ノンデスクワーカー現場改善のカミナシ、2024年度中に複数製品ローンチへ——第1弾は、14言語対応「カミナシ従業員」

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カミナシ 代表取締役 CEO 諸岡裕人氏
Image credit: Masaru Ikeda

カミナシは27日、都内で会見を開き、2024年度内に複数の新製品をローンチする計画を発表した。その第一弾として、現場従業員管理システム「カミナシ従業員」の提供開始を明らかにした。同社代表取締役 CEO の諸岡裕人氏と新製品開発責任者の加古萌氏が記者会見を行い、新戦略と新製品の詳細について説明を行った。

カミナシは2016年の設立(当時の社名は、ユリシーズ)。従来から提供している現場改善プラットフォーム「カミナシレポート」へと名を変え、また、昨年10月には、東京大学松尾研究所発の AI スタートアップ StatHack を完全買収し、出荷前製品の目視検査を AI が効率化する「カミナシ CountAI」として提供している。

カミナシの新戦略——現場DXの総合的アプローチ

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会見の中で、諸岡氏は、現場 DX の課題に対する総合的なアプローチの必要性を強調した。「作業方法」「人」「機械設備」という現場の基盤となる3つの領域に焦点を当て、2024年度中に新しいサービスを3つ連続して立ち上げる計画を明らかにした。これらの領域は、製造業や品質管理の世界で「4M」と呼ばれる重要な要素とも一致する。

これらの新サービスは、既存の「カミナシレポート」と「カミナシAI」に加え、合計5つのサービスラインナップを形成する。新サービスには「カミナシ従業員」「カミナシ設備保全」「カミナシ教育管理」が含まれる。諸岡氏は、これらのサービスが相互に連携し、「カミナシID」という認証基盤を通じて統合されることで、より大きな価値を生み出すと説明した。

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諸岡氏は、この戦略の背景にある社会的変化として、生産年齢人口の減少、外国人従業員の増加、スポットワーカーの拡大を挙げた。具体的には、2030年までに340万人、2040年までに1,100万人の労働力が不足すると予測されている点を指摘。これらの変化に対応するため、人の判断によらないオペレーションの構築、外国人従業員の戦力化、設備メンテナンス技術の継承が重要になるとした。

また、諸岡氏は、カミナシの強みとして「現場ドリブン」のカルチャーを強調した。社員が年間推計約3,100回の顧客訪問を行い、現場の課題を直接把握していることが、多様な業界に対応できるサービス創出力につながっていると説明した。また、既に1万5,000を超える現場への導入実績と30を超える業界への展開実績があることも、同社の優位性として挙げた。

多言語対応の統合型現場従業員管理システム「カミナシ従業員」

カミナシ 新製品開発責任者 加古萌氏
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新製品開発責任者の加古萌氏は、「カミナシ従業員」の詳細について説明した。この製品は、会社と外国人従業員を含めた現場従業員間の業務連絡や情報共有、書類のやり取りを一つのサービスで完結できるシステムだ。加古氏は、現場の実態調査結果を引用しながら、現在多くの企業が現場従業員とのコミュニケーションや情報のやり取りを十分にデジタル化できていない現状を指摘した。

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主な特徴は次の3点だ。

  1. 全従業員が使える …… メールアドレス不要で、雇用形態に関わらず全従業員が利用可能。カミナシIDを使用することで、メールアドレスを持たないアルバイトやパートタイマーも簡単に利用できる。
  2. 一つにまとまる …… お知らせ、チャット、給与明細など複数の機能を統合。将来的にはさらに機能を拡充し、特に入れ替わりの激しい非正規雇用社員向けに、複数のツールを一つにまとめることを目指している。
  3. ちゃんと伝わる …… 日本語を含む14言語に対応した多言語翻訳機能を搭載。特に技能実習生の母国語に多い言語をカバーしており、全ての機能を各言語で表示することができる。

加古氏は開発の背景として、「会えない、渡せない、伝わらない」という現場の課題を指摘。特に2027年に始まる予定の「育成就労制度」により、外国人材の流動性が高まることへの対応が急務だと強調した。同社の調査によると、現在でも8割以上の現場で早期戦力化や定着率向上に課題を感じているという。

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カミナシ従業員は、お知らせ機能とチャット機能を備え、AI 校正機能により翻訳精度を向上させている(チャット機能や AI 構成機能は、一般には今秋提供開始予定)。AI 校正機能は、日本語の文章を翻訳しやすい形に自動的に調整し、より正確な多言語コミュニケーションを支援する。加古氏は、この機能により翻訳の理解度が大幅に向上したことを、ユーザ評価を示しながら説明した。

カミナシ従業員は、既に製造業、飲食業、介護、ビルメンテナンス、バスタクシー業界など39社での導入が決定している。加古氏は、各業界での具体的な活用シーンについても言及し、業務内容の変更通知や緊急連絡、外国人材の生活支援など、幅広い用途での利用が期待できると説明した。同社では、入社から退職まで安心して働ける環境を提供できるよう、機能拡充を継続的に行う方針だ。

先行導入企業の声——人材不足への対応と多様な働き手の活用

吉清 総務部長 牧野新治氏
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加古氏によれば、「地方の製造業を中心に人材不足が深刻化している」そうだ。外国人労働者の活用が進む一方で、言語の壁や情報伝達の問題が顕在化していて、工場労働者など、ノンデスクワーカーにありがちな、メールアドレスを持たない現場従業員との情報共有や、複数の国籍の従業員とのコミュニケーションに課題があるという。

トークセッションには、カミナシ従業員を先行導入する長野県の食肉加工会社「吉清」総務部長の牧野新治氏が登壇した。牧野氏は自社が置かれている状況について、次のように説明した。

全従業員110名のうち23名が外国人。60歳以上の割合が25%で、技術継承に危機感を覚えました。そこで、高校新卒の採用を目指しましたが、地域の就職希望者80名に対して150社以上が募集をかけるなど、厳しい採用環境に直面しました。(牧野氏)

牧野氏によると、外国人従業員とのコミュニケーションでは、メッセージアプリと翻訳ツールを組み合わせて対応していたが、「非常に手間がかかり、国によって使用するアプリも異なる」など課題が多かったという。また、給与や労働環境に関する複雑な内容を伝える際には、互いの意思疎通が難しく、誤解が生じるケースもあったと振り返った。

カミナシ従業員は、こうした課題を解決するため、14言語に対応した翻訳機能を搭載。日本語、英語、中国語、韓国語、ベトナム語、タガログ語、タイ語、インドネシア語、タミル語、ミャンマー語、ネパール語、モンゴル語、ポルトガル語に対応している。モバイルでアクセス可能だ。

カミナシ 新製品開発責任者の加古萌氏、カミナシ 代表取締役 CEO 諸岡裕人氏、吉清 総務部長 牧野新治氏
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主な機能として、多言語でのお知らせ配信や、チャットコミュニケーション、また、今後、実装する予定の機能として、給与明細の配信機能なども予定している。給与明細配信機能については、現時点では給与計算ソフトとの直接連携はないが、CSV データをアップロードすることで各従業員に配信できる仕組みを整えているという。

お知らせの閲覧状況が確認でき、誰が未読かもわかるので、口頭でのリマインドも効率的にできるようになりました。メッセージアプリで連絡していた時と比べ、会社からの重要な通知という認識が社内で定着し、すぐに対応する習慣ができました。(牧野氏)

一方で牧野氏は、選ばれ続ける企業になるためには、従業員のキャリアプランやライフプランを実現するための選択肢を示すことが重要と考え、ツール導入だけでなく、企業文化の醸成や労働環境の整備も必要だと強調した。最近の採用面接では、給与よりも休日数や時間外労働の状況、有給休暇の取得しやすさなどを質問されることが増えており、働き方に対する意識の変化も感じられるという。

背景には、深刻化する人材不足があります。2050年には地域(長野県飯田市)の生産年齢人口が1万7,000人減少するとの予測もあり、企業活動を継続し、お客様に価値を届けていくためには、今まで以上に働き手から選ばれる会社になる必要があります。(牧野氏)

カミナシ従業員は、外国人従業員のためだけに特化したツールではないものの、多様な人材の活用と円滑なコミュニケーションを通じて、人材不足に悩む企業を支援する取り組みといえるだろう。企業の人材戦略や働き方改革の一助となるか、その効果と普及の行方が注目されるところだ。カミナシでは、2026年7月までに、ユーザ数(導入企業の従業員の総和)で10万人を目指すとしている。

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