タグ column

アメリカから見たウェルビーイング、ESGトレンド——Amber Bridge Partners 奥本直子さん Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 Amber Bridge Partners(アンバー・ブリッジ・パートナーズ)の奥本直子さんに話を伺っています。前編では、奥本さんがウェルビーイングや ESG に関心を持たれた経緯、現在の活動などについて伺ってきました。この分野で世界の先頭を行くアメリカのリアルは、日本にいる我々にも役立つに違いありま…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

Amber Bridge Partners(アンバー・ブリッジ・パートナーズ)の奥本直子さんに話を伺っています。前編では、奥本さんがウェルビーイングや ESG に関心を持たれた経緯、現在の活動などについて伺ってきました。この分野で世界の先頭を行くアメリカのリアルは、日本にいる我々にも役立つに違いありません。

後編では、大企業、中小企業、スタートアップなど会社の規模や形態を問わず、私たちがウェルビーイングや ESG の考え方を取り入れるべき理由、課題などについて語っていただきます。この分野を手がける企業に大きな可能性があることを再認識させられる機会となりました。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine 編集部、回答は奥本氏、文中敬称略)

ウェルビーイングはなぜ重要か?

企業にとって、ウェルビーイングは必要不可欠なものになっていくのでしょうか?

奥本:戦後の復興による経済成長に伴い、企業は社員を管理し、効率よくマネージメントしていく手法が主流となりました。戦後76年、人生100年時代に働き方は大きく変化し、働き方や会社に求められる役割も大きく変化しました。「社員が幸福で前向きに仕事をすることで生産性が上がり、会社の成長に繋がる」このようなポジティブなサイクルを生み出すためには、会社そのものが、社員が心理的に安全で前向きな気持で仕事に取り組むことが出来、可能性を十分に発揮出来るプラットフォーム的な役割を果たす時代が来ているのではないかと思います。

会社というプラットフォーム上でどれだけ「最高バージョンの自分」になってもらうか。生まれてきたからには自分の可能性を生かしたいと思っている人は多いですよね。社員のひとりひとりが仕事を通して「最高バージョンの自分」になることをサポートする、そういった観点でのプロダクトやサービスのデザインがこれからの時代大切になってきます。

社員のウェルビーイングを実現するために、米国の大手IT企業、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)もさまざまな工夫をしています。これらの先進的なテクノロジー企業は、激しい競争を経て入社してきた才能の社員に、働きやすい環境を与えることにより、実力を思う存分発揮してもらいたいと思っています。それを実現するために、ウェルビーイング・テクノロジーを社員の福利厚生として提供する会社が増えてきています。このトレンドもあいまって、これまでウェルビーイング・テクノロジーはB2C向けだとみなされていたのですが、最近はB2B向けプロダクトやサービスが急増しています。

Amber Bridge Partners 奥本直子さん

ウェルビーイング・テクノロジーを企業に提供するスタートアップもあるのですか?

奥本:はい。例えば、 ウェルビーイングのB2Bソリューションを提供するHappifyというスタートアップがあります。この会社は、2012年にニューヨークにて創業され、今やユニコーン企業です。CEOの Oferさん(Ofer Leidner 氏)とは仲良くしていただいています。

Happify のサービスを通して、社員は心身の健康状態をインプットします。社員の心身の健康が低空飛行しているとき、アプリにAIボット「Anna」が現れて、科学的な研究を基にしたコミュニケーションをしてきます。例えば、「今日の調子はどう?」「あんまり根を詰めないで、ちょっと外を歩いてみましょう」とか、「水飲んでる?」「深呼吸してる?」みたいな、誰かが寄り添ってくれているような感覚にさせるようなコミュニケーションです。個人データをトラッキングし、それをもとにコーチングを提供、そのプロセスを経て行動変容を促すなど、科学的なリサーチやデータに基づいた予防策をAIで提供するのが特徴です。

企業が、社員のウェルビーイングを全面的にサポートすることにコミットメントするという姿勢を通して、社員は辛いときに会社から守ってもらっているという心理的安全を得ることが出来、会社へのロイヤリティが増します。そして、心身の健康を取り戻した暁には、また前向きに頑張ることが出来るのです。

ウェルビーイングに対する捉え方は、世代によっての違いもあるのでしょうか。

奥本:今年1月にダボス会議がオンラインで開催され、そこでデロイトのグループCEOがウェルビーイングについてお話しされました。デロイトは、世界に30万人のプロフェッショナル社員を抱えていますが、その80%はミレニアルとZ世代です。デロイトのグループCEOは、これまで昇進とそれに伴う報酬の増加を目標に頑張っていらっしゃいました。ところが、社員に「あなたにとって一番大事なものはなんですか?」とアンケートをしたところ、「ウェルビーイング」が断トツ一番だったそうです。そこで「困った」と。これまで昇進と報酬を「飴(とムチ)」として組織を牽引してきたのに、ミレニアルとZ世代は「ウェルビーイングが大切」と言う。「企業としてのウェルビーイングとは一体何か」を探るべく、セールスフォース、ユニリーバ、HSBCなどの大手とタッグを組み、話し合い、その結果を内外に発表していくとのことです。

デロイトのグループCEOは、最初に変革すべきことは「メンタルで苦しんでいる社員に対する差別や偏見」だとおっしゃいました。CDC(米国連邦防疫センター)が昨年6月に発表した調査によると、「米国成人の40%がなんらかの精神疾患を患っている」という憂うべき結果がでました。これこそ、コロナ・パンデミックに劣らない「もうひとつのパンデミック」といえるでしょう。

Mental Health, Substance Use, and Suicidal Ideation During the COVID-19 Pandemic (Image credit: CDC)

もしかしたら、日本でも似たような結果が出るのかもしれません。メンタルヘルスとは、心の病気を指す言葉ではなく、「心の健康状態を問う言葉」です。世界保健機構(WHO)は「身体的にも、精神的にも、社会的にもウェルビーイングな状態にあること」が「心の健康」と定義づけています。会社におけるメンタルヘルスは、社員の心の健康にとどまらず、「社員のための健康な職場づくりの推進」を意味し、企業のウェルビーイングへの取り組みはますます重要性を増してくるのではないかと思います。

日本でも、ウェルビーイングに注目が集まりはじめています。しかしながら、多くの企業はウェルビーイングを理解し、咀嚼し、取り組みについて議論する段階で、実行に至っている企業はまだまだ限られているようにお見受けしています。

さまざまな企業からご相談を受けるのですが、そこでアドバイスさせていただいていることは、1) まず経営層がウェルビーイング経営に対する覚悟を決めること、2) 経営理念の根幹にウェルビーイングを据えること、3) ウェルビーイングはメンタルヘルス対策だけでなく、社員がやりがいを持って前向きに仕事が出来る観点から対策を講じていく、などです。

企業のウェルビーイングへの意識が高くなり、「会社のパフォーマンスは社員の幸福度で左右される」ということが多くの企業の間で共通認識となりつつあることは、ともて喜ばしいことです。私にも何か貢献できることがあれば、是非お力になりたいと思っています。

企業にとってのウェルビーイング

ウェルビーイングと資本主義的な原理は結び付けて考えていかないといけないということですね。ウェルビーイングをちゃんとやっているところが投資家からもお金を集めやすく、やっていないところは淘汰されていくということを、日本の人々にどう分かりやすく伝えていきますか?

奥本:とてもいいご質問だと思います。

昨今、機関投資家が投資判断をする際の重要な指標としているのがESG です。ESGとは、Environment(環境)、Society(社会)、Governance(企業統治)の頭文字をとった言葉で、企業の長期的な成長のためには、この3つの観点から事業機会や事業リスクを把握する必要があるという考えが世界的に広まりつつあります。特に、欧米の機関投資家はESGを重視しており、「ESGに取り組んでいない企業には投資しない」と宣言している金融機関もあるほどです。ウェルビーイングはESG指標に含まれ、重要な評価基準になっています。

次に、ウェルビーイング&ウェルネスは400兆円の市場とされ、急成長しています。これを3つのカテゴリーに分けてみるとこのようになります。

Amber Bridge Partners資料より

1つ目は、メンタル的な症状を改善したり、治療したり、予防したりするテクノロジーのカテゴリー「精神と感情のウェルビーイング」は160兆円規模の市場です。

2つ目は、よりよい対人関係、人間そのものがもつ価値を向上させるためのウェルネスです。
コロナ禍で働き方が大きく変化した結果、職場でのコミュニケーションのあり方が大きく変化しました。また、AI時代において、様々な仕事がAIによって自動化されていくなかで、人間とAIが共存していくことが今後必須になります。そのなかで、人間としての独自の価値を「7つのC」と定義してみました。

  1. Curiosity(好奇心)
  2. Creativity(創造力)
  3. Communication(コミュニケーション能力)
  4. Collaboration(コラボレーション能力)
  5. Critical thinking(論理的・客観的・合理的に思考を展開出来る力)
  6. Cognitive(非言語のところで認知・認識出来る力)
  7. Confidence & Conviction(自信と確信をもって人を巻き込んでいく力)

これら7つの価値を強化し、サポートするようなテクノロジー、人とのコミュニケーションやコラボレーションを円滑かつ効率的にするテクノロジーが、対人関係のウェルネス・テクノロジーのカテゴリーです。

3つ目は、自己実現とパフォーマンスの向上です。せっかく生まれてきたからには「最高バージョンの自分」になりたいですよね。そこで、パフォーマンスを上げるために外的環境はとても大切です。それには、人間中心の街づくりやパフォーマンスの向上を考慮した住環境やオフィスデザインなどが含まれます。また、Apple Watchに代表されるウェアラブルの発達により、個人の生体データが取れるようになりました。個人のデータをもとにパーソナライズされたプロダクトやサービスを使うことにより、パフォーマンスを上げることに貢献するテクノロジーもこのカテゴリーに含まれます。

対人関係のウェルネス・テクノロジーにはどのようなものがあるのですか。

奥本:例えば、エモーショナルAIです。Zoomで50人に対してプレゼンテーションをするとしましょう。多くの聴衆の方々はビデオも音声も消しています。シーンとしたなかでプレゼンテーションをするわけですが、話がウケているのかウケてないのか全くわからない(笑)。

でも、仮に、そこにエモーショナルAIが搭載されていて、聴衆の表情から興味をもって聴いているかどうかを指標にして、リアルタイムで知らせてくれるとしましょう。すると、プレゼンターは、興味指数が落ちているときに、上手くジョークを挟んだりして、聴衆とのエンゲージメントを取ることが出来るようになります。

ウェルビーイングから見た未来予想図

ウェルビーイング・スタートアップの将来は、どのようになると予想されていますか。

奥本:今現在、ウェルビーイング&ウェルネス・テクノロジーの市場規模は約400兆円です。ミレニアル、Z世代がウェルビーイングに高い関心をもっていることにプラスしてコロナ禍の影響もあり、心身の健康を社会的な課題とみなし、その解決策としてのプロダクトやサービスを手掛ける起業家が増加したため、ウェルビーイングのテクノロジー・スタートアップが急増しています。過去数年間で急成長した会社の例をあげると、Calmは5年前の評価額6億円から現在2,200億円、およそ367倍です。Noomも5年前の評価額100億円前後から現在4,000億円、40倍にも成長しています。今後もますます市場が拡大していくことが予想されます。

ウェルステクノロジー市場のカオスマップ(2020年第4四半期現在)
Image credit: Nfluence Partners

加えて、2年近くコロナ禍を経験して、心身の健康を「自分ごと」として捉える方が増えました。特に、メンタルヘルスに関する理解が深まったのではないかと思います。

さらに、欧米から始まったESGの概念が広まるなか、企業のウェルビーイングへの取り組みが投資判断の重要基準になっています。GAFAMに代表される欧米の先進企業は、福利厚生のひとつとしてウェルビーイング・テクノロジーを提供するようになりました。この動きを受けて、これまでB2Cとみなされていたウェルビーイング・テクノロジーは、B2Bの需要が増えることによりB2B2C型のビジネスとして拡大しています。

今後、ウェルビーイング・テクノロジーは重要性を増し、市場はますます拡大していくことでしょう。私は、ウェルビーイング分野こそ、日本が世界に情報発信をしたり、プロダクトで世界に打って出ることの出来る分野ではないかと思います。数年後には、日本発のウェルビーイング・テクノロジーが、GAFAMに採用され、人々の生活にウェルビーイングをもたらす一助となっている可能性にわくわくしています。

瞑想アプリの「Calm」は、昨年、日本市場向けコンテンツをローンチした。
Image credit: Calm

コロナ禍の今、アメリカの GAFAM をはじめ多くの IT 企業が在宅勤務ですよね。テクノロジーでウェルビーイングを高めるというような活動は、すでに徹底されていたりするんでしょうか。

奥本:GAFAMをはじめ多くの企業が、少なくとも今年中は原則在宅勤務としています。社員の心身の健康を測定し、重症化する前に介入するようなサービスが急成長しているほかに、先にお話させていただきましたSlackなどのコラボレーション・プラットフォーム上でのメンタリング・サービス、バーチャル水飲み場、バーチャル・チームビルディング活動など、在宅勤務を余儀なくされた社員が孤独になることを防ぎ、チーム内外の連携が自然に取れるような工夫が講じられています。

ただし、そのようなサービスには限界があり、やはりヒューマン・タッチ、ヒューマン・コネクションに勝るものはないのでしょうね。今後は在宅とオフィス勤務の選択的ハイブリッド型が一般的になってくるのではないかと思います。

特にテレワークだけに依存するのは、新入社員にとってはかなりキツイですよね?

奥本:私の息子は、今年から米国セールスフォース本社に勤務しています。しかしながら、入社してから一度もオフィスに行ったことがない、上司やチームメンバーにも直接会ったことがない、新入社員オリエンテーションや研修はすべてオンライン。もちろん、仕事もオンラインということで、相当大変な思いをしているようです。

仕事を円滑に進めていく上で信頼関係は欠かせません。新入社員ということもあり、どのように上司やチームメンバーと信頼関係を結ぶかということに悩み、常にオンラインでいなければいけない、すぐさま返事をしないといけないという焦りを感じ、きっちり結果を出していかないといけないというプレッシャーと戦う、いろいろな意味で大変そうです。

社会は人と人との繋がりで成り立っています。コロナ禍で働き方が大きく変化し、ストレスを感じる方が増えました。シリコンバレー・日本間の事業開発・投資という仕事柄、常に日本側とリモートでコミュニケーションしている私にとっても、この一年半は大変なストレスでした。ストレス解消のために、唯一コロナ禍で許されるスポーツがゴルフだったので、大手を振って人と会うためにゴルフを始めました。今では、すっかりライフスタイルの一部として定着しましたが、なかなか100を切ることが出来ません。100切りは目下の目標となっています。

ウェルビーイングの分野は、日本が持つ強み、日本が持つ歴史が生きる分野なんですか?

奥本:そうです。絶対そうだと思います。ただ、0→1のところにこだわる必要はなく、海外からのテクノロジーを採用し、それを日本が得意とする洗練されたデザイン、使い勝手、データの倫理観などの強みを生かして、よりよいプロダクトに改善していくことにより、1→100に成長させていくというアプローチでもいいと思います。とにかく、考えるよりも、アクションを起こすことが大切です。

日本政府もウェルビーイングに対して取り組みを始められました。最近、政府から「予防・健康増進のためのヘルスケアサービスの取り組み」や「健康経営」に関する発表がありました。2025年に開催される万博でも「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマのもと、ウェルビーイングが主題になっています。このようなイニシアチブを通して「いま我々にとってのウェルビーイングってなんだっけ」ということを、国、地方自治体、企業、個人がそれぞれの立場で考えるまたとない機会になるのではないかと思います。

奇しくも、コロナ禍はウェルビーイングを「自分ごと」として考えるきっかけを与えてくれました。ウェルビーイングは新しい分野でもあり、様々な意見や疑問が行き交います。それでいいと思うのです。混沌とした中で、思考し、実行して失敗し、それを繰り返すことではじめて「解」を見出すことが出来る。そして「解」はひとつではありません。まずは、取り組むことが大事。小さなことでもいいのでアクションを起こすことが大事だと思います。失敗から学ぶ、そして諦めないで成功するまで続ければ、それは失敗にならないのですから。

私自身、「ウェルビーイング・マーケット・インテリジェンス・プログラム」やウェルビーイングに特化したVCファンドの活動を通して、ウェルビーイングな世の中になるよう尽力していきたいと思っています。みなさんとウェルビーイングな社会を共創していくことを楽しみにしています!

ありがとうございました。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

企業向けGoogle検索を目指す「Glean」—エンタープライズ検索領域での活躍を目指す/GB Tech Trend

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 GB Tech Trendでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 私たちの生活と検索は切っても切れない関係となりました。Googleなどの総合インターネット検索サービス以外にも、個別のサービス内検索もあります。…

5,500万ドルの調達を発表したGlean。Image Credit: Glean。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

GB Tech Trendでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

私たちの生活と検索は切っても切れない関係となりました。Googleなどの総合インターネット検索サービス以外にも、個別のサービス内検索もあります。たとえばECサイトを訪問した際、商品検索をするケースが考えられるでしょう。

ではみなさんの企業内資料・ノウハウに関してはどうでしょうか。何か欲しい資料があった時、すぐには見つからない時、資料管理に詳しい人に聞いたり、担当部署の人にわざわざ聞いたりすることがないでしょうか。適任者がいない場合は、時間をかけて探すこともするはずです。

この最適化のされていない「エンタープライズ検索」に注目が集まっています。9月15日、5,500万ドルの調達を発表した「Glean」はまさにこの領域で活躍を目指すスタートアップです。

Gleanはステルス企業ですが、公開されたコンセプト動画を観る限りではウェブ検索プラットフォームを提供するようです。事前にGleanのウェブ上でSlackやGoogleアカウントと連携・閲覧権限の許可をしておくと企業内ドキュメントを分析し、Google検索結果のように該当箇所・関連ドキュメントが表示される、という仕組みです。

AI機械学習を用いて類似のキーワード(例えば「四半期の目標」と「第1四半期の注力分野」)を抽出・理解するのが特徴的で、従業員の職種に基づいた検索結果のパーソナライズ化も実現しているといいます。

Gleanの関連サービスとして「Guru」も挙げられます。同社はAIサジェストサービスを提供しているサービスで、GmailやSlack、顧客との電話中やチャット問い合わせ中にわからない単語やマニュアルが出てきた際、エクステンション(SlackやChromeに導入できるAd-onサービス)を通じて手軽に回答を引き出せます。

検索サービスとして独立させている「Glean」と、プラットフォームのAdd-onに終始している「Guru」。使い勝手は違いますが、どちらも企業内ドキュメント需要に対応しようとしています。

両社の目指す先は「ナレッジハブ」の確立です。毎日検索されることで従業員が気になる点がデータとして集まります。集まった項目を「ホットワード」として抽出し、たとえば新人研修向けに自動で重要な内容だけをまとめたりできます。両社は検索データが集まるからこそ実現されるビックデータの活用の機会を伺っています。

コロナにより在宅ワークが当たり前になった今、冒頭で述べたように資料に詳しい人に直接聞くことが難しくなりました。国内でもQastやWikiタイプのサービスがナレッジ共有にチャレンジしていますが、資料内検索のDXを推進する領域はさらに取り組むチームがふえるのではないでしょうか。

今週(9月13日〜9月19日)の主要ニュース

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

アメリカから見たウェルビーイング、ESGトレンド——Amber Bridge Partners 奥本直子さん Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 昨年くらいから、スタートアップや投資の世界でも、ウェルビーイングや ESG といった言葉を目にすることが多くなりました。資本主義の世界に生きていると、とかく利潤の追求に焦点を合わせがちですが、人の幸福があってこその事業であり、経済であるとの考えから、これらは2020年代の社会を象徴するキーワードに数え…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

昨年くらいから、スタートアップや投資の世界でも、ウェルビーイングや ESG といった言葉を目にすることが多くなりました。資本主義の世界に生きていると、とかく利潤の追求に焦点を合わせがちですが、人の幸福があってこその事業であり、経済であるとの考えから、これらは2020年代の社会を象徴するキーワードに数えられることになりそうです。大企業にとっても、スタートアップにとっても、一見すると利潤の追求に結びつかなさそうなウェルビーイングや ESG の概念を事業にどう取り入れるかは大きな課題です。今回はこれまでテック大手やVCなどで経営に携われたキャリアを持ち、大手企業へのアドバイスやスタートアップ投資なども手掛けられる Amber Bridge Partners(アンバー・ブリッジ・パートナーズ) 奥本直子さんに話を伺いました。

(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine 編集部、回答は奥本氏、文中敬称略)

Amber Bridge Partners が目指すもの

Amber Bridge Partners を立ち上げられたいきさつ、立ち上げの背景、どういう活動をされているかをお話しいただけますか?

奥本:子供のころから一貫して日米のビジネスの橋渡しをしたいと思っていました。ロータリー財団の奨学金で米国の大学院で学んだのもコミュニケーションです。この Amber Bridge Partners は「ブリッジ」と付く通り、人と人、会社と会社、国と国を繋いでいきたいという思いを会社の名前にし、2017年に設立しました。

会社を設立したところ、2人の方から連絡をいただきました。ひとりは孫泰藏さんです。泰藏さんはMistletoe(ミスルトゥ)というグローバルなインパクト・コミュニティを運営していらっしゃいます。このコミュニティは、テクノロジーを通して社会の課題を解決したいという強い思いをもった人々の集まりで、起業家、ビジョナリー、事業家、アカデミアなど、様々な分野でご活躍される方々から成ります。Mistletoeの活動の一環として、テクノロジーで世界をより良くするというミッションをもった起業家やファンドに投資活動をしています。米国でも事業展開を手伝って欲しいとお声がけいただき、米国市場のマネージング・ディレクターとしてスタートアップに投資をしたり、ファンド投資をしたり、プロジェクトを立ち上げたりしていました。

ふたり目は、ヤフー・ジャパンの元CEOの宮坂学さんです(現在は東京都副知事)。宮坂さんがCEOを退任されるにあたり、次世代が誇りに思えるような未来を創るというミッションのもと、イノベーションにフォーカスしたファンド、Zコーポレーションを立ち上げられました。宮坂さんから「いっしょに仕事しない?」とお声がけいただき、ブロックチェーン・仮想通貨に大きな可能性を感じていた私は喜んでお引き受けしました。

ZコーポレーションはPEファンド的な立ち位置で、ソフトバンクがヤフーに投資をしてヤフー・ジャパンを立ち上げ成功したように、ブロックチェーンやモビリティの分野ですばらしいテクノロジーを持つ会社と日本でジョイントベンチャーを立ち上げ、0→1のところと1→10のところをオペーレーションの経験豊富なチームで成長を支えていくというスキームで活動していました。

Amber Bridge Partners 奥本直子さん

ESG 関連のスタートアップにも関わっておられますね。

奥本:米国スタートアップの日本市場進出のサポートをしていますが、そのひとつがFiscalNote社です。FiscalNote社は、アジア系米国人の20代の若者二人によって設立されたPre-IPOのスタートアップです。世界中の政府の立法・法規制情報を収集し、AIを通して政府やグローバル企業にタイムリーに情報を提供しています。米国政府やグローバル企業5200社をクライアントに持ち急成長中です。世界各国の立法・法規制やESGの動きをタイムリーに理解することにより、それに基づいた戦略を策定したり、ロビーイングやコンプライアンス対策を講じるなど、政府やグローバル企業にとっては欠かせないサービスとなっています。

近年、世界中で成長傾向にあるESG投資が、コロナ禍で更に急増しました。機関投資家が投資の判断をするにあたり、ESGに配慮した投資を重視するようになったからです。この背景には、社会全体への影響を包括的に勘案しなければ、経済成長や投資利益は得られないという認識が常識になりつつあることがあげられます。FiscalNote社のESGサービスは、カーボンニュートラル(脱炭素)に対する各企業の取り組みを世界標準に対して可視化することにより、企業の脱酸素に対する戦略作成をサポートします。また、ダイバーシティ&インクルージョンに関しても、グローバル企業における女性やマイノリティーを含む社員比率、取締役会の男女構成比率をリアルタイムで把握することにより対策を立てることが可能になります。

ESGへの取り組みは世界標準になりつつあることから、日本市場におけるESGサービスを立ち上げることにより、日本企業のグローバル進出の援護射撃が出来ればと思っています。

FiscalNote の画面(Image credit: FiscalNote)

2019年12月からは、データやコンテンツに特化した S4 Capital の社外取締役も務めていらっしゃいます。

奥本:世界最大級の広告代理店兼マーケティング会社、WPPを創業、30年以上舵取りをした英国人のマーティン・ソレル卿が、2018 年に創業したのがデジタル・マーケティング・ソリューションの会社 S4 Capitalです。この会社は、英国株式市場に上場しており、33カ国に5500人の従業員を擁するグルーバル企業です。社外取締役を務める米国スタートアップのCEOが、ソレル卿に私のことを推薦してくれ、半年ものインタビュー期間を経てオファーをいただきました。四半期毎に実施される取締役会は7時間から8時間に及$mm$10M x 1% といとい$100Kにその他にも頻繁に臨時取締役会が招集されます。さまざまなイシューを話し合いますが、その過程でソレル卿を始めとするグルーバル・エクゼクティブからから多くの学びがある素晴らしい機会となっています。

ウェルビーイングにも注力されていると伺いました。

奥本:3年前にシリコンバレーで開催されたトランスフォーマティブ・テック主催のカンファレンスにて、主催者のニコル・ブラッドフォードと出会ったことがきっかけです。彼女は、ゲーム会社のエグゼクティブでしたが、7年前に米国シリコンバレーを拠点とするトランスフォーマティブ・テックという非営利団体(NPO)を立ち上げました。この団体は、ウェルビーイング・テクノロジーの世界最大のエコシステムに成長し、現在、72か国、450都市に、スタートアップ、投資家、アカデミア、コーポレートから成る9,000人のメンバーを抱えています。

ニコルは、スタンフォード大学やSingularity Universityで講師を務め、学術論文に3,800回以上引用されるほどウェルビーイング・テクノロジーの中心的な人物です。ニコルと初めて会ってから1週間後に、”I have to see you”と連絡がありました。「あなたと会わなければいけないの」と言われたら、会わないわけにはいきません(笑)。自宅まで訪ねてきてくれた彼女と、お茶をし、手作りの夕食でもてなし、そのままワインを飲みながら深夜まで語り合ったのがきっかけで、とても親しくなりました。

その頃、私自身も「ヒューマン・セントリック(人間中心)なテクノロジーにフォーカスしていきたい」という思いを強くしていたところでした。このニコルとの出会いがきっかけとなり「テクノロジーを通して、誰もが健康で、幸せで、自分の可能性を最大に活かせるようなウェルビーイングな世界を実現していきたい」という思いがどんどん強くなりました。

現在、ニコルと共に、ウェルビーイングに特化したファンド「NIREMIA Collective」を立ち上げる準備をしています。ベンチャー投資を通して、テクノロジーでウェルビーイングな世の中を実現しようとする起業家をサポートし、誰もが健康で幸せで、「最高バージョンの自分」になれるような世の中を共創していければとと思います。

Nichol Bradford 氏(Singularity Universty の Web サイトから)

コロナ禍が火をつけた、ウェルビーイングとESG

奥本さんがよくnoteに書かれているウェルビーイングやESGという言葉ですが、日本では今ひとつ遠い存在という印象を持っている人が多いようにと思います。日本とアメリカで、一番ギャップを感じたこと、日本の人にもっと知ってもらいたいことはありますか?

奥本:弊社は「ウェルビーイング・マーケット・インテリジェンス・プログラム」を大手企業にご提供し、クライアント企業のプロダクトやサービスに関するコンサルティングをしています。このプログラムを通して、大企業の幹部や中間管理職の方々とお話すると、さまざまなジレンマにぶち当たってらっしゃるなと感じます。

ひとつは、プロダクトやビジネスを立案する際に、ウェルビーイングなものを作りたいという思いはある一方で、マネタイズを考慮すると、「これではお金が取れないよね」、「nice to have」だけど「must have」じゃないよね、という結論になってしまうことです。例えば、リモートワークのためのソリューションを考えたときに、直ちにニーズがあってマネタイズ出来るもの、例えば、オンラインで出勤退勤を確認するとか、従業員のブラウザをモニターするなど、会社側が従業員を管理するためのソリューションを考えてしまいがちです。

ただ、ウェルビーイング的な観点からみると、「成功して幸せになる」のではなく「幸せだから成功できる」のであり、社員の働く満足度を高めることが会社の成功に直結しているのではないかと思います。社員の幸福度や前向きさを増進するためには、個々の特性を生かした仕事に就く、自分の仕事が意義があることだと誇りに思える、上司、同僚、部下との繋がりを感じる、感謝される・認められるなどを通してモチベーションを高くもつなどが大切な要素になります。従業員を管理するのではなく、従業員の幸福度が生産性に繋がるという観点からプロダクトを開発することこそ、ウェルビーイングの時代に大切だと思います。

コロナ禍になって、仕事の状況管理や生産性向上のツールは多く生まれていますが、モチベーションを上げたり、気持ちよく仕事したりしてもらうための工夫はまだ少ないですよね。

奥本:コロナ禍で働き方が大きく変化しました。リモートワークが一般的になり、ビデオ会議によってミーティングがよりアジェンダドリブンになるなど、社員は慣れないリモートとwithコロナ時代の仕事の仕方にストレスを抱えています。コロナ禍以前は、会議後の移動時とか水飲み場などで交わしていた何気ないコミュニケーションが激減し、孤独を感じたり、生産性が落ちたり、鬱になったりする社員が急増しています。シリコンバレーでは、このような問題を解決すべく、様々なソリューションが生まれてきています。

例えば、Slack上に水飲み場的な場所をバーチャルに提供したり、社員間のメンタリングのマッチングを提供したり、趣味や興味別にランチミーティングを企画出来るソリューションなどがあります。会社に所属する目的は、稼ぐことだけではなく、人と繋がることや、自分の思いを実現すること、学び成長することでもあります。ただ、そういったソリューションは「nice to have」だと思われがちで、まだまだ軽視されているのが事実です。

矢野和男先生(日立製作所フェロー、ハピネスプラネット代表取締役)によると、人と人とのフラットなつながり、社員間で交わされる「どう思う?」とか「それいい!」とかのちょっとした会話、すべての社員が平等に発言権を持つことは、社員の幸福度に大きく影響するという研究結果を発表されていらっしゃいます。社員のモチベーションや幸福度は、ちょっとしたところに隠れていて、それをちゃんと拾ってソリューションを提供することにより、企業の生産性に繋がります。不確実な時代だからこそ、企業は「管理するためのソリューション」ではなく、「組織の心の状態を健全に保つ」ための投資をするべきではないのでしょうか。

(後半につづく)

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

アクセラレータからアライアンスへ——スタートアップ共創開始から7年目を迎えた東急の次なる模索

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 東急株式会社(以下、東急)は2021年7月、これまで運用してきたスタートアップ共創活動の名前を「東急アクセラレートプログラム」から「東急アライアンスプラットフォーム」に変更しました(略称は、TAP のまま)。東急アクセラレートプログラムがスタートしたのは7年前の2015年7月。日本の有名大手企業が C…

「東急アライアンスプラットフォーム」事務局の皆さん。左から:福井崇博氏、金井純平氏、武居隼人(たけすえ・はやと)氏、吉田浩章氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

東急株式会社(以下、東急)は2021年7月、これまで運用してきたスタートアップ共創活動の名前を「東急アクセラレートプログラム」から「東急アライアンスプラットフォーム」に変更しました(略称は、TAP のまま)。東急アクセラレートプログラムがスタートしたのは7年前の2015年7月。日本の有名大手企業が CVC を設立しオープンイノベーションの可能性を声高に訴え始めたのが2016年から2017年あたりだったことを考えると、東急がスタートアップ共創に着手したのは早い部類に入るでしょう。

2022年の創業100周年を迎えるのを前に、東急は2019年、30年後の未来を考える TOKYU 2050 VISION「東急ならではの社会価値提供による世界が憧れる街づくり」を発表しました。全社をリードして、このビジョンを具体的に実践していくべく未来事業を創出する社内組織としてフューチャー・デザイン・ラボを開設しており、東急アライアンスプラットフォームもこの組織が運営主体となります。このタイミングでのリブランディングや方針転換について、フューチャー・デザイン・ラボの皆さんに伺いました。

TAP をリブランディングした理由

「東急アライアンスプラットフォーム」HP

アクセラレータの多くは年に数回ほど採択を希望するスタートアップが募集され、3ヶ月や6ヶ月の単位でアクセラレーションの機会が運用・提供されることが一般的でした。TAP も当初はそうでしたが、2018年から通年応募制(年間を通して締切を設けず常に応募を受け付ける)体制に変更しました。このリニューアルは、世の中の変化のスピードが速く、また、常に短期決戦を求められるスタートアップ独特の生態には好意的に受け止められています。

東急ではこの通年応募制の採用を機に、共創に向けた取り組みを社内で仕組み化してきました。近年では、スタートアップからの提案に頼る「受け身」や「Nice-to-Have(あるといいもの)」ではなく、「Must-Have(本気で取り組む必要のあるもの)」に注力してきたことで、「アクセラレート」や「プログラム」という名称が運営している事業共創活動のコンセプトに合わなくなってきたと福井氏は言います。

応募前のスタートアップと会話した時に、「あぁ、アクセラレートプログラムですか」と言われることも多くなりました。アクセラレートという言葉が理由で、敬遠や機会損失が発生していたことに問題意識を持っていました。実態に即した名称に変更するとともに、オープンイノベーションの「当たり前化」に向けて、次のフェーズに進化していくという意気込みを表す必要があると考え、「アライアンスプラットフォーム」という名前にしました。(東急 福井さん)

リブランディングでは、事業支援の意味合いが強い「アクセラレート」から、より対等な立場で双方向のコミュニケーションを行い応募企業との事業共創を推進する「アライアンス」の意味が込められています。東急では、グループ各社の誰もがオープンイノベーションという選択肢を当たり前に持ち、より迅速かつ円滑に事業共創を推進できる状態をつくることで、応募企業との事業共創の機会の最大化を目指します。

何が変わるのか?

東急が2019年7月、渋谷に開設したオープンイノベーション施設「SOIL」

東急アライアンスプラットフォームのリブランドを受けて、主に変更となった点は次の通りです。

  1. グループ横断の対象領域「デジタルプラットフォーム」「脱炭素・サーキュラーエコノミー」の追加 (17→19領域)
  2. 対象領域ごとの課題・ニーズをフレキシブルにHPへ掲載(月1回程度)
  3. ホームページ内の新オウンドメディア「TAP Library」による課題・ニーズの背景や共創事例等の発信
  4. 応募企業情報や周辺情報、事業共創ノウハウの東急グループ内発信強化(ex.ピッチ動画の社内ポータル公開等)

これらの変更点を詳しく一つずつ見ていきたいと思います。

1. グループ横断の対象領域「デジタルプラットフォーム」「脱炭素・サーキュラーエコノミー」の追加(17→19領域)

これまでの対象領域は、交通、物流・倉庫、不動産、建設、百貨店・スーパー・ショッピングセンター、広告・プロモーション、デジタルマーケティング、カード・ポイント・ペイメント、教育・カルチャー、スマートホーム・スマートライフ、ツーリズム、ホテル・ホステル、エンターテイメント・コンテンツ、スポーツ、ヘルスケア、セキュリティ、電気・ガス、デジタルプラットフォームの17領域でした。今回のリブランディングを機に、デジタルプラットフォームと脱炭素・サーキュラーエコノミーの2領域が追加されました。

2. 対象領域ごとの課題・ニーズをフレキシブルに Web サイトへ掲載

東急アライアンスプラットフォームの Web サイトに「Needs」という項目が追加され、ここには対象領域毎の課題やニーズが掲載され、月1回程度の頻度で情報が更新されるようになりました。これまでのアクセラレートプログラムでは、スタートアップ側からソリューションが提示され、それに関心のある東急グループの企業や部門が手を上げる形でしたが、これからは逆、すなわち、東急グループ各社や部門から解決したい課題が提示されます。マッチングの可能性がより高まることが期待できます。

3. 新オウンドメディア「TAP Library」による課題・ニーズの背景や共創事例等の発信

TAP には過去6年間で824件の応募があり、54件のテストマーケティングや実証実験・試験導入、26件の事業化や本格導入、7件の業務・資本提携を実施しました。最近の事例では、ヘラルボニーが取り扱う知的障害のあるアーティストの作品を渋谷の街の壁面広告の空き枠に掲出し、QRコードを経由し販売するサービス、Chompy による東急百貨店デパ地下店舗から取り寄せできるオリジナルアプリのローンチ、フラーと共同開発する地域共助のプラットフォームサービスアプリ「 common」などがありました。これまでの事例が TAP Library に網羅されており、今後、応募を検討するスタートアップが参考にできます。

<関連記事>

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出すROADCASTプロジェクト、ヘラルボニーと東急が共創

街づくりからCaaSへ、サービス開発を通じて組織のDXに取り組む東急とフラーの挑戦

4. 応募企業情報や周辺情報、事業共創ノウハウの東急グループ内発信強化

これは東急の外部からはあまりわからないことですが、グループ社内向けのポータルにスタートアップのピッチ動画を掲出することで、グループ各社の現場担当者に対して、どんなスタートアップがどんなサービスを提供できるのかを知ることができる機会を増やします。ピッチといえば、これまでデモデイか、現場担当者が集まる機会を利用して実施されることが常でした。いつでも情報にアクセスできるようにすることで、出会いの機会が作りにくいコロナ禍においてもマッチング効果を高めようとする意図が感じられます。

意思決定プロセスも高速化

今年3月に実施された TAP(当時は、東急アクセラレートプログラム)のデモデイ 画像提供:BRIDGE

常時受付、毎月選考を行うスタートアップとの事業共創プログラムはあまり例を見ません。東急では2018年から通年応募制を採用していますが、今後、このプログラムに関わるプロセスをさらに高速化します。応募があった次の翌月中旬には一次回答、その後、事業共創を希望するマッチングが成立し次第、即時検討を開始します。デモデイは年に一度ですが、共創が始まり東急とスタートアップの協議が整った段階で、その年度のデモデイに登壇しプロジェクトを披露することができます。

バリューチェーンリストという、東急グループの各参画事業者の主要ビジネスを業務プロセスレベルまで可視化し、各プロセスにおいて、どういう技術やサービスが必要かをリスト化しています。それをもとにして、ホームページなどでのニーズ掲載やソーシング活動を行います。(東急 武居さん)

これまでは参画事業者中心の取組みでしたが、新生TAPではグループ内全体に情報やノウハウ共有などの機会提供を行い、「東急グループの誰もがオープンイノベーションという選択肢を持ち、実行できる状態」をつくっていきます。(東急 金井さん)

TAP は東急グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の核を担っています。これまで大企業がやってきたように、プロジェクトの必要に応じて、外部の協力会社に案件発注するだけでは、社内に知見がたまらず、また、人材の変容を促すのにも限界があります。TAP を通じて協業するスタートアップに社内のチームに加わってもらうことで、プロジェクトを通じて東急の内部から変革を起こし、未来の都市創造を牽引する企業グループへの生まれ変わりを目指すようです。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

10年起業家:全ては自責から始まる/土屋・福島氏対談

SHARE:

(前回からのつづき)これまで2回に渡り、創業からおよそ10年を迎えた土屋尚史氏と福島良典氏の軌跡を振り返った。最終回となる今回はお二人との対談で、経営者に必要な課題解決、意思決定の変化を語っていいただく。(文中の太字の質問は筆者、敬称は略させていただいてます) 自分と向き合う ーー10年の振り返りありがとうございました。福島さんは2回目の起業になるわけですが、経営における前回からの気付き、学びを改…

土屋尚史氏

(前回からのつづき)これまで2回に渡り、創業からおよそ10年を迎えた土屋尚史氏と福島良典氏の軌跡を振り返った。最終回となる今回はお二人との対談で、経営者に必要な課題解決、意思決定の変化を語っていいただく。(文中の太字の質問は筆者、敬称は略させていただいてます)

自分と向き合う

ーー10年の振り返りありがとうございました。福島さんは2回目の起業になるわけですが、経営における前回からの気付き、学びを改めて

福島:前回から学んだことがひとつあって、僕ら、上場後に一度、完全に組織崩壊を経験してるんです。四半期ごとに数字を追ってそれにプレッシャーを与えるというマネージメントをしていたんですね。土屋さんと同じで、自分たちもまずそれがダメだってことを認めたんです。

その上で、改めてビジョンとかどういう人と働きたいのかとか、どういう世界を作りたいのかとか、そういうことをめちゃくちゃ頑張って社員に伝えたんです。それによって起こった変化で辞めていった人ももちろんいます。今さらそんなこと言われても、と。その時の強烈な経験は本当に今でも凄く覚えています。今振り返るともっとあの時こうしていれば、事前にこうしていればという思いがあって、そういった部分は今のLayerXに生かしたいなと常々思ってます。

ーー土屋さんもまずは自分と向き合うことから始めましたよね

土屋:経営上の課題が起こった時は、先ほどの話の中でもお伝えした通り、一旦、全てはまず、経営者の責任だと認めることからスタートなのかなと。けど、これって難しくてやっぱり認めたくない、認められないというケースは散見されます。

結局、何かが起こった時に社員のせいだとかビジネス環境が悪かったとか、外部環境のせいにしてしまいたくなるんです。でもこれを一旦、外部環境の変化に対応できなかった自分の責任というものを認めることができたらそこが出発点です。

ーー自責して一旦リセットする。その後は

土屋:本当に抽象的な言葉ではあるんですが、泥水を啜るってあるじゃないですか。本当に課題を少しずつ改善し、続けるしかないというか。結局自分たちも組織の問題から解決までに2年半かかったわけです。もしこれをやり方は分からないですが、例えば短期間にバッサリといってその時の社員の感情とかそういうものを殺してまでやる方法もあったかもしれません。

でもね、やっぱり解決って段階的で、問題が何かを見つけるフェーズ、社員の感情が閉ざされていて、それをゆっくりと溶かしていくフェーズ、そしてそこから膝を突き合わせて『やるしかない』って行動するフェーズがあるんです。組織の空気やマーケットの空気をしっかりと読んだ上で、アクセル踏んだり、メッセージを出したりする。

組織に問題を抱えた時、周囲からも随分と心配されました。けれど最終的には諦めさえしなかったら結局、解決はするんです。

ーー組織だけじゃなく、課題との向き合い方でカルチャーの重要性はここ数年、スタートアップの間にも浸透し始めてます

福島:数字の奴隷じゃないですが、売上が全ての傷を癒す、みたいな格言がベンチャー界隈に漂ってるじゃないですか。それは単に経営者が麻痺させてるだけです。大事なのはミッションや行動指針といったカルチャーであり、例えば採用にしてもスキルだけを見るのではなくカルチャーを見ようとか、その辺りは徹底的にやってますね。今のところ大きな失敗は起こっていないと思ってますし、根本的な意味でブレることはないだろうと思ってます。

土屋:数字に神が宿ると言ってた福島さんとは別人だね(笑。

福島:確かに。当時の理想はインスタグラムで、少人数組織のプロダクト・レッド・グロース(製品による自律成長)でしたからね(笑。ただ、数字はファクトベースでの意思決定の上にあるもので、技法とかスキルの話なんです。

それよりも結局お前らの組織どこに向かってんの?っていうのを数字が支えられないのは、数字が独り歩きして暴走した結果なんですよね。でも物事の出発点って定量じゃなくて定性的なものじゃないですか。やっぱりそれをなぜやりたいかというものに対して数値目標を置いたとしても、そこの数字を動かすのは感情の力なんですよ。

ーーところで、福島さんはLayerXとして改めて組織づくりされていますが、これまでの経験を活かして次はどのような組織を目指してますか

福島:そうですね、もう一つ高いレベルでいくと、いい組織ってある人がそのビジネスにおける市場価値を100として、その組織に入ることで150になる、そういう組織なんだと思うんです。だからウチで働く意味があるよね、という。そしてそこで働くことで150の走り方を学び、覚えた後はやはりその人は高い市場価値になるので、どこでも働けるようになる。

こういう育成の部分ってあまりベンチャーは投資してこなかったところだと思うんです。LayerXではあと5年で3、400人を採用するつもりで、おそらくそういう勝負のビジネスなんですが、じゃあそういった人を中途市場で取ってこようとしてもその考え方自体がやはりナンセンスです。この会社には育成の仕組みがありますとかこういう研修が受けられます、ではなく、本当に働いていたら自然と力が身につく、そういうことですね。

サッカーと同じです。下部組織まで作ってあそこでプレーしたらあの人と一緒にやれるとか、あの方法が身につくとか。そういう意識で組織作りについてはもう一段上の世界で挑戦したいと思ってます。

それと僕もGunosyで最大、150人ぐらいまでしか見てないんですよね。4000人の会社を率いたことがないわけで、早くそのフェーズに行きたい。でね、やっぱり失敗するんですよ。多分。手酷い失敗をすると思うんですけど、その時にそれを受け止めて学びたいですね。

プロダクトを当てにいく

福島良典氏

ーところでお二人のお話伺って、やはり課題との向き合いが印象に残りました。よい起業家は課題発見が上手い、と言われますがどのようにして課題を見つけていますか?

福島:今までやってみたことのなかったことを色々試してみましたね。例えばコンサルタント。これまでやったことなかったですけど、色々試す中で、結局、自分が得意じゃないことをちゃんと理解できたというか。それが最近の気付きなんですよね。

インボイスのプロダクトもそうなんですが、明らかにお客さんの反応が違ってたんです。最初は本当に小さいですよ。反応してくれるのは10人とか100人とかなんですけど、明らかに何かが起こっている。起業した当時は気づけなかったことに今は明確に気付くことができる。

土屋:以前福島さんが今のLayerX インボイスがプロダクトにも全然なってなかった時期にグッドパッチの管理部にこういうものを考えているんだけどと持ち込んだんですよね。その時、僕も同席してみてたんだけど正直、あの時点では何が引っかかるのか分からなかった。それでも福島さんが直接やってきてインタビューしてるわけです。

最初の起業のスタートアップであればまだしも、シリアルの起業家が顧客の最前線に立って自分で営業してるっていうのはやはり凄いなと。ただあの時点では、導入するイメージが全く湧いてこなかったし、そもそもこれ、プロダクトになるの?って感じだったんだけど、結局、半年後ぐらいには現場が導入していましたね。

福島:強烈なアハ体験というか、私はやはりこれが理想じゃない?という体験やプロダクトを作ることが起業家として一番得意なんです。だから課題の見つけ方も多分そうなんです。課題って多分、教科書に書いてある課題なんですよ。例えば温室効果ガスが増えるから地球温暖化をなくそう、とか。本当に普通の話です。

ーー普遍的な問題から始める

福島:今の起業家の方ってやはりピッチコンテストとかで、君の会社は何が違うの?とかグーグルがやってきたらどうするの?とかそういう質問を浴びせ続けられてるので、何かトリッキーな課題を見つけないといけないような、そういう錯覚を持っていると思うんです。そんなものより、ごく普通の課題を狙って、決めたら徹底的にユーザーを観察してその背後に何が起こっているのかを見つける。

そうしたら大量にマーケティング施策を打つじゃないですけど、あの感覚をやっぱり私は覚えているので、伸びるんですよね。なんだかそこを見つけることが大事なんじゃないのかなと。その先にあるプロダクトのアハ体験というか、ユーザーが熱狂しているところも、最初はやっぱり10人とか100人の熱狂なわけで。

みなさん凄い数字に慣れちゃってるじゃないですか。フリマアプリの流通額が月間で数百億円超えましたとか、創業数年のスタートアップが数十億円を調達しました、とか。ああいう数字に慣れるとたった10人が熱狂していることに対して『凄いものを見つけました』とか『ウチの会社いけてます』っていう自信を持てないんじゃないかな、と思うわけです。

ーーなるほど、課題そのものよりもそれを抱える人々から解法を導く。土屋さんは?

土屋:福島さんと僕は割と経営の感覚というのかな、考え方が近いと思っていて、あるパターンの中から解法を持ってくる、というのはあると思ってます。福島さんって情報のインプット量や見てる範囲が広範囲だし、それなりに深いところまで考えてると思うんです。

結局、この範囲の中にある事象をカテゴリとして考えた時、最終的にはそれを総合的に俯瞰しながらここだ、という決め方をしてるんじゃないかなと。福島さんは勉強熱心だし、インターネット上の情報だけじゃなく生のユーザーの課題もそう、過去の凄い起業家の方々との経験がパターンになっていて、その認知力がズバ抜けてるんですよね。だからパターン化できる。それは特に思ってますね。

ーーちなみに観察ってどの程度までやるんですか

福島:めちゃくちゃ観察しますよ。例えばプロダクトを出すとするじゃないですか?『これいかがですか?』って聞いたら『いいですね』って答えるに決まってるんですよ。じゃなくて、いいって言ったけどあの人本当に翌日にアクセスしてるのかなとか、本当にいいって思ってたらまた使ってくれるはずなんです。おすすめしてくれるはずなんです。じゃあ、今、この瞬間に誰かにおすすめしてくれますか?って聞いて『いや、ちょっと』となれば全然刺さってない。いいですね、今から誰それに紹介しますよとなっていれば多分ヒットしてる。

その最初のところにいかに感度を高く持てるかどうかですね。自信を持てるかどうか。そこがあると回り出す。プロダクトを広げるとどうしても全然合わないユーザーとかが出てくるんですが、本質的に感じている課題は一緒なのです。とにかくプロダクトを改善するとまた新たな課題に気付ける、そういうフィードバックループみたいなものってあるんですよね。だから実は自分は課題を探しにはいってないんですよ。プロダクトを当てにいってるんです。

お時間になりました。今回は興味深いお話どうもありがとうございました。

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

10年起業家:ギアチェンジの時、上場の意味

SHARE:

(前回からのつづき)シリコンバレーで出会った起業家と学生はやがて2社の上場企業を生み出した。しかし話はそう簡単なものではない。一社はチームに大きな問題を抱え、もう一社はジェットコースターのような日々を過ごすことになる。10年が経過した今、スタートアップが上場する意味とは何かを振り返る。 グッドパッチ、上場を目指す Gunosyを開発した学生3人は連続起業家となった木村新司氏と出会う。サービス立ち上…

Gunosyで知名度を上げたグッドパッチは上場を目指しチームを拡大させる(写真提供:グッドパッチ)

(前回からのつづき)シリコンバレーで出会った起業家と学生はやがて2社の上場企業を生み出した。しかし話はそう簡単なものではない。一社はチームに大きな問題を抱え、もう一社はジェットコースターのような日々を過ごすことになる。10年が経過した今、スタートアップが上場する意味とは何かを振り返る。

グッドパッチ、上場を目指す

Gunosyを開発した学生3人は連続起業家となった木村新司氏と出会う。サービス立ち上げの翌年、法人としてのGunosyが動き出した。一方、そのきっかけを作ることになった土屋尚史氏もまた、プライベートなデザイン会社としてだけでなく、もう少し先の世界を見たいと思うようになる。

「私も全然資金調達とか考えずにグッドパッチを起業したんですが、やはりGunosyが大きくヒットした翌年には、社員を20名近く抱えるようになったんです。そもそもスタートアップ自体が好きで、大企業と一緒に仕事をするというよりも彼らと一緒に仕事をしたかったんですよね。だからどこかで影響を受けていたんでしょう、ワンチャンス、そういう機会があったら挑戦してやろう、という野心的な気持ちは持っていました」(土屋氏)。

グッドパッチが最初に外部の投資家から調達をすることになったのは創業から2年後の2013年12月。DG インキュベーションから1億円の資金調達だった。その後、2016年にシリーズBラウンド(参加した投資家はDG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメント、FiNC。調達金は4億円)、その翌年の2017年にはシリーズCラウンドでSBI インベストメントと三井住友海上キャピタルから総額4億円を調達している。

黒字を達成して数十人のチームを擁するまでに成長した、クライアントワーク中心のデザイン会社が上場を目指すというのは珍しいステップだった。外部投資家を入れれば、当然ながら経営はそれまで以上にガバナンスを求められるようになる。1人気ままなオーナー社長ではいられなくなるのだ。それでも土屋氏もまた、社会の公器となる道を選んだ。

「迷いですか?全然ありましたよ(笑。まあそれでももし、やれるチャンスがあるのなら挑戦してやろうと。ただ、最初の起業ですから上手くいかないだろう、正直に言うと、どうしようもなければ会社を売ればいいや、ぐらいに思っていました。それでもそれから会社が成長し、今で言うミッションやビジョンのようなものを考え出した時、社会的な存在意義が見えてきて、自分がこの会社をやり続ける意味がありそうだなと感じたんです。そこからですね。腹が括れたというか。もちろんそういう意味では周囲のスタートアップや起業家の方々の刺激はすごく大きかったと思います」(土屋氏)。

その後、グッドパッチは調達した資金と積み上がる依頼を糧に、急速にチームを大きくする。当時を振り返って土屋氏は、この急成長にあまり恐怖を感じず、その勢いに身を任せていたと語る。自分は本質的には正しい選択をしている、失敗も数多く知っている、だから大丈夫ーー。しかしその先に待ち受けていたのはシリーズBラウンドを前後して経験した組織崩壊だった。

成長痛を経験し、それでもグッドパッチは踏みとどまる。

「組織が成長する中、私はキャッシュというか売上を重要視していたんです。組織が危うい状態になっていた時でも昨年比で45%とかの売上成長があった。もし、あの時、調達した資金を未来への投資だ、などと言って既存事業をおざなりにしていたら今はなかったでしょうね。それともうひとつ。あの時、悪い経営であるということを自分が認めなかったらダメだっただろうなとも思っています。もしも致命傷があったとしたらそれですね」。

成長のジェットコースターに乗ったGunosy

2014年当時の福島氏。目の覚めるようなマーケティング施策は驚きの連続だったようだ(ニュースレコメンドエンジンのGunosyがKDDIと資本業務提携、調達金額は12億円かーーTVCMも開始へ

話を巻き戻そう。Gunosyは2011年10月に産声を上げ、その翌年の12年10月に法人化することになる。事業にすることを考えていなかった福島氏ら3人の学生たちは、木村氏によって大きく人生を変えることになり、それまで二人三脚で立ち上げを支援した土屋氏の元から卒業することになる。

「当時はとにかくGunosyをTwitterで呟いてる人を見つけては『いいね!』して回ったり、一部機能がうまく動いてくれなくて炎上した時の対応を一緒にやったりしてました(笑。ただ、当時彼らは就職すると聞いていたので自分としては起業した方がいいのに、ぐらいに思っていました。彼らは優秀だし、Gunosyの成長と共にグッドパッチにも仕事が舞い込んできましたから。そうこうしてる時、確かアプリを開発する段階だったかな、福島さんから電話があって『起業することになりました』と」(土屋氏)。

数万ユーザーどころじゃない、百万ユーザーが見える位置にいたGunosyであれば欲しいと思う企業はいくらでも出てくるはずだ。学生だけでの起業に不安があるなら売却するという手もある。ーーそんな風に考えていた土屋氏の元に届いた彼らからの報告は意外に映る。そして学生たちが土屋氏と一緒に作っていたGunosyは「株式会社Gunosy」となり、徐々に彼の手を離れることになる。

そこからGunosyの急成長が始まった。本格的なマーケティング施策の開始だ。

アトランティスを創業してグリーに売却した木村氏はアド・テクノロジーのプロだった。スマートフォンシフトが進む当時、企業はいつかやってくる「手のひらの市場」に広告を出稿することになるだろう。そう考えた彼らはまず、Gunosyを一大メディアに成長させる道から歩みを始める。

投下したマーケティング予算は莫大で、赤字は毎月数千万円にも上った。メディア成長のために先行投資して大きく「Jカーブ」を掘る、典型的なスタートアップの戦い方だ。福島氏は冷静に事態を眺めつつ、突然の成長ジェットコースターに乗った気分をこう振り返る。

「自分たちで確かに信じてる理論はあったんですよ。数字がここまで行った時、こういう数字が出てるので理論上こうなるはずだ、とか。でも、周囲からは厳しい意見をものすごく言われてなんだろうこのギャップは、と。走ってる自分たちは爆速でも、何て言うんですかね、飛行機に乗ってても自分が速く動いている感じってしないじゃないですか。あんな感覚でしたね。やれることをやろうと。

明確にこうやれば利益が付いてくるというのは投資を踏んだ時に分かっていたんです。ただ、Facebook広告などに資金を投下していたんですが、その規模が大きすぎて訳が分からないとは思っていました。木村さんは『やるから』と。そういう感じで」(福島氏)。

Gunosyはその後、2013年10月からエンジェルとして参加していた木村氏が正式に共同代表として就任し、徐々に事業としての輪郭を明瞭にしていく。土屋氏はやや寂しさも感じつつ、ギアチェンジを果たした両社はそれぞれ別々の道を歩み出すことになる。

そして上場へ

グッドパッチは2020年にマザーズへ上場する(UI/UXデザイン支援のグッドパッチ、東証マザーズ上場へ、評価額は43億円規模に

木村氏の参加で資本を得たGunosyはその後、大きく踏み込みを続けながら2014年にKDDIとJAFCOを外部株主に迎え、さらに大胆に踏み込みを続けた。結果、ダウンロード数を900万件手前まで伸ばした2015年4月、東証マザーズへ上場を果たすことになる。学生たちが趣味の延長でサービスを立ち上げてから4年弱、ここから一気に二桁億円以上の事業を作ることに成功したのだ。

あれから紆余曲折あり今、福島氏はGunosyを離れてLayerX代表取締役として新しい道を歩んでいる。彼は改めて上場の意味をこのように語ってくれた。

「当時と今でまず、大前提として未上場の資金調達マーケットってほぼなく、Gunosyは累計で30億円ぐらいを集めたんですが、それが本当に限界ぐらいでした。だから当時、ニュースアプリでそこまで掘ることはできず、けれどもあるシナリオを考えると60億円ぐらい必要だと試算が出たんです。最悪のケースを考えると上場しか資金を集める方法がない。だから公開しようというのが当時の考え方でしたね。

今は随分と考え方は変わっていて、ある程度の会社がベンチャーから成熟した企業に成長するまでって、やっぱり初期の頃は役員たちがオーナーシップ持ってバシバシ意思決定した方がいいんですけど、あるタイミングからやはり変わると思うんです。

組織が一定以上のサイズになると、その決め方だと伸びなくなる。そういう瞬間があって、そこが上場のタイミングなんじゃないかなと考えてます。投資しているファンドは償還などの期限があるので、現実的にはもうちょっと早くなるとかそういう事情はあるかもしれませんが、資金調達のために上場を急ぐことはもうないかなと。

それとまた違った視点で海外投資家からの声というのもあります。海外の機関投資家の方々って君たちのミッションは何かとか、何を成し遂げたいのか、とか日本の産業構造がこうある中で君たちはどこにポジションしているのか、という30年、50年のスパンの話を聞いてくるんです。なぜか未上場の投資の方がロングスパンのように言われることがあるんですが、全く逆で、上場企業の方が投資に関しては長期視点を求められるんです」(福島氏)。

Gunosyの上場を見届け、5年後となる2020年にグッドパッチは同じく東証マザーズに上場する。あれから1年経った今、デザイン会社として株式を公開する意味を土屋氏はこう語ってくれた。

「結果的になんですが、企業って上場してから組織的に崩れることが割と多かったなと思うんです。そう言う意味で自分たちはその前に組織崩壊を経験できたことはよかったかなと考えるようになりました。

なので、上場を後にしてマイナスは本当になく、自分たちはおそらくデザインとデジタル領域のスタートアップと理解されることが多いんですけど、このビッグマーケットでデザインは価値があるがまだまだ認知や信頼が足りないという中、上場してポジションを得られたことはやはり大きかったと思います。会社の認知度もそうですし、そこから得られる信用というものは特にこの領域でチャレンジしようという人たちの採用にかなりプラスとして寄与してくれています。

特に需給のバランスではデザイナーって本当に見つからない状況になっているんです。それまで平均年収400万円とか、デザインが好きだからやってます、みたいなマーケットだったんですが、自分たちがデジタル領域に可能性を拡大できたことで報酬も上がっていく。そういうことを上場によってプロモーションできた価値、意味合いはあっただろうなと思っています」。

次につづく/全ては自責から始まる:土屋・福島氏対談

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

元Appleデザイナー「Juno」が生み出すファスト・ハウジングの波/GB Tech Trend

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 GB Tech Trendでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 住宅建築市場にもスタートアップの流れが到来しつつあるようです。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRID…

2,000万ドルの調達を果たしたJuno。Image Credit: Juno。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

GB Tech Trendでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

住宅建築市場にもスタートアップの流れが到来しつつあるようです。

米国ではサンフランシスコやニューヨークのように地価が高騰している都市が複数存在しているのですが、こうした上昇し続ける地価とのコストバランスを取るべく、住宅価格の低価格化を求めるニーズが高まっています。建築コストを下げることで住宅販売価格を押し下げ、高い地価の都市でもいろんな人が住める環境が求められているのです。

今回紹介する「Juno」はAppleの元デザイナーによって創業された住宅建築スタートアップです。先日シリーズAラウンドにて2,000万ドルの調達を発表しました。同社は事前にある程度組み立てられたプレハブ素材を組み立てることで建築工程の省略・簡易・低コスト化を目指しています。出来上がっているパーツを建築現場で組み立てることで量産が可能となります。

こちらの取材記事によると、Junoは次の3つの点を重視しているとのことです

  1. 何度も繰り返し作られることを想定したプロジェクトを設計すること
  2. サードパーティによるサプライチェーンを広く分散させること
  3. プロジェクトを組み立てる人のために、指示書やツールを提供すること

ファッション業界に「ファスト・ファッション」の流れが登場したように「ファスト・ハウジング」のトレンドを生みだそうとしているのがJunoです。全米どこへいっても高品質な住宅を建てられるように、都市情勢に応じて再組み立てが可能、サプライチェーンを各地共通化することで住宅ソースの安定供給に努め、高い現場スキルを持たない人でも着工できるマニュアル化を図っています。

現在はオースティンにある5階建て24戸の住宅棟を着工しています。また、シアトルとデンバーでは、100戸以上の大規模プロジェクトが計画中であるとのことです。今後、このような100~300ユニット、8~12階建てのプロジェクトに力を入れていく予定とも記事で語っています。

Junoのようなプレハブ型の住宅建築手法を採用するスタートアップには「Mighty Buildings」や「Factory OS」などが挙げられます。なかでもFactory OSは工場を建築して、内部でベルトコンベアのように住宅を手軽に建築・出荷するプロセスを構築しています。Junoの強みとしては19年に渡りAppleで勤めた創業者の経歴も手伝い、高いデザイン性が差別化要因となりそうです。

世界ではある種「ハードウェア」に該当する住宅建築分野にも、アジャイル的アプローチが入り「ソフトウェア」の考えが浸透しつつあります。今後アジア市場全体においてもファスト・ハウジングの機運が高まってきてもおかしくありません。日本の住宅建築市場は海外と比較して特異な点もあるでしょうが、何かしたら規格を作った上で現地で一定クオリティの住宅を量産するような「Desgined in Japan」を掲げるスタートアップの登場もいずれ期待されるはず。世界の住宅市場へ切り込む企業が求められています。

今週(9月6日〜9月12日)の主要ニュース

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

ガーナの「電子ゴミ墓場」にアートで変革を試みるMAGO、アフリカにおけるSDGsの高まりを紐解く

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載。Universe編集部と同社の反田 広人氏、GB SDGsチームが共同執筆した。 SDGsの取組みは私たちの社会に根付いてきています。日本国内トレンドとしてもSDGsについてはここ1年ほどで大きく動いており、政府発表による「2050年カーボンニュートラル」宣言が寄与しているも…

ここ一年で大きく動いたSDGsトレンド・画像引用:Google

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載。Universe編集部と同社の反田 広人氏、GB SDGsチームが共同執筆した。

SDGsの取組みは私たちの社会に根付いてきています。日本国内トレンドとしてもSDGsについてはここ1年ほどで大きく動いており、政府発表による「2050年カーボンニュートラル」宣言が寄与しているものと考えられます。

GBでもSDGsへの取り組みについては注目しており、これまでにも数多くのレポートや支援先活動をお伝えしてきました。

さて、今回注目したいのは「発展途上国・新興国におけるSDGs」です。発展途上国や新興国では、環境や社会、女性活躍などさまざまな面で先進国と異なる課題を抱えています。皆さんは9月7日の「青空のためのきれいな空気の国際デー」をご存知ですか。2020年から開始された新たな国際デーです。

私たちがいつも吸っている空気、それはどの土地でも綺麗とは限りません。大気汚染は心臓病や肺がんなど呼吸器疾患の一因となっており、特に発展途上国・新興国を中心に、大気汚染により早死する人は全世界で毎年700万人に上るとWHOが試算しています。

大気汚染と新型コロナウィルスによる死亡の関係性も指摘される中で新興国を中心に影響が心配されています。本稿ではガーナのスラム街をアートとビジネスの力で持続可能な社会に変貌させようという「MAGO CREATION株式会社(以下「MAGO」)」の取り組みを通じて、発展途上国・新興国におけるSDGsの課題について紐解いてみたいと思います。

MAGOが目指す「サスティナブル・キャピタリズム」とその結果

ここ2、3年に渡り、生産性文脈で多くのツールが登場し、中でも大手プラットフォームの体験を最適化して提供するサービス形態に注目が集まりました。

MAGOの代表を務める長坂真護さんは1984年生まれのアーティストで、2009年に自身が経営する会社の倒産を機に路上アーティストになった人物です。2017年にガーナのスラム街「アグボグブロシー」を訪れ、先進国が捨てる電子ゴミ(E-Waste)を燃やし、取り出した銅などの金属を売ることで生計を立てている人々に出逢います。

この地域は、世界中の先進国から使われなくなった電子機器が廃棄され「世界最大級の電子機器の墓場」という異名が付けられていました。

E-wastertree
moontower

資本主義の大量生産・大量消費社会が生み出した闇の部分が、立場の弱いスラム街に押しのけられている。ーーこのことを知ったMAGOはこの現状を世の中に発信し、そして解決するための活動を開始します。

彼らの特徴はここで掲げた「サスティナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)」という信念にあります。サスティナブル・キャピタリズムは「文化」「経済」「社会貢献」、この3つの歯車を回しながら持続的な社会を実現する活動だそうです。この具体的な活動内容についてお聞きしたところ、MAGO代表の長坂さんは次のようにコメントしてくれました。

「例えば、MAGOのガーナ作品を所有する人が増えるほど現地のゴミが減り、経済に貢献し、さらに文化性も高まります。そして同時に、世界中にこの問題のメッセージが広がる。これがサスティナブル・キャピタリズムの真髄です。これまで美術家がタブーとされていた経済活動をMAGOは積極的に取り入れているのです。買ってくれた人も、現地の人も、地球も喜ぶ。文化、経済、環境全てが動く、これが真のサスティナブルです」。(長坂さん)

ミュージアム

このような活動が身を結び、翌年の2018年にはスラム街で初となる学校やミュージアムの設立に貢献されます。さらにこの様子を捉えたフィルムは、アメリカのドキュメンタリー映画アワード「Impact Docs Award」で優秀賞4部門を受賞されました。

ガーナ問題のリアルと「持続可能な」解決方法

さて、このように新興国には外から見えづらい課題を抱えていることがあります。長坂さんによると、ガーナの現地には「環境」と「経済」の2つの問題が大きく立ちはだかっていると言います。環境面では、東京ドーム30個分と言われる広大な土地に、果てしなく積み上がった電子機器のゴミが広がっており問題となっています。さらに現地で生活を送る住民はそれら電子機器を燃やすことで、中から銅などの金属を抽出し生計を立てており、大気汚染に関する問題が加わっています。

そして経済です。ここまでして環境を汚染し、電子機器を燃やして得られた金属を売る作業はわずか日当500円にしかならないそうです。結果、満足に教育も受けられずに貧困から抜け出せないという負のループが渦巻き、さらに悪いことには、電子機器を燃やすことで発生する有毒ガスを毎日吸込むため、彼らの平均寿命は30代半ばという短命といわれています。

長坂さんはこの現状に対しアクションを起こし、そしてその目はすでに次の世界に向かっていました。

「我々はこれまでアート作品の売上を通じて、現地の方々に1,000個以上のガスマスクの供給をしたり、学校に通えない子どもたちのために現地で大卒スタッフを採用して学校運営を手がけてきました。また、外国人の新たな観光収入源として、アートのミュージアムの建設なども行っています。 今後はさらに現地への投資を加速させながら、次の2大プロジェクトを進めるべく準備をしているところです。

1つ目は、現地へのリサイクル工場の建設です。これまでゴミを燃やすしか選択肢がありませんでしたが、適切な処理によって空気を汚さずに、電子機器を処理するための手段を提供しようと考えています。2021年11月よりガーナに訪問し、第一リサイクル工場の建設に向けて調査を進めていきます。

2つ目は、ガーナ現地でのオリーブ栽培事業です。オリーブは他の植物よりも多くの二酸化炭素を吸収し酸素を供給します。これまで空気を汚す仕事をしていた彼らに、今度は空気を綺麗にする事業を提供しようと考えています。日本国内では、香川県の小豆島がオリーブ事業で有名ですが、2021年7月に小豆島に土地を購入し、オリーブ事業社から直接講義を受けることになっています。ガーナサイドでも、現地スタッフに協力してもらいながら、栽培エリアの土地購入に向け動いており、こちらも事業化に向け推進していきます」。(長坂さん)

MAGOの掲げるサスティナブル・キャピタリズムとは何か、そのシンプルな答えとして長坂さんは「売上が上がれば上がるほど、地球も人も豊かになるというビジネスモデル」と説明してくれました。リーズナブルな製品・サービスが評価されてきた世の中からこそ、サスティナブルな製品・サービスが評価されるような世の中の実現に向けて、少しでも貢献したい——。これがMAGOの目指す持続可能な社会づくりです。

MAGOのアプローチは「アート」を経済的な循環の手法としてだけでなく、課題のメッセンジャーとしてメディアのように活用することで、目に触れにくい、けれども世界的に大きな課題を解決する可能性を示してくれました。このように一見すると解けないかもしれない問題も、別の視点を当てることで新たな道が開けるかもしれません。

スタートアップ投資からみるアフリカのポテンシャル

さて、最後にGBとして投資サイドからみるアフリカのポテンシャルについてまとめておきます。MAGOの活動にある通り、発展途上国・新興国では先進国がかつて克服してきた社会課題とはまた異なる問題を抱えるケースがあります。「環境」と「経済」の課題は、単にガーナ国内での課題ではなく、他のアフリカ諸国でも長年抱えている課題でもあります。その一方、インフラが未整備で発展途上地域と称されるアフリカにおいて最先端のテクノロジーを導入することにより、人々の生活に劇的な変化が表れている例も出てきました。

その代表例が「リープフロッグ(蛙飛びの成長)」です。

アフリカでは、固定電話の普及を飛び越え一気に携帯電話が普及し、銀行口座が開設できなかった層は口座を保有せずにモバイルマネーを使用するようになりました。例えばケニアのSafari.comが運営する決済サービスM-PESAがあります。総人口5200万人の国で実に2,260万人以上ものユーザーが利用し、750億ksh(約7億米ドル)の収益を上げているのです(2019年度同社レポートより)。

この急速な変化の中核を担うのがアフリカのスタートアップです。彼らの特徴は、ガーナで起こっているようなアフリカ全土に当てはまる社会課題の解決を目指していることと言えます。

過去5年間でアフリカスタートアップへの投資は7倍以上に膨らみ、起業の拠点となるインキュベーション施設は600ヵ所を超えています。

国連によると、アフリカの人口は現在の約13億人から2050年までに約24億人まで増加すると推測されており、世界人口のうち4人に1人がアフリカ人となる見込みです。この巨大な消費市場に対して、今まで大陸内になかったテクノロジーを駆使して市場を切り開いているのが彼らなのです。

スタートアップ創業者の顔ぶれも近年変化しており、欧米出身の高学歴の若者が現地での援助活動を通じて、アフリカに移り起業するケースに加え、「ディアスポラ」と称される欧米への移住者が、母国に戻り起業する流れも出てきています。こうした「ディアスポラ」の中には、ハーバード大学やスタンフォード大学などのトップ校で学んだ経験を有する人材もいます(※)。

先ごろ開催されたY Combinatorの最新バッチ(2021・夏)でも強くフォーカスが当たるほど、世界的なスタートアップ投資地域のひとつになっているのです。

アフリカの投資家によれば「かつてはディアスポラが帰国する場合は大学教授などの職に就いていたが、今ではそうした人材が起業している」と状況の変化を分析しています(JETRO調査レポートより抜粋)。

GBとしても、今後このようなアフリカや新興国におけるSDGs、社会課題解決に対するフォーカスを強め、情報発信をしていきたいと考えています。

※引用:JETRO(2020)「飛躍するアフリカ!イノベーションとスタートアップの最新動向」

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

レストラン「軸をずらした」挑戦の意味ーーsio・鳥羽周作さん Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 (前回からのつづき)コロナ禍において大きな打撃を受けた飲食業界。その中にあって「朝ディナー」やソーシャルメディアを最大限活用したアイデアで、レストランビジネスに新たな一石を投じようとしているのがレストラン「sio」のオーナーシェフ、鳥羽周作氏です。 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタート…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

前回からのつづき)コロナ禍において大きな打撃を受けた飲食業界。その中にあって「朝ディナー」やソーシャルメディアを最大限活用したアイデアで、レストランビジネスに新たな一石を投じようとしているのがレストラン「sio」のオーナーシェフ、鳥羽周作氏です。

今年4月には博報堂ケトルと共同で食のワンストップクリエイティブカンパニー「シズる」を立ち上げ、飲食業界にかつてない嵐が吹き荒れる中、斜め上の体験の提供を武器にその苦境を乗り越えようとされています。

前半では突然始まった「朝ディナー」のアイデアからユーザーとの向き合い方についてお伺いしました。後半ではシズるがなぜ生まれたのか、その理由とビジョンに迫ります。(文中太字の質問は全てMUGENLABO Magazine 編集部、回答は鳥羽氏、文中敬称略)

「軸をずらした」挑戦の意味

食における「ワンストップクリエイティブカンパニー」シズる

シズるのお話に移りたいと思います。元々sioを作られた時から「レストラン3.0」を掲げ、「クリエイティビティ」や「共創」といった言葉を使われていました。改めてなぜこのタイミングだったのか、その辺のところを教えていただいてよろしいですか?

鳥羽:コロナが少なからず影響しているんですけど、レストラン3.0を目指してミシュランを取って、次のステップアップというかネクストステージに行くフェーズでもあったと思います。コロナで今後飲食ってどうあるべきか。たくさんのお店が閉まっていき、僕らもキツくなっていく中でこのままじゃ立ち行かないなって思ってることがまず一点。

あとは自分たちがネクストステージで何をすべきかというときに、自分が会社の社長なんで、トップダウンとは言わないですけどやっぱり決定権は自分にある。あえてもう一回自分にストレスを与えるべきだなと思った部分があります。誰かと一緒に何か一つの本質的なものを作る作業をやった方がいいんじゃないかと。

鳥羽さんがシズるを作った理由に「軸をずらす」という表現がありました。飲食店の今までのビジネスモデルだけだったらダメだよみたいな。もうちょっと具体的にこの「軸をずらす」という意図を教えてもらえますか?

鳥羽:例えば若い子が19歳ぐらいからレストランで働き始めて、10年くらいやると29歳ぐらいになって、そろそろきつい修業時代を経て独立しようと思うとします。その10年間に溜め込んだ思いから、生まれる前の赤子のように体の中で沸々とアイデアがあって、いよいよ独立となって爆発するみたいな話です。

それって実は本当の意味でのクリエイティブな部分の思いはあるけど、ビジネス的な部分での武器はあんまり持たずして世の中に出てしまって、結果、今回のコロナみたいなことがあると会社のダメージと店舗の売上とが直結しちゃう。要は、収入源がそこしかないので売上が悪くなれば当然会社が潰れてしまうんです。それが飲食界では当たり前になっています。

パトロンがいてお金を出してもらってるから好きな食材を使ってやれる、みたいなこともありますが、これもやっぱり誰かのお金でやらされてるからストレスがある。自分が好きなことを持続させるためには別の稼ぎ口が必要で、軸足はここじゃない部分にすることが必要だと。

生計が立ってるからこそ飲食店は利益ベースじゃない部分でやりたいことをやれる状況を作るみたいなことってのは、実はすごく大事だなと思います。レストランの立ち位置って、飲食っていう会社のプラットフォームにショールームとしてレストランがあるべきじゃないかな?っていう風に考えるようになったんです。

軸足を飲食店そのものじゃなくて飲食の会社としてやることで、例えばプロデュース、商品開発、B2C、B2Bみたいなところできちっと利益を出す。そうすれば、レストランで月の売上1,000万取らなきゃいけなかったから週6日働いていたのを、800万にすることで週休2日の休みが与えられて、差額の分は本体から賄うみたいなことができる。トータルで黒字にはなってるんだけど、店舗で利益が出なくても会社が回る状況を作れると、働き方だったり営業時間の問題だったりとかいろんなものが解決できる可能性があるんじゃないか。

そんなことをコロナで非常に感じました。超大げさに言えば、10年間修行して2年間マーケティングとビジネスを勉強してから独立するみたいな。

例えば「別事業で安定して稼ぎながらお店をスタートする」みたいになると運営資金がカツカツになることもなく、使いたい食材を使いながら持続できる。より本質的な部分でサステナブルなんじゃないか。重きを置く場所が変わってきてるっていうイメージです。

鳥羽さんがイメージされているものはありますか?

鳥羽:イケアと丸亀製麺を足して2で割ったような会社にしたいってずっと思っています。イケアは世界で活躍しててデザインの民主化をした会社、要は家具にデザインを取り入れてそれをインフラに落とし込んだから、民主化して一つの文化になった。誰もが簡単に手に入れられる環境を作ったことは素晴らしい功績だなと思います。

丸亀製麺に関して言うと、セントラルキッチンを持たないで各店舗でクオリティを維持していく、要は店舗にイズムを浸透させた。民主化しているという面で、デザインとイズムを足して2で割った会社だったら、イズムを持っていながらもきちっとインフラに手を掛けられる。民主化できてるということは、つまりたくさんの分母に対して自分のやりたいことをアプローチできてるということで、ものすごく社会的価値が高いと思う。

レストランで究極の料理を作るのはもちろん素晴らしいことなんですけど、その反面、世の中で食べてる人が1%もいないっていう事実がある。それではなかなか世の中の課題解決するのは難しいなって思って。

トヨタみたいな話なんですかね。創業者はいないけどイズムは脈々と受け継がれて会社として残っていくみたいな、そういう会社にしていきたいです。

チームと応援する人たち

鳥羽周作のシズるチャンネルはクリエイティブのプロとの共創

お店が自分たちの工夫とか主義主張を自律的に作り、ソレが広がっていく。そういうネットワークが広がるみたいなイメージですかね?

鳥羽:そうですね。基本的なアウトプットの商品自体のトンマナを揃えるっていうよりは、そこにある本質の部分をきちっと守っていけば、表現の仕方は違っても必ずゴールに辿り着くと思っています。そこの指向とかイズムを共有していくことで、「この商品の盛り付けはこうじゃなきゃいけない」というよりは、「この商品はお客様をこう喜ばせるためにある商品だよね」っていうのを共有した上で作る。

管理してしまうと考える力は育たないんで、あくまでゴールやKPIだけ決めて、行き方は本人の考えに任せる。そのための手法やアプローチを教育していくっていう会社にしたいです。

自律的に動く組織を作るときにはよくビジョンや目指すべきところ、ゴールの設定がすごく大切だと言われますけれど、改めて鳥羽さんが目指すべきビジョンはどういう風に言語化されてますか?

鳥羽:まずミッションで言うと「幸せの分母を増やす」。幸せの裾野を「美味しい」でどれだけ広げられるかっていうこと。僕らにはそこが一番大きいっていうのがあります。

そして「美味しい」という手段で世の中の課題を解決していく。ものすごくシンプルなんで、それを判断基準に考えると、朝ディナーのときも「幸せが増える?」「増えますね」「じゃやりましょう」みたいな感じの会社です。

YouTubeやツイッターでレシピを公開する、共有するという手法を積極的に取られていますが、その辺りはどういう意図がありますか

鳥羽:すべての料理というジャンルにおいて「美味しい」っていうのは必ず存在する訳で、そこに優劣はないんです。5万円の料理の「美味しい」も当然あるし100円の料理の「美味しい」も当然ある。コロナ禍を経てシェフの可能性がレストランだけに留まらなくなった。

シズるという会社を作り軸足を移したことで、シェフの才能を発揮する場所が多岐に渡るようになったんです。対面式じゃなくSNSで「美味しさ」を届けていくっていうのは「幸せの分母を増やす」上で有効な手段です。かつ、よりたくさんの人にリーチできるおかげで、リモートでこれだけ美味しいごはんを作れる人がやってるお店だから行ってみたいよねっていう部分で、最終的にはショーケースであるレストランにも集まるトラフィックが生まれたりする。

360度「美味しい」からどこでも攻めれるってのは最強だと思ってます。その部分でのコンテンツの多種多様さは今後必要になってくると。

周りの方々で鳥羽さんたちの考え方に共感して集まってくる方々ってけっこう増えてきてません?

鳥羽:そうですね。ビジネス的な要素で言えば当然、影響力が出てきて、あの人が宣伝すれば売れるだろうっていう話とかもあるだろうと思っていて、それは全然悪いことじゃないと思ってます。僕らもやっぱり、そういうところと仕事することでよりたくさんの人に知ってもらえる機会がある。

ただ僕らがやりたいのってあくまでも、自分たちの存在価値を示していくっていう承認欲求の話じゃなくて、「美味しい」というツールで世の中の人に良いものを知ってもらいたい、届けたいっていう部分に重きを置いてるんです。

自分たちの存在は飲食におけるプラットフォームというか。シズるは新しい食のワンストップクリエイティブカンパニーとして、たくさんの人のプラットフォームになれるような会社に成長していきたいなという風に思ってます。使命感の方がやっぱり強いんですよね。

コンテンツも何かちょっと違うなっていう風に思う部分があって、それがたぶんケトルさんの存在だなって思うんですよ

鳥羽:まさにおっしゃる通りで、今まで料理家だったり一シェフが何かやるとなると、どうしても「届け切る」ということに関してのクオリティーは自分のやれる範囲の中で、自前のもので作っていきましょうみたいになっていました。

最大化っていうことを考えると、餅は餅屋じゃないですけど、やっぱりそれぞれの専門職のプロがいた方がそこに対してきちっと解像度もありますし、どこまで本気で目指すかっていう覚悟の度量に応じてチーム作りのトンマナも揃ってくるのかなと思います。

当然、世の中の人にたくさん届けていくのであれば、広告というクリエイティブの中で多くの人を感動させて伝えているメンバーを引き込み、それなりのメンバーを集めなきゃいけないだろうし。自分がどこまでやりたいかの基準に照らし合わせてメンバーを選んでいくっていう考え方は持ってますね。

今後、どういうプロセスでシズるは発展し、そしてどういう人たちのどのような課題を解決してお金をいただくような形になっていくのでしょうか

鳥羽:現在もう進行しているプロジェクトで、僕が埼玉県戸田市出身ということもあって戸田市でたくさんの飲食店を経営しているロットさんっていう地元の飲食業の会社さんと連携しています。ロットさんの店舗をシズるでプロデュース、リブランディングして、戸田の街を食で盛り上げていくことでわざわざ戸田に行くとか、戸田の人がハッピーになってお金を落としていくみたいな。

地域活性化の一つのビジネスモデルとして、シズるとその地方の飲食店で何かやっていったり、食べ物を通した街づくりをしたりっていうことも始めています。あとはワンストップクリエイティブカンパニーってことで最終的なアウトプットも、自分の店舗の中で持ってるって部分では、一貫した会社があるようでない。

僕が今現役でミシュランシェフやらせていただいてて、ケトルさんっていう現役のトップランナー同士でそこまで純度の高いチーム作りは意外とできているようでできていなかったりするんです。

例えば外食で出されてるサラダの野菜のカットを変えるだけなんだけど、ミシュランシェフが入ってくることで美味しくなる。普通の基準値を上げていく作業を食品メーカーとか外食産業とシズるでやっていくことで全体的な食のリテラシーが上がっていく。その掛け算で幸福度が上がっていくみたいなことはやれるんじゃないかなと思っています。

新しいアイデアのゆくえ「朝ディナーの今後」

朝ディナーの一皿(撮影/編集部)

外食のあり方が変わりそうです

鳥羽:そうですね。外食チェーンが僕も好きだし子どもともいくんですけど、ただもっともっと良くできることはたくさんあって、課題解決するには彼らの力を借りなきゃ絶対いけない部分もある。

今彼らがやってることプラスアルファで、例えばお米をもっとおいしく炊くことで実はもっと美味しさが伝わることだってたくさんあると思うし、この味付けをもうちょっとこういう風にやることで全然違う美味しさの世界が見えたりとか。そういう部分の変革はまだ余白としてあるなと思います。

一緒になって僕が伴走することで、もっともっと違う景色を見れることってまだまだあるなと。シズるは4月に作った会社ですけど、現在たくさんのナショナルクライアントさんとお仕事していく中で、めちゃくちゃ手応えを感じています。

上と下を自在に行ったり来たりできるのがシズるのいいとこだと思ってて、5万円のレストランのプロデュースもできれば100円のカップラーメンのプロデュースもできる。どっちも「美味しさ」があるっていうのは間違いなくて、シズるはその「美味しさ」の種類を満遍なく美味しくして世の中を幸せにする会社なんだと思うんです。

ありがとうございます。ところで私も先日お店で朝ディナーを体験させていただきました。この取材というコンテキストまで含めて、しっかりお金を払う価値があったし、レストランに行って美味しいごはんを食べるのとは全然違ったものだったなっていうのを感じています。

これが鳥羽さんたちがプロデュースしたいものなんですよね

鳥羽:そうなんですよ。単純に美味しいもの食べたくてラーメン屋行ってラーメン食べて帰ってるって話じゃなくて、やっぱり、わざわざ行く価値。食べ終わった後の価値で、行って良かったっていう、その前と後ろと間っていう部分をトータルでプロデュースしていくことで、よりお金をいただく価値もあると思ってます。

「美味しい」の数値化は難しいし「美味しい」の定義もすごく難しい。それぞれ多種多様化している。その中で「美味しい」を届ける側の思いをどれだけきちっと丁寧に細かくやり続けられるかが体験価値を大きく左右してきちゃう。そこを丁寧に掘り下げていくことが一番大事なのかなっていう風に思ってます。

sioでやった朝ディナーっていうのは8月でいったん終わりにして、アップデートしてより持続できる形、より本質的な形で次は3部営業を最初から視野に入れたレストランを10月にオープンするんで、またそこで新しいアプローチをできたらいいなと思ってます。

毎日の中で飲食に絶望することも多々あって、このままだとやっぱり難しいなとか、自分も苦しい中で変えていくって作業に心折れそうになりながらも、お客様と未来の若者の方を見るとまだ希望は残ってんじゃないかな?ってなんとか踏みとどまりながら毎日やってるって感じです。

ありがとうございました!

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録

VCがESG投資に取り組まない理由がなくなる日は近い

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、STRIVEのインベストメントマネージャー四方智之氏がまとめたものを転載させていただいた。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@tomo4kata ESG、SDGs、インパクト投資、サステナビリティ、、、 ニュースレターの購読 注目すべき記事、世界のスタートアップシーンの話題、BRIDGE 主催のイベントに関する情報を…

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、STRIVEのインベストメントマネージャー四方智之氏がまとめたものを転載させていただいた原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@tomo4kata

ESG、SDGs、インパクト投資、サステナビリティ、、、

ここ数年で聞くようになったこれらの用語はそれぞれの違いは分かりにくいし、上場企業がブランドイメージ向上のために叫んでいるだけではないかという少し穿った見方もしていた時期もあり、なぜここまで盛り上がっているのか、本質的な理由が分からないというのが正直な私の感想でした。

一方で、2020年半ばから海外VCの動きを見ていると、気候変動特化ファンドや明確なESG投資の方針を掲げるファンドが明らかに増え、これは潮目が何か変わりつつあるのか、とも感じるようになりました。

上場企業はもちろんのこと、スタートアップ界隈でもダイバーシティなどが叫ばれるようになった一方で、VCにとってそもそもESG投資というものは取り入れる余地があるのか?取り入れるとしたらどのような形が可能なのか?といった点を中心に書いてみたいと思います。

ESG投資、インパクト投資、SDGs、結局どう違うの?

本題に入る前に、ESGやインパクト投資の違い、なぜESG投資が今盛り上がっているのか、といった点についてまず触れたいと思います。

社会的責任投資

ESGというワードが広まる以前だと、1990年ごろから使われていた社会的責任投資=SRI(Socially Responsible Investing)という概念があります。これは端的に言うと、社会からの企業への期待が反映された投資行動です。

元々は1920年代にキリスト教的倫理観を反映して、タバコや武器、アルコールなどの企業を投資対象から外した投資手法が起源であり、その後1960年代には社会運動の視点が含まれていました。

ESG投資

「ESG投資」は、「Environment=環境」「Society=社会」「Governance=ガバナンス」の頭文字をとった言葉。上記の社会的責任投資のコンテクストを汲んで、今日、企業が長期的な価値向上のためには考えるべき課題として、財務的フレームワークの外に存在する、ESGが示す3つの観点が必要だという考え方が世界的に広まってきています。

● E(環境): CO2の排出量削減、再生可能エネルギーの利用、生産過程における廃棄物の低減など
● S(社会):女性の活躍推進、製品・サービス提供者としての責任、地域社会への配慮など
● G(ガバナンス/企業統治):株主の権利と平等性の確保、適切な情報開示、社外取締役の設置など

そのルーツは、2006年に国連主導で発足した責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)です。同原則は署名機関が自主的に取り組む6原則からなっていますが、その第1原則が「私たちは、投資の分析と意思決定プロセスにESG課題を組み込みます」となっています。すなわち、PRIの責任投資=ESG投資です。

(余談ですが、ESG投資は英語だとESG Investingという言葉で使われておらず、ESG IntegrationあるいはESG Incorporationという用語が使われており、投資プロセスに環境、社会、ガバナンスの課題を組み込むという第1原則の特徴が明確に出ています。)

インパクト投資

また、最近だと「インパクト投資」という言葉も聞くようになりました。こちらは社会課題解決を目的としてリターンと同等、またはそれ以上に社会的インパクトを重視する投資であり、銘柄の選択もそうした考えに基づいています。

よくESG投資とインパクト投資とで間違われやすいですが、ESG投資はリスク・リターンを最大化・適正化するために環境や社会への影響を考慮するものであるのに対して、インパクト投資は環境や社会へのポジティブな変化を生み出すことがそもそも投資の目的と位置づけられています。

SDGs

ESGとの違いが一番ややこしい用語ですが、簡単に言うとSDGsは国連が定めた社会や企業が達成すべき「目標」であるのに対して、ESG投資はその目標を達成する「手段」という位置づけになります。

企業からすると、社会的課題解決に取り組むことでESG投資をするGPIFなどの金融機関から投資を得られるといったイメージです。こちらが関係を表した図表になります。

サステナブル投資

環境、社会、ガバナンス課題を考慮する投資には、以上のような社会的責任投資、ESG投資、インパクト投資など、さまざまな投資がありますが、これらをまとめて表現する用語としては、「サステナブル投資」が世界的に使われています。

ざっくりと1ページにまとめたものがこちらになります↓

また、各投資手法はMECEではないというのもここで強調しておきます。ESG投資は社会的責任投資から派生したものと考えられますし、インパクト投資と被る要素もあるというのを表したのがこちらです。

ESG投資の急拡大

サステナブル投資推進に取り組む世界各国の団体が加盟しているGSIAのレポートによると、サステナブル投資額は世界の運用資産総額の36%に匹敵する35.3兆ドル(約3,883兆円)に達し、過去2年間(2018年~2020年)で15%、過去4年間(2016年~2020年)で55%増加しました。

その中でも日本の資産運用残高は過去4年間で約6倍と、他地域と比較して非常に高い成長率になっており、アメリカ、ヨーロッパに次ぐ規模まで拡大しています。

(出典:GSIA

なぜこれだけESG投資が盛り上がるのか?

ここまでESG投資が急拡大している背景には、主に2つの流れがあります。

一つ目は、ここ数年で世界経済はESGを考慮しないことを政治的・商業的リスクと捉えるようになったことです。World Economic Forumの「グローバルリスク報告書 2021年版」では、この先10年で最も社会・政治・地政学的な影響が大きいリスクとして、「感染症の拡大」に加えて、「気候変動」「サイバー攻撃」が並んでいます。

こうした世界経済の流れを受けて、機関投資家や大富豪のファミリーオフィスなどの金融業界のプレイヤーが先んじてESGをリスク要因とする認識するようになり、投資対象となる産業界にも対応を求めるようになりました。

二つ目は、先述のPRIです。2008年のリーマンショック以前に目立っていた「短期的な利益を目指す」というESGの対極にある思想は、リーマンショックによる世界恐慌を機に反省すべき姿勢だとして捉えられ、その結果、「持続可能な事業に投資する」という世界的な共通の価値観としてESG投資は重要視され始めました。

PRIに署名するのは、GPIFなど一般人の資金を預かって運用する年金基金や保険会社であり、これらの機関投資家は「社会的に良いから」といった理由だけでは投資対象を選定しません。言い換えると、「ESG投資はパフォーマンスが高いからESG投資をします」と、プロの投資家が認めるようになってきているわけです。2021年9月時点で4,308の投資機関がPRIに賛同・署名しており、ここ数年で急速に増えています。

(出典:PRI

VCは「LPからお金を集めるため」にESG投資をすべきなのか?

ここから本題になります。

アメリカではもちろんのこと、近年は日本でもVCのファンドサイズが拡大するにつれて、機関投資家がVCをアセットクラスとして見るようになってきました。

前述の通り、多くの機関投資家はPRIに署名しているので、VCがESG投資をすることは出資検討をしてくれるLP候補が増えることになり、ファンドの資金は調達しやすくなります。

一方で、「VCがESG投資をすべき」なのは「LPからお金を集めるため」というのは理由になっていそうで、実は本来の理由ではないのでは?と個人的に違和感を覚えました。

なぜなら、当たり前のことですが、VCにとっての仕事は「LPからお金を集める」だけでなく「そのお金で投資してリターンを出す」ことも含まれるからです。

VCがESG投資に取り組むべき本質的な理由

他のアセットクラスと比較すると、VC全体におけるESG関連の取り組みは出遅れているのが現状です。これはVCが投資しているテック関連企業はESGにあまり関係がないからと思われているからかもしれません(例えば温室効果ガスを大量に排出したり、河川の汚染に繋がるような事業は少ない)。

しかし、実際はESGを考慮することは、VCが投資するスタートアップ企業の長期的な成功、ひいてはVCの最終的なリターンにとって非常に重要性が高いと言えます。それは昨今のテック企業において顕在化したリスクが事業の収益モデルや持続可能性に直接的な影響を及ぼしているためです。

<個人情報保護>
FacebookやGoogleといったユーザーのあらゆるデータを追いかけて収益化される「監視資本主義」をビジネスモデルとするような企業は、ユーザーの許可なしに収集した個人情報を利用していることが倫理的問題として提起され、実際にCookie規制などの事業上のリスクの対処に追われています。(一部の投資家からはFacebookをESGファンドの銘柄に組み入れることは果たして正しいのか?という声も上がっています。)

<労働者の権利>
UberやLyftなどの企業は、運転手や配達員などの仕事をオンラインで単発で請け負う「ギグワーカー」の労働者の権利問題があります。ギグワーカーは会社員と違って企業が雇用しているわけではなく、年収も200万円~300万円未満の割合が最も多いとされ、病気やケガなどで働けなくなった場合、死活問題になります。
上場後も赤字が続くUberなどの企業にとって、ギグワーカーの賃金や待遇改善による人件費の高騰は当然避けたいですが、そもそも労働力搾取と見られてしまう事業の持続可能性が根本の問題であると言えます。

<企業文化>
WeWorkの企業文化も記憶に新しいトピックかもしれません。株式上場のためのS-1申請のタイミングで、CEOアダム・ニューマン氏による独裁と見れるような企業構造やガバナンスの問題や、アルコールやセックス、麻薬など何でもありのパーティーに従業員は参加を強要されるなどの実態も報道され、最終的に上場計画の撤回に追い込まれました。

上記の3つの事例では、各社が上場後、もしくは上場手前になってリスクが顕在化しました。GAFAによる個人情報の利用は2020年代の新たな人権問題になるでしょうし、人工知能による差別の助長など、スタートアップにとっては上場前でも事業継続のリスクとなりえる問題が増えています。

VCは一般的に、ディスラプティブ(破壊的)なビジネスモデルが投資対象となるケースが多いです。しかし、ESG課題に対する適切なアプローチを考えられていないディスラプティブな企業は、いずれ法規制が追いついたときに損失を被る可能性があります。リスクを低減し、リターンを最大化するために、ESG投資は今後VCにとって必須の考え方になってくるでしょう。

ESGをDDプロセスに組み込む必要性

しかし、経験豊富なVCであれば通常のDDにおいてESGのリスクを特定できるのでは?とも思うかもしれません。そういったケースもあるとは思いますが、体系的に投資の意思決定プロセスにESGを組み込まないと重要なリスクが見落とされる可能性は当然あります。

体系的なアプローチをとって仕組みで対応することは、PEファンドと比べてチームの規模が小さく、投資先の多いVCファンドにとってより意味があるでしょう。

一方で、海外も含めてまだVC業界では仕組みとして対応できているファームがほぼないのが現状です。国際的な人権団体のAmnesty Internationalによると、Sequoia、Tiger Global、a16z、Acccelなどを含むTop VC 10社全てが人権尊重をDD項目に入れていませんでした。VCのDDプロセスにおいてどのようにESGの要素を考慮すべきかは今後さらなる議論が必要です。

アーリーステージでこそ取り組むべき

労働者や消費者との関係については、一度事業がスケールしてしまった後だと、大きく方針を変更することは困難になります。スタートアップは早い段階でESGの考え方を取り入れるすることで、急成長の基盤を作り、長期的な持続可能性を確保することができます。

投資家は新しい調達ラウンドごとに、DDプロセスの中で事業のフェーズに対して適切なESGのリスクと機会を評価し、必要なアクションプランを練るべきです。そして、投資した後も上場を見据えてESGの考え方をインストールするために投資先向けのトレーニングなどを提供していく必要が出てくるでしょう。

まとめ(&宣伝・告知)

ここまでVCがESG投資に取り組むべき理由について書きましたが、具体的に投資の意思決定プロセスの中にESGをどう考慮し、どのようなDD項目を設けるか、そして基本的にリソースが限られている投資先との関係の中で、出資後はどのようにESGの考えを取り入れてもらうのが適切なのかは正直手探りの状態です。

このテーマに関心があるスタートアップ、そしてVCの皆様とぜひ議論させてもらいたいです!ESG経営をどのように取り入れるべきなのかもそうですし、ESG領域のソリューションを企業や消費者に対して提供しようとしているスタートアップの方ともお話しできたら嬉しいです。

現状私の投資先だと、アスエネResilireの2社がESG領域の事業を展開しています。クリーン電力サービスと温室効果ガス排出量管理SaaSを提供しているアスエネは、まさにE(環境)のど真ん中と言える気候変動の課題にチャレンジしています。

<関連リンク>

また、直近資金調達のリリースが出たResilireは気候変動に伴う自然災害の増加に対応するためのサプライチェーンリスク管理SaaSを提供しており、事業継続マネジメント(BCM)に対して今まで以上に注目が高まる中で、小林製薬などの大手企業への導入が進んでいます。

最後に告知になりますが、そんなResilire社のCEO津田さんと、9/14(火)18時~にサプライチェーンリスクやらESGやらについて雑談する予定です。ご興味ある方はぜひご参加ください!

<関連リンク>

BRIDGE Members

BRIDGEが運営するメンバー向けイベント「Tokyo Meetup」では新サービスの紹介やノウハウ共有などを通じて、スタートアップと読者のみなさんが繋がる場所を提供いたします。メンバー登録は無料です。
  • BRIDGE Canvasの購読
  • メンバー向けDiscordご招待
  • BRIDGE Tokyoなどイベントご招待
無料メンバー登録