55億円調達「NOT A HOTEL」世界へ本腰ーー総額1,000億円販売目指し「NIGO」ら参戦のフラッグシップなど展開

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NOT A HOTEL TOKYO の新プロジェクトは NIGO が手掛ける(クレジット:NOT A HOTEL)

ホテルブランドを展開する NOT A HOTEL が、また規格外のプロジェクトを公表した。著名クリエイターとのコラボレーションによる6拠点同時展開、それに伴う55億円の資金調達。販売総額は向こう2年で1,000億円規模の巨大プロジェクトになる。

世界的クリエイター NIGO がディレクションを手掛ける東京プロジェクトや、国際的建築デザイン事務所スノヘッタが設計する北海道ルスツリゾートのプロジェクトなど、国内でフラッグシップとなる新拠点を開設。既存の拠点でも新たなハウスを追加し、事業を大幅に拡大する。

例によって NOT A HOTEL 代表取締役、濵渦伸次氏に話を聞いたので全体像をお伝えする。

NOT A HOTEL の成長と新プロジェクト

発表された6プロジェクト(クレジット:NOT A HOTEL)

創業から4年で、同社は累計契約高227億円、オーナー数597名を達成。これまでに9拠点の販売開始・開業を実現し、全拠点の宿泊満足度は99%と高い評価を維持している。この実績を基に、同社は今回、さらなる事業拡大に向けた新たなプロジェクトを発表した。NOT A HOTEL そのものについては過去記事を参照いただきたい。

  • 「NOT A HOTEL TOKYO」:世界的クリエイター、NIGO がディレクションを手掛ける東京近郊のプロジェクト
  • 「NOT A HOTEL RUSUTSU」:国際的建築デザイン事務所スノヘッタが設計する北海道ルスツリゾートのプロジェクト
  • 「NOT A HOTEL MIURA」:神奈川県三浦市に誕生する新拠点
  • 「NOT A HOTEL SETOUCHI」:瀬戸内海の離島・佐木島に3つのヴィラを建設するプロジェクト
  • 既存拠点の拡充:北軽井沢と宮崎県青島の既存拠点に新たなハウスを追加

これらのプロジェクトは、国内外の著名な建築家やデザイナーとのコラボレーションによって実現され、土地の特性や文化を活かしつつ、最先端のデザインと快適性を追求している。

「NOT A HOTEL TOKYO」は、NIGO の世界観が詰まった究極の空間として設計されている。富士山を望む崖の上に建てられ、リビングルームの床から天井までの窓からは東京湾を一望できる。また、NIGO がキュレーションしたアート作品が館内を彩り、これらのアート作品は所有権に含まれるという特徴がある。

「NOT A HOTEL RUSUTSU」は、スノヘッタが天文学の「天頂」という概念からインスピレーションを得てデザインしている。スキー場の山頂に位置し、人々の目線や意識を上へ向けさせ、人間の体験を高める空間を創造することを目指している。

「NOT A HOTEL MIURA」は、POOL CLUB をコンセプトとし、様々なタイプのプールを楽しめる空間となっている。A.N.D.クリエイティブディレクター小坂竜氏がレストランをデザインし、NOT A HOTEL ARCHITECTS が全体の建築設計を担当している。

これらの新プロジェクトに加え、既存の拠点でも新たなハウスの追加や施設の拡充が計画されている。北軽井沢では、日本を代表するインテリアデザイナーの片山正通氏が手掛ける「MASU」や、柴田陽子氏が監修する「WELLNESS」などが新たに加わる。宮崎県青島の「NOT A HOTEL AOSHIMA」でも、新ハウスの建設や既存施設の改修が予定されている。

NOT A HOTEL の特徴は、単に高級別荘を提供するだけでなく、購入したハウス以外の NOT A HOTEL も相互に利用できるネットワーク性にある。これにより、オーナーは世界中の様々な場所で、自宅のような快適さと贅沢さを楽しむことができる。

海外展開の本格始動

NOT A HOTEL SETOUCHI180(クレジット:NOT A HOTEL)

今回のプロジェクトで最も注目すべき動向は海外展開だ。具体的にはインバウンドによる海外富裕層への販売が期待されている。濵渦氏の話によると、海外からの問い合わせが全体の3割ほどに増加しており、それを受けた形でサイト等も完全に海外向けのものを用意するなど本格的な展開を開始する。

海外展開の第一歩として、同社は「NOT A HOTEL SETOUCHI」、「NOT A HOTEL TOKYO」、「NOT A HOTEL RUSUTSU」といったハイグレードなラインナップに絞って販売を開始する。これらのプロジェクトは、世界的に著名な建築家やクリエイターが関わっており、国際的な評価を得やすいと考えられる。

特に「NOT A HOTEL SETOUCHI」は、海外展開の先駆けとなるプロジェクトとして注目される。このプロジェクトでは、瀬戸内海に浮かぶ離島・佐木島を舞台に、世界的建築家・ビャルケ・インゲルス率いる BIG による日本初の建築作品が誕生する。

BIG は、コペンハーゲンとニューヨークを拠点とする建築設計事務所で、革新的なデザインと持続可能性を重視したアプローチで知られている。ビャルケ・インゲルスは、2016年に TIME 誌で「今世界で最も影響力のある100人」の一人に選出されるなど、国際的に高い評価を受けている建築家だ。

「NOT A HOTEL SETOUCHI」では、瀬戸内海のパノラマビューを望む島の南西岬に、その位置と対応する景色に応じて「360」「270」「180」と名付けられた3つのヴィラが建設される。各ヴィラは、その特定の場所に適した独自のデザイン特性を持っており、日本の風土と伝統建築、そして”角度”にインスパイアされたデザインが特徴だ。

NOT A HOTEL SETOUCHI360(クレジット:NOT A HOTEL)

例えば、リング状の「360」は、最も高い丘に位置し、瀬戸内の陸と海の風景を360度見渡すことができる。「270」は、周囲の群島の270度のパノラマを捉え、プール周辺に浮かぶ島のように配置された浴場、サウナ、オープンファイヤーピットを特徴としている。半島の先端に位置する「180」は、海に最も近く、その湾曲は沿岸の景観に沿っていて、内部には季節によって色が変わる木々のある中庭がある。

これらのヴィラは、伝統的な日本の平屋のデザインからインスピレーションを受けつつ、現代の用途に再解釈されている。例えば、内外を結ぶガラスのファサードは障子の現代的な解釈であり、玄昌石の自然石の床のパターンは伝統的な畳のレイアウトに触発されている。また、曲線の土壁”ラムドアース”は、現地の土を直接使用した伝統的な打ち固め技術を用いている。

このような日本の伝統と現代のデザインを融合させたアプローチは、海外の富裕層にも強くアピールすると期待される。日本文化への関心が高まっている国際市場において、「NOT A HOTEL SETOUCHI」は日本の魅力を体験できる唯一無二の場所として位置づけられるだろう。

海外展開にあたって、NOT A HOTEL はグローバルサイトを立ち上げ、国際的な顧客に向けた情報発信を強化している。同社の特徴である相互利用システムは、国境を越えた利用も可能にするため、国際的な富裕層にとって魅力的なサービスとなり得る。

世界的クリエイターとのコラボレーション:TOKYO

NOT A HOTEL TOKYO(クレジット:NOT A HOTEL)

そしてこの世界展開を支える重要なファクター、それが世界的なクリエイターとのコラボレーションになる。このコラボレーションにより、各プロジェクトは単なる高級別荘を超えた、芸術性と機能性を兼ね備えた唯一無二の空間となる。

衝撃的な発表となったのは、世界的クリエイター NIGO がディレクションを手掛ける「NOT A HOTEL TOKYO」プロジェクトだ。NIGO は、1993年に自身のブランドを創業し、ストリートファッションシーンの礎を築いた人物として世界的に知られている。2021年9月にはパリのファッションブランド KENZO のアーティスティックディレクターに就任するなど、国際的に高い評価を受けているクリエイターだ。

「NOT A HOTEL TOKYO」は、羽田空港から約45分、東京駅から車で1時間の千葉県富津市の海岸沿いに位置する。建物は谷地に埋まっているような、敷地と一体化したデザインが特徴だ。太平洋を見下ろす崖の上に建てられ、リビングルームの床から天井までの窓からは富士山を一望することができる。

KAWSの巨大な鋼鉄の彫刻(クレジット:NOT A HOTEL)

NIGO は熱心なアートコレクターとしても知られており、彼のお気に入りの現代アーティストのユニークな作品が館内を飾る。特筆すべきは、家の上に設置される KAWS の巨大な鋼鉄の彫刻だ。これらのアート作品は所有権に含まれており、オーナーは美術館のような空間で日常を過ごすことができる。

内装にも彼のこだわりが随所に見られる。リビングルームとオフィスの家具には、お気に入りのデザイナーであるジャン・プルーヴェとピエール・ジャンヌレのヴィンテージ作品が含まれている。また、ニューヨークの革新的な OJAS のスピーカーを備えたリスニングルームや、プールに浮かぶ NIGO のブランド HUMAN MADE のアイコンである巨大なアヒルなど、ユニークな要素が盛り込まれている。

NIGO は本プロジェクトについて、「世界中から東京を訪れる人々が増え続ける中、NOT A HOTEL TOKYO が誕生します。非常に魅力的な立地に、最高の完成度とディティールを追求した究極の空間。この建築には僕の世界観が詰まっています」とコメントしている。

山頂に立つクレイジーな一棟:RUSUTSU

NOT A HOTEL RUSUTSU はスキー場のふもとではなく山頂に立つ。どうやっていくんだ(クレジット:NOT A HOTEL)

一方、「NOT A HOTEL RUSUTSU」プロジェクトを手掛けるのは、国際的に活躍するノルウェー設立の建築デザイン事務所「Snøhetta(スノヘッタ)」だ。スノヘッタは、1989年の設立以来、建築、ランドスケープ、インテリア、アート、プロダクト、グラフィック、デジタルデザインなど、多岐にわたる分野で革新的なプロジェクトを手掛けてきた。

「NOT A HOTEL RUSUTSU」は、新千歳空港や札幌からわずか90分の場所に位置する。デザインは天文学の「天頂」という概念からインスピレーションを得ており、人々の目線や意識を上へ向けさせ、人間の体験を高める空間の創造を目指している。

強烈なのは建築される予定地が「山頂」という点だろう。北海道ルスツリゾートのスキー場山頂に建てられた一棟で過ごす時間がどのようなものになるのか、全く想像がつかない。この「TOKYO」と「RUSUTSU」は一棟のみが建設され、これが年間10泊から30泊の権利として販売される。

さらに新拠点も

NOT A HOTEL MIURA(クレジット:NOT A HOTEL)

フラッグシップ以外の従来モデルも新たに展開が始まる。新拠点の一つである「NOT A HOTEL MIURA」は、神奈川県三浦の海が見える高台に誕生する。POOL CLUB をコンセプトとし、砂浜のビーチプール、インフィニティプール、プライベートプールなど、様々なタイプのプールを楽しめる空間となっている。

A.N.D.クリエイティブディレクター小坂竜氏が「NOT A HOTEL MIURA」内のレストランをデザインし、NOT A HOTEL ARCHITECTS が全体の建築設計を担当している。小坂氏は、大型商業施設から国内外の話題のレストランやホテル、レジデンスまで幅広い分野のデザインを手掛けており、その経験が「NOT A HOTEL MIURA」のレストラン設計に活かされることが期待される。

「NOT A HOTEL MIURA」では、大きさ別に3タイプの客室が用意される。スタンダードは最大4名宿泊可能、メゾネットは屋上+プール付きの中庭あり、フラッグシップはプライベートインフィニティプールを配備している。さらに、共用施設として大きいサウナや水風呂、インナープール、休憩室、緑に囲まれた外気浴スペース、ジムが設置される予定だ。

既存拠点の拡充:北軽井沢と宮崎県青島

NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA「MASU」(クレジット:NOT A HOTEL)

一方、既存の拠点でも新たなハウスの追加や施設の拡充が進められている。北軽井沢の「NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA」では、2024年4月に「BASE」、2024年7月に「IRORI」が開業したのに続き、新ハウス「MASU」や「WELLNESS」の建設が予定されている。

「MASU」は、日本を代表するインテリアデザイナーである Wonderwall®︎ の片山正通氏が手掛ける。”数寄に住む – As you like it.-“をコンセプトとし、個人の好みに合わせてアップデートを重ねるスタイルである数寄屋造りに、桂離宮でも見られる高床式を採用している。これにより、居住部分からの眺望と、使用用途に縛られない多様な使い方ができるピロティを確保している。

「WELLNESS」は、柴田陽子氏が監修する。豊かな自然を感じながら籠りたくなる心地よい65m²〜80m²のお部屋が全24室用意される。温泉やジム、スパ施設など身体を整える共用施設が充実し、ウェルネスに気を配ったこだわりのレストランやコンテンツを用意する予定だ。

NOT A HOTEL AOSHIMA Ⅱ(クレジット:NOT A HOTEL)

宮崎県青島に位置する「NOT A HOTEL AOSHIMA」も、エリアを拡張し、より魅力的なプレイスにアップデートされる。2022年12月に開業した「NOT A HOTEL AOSHIMA」は、宮崎ブーゲンビリア空港から車で約15分の南国リゾートで、宮崎の海に浮かぶ青島の絶景を望む海岸沿いに佇んでいる。

今回の拡張計画では、新ハウス「NOT A HOTEL AOSHIMA Ⅱ」が誕生する。この新ハウスは、1、2階にわたる最大4名宿泊可能なお部屋が全4室、3階は最大6名宿泊可能で横長のプライベートインフィニティプールを配備した全1室となる。目の前が海のため、お部屋からすぐにビーチに行くことができるという立地の良さも魅力だ。

新ハウスの設計は、すでに NOT A HOTEL AOSHIMA にて開業しているモデル「MASTERPIECE」「CHILL」「SURF」「GARDEN」の設計を手掛けた、ジェネラルデザイン代表の大堀伸氏が監修する。大堀氏は、直線的でシャープなデザインと手の痕跡が残るクラフト感の融合が特徴的なデザインで知られており、新ハウスでもその個性が発揮されることが期待される。

さらに、「NOT A HOTEL AOSHIMA」では、敷地内のレストラン「LDK」の改修も予定されている。また、新たに様々なアクティビティが楽しめる共有エリアも誕生する予定だ。これらの拡充により、「NOT A HOTEL AOSHIMA」はより充実した滞在体験を提供できるようになる。

55億円を私募と J-KISS で調達

写真右;NOT A HOTEL 代表取締役、濵渦伸次氏(逆境、それでもスタートアップした二人の連続起業家より

ということで今回発表された6拠点について詳細をお伝えした。ちなみに新たに建築される物件はこれまで通り「CGのみ」の予約販売となる。ショールーム的なものはない。世界展開ということで濵渦氏にマーケティング戦略の変更があるか確認したが、グローバルサイトを用意すること以外は「やってみてから」という話だった。

同社ではこのプロジェクトに伴い増資も発表している。総額55億円で私募と J-KISS による調達を実施した。ラウンドはシリーズBで、私募については野村證券による特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)を用いて実施する。すべて株式(J-KISSは転換)で、私募で集める資金が44億円で J-KISS が11億円。私募については151名から調達した。J-KISS、私募共に引き受けした投資家の氏名等詳細は非公開となっている。同社の累計調達額は総額で約105億円となった。

本件についてはとてもユニークな調達方法でもあり、また、同社は今後、トークンを活用した資金調達も検討していることから機会あれば別稿で考察したい。

今後、NOT A HOTEL は国際的な顧客層の開拓に注力することになるだろう。「NOT A HOTEL SETOUCHI」「NOT A HOTEL TOKYO」「NOT A HOTEL RUSUTSU」といったハイグレードなラインナップを中心に、日本の伝統と現代のデザインを融合させたアプローチで、海外の富裕層にも強くアピールすると期待される。

また、これらは日本の観光産業にも大きな影響を与える可能性がある。高級別荘市場の活性化だけでなく、各地域の観光資源の新たな活用方法を提示することにもつながるからだ。日本のおもてなし文化と世界最高峰のデザイン、そして各地域の特性を活かした唯一無二の体験を提供することで、グローバル市場での競争力がどこまで高まるのか。引き続き同社に注目したい。

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