レイ・フロンティアのモンスターラボグループ入りから半年、その理由と真価を両社代表に聞いた

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左から:モンスターラボホールディングス代表取締役 鮄川宏樹氏、レイ・フロンティア代表取締役 田村建士氏
Image credit: Masaru Ikeda

2023年12月、デジタルトランスフォーメーション(DX)コンサルティング企業のモンスターラボホールディングス(東証:5255、以下、モンスターラボと略す)が、位置情報技術スタートアップのレイ・フロンティア持分法適用関連会社化したことが発表された。このディールは、両社の強みを融合し、グローバル市場での DX ソリューション提供を加速させることが目的とされた。

IPO や M&A といった従来からのイグジット手段に加え、スタートアップ同士の M&A や、上場企業に買収されたスタートアップが、上場企業が持つリソースを活用してグロース/スケールし、その後の IPO を目指す「スイングバイ IPO」など、スタートアップのジャーニーも多様化している。モンスターラボとレイ・フロンティアの場合はどうなのだろうか。

4月に「DX ケイパビリティ評価」なる新サービスを立ち上げ、今月にはブランディングや web サイトも刷新したモンスターラボと、同じく今月、人の無意識行動を分析する「ペルソナ行動研究所」を立ち上げ、新サービスを発表したレイ・フロンティア。両社の代表——モンスターラボ 鮄川宏樹氏、レイ・フロンティア 田村建士氏——に、今後の展開について話を聞いてみた。

両社の強みが相互補完の関係

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モンスターラボは、2006年に設立されたDXコンサルティング企業だ。世界20カ国以上に拠点を持ち、グローバルに事業を展開している。2022年12月には東証グロース市場に上場を果たし成長を続けている。鮄川氏によれば、同社は上流のコンサルティングや、海外人材を含めた開発が得意で、企業の基幹システムよりも、コンシューマ向けや顧客接点での DX を得意としているという。

一方、レイ・フロンティアは2016年に設立された位置情報技術のスタートアップだ。独自開発の SDK(ソフトウェア開発キット)を活用した位置情報の取得・分析技術に強みを持つ。田村氏によれば、人流データの分析や、それを活用した都市計画、交通最適化などの分野、例えば、バス停の最適配置など、従来の交通設計をデータドリブンで見直すこともできるという。

両社の出会いは偶然の産物だった。鮄川氏と田村氏は、ロシアがウクライナを侵攻する前、日本とロシアの間で展開されていたスタートアッププログラム(ロシア NIS 貿易会=ROTOBO が運営)を通じて知り合った。このプログラムにレイ・フロンティアが参加し、プログラムを運営支援していたのが、モンスターラボの株主の一つでもあるスカイライトコンサルティングだった。

田村氏はプログラムに参画した理由について「ロシアには特殊な位置情報技術があると聞いて興味を持っていた」と語り、この際の経験が現在の事業展開にも影響を与えていることを示唆した。

協業で生まれるシナジー

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モンスターラボのグループにレイ・フロンティアが参加したのには、モンスターラボの DX コンサルティング力とレイ・フロンティアの位置情報技術を融合させ、より高度なソリューションを提供することが目的の一つにあったようだ。

鮄川氏は、狙いについて次のように説明した。

我々の課題はデータ周りの強化でした。特に人流データや位置情報の活用が重要になってきています。我々の案件の約20%は何らかの位置情報を活用したアプリやソリューションの開発です。そういった意味で、レイ・フロンティアの技術や製品との親和性が高いと判断しました。(鮄川氏)

田村氏は、両社の強みが相互補完的であることを強調した。

モンスターラボさんの上流のコンサルティングや海外展開力は我々にとって非常に魅力的です。位置情報技術はローカライズの必要性が低く、グローバル展開しやすい特徴があります。特に東南アジアには日系企業も多く、我々の技術を展開しやすい環境があると考えています。(田村氏)

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モンスターラボの持つグローバルネットワークは、レイ・フロンティアにとって大きな魅力となっている。同社は、中東のスマートシティプロジェクトや、サウジアラビアの大型プロジェクトなどにも参画している。2024年4月には、サウジアラビアを代表する政府系スマートシティプロジェクト「NEOM」傘下の TONOMUS と業務提携を果たしている

モンスターラボは、TONOMUS との協業を含め、国際的なプロジェクトでのレイ・フロンティアの技術活用に期待を寄せている。また、モンスターラボは2024年1月、コンサルティング大手の PwC コンサルティングと提携し、日本国内の企業や世界各地の日系企業を対象に DX 支援を提供することで協業すると明らかにした。

レイ・フロンティアの技術は自動車、小売、ヘルスケア、スマートシティなど幅広いセクターで活用可能です。また、PwC は自動車産業の基幹システムなどには強いのですが、MaaS のような新しい領域には課題感を持っています。そこで我々と組むことで、日系企業の海外での支援も含めて新しい領域に取り組んでいきたいと考えています。(鮄川氏)

2023年12月のグループ入りの発表によれば、レイ・フロンティアはモンスターラボの完全子会社とはならず、持分法適用関連会社という形を取っている。これには理由があるとして、鮄川氏と田村氏が、それぞれの立場からメリットを説明してくれた。

我々はこれまで主に買収によってケイパビリティを強化してきました。しかし、特に新規性の高い技術や領域については、むしろ独立性を保ちながらシナジーを追求していく方が良いケースもあると考えています。レイ・フロンティアの技術や経営陣とのフィット感を考慮した結果、このような形態を選択しました。(鮄川氏)

我々としては独立した経営を続けながら、モンスターラボグループの一員として協力関係を築いていきたいと考えています。特に大規模な案件への対応や、海外展開などでモンスターラボの支援は非常にありがたいですね。(田村氏)

冒頭に書いたスイングバイ IPO などでも、前例を見る限り、リソースは提供しつつも、互いのビジネスには干渉しない、というのが、その後、双方が成長を成功させる上でのカギになっていることが多い。「金や人は出すし、仕事も紹介するけれども、口は出さない」という姿勢は、これまでの PMI に翻弄されたスタートアップの M&A とは一線を画したアプローチになっている。

DX 提案力×位置情報技術で生まれる可能性

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位置情報技術の活用は、従来のモビリティやスマートシティ分野にとどまらず、新たな領域へと広がりを見せている。田村氏は、最近の傾向として小売業界での活用が増えていると指摘する。これには、鮄川氏も、データプロテクションの観点から位置情報技術の重要性が高まっていると指摘した。

Cookie が規制で使えなくなる中で、企業が独自に顧客データを収集・分析する必要性が高まっています。その中で、位置情報は顧客との接点として非常に重要なデータになっています。また、マスメディアの広告効果が低下する中で、コンビニエンスストアなどの小売業が自社の店舗を広告メディアとして活用する動きが出ています。そこでより最適化された広告配信を行うために、位置情報データの分析が求められているのです。(田村氏)

Google などのプラットフォーマーにデータを預けるのではなく、例えば、自動車メーカーなど、各産業の企業が独自にデータを保持・管理する流れが強まっています。レイ・フロンティアの技術を使って、企業のエコシステムの中でデータを保持・活用していくニーズが高まっているのです。(鮄川氏)

昨今の AI 技術の進化により、プログラミングの一部は AI が担うようになりつつある。この変化を前に、田村氏は、エンジニアの顧客との対話能力などの重要度がさらに高まっていく、と予測している。コーディングスキルのみならず、顧客理解や上流工程の設計能力の重要性が増す中で、モンスターラボとのタッグは有利に働くと考えている。

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レイ・フロンティアは引き続き独立した経営を続けながら、上場も視野に入れた成長戦略を描いている。一方、モンスターラボは、レイ・フロンティアとの協業を踏まえ、DX コンサルティングにおける競争力強化を図るとしている。また、両社は、既存の事業領域にとどまらず、新規事業の創出にも意欲を見せている。

基本的には上場を目指して事業を展開しています。モンスターラボとの関係はそのプロセスの一つだと考えています。位置情報技術を基盤に、IoT や AI と組み合わせた新しいサービスの開発を検討しています。例えば、スマートホーム技術と位置情報を組み合わせた省エネソリューションなど、社会課題の解決に貢献できる事業の創出を目指しています。(田村氏)

データ分析や活用の領域は、今後の DX においてますます重要になってきます。DX コンサルティングの枠を超え、データを活用した新しいビジネスモデルの構築にも挑戦していきたいと考えています。レイ・フロンティアの技術を活用することで、例えば、都市計画や災害対策など、より広範な社会インフラ分野にも貢献できる可能性があります。(鮄川氏)

両社の関係は、日本のスタートアップエコシステムの成熟を示す象徴的な動きでもある。テクノロジーの進化が加速する中、人間中心の視点を失わず、技術と社会の調和を図りながら進化を続けることが、両社の目指す未来像だ。グローバルな社会課題の解決にどのような貢献をもたらすか、今後の展開に期待したい。

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