One Capital浅田氏、AI時代のSaaS投資戦略を語る——変革期を迎えるSaaS業界と日本市場の可能性

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One Capital 代表取締役 CEO 浅田慎二氏
Image credit: One Capital

<11日18時更新> 投資先を示した図が古かったため、新しいものに差し替えました。

ベンチャーキャピタル One Capital は先月、200億円規模の2号ファンドを組成したことを発表した。マッキンゼー・アンド・カンパニーでヘルスケア企業へのコンサルティングを手がけてきた横田有香子氏をパートナーとして招えたことで、BRIDGE を含む一部メディアはヘルスケア分野に投資が強化される可能性を報じたが、実際のところ、これまでの SaaS 分野への投資を継続する方針に大きな変化は無いという。

今週、One Capital は1号ファンドの組成発表から4年を迎えた。4年の間には SaaS 市場も変化している。生成 AI が世界を席巻する中、SaaS も大きな影響を受けるだろう。日本の SaaS 市場では、何が変わって、何が生まれるのだろうか。先週の IVS をきっかけに久しぶりに One Capital 代表取締役 CEO の浅田慎二氏に話を聞く機会に恵まれた。

One Capital の投資戦略

 

浅田氏によると、One Capital は1号ファンドから一貫して、約8割を B2B SaaS に、残り2割をヘルスケアやフィンテックに投資してきた。この基本方針は2号ファンドでも維持される予定だ。

1号ファンドは170億円規模(※1)で組成して、22社に出資しました。その中にはヘルスケア系のサービスも含まれています。(浅田氏)

※1 当初160億円と報じたが、その後、オーバサブスクライブした模様。

ここでいうヘルスケア系のサービスとは、カスタムサラダ専門店の CRISP SALAD WORKS、フィットネスのためのスマートミラー MIRROR FIT.、指輪型ウエアラブルデバイスの Oura Ring だ。専門性の高い領域では、それに造詣の深いパートナーがいないと起業家側の説明コストが高くなってしまう。より深いヘルスケアに対応するためにも、サイエンティスト出身の横田氏に参画してもらったという。

一方、浅田氏は AI 技術の進展による SaaS 業界の変化にも強い関心を示した。浅田氏は従来の「(元情報をインプットして、整理されたデータがアウトプットされる)箱」としての SaaS から、AI が統合された「WaaS(Work as a Service)」への移行を予測している。WaaS は現時点では浅田氏の造語だが、遅かれ早かれ、SaaS スタートアップの多くはこの方向へ変化を余儀なくされるだろう。

具体例として、浅田氏は経費精算のプロセスを挙げた。従来の SaaS では、ユーザが手動でデータを入力し、レポートを作成する必要があった。しかし、AI 統合型の WaaS では、プロンプトを入力するだけで良くなる。プロンプトの例としてはこうだ。

6月の経費精算がしたい。Google Drive に保存した領収書のコピーとカレンダーのデータを使って、レポートを作って、経費精算を申請してください。

数字を入力することはもとより、いちいち、どの経費が、どの要件に使ったものかを紐づける必要もない。これまでは、業務ソフトウェアがオンライン web 化されたものが SaaS で、それでも、結局、人間側の行動をシステム側の要件に合わせる必要があった。WaaS が現実のものとなれば、経費精算に限らず多くのルーティーンフローが自動化され、我々はもう月末にバタつかなくてよくなる。

日本の SaaS 市場、成長の余地と次世代へのシフト

One Capital「Japan SaaS Insights 2024」から

日本の SaaS 市場については、まだ成長の余地が大きいと浅田氏は分析する。

日本の SaaS の市場規模は2023年に1.4兆円に達していて、これが毎年11%のペースで堅調に伸びているんですよ。(浅田氏)

<参考文献>

特筆すべきは、日本企業の SaaS 利用率の低さだ。SaaS が普及したとはいえ、現在でも、企業では、SI-er にカスタマイズされた業務ソフトウェアを作ってもらっているケースが95%、SaaS が5%程度だ。今後、前出の WaaS の性能が進化し普及すれば、まだカスタマイズされたソフトウェアを利用中の企業が従来 SaaS を飛び越え、いきなり WaaS を使い始める〝リープ・フロッグ現象〟が起きるかもしれない。

こうした業界動向を踏まえ、One Capital は次世代の SaaS や AI を活用したサービスへの投資を積極化していく考えだ。コンシューマ分野では、決済アプリや配車アプリが周辺サービスを買収しスーパーアプリ化したが、浅田氏によれば、SaaS が WaaS 化する過程で、コンパウンドスタートアップは増えても、力をつけた SaaS が他の SaaS を買収していく、というシナリオは考えにくいという。

やっぱり、これからの SaaS は、いろんな生成 AI と繋がりまくりましょうって、ことでしょうね。そうすることで、どんな LLM からもプロンプトを入れてもらうだけで SaaS に入力できるようになる。API などを通じた連携が重要になっていくでしょう。

日本の業務生産性の新たな局面に、SaaS を発展場として育てていきたいし、引き続き、この領域に僕は張っていきたい。ひょっとしたら日本発で WaaS が出てくるかもしれません。最近、プロンプトエンジニアリングみたいな AI ツールを使い倒す人が出てきていますが、それをソフトウェアに生まれ変わらせることができたら、面白いと思うんです。(浅田氏)

AI 時代の到来とともに、SaaS 業界は大きな変革期を迎えている。浅田氏が描く未来像は、日本の SaaS 市場に新たな可能性をもたらすかもしれない。WaaS スタートアップの登場で、日本発のイノベーションがグローバル市場を席巻する日も、そう遠くないかもしれない。

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