アフリカでWeb3ビジネスがもたらす「ナイジェリアンドリーム」とは?/Kepple Africa Ventures 成田葵 × ACV青山奈津美・中谷踏太郎【ACVポッドキャスト】

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

今回のゲストはKepple Africa Venturesでインベストメント・マネージャーを務める、成田葵さんにご登場いただきます。現在、ナイジェリア在住の成田さんに、アフリカでのWeb3ビジネスの可能性と現状についてお聞きしました。

成田さんはアフリカ特化型のベンチャーキャピタルであるKepple Africa Venturesに所属。アフリカは経済発展が著しく、テクノロジーの導入にも積極的な地域として注目されていますが、その中でもWeb3領域は特に可能性を秘めているとのこと。インタビューでは、成田さんがアフリカのWeb3スタートアップをどのように見ているのでしょうか。

アフリカに注目するきっかけ

成田さんは大学時代からアフリカのスタートアップに関心を持ち、将来はアフリカで働きたいと考えていました。インフラ整備などの課題解決にスタートアップのイノベーションが活かされる土壌があり、若く優秀な起業家が次々と新しいサービスを生み出している状況を目の当たりにし、自身もアフリカのエコシステムの発展に貢献したいと思ったとのことです。

ーーKepple Africa Venturesではどのようなスタートアップに投資をされているのでしょうか。

「元々は領域問わずプレシードやシードステージのスタートアップに投資していましたが、現在はシリーズAを主に対象とした90億円規模のファンドと、Web3ファンドを運営しており、私自身は、Web3領域のスタートアップの投資を担当しています」

アフリカにおけるWeb3の広がり

アフリカではここ数年、Web3関連の企業が急速に増えてきており、暗号資産の取引所やブロックチェーンを活用したスタートアップが次々と立ち上がっているとのこと。特にナイジェリアでは「ナイジェリアンドリーム」と呼べるような状況が生まれているそうです。

ブロックチェーンのスキルさえあれば、大学の学歴がなくても世界と伍していける環境が整いつつあり、若い世代を中心にWeb3領域への参入が相次いでいます。中にはグローバルなプロジェクトで活躍した後、アフリカに戻って自らプロジェクトを立ち上げる起業家も出てきているとのことです。

ーーナイジェリアの若者がWeb3で活躍できるようになったのは、どのような背景があるのでしょうか。

「現地の仕事をしても100ドルや300ドルしか稼げなかったところ、Web3やブロックチェーンのエンジニアになってグローバルプロジェクトにオンラインで参加すると、3000ドルや4000ドルといった金額を稼げることが大きな理由です。スキルさえあればお金を稼げるので、20代前半といった若い人たちが活躍していますね」

成田さんが特に注目しているアフリカのWeb3スタートアップとして、ナイジェリアの「GreenFlare」とケニアの「AMINI」の2社を挙げています。GreenFlare はナイジェリアの油田から出るフレアガスを利用してビットコインマイニングのための電力を生み出すとともに、余剰のガスを有効活用することでカーボンクレジットの発行も行うユニークなビジネスモデルの会社です。

一方、AMINI はケニアを拠点とする会社で、農業保険の適切な支払いを可能にするサービスを展開しています。ケニアでは農業が主要産業ですが、保険金の支払い時に必要な各種データの信頼性が課題となっていました。

ーーアフリカのスタートアップは実際の社会課題の解決とブロックチェーン技術をうまく組み合わせているように感じました。

「AMINIが素晴らしいのは、保険会社に提供するデータの改ざんを防ぐためにブロックチェーンを使い、保険金の支払いを自動化するのにスマートコントラクトを活用している点です。実際のユースケースに合わせてテクノロジーを有効活用し、社会課題を解決しているのは非常に面白いですね」

アフリカにおけるブロックチェーンの可能性

欧米のような中央集権的なプラットフォーマー主導ではなく、個人が自立して経済活動に参画し、それらが分散型のシステムでつながる。成田さんによれば、こうしたブロックチェーンの本質である分散化とトークン化の考え方がアフリカの実情に合っているのだそうです。

一方で、完全にDAO(分散型自律組織)の形を取るプロジェクトはまだ少なく、当面はハイブリッドな形でブロックチェーン技術を段階的に導入していくことが望ましいと見ているとのこと。いずれにせよ、社会課題が山積しインフラが不足しているアフリカでは、先進国以上にブロックチェーンの導入余地が大きいのは間違いなさそうです。

ーー先進国に比べてアフリカではブロックチェーンを活用しやすい環境があるように感じました。他にもブロックチェーンを活用した社会インフラの事例はありますか。

「ナイジェリアの銀行間の決済プラットフォーム、日本でいうところの全銀システムに、ブロックチェーンが活用されています。銀行間の決済のトランザクションが分散化された仕組みになっているのですが、世界でナイジェリアだけの事例だと思います。

政府もブロックチェーンの導入に対して寛容で、日本だとなかなか進まないようなWeb3プロジェクトがリープフロッグのかたちで進んでいる印象です。起業家も、Web3の領域へ取り組むことにハードルを感じていないようですね。」

成田さんは、今がアフリカのWeb3事業に参入する良いタイミングだと指摘します。土地の登記や学歴の管理、サプライチェーンのトレーサビリティ確保といったユースケースでの活用が本格化しつつあるそうです。

さらにアフリカのWeb3エコシステムには、日本の企業やスタートアップが持つ技術を発揮できる余地が大いにあると成田さんは強調します。現地のスタートアップと組んで新たなサービスを共創したり、日本の高品質なコンテンツをWeb3と組み合わせて展開するなど、様々な可能性を挙げました。

ーーアフリカのWeb3エコシステムの将来性について、あらためてお聞かせください。

「アフリカのWeb3領域は、今が投資の絶好のタイミングで、日本企業は協働するべきだと考えています。先述のAMINIのような創業から1年ほどという若いスタートアップも次々に現れていますし、政府のなかでも有力な技術としてブロックチェーンに対する理解が進んでいます。実用的なユースケースがどんどん生まれる萌芽期に入ってきていると、強く感じますね。」

約1時間にわたるインタビューを通じ、成田さんのアフリカへの熱い想いと、現地のWeb3エコシステムの現状が見えてきました。先進国と同じようにWeb3プロジェクトを進めるのではなく、アフリカならではの社会課題解決の文脈でブロックチェーンを活用していく。そうしたリアルなユースケース指向は、日本の企業が学ぶべき点でもあるでしょう。

インフラ整備が追いついていないためにリープフロッグ的なイノベーションが起きやすい地で、若く野心的な起業家が集まり、Web3の力で新たな経済圏を作ろうとしている。日本としてもこの動きを他人事としてではなく、自らが担い手となりプレーヤーとして飛び込んでいく視点が欠かせなくなりそうです。ぜひ本編のポッドキャストをお聞きください。

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