日本SaaSこそ東南アジアに勝機——RevCommの海外戦略

RevComm VP Global Business Dept の佐々木結一郎氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

生成AIの技術発展によってますます注目が集まるAI×音声の領域で、電話解析AI「MiiTel Phone(ミーテルフォン)」、Web会議解析AI「MiiTel Meetings」、対面会話解析AI「MiiTel RecPod(レックポッド)」などのSaaSプロダクトを展開するRevComm(レブコム)。2024年7月には15.8億円のプレシリーズBラウンドの資金調達(融資を含む)実施を発表し、累計調達額は49.5億円に達しました。

RevCommは、2021年からインドネシアへの進出を開始。現在は社会保険庁、労働省といった政府機関へプロダクトが導入されるなど、着実な事業成長を見せています。

日本のSaaS企業が海外市場、特に東南アジアで成功を収めるには何が必要なのか。RevCommのインドネシア事業を牽引するVP Global Business Deptの佐々木結一郎氏に、その戦略について話を伺いました。

RevCommのインドネシア進出と成長戦略

RevCommが展開するMiiTel Indonesia

RevCommは、2021年にインドネシアへ進出。佐々木氏が同年7月に入社し、事業展開を開始しました。この初期段階では、ユーザー企業への請求代行や販売戦略のアイデア出しなど、KDDIの支援を受けています。2022年末には現地法人を設立し、2023年2月には現地のエグゼクティブ200人を集客しローンチパーティーを開催。わずか2年足らずで約40人のスタッフを抱えるまでに成長を遂げました。

RevCommがインドネシア市場を選んだ理由は、主に言語の問題にあります。RevCommの製品は音声認識や音声解析を扱うため、各国の言語に対応する必要があります。リソースの制約から、まずはインドネシア一国に集中することを選択。インドネシアはIT業界においては外資に開かれた国であり、また、人口も東南アジア最大の2.8億人です。そして1.8万の島々で構成されているため、ITの導入ニーズが高いことも進出の決め手となりました。

RevCommの主な顧客層は、従業員50人から500人程度の中堅企業です。しかし、その用途は多岐にわたります。例えば、金融機関では債権回収に、政府機関では国民保険の販売に、不動産会社では営業活動に活用されています。さらに、大手化粧品会社のコールセンターや、イベント会社の予約受付など、幅広い業種で利用されています。同社の今後の戦略として、従業員1,000以上の大手企業や政府への導入を増やしていくことを挙げております。

佐々木氏は、インドネシア市場の特性について興味深い分析を提示しています。例えば、現地のSaaS製品の価格設定について、「インドネシアの価格水準は、日本の3〜5分の1程度」と述べています。人件費の安いインドネシアでは、欧米の高価なSaaS製品を導入するよりも、人を雇う方が経済的に合理的な場合が多いのです。一方で人件費は右肩上がりで上昇しており、数年以内にこの人件費ならSAASを導入しようと現地マネジメントたちが考えるタイミングが来て、一定規模のB2B Tech市場が出来上がるだろうと佐々木氏は述べます。

このような市場環境の中で、RevCommは自社の強みを活かしつつ、現地のニーズに合わせたサービス提供を行っています。例えば、製品のユーザーインターフェースは英語で提供しつつ、音声解析はインドネシア語で行うなど、柔軟に対応しています。

人材戦略、組織カルチャーの構築に日本文化を活用

RevCommのインドネシアチーム

インドネシアでの人材採用と育成において、RevCommは日本的な手法と現地の慣習をうまく融合させるユニークなアプローチを採用しています。

インドネシアでは日本の技術力に対する信頼が厚く、IT業界においても「ジャパニーズテック」としてのブランド力は未だ健全であると佐々木氏は話します。そのため、さほど現地人材の採用は難しくないとのことです。

RevCommの事例で特筆すべきは、内部昇格制度の導入です。インドネシアでは一般的に、上位ポジションの欠員が出た場合、外部から人材を採用するのが通例です。しかし、RevCommでは日本では一般的な内部昇格を積極的に行い、社員のキャリアアップの機会を提供しています。

この制度は、この会社で頑張れば転職しなくともポジションを上げられると思ってもらえたことで社員のモチベーション向上と離職率の低下に大きく貢献。佐々木氏によれば、3年間で退職したのはたった1人だけだといいます。

また、組織文化の構築にも工夫を凝らしています。日本の漫画文化を活用し、「友情、努力、勝利」というコンセプトを社員に浸透させているのです。「日本のアニメカルチャーはインドネシア人の皆さんにとって、とても身近なんです。少年ジャンプの作品、ワンピースやナルトはみんな知っています」と、佐々木氏は説明します。これらの漫画に共通する価値観をRevComm インドネシアの企業文化として採用することで、部門間の対立を減らし、チームワークを重視する文化を醸成しています。

一方で、インドネシアの商習慣に合わせた現地化も行っています。例えば、イスラム教のお祈りの時間を設ける、断食祭の期間は就業時間を早める、年に1度は社員旅行を実施するといった現地企業では一般的なことを導入しております。

このように、RevCommの人材戦略と組織文化の構築は、日本的な要素とインドネシアの現地事情を巧みに融合させたものとなっています。

インドネシア独自の課題に基づいたマーケティング、セールス戦略

イベントで登壇する佐々木氏

インドネシア市場でのマーケティングとセールス戦略は、日本とは大きく異なるアプローチが求められます。

まず、マーケティング戦略について佐々木氏は「ターゲットキーワードのサーチボリュームがない」という重要な指摘をしています。つまり、日本では効果的なリスティング広告が、B2B Tech市場が未熟なインドネシアではあまり機能しないのです。この課題に対して、RevCommでは特にInstagram広告などのディスプレイ系の広告を活用した戦略を採用。具体的には、クリエイティブを多数作成して継続的な露出を増やし、ユーザーの目に触れる機会を多くすることを重視しています。現地のB2B Tech企業たちはほとんどウェブマーケティングを実施していないため、少額の投資でもかなりの効果を得ることができました。

また、自社イベントの開催も効果的な手段として挙げられています。佐々木氏によれば、70人程度を招待してレストランを貸し切って開催するイベントは、コストが一回10〜20万円程で実施することができます。ディナー無料などを謳うと、ターゲット属性の人々が来てくれて初期の営業パイプライン構築に力を発揮してくれました。そうした活動を通じて徐々に認知度を高め、最終的には検索広告も効果を発揮するようになってきたとのことです。

セールス戦略においては、エンタープライズ市場とそれ以外の市場で異なるアプローチを取っています。エンタープライズ市場では、既存のシステムインテグレーター(SIer)が強い影響力を持っており、彼らとのアライアンスを構築することが重要です。「エンタープライズはSalesforceやMicrosoftを導入していますし、欧米製のSaaSを導入できるぐらいの大きな予算がありますね」と、佐々木氏は説明します。一方、中堅企業向けには、The Model的なセールス・マーケが有効であると分析しています。

日本のSaaSスタートアップこそ、東南アジアに勝機がある

佐々木氏は、日本企業がインドネシアを含む東南アジアのB2B Tech市場で成功する可能性は高いと考えています。欧米勢は先にも挙げた価格差、そして中国勢は国内市場の大きさから対外的な進出に積極的ではないなど、各地域の競合企業がなかなか入りづらいというのです。

そんななかで「日本ブランド」への信頼感が依然として強いこと、そして現地企業と比べて日本企業の製品品質が高いことから、日本のスタートアップによる東南アジア進出は、大きな市場機会があるといえそうです。

日本のSaaSスタートアップによる東南アジア進出の先駆者として、RevCommの事例は大いに参考になるのではないでしょうか。

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