福岡市ら、「スタートアップ大忘年会」を開催——高島市長、ふるさと納税による社会起業支援を示唆

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福岡市と明星和楽実行委員会は22日、福岡市内のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」で「WARAKU GIG Vol.48 大忘年会ミートアップ」を開催した。このイベントには、福岡に拠点を置いているスタートアップや、福岡出身の起業家らが50名以上集まり、文字通り2023年を総括するイベントとなった。イベントは、「2023総括セッション」と2024年を展望する「これからの話をしよう」という2つのセッションで構成された。

福岡が先行した「スタートアップビザ」、次なる展開は「デジタルノマドビザ」?

遊行(ゆぎょう)の大瀬良亮氏

総括セッションには、福岡市長の高島宗一郎氏、HafH 創業者でデジタルノマドに特化したマーケティングファーム「遊行(ゆぎょう)」を昨年創業した大瀬良亮氏、九州大学発の SAR(合成開口レーダー)衛星開発スタートアップで6日に上場した QPS 研究所(東証:5595)代表取締役社長 CEO の大西俊輔氏、明星和楽実行委員長の松口健司氏が登壇した。モデレータは、福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局長の石丸修平氏が務めた。

遊行は今年10月、福岡市から事業を受託し、海外からメディアやインフルエンサー等を招聘する FAM ツアーなどで構成されるプログラム「COLIVE FUKUOKA」を展開した。現在、日本を訪れるノマドワーカーの多くは事実上、短期滞在の観光ビザで入国して仕事していることが多い。将来、福岡が特区扱いなどで長期滞在を前提としたデジタルノマドビザを発給できれば、福岡にノマドワーカーが訪れる大きな理由の一つになるだろうと語った。

左から:QPS 研究所 代表取締役社長 CEO の大西俊輔氏、明星和楽実行委員長の松口健司氏、福岡市長の高島宗一郎氏

先ごろ、東証グロースに上場した QPS 研究所の大西俊輔氏は、最終的には SAR 衛星を36基打ち上げ・コンステレーションすることで、地球のあらゆる場所をリアルタイム観測できるようにする基盤を構築している。大西氏は九州には自動車産業のサプライチェーンがあって、そうしたリソースが活用できることからも宇宙産業を九州でやる理由は大きいと語った。実際のところ、世界的に衛星バスを大量生産する世界的スタートアップよりも、QPS ではコスト安で高品質の衛星バスを製造することに成功しているという。

宇宙の果てって、どこに壁があるのかとか、子供の頃から、そういうことを考えているのが楽しかった。でも、現実的な話をすると、私たちの世代でそれを知ることは絶対ないと思いますよ。多分、将来の世代の方々がそれを解明してくれるでしょうけれど、その方々がそこに達するには、今の我々の世代も頑張っていないといけないんです。そこに辿り着くには、我々は今の世の中でやれる、宇宙の最前線のことをやり続けないといけない。そういう努力が、この九州で宇宙産業の礎になると思っています。(大西氏)

IPO、ユニコーン輩出の次は、ソーシャルインパクトスタートアップのハブを目指す?

総括セッションには、福岡市長の高島宗一郎氏、ボーダレス・ジャパンの田口一成氏、ヤマップ代表取締役 CEO の春山慶彦氏、COTEN 代表取締役 CEO の深井龍之介氏が登壇した。福岡市のスタートアップ都市宣言から11年。昨年のヌーラボに続けと言わんばかりに、今年は QPS 研究所はもとより、全国での IPO 7社のうち、実に4社が福岡に本社を置く福岡のスタートアップだった。地元から IPO スタートアップを出すという当初の目標は達成され、福岡は新たな目標を設定する時代の節目にある。

ボーダレス・ジャパンは世界13カ国で48のソーシャルビジネス(2023年10月現在)を展開する、福岡発のソーシャルインパクトスタートアップだ。2007年に代表取締役の田口一成氏が創業した同社は、従業員は約1,500名、グループ年商は55億円を超えている(2021年5月現在)。世界で社会課題を事業で解決することを目指し、月次では各事業毎に、売上利益に加えソーシャルインパクトを確認している。ある事業を手がけた結果、社会にどんな変化が起きれば、その事業を良しとするのか指標を設定しているという。

社会課題を解決できる事業に仕上げることを田口氏は「ソリューション磨き」と呼んだ。VC から資金調達しスケールを狙うスタートアップならば、おそらく PMF(Product Market Fit)のフェーズに相当するのだろう。NPO ではなく自活する事業を創造するソーシャルインパクトスタートアップにとっては、このフェーズの資金繰りが最も大変だと田口氏と語った。これまで福岡市は税金を使ってスタートアップ創出を支援してきたが財源にも限りがある。公器になっていないソリューションも磨きを支援できないものか。

ボーダレス・ジャパン代表取締役の田口一成氏

ふるさと納税というのは、返礼品をもらうためのものではないですよね。自分の意思で、納税先を選べるというところが、本来の趣旨で素晴らしいところです。そういう意味では、何かしら社会のためにトライをしていて、実現できるかどうかまだ見えていないソリューション磨きのために、自分の時間とエネルギーを全部注いでやろうとしている人に対して、納税という形で応援することができたらすごくいいと思うんです。(田口氏)

ソーシャルインパクトスタートアップを支援する財源については、従来から休眠口座の資金を活用するスキームなど、さまざまなアイデアがある。ただ、資金を持っている本人の意思を反映して支援できる可能性を考えると、ふるさと納税を活用するアイデアは確かに理にかなっている。このアイデアが田口氏から出たものか、福岡市から出たものかは定かではないが、高島氏は席上、来年にも福岡市として、ふるさと納税でソーシャルインパクトスタートアップを支援できるスキームを発表する可能性を示唆した。

COTEN 代表取締役 CEO の深井龍之介氏

福岡を拠点に「COTEN RADIO」を運営する深井氏は10月、COTEN にとって2回目となる資金調達を VC から実施したが、この際に行った調達は、いわゆる T2D3 や幾何級数的な J カーブを描くような成長を前提としない形で調達したという。急激な成長は VC というビジネスモデルにとっては都合がよいが、世の中の全ての社会課題を解決するスタートアップが、このモデルに当てはまるとは限らない。深井氏は自身が得意とする歴史を引用しながら、今後、VC に代わる事業モデルが生まれくる可能性に期待を込めた。

私見ですが、次の時代のスタンダードはおそらくアジアからやっぱり出てくるだろうと思うんです。この30年間ぐらいは、シリコンバレーの文化が席巻して、Google とか出てきました。この状態が今後何十年も続いていくかというと、現在の時代変遷の速さだと、そうはならないだろうと思っていて、何らかの形で形を変えていくでしょう。その形を変えた新しいストリームがどこから出てくるかというと、やっぱりアジアからだと思っていて、福岡は非常に条件が揃っているというように思います。(深井氏)

ヤマップ代表取締役 CEO の春山慶彦氏

BRIDGE が登山者コミュニティプラットフォーム「YAMAP」の最後の資金調達を伝えたのは2018年4月のことだ。以来、事業は売上などでサステナブルに回しているようなので、スタートアップのキャッシュフローとしては、ブートストラップモードに近いと思われる。YAMAP は、自治体への登山届提出機能や、登山中の位置情報を電波の届かない山中でもユーザ同士のすれ違い通信により家族や友人に共有できる機能で、遭難を防いだり、遭難時のレスキュー活動に役立ったりする役割を果たしている。

イベント後のミートアップでは、高島氏が福岡発のフードテックスタートアップを紹介し、実際にそれを使った料理が提供された。紹介されているのは、発芽大豆ミート「Soycle」。
GG.SUPPLY は、イベントの1時間前に収穫されたばかりの生野菜を提供。

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