スタートアップが事業に「金融をプラス」する方法ーーナッジがアコム傘下のGeNiEと提携へ

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提携を発表したナッジ代表取締役の沖田貴史さん、GeNiE代表取締役の齊藤雄一郎さん

ニュースサマリー:事業者やコミュニティと連携した独自のクレジットカード「Nudge」を企画・提供するナッジは12月4日、アコム子会社で金融支援事業を手掛けるGeNiE(ジーニー)との協業検討に向けた基本合意の締結を公表した。業務支援に関する契約も同時に締結しており、両社はNudgeの与信モデルの高度化、オペレーション体制の構築、サービス機能拡張に取り組むとしている。

Nudgeはスマホに最適化された消費者向けクレジットカードサービス。アーティストやスポーツチームなど、ユーザーが支援するコミュニティオリジナルのクレジットカードを事業者が発行することで、買い物での決済支援だけでなく、企業とユーザーとの間にエンゲージメントを高める体験を提供する。例えば通信キャリアが発行するNudgeのカードを利用すると、利用額に応じた特典として利用料の割引などを受けることができる。

GeNiEは消費者金融のアコム100%子会社として2022年に設立されたフィンテック支援企業。クレジットカードやローンなどの金融商品を提供する事業者(レンダー)向けに業務支援を展開する。アコムグループでのノウハウを活かし、与信審査やローンなどの金融商品提供にあたっての体制構築、顧客対応など、足回りとなる業務を顧客企業に合わせてコンサルティング・カスタマイズした上で提供する。

話題のポイント:今回のナッジさんの提携ですが「餅は餅屋」的な連携で、ざっくり言うとクレジットカードを発行する際の足回りとなる、与信審査やオペレーション周りをGeNiEさんに依頼することで効率化を図るというものです。ナッジ代表取締役の沖田貴史さんに提携の理由をお聞きしたところ次のようにコメントいただいています。

「ナッジは、サービス開始から2年が経ち、各種利用・返済データなど多角的に与信精度を上げる仕組みが整いつつありますが、さらなるユーザー体験の向上を目指し、アコム様を含め豊富な与信データや債権回収ノウハウを持つGeNiE様と連携しました。これにより、ナッジが理想とする個々の信用状況に合わせたダイナミックで最適な与信・回収を実現することを目指します」(沖田さん)。

ナッジとしてはクレカ発行に関わるオペレーション負担を効率化することで、現在彼らが「クラブ」として提供する企業向けのエンゲージメントサービスの方に注力できるメリットがあります。この辺りはまだ協業に向けて合意段階なので結果はまだ先の話です。

さて本件、少し視点を変えてみるととても面白い内容だなと思いましたので少し考察を書いてみます。前置き長いですがお付き合いください。

ナッジが展開するクレジットカードは企業が「クラブ」を通じてユーザーエンゲージメントを向上させるのが特徴

スタートアップ冬の時代、どうやって評価を上げる

先日、とあるイベントでスタートアップ市場に関するレポート・予測が出ていたのですが、ざっくりと公開市場の市況が戻るまでまだもう少し時間がかかりそうという感じでした(こちらは近日中にレポート書きます)。正直、ここ数年は未公開株バブルで、起業家・投資家は膨らんだ株価を調整(ダウンラウンド)するか、株価(利益と期待値の高倍率PER)に見合うまで事業を伸ばすかの二者択一を迫られている状況ではないでしょうか。

そんな折、最近になって「コンパウンド」という概念を打ち出す企業が現れるようになってきました。長いので詳細は参考記事に譲って割愛しますが、文字の通り「事業を複合的に織り交ぜて」短期にT2D3(企業収益が2年連続で3倍、その後3年間は2倍になる)以上の成長を獲得しましょう、という話です。

参考記事

いや、そんな簡単な話じゃないんですけどね。

さておき、この考え方の中で有力な事業領域になるのが金融です。そもそも伝統的な大企業の多くはソニー銀行しかり楽天カードマンしかり、祖業以外に金融事業を立ち上げています。そしてここ数年、もう少しプログラマティックな考え方で事業に金融(フィンテック)を「くっつける」エンベデッド・ファイナンスというトレンドが巻き起こるようになりました。

エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)は、金融以外の事業を展開する非金融企業が、自社のサービスに金融サービスを組み込んで提供することを指します。これにより、企業は顧客に直接的な金融サービス(例えば、支払い、貸付、保険など)を提供できるようになります。

わかりやすい例ではAppleやGoogle、SamsungはApple Pay, Google Pay, Samsung Payなどのモバイルウォレットを通じて、ユーザーが携帯電話をオンラインやオフラインの決済デバイスとして使用できるようにしています。事業者向けの話としては、Uberが運転手向けの即時支払いとしてUber WalletやUber Payを提供していますし、ストアフロントのShopifyは、商人の過去の売上履歴と店のパフォーマンスに基づいてローンを提供しています。

これらの「プラス金融」サービスは顧客体験や購買プロセスをスムーズにすると同時に、新たな事業の可能性を開くきっかけになっています。例えば国内ではメルカリが早い段階でメルペイを立ち上げていますが、先日発表されたスポットワークの事業はこのメルペイを通じて報酬が支払われる仕組みになっていて話題になりました。

事業に金融を「エンベデッド」する課題

GeNiEのサービススキーム(ウェブサイトより

しかし当然ながら自前で金融事業を立ち上げるのは至難の業です。ファクタリングのように金融事業に見えて実際は債権を売買するだけの事業もありますが、多くは事業免許が必要なケースも多く、経験・知識に加えて適切なガバナンスも求められる難易度の高い事業です。一方、お金は事業の血流ですので、ここを事業化できれば可能性は広がります。もし、簡単に金融を自社の事業にプラスできたら・・。それが今回のポイントです。

GeNiEという会社はMUFGグループの中で消費者金融を扱うアコムの子会社で、代表の齊藤雄一郎さんは、2005年に新卒入社し、営業から経営企画、マーケティングなどを手掛けた叩き上げの方です。彼に話を聞いたのですが、アコムの持つノウハウ、特に与信や債権回収に関する知見をエンベデッド・ファイナンスに活用しようと立ち上げたのが同社、というわけです。齊藤さんによると、ナッジのように一般消費者向けサービスを展開するテックスタートアップであれば、同様に提携して金融機能を追加する可能性があるとのことでした。

「2024年度には、エンベデッド・レンディング事業を開始する予定であり、レンディング機能と親和性のあるサービスを展開する企業との提携も進めていきます。レンディング事業は、貸金業ライセンスの取得や厳格な法対応、金融庁による監督指針などを遵守する必要があり、参入障壁が高いビジネスです。当社と提携することにより、上記対応を自社で整備することなく、金融事業を開始できるというメリットがあります。また、事業開始後においては、「金融収益の獲得」、「本業の売上増加」や「継続率の向上」等にも貢献できると考えており、他のスタートアップ企業に対しても積極的に同様の提携を進めていきたいと考えています」(斎藤さん)。

なお、このレンディング事業(ローンですね)に関しては、いくつか提携のパターンを用意しているとのことで、与信や回収などのオペレーションを全てGeNiE側で負担することも可能というお話でした。収益についてもレベニューシェアや送客フィーによる収益分配を考えているそうです。

スタートアップに集まる資金量が増える中、当然ですが、その株価に見合った戦略もかなり早い段階から高度なレベルを求められるようになりました。金融のようにブランドや信頼・経験を求められる部分についてはこのようなプロバイダーをうまく活用するのも一つの手かもしれません。

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