シリーズA “102億円調達”のLayerXーーAIがレガシー業務を一気に変える(後編)

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LayerX代表取締役(CEO)の福島良典氏

シリーズAラウンドで102億円の資金調達をクローズさせたLayerX、代表取締役の福島良典さんのインタビュー後半をお届けします。前半ではここ数年、キーワードとして挙がっている「コンパウンド」の戦略をなぜ必要としたのか、その考え方についてお聞きしました。後半では、バクラクを中心にLayerXがどこまで拡大するのか、その要因となりうるAI、地域戦略、開発計画についてお答えいただいています。(太字の質問は全て筆者。回答は福島さん)

AIがレガシー業務を一気に変える

コンパウンドの考え方でLayerXのプロダクトラインアップを考えた場合、法人の支払い、つまり企業の血流でもあるお金の流れがひとつポイントになるかなと思ってます。ただ、これは言ってみればすべての部門に関係があるわけで、どのような粒度でサービスを開発していくのか、その判断基準が気になります。

福島:この部分はシンプルでユーザーが困ってるかどうかです。逆説的なんですけど、素晴らしいプレーヤーが既に存在している領域ってユーザーの満足度が高いんですよ。でもそうじゃないところもいっぱいある。

確かに。実は以前、地方都市の取材で地域の企業の課題についてお話を伺ってきたことがあるんですが、例えば勤怠を手書きができるタイムカードやハンコでつけていたんですね。福島さん、紙でガチャンって押すタイプのタイムカードって実際に使ったことあります?

福島:ないです。どこまでそういった極端な事例を捉えるかという話なんですが、僕らのお客様でもこういう業務が当たり前で、紙で毎月、何千万とか何万枚みたいな請求書やレシートを見て、本当にそれを目で見ながらシステムで入力してます、みたいな会社の方がむしろ一般的なんですよ。

本当にここ数年なんです。そこが解決できるようになったのは。

課題は明確で、それに対応したクラウド製品はもうすでにある。けど、彼らが導入していないのは多分、それを導入するより紙の方が楽だから、という理由が大きいんじゃないかなと。だって数人しかいない現場で勤怠記録取るのに毎月定額で払うより機械ひとつ買った方が安いですもんね

福島:デジタル化が先か、AI化が先かみたいな話は興味があって、やり方次第なんじゃないかなと。例えばですよ、勤怠を入力する場面でスマホを使って「ピッ」ってやっても結構面倒くさかったりするじゃないですか。最終的には手元で修正しなきゃいけなかったりとか。

でもこれがAIがきましたと、カレンダーやスマホの履歴から自動で勤怠つけてくれますよってなったら、何かレベルが違ってくる。手書きやパンチカードでやってますというレベルから、スマホのNFCで勤怠入力できます、っていうのはなにか変わってるようで実はあまり変わってない。でも、AIがデータを自動で抽出して勤怠を全自動でつけてくれますよというと、あ、使ってみたいなって思うじゃないですか。

請求書管理なども同じだったのかなって思うんですよね。

もちろん紙をスキャンしてPDFでもらってそれをクラウドで管理して、というのもいいんだけど、別に手元で紙で管理してるのとそんなに変わらない状態だったのが、僕らはAIで自動で読み込んで、何ならその先の支払データとか仕訳データも自動で使えますよ、みたいなところまでやってきた。

こっちの方が断然困ってたわけなんですよ。紙からデジタルにするところよりも『デジタルしてからその業務としてどう落とし込むか』とか『どう自動化していくか』とか『どう生産性上げるか』という話の方が困りごとなんです。地方の会社さんで経理の方が採用できないとか、定年退職しちゃって困ってますという、そういう困りごとを持った会社さんがお客さんなんです。

PCインターネットの普及に遅れたケニアでモバイル中心の送金(M-PESA)が使われるようになった事例って有名ですが、ああいう感じのリープフロッグ現象が地方都市でも起こるのかもしれませんね

福島:割と起こってますね。初めて入れるクラウドサービスがバクラクですとか、なんか今までクラウドのサービスでピンとくるものがなくて、展示会でAI-OCRを触って導入しました、という方が結構いらっしゃいます。バクラクってスタートアップのお客様とか、IT系のお客様が使われてることも多いので、そういう会社にしか使われてないんですよね?といったことを聞かれることもあるんですけど、実はそこの比率もそんなに高くなくて、どっちかっていうと、そっちはもうマイノリティになっています。

それ以上に地方のお客様で、紙を月末の処理で何枚積んでます、みたいな方が「リープ・フロッグ」的に使ってくれるサービスみたいになっています。なので、僕らの実感値とすごく近いですね。むしろそういう人たちの方がすごい興味を持ってくれるんですよ。

どうする地域の営業体制

となると、今度、さらなる普及で重要になってくるのが営業体制です。ここについて考え方や計画を教えてください

福島:営業体制って直販とパートナーセールスという考え方があるんですけど、まず大前提として僕らは基本的にセールスの部隊にどんどんすごい投資をしていきます。そのために今回は追加で資金を集めました。シリーズAラウンドで100億円以上集めたテックスタートアップって多分、稀だと思うんですけど、じゃあそのお金を何に使うかっていうと、やはり人の育成。今、各地にオフィスを作っているんで、そこで人をしっかり雇ってしっかりサポート体制作るとか、安心感を持ってもらえるようしっかりやっていきます。

とはいえ、直販だけでは難しいところもあったりします。僕らのプロダクトって例えば地方の会社さんを担当されている税理士事務所さんにとっても業務が楽になるんですよ。そこはうまくパートナー戦略を組んで販売していく一つの鍵になるかなと思っています。

地方ってやはり対面を求める方も多いじゃないですか。オンボーディングはオンラインで、となりにくいケースもある。直接対応してくれるチームも配置される?

福島:今まだ、そういう機能を置いてないですけど、やはり直接会ってサポートをしてくれることを重要視するお客さんもいらっしゃったりするので、そういったところは作っていきたいなと思ってます。

あと、地方のお客様って一言で言っても結構、濃淡があるんです。地方でも最初にバクラクを入れてくれるような会社さん、僕らはローカルキングって表現しているんですが、こういったお客様は先進的なんですよね。そういうところにしっかり入り込んでいって、そこの事例をもとに広げていく。この地域営業の王道に加えて、ビジョンの部分をちゃんと押さえてるメンバーを採用しています。

今後の開発計画

ここまでコンパウンド戦略による成長可能性、AI化による体験の向上、主要顧客となる地域の攻め方についてお聞きしました。最後に今後のプロダクトの計画について言える範囲でお聞きしたいなと思ってます。現在の契約アカウント数や売上はどのような状況でしょうか

福島:公開してるものだと7,000社以上です。比率でいくとほとんどが中小規模の事業者の方々です。ただ、売り上げの比率でいくと大企業の方ももちろん入ってくるので、一般的なSaaSの比率になってる気がします。

プロダクトの開発計画はどのような感じですか

福島:半年に1個はプロダクト出そう、といった感じで、計画というよりは『宣言』みたいな感じですね。1年前がカード(筆者註:バクラクビジネスカード)で、半年に1個ぐらいのペースでこれからも出していこうと思ってますし、もうちょっとスピードアップするかもしれないですね。というのも、全然足りてないというか、ユーザーの課題を解決しようとするともう、めちゃくちゃ困ってますという課題がいくつか見つかっているので。さすがにそれはお見せできないですが、社内のプロダクトロードマップには既にこういうのをやろう、というものは入ってます。

コンパウンド戦略ではプロダクトのライン毎に売上が立つ考え方になるので、企業にとってはレゴブロックのように自社の課題に合わせて組み合わせて、となると思います。一社あたりの目標顧客単価などの設定はありますか

福島:顧客がどれぐらいのコストを削減できたとか、ROIベースで価格を決めているのでそこは目標も言ってないです。だって1,000万だから高い、1万円だから安いみたいな話じゃないですよね。1,000円であっても高いと思うプロダクトもあれば、1,000万円でも安いと評価されるプロダクトもある。すべてROIです。結果としてどれぐらいの価値を享受できたのか、というところでしかSaaSってお金をいただいてはいけないと思っているので。

確かに正しいんですが、地方の企業はもう少しシンプルにどの予算をアロケーションさせるべきか考えると思うんです。例えば事務アルバイトが一人削減できるのであれば月に10万円がここに充てられる、といった考え方です

福島:間違いはないです。ただ、純粋にそれだけじゃないんですよ。例えば営業マンが1カ月で経費清算に1日を使ってるとするじゃないですか。その1日に営業できたらどれだけ売上機会があがりますか、という話です。そういったところも含めて判断していただいている感じですね。

なるほど、もっといろいろお話伺いたかったのですが、時間がきてしまいましたので続きはまたの機会に。ありがとうございました!

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