「Blockchain Leaders Summit」が東京で初開催、日韓のWeb3コミュニティが議論と親交

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Image credit: Masaru Ikeda

日本のベンチャーキャピタル B Dash Ventures と、韓国のブロックチェーン特化ベンチャーキャピタル Hashed は24日、「Blockchain Leaders Summit Tokyo」を初開催した。このイベントは Japan Blockchain Week 2024の一環として開催された。信頼できる企業や個人が集まり、ブロックチェーン業界のエコシステム構築を目指すことを目的としている。

B Dash Ventures のディレクター西田隆一氏は、このイベントを開催するに至った経緯を説明した。

既存のブロックチェーンイベントでは、信頼できる人物を見分けることが難しく、適切なネットワーキングの機会が限られていました。我々は10年以上にわたってスタートアップイベント(編注:B Dash Camp)を開催してきた経験があります。そこで培ったエコシステムづくりのノウハウをブロックチェーンビジネスの人々にも体験してほしいと考えました。

B Dash Ventures のディレクター西田隆一氏
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続いて、共催者である Hashed の CEO キム・セジュン(김서준、英名:Simon Kim) 氏が、韓国とアジアのブロックチェーンと Web3市場の現状と将来性について解説し、日本と韓国のブロックチェーンコミュニティが共に集まることの意味を強調した。

Hashed は2020年に12月に1.2億米ドル規模の1号ファンド、2021年12月に2億米ドル規模の2号ファンドを組成している。報道によれば、3号ファンドについても組成中か組成済と見られるが、2022年に、仮想通貨「Terra」や「Luna」の暴落を受け、総額35億米ドル以上の資産を失ったとされる。だが、その後も事業拡大を続け、先月には UAE(アラブ首長国連邦)への進出を明らかにした。

キム氏は、ブロックチェーン技術の発展段階を1990年代後半のインターネット黎明期に例え、「現在のブロックチェーン環境は、インターネットでいうところの、ちょうど1998年から99年頃に相当する」と指摘し、技術基盤の整備は進んでいるものの、一般ユーザが利用できるアプリケーションやコンテンツ、アクセス環境の整備が今後の課題だと述べた。

特にアジア市場の重要性を強調し、暗号資産市場の60%、取引所ユーザの40%、開発者の60%がアジアに集中していると指摘。その中でも韓国と日本が重要な位置を占めているとの見方を示した。

Hashed の CEO キム・セジュン(김서준、英名:Simon Kim) 氏
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韓国市場の特徴として、「キムチプレミアム(韓国の仮想通貨取引所で、ビットコイン価格が他国の取引所より高くなる現象)」や、2017年以降の仮想通貨ブームを経験し、分散型取引所(DEX)の取引高で世界第2位にあることを挙げた。また、ゲーム会社やエンターテインメント企業による Web3関連コンテンツの開発、K-POP 業界での Web3実験などさまざまな分野の先進的な取り組みを紹介した。

キム氏は韓国のデジタル先進性の背景として、世界最速のインターネット接続、スマートフォンの普及率も高さにより、革新的なデジタルサービスが韓国から生まれたと強調。一方、日本市場については、IP やコンテンツ産業の強みを活かした web3展開に期待を寄せた。特に、アニメーション産業の急成長や、フィジカルなカードゲームのオンライン空間への拡張などに注目しているという。

韓国と日本は異なる長所を持ち、大きなシナジーを生み出せると思います。両国のコミュニティの協力によって、web3エコシステムの大衆化に向けた成功事例を生み出せると思います。アジアのアプリケーション市場が世界に拡大していく過程で、Hashed が大きく貢献したいと考えています。また、アジア発の web3イノベーションが世界を変える可能性に期待を寄せています。

アジア発の新ブロックチェーン「KAIA」、ユーザ1億人獲得を目指す

KAIA 代表 ソ・サンミン(서상민、英名:Sam Seo)氏
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ブロックチェーン技術の普及が進む中、アジア発の新たなプラットフォーム「KAIA」が注目を集めている。KAIA は、韓国の Kakao が開発したパブリックブロックチェーン「Klaytn」と、LINE が手がけた「Fimschia」を統合して誕生した新プロジェクトだ。Blockchain Leaders Summit Tokyo では、基調講演として KAIA の代表を務めるソ・サンミン(서상민、英名:Sam Seo)氏が登壇した。

私たちは、アジアに強い基盤を持つグローバルプロジェクトです。アジアの強みを生かしながら、アジアをリードするブロックチェーンエコシステムの創造、世界への多様性のゲートウェイになることを目指しています。

KAIA が誕生した背景には、アジア市場の重要性がある。Seo 氏によれば、世界の GDP のアジアにおけるシェアが約35%なのに対し、世界の暗号資産取引のアジアにおけるシェアは約78%なのだという。しかし、アジアを拠点とするブロックチェーンインフラの時価総額は全体の5%に過ぎない。この不均衡を解消し、より大きく強力なエコシステムを作り出すことが KAIA の狙いだ。

KAIA の強みは、Klaytn と Fimschia という既存の2つのブロックチェーンプラットフォームを統合することで生まれる。Klaytn は2019年に始まったパブリックブロックチェーンで、DeFi や NFT、ゲームなどのインフラ開発に注力してきた。一方、Fimschia は2018年にプライベートブロックチェーンとして始まり、最近パブリックブロックチェーンに移行した。エネルギー市場やゲームなど、プロダクト開発に強みを持つ。

この2つの異なる強みを持つプラットフォームを組み合わせることで、互いに補完し合える強力なインフラとプロダクト、サービスの提供者になれると考えています。

KAIA が目指すのは、Web3のマスアダプションだ。現在の Web3ユーザの多くは、暗号資産やブロックチェーンに精通した「クリプトネイティブ」な人々だ。KAIA は、一般の Web2ユーザを Web3に引き込むことで、業界全体の成長を促進したい考えだ。その鍵となるのが、Kakao と LINE という2つの「スーパーアプリ」の存在だ。両社はアジア、特に韓国と日本で圧倒的なユーザ基盤を持ち、LINE は1億9,000万以上の月間アクティブユーザを抱える。

現在のWeb3オンボーディングプロセスは複雑すぎます。取引所への登録、アプリのダウンロード、KYC(本人確認)など、多くのステップが必要です。これが新規ユーザの参入を妨げている要因の一つです。

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KAIA は、LINE や Kakao のメッセンジャーアプリ内で Web3サービスを提供することで、この問題を解決しようとしている。ユーザは慣れ親しんだアプリ内で、トークンの購入や交換、さらには NFT マーケットプレイスの利用などが可能になる。これにより、Web3への参入障壁を大幅に下げることができる。

しかし、チャネルがあるだけでは十分ではない。この問題を解決するため、KAIA は3つの主要コンポーネントを用意している。1つ目は、Web2ユーザと Web3サービスを結ぶコンテンツプラットフォーム「KAIA Portal」。2つ目は、DeFi や RWA(実物資産)のトークン化、NFT など、特定分野に特化したパートナーやビルダーのエコシステムだ。3つ目が、KAIA プロトコル自体である。

特筆すべきは、LINE NEXT の存在だ。LINE グループ内の Web3専門企業である LINE NEXT は、300人以上の従業員を抱え、NFT プラットフォームやゲームの開発などで KAIA に大きく貢献している。

技術面では、 KAIA は EVM(イーサリアム仮想マシン)互換のチェーンを採用しており、既存の EVM ツールやプロトコル、スマートコントラクトがそのまま利用可能になる。また、独自機能として「アカウント抽象化」を導入予定だ。これにより、サービスプロバイダがユーザに代わってガス代を支払うことが可能になり、Web2ユーザにとっての利用障壁をさらに下げることができる。

KAIA の目標は、1億人のユーザ獲得だ。そのために KAIA は、LINE や Kakao のメッセンジャーアプリ内に Web3製品を20%程度導入し、ユーザが簡単に登録してメリットを享受できるようにする計画だ。また、Web3特化型フロントエンドも用意し、ハイエンドの DeFi、ステーブルコイン、NFT、ゲームなどを提供する予定だ。ビルダー向けにはプログラムを立ち上げ、DeFi、NFT、RWA、ソーシャルなどの分野で優れたプロジェクトを支援する。

私たちには、アジアのスーパーアプリを活用できるという強みがあります。また、5年以上にわたり Klaytn と Fimschia を運営してきた経験から、技術力とネットワーク運用能力も証明済みです。(Seo 氏)

KAIA のメインネットのローンチは2024年第3四半期、早ければ8月にも予定されている。これに合わせて、KAIA Portal や各種 DApp も順次公開される見込みだ。

ブロックチェーン技術の採用拡大が叫ばれる中、LINE と Kakao という強力なプラットフォームを味方につけた KAIA の戦略は、業界に新たな風を吹き込む可能性を秘めている。Web2と Web3の架け橋となり、アジア発のグローバルブロックチェーンリーダーとなれるか、今後の展開が注目される。

Web3技術の最前線、ユーザ体験向上とガス代問題への挑戦

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ブロックチェーン技術は急速な進化を遂げているが、一般ユーザの採用を妨げる課題も依然として存在する。特に注目されているのが、ユーザエクスペリエンス(UX)の改善とガス代(取引手数料)の問題だ。業界をリードする企業の代表者たちが、これらの課題への取り組みと将来展望について議論を交わした。

UX の重要性とガス代の課題

ブロックチェーン技術の普及における最大の障壁の一つは、複雑な操作とガス代の問題だ。Kana Labs の Aric Kim 氏は、ユーザが Web3を Web2と同じように簡単に使えるようにすることの重要性を強調する。最新の ERC4337ウォレットでは、ソーシャルログインだけでウォレットが生成できるようになり、従来の複雑な手順が不要になったという。

ガス代の問題も大きな課題だ。Kim 氏は、ブロックチェーンでは手数料をユーザ自身が払う仕組みに疑問を投げかける。この問題に対処するため、Kana Labsでは「スポンサードトランザクション」という仕組みを開発。サービス提供者側がユーザに代わってガス代を支払う方式だ。

Kana Labs 共同創業者 兼 アジア太平洋地域責任者 Aric Kim 氏
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INTMAX の日置氏も、ガス代問題の重要性を指摘する。過去にイーサリアムのネットワークが混雑した際、1回のスワップに5万円もの手数料がかかった例を挙げ、ガス代の高騰がユーザ体験を著しく損なう可能性を強調した。

日置氏は、ガス代問題に対する技術的アプローチとして、クライアントサイド処理の重要性を説く。ブロックチェーンを「最もセキュアかつ最も効率が悪いデータベース」と表現し、データ処理をなるべくクライアントサイドで行うことで全体のスケーラビリティを向上させる方法を提案した。

INTMAX Co-founder 日置玲於奈氏
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この方式により、ユーザは複雑な処理を意識することなく、わずか数秒でトランザクションを実行できるという。日置氏は、これを次世代のブロックチェーンアーキテクチャとして位置付けている。

SyFu の神谷氏は、ガス代の問題に対して異なるアプローチを提案する。単にガス代が安いチェーンを選ぶのではなく、チェーンの生態系全体を考慮する必要があると述べる。ユーザの利便性を重視したチェーン選定の重要性を強調し、特定のチェーンに依存せず、ユーザが普段使用しているチェーン上でサービスを提供することの重要性を指摘した。

SyFu を手がける GINKAN 代表取締役 神谷知愛氏
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プロダクト自体の魅力向上

UX 改善の議論の中で、プロダクト自体の魅力向上の重要性も浮き彫りになった。Kim 氏は、単にシームレスな操作性を実現するだけでなく、ユーザに価値を提供し、ニーズを満たすプロダクトの重要性を強調する。

神谷氏も同様の見解を示し、既存の Web2では実現できなかった新しい体験をWeb3で提供することの可能性に言及した。位置情報を活用したゲームや、日常生活に密着したサービスなど、幅広いユーザ層に訴求できるサービスの重要性を強調している。

討論の最後に、参加者たちはブロックチェーン技術の将来展望について語った。日置氏は、仮想通貨の時価総額の増大が UX 改善の大きな推進力になると指摘。Kim 氏は、市場の変動に関わらず技術開発が継続していることを強調した。

神谷氏は、規制環境の整備がブロックチェーン技術の可能性をさらに広げるとの見方を示した。規制環境の改善が技術の発展と採用を加速させる可能性を示唆している。

継続的な革新と採用拡大へ

モデレータを務めた、セレス 経営企画室 松山大志氏
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ブロックチェーン技術は、UX の改善とガス代問題の解決に向けて着実に進化を続けている。クライアントサイド処理の最適化、マルチチェーン戦略、魅力的なプロダクト開発など、多面的なアプローチが試みられている。

同時に、技術の進化だけでなく、規制環境の整備や、より広範なユーザ層への訴求も重要な課題として認識されている。業界関係者たちは、これらの課題に取り組みながら、ブロックチェーン技術の可能性を最大限に引き出し、真の意味でのマスアダプションを実現することを目指している。

ブロックチェーン技術は、単なる技術革新を超えて、社会変革の可能性を秘めている。今後も継続的な技術開発と、ユーザ中心のアプローチが、この革新的な技術の普及と発展の鍵となるだろう。

これらの技術がさらに洗練され、一般ユーザにも受け入れられやすい形で提供されていくことが期待される。Web3技術の進化が、私たちのデジタルライフにどのような変革をもたらすのか、引き続き注目が集まりそうだ。

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