用工学研究所 代表取締役の北岡義国氏と、KDDI事業創造本部の笠崎州雄氏に話を伺いました。

医用工学研究所(MEI)について教えてください

MEI 北岡:社長の北岡と申します。本社は三重県にあり、東京本社と大阪支社を含む3拠点で、全国に向けて製品とサービスを提供しています。現在の状況と今後の展望についてお話させていただきます。

現在、我々は医療データプラットフォームの開発および提供を行い、データウェアハウス(DWH)の製品を病院向けに提供しています。このうちご協力をいただいている病院から匿名加工情報を活用し、活用用途を広げる方向で進めています。病院内には様々なシステムがありますが、それらの情報を集積し、価値ある情報を社会に向けて届けていきたいと考えております。

そういった中で、弊社のDWHの仕組みになるのが、「CLISTA!」という製品です。名前の由来は、クリニカルとスタティクスという言葉から来ており、集まった病院データから診療や経営の観点で様々な統計情報を出し、新しい発見や病院の見える化を目指すという意味が込められています。

病院内には様々なデータがあります。例えば、電子カルテのデータや、医事会計システムによる公会計の患者データなどがあります。また、何百人もの患者さんが入院している病院では、薬や材料の物流や、受発注などもあります。さらに、看護を支援するシステムや、手術から収蔵管理するシステムなど、様々なシステムが存在します。これらの情報をCLISTA!で集約し、病院の業務改善や経営分析、診療部門の強化に役立てる仕組みです。

現在、全国およそ130を越える病院で導入されており、大学病院や公的、民間病院など、様々な病院で採用いただいてます。

CLISTA!による検索
Image credit: MEI

医用工学研究所の立場から、KDDIと資本業務提携に至った背景を教えてください

MEI 北岡:我々の強みは、130施設以上の病院に対して、CLISTA!という製品を通して病院内での様々なデータとの連携構築を行ってきたことです。ご利用いただいている先は大学病院や地方・地域の中核病院など、比較的大きな病院を中心に採用されており、病院内における様々な種類のデータの集積が一つの強みとなっています。

社会課題としては、全国的な人口減少や高齢化、また医療の高度化が進む中で、医療費が増加傾向にあることが挙げられます。
一方で病院側の課題としては、診療報酬改定による減額改定や、医師の働き方改革が2024年から本格的に進むことで、医師の残業規制が厳しくなることが挙げられます。病院全体の収益が厳しくなる中で、効率化がより一層求められます。

ヘルスケア事業にこれまで力を注いできたKDDIさんとコミュニケーションを行う中で、より早くデータを利用したエコシステムを実現させ、良い社会に繋げることができるのではないかと考え、今回の資本業務提携に至りました。

反対にKDDIの視点から、提携に至るまでの経緯を教えてください

KDDI 笠崎:事業創造本部の笠崎です。4月から医用工学研究所(MEI)に出向しております。実は、KDDIとの協業検討は1年以上前から開始しております。

私が参加させてもらったのは去年の4月に着任した時ですが、KDDIはこれまでauウェルネスとして個人向け事業を展開してきました。いわゆるPHR(個人健康記録)の健康管理から徐々に、オンライン診療やオンライン薬局連携など、サービスの幅を医療側に広げてきたという経緯があります。

医用工学研究所さんは約20年、病院の課題に寄り添い、患者さんや病院に価値あるサービスを提供し信頼関係を築いてきた強みを持っています。患者さんのためにというのを前提に、それを支える病院や周辺企業、製薬企業などデータ活用者やエコシステムが今後、広がっていく中で、データ活用に関する専門的なノウハウを持っているパートナーを必要としていました。

KDDIはARISE analyticsを中心にデータアナリティクスの強みを持ち、ヘルスケアの領域にも取り組んではいますが、医療側に貢献するために、医療に知見を持つパートナー様と共に活動していきたいと考えておりました。KDDIグループとしてお役に立てることはないかと考え、今回の協業検討を進めることとなりました。

両社とも国民の健康維持・増進に向けたエコシステムを作り上げていくというビジョンが一致しており、医用工学研究所さんが進める事業に寄り添い、一つずつ着実に積み重ねていくことで、社会に貢献していくことが大事だと考えています。

協業に至るまでの苦労と、それをどう乗り越えたかを教えてください

MEI 北岡:KDDIさんと我々が資本業務提携を結ぶ中で、人と人の関係が重要だったと思っています。事業創造本部の笠崎さんをはじめ、皆さんとコミュニケーションを取ることで、大きな可能性を我々も感じましたし、笠崎さんも感じていただけたのではないかと思っています。

我々の会社は、三重大学発のベンチャー企業という形でスタートし、会社の仕組み作りなども進めてきました。会社の事業成長を追求する中で、独自の力だけではなかなか足りない部分もあると思います。我々も事業のコミュニケーションを行う中で、様々な学びを得ることができました。一緒にコミュニケーションを取りながら、お互いに学び合い、進めることができたという部分は非常に貴重だと感じています。

KDDI 笠崎:今回協業検討を進める中で、一緒に病院や製薬企業などを実際に回る機会をいただきました。そこでお話を伺う中、現場における課題や期待に気づくことができました。
コロナ禍の中ででもあり、患者さんのために多大な貢献をされている中でデータの活用ニーズや効率化の期待を感じました。

データ活用のエコシステムを構築することで、病院に対する貢献につながるということを現場を見て強く感じましたし、また製薬企業さんもデータの更なる活用を望んでおり、ひいては患者さんに貢献できるということで事業の価値を再確認しました。

ビジネスを適切に構築し進めることで、より多くの関係者がサステナブルに続けられる価値を創出できると考えています。
ビジネス化に当たっては、不確定な要素において試行錯誤することもあります。しかし、北岡社長を始めとした医用工学研究所の皆さんと本音で話し合える関係を築けているため、今回KDDIから出向したメンバーも含めて、一体感のある活動ができていると感じています。

MEI 北岡:私たちも今回の資本業務提携を通じて、KDDIさんと我々が一緒に新しい事業を進めていく中で、一体感を持って同じ方向を向くことが大切だと感じています。先ほど笠崎さんがおっしゃった「本音で」のコミュニケーションを取れるような環境が整ったと思っており、これは非常に大切なことだと考えています。一緒に一体感を持って進めていきたいという考えの中で、笠崎さんからそういった言葉をいただけたのは良かったと思っています。

業務提携に比べて、資本業務提携は一歩踏み込んだ関係です。資本関係があることによってこそ、これから作っていけるものは具体的にはどういったものになるんでしょうか

MEI 北岡:資本業務提携を踏まえ、医療データの活用について考える場合、私は以前から「One for All、 All for One」という考えを持っています。つまり、一人の医療データはみんなのために利用可能になることが望ましいし、同時に、集まった医療データはそれぞれの患者さんのためにも使われるようになることが望ましく、そうしていきたいと考えています。この考えに基づいて、医療データビジネスを広げていきたいと思っています。

一方で、現在の法的枠組みにおいて匿名加工情報や仮名加工情報といった仕組みができてきました。将来的には、KDDIさんが持っているauウェルネスの基盤などと結びつけて、個人のデータが適切に、法令を遵守しながら、個人の同意に基づいて流通するような形になると考えています。ここは資本業務提携があってこそ可能だと感じています。

KDDI 笠崎:パートナー様にどう貢献できるか、一緒にどんな価値やビジネスを作っていけるかが大事だと考えています。その上で、資本業務提携は、両社の関係性を強化し、協業を進めていく中での会社同士の連携や基盤、仕組みの構築を含めて、より深く検討できるようになるでしょう。また、人的交流も含めて、今回のように、出向者が来るような取り組みを通じて、事業の円滑な進展を実現できると思っています。

そういった意味で、まさに医用工学研究所とKDDIが一体となり、事業の成長を共に描ける機会を資本提携を通じて得られると感じています。

この先のマイルストーンについて教えてください

MEI 北岡:そうですね、プレスリリースで発表した通り、まずは患者数400万人のデータを活用できる環境を目指すことが、直近の重要なマイルストーンだと考えています。一定程度の数が揃うことで、データの付加価値が高まり、より有益な情報が得られるようになると思います。

早期にそのような環境を整えることを目指しており、病院や製薬企業などデータ活用者との協力関係を築き、ビジネスを展開することが重要だと考えています。

KDDI 笠崎:まず2023年度内に患者数400万人を目指して、ご協力いただける病院や機関を増やしていくことが重要です。また、具体的な事例を通じて、価値を感じていただけるようにしたいと考えています。機会を見つけて事例を紹介できるようにしたいと思っていますが、まずは足元から着実に事業を一つずつ築いていくことが大事だと考えています。

ありがとうございました。

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