年明けは激増した「ユニコーン」倒産危機ーーグローバル・ブレインが年次「 #GBAF2023 」開催、百合本氏が見通し語る

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グローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦氏

2024年前半にかけて資金枯渇、膨らんだ株価によってM&Aすらできない「ユニコーン」の倒産が現実味を帯びるーー。スタートアップ経営に関わる起業家や投資家にとっては耳が痛い指摘だが、2023年に起こった出来事を考えると納得感があるかもしれない。

独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインは12月1日、年次で恒例となっているカンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2023」を都内で開催し、同社代表取締役の百合本安彦氏が詳細なレポートを背景に、日本を含めたグローバル・スタートアップ環境を振り返り、来年に向けての見通しを語った。

昨年にも厳しい見通しを予言し「ランウェイは2年分確保するよう」アドバイスを送った百合本氏。そのおさらいとも言うべき報告と共に、来年に向けての予測を(1)グローバル編(2)日本編の二回に分けて共有したい。

シリコンバレーバンクの破綻

GBAF2023スライドから:激減するレイターステージの資金調達

まずはグローバルでのスタートアップシーンの振り返りからだ。百合本氏の話は、今年のスタートアップを象徴するような事件から始まった。そう、今年3月に発生したシリコンバレーバンク(SVB)の破綻だ。

「(米国株式市場の株価は)基本的に下げ止まってはいるものの、まだ回復の兆しは見えていないという状況です。(中略)今年3月にシリコンバレーバンクが破綻したことをお話します。原因としては2021年までに相当数のリスクマネーが(SVBに)流れておりまして、それがシリコンバレーバンクに預金として集中して長期運用されていたんですけども、2022年から(スタートアップの資金減により)株価が下がりパニックということになりました」。

その後、SVBはFDICの管理下でファーストシチズン銀行が買収することで決着することになった。こうした状況を如実に表したのがスタートアップの資金調達ラウンドだ。百合本氏が示すグラフを見れば一目瞭然に件数・金額共に減少しているのがわかる。特にシリーズDラウンド以降については「USの市場規模からするとほぼないに等しい(百合本氏)」状況で、百合本氏によればリードを取ってくれる投資家も、フォローで後ろについてくれる投資家も薄い状況がずっと続いているという話だった。

当然ながらこうした状況は未公開企業の時価総額にも大きな影響を与える。

GBAF2023スライドから:1年で6割の価値が失われた

このグラフは衝撃的だ。22年1Qと23年2Qの時価総額をラウンドごとに比較したものだが、たった、たった1年3カ月で大きく時価総額が失われていることがわかる。特にレイターのラウンドは酷く、シリーズDになると6割以上の企業価値がなくなっていた。ダウンラウンドを示した件数は実に1年間で3.6倍に膨れ上がっている。

ややマニアックだが、スタートアップの投資契約に含まれる「Pay to Play」条項というものがある。これはスタートアップ投資で一般的に使われる優先株について、次のラウンドに参加しないと普通株に転換してしまうというもので、長期的な株主を確保するために盛り込まれるものだ。しかし、強烈なダウンラウンドでは投資家サイドも参加はできない。百合本氏のレポートによると、現在この発動割合が増えてきているらしく、この傾向はさらに続くと指摘していた。

積み上がるドライパウダーの向かう先

GBAF2023スライドから:もてはやされたユニコーンに倒産の危機

厳しい話はまだまだ続く。資金調達の期間も長期化しており、AからCラウンドでは中央値として約2年が必要とされている。また、当然ながらそれでは資金が枯渇してしまうことから、ブリッジラウンド(繋ぎの調達で転換債等が使われる)の比率も増えており、シリーズAやCでは4割が実施しているそうだ。また百合本氏は22年3Qのブリッジラウンドの数に注目し、これらが1年ほどの資金と考えると「2023年のサードクォーターぐらいから資金が尽きてしまい、倒産する可能性が出てくる」と指摘していた。

ここまでの話をおさらいすると、最も影響を受ける企業がわかるだろう。そう、ユニコーンだ。株式未公開のまま10億ドル評価(日本円で1500億円規模)とされ、バズワード化したスタートアップの象徴とも言うべき存在が今、危機に瀕している。百合本氏は次のように分析する。

「10年前に44社だったのが今1350社ということで、バリュー(評価額)の累計は5Trillion、大体700兆円ぐらいですね。(中略)圧倒的に供給が多い状態です。資本効率性、収益率が悪い「MOAT(註:強い競合優位性)」がない企業に対してたくさんの資金が投下されてしまったということです。バブルが起きてしまっているという状況で、1350社の必要資金は2500億ドル、つまり約40兆円ぐらいの資金が必要ということですが、この資金は市場にはないという状況なので、この半分ぐらいがなくなる可能性が十分にあると考えています」。

膨らみすぎた株価が重しとなり、ダウンラウンドでの資金調達も許されず、後ろのIPOもできない。事業としての競合優位性も低いとみなされてしまえば、企業によるM&Aという出口も塞がる。百合本氏が来年春頃にかけて起こると予測する「ユニコーン倒産」は結構早い段階で耳にすることになるのかもしれない。

GBAF2023スライドから:前半のラップアップ。生き残りをかけた戦いが続く

ただ当然ながらお寒い話ばかりではない。これはあくまで「バブル」に踊った虚像が生み出した株価の膨張の結果だ。ChatGPT擁するOpenAIの躍進は言うまでもないが、実力のあるスタートアップには逆に好都合とも言える。なぜなら余計な出資を手控えた投資家の手元には資金がたんまりと眠っているからだ。既存投資先の継続出資枠などを除いた「純粋な」投資可能資金のことをドライパウダーと呼ぶが、今、これが実に2890億ドル(日本円にして約45兆円)も積み上がっているという話もあった。

国内ではLayerXのようにシリーズAラウンドで100億円超という異例の資金調達を果たした異次元の企業もある。どこが消え、どこが残るのか。後半のレポートでは引き続き百合本氏のレポートを元に、主に国内の状況をまとめる。

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