【Fukuoka Growth Next特集】世界が注目するスタートアップハブは第3期へ、事務局長が語った新構想とは

Fukuoka Growth Next 事務局長の池田貴信氏

本稿は、福岡市にある官民共働型のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」のブログに掲載された記事からの転載

2012年に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言してから12年。福岡市のスタートアップ環境は発展を続けてきました。

新たなスタートアップが続々と生まれているだけでなく、ヌーラボやQPS研究所のように福岡で誕生した企業が資金調達を経ながら成長を遂げ、グロース市場に上場する例も生まれています。この数年で福岡で展開するベンチャーキャピタルが立て続けに新ファンドを組成し、スタートアップへ投じられる資金の量も増えてきました。

2017年4月に始動した「Fukuoka Growth Next(FGN)」も、福岡市のスタートアップエコシステムについて語る上では外せない存在でしょう。福岡市の旧大名小学校に本拠地を構えるこの官民共働型のスタートアップ支援施設には、現在199社が集い、さらなる飛躍に向けて事業開発に取り組んでいます。

2019年5月からは第2期の運営がスタート。FGNを拠点としたベンチャーキャピタルが立ち上がるなど、活動の幅を広げてきました。さらに今春からは運営体制や支援内容にアップデートを加えた第3期が始まりました。

この5年間でFGNや福岡市のスタートアップ環境がどのように変化してきたのか。今回の連載ではFGNの第2期の歩みを中心に、FGNの事務局長や入居企業のキーマンのお話を複数回にわたって紹介してきました。最終回となるこの記事ではFGNや福岡市のスタートアップ環境のこれからについて迫ります。

<これまでの記事>

第3期始動へ、これからの5年間で目指すもの


裾野を広げながら「高さ」も追い求めていく段階へ。FGNでは2024年春から現行の体制をリニューアルし、第3期の運営をスタートしました。

運営事業者には従来からの福岡地所、さくらインターネット、GMOペパボの3社に加え、新たにフォースタートアップスが参画。スタートアップにとって生命線となる、採用や組織作りに関連する支援も強化する狙いです。

高さを引き上げていく上では、言わば「健全なえこひいき」も必要だと考えています。目指すのは各社のステージやタイミングに合わせて、個別最適化した支援をオンデマンドで提供できる体制です。この辺りについては行政サービスから脱却し、地場企業やVCなど民間の力で、高みを目指せる企業を支援する環境を整えていかなければなりません。

現在FGNには30社を超えるスポンサー様がいます。今までは一緒に裾野を広げていきましょうという側面が強かったのですが、これからはスポンサーの方々にも周囲の目を気にせず、良いと思った企業をどんどん引き上げていただきたいです。(池田さん)

第3期では大きな変更点として、支援対象をFGN入居企業や卒業企業に限定せず、福岡市に拠点を置くスタートアップへと拡大。その上で対象企業を「Fukuoka Growth Network」としてコミュニティ化し、スタートアップ同士や支援者とのつながりを作りながら支援をしていくといいます。

FGN新体制記者発表会にて大学シーズ発スタートアップ支援施策について説明する、さくらインターネット 代表取締役社長の田中邦裕氏

そのほか第2期の課題にも挙がっていた「大学発スタートアップの支援」を強化するほか、スタートアップのバックオフィス業務をFGNがサポートする施策も新たに用意する方針。

800社以上の創業を支えてきた「スタートアップカフェ」とFGNの運営を一体化し、創業から成長までを一貫して支援できる仕組みも作ります。

QPS研究所さんのような福岡を代表するスタートアップでも、成長の過程で何かしら困り事があったのではないかと思うのです。そこにFGNとして何もできなかったことは、大きな反省点でもあります。もっとFGNの枠を飛び出して、FGNに入居していない企業であったとしても気軽に相談ができ、必要な支援を受けられるようなプログラムとネットワークを整えていくこと。これが次の5年で挑戦したいことです。(池田さん)

そのためにもFGNの存在や福岡市でスタートアップにチャレンジする意義自体を、もっと示していく必要があるというのが池田さんの考えです。FGNや福岡市のスタートアップ支援の内容に惹かれ、「福岡に拠点を移す」「FGNに行ってみる」といった行動に移すスタートアップは残念ながらまだまだ少ないといいます。

これまでFGN2期の目標として掲げていた(時価総額)10億100社には到達しましたが、この数字が自然と5年後には300社に増えているかというと、むしろ下手したら減ってしまうのではないかという危機感を感じています。勢いがあるスタートアップが特段増えたような感覚はありませんし、FGNへの応募件数自体も、以前に比べて減っている時期もあります。

起業がしやすい、国家戦略特区に選ばれたことで規制緩和を伴う実証実験ができるといった街の強みはありますが、やはりスタートアップが重要視するのは「いかに成長できる環境であるか」ということです。

だからこそFukuoka Growth Networkを福岡市のスタートアップにとってロールモデルとなるような企業が続々と誕生し、シリアルアントレプレナーや経験が豊富な起業家が集い、福岡以外の人でも知っているくらい、魅力的な存在にしていきたい。5年後にそのような場所になっていると、ものすごく嬉しいですね。(池田さん)

そのためにもFGNの存在や福岡市でスタートアップにチャレンジする意義自体を、もっと示していく必要がある、というのが池田さんの考えです。FGNの皆さんは、「福岡は世界に誇れるスタートアップ都市として成長するポテンシャルを秘めている」と確信しています。

福岡に増えるスタートアップハブ、起業創出の素地が充実

2025年春にオープン予定の CIC Fukuoka(イメージ図)
Image credit: CIC Tokyo

FGNのある天神周辺には、FGN以外にもスタートアップハブが増えつつあります。

例えば、ボーダレス・ジャパンは2023年10月、「ソーシャルベンチャーPARK」を開設し、社会課題をビジネスで解決しようとする人々(社会起業家)の拠点にしようとしています。

社会課題をビジネスで解決する社会起業は、JカーブやT2D3のような成長曲線を描けるようなエクイティベースのスタートアップとは性格が全く異なります。福岡市長の高島宗一郎氏は昨年末のイベントで、社会起業にふるさと納税の仕組みを取り入れることを示唆しました。

来年春には、西日本鉄道の本社が入居していたビルの跡地に新福岡ビルが竣工し、Cambridge Innovation Centerのイノベーション施設「CIC Fukuoka」が、国内では「CIC Tokyo」に続く2拠点目としてオープンする予定です。

今後は、ライフサイエンス系スタートアップのためのウェットラボ(物理・化学の実験を行うための研究施設)など、業態や用途に応じたスタートアップハブの誕生にも期待が高まります。

さまざまな業種・分野に特化した施設が整備されることで、多様なスタートアップが集まり、互いに刺激を与え合うエコシステムが形成されます。ビジネスとしての側面だけではないスタートアップのための都市として、FGNをはじめ福岡市の進化から今後も目が離せません。

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