独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインは12月2日、年次で恒例となっているカンファレンス「Global Brain Alliance Forum 2022」を都内で開催し、壇上では同社代表取締役の百合本安彦氏が激動の2022年を振り返った。
株価底入れはいつ
百合本氏は冒頭、世界的な政情不安で幕を開けた2022年のマクロ経済から話を始めた。スタートアップにとってやはり気になるのは株価の動向だ。Nasdaq株価が年初から3割近く下落する中、国内の未公開企業の評価額も大きく崩れ、上場を前に厳しい評価に晒されることになった。
バブル含みだったという声が大勢の中、百合本氏はリセッションのシナリオを3つのパターンで分析し、「大体7カ月から12カ月でリカバリするんじゃないか」との考えを示した。
欧米中心の海外投資状況については「誰もリードを取りたがらない」(百合本氏)状況があり依然厳しく、中国においては習近平体制や米中ディカップリング問題、ゼロコロナ政策などのリスク要因から引き続き要注意とした。また、投資領域についてはフィンテックやコマースなど、ここ数年の投資が続いた銘柄が一旦の落ち着きを見せる一方、ESG関連に注目が集まる様子を示している。
一方の日本はどうか。実は調達環境においては今年、ウクライナ・ロシアをはじめとする世界的な政情不安の影響をあまり受けておらず、スタートアップの資金調達額は昨年の9,000億円規模からそこまでドラスティックには大きく落ちていない。
しかし問題は株価だ。昨年までの間、国内のスタートアップにはプレIPOまでに非常に高い時価総額がつく傾向があった。それが今回の市況でも落ちておらず「資金調達で苦労されている」(百合本氏)状況なのだという。
スタートアップは2年分のランウェイ確保を
さらに支援する側のVCファンドレイズ状況が追い打ちをかける。ここ数年、5,000億円規模で推移していたファンド総額は34%も下落し、ファンド組成の難易度についても7割近くの関係者が「厳しくなる」と回答するなど状況の見通しは悪い。VCへの資金供給が限定的になれば、当然スタートアップ側への資金も厳しくなる。
そしてその影響はIPO市場にも続く。数でこそ今年のIPOは94件水準で着地見込みと、昨年の123件をさすがに下回るものの、激減したリーマンショックの時ほどのインパクトはない。
ところがここでも寂しいのが時価総額だ。昨年、平均して162億円だった公開時の時価総額が、今年の平均では82億円(中央値)と半減した。そしてこれが何を意味するかというと、上場した際の吸収資金、つまり成長の原資となる資金を獲得できないということになる。シリーズAラウンドにおけるポスト時価総額と上場時の時価総額を国別で比較した表をみると、米国で約9倍、中国で16倍近くをつけるのに対し、日本は5倍とこれまた寂しい。
昨年までのバブル含みで高い価格をつけてしまった株価はスタートアップの資金調達を難しくし、その影響はIPO後も続く。バブルはゴメンだが、市場の混乱が回復して落ち着いた株価評価ができるまでの保険として、百合本氏は支援先に「2年分のランウェイ確保」を呼びかけた。
リーマンショックの時にSlackやZoomなど、不況で生まれる新たなペインをチャンスとしたスタートアップが生まれている。百合本氏は(欧米が投資を制限する中)日本の2023年の投資はチャンスとしつつ、昨年の状況を引きずったままの「高額な」時価総額には注意しなければ「投資してすぐ減損なんてことが起こってしまう」と警鐘も鳴らしていた。
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