モビリティやWeb3が牽引、21社の国内スタートアップ資金調達振り返り(8月26~30日)

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国内スタートアップの調達状況をまとめてお届けする。先週は20社のスタートアップが資金調達を公表し、1社、新たなファンドが調達を公開した。資金調達関連の話題はまとめも含めてこちらでも確認できる。

領域としてはモビリティ・交通、テクノロジー・AI 、Web3 ・ブロックチェーン、そして金融・投資の分野だ。観測している情報で最大規模の調達だったのが「空飛ぶクルマ」を開発する SkyDrive だ。同社はシリーズ C ラウンドで新たに追加調達を行い、累積調達額が約137億円に達した。モビリティ分野では他にも、リゾート EV モビリティの eMoBi が3億円、非 SLAM 屋内型ドローン自律飛行システムを開発する Spiral が3億円を調達するなど、次世代の移動手段に関する技術開発に投資が集まっている。

AI 分野では、AI 細胞解析技術のシンクサイトがシリーズ C ラウンドの2nd クローズで21.5億円を調達し、累積調達額が111.5億円に達した。また、エピゲノム技術を活用した抗老化事業を展開する Rhelixa が4.9億円、AI 技術の日本導入を目指す Trans-N が1億5,500万円を調達するなど、先端技術の実用化に向けた取り組みが加速している。

Web3 ・ブロックチェーン分野では、ブロックチェーンゲーム開発の double jump.tokyo がシリーズ D ラウンドの1st クローズで15億円超を調達。NFT マーケティングの SUSHI TOP MARKETING もシリーズ A ラウンドで資金調達を実施した。

金融・投資分野では、家計診断・相談サービス「オカネコ」を運営する400F が11.4億円を調達し、累積調達額が約30億円に達した。また、シリコンバレーを拠点とする新興 VC の Rice Capital が1,500万米ドル規模の1号ファンドを組成し、日米のスタートアップ投資を目指す動きも注目された。

その他の分野でも、不動産・建築 DX の PICK が5億円、医療機関向けセキュリティクラウド「Mowl」を提供する MTU が4.5億円、価値観マッチングの次世代キャリア支援プラットフォーム「BaseMe」を運営するアレスグッドが4億6,000万円を調達するなど、各領域で DX やテクノロジー活用の動きが加速している。

幅広い投資領域で調達が続く一方で、地方創生や社会課題解決といった分野にも投資の動きが見られ、さとゆめのような企業が1.5億円を調達するなど、社会的価値と経済的価値の両立を目指す動きも継続している。では、各社の情報もそれぞれまとめる。

モビリティ・交通

Image credit: Emobi

リゾート EV モビリティの eMoBi (えもび)は、3億円の資金調達を実施した。台湾の投資家も参加し、インドネシアのリゾートへの展開も視野に入れている。eMoBi は独自開発した次世代小型 EV 「PACO」を使用し、主に湘南地域と沖縄県でリゾートモビリティ事業を展開している。今回の調達資金は、国内でのバッテリ交換プラットフォームの展開、シェアリングアプリを含むユーザ体験の向上、グローバル展開の加速に活用される。eMoBi は環境負荷の低い PACO で海辺の景色を楽しむ新しい観光体験を提供し、国内外のリゾートエリアへの積極的な展開を予定している。

SkyDrive は、シリーズ C ラウンドで新たに追加調達を行い、累積調達額が約137億円に達した。「空飛ぶクルマ( eVTOL )」の開発および製造を加速させる方針で、製品「SKYDRIVE(SD-05型)」の型式証明取得に向けた活動を進めている。同社の製品は日本、アメリカ、韓国、ベトナムの4カ国から合計263機のプレオーダーを受けており、2024年3月にはスズキグループの静岡県磐田市の工場で製造を開始した。今後は地上試験や飛行試験の環境強化、量産に向けた品質保証部門の増強、納入後の機体管理を可能にするデジタルプラットフォームの構築を進める。

Spiral の皆さん Image credit: Spiral

非 SLAM 屋内型ドローン自律飛行システムを開発する Spiral は、プレシリーズ A ラウンドで3億円を調達した。GPS が届かない屋内環境でもドローンの自律飛行を可能にする「MarkFlex Air(MFA)」システムを開発しており、特に山岳トンネル現場をはじめとする建設業界から高い関心を集めている。調達資金は、MFA コントローラの量産開発、ヨーロッパ展開の加速、グローバル人材の採用と組織拡大に活用される。今後は土木領域における非 GPS 環境でのドローン自律飛行技術の開発を加速し、自律飛行ドローンを用いた全自動測量技術の開発も進める方針だ。

駐車場のデジタル化・キャッシュレス化を推進するプラグテックは、プレシリーズ A ラウンドで約3.1億円を調達した。同社は、IoT 、ブロックチェーンなどの技術を活用し、利用者の駐車体験を向上させると同時に、駐車場運営事業者のコスト削減と収益性改善を目指している。次世代駐車場サービス「Lott」では、大型駐車場では AI カメラによるナンバープレート認識で自動決済を実現し、簡易駐車場ではパーキングセンサーと QR コード付き看板で運営を可能にする。調達した資金は、準創業メンバーの採用と組織強化、Lott の実証実験とテスト導入の推進、ソフトウェア開発とハードウェアの量産化の加速、パートナーとのエコシステム構築に注力する予定だ。

アート・エンターテインメント

TRiCERA の皆さん Image credit: TRiCERA

現代アートのグローバルマーケットプレイス「TRiCERA ART」を運営する TRiCERA は、シリーズ B ラウンドで資金調達を実施し、累積調達額が10億円に達した。2023年4月には二次流通サービス「TRiCERA Resale」をローンチし、アート投資分野での成長を加速させている。その結果、2024年7月には月次流通総額約2億円を記録するなど、着実な成長を遂げている。今回の調達資金は、経営幹部等の人材採用によるスケールアップ、海外拠点設置と人材採用による海外展開の加速に活用される。同社は現在、CFO 候補や管理部長候補、セールス・アートアドバイザーなど、複数のポジションで人材を募集している。

舞台や展覧会チケットのサブスクリプションサービス「recri(レクリ)」を展開する recri は、プレシリーズ A ラウンドを1st クローズし、1億円を調達した。recri は、ユーザの好みや予定に応じて舞台や展覧会のチケットを毎月提供する。ユーザは自分の興味やスケジュールに基づいて簡単な診断を行うと、その結果をもとに AI と専門家が選んだチケットが届く仕組みだ。今回の資金調達により、ユーザ数のさらなる拡大を目指してマーケティング活動を強化する方針。また、プロダクトのアップデートとして、機能追加や UI/UX の改善、チケットラインナップの充実を図る計画も進める。

インフルエンサーを起用したショートドラマの制作を主軸とする HA-LU は、エンジェルラウンドで資金調達を実施した。yutori 代表取締役社長の片石貴展氏と、元放送作家でベンチャーキャピタル「スタートアップファクトリー」を運営するゴーイングメリー代表の鈴木おさむ氏が出資に参加した。HA-LU は「青春2.0」をテーマにしたショートドラマレーベル「HA-LU」を運営し、TikTok や Instagram などの SNS を活用して10代から20代の若年層をターゲットにしたコンテンツを制作・提供している。調達資金は、主にショートドラマ制作の加速と創業期のメンバー採用に充てられる予定だ。岡氏は「2024年中に合計500話のショートドラマを制作する予定」と意欲的な目標を掲げている。

テクノロジー・AI

Image credit: AironWorks

AI を活用したサイバーセキュリティプラットフォームを提供する AironWorks は、300万米ドルを調達した。AironWorks のプラットフォームは、AI を用いてリアルタイムに企業情報を収集・分析し、顧客企業に最適化された攻撃シナリオを生成する。日々巧妙化するサイバー攻撃に対応できる高度な訓練環境を提供している。従来の防御策では対処しきれない複雑な脅威に対して、人間の行動を中心に据えた独自のアプローチで、効果的な検知、防御、対応を可能にしている。今回調達した資金を活用し、同社の AI モデルの強化とプラットフォーム上のサイバーセキュリティアプリケーションの拡充を進める。具体的には、コアとなる AI アルゴリズムの精度向上、新たなアプリケーションの開発、そしてプラットフォームのオープン化を推進する。さらに、アメリカ市場を中心とした多地域展開も積極的に進める計画だ。

エピゲノム技術を活用した抗老化事業を展開する Rhelixa (レリクサ)は、シリーズ B ラウンドで4.9億円を調達した。Rhelixa が展開するエピクロック事業は、独自の生物学的年齢評価技術を基盤としている。この技術は、エピジェネティック・クロックと呼ばれ、DNA のメチル化パターンに基づいて身体の老化度を計算する。今秋ローンチ予定の一般向け検査サービス「エピクロックテスト」では、生物学的年齢や身体の老化速度、その他15項目以上の健康指標が表示される。調達資金は、Rhelixa では日本国内やアジアの抗老化市場を創出・発展させ、事業を加速することに活用される。

左から、CEO の Harry Na(那小川)氏、CTO の Youhan Sun (孫又晗)氏 Image credit: Trans-N

東京を拠点とする Trans-N は、プレシードラウンドで1億5,500万円を調達した。世界中の最先端 AI 技術とベストプラクティスを日本に導入し、日本企業のデジタルトランスフォーメーション( DX )推進を目指している。Trans-N の事業は、経営・戦略コンサルティング、AI システム開発、AI 関連製品の代理販売など多岐にわたる。同社は現在、高精度議事録作成ツールや契約書分析・審査ツールなど、企業向けに包括的な AI ソリューションを開発しており、すでに国内大手総合商社へのサービス提供を開始している。

AI を活用したイメージ認識型高速セルソーティング技術の開発を手がけるシンクサイトは、シリーズ C ラウンドの2nd クローズで21.5億円を調達し、累積調達額は111.5億円に達した。同社が開発した「VisionSort」は、ゴーストサイトメトリー技術を搭載し、高速イメージング技術と機械学習、マイクロ流体技術を融合させることで、単一細胞から得られる情報量と分離スピードの両立を可能にした。調達資金は、VisionSort のグローバル市場での販売・マーケティング体制の強化、新製品の開発、VisionSort で取得できる膨大な細胞形態情報データを活用した新サービスの開発に活用される。

Web3・ブロックチェーン

Image credit: Sushi Top Marketing

NFT マーケティングの SUSHI TOP MARKETING は、シリーズ A ラウンドで資金調達を実施した。同社は、NFT を活用した「トークングラフマーケティング」を提唱しており、この手法は NFT 配布を通じて企業とユーザがストーリー性のあるコミュニケーションを行うことを可能にする。調達資金は、技術開発、人材採用、国内外でのマーケティング活動強化に活用される予定だ。同社は今後、新規投資家の力も借りながら、NFT マーケティングをグローバルで通用するデジタルマーケティングの新カテゴリとして確立させることを目指している。

ブロックチェーンゲーム開発を手がける double jump.tokyo は、シリーズ D ラウンドの1st クローズで15億円を超える資金調達を実施した。同社は2018年の設立以来、ブロックチェーンゲーム「My Crypto Heroes」を開発するなど、業界をリードしてきた。現在、セガの人気 IP 「三国志大戦」を活用したブロックチェーンゲーム「Battle of Three Kingdoms – Sangokushi Taisen – 」の開発に注力している。調達資金は、ブロックチェーンゲームやブロックチェーン基盤、周辺サービスの開発・支援強化に充てられる。また、SBI グループと NFT マーケットプレイスなどの Web3 サービス連携、ソニーグループとブロックチェーン「Soneium」上での開発推進、海外暗号資産取引所とのマーケティング連携などを進める方針だ。

不動産・建設

「PICKFORM」 Image credit: PICK

不動産・建築 DX プラットフォーム「PICKFORM」を開発・提供する PICK は、シードラウンドとシリーズ A ラウンドで5億円を調達した。PICKFORM は、国土交通大臣から適法性の正式回答を得た、不動産取引に特化した電子契約機能を有するプラットフォームだ。過去1年間で、PICKFORM を通じて12,000件を超える不動産取引が行われ、北海道から沖縄まで全国的に利用が拡大している。調達資金は、新規プロダクト開発、マーケティング、人材採用などに充てられる予定。PICK は今後2年間で、不動産・建築業務の「契約前」「契約後」の段階に対応する7つの新規プロダクトをローンチする計画を明らかにした。

建築資材の調達プラットフォーム「MOZU オーダー」を展開する MOZU は、直近のラウンドで3億円を調達した。MOZU オーダーは、小規模な工務店や職人向けに、集中購買により資材を格安で購入できるインターネット非公開のマーケットプレイス。ローンチから5ヶ月で掲載商品数が2,000点を超え、会員数も1,500に達している。同社は、業界内での口コミにより急増する会員数を年内に5,000まで拡大することを目指している。調達した資金は、MOZU オーダーの拡大と、新規サービスの開発に充てられる。特に、AI・OCR 技術を活用した新規サービスの開発も強化し、工務店や職人の手間削減と原価削減のニーズに応える革新的なソリューションの提供を目指している。

医療・ヘルスケア

「Mowl」 Image credit: MAU

医療機関向けセキュリティクラウド「Mowl (マウル)」を開発・提供する MTU は、シリーズ A ラウンドで4.5億円を調達した。Mowl は、医療機関(病院や歯科医院)の IT セキュリティリスクに対応することを主な目的としている。近年増加している医療機関へのハッキング被害などの IT セキュリティ問題に対処し、オンラインとオフラインの両面から医療機関の IT 課題をサポートし、医療機関のデジタル化( DX )を間接的に支援する。調達した資金は、Mowl の機能追加や開発費のほか、マーケティングおよび人材採用に充てられる予定だ。同社は今後、セキュリティ事業に加え、7月に新たにリリースした歯科医院向け AI デンタルサービス「BEAUTEETH (ビューティース)」の事業拡大にも注力する方針で、2025年度に50億円の売上構築を目指す基盤づくりを行うとしている。

教育・人材

急成長する アレスグッド のチームは グローバル な構成だ

価値観マッチングを軸とする次世代キャリア支援プラットフォーム「BaseMe」を運営するアレスグッドは、プレシリーズ A ラウンドで4億6,000万円を調達した。BaseMe は、機械学習および大規模言語モデル(LLM)を活用し、学生のプロフィール、経験、志向性、行動データを分析して企業の文化と価値観をマッチングする。これにより、従来の業界や職種から企業を探す就活とは異なり、自分の価値観や特性に合う企業との出会いを支援している。同社ではこれまでに150社以上の企業と15,000名を超える登録ユーザの求職をサポートしてきた。今回の調達資金で、AI を用いた価値観マッチング機能の強化と事業拡大を目指す。

保育施設向け総合 ICT サービス「ルクミー」を提供するユニファは、シリーズ E ラウンドで5億円を調達し、累積調達額は93億円に達した。ルクミーは、保育者の業務を効率化し、保育の質を向上させることを目的としている。主なサービスとして、園児の午睡チェックや登降園管理、保育日誌や連絡帳の作成などをデジタル化・自動化する機能を提供している。今回の資金調達と合わせて、ユニファは MIXI との資本業務提携契約を締結。MIXI が提供するこどもの写真・動画共有アプリ「みてね」とのサービス連携を進めるほか、AI 機能を搭載した「ルクミー」シリーズの新規プロダクト開発を加速させるとしている。

金融・投資

福山太郎氏

家計診断・相談サービス「オカネコ(旧称:お金の健康診断)」を運営する400F (フォーハンドレッドエフ)は、直近のラウンドで11.4億円を調達し、累積調達額は約30億円に達した。オカネコは2018年11月のサービス開始以来、20~40代の資産形成層を中心に利用者を増やし、2024年6月末時点で累計ユーザ数100万人を突破した。匿名かつ無料で家計診断やお金に関する相談、面談、セミナー参加ができる国内最大級のオンラインサービスとなっている。調達資金は、オカネコにおける生成 AI や独自データベースを活用した新サービスの開発、より多様なユーザのニーズに対応するための商品ラインナップの拡大、データ分析やプロダクト開発、法人顧客へのサービス向上を目的とした人材確保に注力するとしている。

アメリカ・カリフォルニア州を拠点とするベンチャーキャピタル Rice Capital が1,500万米ドル規模の1号ファンドを組成した。同社は日本とアメリカのスタートアップに投資することを目的としている。Rice Capital は、シリコンバレーで起業と M&A の経験を持つ福山太郎氏が2024年に設立。アメリカでは Y Combinator の卒業生を中心に投資を行い、日本ではシード段階からシリーズ B ステージのスタートアップを主な投資対象とする方針だ。注目すべきは、Y Combinator 創業者の Paul Graham 氏や SaaStr 創業者の Jason Lemkin 氏など、著名な起業家や投資家が出資者に名を連ねている点だ。

地方創生・社会課題解決

Image credit: Satoyume

地方創生事業のプロデュースを手がけるさとゆめは、シリーズ B ラウンドで1.5億円を調達した。さとゆめは、全国50か所以上で地方創生分野における伴走型コンサルティングを展開している。同社は地域の「課題」を「資源」へと転換し、新たな事業を創造する独自のアプローチで注目を集めている。主な実績には、山梨県小菅村での地方創生総合プロデュース、東京都青梅市・奥多摩町での「沿線まるごとホテル」プロジェクト、長野県信濃町での「信州・信濃町癒しの森事業」などがある。今回の資金調達により、さとゆめは地方での人材不足解消を目指す新規事業の立ち上げ、地域と人・企業をつなぐプラットフォームの構築、地方創生コンサルティング事業の拡充を行う予定だ。また、エイチ・アイ・エスとは、地方創生事業「Destination Create Project」で協業している。

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