日本のスタートアップエコシステム、グローバル競争力強化への道筋〜 #IVS2024 KYOTOのパネルから

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Image credit: Masaru Ikeda

本稿は、7月4〜6日に開催されている、IVS 2024 KYOTO の一部。

京都で開催された「IVS2024 KYOTO」において、「データから読み解く日本と世界のスタートアップエコシステムの成長」と題したパネルディスカッションが行われた。経済産業省の総括企画調整官である南知果氏をモデレーターに迎え、自民党幹事長の茂木敏充氏、Startup Genome Japan 代表取締役社長の西口尚宏氏、CIC Institute Director の名倉勝氏という、各分野を代表する豪華パネリストが参加した。

茂木氏は、自身の経済産業大臣や IT 担当大臣としての経歴を振り返りつつ、若手経営者との対話の重要性を強調した。特に、スタートアップが日本経済の成長の鍵を握っているという認識を示し、政策面からの積極的な支援を推進する意欲を表明。具体的には、規制緩和や税制優遇措置、公共調達におけるスタートアップ参入機会の拡大などの施策を提案した。

名倉氏は、CIC Tokyo の運営を通じて300社以上のスタートアップを支援してきた実績を紹介。特にディープテック分野やグローバル展開を目指すスタートアップへの注力を説明し、日本のイノベーション力強化に向けた取り組みを詳述した。また、スタートアップが直面する共通の課題、特に初期段階での資金調達や市場アクセス、優秀な人材の確保について、CIC Tokyo が提供する具体的な支援プログラムや成功事例を交えて解説した。

西口氏は、2009 年の産業革新機構(INCJ)設立メンバーとしての経験から、大企業発のイノベーション創造とスタートアップエコシステム構築の重要性を強調。Startup Genome Japan の活動を通じて、スタートアップエコシステムの成功要因をデータで分析するプロジェクトから、現在のグローバルネットワークを持つ組織への成長過程を詳細に説明した。特に、データ駆動型のアプローチがエコシステム発展にもたらす具体的な利点と、それに基づく政策立案の重要性を強調した。

グローバルデータから見る日本の位置づけ

Startup Genome Japan 代表取締役社長の西口尚宏氏
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西口氏は、毎年6月にヨーロッパの大規模テックイベントで発表される「THE GLOBAL STARTUP ECOSYSTEM REPORT 2024(GSER2024)」の内容を詳細に解説。このレポートが、世界中のスタートアップエコシステムの成功要因をどのようにデータ分析しているかを説明し、その結果が各国・地域のエコシステム発展にどう活用されているかを具体例と共に紹介した。

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特筆すべき点として、東京が今年のランキングで 15 位から 10 位に急上昇したことが挙げられた。この飛躍の背景には、過去 2 年半で 37 件の 5000 万ドル以上のエグジットがあったことが大きく評価された。西口氏は、この成果が単なる偶然ではなく、政府の積極的な支援策や大企業の投資姿勢の変化、スタートアップ自体の成長戦略の進化など、複合的な要因によるものだと分析。具体的な成功事例をいくつか挙げ、それらが東京のエコシステム全体にどのような波及効果をもたらしたかを解説した。

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エコシステムの競争力評価に用いられる5つの尺度(パフォーマンス、ファンディング、タレント=人材、マーケットリーチ、ナレッジ)について、西口氏は詳細な説明を加えた。東京は知財(ナレッジ)に関しては世界トップクラスの評価を得ているものの、パフォーマンスとファンディングの面では改善の余地があると指摘。特に、アジアの他の主要都市(シンガポール、北京、ソウル、上海)との比較分析を通じて、東京の強みと課題をより明確に浮き彫りにした。

例えば、シンガポールの政府主導型エコシステム、北京の巨大な国内市場を活かした急成長、ソウルの技術革新と政府支援の融合、上海の国際的な人材の集積など、各都市の特徴的な成功要因を詳細に解説。これらの分析を踏まえ、日本のスタートアップエコシステムが学ぶべきポイントと、東京の独自性を活かした発展戦略について、具体的な提案を行った。

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日本のスタートアップ環境——強みと克服すべき課題

名倉氏は、スタートアップエコシステム協会が実施した広範な調査結果を詳細に共有した。この調査は、日本全国の様々な段階にあるスタートアップを対象に実施され、成長における課題を多角的に分析したものである。

調査結果によると、回答者の多くが資金調達、マーケットリーチ、タレントの確保を主要な課題として挙げていた。名倉氏は各課題について深く掘り下げて説明した。

資金調達に関しては、シード期から シリーズ A、B、そしてレイターステージに至るまでの各段階における資金調達の難しさを具体的な数字と共に紹介。特に、シリーズ B 以降の大型資金調達において、日本の VC の投資規模の小ささや、海外投資家の参入が限定的であることが大きな障壁となっていると指摘した。

CIC Institute Director の名倉勝氏
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マーケットリーチについては、日本の大企業との連携の難しさや、グローバル展開を目指す際の言語や文化の壁、海外ネットワークの不足などが主な課題として挙げられた。名倉氏は、CIC Tokyo での経験をもとに、これらの課題に対する具体的な解決策や支援プログラムの事例を紹介した。

タレントの確保に関しては、特に技術者や経験豊富な経営人材の不足が深刻であることが明らかになった。大企業からスタートアップへの人材流動性の低さや、海外人材の採用・定着の難しさなどが要因として挙げられ、これらに対する取り組みの必要性が強調された。

文化的障壁を超えて—日本固有の課題に対する取り組み

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名倉氏は、日本のスタートアップエコシステムが直面する特有の文化的・社会的課題についても詳細に言及した。日本の企業文化が依然として保守的であり、リスクを取ることに対する社会的な抵抗感が強いことが、スタートアップの成長を阻害する大きな要因の一つであると指摘した。

具体的には、失敗に対する社会的なスティグマ、終身雇用制度の名残による転職へのためらい、大企業志向の強さなどが、優秀な人材がスタートアップに流れることを妨げている現状を説明した。また、リスクを取る文化の欠如が、革新的なアイデアの実現や大胆な事業展開を躊躇させる要因となっていると分析した。

これらの課題に対し、名倉氏は教育システムの改革から始まる長期的なアプローチの必要性を強調。起業家精神や創造性を育む教育プログラムの導入、失敗を学びの機会として捉える文化の醸成、メディアを通じたスタートアップの成功事例の積極的な発信など、具体的な施策を提案した。

さらに、大企業とスタートアップの協業を促進するためのプログラムや、海外のスタートアップエコシステムとの交流促進、外国人材の受け入れ環境の整備など、日本のエコシステムをより開放的で多様性に富んだものにするための取り組みについても詳細に説明した。

未来を見据えた戦略—エコシステム強化への具体的アプローチ

自民党幹事長の茂木敏充氏
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パネルディスカッションの最後に、各パネリストが自身の専門分野からエコシステム強化のための具体的な施策を提案した。

茂木氏は、政策面からのアプローチとして、スタートアップ支援に特化した新たな法整備の必要性を強調。具体的には、起業時の手続きの簡素化、ストックオプション制度の改善、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の活動を促進する税制改革などを提案した。また、政府調達におけるスタートアップ製品・サービスの積極的な採用や、規制のサンドボックス制度の拡充についても言及した。

名倉氏は、実務的な支援策として、スタートアップ同士のネットワーキングやメンターシッププログラムの重要性を改めて強調。CIC Tokyo での成功事例を基に、分野横断的な交流の場の提供や、経験豊富な起業家や投資家によるメンタリングプログラムの構築について具体的に説明した。また、グローバルな視点での支援活動の重要性を指摘し、海外のアクセラレータープログラムとの連携や、国際的なピッチコンテストへの参加支援などの取り組みを提案した。

西口氏は、データに基づく分析とアドバイスがエコシステムの発展にどのように寄与するかを具体的な事例を交えて説明。特に、他の成功したエコシステムとの比較分析を通じて、日本のエコシステムが取り入れるべき要素や、独自の強みを活かした差別化戦略について詳細な提言を行った。また、継続的なデータ収集と分析の重要性を強調し、政策立案者や投資家、起業家がデータを活用してより効果的な意思決定を行える環境づくりの必要性を訴えた。

この IVS2024 KYOTO のパネルディスカッションは、日本のスタートアップエコシステムの現状を多角的かつ詳細に分析し、その課題と可能性を明らかにした。産官学それぞれの立場から提示された具体的なデータ、事例、そして提言は、今後の政策立案や実務的な支援の重要な指針となるだろう。参加者全員が、この議論を通じて得られた洞察と戦略が、日本のスタートアップエコシステムのグローバル競争力強化に向けた重要な一歩となることへの期待を表明し、セッションは締めくくられた。

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