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栄枯盛衰のClubhouse——自由で新鮮な体験が売りの音声SNSは、もはや「つるはし売り」の場に?【ゲスト寄稿】

本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。彼は、日本で Shizen Capital(旧 Tachi.ai Ventures)のマネージングディレクターを務める。本稿は Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿) The guest post is first appeared on …

mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。彼は、日本で Shizen Capital(旧 Tachi.ai Ventures)のマネージングディレクターを務める。本稿は Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist. He is the Managing Partner of Shizen Capital (formerly known as Tachi.ai Ventures) in Japan.


昨日、日本における Clubhouse の盛衰について興味深い議論をしていた。幸運なことに、日本での現象をよりよく理解している2人の方から教えていただくことができた。

Clubhouse は1月下旬に日本でローンチし、Apple App Store で無料アプリの第1位に躍り出た。政治家も使い始めた

それからわずか2ヶ月で、Clubhouse は、今は亡きプロ野球選手 Yogi Berra 氏の名言を具現化したような存在になってしまった。「あそこに行く気になる人はもういないはずだ。人が多すぎてね。

なぜ Clubhouse は日本で火がついたのか?

日本はさまざまな意味で Clubhouse にとって理想的な市場だ。誰もがスマートフォンを持っていて、高速鉄道や地下鉄でも、信頼性の高い 4G(現在は多くの場所で 5G)のネットワークに接続されている。もちろん、パンデミックの際には、在宅勤務に一部移行したことで Clubhouse に逃げ込む好機となった。しかし、日本では大規模災害よりも新型コロナウイルスの方が不便を強いられたため、多くの人がオフィスで働いた。そのような人たちにとっては、長い通勤時間や、上司が帰る前にオフィスを出るというタブーが組み合わさって、時間をつぶすための十分な機会となっている。

また、Clubhouse の持つ高級感は、日本の消費者にとっても魅力的だ。Trader Joe’s(アメリカのオーガニック食料品スーパーマーケット)の買い物袋を持って東京を歩けば、最近アメリカに行ったことがさりげなく伝わるように、シリコンバレーの権威ある招待制スマートフォンアプリに参加し、それをソーシャルメディアで発表することは、日本では深刻な FOMO(取り残される不安・恐怖)を生み出す。

では、なぜそれが消えてしまったのか

日本において Clubhouse FOMO の舞台となった主なメディアは Facebook であり、Twitter もある程度利用されていたが、LinkedIn は利用されていなかった。日本のビジネスプロフェッショナルは、LinkedIn よりも Facebook を多く利用している。Facebook は、サラリーマン、フリーランス、起業家、投資家にとって、友人関係だけでなく、仕事上のつながりを持つための主要なソーシャルネットワークとして機能している。Facebook の月間アクティブユーザ数は2,600万人だ。日本の VC の中で Facebook をやっていないのは私だけだと言われたこともある(おそらく私にとっては不利益なことだが、申し訳ないが一線を画している)。

一方、LinkedIn は10年近く前に日本に進出したにもかかわらず、日本でのアクティブユーザ数は現在でも数百万人程度だ。プロフェッショナル層の間で人気を集めている LinkedIn だが、日本では長い間、LinkedIn にアカウントを作成することに意味があった。これは、忠誠心と終身雇用を重んじる日本の大企業では、キャリアを損なう可能性のある行動だ(編注:転職活動をしていると見られるため)。

Facebook の問題点は(というか、一つの問題点だが)、ジャンクが多いことだ。そのため、 Clubhouse は日本での成功の犠牲になっていると言える。 Clubhouse のメンバーシップは主に Facebook を通じて広まったため、誰でも参加でき、誰もが参加し、あらゆる種類の思想的指導者のたわごとを広めることになった。

これと同じ現象を私はフランスで目の当たりにしたが、それは Cédric Giorgi 氏の素晴らしい、生意気なツイートに簡潔にまとめられている。

(訳)私は Clubhouse が大好きだ。この新しいネットワークとそこで交わされる会話や交流が本当に好きだ。しかし、それはインフォプレナーやつるはし売り、ビジネスコーチなどのための場所になりつつある。そうなるには、あまりにも早過ぎた。

しかし、フランスの Clubhouse が「vendeurs de pioche(つるはし売り)」に蹂躙されるまでには、数ヶ月を要したようだ。日本では3週間しかかからなかった。

訳注:「つるはし売り」とは、「ゴールドラッシュの時、最も金持ちになったのは金を掘る人ではなく、シャベルやつるはしを売る人だった」とする話に由来し、ここでは起業家が成長するための道具だとして、起業家に成功の方法を伝授すると吹聴し、その対価に高額な費用を請求する情報商材屋を揶揄している。

注目を集める「信託型ストックオプション」、その使い方や長所短所を資本政策のプロ・石割由紀人氏に聞いた【ゲスト寄稿】

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本稿は、Gemstone 税理士法人のパートナーで公認会計士・税理士の石割由紀人氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石割氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。 <解説:石割由紀人氏> スタートアップ支援専門の会計事務所 Gemstone 税理士法人パートナー。 監査法人・税理…

本稿は、Gemstone 税理士法人のパートナーで公認会計士・税理士の石割由紀人氏と、StartPoint 代表取締役で 「StartPass」プロデューサーの小原聖誉氏による寄稿である。小原氏が質問し、石割氏が回答する形で進められた対談を BRIDGE 向けに再構成してもらった。

<解説:石割由紀人氏>

石割由紀人氏

スタートアップ支援専門の会計事務所 Gemstone 税理士法人パートナー。

監査法人・税理士法人、外資系通信ベンチャー企業管理部長、ベンチャーキャピタルを経てスタートアップ支援専門会計事務所を運営。株価算定(優先株式、PPA等)、ストックオプション評価等についても業界屈指の実績を有する。Gemstone 税理士法人の2020年度関与先新規上場実績は8社。

著書に「ベンチャーキャピタルからの資金調達術」(ぱる出版)、「資本政策立案マニュアル」(中央経済社)、「資本政策立案マニュアル第2版」(中央経済社)など。

<聞き手:小原聖誉氏>

小原聖誉氏

2013年 AppBroadCast 創業。400万⼈にサービスが利⽤されたのち、2016年に KDDI グループの mediba へバイアウト

その後エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し3社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。 「若⼿起業家が選ぶすごい投資家」第1位選出(2019年・週刊東洋経済)。現在はスタートアップを⽀援する会社 StartPoint を創業し、起業プラットフォーム「StartPass」などを通じスタートアップ250社に経営リソースを提供。

著書に「凡人起業 35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。」(CCC メディアハウス)など。


最近スタートアップ界隈で耳にすることも多くなった「信託型ストックオプション」という言葉、正しく理解していますか?

「信託ストックオプションを発行したことが理由で上場できなかった」などという誤った噂が流れることもあるなど、なんとなく難しそうな印象を抱いている人も多いかもしれませんが、実際には、設計や運用に注意が必要なものの、信託ストックオプションスキームそのものが上場審査でNGになるわけではありません。

今回は、そんな「信託型ストックオプション」について、会計の側面からスタートアップ支援を多数手がけるGemstone 税理士法人の石割先生に、スタートアップの社員インセンティブとして欠かせないストックオプションの基礎を踏まえつつ解説して頂きました。(小原)

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「信託型ストックオプション」は、ストックオプションの新しい種類なのでしょうか?

種類ではなく、信託型という「箱」に入れる、という認識が近いかもしれません。

ストックオプションの種類としては、従来から知られるように、税制適格ストックオプション、税制非適格ストックオプション、有償時価発行ストックオプション等があり、無償か有償か? 行使時の課税があるか否か? 課税時の扱いが譲渡所得か給与所得か? の違いがあります。

無償発行されたストックオプションについて課税が生じるのは税制適格ストックオプションの要件を満たさない(税制非適格)場合

まずは3種類の従来型ストックオプションについて、使い分けやメリットデメリットなど、基本をおさらいしたいです。

従来型ストックオプションとして一般的なのは税制適格ストックオプションです。ストックオプションで一番課題になるのは、利益を受け取るストックオプション権者の課税の点ですので、税制適格にすることで、

  • 課税されるタイミングが行使時ではなく株式譲渡時
  • 所得の種類として譲渡所得であり申告分離課税なので、キャピタルゲイン課税が20%である(給与所得だと総合課税で累進課税となり、最大55%)

…という、税制上有利な取り扱いを受けることができます。

一方、税制適格ストックオプションは課税上優遇されますが、スタートアップファイナンスにおいては、弱点もあります。

まず、付与対象者は取締役・従業員に限定され、大株主(発行済株式数の1/3超)や社外協力者には付与できません。イコール、オーナーの持株比率希薄化防止には使えないこととなります。

さらに、M&A で EXITする場合、税制上の優遇措置を維持してストックオプションを譲渡することができません(ストックオプションを譲渡すると、税制非適格ストックオプションになってしまいます)。また、行使価格に上限があったり、行使期限も比較的短く設定されています。

税制適格ストックオプションに必要な要件は以下の6点です。

  1. 権利行使が付与決議の日から2年超10年以内であること。
  2. 譲渡禁止が定められていること。
  3. 付与対象者が会社又は子会社の取締役、執行役または使用人等であること。但し、大株主(未上場会社の場合は発行済株式数の1/3を超えて保有する株主、上場会社の場合は発行済株式数の1/10を超えて保有する株主)と大株主の特別利害関係者は除く。
  4. 新株予約権の行使価格の年間合計額が、1,200万円以下であること。
  5. 権利行使価額が契約締結時の時価以上であること。
  6. 証券会社等に信託を通じて売委託または譲渡により売却すること。

この弱点を補うのが有償ストックオプション(ストックオプションを時価発行するという仕組み)です。有償ストックオプションは、大株主の創業オーナーや社外協力者に対しても有償発行(時価発行)することで、行使時点での課税を免れるスキームを構築することができます。有償ストックオプションは無償とは異なり、ストックオプションの公正価値(時価)を払い込んでいるので、発行時には経済的利益が生じず課税されません。

権利行使時点でも(税制適格と同様に)ストックオプション権者は課税されないとされます。権利行使時点の株式時価とストックオプション発行価額と行使価額合計額の差額がストックオプション権者の得た利益となりますが、取得した株式の譲渡時点までは投資が継続しているので、未実現利益として課税されないと考えられるためです。

では、従来型ストックオプションの種類としては、有償ストックオプションが一番優れた発行形態となるのでしょうか?

それがそうとも言えません。理由は、有償ストックオプションではオプション価値の評価が難しく、ここがしばしば問題となることがあるためです。

有償ストックオプションは公正な評価額で時価発行されなければなりませんが、ストックオプションは株式(現物)ではなく、あくまで権利なので、株価から単純計算するのではなく、「ブラックショールズモデル」や「モンテカルロシミュレーション」と呼ばれる、デリバティブの特殊な手法を用いて価値を算定しなければなりません。

将来ダウンラウンドになった場合に失効させる条件の付与等、細かい設計も必要で、専門的な公認会計士に依頼するのが一般的です(この時価評価の妥当性が後に監査法人の監査で問題になったりすることもあります)。

その点、税制適格ストックオプションは一定の制約もありますが、設計がシンプルなので、一般従業員向けの少額ストックオプションとしては使い勝手のよさがあります。大株主(オーナー)、CXO など高額の割当をしたい人材、社外協力者など、税制適格が使えない場合には有償発行を選択する、というイメージでしょうか。

それではいよいよ本題で、「信託型ストックオプション」とは、何のために生まれたスキームなのでしょうか?

税制適格ストックオプションや有償ストックオプションといった従来型ストックオプションにはまだ解決できない弱点があるためです。大きく分けると以下の3点です。

  1. 今在籍している役員・従業員にしか付与できない。
    → 将来入社する優秀な人材に割安な行使価額でのストックオプションを付与することができない。
  2. 既発行ストックオプションと同様のインセンティブ効果を確保しようとするとストックオプションの発行規模が大きくなり希薄化してしまう。
    → 後から入社するほど条件が悪くなる。
  3. 実際の貢献度に応じてストックオプションを付与することができない。
    → 付与時点で分配比率が決まってしまうので、付与後の貢献度が期待より低く、権利行使時に評価が乖離していた場合など、フェアでなくなる可能性がある

では、「信託型ストックオプション」の具体的なスキームと、それによってどんな課題がどのように解決されるのかを教えてください。

スキームの概要については下記の図をご覧ください。

  1. オーナーと受託者の間で信託契約を締結し、オーナーが受託者に金銭を信託します。
  2. 受託者は、信託財産を受託者の固有財産と分別管理しなければなりません。発行会社は新株予約権を発行し、受託者は信託された資金を払い込みます。
  3. 信託期間中、一定の条件(プラン)に基づき、従業員等にポイントを付与します。
  4. 信託期間満了後、付与されたポイントに基づき、受託者が引き受けた新株予約権を従業員等に交付します。

このスキームの要点は、「受益者が存在しない信託である」という点です。信託税制の原則は「受益者課税」ですが、信託型ストックオプションではオーナーが金銭を信託設定した時点において、受益者が存在しない(最終的にストックオプションを付与される役員・従業員等が決まっていない)ので、受益者ではなく受託者に課税するという法人課税信託が適用されます。

この法人課税信託という特例によって行使価格を据え置くことが可能となり、将来の採用者に対して既存役職員と同条件で付与することができるようになります。

※法人課税信託

法人課税信託とは、受託者が個人であっても法人と見做して法人税法の規定を受けるという仕組です。(本来の課税対象は信託財産自体ですが、信託財産自体が納税手続を行うことが不可能なので、その事務を行っている受託者が代理納税していると捉えられ、受託者が個人でも法人税が課税されるということになります)

受託者は受託した段階で、信託財産について受贈益課税を受け、毎年法人税申告を行うこととなります。(この課税分はオーナーが最初に用意した金銭から差し引かれるため、信託設定する金額に+課税分を見込んだ金額を用意する必要があります)

ストックオプション付与対象者が確定し、「受益者が存在」するようになると、受託者から受益者へその直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとして、税制上の信託財産の帰属者が受託者から受益者に帳簿価額で移転します。しかも帳簿価額で資産負債を引き継ぎにより生じた収益は所得金額の計算上、総収入金額には算入されません。

以上の結果、ストックオプション権者によってストックオプションが行使され、株式を売却されるまでは所得税の課税は行われないこととなるのです。

また「委託者(オーナー)が受託者に一度信託して、後から配る」という信託の特性によって、誰に・どれだけ付与するかというのを、等級と査定に応じたポイントによる人事評価制度と組み合わせて判定し、実際の貢献度に即して最終的な付与時点の分配を決めることができるようになります。(設定時点にはいなかった人材にも付与することができますし、また例えば、大量に付与した人材が途中で辞めてしまいその時発行したストックオプションが無駄になる、などの事態も防ぐことができます)

つまり、「後から入社した人が不利になる」という課題を総合的に解決するスキームといえるのです。

スタートアップのインセンティブ設計に適した、素晴らしい仕組みのように聞こえますが、信託型ストックオプションならではの課題や注意点もあるのでしょうか?

このスキームではストックオプションを引き受けるための資金をオーナー自らが身銭を拠出するという特徴があり、なるべく資金負担額を小さくするため、オプション価値の評価を引き下げたいというバイアスが働きがちです。

しかし評価額の算定は後々監査や上場審査時に問題となるケースが多く、正確に行っておくことが非常に重要です。そしてその評価業務は専門家に依頼することになりますが、このコストが高額なため(500~1,000万程)、その費用の捻出も課題となります。

そのため、ストックオプションの特性と利点を考えると、できるだけ早い段階で設定をしたほうが望ましいのですが、評価業務にかかるコストを用意する為にはある程度の資金調達が行われるタイミングまで待たなければならないケースもあるでしょう。

また、受託者に誰を設定するのかという点において、前述のスキーム図では、一般的な信託の受託者として信託銀行の名前が入っていますが、非上場会社の信託型ストックオプションの信託においては、コストや規模の観点から信託銀行による商事信託(営利目的をもった反復継続的信託活動)ではなく、民事信託(単発無報酬で受託可能)とするため、多くの場合顧問税理士に依頼することになります。

この際、依頼する顧問税理士は信託の意味や受託者の義務責任を理解し、信託事務を行うことのできる能力を有する方である必要がありますし、また、既に他社の信託型ストックオプションで受託者になっている人は避けるため(複数回受託者をすると信託引き受けを業としているのではないか疑義が生じる可能性があるため)、受託者の選定においても一定の注意が必要です。

最近時折耳にする「信託型ストックオプションを発行したために株式上場できなかった」という噂に関しては、どうでしょうか?

東証、証券会社、監査法人等の統一見解として、信託型スキームそのものを NG としている訳ではないと思います(担当者レベルで批判的な人はいると思いますが)。信託型ストックオプションを認めてもらうためには信託組成が適切に行われていることと、ストックオプションの行使価格やオプション価値が公正に評価されていることが大前提となりますが、この点で個別具体的に問題が発生している事例があるのではないでしょうか?

※ 信託型ストックオプションを発行した後に上場した実際の事例

実際上場事例も増えてきており、特定の監査法人が信託型ストックオプションを無条件で門前払いしているということも無いと思われます(一方で、下記の証券会社や監査法人で信託型ストックオプションについてNGを出した事例も存在はするようです。)。

なお、証券会社や監査法人の担当者によっては信託型ストックオプションについて詳しくないこともあり、単純に「難色を示される」ということはありそうです。

スキームそのものが NG というわけではないけれども、実際審査時に問題となった事例もある、ということで、具体的にはどのような点が問題となるのでしょうか?

まず信託組成時の適切性として、受託者=受益者というような法人課税信託の要件を満たさないような信託組成を行わないことです。受託者自らが受益者になったりしますと、証券取引所や監査法人からNG指摘を受けることになるでしょうし、スキームの肝である法人課税信託という課税上の取り扱いも否定されるでしょう。
また、オプション評価業務を行う公認会計士も、受託者や受益者の立場にならないよう注意が必要です。受託者は専ら受益者のために行動しなければなりませんので、利益相反するような関係を絶対に回避すべきです。

さらに、オプション評価の公正性に関して、会計基準に即した注意点もあります。前項で出てきた「オーナーの資金負担額を減らしたいという動機」の為に、ストックオプションの評価に業績条件のノックアウト条項(一定の場合に権利が消滅する)が付されるケースがありますが、会計基準上、業績条件は公正な評価単価の算定上は考慮しないもの(失効数の見積もりに考慮すべきもの)とされています。

業績条件とは例えば、「〇〇〇〇年〇〇月期及び〇〇〇〇年〇〇月期の営業利益がいずれも〇〇〇百万円を超過した場合、各新株予約権者に割り当てられた新株予約権の数の〇〇%を限度として行使することができる。」といったものですが、このような業績条件は、新株発行による希薄化を懸念する既存株主の不安を払拭する効果がある一方、信頼性のある公正な価値評価であるかどうかという点において会計基準上の議論があり、将来的に規制が行われる可能性もあると思われます。


信託型ストックオプションの利点と注意点について、大まかに理解することができました。

信託型ストックオプションは、従来型ストックオプションの弱点を補うものではあるけれど、設計が複雑で注意点があり、またコストも大きいことから、従来型と上手く組み合わせて活用していくというイメージをもちました。

さらに、実際の貢献度に即した付与割合を後から決めることができるという点は、評価という点でフェアである一方、会社の規模的にまだ人事評価制度が未熟な時点では適用しづらく、また、フェアであるが故に入社スカウト時に特別条件として破格の付与数を約束する、というような恣意的なインセンティブは通用しないことになるのではとも思いました。

日々規制が変わる新しい仕組みでリスクがあることもあり、検討の際にはノウハウのある専門家への相談が必須といえるでしょう。(小原)

大手「30代社長」に見る新規事業づくりの可能性ーーデロイトトーマツベンチャーサポート斎藤氏

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はデロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)の代表取締役社長、斎藤 祐馬さんに登場いただきます。2010年に同社立ち上げに参画し、2019年から現職に就任されています。 大手企業とスタートアップを「朝につなぐ」Mornin…

デロイト トーマツ ベンチャーサポート代表取締役社長、斎藤祐馬氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はデロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)の代表取締役社長、斎藤 祐馬さんに登場いただきます。2010年に同社立ち上げに参画し、2019年から現職に就任されています。

大手企業とスタートアップを「朝につなぐ」Morning Pitchを2013年から開始し、毎週木曜日の朝7時から累計で1,700社以上の企業が登壇、毎回数百人を集める人気企画となりました。2010年代のスタートアップエコシステムはまだ若く、特に大手とスタートアップという枠組みは手探りの状態でした。Morning Pitchが朝7時という早朝に始まったのも、こういった企画への参加に体制を整えている企業は少なく、本気度さえあれば、「業務外」でも参加できる集まりとしたかったからだそうです。

企画開始から約8年、350回以上のステージを経て斎藤さんが掴んだ手応えと見えてきた世界観とはどのようなものだったのでしょうか。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中敬称略)

若手企業内人材の「強み」

斎藤さんとの会話で確認できたのは大手企業の新規事業への取り組み、特に他社との協業による「オープンイノベーション」に対する考え方の変化です。新規事業は大きく分けて社内で作るか、他社を買ってくる(M&A)かのいずれかでした。ここに第三の手法として「協業」をもう少し先に進めたオープンイノベーションの誕生が2010年代のひとつの特徴です。

アクセラレーションプログラムのような短期集中型の企画や、Morning Pitchといったマッチングイベントが多数開催されたことでこの活動が広く認知されることになります。変化は携わる人々に反映されていきます。起業家や大手企業内の新規事業、ジョイントベンチャーなどに関わる人たちの数や質が上がってきたのが2014年頃からです。

やはり大手企業の人材の質は変わりましたよね

斎藤:私もNewsPicks NewSchoolで「大企業30代社長創出」という講座を実施しているのですが、特徴的な技術力を持つ方もいらっしゃるんですよ。伝統的な重工業のような企業の中のエースみたいな方たちがいらっしゃって、実際に起業されたんですが最初から高い評価が付くんですね。

起業なんて一度も考えたことなかったけど、企業の中で社長をやるということについては興味があって講座にやってきて、いざやることを考えたらこれは起業した方がいいなと考えられて起業された方もいます。それ以外にも元々海外で博士号を取っていてグローバルでも戦える研究者とか、そういう方って以前のスタートアップにはいなかったと思います。

2040年に時価総額トップ10を塗り替えられるかってひとつの大きな基準だと思うんです。米国では20年以上前から優秀な方が起業した結果としてGAFAMができたわけですから、日本でもこういったトップオブトップの方が起業し始めているので、10年後・20年後が楽しみですよね。

大手企業出身の人材の強みってどこにあると思いますか

斎藤:成功体験や経験があるのに大金を手にしているわけでもなくハングリー精神が強い、っていう状況が特徴的だと思うんです。大手企業の中で新規事業を経験したことがある人ってここに当てはまることが多く、構造的に経験があった上でハングリーでいられることが成功につながる鍵だと感じています。日本は上場しやすい環境なので創業者利益を得た結果、モチベーションを保ちづらくなることも多い。

起業の成功のポイントは事業と人と資金の三つだと思いますが、これを子会社社長で一定割合経験できるのも大きいですよね。資金面は確かに自分の持ち出しでやるわけではないので、自分で起業した場合、初めてのケースになるかもしれません。しかし、事業と人のところはとても近い。例えば一回100人の組織を作った経験があれば、スタートアップした後にも同じようなことが起こるわけです。確実に挑戦しやすくなると思います。

変化した大手企業のオープンイノベーションへの取り組み

人々の考え方が変化し、大手企業にいることがローリスクでなくなりつつある今、彼らのキャリアに新たな選択肢としての「起業」が生まれ始めています。そういった状況の中で、大手企業でのキャリアを捨ててスタートアップに挑戦する起業家たちが上場していったのはご存知の通りですが、大手企業出身で社内起業を成功させるケースも目立ち始めました。

例えばJR東日本とサインポストの合弁会社「TOUCH TO GO」の阿久津 智紀氏はJR東日本出身の30代社長ですし、三井住友フィナンシャルグループと弁護士ドットコムが出資した「SMBCクラウドサイン」代表の三嶋 英城氏も同じく30代で三井住友フィナンシャルグループ出身です。

ここで課題になるのが制度設計です。オープンイノベーション的な新規事業の作り方で必要なのは子会社の箱ではなく、起業家に匹敵する優秀な社内人材をいかにして発掘し、モチベーション高く打席に立たせ、時として適切に撤退する「ルール」が必要です。斎藤さんは自身の経験を含め、最初の一例目を作ることが大切と振り返ります。

こういった社内起業の場合、最初の制度づくりが大変そうですが何か型のようなものってありそうですか

斎藤:もちろん成功しやすい制度設計はあります。ただ、一番大事なのは最初の事例を創ることです。例えば我々もデロイトトーマツの社内ベンチャーとして一つの形を作ることができた面があり、その経験を基に社内新規事業制度を運用しているのですが、事例が明確だと公募の数も集まりやすく成功事例をインキュベーションしやすい構造になっています。

なので、最初の事例を創り切ることが何より重要だと思います。加えて、エコシステムって言葉があるじゃないですか。エコシステムの本質って『何か自分でもできるかも』って思わせることだと思うんですよ。スタートアップって俺も頑張ればなんとかなるっていう文化があると思うんです。これまで大手企業にはそのベースが薄かったけれど、今は以前より身近に存在するようになっています。

この動きを加速させるコツって何でしょうか

斎藤:ここ近年で事例がやっと出てきた感じで、2回目、3回目は早いですよね。1回目が大変なんですよ。デロイト トーマツの社内起業制度でも今、3つほど事業が立ち上がっていて事例が出てくるとどんどん優秀な人が集まる。一度でも身近な人が事業を作ると連鎖が起こるんですよね。

あと難しいのが資本政策やインセンティブの設計ですよね。100%子会社のままではどうしても一事業部門のような感じで終わってしまう。ストックオプションなどのインセンティブの設計も自由度が少ないですよね

斎藤:そうですね、本当に企業として大きくしていこうとなった時、親会社がリスクマネーを支えきれないケースが多いです。そうなると他の大手企業を巻き込んで資金を入れてもらうとか、提携するなどの動きが必要になる。外部資金が入れば、必然的にその株式の「出口」を必要とすることになりますから上場という選択肢が出てきます。

100%子会社でできるなら本体事業としてやればいいという考えもあり、最近は最初からジョイントベンチャーで始めるケースも多くなっていますよ。あと、先ほどお話した30代社長の集まりでもいろいろな企業の30代社長がやってきてノウハウの交換をしています。ストックオプションを持たせるにはどうしたらいいか、とか、そういうノウハウはこれまでにはあまりなかったんですよね。こういった具体的なノウハウをコミュニティやコンサルティング、政策立案支援など様々な方法で広げていきたいです。

もう少し大きな枠組みで、国の支援制度などもいくつか出てきていますよね。この辺りの制度設計で必要なものって何があるでしょうか

斎藤:国や行政には応援と規制の両側面がありますよね。スタートアップへの応援という視点では機運が高まってこの言葉自体がメディアにも出てくるようになりました。これはこの10年ですごい進捗だったと思います。一方で、規制についてはまだまだ物足りないですよね。スタートアップって規制が緩和されたその瞬間にどんどん生まれてくるという側面がありますが、そこがなかなか進んでいない。

これはスタートアップが輩出する政治家がもっと増えないと変わらない面もあります。フィリピンやインドネシアといった国ではユニコーン企業を作った起業家が大臣になり政治の世界へ転身するケースがありますが、国内でも実業家の方々が政治家になるようなルートがどんどんでき、社会を変えていくような流れを仕掛けていきたいと思います。

ありがとうございました

インフルエンサーとNFTの架け橋になるか、Cameoの可能性/GB Tech Trend

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 ユーザーが有名人からの動画メッセージを購入できるプラットフォーム「Cameo」が、シリーズCラウンドで1億ドルを調達しました。今回のラウンドを経て、同社はユニコーンのステー…

1億ドル調達を発表した「Cameo」。Image Credit:Cameo。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

ユーザーが有名人からの動画メッセージを購入できるプラットフォーム「Cameo」が、シリーズCラウンドで1億ドルを調達しました。今回のラウンドを経て、同社はユニコーンのステータスを獲得しました。

累計調達額は1億6,500万ドル以上。e.venturesがリードし、GV(旧Google Ventures)、AmazonのAlexa Fund、UTA Venturesなどの新たな戦略的投資家、SoftBank Vision Fund 2、Valor Equity Partners、Morgan StanleyのCounterpoint Global、既存投資家であるLightspeed、Kleiner Perkins、Spark Capital、Peter Chernin’s Chernin Group、Origin Venturesらが参加しています。

Varietyによると、これまでにCameoがファンのために制作したタレントビデオは200万本以上にのぼり、そのうち約80%は他人へのプレゼント(誕生日、お祝い、ローストなど)として予約されているそうです。2020年には、約1億ドルの総売上高(前年比4.5倍)を達成し、平均注文額は約25%増の約70ドルになったとのこと。また、過去3年間の合計を上回る130万件のメッセージを配信し、1万人以上のコンテンツプロバイダーが新たにCameoに参加。さらに、昨年は150人以上のパーソナリティが10万ドル以上の収入を得ています。

元々、Cameoの共同創業者であったDevon Townsend氏は短尺動画プラットフォーム「Vine」でファンを抱えていたインフルエンサーでもありました。同氏がファンコミュニティがどのような形で運営されているのかなどをよく知っていたことから、Cameoを正しいアプローチで立ち上げられたと言えるでしょう。

今でこそ名だたるインフルエンサーが参加しており多額の取引が発生していますが、サービス立ち上げ当時は5〜10ドル前後であれば課金してくれる「忠実なファン」を抱えるマイクロインフルエンサー獲得を戦略軸に据えていました。

Cameoがターゲットとしてたインフルエンサーは、高い意欲(Willingness)を持っていながら名声(Fame)は持ち合わせていない層の獲得を狙いました。こうした層は熱量の高いファンを往々にして抱えています。そこでインフルエンサーとファンを芋づる式に抱え込む「プロデューサー・エバンジェリズム・ストラテジー」と呼ばれる利用者自らが顧客を連れてくる拡大戦略に打って出ます。

さて、Cameoは盤石なインフルエンサーが稼ぐための収益プラットフォームを築きつつあります。「Fan Club」や、直接映像電話で話すサービス「Cameo Calls」を立ち上げる多角化にも意欲を見せています。ただ、それ以上に昨今のコレクタブル市場との相性に商機があると感じます。 最近話題となっている「NFT(Non-Fungible Token)」を活用したコンテンツ流通戦略がそれです。Cameoで取引される動画コンテンツは、唯一無二であることが絶対条件となるもので、インフルエンサーがその人だけのメッセージを込めることで価値が発生しています。コピーは認められません。

ブロックチェーン上にデジタルコンテンツの取引履歴を記録・公開でき、該当コンテンツが絶対的に唯一性を持っていることを証明できるNFTを組み込めば、Cameoのコンテンツを市場流通させる際に価値を裏付けすることができます。現にCameoのユーザーは自分がお金を払って受け取ったコンテンツをSNS上に公開していることから、コンテンツ流通志向を持っていることがわかります。NFTとしての取引も大いに行われることが予想されます。

現在はコンテンツ作成を依頼する際に料金が発生するモデルのCameoですが、今後はメッセージ動画作成依頼の業態から、NFT売買プラットフォームへと業態を変化させられる可能性を秘めます。インフルエンサーがデジタルNFTを取引できるプラットフォームになれば、いずれは「メタバース」や「バーチャル経済」にも繋がるサービスへと進化しそうです。

今週(3月29日〜4月3日)の主要ニュースへ

検索もサブスク、チャンスは「プライバシー」にあり/GB Tech Trend

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 過去20年間、様々な検索エンジンがGoogleに対抗しようとしてきましたが、Microsoft「Bing」を含め、ほとんどが市場シェアを取れずにい…

新たに4,000万ドルの調達を果たした「Neeva」。Image Credit: Neeva

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

過去20年間、様々な検索エンジンがGoogleに対抗しようとしてきましたが、Microsoft「Bing」を含め、ほとんどが市場シェアを取れずにいました。他方、「DuckDuckGo」に代表されるプライバシーを重視した検索プレイヤーなども出てきており、Google検索とは違う方向性が採用されていく可能性を示唆しています。

先日4,000万ドルの調達を果たした「Neeva」もその一つ。同社は各種検索窓口と連携する、Add-on型の検索サービスとして活躍が期待されています。創業者は元Googleで検索広告事業部にいたSridhar Ramaswamy氏です。

同氏はGoogleの検索結果は広告企業のものが優先的に表示され、ユーザーが本当に求めるコンテンツがなかなか探し出せないことに疑念を感じ、Neeva開発に至っています。

Neevaは既存コンテンツおよびデータソースと連携して動く仕組みです。Bingのような検索サービス、Apple Mapsに代表される地図アプリ、メールアプリ、ローカルドキュメントなどの個人ファイルの検索窓口とも連携し、ウェブ検索結果やアクション候補を表示します。

Google検索との大きな差別化点は3つ。プライバシーを重視している、広告を持っていない、サブスクリプションベースである点です。

先述したように、Googleは広告収益を軸にしているため、検索アルゴリズムの上位にアド結果が表示され、ユーザーにとって最適な体験となっていませんでした。そこでNeevaは月額10ドル前後の有料サブスクから収益化を図ろうとしています。また、ユーザーデータが追跡されることはなく、パーソナライズ検索結果が返ってくる仕組みを採用しているとのことです。

「Authentic Search(本物の検索)」+「Integration(連携)」+「Privacy(プライバシー)」の3つを提供価値として成長させていくプロダクト戦略であることが伺えます。

個人情報を犠牲にして無料サービスを提供しているGoogleやFacebookに対し、消費者が不平・不満を口にしていても声は届かず、これら大手企業が依然として支配的なポジションにあることに変わりはありません。他の検索エンジンが、プライバシー性の高さを武器に参入していますが、未だGoogleを脅かしてはいません。こうした背景を基に、自らの経験を活かして新規参入するのがNeevaです。

市場を広く見渡すと、検索サービスで急成長している企業は多い印象です。たとえば「Algolia」は、サイト内検索サービスを手軽に立ち上げられる開発者向けサービスを展開しています。Google検索の及ばない各サイトにおける情報整理をミッションに成長を続けています。

このように、一言に「検索」と言ってもまだまだ参入領域が残っています。誰しもがデジタルデバイス上でおこなう「検索体験」に注目したNeevaがどこまで成長しきるのか、はたまた競合他社と同じく結局中途半端な結果に終わるのか、市場が注目しています。

今週(3月22日〜3月28日)の主要ニュース

5Gで警備人材不足の解消へ、鍵は警備ロボの「視力向上」ー三井不動産とSEQSENSEが実証実験

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 KDDIと三井不動産、無人警備ロボット「SQ-2」を展開するSEQSENSE(シークセンス)の三社は2021年3月16日、事業共創の取り組みとして5G通信とロボットを活用した警備の省人化に関す…

写真左から:SEQSENSE事業部マネージャーの笹井仁氏、代表取締役社長の中村壮一郎氏、三井不動産商業施設本部 施設管理部統括の添田実氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

KDDIと三井不動産、無人警備ロボット「SQ-2」を展開するSEQSENSE(シークセンス)の三社は2021年3月16日、事業共創の取り組みとして5G通信とロボットを活用した警備の省人化に関する実証実験を完了しました。埼玉県富士見市にある商業施設「三井ショッピングパーク ららぽーと富士見」にて実施されたもので、本来人が目視で確認する商業施設内の異常を、SQ-2の自律走行警備にて細部にわたり確認できるかを検証しています。

事業共創プログラム「∞(ムゲン)の翼」のプロジェクトとして実施されたもので、KDDIは館内に5G環境構築と機器を提供し、三井不動産とSEQSENSEが中心となって商業施設における警備省人化に必要な検証データや各種フィードバックを取得しています。

今回の取り組みについて、三井不動産の添田実氏と、SEQSENSE代表取締役社長の中村壮一郎氏、事業部マネージャーの笹井仁氏にお話を聞きました。

施設における警備の課題

今回の実証実験に投入されたSEQSENSEのSQ-2は、これまでにもオフィスビルの自律走行型警備ロボットとして実績を積んできた筐体で、今年2月には東京都庁でも導入実験を実施、予め決められたルートの自律巡回や指定場所の写真撮影、ロボットに搭載されているカメラ映像のリアルタイム監視などを検証しています。全高約1,3メートル、重さは65キログラムの筐体で、大手町ビルヂングや成田空港第三ターミナルへの導入実績があります。

「警備に限らず施設の管理業務全般に言えることですが、求職者が非常に少なく、この5年くらいは人手不足が顕著になってきました。一方で商業施設事業として成り立たせるためには、管理コストの上昇も抑えていく必要があります。そういった状況の中で安全安心を提供し続ける品質維持が、非常に大きなミッションになっています」(添田さん)。

警備の仕事はさまざまありますが、基本となる内部巡回では、不審な人がいないか、防災設備に問題がないかなどを目視で確認し、問題を未然に防いでいます。さらに商業施設では、迷子の対応や交通誘導、落とし物の受付など幅広い仕事が発生します。広大な商業施設の巡回は館内を歩いて回る必要があり、時間を要する仕事です。SQ-2がこの部分を代替してくれることで、ロボットが巡回している間に落とし物台帳登録などの事務処理を済ませるといったマルチタスク処理が可能になる、というわけです。

「SQ-2は自律走行の精度が高く、館内くまなく巡回できるのを確認しました。以前の巡回時と違うことが起きていたらアラートを出せる機能もあり、ずっと目視で映像を見ている必要もありません。人間が巡回することにかなり近いことが実現できると感じています」(添田さん)。

自律移動型のセキュリティロボット「SQ-2」

実はオフィスビルと商業施設では同じ警備業務でもかなり勝手が違うそうです。新たなチャレンジとなった点をSEQSENSEサイドはこのように説明してくれました。

「オフィスビルでの実績は増えてきていますが、警備ロボットにとって大きなマーケットである商業施設へも進出を目指しているため、ららぽーとでのトライはよい機会でした。今回の走行試験で当社のロボットがこれまで事業を展開してきたオフィスビルよりもはるかに人通りが多い環境で安定した走行を実現したことは大きな自信になりました。一方で、商業施設で発生するテナントの入れ替え・レイアウト変更、オフィスビルにはない施設の広大さがロボットが自律走行に利用する3次元地図の編集作成作業に影響を与えるという、新たな課題も見えてきました」(笹井さん)。

5Gが可能にする「視力向上」の理由

ららぽーと富士見での実証実験では、このSQ-2が持つ「目」の解像度を上げる検証も行いました。SQ-2は元々4G/LTE回線を使い、遠隔への映像・画像送信を行います。巡回中に撮影した消火器などの状態をリアルタイムに防災センターから確認しています。

一方、こういった広大な館内における通信には環境の問題がつきまといます。SQ-2は元々高精細な画像を送信することができる筐体なのですが、送信する際の通信環境が悪ければそれに合わせた圧縮レンジの画像を送る仕様になっており、施設を5G化することでつねに高精細な映像の配信が可能です。

実は警備に必要な画像には思っている以上に高精細な情報が必要となります。巡回業務で目視確認しているものは、消火器に貼られた5センチくらいのラベルの情報や小さな落とし物、こぼれた飲み物など多岐にわたるためです。

「現状では、どうしても細かい部分は映像からは見づらいと言われており、5Gには一定の効果があると感じました。また通信が早くなることで、いまロボット側で処理していることをクラウド側でできるようになると、ロボット側のCPUを下げられ、価格を下げられる可能性があると考えています。一方で、高画質化によっては録画画像の保存容量が増えるなど、新たな課題も浮き彫りになりました」(笹井さん)。

今回の検証を通じて商業施設における警備の省人化、5G環境の有用性や課題が見えてきました。結果を踏まえ、3社では引き続き商業施設における警備省人化に向けた事業共創の取り組みを継続していく予定です。

「高精細な映像で遠隔から確認できるとなると、今後、より足回りが強化されたり、屋外対応したりすることで、利用シーンが増えていくことは期待したいですね。たとえば万が一地震などの災害が発生した際、人間より先に館内を巡回させるなどを検討しておきたいと考えています。天井から何か落ちてこないかなど、先にロボットで館内状態を高精細な映像で確認できれば、危険を避けることができます。また、外部の庭の夜間不審者対応も危険が伴う業務であるため、通常2~3人で行かざるを得ない状況です。そこをまずロボットが行くようなことができるといいと考えています」(添田さん)。

「SEQSENSEは会社の第一歩としてまずは警備の分野に取り組んできました。今後もより安全により動くものを作っていきたいと思っています。さらに、施設管理においては警備以外も人手不足が深刻です。さまざまな分野のサービスロボットを、大企業への技術提供による協業も含め、取り組んでいきたいと考えています」(中村さん)。

 

未来の働き方はワーク・オンデマンド、その方法を提供する世界のスタートアップをご紹介【ゲスト寄稿】

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。 This article was first published in Entrepreneur APAC. <関連記事> 世界的な「後払い(Buy Now…

本稿は、Golden Gate Ventures のマネージングパートナー Vinnie Lauria 氏による寄稿だ。「Entrepreneur アジア太平洋版(オンライン版)」に掲載された記事を、執筆者と発行者の了解のもと翻訳・転載する。

This article was first published in Entrepreneur APAC.

<関連記事>


「ギグ・エコノミー」から「ギグ」という文言を削除する時が来ただろうか? ほとんどの電話がスマートになった今、誰も「スマートフォン」とは言わななった。そして今、私たちは、オンデマンドで必要に応じて仕事をすることが、仕事の未来だと思われる段階に来ている。すべての仕事ではなく、多くの仕事でだ。マッキンゼーの調査によると、61%の企業が今後数年の間に、より多くの短期労働者を雇用することを期待している。他の調査によると、専門職からブルーカラーの仕事まで、あらゆるカテゴリーでこの慣行が増加している。

市場の変化に柔軟に対応したいという雇用主のニーズと、それに合わせて仕事をしたいという人々のニーズや欲求——そんな2つの力がこのトレンドを後押ししており、その影響はスタートアップの領域で顕著に見られる。多くの新興企業が成長のために柔軟な人材を求めている一方で、必要な人的資源を提供し、サポートする企業も現れている。

東南アジアの VC である当社は、ASEAN10ヵ国で起きているこの現象を目の当たりににしている。このような動きは、モバイルテクノロジーを中心とした急速な近代化と、それに耐えうる伝統的な制度とが融合した、世界の中でも多様性に富んだ地域で独自に展開されることが多いのだ。匿名の例を挙げてみよう。新興企業 A 社は、2億7,000万人以上の人口を抱える広大な国インドネシアでモバイル決済アプリの普及に努めている。そのためには、道端の小さな屋台から実際のレストランまで、地元の飲食店を経営するワルンと呼ばれる業者を取り込むことが重要だった。ワルンは国中に存在するため、決済プラットフォームに登録するには、特定の地域を直接訪問する必要がある。そこで、オンデマンド人材派遣会社であるスタートアップ B 社が、数日後にはチームを結成して対応にあたった。

新しい人材派遣業は、オフラインとリアルの仕事をマッチングさせるマーケットプレイスを中心に展開されている。しかし、このような働き方を実現するためには、フレキシブルなスタッフを管理するためのツールや、最も需要の高い仕事のために労働者を訓練するなど、他の要素も必要だ。ここでは、世界と東南アジアの5つの産業分野における代表的なプレイヤーとビジネスモデルをご紹介する。

オンデマンド・スタッフィングのマーケットプレイス

Image credit: Upwork

企業がフレキシブルなスタッフィングを利用する理由の一つに、定期的なプロジェクトワークへの対応がある。これには Web 開発者やグラフィックデザイナーなどのホワイトカラーが関わっており、このような人材を対象としたオンラインマーケットプレイスの代表的な存在がアメリカの Upwork だ。人手を必要としているクライアントは、このサイトにプロジェクトを掲載し、その仕事に応募してきたフリーランサーを面接して選ぶことができる。

東南アジアのマーケットプレイスのスタートアップの多くはそれぞれ異なる、ブルーカラーやグレーカラーの仕事のニーズが多いからだ。マレーシアの GoGet は、興味深いダブルプラットフォームモデルを採用している。「ビジネス」ポータルでは、労働者からデータ入力スタッフ、展示会のヘルパーまで、さまざまな労働者をオンデマンドで提供しており、「ホーム&ライフ」ポータルでは、個人の買い物客、家事手伝い、列の立ち番などを個人で雇うことができる。一方、インドネシアの Sampingan(Golden Gate Ventures の投資先)は、企業の顧客にターンキーアプローチを提供することに重点を置いている。同社は、オンラインマーケティング用のナノインフルエンサーを含む、非常に幅広いブルーカラー/グレーカラーの労働者を擁し、ワークマネジメントツールとサービスを一式で提供している。後者は、それ自体が重要な製品ラインとなっている企業もある。

スケジューリングとスタッフ管理

クライアント企業にとって、フレキシブルなアワーリーワーカーの活用は、サラリーマンの場合よりも難しい。一人一人が特定の時間にしか働けないこともある。しかし、全員を効率的に採用し、必要に応じてチームでスケジュールを組み、給与支払のためにタイムレコーダー管理を行わなければならない。アメリカの WurkNow は、ブロックチェーンを利用したモバイルベースのシステムを提供している。

ベトナムでは、サムスンのようなグローバル企業からの受託製造が経済の大きな部分を占めている。スタートアップの Viet.co は、中小企業向けにオンデマンドの労働者と管理ツールを提供することで、ニッチな分野を開拓している。シンガポールに拠点を置く StaffAny は、会社の垣根を超えて働くことを可能にする管理スイートを持っている。これにより、ワーカーは仕事の機会を組み合わせて働くことができ、同時に ASEAN 全体の労働力をより流動的にすることができる。また、インドネシアの AdaKerja は、スケジューリング、給与計算、リクルーティングを1つのサービスにまとめ、これらの付加価値サービスを融合させている。

賃金への早期アクセス

欧米でも東南アジアでも、給料日までの生活を余儀なくされている労働者には、早期賃金アクセス(EWA)プログラムが人気だ。EWA には、プレペイデイ・ローン(給料日前貸出)を低金利で利用できるものと、これまでの労働時間に応じてお金を受け取ることができるものがある。アメリカでは、BranchPayActiv などの企業がこの分野の初期のリーダーだ。ASEAN のスタートアップでは、GajiGesaWagelyGajiku などが有名だ。

EWA サービスは通常、バンドルの一部として提供される。例えば Branch は、EWA とスケジュール管理や給与管理を統合したエンタープライズパッケージを販売している。PayActiv や Wagely などは、従業員が自分で予算を計画・管理できる「ファイナンシャル・ウェルネス」システムを提供している。

国境を越えた仕事の円滑化

今月初め、Papaya Global は1億米ドルを調達しユニコーン入り。それを祝して、NASDAQ MarketSite に社名が表示された。
Image credit: Papaya Global / NASDAQ

海外での雇用は、バーチャルなリモートワークの容易さと、経済のグローバル化が大きな要因となっている。我々の VC はシンガポールに本社を置いているが、ここでは世界中の人々が仕事をしているし、東南アジアの人々は家と仕事の間で物理的に国境を越えることも珍しくない。このような形態は、人材を確保するには最適だが、各国の雇用規制に対応するには頭痛の種となる。

アメリカの Deel やイスラエルの Papaya Global は、このような複雑な問題に対処するために設立され、それぞれ140カ国以上のコンプライアンスに対応している。シンガポールに拠点を置く Multiplier は、ASEAN 企業の国境を越えたコスト削減と人材アクセスの拡大を専門としており、これは東南アジア全域で成長しているスタートアップにとって非常に重要なニーズだ。

職業訓練

アメリカを拠点とする Lambda School は、コーディングやデータサイエンスのオンラインキャリアプログラムを提供しており、革新的な延納モデルを採用している。公務員が重要な雇用手段である中国では、Offcn Education Technologies(中公教育)が、公務員試験の準備やトレーニング、教員養成、職業訓練などのコースを提供し、ユニコーンの地位を獲得している。

ASEAN 諸国の政府は、オンデマンド・ワークへの支持を強めている。インドネシアでは、2020年の「オムニバス法案」で労働法を緩和し、迅速な臨時雇用を可能にしたほか、新型コロナウイルスによる経済的影響からの回復を早めるための大規模なプログラムを開始した。失業者は、近い将来の社会的支援と再就職のためのトレーニングを受けることができる「prakerja(就職前)」アカウントを取得できる。

prakerja プログラムは、人々を支援すると同時に、スタートアップのエコシステムを刺激するという二重のメリットがある。Kitalulus のような新しい企業がトレーニングを実施するために設立され、既存のスタートアップも後押しされている。急成長中のエドテック企業 Ruangguru は、初等・中等教育科目のオンライン家庭教師や自己学習用のモバイルプラットフォームを持っている。現在は、企業向けのトレーニングプラットフォームの提供にも乗り出している。コアラインと新ラインの両方が成長し続ければ、小学1年生からミドルエイジのキャリアチェンジまで、あらゆる段階でモバイルベースの学習を提供できる企業になるだろう。

結論

アウトソーシングは世界をフラットにした。オンデマンド・ワークは次の進化だ。理想的には、すべての人にとって経済がより効率的かつ効果的になることだ。

東南アジアでは、オンデマンドのスタートアップは課題を抱えている。例えば、優秀なトラックドライバーや倉庫作業員が履歴書を持っていないような地域では、ブルーカラーの労働者を事前に確認することは困難だ。しかし、ASEAN にはイノベーションを生み出すための多くの利点がある。この地域は巨大(総人口約7億人)かつ成長しており、モバイルフレンドリーだ。また、シンガポールだけでも4つの公用語を持つなど多様性に富んでいるため、スタートアップは設立当初から多彩な成長モードに入ることができる。未来の仕事の形が見えてきたとき、その多くが東南アジアで生まれてくることを期待している。

本稿の執筆には、Nidhi Singh 氏の協力を得た。

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出すROADCASTプロジェクト、ヘラルボニーと東急が共創

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本…

写真左から:ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さん、東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

近年、企業活動において社会的な要請への対応がより強く求められるようになりました。SDGsにまつわる環境や福祉、ダイバーシティへの理解と行動など、利益と企業価値の向上だけでは見えてこない「人間本来の権利や生活に関わる取り組み」を企業は無視することができなくなりつつあります。

一方、こういった取り組みにはアイデアが必要です。今回ご紹介するヘラルボニーと東急の共創事例は、人と社会、企業それぞれが持っている課題を和らげつつ、持続可能な取り組みとしてまとめることに成功しています。街のビルボードをアートに変える取り組みについて、ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥さんと東急のフューチャー・デザイン・ラボ事業創造担当の片山幹健さんにその裏側をお聞きしました。

まちづくりに「障害のある作家のアート」が染み出す

街の中に溢れる屋外広告のスペースを出稿したい広告主とマッチングするプラットフォーム、それが東急の展開する「ROADCAST」です。この広告スペースに出稿がない空き期間をアートで華やかに演出しようというのが、今回の「Wall Art MUSEUM STORE」プロジェクトになります。

一方、タッグを組んだヘラルボニーは知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを元に事業を展開するスタートアップです。今回の共創プロジェクトでは、東急の管理する壁面広告の「空き枠」にヘラルボニーが管理するアートを配置しよう、というものでした。

もう少し具体的に説明すると、通常、壁面広告には下地となる枠があります。ここは空いている期間に何も表示されないか、空き枠募集の電話番号などが記載されることが多くなります。当然ながら見た目は悪く、空いている期間が長いと人気がないような印象を持たれてしまいます。

「Wall Art MUSEUM STORE」作品

東急や壁面広告枠を提供する不動産事業者にとっては、広告出稿がない期間も壁面を華やかに演出できると同時に、福祉への取り組みに協力することもできます。また、ヘラルボニー側も預かる作家の作品を一人でも多くの人々に届けることができるようになる、というわけです。

アイデアなのはここで作家の作品を買えるような導線を作ったことです。

QRコードを掲載してそこからオンラインストアで、アート作品をプリントしたグッズなどを購入できる仕組みなのですが、松田さんのお話では直接ここからやってくると同時に、街中でヘラルボニーの作品を知った人たちが自然とサイトに集まるようになったとされていました。片山さんはプロジェクトの狙いをこう語ります。

「売上の一部はアーティストと福祉施設に還元され、福祉分野の経済的活性化につなげます。渋谷、原宿、表参道、虎ノ門、新宿、銀座など約40箇所から開始し、今後もウォールアートを増やしていく計画です。開始から約3か月で300件ほどのQRコード読込があり、そのうち約30%が商品の購入ページに遷移しています。

ROADCASTは、屋外広告という切り口で街のちょっとした空きスペースを活用して街の価値向上につなげていく事業です。景観を害するものとして街の嫌われ者だったり、効果測定が難しくただただコストのかかる広告媒体だった屋外広告の可能性を追求し、アート展示など街の賑わい形成につながるメディアとしての整備やDX推進による効果測定の仕組み化など、街にとっても広告主にとってもWin-Winな存在を目指したいです」(片山さん)。

東急アクセラレートプログラムでの出会い

壁面アートからグッズを購入できる(ヘラルボニーのECサイト)

両社の共創は、東急が実施するアクセラレートプログラムにヘラルボニーが参加したことで始まります。

「元々ROADCASTは、落書きに悩む壁を中心に街中の数十~百箇所で広告を同時展開し、街の賑わい形成や落書き抑止という街への貢献を意識して展開をしていました。一方で殺風景な壁に戻ってしまう広告未稼働時がもったいないと感じており、持続可能な形で街や社会に貢献できる活用方法を模索していたんです。そんな折、ヘラルボニーの全日本仮囲いアートミュージアムという取り組みをお伺いし、それを発展させる形で、街をまるごとミュージアムショップにできないかというアイデアをヘラルボニーさんと話し合いました。期間限定のイベント的にアートを展示して終わりではなく、持続性のある展開としてじわじわと街中にウォールアートを増やしつつ、ウォールアートからECへと誘導して物販収益につなげているのがポイントです」(片山さん)。

街全体をアートミュージアムにしよう、という方向性はすぐに固まるものの、屋外でヘラルボニーのアートを展示すると施工コストが大きくなってしまいます。福祉という観点ではよい取り組みも持続性がなければイベントで終わります。そこで出たアイデアが壁面設置の下地パネルそのものをアート作品に変える、というものだったのです。下地パネルの製作・施工コストもそこから生まれる物販収益から回収することにしました。

「知的障害のあるアーティストとの接点はまだまだ少ないため、街を通してアート作品を掲出することで繋がりを生み出せたことには大きな意義があったと考えています。両社にとってプラスになるような仕組みを整えるのに苦戦しましたが、QRコードから売れた分の売り上げをシェアする仕組みを構築したことで、ヘラルボニーは壁面で販売し、ROADCASTさんは未利用壁面を活用できる、両者にとって持続可能な方法ができたと思います。結果、街でアート作品を発見した、というSNS投稿が見られるようになりました。壁面から弊社について検索した人など、認知度の向上に繋がっているのではと考えています」(松田さん)。

片山さんによれば、壁面を貸している物件所有者の方からも好評をいただいているそうで、こういった形で少しずつ、SDGsなどの活動に寄与できるという点も評価されているのだとか。今後は時期ごとに企画を練ってWall Art MUSEUM STOREならではのアート展示やアートを落とし込んだプロダクトの取り扱いにも挑戦したいとお話されていました。

次回も国内の共創事例をお届けいたします。

「サブスク料金立て替え」のPipe、SaaS時代の新たな投資モデル/GB Tech Trend

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載 グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。 今週の注目テックトレンド 在宅生活が当たり前になり、それに伴いSaaS企業が躍進しています。そんな中、SaaS企業向けフィンテックスタートアップが登場しました。名前は「Pi…

5,000万ドルの調達を果たした「Pipe」。Image Credit: Pipe

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

グローバルテックニュースでは、毎週、世界で話題になったテック・スタートアップへの投資事例を紹介します。

今週の注目テックトレンド

在宅生活が当たり前になり、それに伴いSaaS企業が躍進しています。そんな中、SaaS企業向けフィンテックスタートアップが登場しました。名前は「Pipe」です。2020年2月に600万ドル、6月には1,000万ドル、そして先日5,000万ドルの調達を果たしています。SaleforceのMarc Benioff氏や、AngelistのNaval Ravikant氏、他にもShopifyなどが出資しており、多くの投資家から注目を集めています。

PipeはB2B SaaS企業の収益回収モデルを変えようとしています。従来、SaaS利用企業は四半期や半年、年間契約を結びながら月額で利用料を支払ってもらうケースが大半でした。利用企業にとってはキャッシュアウトを抑えられ、コスト予測が出来るため年契約月額支払いは便利です。

他方、SaaS提供企業は契約金回収までの期間がかかってしまいます。特に立ち上げ時期は開発コストがかさむため初期費用がかかります。契約を獲得して成長スピードを上げたいが、契約金が手元に来るまで時間がかかる場合、新たに資金調達をして株式を放出するしかないと考えてしまいます。キャッシュフローと成長のトレードオフです。

そこでPipeはMRR(Monthly Recurring Revenue)をARR(Annually Recurring Revenue)へ即時転換できる投資プラットフォーム、言い換えれば「年間サブスクの建て替え」を提供しています。

仕組みはこうです。投資家がSaaS企業のビジネス健全性に基づいて多少割引した価格で年間サブスク額を購入します。購入金額は一括でSaaS企業に入り、月額収益がPipe経由で投資家の手に渡る、というわけです。Pipeの利用企業はサブスクの年間価格とほぼ同額のキャッシュが提供されるので、顧客のサブスクリプションの年間価値全額をすぐに自社資金とすることができるのです。

現在のPipeのモデルは、創業者が会ったとあるスタートアップファウンダーが、顧客に年間契約前払いを促すために収益を40%も割引し、同時にキャッシュフローのギャップを埋めるため資金調達していたことを課題に感じたことから生まれたそうです。

SaaS企業にとって、顧客企業と年間一括契約を結ぶために提示していた大幅ディスカウントは深刻な問題です。そこでPipeは、高いディスカウントなどせずとも素早く予測収益が回ってくるように投資家とのネットワークを整えました。こうすることで、ACV(Annual Contract Value)を限りなく高い率で維持することができるようになりました。

Gartner」によると、世界のパブリッククラウドサービス市場は、2020年には収益が2664億ドルに成長し、2019年の2880億ドルから17%増加すると予測されています。リカーリングモデルが当然となる中、Pipeのようなモデルは国内でも可能性がありそうです。

今週(3月8日〜3月14日)の主要ニュース

シード期のスタートアップ「強い組織」をどうつくる:”最大の難関”から権限委譲まで(2/2)

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から 採用フェーズ (前回からのつづき)スタートアップの組織創りにおいて、最初に…

Photo by Gustavo Fring from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.」から

採用フェーズ

(前回からのつづき)スタートアップの組織創りにおいて、最初にして最大の難関がこの「採用」のフェーズです。特にシード期は実績もなければ知名度もなく、十分な資金調達もできていないという状態で事業を強力に推進できる仲間を探さないといけません。

このフェーズにおいては、具体的には6つのアクションが必要となってきます。

  1. 自社の数年後の事業状態を達成するために必要な未来組織図を描き、
  2. 採用候補者のペルソナを具体化し、
  3. 採用マーケティングを通じて候補者プールを創りながら、
  4. 既存のメンバー全員が腹落ちする共通の採用基準を醸成し、
  5. スピード感を損なわない形で質を担保する採用プロセスを確立して、
  6. 数ある就業機会の中から候補者に自社を自己実現の場として選んでもらう

①から⑤までは自社内で完結する部分も多いですが、⑥は相手のいる話でもあり、アンコントローラブルでもあります。従ってその不確実性を少しでも減じるため、自社で働くことがいかに魅力的な選択肢となるのか候補者に対して言語化して伝えていく努力が不可欠となります。

また、この採用フェーズでは、シード・スタートアップがハマりがちな罠が待ち受けています。

一つ目は、資金の制約条件の罠です。

シード期だと、「資金調達ができたら採用活動しよう」や「バーンを上げることができないから良い人を採用できない」といった思考にどうしても陥ってしまいがちです。結果的に組織としての事業推進力が不足することとなり、逆に資金調達も難航してしまうケースです。

二つ目は、タレントの制約条件の罠です。

目の前の経営課題に対して、まずは既存のチームメンバーでなんとかしようと考えると思います。自分たちだけですぐに解決できる場合もありますが、そうでないとき、その領域でトップクラスのタレントを仲間にするという思考に切り替えることができず、ベストプラクティスに到達できないケースです。

三つ目は、カルチャーフィットの罠です。

一つ目と二つ目の罠を無事に潜り抜け、その領域のトップタレントに巡り合うことができたとき、最後に待ち受けているのがこのカルチャーフィットの罠です。スキル面の要件は十分すぎるほど充足しているにも関わらず、事業を成功させるために必要な会社としてのバリューを体現できずに組織全体にネガティブな影響を与えてしまうケースです。

この三つの罠にハマってしまうと貴重な経営リソースを有効活用できず、事業成長の機会が失われてしまいます。採用が思うように進まないときや、強い組織への変化が見られないときは、これらの罠にハマっている可能性が高いので、罠にハマっていないか自問するとよいかと思います。

採用は強い組織創りの第一歩目でありながら落とし穴も多く、失敗したときのダメージも甚大な難易度の高い工程です。“Recruiting is Priority”として、採用を経営の最上位に常に置いてコミットしていくことが成功のカギになってきます。

入社フェーズ

採用活動に一定の投資をしているスタートアップは多いですが、入社後もその投資が継続されているかというと、必ずしもその準備が整っていないことも多いのではと感じています。

しかし、新しい環境で働き始めるに当たって、不安を感じない人はほぼいません。

従って入社後のオンボーディングは、入社を決意してくれたメンバーをいち早く戦力化するために必須のプロセスです。不安を早急に取り除き、チームにスムーズに溶け込むためにメンバー間の相互理解を促進する場を意識的に設定し、チームへの高いロイヤルティを創出できる貴重な機会です。

新メンバーがキャッチアップすべきことは、多岐にわたります。

実践すべき企業文化とその背景、チームメンバーの名前や顔だけではなく各人がこの会社を選んだ理由、プロダクトの機能や今後の開発スケジュール、競合状況を含めた業界動向や顧客の課題欲求、社内のオペレーションや各部署の役割、自社の事業戦略といったところを理解することができてようやく、自身の個性を活かしたパフォーマンスを十分に発揮できるようになるものです。

これらの項目は、新メンバーにとって一日で理解できるものではありません。しかし、スピードが求められるシード・スタートアップにおいては、新メンバーにすぐにキャッチアップしてもらい、早くから存分に活躍してもらうためのサポートを経営として準備していく必要があります。

評価育成フェーズ

組織としてのアウトプットをメンバー個人の単なる和(足し算)ではなく、積(掛け算)にしていくためには、評価育成フェーズの施策が不可欠で、以下の5つが相互に連関する設計になっていることが重要です。

  1. 日々の行動や意思決定を規定するバリューの実践促進(組織浸透に向けたインナーブランディング)
  2. 企業や部署ごとのミッションや予算と、メンバー個人のWill / Can / Mustに応じたOKRの設計運用
  3. OKRをスムーズに設計運用し、かつ、情緒的な部分も含めた相互理解の深耕を通じた高いモチベーションの醸成
  4. メンバーをワンランク上の人材に引き上げるスキルトレーニング
  5. バリューの体現やOKRの目標達成に向けたアクションが組織として積極的に促進される金銭面と感情面の双方における報酬設計

①から⑤が単体ではなく、すべてが相互に結び付きながら設計されていることで、各施策が初めて効果を創出します。

例えば、バリューをぱっと想起できるよう、唱えやすいフレーズ化や目につきやすい形での具現化(Slackのスタンプ、会議室の張り紙やアメニティなど)によるインナーブランディングを強化すれば、想起したバリューに沿って個々人が迷うことなく自律的に行動や意思決定を行うことでOKRの達成が促進される効果が期待できます。

また目標を達成したときに、金銭的な報酬(SO、ボーナス、昇給など)のみならず、感情的な報酬(昇格、次なるチャレンジングな仕事のアサイン、権限付与、表彰など)をセットで享受できる環境作りも大切です。

このようにそれぞれが有意に積み重なっていく設計にすることで、個々の取り組みが効果を最大限発揮します。そもそものバリューが事業として勝つために必要な行動規範として設計されていることが前提になるものであり、ここでもやはりCIの適切な策定がはじめの一歩になってきます。

権限移譲フェーズ

経営チームによる権限移譲のスピードは、将来の事業成長スピードを決定します。権限移譲が進まない限り、現行の経営チームの実力以上に事業が成長することはありません。

経営チームが得意なもの以外、また場合によっては得意とするものであっても、権限移譲を積極的に進めることで、経営チームが行うことで最も成果を上げることができる業務(組織創りや広報PR、ファイナンスといった仲間集め)に多くのリソースを割くことができる体制を構築し、組織としてのアウトプット最大化に繋げることができます。

一方、この権限移譲は、移譲する方と移譲される方の双方にとって、勇気の必要な意思決定になってきます。この権限移譲のプロセスを根拠のない無謀なものとはしないよう、企業としてのガバナンスの効いた意思決定体制の構築がセットになって初めて、対外的に意味を持ちます。上場を目指してチャレンジをするスタートアップであれば、なおさらです。

そしてこの権限移譲のフェーズは、採用 → 入社 → 評価育成の各フェーズをうまく乗り越えて初めて到達できるもので、一足飛びにはなかなかたどり着けません。意識して取り組まないと到達するのにめちゃくちゃ時間が掛かるものなのに、事業成長のスピードを大きく左右するという厄介者です。

従って、(再三の繰り返しになりますが)スタートアップが事業成長を通じて大きなビジョンの実現に向かっていくためには、シード期からCIの策定を起点に、強い組織の構築に取り組んでいく必要があるのです。

まとめ

強い組織の構築は一日してならず。

冒頭の言葉に立ち返っていますが、強い組織創りに当たって経営チームが取り組むべきことは山のように存在します。非連続な事業成長を目指すのであればシード期からこの山を見据えて、少しでも早く組織創りへの投資を進めていく必要があります。

やることは多くある、その中で手戻りをできる限り少なくして強い組織を創っていくためには、まずはCIの策定がすべての発射台になる、ということが少しでも本稿でお伝えできていると嬉しいです。