シリーズA “102億円調達”のLayerXーー成長の鍵は「コンパウンド」(前編)

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LayerX代表取締役(CEO)の福島良典氏

ニュースサマリー:企業の支出管理サービスを展開するLayerXは11月9日、Keyrock Capital Managementを引受先にした第三者割当増資の実施を公表した。調達した資金は20億円で、払込日や株価などの詳細は非公開。ラウンドはシリーズAで、これが同ラウンドにおける最後の調達となる。

2月に実施したファーストクローズでは三井物産をリードに、ANRI、ALL STAR SAAS FUND、GMO VenturePartners、ジャフコ、スパイラルキャピタル、Dawn Capital、三菱地所、三菱UFJキャピタル、Z Venture Capitalから55億円を調達。6月に実施したセカンドクローズではJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、三菱UFJイノベーション・パートナーズ、DIMENSION、UB Ventures、SuMi TRUSTイノベーションファンド(三井住友信託銀行とSBIインベストメントによるCVC)、みずほキャピタルから26億8,000万円を調達している。これによりシリーズAラウンドでの調達額は総額102億円、2020年に実施したジャフコ、 ANRI、YJキャピタルの3社が参加したシードラウンドからの累計調達額は132億6,000万円となった。

Keyrock Capital Managementは香港拠点の投資運用会社でタイミーなどの国内スタートアップに出資している。LayerXは国内事例としては4社目となる。

バクラクは請求書処理や経費精算、法人カードなど、企業の費用・支出管理に関するサービスを複数展開するクラウドサービス。同社代表取締役の福島良典氏の説明によると、現在の契約アカウント数は7,000件を超える。また、直近1年でのARR(年次利益)は昨年比で4.4倍を記録した。昨年8月に開始した法人向けクレジットカード「バクラクビジネスカード」との連携が好調で、カード自体は1年間で20倍の契約件数の伸びとなった。調達した資金は引き続き経営基盤の強化、プロダクトの開発など事業成長に投資される。

成長を後押しするバクラクのサービス群(画面はバクラクビジネスカード)

話題のポイント:LayerXがシリーズAラウンドの資金調達を完了しました。投資ラウンドは基本的に同じ株価での引き受けをしてくれる投資家が参加するので、スタートアップの増資リリースは一度にやってしまうことが一般的なのですが(分割すると株価が変わったように見えるため)、調達金額が大きい場合は複数の段階に分けてクローズすることがあります。例えば大きめの投資ファンドが段階的に資金集めをする際にファースト・セカンド・・と分割する、アレですね。

スタートアップでは当然ながら稀です。ではなぜ、LayerXはここまで注目を集めているのでしょうか?その鍵を握るキーワードとしてここ1、2年、謳われているのが「コンパウンド」です。LayerXに投資しているALL STAR SAAS FUNDの前田宏典さん(ヒロ)に以前、インタビューした際もこのコンパウンドを挙げていました。

ヒロ:SaaSの形がだいぶ変わってきていますし、(中略)最近、コンパウンドスタートアップという概念が流行っていて、理由としては、今までSaaSはひとつの尖った課題に対してソリューションを提供するというのが、今までのSaaSのやり方だったと思うんですけど、今の時代、SaaSにより広いスコープの課題を解決してほしいという需要が高まっているんですよね。

なので、例えば経理だけを解決してほしいというのではなく、経理の周りとか、その経理業務に関連するような業務も解決して欲しいといった、ひとつのSaaS企業に対して求められているプロダクトが変わっているかなと思っています。それによって例えば最近、SaaSとフィンテックの組み合わせが戦略の中で鉄則となってきているんですよね。(引用:SaaSはフィンテックと融合するーーALL STAR SAAS FUNDが新ファンド、運用総額は1,300億円に

福島さん自身も手記でこのコンパウンドについて記述していて、話を聞くとLayerXのサービス開発における中心的な考え方になっているそうです。なんでもこの考えに賛同して入社希望してくるメンバーもいるという話ですから、徐々に浸透していることがわかります。

しかしこのコンパウンド、よくよく考えてみると単なるサービスの複数ラインナップ戦略や、旧来あった統合型の使いにくい業務サービス、例えば経理業務と個人のスケジュール管理が「ごった煮」されているものへの再帰にも見えてきます。

何が違うのか?そしてなぜこの考え方にすることで売上・成長角度が変わってくるのか?そのあたりを福島さんにお聞きしてきました。前半ではコンパウンドの考え方を改めて整理していただき、後半ではそこから導き出されるLayerXの勝ち筋について語っていただいています。(太字の質問は全て筆者。回答は福島さん)

ユニコーン評価となったRipplingの成長戦略は「コンパウンド」。HR領域でスタートアップし、現在は支払い管理のBrexと競合する。

コンパウンドとは何か

福島さんは以前、手記でコンパウンドスタートアップに対する自身の考え方を整理されていますよね。Ripplingの創業者、パーカー・コンラッド氏が提唱したスタートアップの新しい成長戦略として注目されていますが、LayerXがこれからどれぐらいのサイズ感の企業になっていくのかを示す情報として重要なので改めて教えていただいてよいですか

福島:僕の視点でという話なんですけど、コンパウンドスタートアップがなぜ出現したのかみたいなところにいくつか要因があると思うんです。この20年で起こったことってクラウドが出てきて、単に何でもサーバーにありますよっていうよりは、開発生産を高めるためとか、あるいはミドルウェアとしてのクラウドみたいなもの、機械学習イネーブラーとしてのクラウドみたいなものが急速に発達したと思うんです。

二つのプロダクトがあるとします。AとBの間のインテグレーションのところがユーザー体験にすごく貢献する、例えばユーザーが触るワークフローと、経理側が見ると仕訳とかその管理とか支払いみたいなところです。これまで別々に分担してました。けれど、これがくっついてるとお互い便利じゃんっていう。だから、その二つの製品が別々の手段じゃなくて、その掛け算なのか、プラスアルファの部分があるっていうのが、シンプルにコンパウンドスタートアップの定義ですよね。

これがなぜ今になって増えてるのかというと、データによる自動化とかデータによる体験の向上みたいなところが機械学習で増えていっていて、厚みが増していて、データ単位で統合することによるメリットがめちゃくちゃデカくなってるからなんです。

これ以前のサービスの作り方は主に営業サイドの都合で作っていて、例えば経費精算に使うストレージは総務と話しますとか、ワークフローであれば情シスと話します、みたいな感じで売る先の人がバラバラなんです。でもプロダクトとしては同じデータを使ってるんですよ。これが違いだと思いますね。今までは経理向けに何かやろうといった場合は経理の人が意思決定するようなSaaSを、インテグレーションなど考えずに揃える方が効率がよかった。けど今の考え方って、データを横ぐしで通すので、ある面ではこの人がユーザーだけど、ある面ではこのが人ユーザーだよね、でもそれって全体の体験としてはいいよねとなっている。

ソフトの作り方がよりプロダクトサイドに寄ってきてる、機械学習とかソフトウェアの技術の進化によって体験の向上が営業効率を上回ってきた、これが起こってきているんです。

ちなみにコンパウンドって別に新しい概念じゃないですよ。昔から成功してる会社はコンパウンド。MicrosoftやOracleなどもそうですね。それが僕の見立てです。

もう一つは?

福島:資本的な点です。20年間でVCが巨大化しました。つまり、リターンを巨大化しなきゃいけないという時に、単品のSaaSでもらえるARRの規模、時価総額の規模って知れてるんです。でも資本を出す側が、そのサイズだと満足できない。もっとお金を投じるけどもっと大きなリターンを出してよというサイズになってるので、必然的にそういうことができますよ、そういうことを目指してますよという起業家に資本市場、投資家の支持が集まるようになっているんです。複数の粗利を持つ商品、複数のCPAの構造を持つことによって、VCの掛け金に見合うリターンを生み出せる。日本も徐々にファンドが巨大化していて、必然的に起業家がコンパウンドスタートアップっていう野心を持たないと資本市場で支持されない存在になっていくのではないかと思っているんです。

機械学習によって連携の厚みが増した、と表現されていましたがもう少し詳しく掘り下げてもらっていいですか?

福島:例えば何かデータによるこのアシストの精度が何かデータで一気通貫して集めることによる意味が集まっていると思っていて。(コンパウンドを提唱している)RipplingはそもそもがHRデータを扱っている会社じゃないですか?でも、彼らがやってることってIT管理みたいなベーシックなところから経費精算、クレジットカードみたいなところまで入っていて、それって何?みたいな話ですよね。

経費精算でも、ある昇格した部長に与えられた決裁権が100万円あるとしますよね。これを(サービス的に)知るための情報って経費精算サービスじゃないですか。でもそれが『どこで行われてるか』っていうとHRサービスの組織図変更です。コンパウンド型のサービスだと、これが組織図変更された時点で自動で実施されるわけです。

さらに不正経費の使い方、みたいなデータが溜まっていくとそこにアルゴリズムを押し込める。UX(体験)が、機械学習を武器にすることによってものすごく大きな差になってくる。サービス統合によるただの便利さだけでなく、その先にある業務の自動化、自動化の精度とか、その自動化の体験の向上みたいなところができるようになる。

不正な経費はこういうパターンですよとか、あなたの会社の中で削れる経費、例えば旅費ってもうちょっと削れますとか、こういうコストの使い方をしてる会社って時価総額が上がってます、こういったデータによるこのサジェストのレベルっていうのが向上するんです。

こうなるとサービスや事業の粒度の決めがとても大事になってくると考えます。例えば人事と開発のように距離が離れている業務には相性が悪い印象です。バクラクではどのような粒度感でコンパウンド型のサービス開発を進めるのでしょうか

福島:原理原則でいくとまずは費用領域なんですけど、一概にそうも言えないなみたいなところもあるんです。レゴのブロックみたいなもので、大事なのは多様さなんですよね。例えばRipplingってHRサービスですが、(支出管理・法人クレジットカードサービスの)Brexと競合してるんですよ。

(自社としては)そういうタイミングでもないので、僕は社内でマルチコンパウンドスタートアップみたいな話をしているんです。要は接着剤をつけやすい場所から模索する。HRデータをやった結果、『HRとお金の動き、ちょっと紐づいてるじゃん』みたいな。(LayerXとして)サービスが提供されてない領域だけど、ちょっと飛び地なんじゃない?って思われることも全然やっていくと思います。

インタビュー後半に続く:シリーズA「102億円調達」LayerXーーAIがレガシー業務を一気に変える(後編)

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訂正:記事初出時にKeyrock Capital Managementの出資先企業名に間違いがありました。訂正させていただきます。

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