「TOKYO STARTUP GATEWAY」第8期決勝が開催——宇宙での建築自由化技術、生理の可視化ウエアラブル、救急学習プラットフォームなどが入賞

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東京都主催のビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2021」のファイナルが28日、都内で開催された。新型コロナウイルス感染防止の観点から今回はオンライン開催となった。

TOKYO STARTUP GATEWAY はテクノロジー、ソーシャルビジネス、地域課題解決などさまざまなジャンルにおいて、グローバルを見据えた起業家を「東京」から輩出しようというコンテスト形式のイベント。主催は東京都で、NPO法人 ETIC. が運営事務局を担当している。8回目を迎える今回は、2021年の4月からビジネスプランを公募。1,047件のプランが全国から集まり、それらの中から選抜された10名のファイナリストによるプレゼンテーションが行われた。

TOKYO STARTUP GATEWAY 2021 で、審査員を務めたのは次の方々だ。

  • 各務茂夫氏 東京大学 大学院工学系研究科 教授、日本ベンチャー学会 会長、アイセック・ジャパン会長
  • 宇井吉美氏 aba 代表取締役兼  CEO
  • 佐別当隆志氏 アドレス 代表取締役社長
  • 高橋祥子氏 ジーンクエスト 取締役/ユーグレナ 執行役員
  • 山本典正氏 平和酒造 代表取締役社長

(本稿中の写真は、いずれも TOKYO STARTUP GATEWAY のライブ配信からのもの)

【最優秀賞】宇宙建築の自由と未来を創る技術 by 大西正悟氏

副賞:トロフィー、100万円

現在、宇宙において建造されている建築物の多くは、基本構造を地球上で作っておき、それを宇宙にロケットなどで打ち上げた後、組み合わせることで完成させている。しかし、Elon Musk 氏の SpeceX や Jeff Bezos 氏の Blue Origin といったスタートアップが現れる中で、有人宇宙飛行が一般化してくることは、おそらく明確な未来の姿だろう。

技術発達で輸送コストが下がることもあり、より多くの人を効率よく運ぶために宇宙船は大型化するだろうが、ここで問題になるのは宇宙船を受け入れる建築物だ。宇宙船を数数多く受け入れるためには、大規模な宇宙ステーションや宇宙基地が必要になる。大西氏のアイデアは、宇宙空間で壁をつなぎ合わせることで、より自由な宇宙建築を実現するシステムやサービスを提供だ。

【優秀賞】スマホと連携して生理を可視化するウェアラブルショーツ by 浅井しなの氏

副賞:トロフィー、50万円

浅井氏は、生理に対して悩みがあったことから、体験談を Tiktok で発信したところ、同じような悩みを持つ女性から大きな反響が得られたという。生理については、女性同士でも状況を誰かと比較したり情報共有したりする機会がないことから、仮に、自分の生理の状況が異常であったとしても、それに気付けない人が多いことがわかっている。情報発信しているメディアにリーチできていない人も多いことから、デバイスを使って知らせてくれる仕組みが必要と考え、この構想に至った。

日本で初めての生理用ナプキン「アンネナプキン」は、女性たちの行動様式に大きな変化を与えたことになぞらえ、浅井氏のプロジェクトには「リアンネ」という名がつけられている。給水ショーツのポケットにセンサーをつけることで、生理の状態を数値化・可視化する。生理の状態に異常が検知されれば、その状態がスマートフォンに通知されるというものだ。女性の中には婦人科に診てもらうことにハードルを感じる人も多いことから、症状に応じて婦人科をマッチングし、診察へ出向くのを後押しする機能も検討している。

【優秀賞】病院前救急医療プラットフォームで「救える命」を最大化する by 中村秀明氏

副賞:トロフィー、50万円

PECPET の中村氏によれば、救急隊員や救急救命士は、新しい知識を学習したり身に付けたりするために、主に当直明けの時間帯、従って、身体の疲れた眠い状態で研修を受けることを余儀なくされている。しかも、救急隊員や救急救命士は3交代制の24時間で運用されているため、全てのチームに情報を浸透させるためには、講師は同じ内容を3回レクチャーすることを余儀なくされ非効率だ。コロナ禍で対面研修も停止されたことから、救急隊員や救急救命士は研修を受ける機会を完全に失った状況だ。

病院前救急医療とは、患者が病院に運ばれてくる前、つまり、ドクターヘリや救急車などを使って、いち早く現場に急行し、治療を早く始めることで患者の死亡する可能性を下げ、後遺症が残る可能性を減らすための医療のこと。こうした医療に関わる救急隊員や救急救命士にとっては、とりわけ最新の医療技術を取り入れられた救急現場で、求められる知識や知見が変化するスピードも早い。救急隊員や救急救命士がいつでもどこでも学べるオンラインプラットフォーム「PISTEM」により、より質の高い医療提供への貢献を目指す。

【オーディエンス賞】途上国各地域の安全情報分析で「誰もが安心して過ごせる世界へ」 by 吉沢翔平氏

世界中には安全上の問題がある地域は少なくないが、そういった情報は集約されておらず、地元の人々の経験知によってのみ共有されていることが多い。事件や事故や自然災害のみならず、「この通りは街灯が少ないので、暗くなってからは避けた方がいい」とか、「この通りは段差が多いので歩きにくい」といった情報は、地元の人のみならず、外国からの渡航者にとっても有用だ。しかし、トラベルガイドはもとより、検索エンジンでリーチできる情報サイトなどでも入手することは困難な種類の情報と言える。

吉沢氏は以前、フィリピンのサンボアンガ滞在時に、武装勢力の蜂起に遭遇した経験から、地元の人が持つ安全情報を集約できないかと考えた。被害者らからのヒアリングをもとに、情報プラットフォームを構築し、地域の人々へ安心の提供を目指す。渡航客に対しては、安心して利用できるホテルやタクシーなどを紹介しマネタイズする。吉沢氏は以前、Team Emergensor という安全情報サービスを開発するプロジェクトで、マイクロソフトの「Imagine Cup 2018」に日本チームの一つととして採択され参加していた。

【レジリエンス賞】目指すのはマトリックスの世界。恐怖を腸内細菌で取り除く by 長崎恭久氏

腸内細菌と精神疾患には相関関係があることが近年明らかになっている。例えば、うつ病の人の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)にはビフィズス菌や乳酸菌が少なくなるという研究データもある。腸には脳に次ぐ多くの神経細胞が存在し、感情にも深くかかわっているため「第二の脳」といわれ、腸内環境を整えることができれば、前向きな精神状態を作ることにも大きく貢献できる。食品大手出身の長崎氏は、これまでにも「幸せホルモン」と異名を持つ、セロトニン分泌を促進するビフィズス菌の研究などにも携わってきた。

国連が毎年発表している世界幸福度ランキングでは、フィンランドが4年連続で1位に輝いている。演繹的には、世界で最も幸福な人たちのマイクロバイオームを擬似的に再現することができれば、メンタルのベースアップを図ることができるかもしれない。長崎氏は、こうした国々の人々のマイクロバイオームを転写した、「恐怖と闘う腸内細菌」を実現するプロダクトを作ろうとしている。具体的には、マイクロバイオームの再現に有効な乳酸菌や栄養成分の入ったカプセルを販売するような方法を考えているようだ。


入賞には至らなかったものの、ファイナリストに残った他の参加者は次の通り。

  • 「子連れにいい場所」を一瞬で把握し利用するライフハックアプリ by 逢澤奈菜氏
  • Hello, I’m Dead! アカウントに死と共有を by 今吉勇揮氏
  • 出生前検査の専門家へのアクセスを身近に、正しい相談支援を by 西山深雪氏
  • 結婚に「運命」はもういらない。データマッチングで自己実現せよ by 毎床慶子氏
  • 着る運動神経でスポーツのできないをなくす by 宮澤留以氏

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