東大・古澤研発のOptQC(オプトキューシー)が設立、光量子コンピュータ開発を本格化

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OptQC 代表取締役、東京大学大学院工学系研究科古澤研究室助教 高瀬寛氏
Image credit: The University of Tokyo

東京大学大学院工学系研究科古澤研究室の助教、高瀬寛氏が中心となり、光を用いた独自の量子コンピュータを開発するスタートアップ OptQC(オプトキューシー)が設立されたことが明らかになった。高瀬氏へのインタビューによると、同社は来年度中の商用機完成を目指している。

量子コンピュータは、従来のコンピュータでは処理に非常に長い時間がかかる複雑な問題を、高速に解く可能性を秘めた次世代の技術として注目を集めている。しかし、現在の量子コンピュータにはノイズの影響で計算エラーが発生しやすいという課題があり、実用化には「量子ビット(キュービット)」を多数用いる必要がある。

OptQC が目指す光量子コンピュータは、この問題を解決する潜在力を持っている。高瀬氏によると、光を量子ビットとして活用することで、システムのサイズを大きくせずに多数のビットを扱うことが可能だという。OptQC は先行する米 IBM などを追いかけ、最終的には追い越すことも視野に入れている。

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光量子コンピュータの技術的優位性

高瀬氏は、光量子コンピュータの優位性について次のように説明している。

光量子コンピュータには3つの大きな強みがあります。まず、スケーラビリティです。光を使うことで、量子ビットの数を容易に増やすことができ、より複雑な計算が可能になります。

次に、高速性です。光量子コンピュータは、従来の量子コンピュータよりも高いクロック周波数で動作し、理論上はテラヘルツ帯域まで達する可能性があり、これは現在のコンピュータの1,000倍以上の速度に相当します。

最後に、光通信技術との高い親和性です。既存の光通信技術と互換性が高く、開発や実装のコストを抑えることができる点も強みです。(高瀬氏)

OptQC の光量子コンピュータ技術は長年の研究成果の蓄積により、基礎技術がほぼ完成した段階にある。特に、国の「ムーンショット型研究開発制度」から資金面で古澤研究室には多くの支援がなされ、研究のスピードが劇的に上がった。通常のスタートアップとは異なり、すでに十分な技術的な基盤を持ったところからスタートができるというアドバンテージがあるわけだ。

Image credit: OptQC

開発ロードマップとビジネス戦略

今後の計画として、OptQC は以下のステップを予定している。

  1. 産業技術総合研究所(産総研)に1号機を設置し、24時間稼働可能な安定したシステムを構築。
  2. 高いクロック周波数を持つ2号機の開発に着手し、従来のコンピュータを凌駕する処理速度の実現を目指す。
  3. 誤り耐性を備えた3号機の開発を通じて、より実用的な量子計算を実現する。

高瀬氏によれば、OptQC はビジネスの加速のために年内に資金調達を行う予定だが、具体的な金額や調達先については、現時点で明らかにしていない。事業展開に関しては、産総研の量子技術オープンイノベーション拠点「G-QuAT(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)」に、富士通や日本 IBM に続く3番目のプレイヤーとして参入予定だ。ここでは、最適化問題の解決やニューラルネットワークへの応用を含む実際の課題解決に向けた研究を進める。

現在、日本は海外の量子コンピュータ技術を輸入する傾向にありますが、それでは最終的に海外企業の開発を支援することになります。日本国内で技術を育てることが重要です。OptQCは、日本発の量子コンピュータ技術を世界に発信し、競争力を高めることを目指します。(高瀬氏)

光通信技術との融合とパートナーシップ

OptQC の大きな強みの一つが、光通信技術との高い親和性だ。高瀬氏によれば、最近の研究によって、光通信に使用される波長帯を量子コンピュータにも応用できるようになった。これにより、既存の光通信技術で使用されるデバイスやモジュールを量子コンピュータにも利用できる道が開けたという。

例えば、量子光源や測定器などの主要コンポーネントに、5G 通信で使われる汎用デバイスを利用できるようになりつつあります。これにより、開発コストを削減し、信頼性を高めることが期待できます。(高瀬氏)

光通信技術の成長と量子コンピュータの開発を融合させることで、より迅速で安定した量子コンピュータの実現が期待されているが、一方で、光量子コンピュータの開発には依然として課題が残る。

量子コンピュータ業界全体がまだ研究開発段階にあり、一般の人々の生活に劇的な変化をもたらすには至っていません。技術が実用化されるまでには、10年から20年というスパンで考える必要があります。実機を製作し、運用することで得られる知見は非常に重要です。OptQC は、この実践的なアプローチを通じて、光量子コンピュータの実用化を加速したいと考えています。(高瀬氏)

今後、OptQC は NTT や産総研などのパートナーとの協力も強化していく予定だ。特に、量子コンピュータの基盤となるデバイス開発においては、外部パートナーとの協力が不可欠だと考えている。

私たちの目標は、単に量子コンピュータを作るだけではなく、情報処理の新たなパラダイムを創造することです。光量子コンピュータを通じて、コンピューティングと通信の融合を進め、量子技術の実用化による大きな変革を目指しています。(高瀬氏)

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