FoFで世界1,800社超のスタートアップにアクセス、Cross Capitalに聞いた日本企業向け越境オープンイノベーション支援戦略

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Photo by freestockcenter via Freepik

シンガポールに拠点を置く Cross Capital は6日、昨年12月に組成した日本の事業会社向けオープンイノベーション支援に特化したファンド・オブ・ファンズ「Cross Capital I Limited Partnership(CC1)」に、パナソニック、JR 東日本 CVC、博報堂 DY ベンチャーズの3社が新たに参画したと発表した。既存出資者の富士ソフト(東証:9749)と合わせ、計4社となる。

CC1 の特徴は、世界の VC へのファンド・オブ・ファンズ(FoF)出資と、それによる世界30都市・1,800社を超えるグローバルポートフォリオへのアクセス、さらには出向を活用した人材育成プログラムにある。BRIDGE とのインタビューで、Cross Capital の CEO 中村貴樹氏は、この仕組みについて次のように説明した。

Cross Capital では、一般的に海外トップティア VC 向けで求められる出資額の1/3~1/10の金額サイズで、その10倍以上の数のスタートアップにアクセスすることができます。また、人材強化を目的として出向者を送ることも可能です。Cross Capital にとっても、LP にとっても、金融リターンより戦略的リターンに完全に重きを置いています。

中村貴樹氏

戦略的リターンでは、具体的にはスタートアップへの出資を通じて、出資元企業に、新規事業として実装されたかどうかを最重要指標としている。

そこに至るまでの過程で、仮説検証や協業仮説の作成などの先行的な KPI を設定し、活動を進めているという。

この戦略的リターンに重点を置くこのアプローチは、長期的な視点でイノベーションを推進したい日本企業のニーズに合致しているという。

日本は人材の流動性が低いので、大企業が新たな事業を始めるにも、その事業の経験やスキルを持った人材をすぐに調達して来るのは難しい。そこでオープンイノベーションの意義は大きいです。しかし、グローバルでオープンイノベーションとなると、残念ながら言葉の問題があまりに大きいのが現実です。

この課題に対し、Cross Capital は「実行」におけるチャレンジを、現場目線で、持続的に解決し、徹底的に伴走支援をすることで、新しいインフラの構築に取り組んでいるという。この支援は、言語や文化の壁を越えて、日本企業がグローバルイノベーションに参画するための重要な役割を果たすことができる可能性がある。

まずそもそも、協業にふさわしいスタートアップが見つけられないと、事業開発も何も始まりません。選球眼が重要になりますが、このスタートアップの世界で、いろんな VC がもう競争している中で、例えば、初めて CVC を運営する場合に、これまで投資を生業としてこなかった人たちが、いきなり、本当に良いスタートアップにアクセスして投資できるでしょうか。

Image credit: Cross Capital

もちろん、ファンド・オブ・ファンズ方式を採用した場合、スタートアップへの直接出資に比べれば、金融的なリターンは低くなる。しかし、それでアクセスできるスタートアップが増え、世界中のより多くのイノベーションにアクセスできれば、越境でのオープンイノベーションの確度も高まるのではないか、というのが中村氏の読みだ。

今後の展開について、中村氏は次のように説明した。

2024年度中に、東南アジア・ヨーロッパなどを中心に、トップティア VC 5~7社程度(最終的には10社程度)への投資コミットを行い、DX・Industry 4.0・Fintech・Smart City・Sustainability・Commerce・Mobility・Deeptech・Digital Health 等、多岐にわたるセクターをカバーする予定です。

出資先の VC は一流どころばかりなので(編注:具体名は一般開示されていない)、実は金融リターンも結構出るとは思っているんですが、ファンド・オブ・ファンズですから手数料も二重にかかりますし、あまりアピールポイントにはしていません。それよりも、幅広いセクターカバレッジにより、参画企業(LP)は多様な分野でのイノベーション機会を得ることができると思います。

2023年に組成した Cross Capital の1号ファンドの規模は目標ベースで1億米ドル。中村氏によれば、LP としての富士ソフトの参画は立ち上がり期のものなので、今回の、パナソニック、JR 東日本 CVC、博報堂 DY ベンチャーズの参画が実質的には 1st クローズになるという。Cross Capital ではセクター横断を充実させるため、さらに多様な日本企業からの出資を募る考えで、最終的な LP の目標数を20〜30社に設定している。

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