中国出身のAIエキスパートらが東京で創業、Trans-Nが1億5,500万円をプレシード調達——世界の知見と人材集め日本のDX推進

SHARE:
左から、CEO の Harry Na(那小川)氏、CTO の Youhan Sun (孫又晗)氏
Image credit: Trans-N

東京を拠点とする Trans-N は28日、プレシードラウンドで1億5,500万円を調達したと発表した。このラウンドに参加したのは、東京大学協創プラットフォーム開発(東大 IPC)、デライト・ベンチャーズ、名前非開示の個人投資家。

Trans-N は2024年3月に設立されたスタートアップで、世界中の最先端 AI 技術とベストプラクティスを日本に導入し、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を目指している。今回の資金調達により、AI 分野における革新的技術の開発と普及を加速させ、日本の AI トランスフォーメーション(AX)をさらに推進する方針だ。

日本では生成 AI の登場以降、大企業を中心にLLM(大規模言語モデル)の活用が急速に広がっている。ある調査によると、2025年には約70%の企業が生成 AI を全社導入して本格利用すると回答している。一方で、2030年には AI や IoT などを専門とする先進 IT 人材の需給ギャップが54.5万人に達すると予測されており、最先端技術を導入するための人材不足が大きな課題となっている。

Trans-N が受注したプロジェクト(システム開発に関するもの)
image credit: Trans-N

Trans-N はこの課題に対し、日本市場とグローバルな AI 人材・技術を結びつけるプラットフォームの構築を目指している。LLM と生成 AI 技術を基盤とし、AI 技術の産業応用を促進することで、日本の AI 分野における国際競争力の向上を図る。

Trans-N の事業は、経営・戦略コンサルティング、AI システム開発、AI 関連製品の代理販売など多岐にわたる。同社は現在、高精度議事録作成ツールや契約書分析・審査ツールなど、企業向けに包括的な AI ソリューションを開発しており、すでに国内大手総合商社へのサービス提供を開始している。

今回の資金調達を受け、Trans-N は技術開発と市場拡大をさらに加速させ、日本のAI業界をリードする存在を目指す。グローバルなベストプラクティスと革新的な技術を導入し、より多くの日本企業が AI トランスフォーメーションを実現し、市場競争力を高められるよう支援していく方針だ。

創業チームの顔ぶれ

Trans-N のメンバー。左から2人目が CEO の Harry Na(那小川)氏、3人目が CTO の Youhan Sun (孫又晗)氏
Image credit: Trans-N

Trans-N の創業チームは、中国、日本、アメリカで豊富な技術開発、起業、投資経験を有する2名の専門家で構成されている。

CEO の Harry Na(那小川)氏は中国で生まれ育ち、2006年に来日し、東京大学で学んだ後、戦略コンサルティングやベンチャー企業に携わり、2017年に中国へ戻る。その後、投資銀行や AI 関連スタートアップ複数社で戦略責任者を務めるなど、数々の成功と苦難を経て、再び日本市場に目を向けることとなった。彼は創業前から、国内大手商社に対しスマートカー戦略、中国の自動車 OEM 調査、投資業界調査など多くの戦略コンサルティングサービスを提供してきた。

今回、日本市場に戻ってきたのは、ここにまだ多くの可能性があると感じたからです。(Na 氏)

CTO の Youhan Sun (孫又晗)氏はコロンビア大学コンピュータサイエンス学科を卒業後、Microsoft や Facebook などの世界的ビッグテックで AI エンジニアとしてキャリアを積み、Pony.ai(小馬智行)などの自動運転企業でも重要な役割を担ってきた。共同創業した Qingtian Truck(擎天智卡)を退社したニュースは BRIDGE でも昨年6月に取り上げた

首席技術顧問には東京大学准教授の Lei Ma(馬雷)氏が就任している。Ma 教授は AI 安全評価分野で国際的に高い評価を受けており、AI システムの信頼性と安全性において世界的な権威である。また、元三菱商事香港社長の河合耕作氏がビジネスアドバイザーを務め、チームメンバーには日本のメルカリや Lark Japan(ByteDance=字節跳動)出身のトップタレントが名を連ねている。

Na 氏はインタビューで、Trans-N が主に取り組む3つの業務について語った。第一に、AI 技術を活用したシステム開発。第二に、企業向けの戦略コンサルティング。そして第三に、日本企業とテック企業を繋ぐ橋渡し役(商社)としての役割である。システム開発に関しては既に売上を計上しており、契約書類分析ツールなどの開発も進行中だという。

単に受託開発を行うのではなく、日本市場に根ざしたプロダクトを生み出すことを目指しています。また、長期的には、AI 技術を活用してデータドリブンな企業の運営支援することを目指しています。(Na 氏)

デカップリングが拍車をかける、中国からの AI 人材流出

中国にも AI 技術者が多いが、アメリカで活躍する中国系アメリカ人、中国人も AI 技術者は多い。
Image credit: Trans-N / Data Source: Macro Polo – The Global AI Talent Tracker 2.0

Na 氏が強調するのは、日本市場における人材不足の深刻さだ。中長期的には、Na 氏のビジョンは、日本において IT 技術者が活躍できるプラットフォームを構築することにある。

特に AI 分野では、日本企業が国内で必要な人材を確保するのが難しい状況です。だからこそ、グローバルな視点で優秀な人材を採用する必要があります。日本企業が国内での競争だけでなく、国際的な市場で成功を収めるためには、世界中から優秀な人材を集めることが不可欠です。人材を集め、プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成し、世界市場へ進出するステップが必要です。

いわゆる米中のデカップリングによって、欧米の資金が中国のスタートアップに投資される機会は減り、この傾向は、AI を含むディープテックにおいて特に顕著だ。実のところ、最近の中国市場を見ていても、生成 AI や大規模言語モデル(LLM)に関連したプロダクトをローンチするのは、中国ビックテックの BAT(Baidu=百度、Alibaba=阿里巴巴、Tencent=騰訊)系ばかりだ。

こうして起きるのは、優秀な中国の AI 技術者の海外流出だ。その点において、中国の AI 技術者は、その技術力と経験において高い評価を受けており、日本市場においても大いに貢献できると Na 氏は確信している。彼は日本において、中国を含む海外の AI 技術者が活躍できるプラットフォームを構築したいと考えている。

グローバル人材と技術の融合——日本の AI 市場への新たなアプローチ

Image credit: Trans-N

Trans-N は、研究開発特化型の AI スタートアップではない。彼らのビジネス理念は、世界中のベストプラクティスを取り入れ、それを日本市場に適応させることだ。この辺りは、一般的な生成 AI や LLM、それを使ったアプリケーションを開発する会社とは一線を画している。AI 技術の発展ではデータ、計算力、アルゴリズムの3要素が不可欠だが、特にデータに着目しているという。

計算力は、半導体技術やデータセンター技術が発展しパラメータ数が増えれば進化するでしょうし、アルゴリズムにはいずれ限界があります。仮に会社の中で人の仕事が全て AI に置き換えられたときに、その会社を定義づけるものは、その会社にとってユニークなもの。つまり、計算力やアルゴリズムではなく、データなのです。

企業は、内部で生成される膨大なプライベートデータをどのように収集・管理し、それを最大限に活用するかが、競争力を決定づける要素となります。特に、データを活用することで、AI による精度の高い意思決定が可能となり、過去のパターンやトレンドを基に将来の予測や最適化が行えます。

データは、企業の活動や意思決定を支える基盤であり、AI の性能を左右する重要な資源です。私たちは、データが企業の競争力を維持するための鍵であると信じており、そのためにデータの収集・活用に関する最適な仕組みを構築していきたいと考えています。(Na 氏)

これを可能にするのは、Na 氏らが考える「Painless Data FlyWheel」というアプローチだ。Data Wheel とはデータを集める仕組みのことを言っていて、Painless とは会社の従業員が、新たに追加発生する作業やルーチンが無く、無意識に実施されることを意味する。つまり、日々の全ての業務がデータとして蓄積されていけば、それは現在、そして、未来の会社を成長させる種になる。

Na 氏は Trans-N の今後の展望について、那氏は楽観的だ。将来は、日本市場だけでなく、シリコンバレーや中東市場にも進出し、グローバルに展開することを視野に入れていると語った。こうした構想をスムーズに進める上でも、Trans-N は中国からの資金調達には慎重で、今後もいわゆるチャイナマネーに依存しない方針を貫く考えだ。

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する