ジャングルの奥地で見つけたスマホの可能性/バイオーム藤木 × ACV芦田・松田(2)

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

WWF(世界自然保護基金)のサイトによれば、地球上に存在する多様な生物とその相互関係を指す言葉として「生物多様性」を定義しており、この環境によって私たちは食料や医薬品、清浄な水や空気、気候の安定など、生活・生存に欠かせないあらゆるものを手にすることができるようになっているそうです。

この生物多様性の社会課題に挑戦しているのがバイオームです。環境問題をできるだけ身近な話題として提供するべく、いきものの写真をスマートフォンで撮影してコレクションするアプリ「Biome」の開発などを手掛けています。

前回の話題に引き続き、ポッドキャストではアクセンチュアのビジネス コンサルティング本部、芦田ゆきのマネジャーと松田脩平マネジャーがバイオーム代表取締役、藤木庄五郎さんにお話を伺いました。ポッドキャストから一部をテキストにしてお送りします。

ポッドキャストで語られたこと

  • イノシシも狩った、ボルネオ島での研究生活
  • 生物多様性の宝庫が、環境破壊の最前線という理不尽
  • ジャングルの奥地でみつけたスマホの可能性
  • 欲求や本能に基づいたサービスの開発
  • 生物多様性が高い状態とは
  • 儲からない領域で儲けるための工夫
  • オープンイノベーションの可能性

ジャングルの奥地でみつけたスマホの可能性

芦田:小さい頃から抱いていた課題意識をずっと持ち続け、大学でのデータを活用した技術を取り入れられてバイオームの事業に発展させたということですね。

藤木:当時から生物多様性を守るための仕組みを作るにはデータが必要だということは明らかでした。そこで、データ収集をメインにした会社を設立しようと考えたんです。(中略)

芦田:NPOのような形で保全活動そのものだけでなく、経済的な利便性を提供することで、多くの人々が生態系保護活動に投資する仕組みを作ろうとしているのがバイオームの目指しているところ、というわけですね。

藤木:当時は環境保護のボランティア活動が主流でした。6年前に会社を設立して、投資家から資金を募るなどの形で多くの投資家にアプローチしました。「そのような活動はボランティアで行えばよいのではないか」という意見もありました。(中略)

芦田:今はB2C、B2Bそれぞれで事業をされていますが、最初はB2Cをベースにしてどんどんデータを集めていたと思います。そこのお話を伺えればなと思います。

藤木:生物のデータにおいて、場所の情報は非常に重要です。効率的に場所情報を取得する方法はどうすれば良いのかを考えていました。結局、位置情報を取得できるデバイスが必要だったんです。

ただ、世の中には選択肢があまりなく、正確に位置情報を取得し、通信が確立されているデバイスはほとんどありませんでした。ただ一つ、可能性を感じたのはモバイル端末、スマートフォンやタブレットです。それらは常に位置情報を取得しており、世界中で40億台以上普及しています。

すでに普及し尽くしているようなデバイスが存在しているので、モバイル端末から位置情報と共に生物の情報を集める仕組みを作ることで、生物多様性のデータベースを作ることができるのではないかと考えました。

実際、ボルネオのジャングルの奥地には、人が住んでいる村があるんですよ。彼らはとんでもない場所に住んでいますが、洗濯機もテレビも冷蔵庫もありませんし、電気も通っていません。

しかし、なぜか彼らはスマートフォンだけを持っています。充電するために発電を行い、燃料を使って電力を確保し、衛星通信をするための電波塔のようなものを作っています。ジャングルの奥深く、何もない場所でもスマートフォンという端末だけは存在していました。

彼らがスマホで何やってるかといったら、Facebookをやってるんですよ。それを見てこれは使えるなって思ったんですよね。どんな場所にもスマホってのがもう普及しているし、SNSとかそういう要素はいろんな場所で受け入れられてるんだなと。

スマホ端末を持ってるオーナーは個人なんで、C向けのサービスからデータを集めるというのが一番面白いなと思い、データをC向けで、個人が生物の情報を送ってくれるようなサービスを作ればいいなと考えたんです。

環境保全は倫理的な道徳的な扱いをする場合が多いと思うんですよ。理屈で進めるパターンが多いですけど、僕はそれでは現地の人に使ってもらえないと思ったんです。環境を守らなきゃいけないと言っても「木を切ったら儲かるんだよ」と言われてしまいます。

誰でも持っているものに根差したサービスを作る必要があります。承認欲求とか、狩猟本能とか、人類がずっと持ち続けてきた欲求や本能に基づいて、生物を見つけて登録するサービスを作ろうと思いました。

そこで、現在の生き物を見つけて、レア度に応じてポイントがもらえるようなサービスを考えました。それがSNSのように、みんなが褒めてくれるようなイメージです。現在はそのアプリをC向けに展開しています。

欲求や本能に基づいたサービスの開発

いきものコレクションアプリ「Biome」

芦田:私もダウンロードしてたんですが、すごい面白いですよね。外で動物とか植物の写真を撮って、それが何かを当てると、話してくれる。

藤木:生き物の名前がわかって、レア度が見えて、登録できるクエストという機能がありますね。ミッションをクリアするとポイントが入ってきて、そういう万人共通で楽しいなと感じれるものをサービス化していくことで、楽しく遊んでいるうちにデータがどんどん蓄積され、それが保全に繋がっていきます。そのような仕組みを作るために、当初からずっと取り組んでいます。ダウンロード数が75万にまで増えました(編集註:2023年11月現在は85万ダウンロード)。

ユーザーには、子供たちも多いですね。子供の情報は統計的には取れないので明確ではありませんが、うちのユーザーの主要な層は3〜40代なんですよ。その中に親子が含まれていて、親子でやっている人もいますし、そうでない人もいます。自分だけで楽しんでいるという人もいます。そこには30代や50代など、さまざまな年齢層が交わっています。しかし、自然を楽しむ人たちという共通点があります。

芦田:クエストとか見ていますと、自治体や省庁と組まれていますよね。

藤木:そうですね、自治体さんや省庁さんとの話は多いですね。各地域には生物多様性戦略がありますから、その中でデータを集めたり、普及活動を進めたりする必要があります。行政からの要望も多いです。現在、約70の自治体と連携しています。実際のパターンはさまざまですが、件数で言えば企業の方が多いと思います。企業さんと行政さんの両方とも、toBやtoGのビジネスルールに従って取り組んでいますね。

松田:個人的に狩猟免許を持っていまして、狩りをすると、生物多様性の文脈で、シカやキョンの目撃数を毎年報告してるんですけど、狩猟関係とか獣害とかの文脈で何かやられてることとかあるんでしょうか?

藤木:獣害に関しては行政案件としてだけでなく、大学と一緒に研究を長期間行っています。具体的には、獣害の発生予測などを行っています。獣害に関する情報収集システムなども、元々は名古屋大学の先生、現在は東京大学の先生と共同で取り組んでいます。

次回につづく:家賃1万円の生活、投資家に断られた事業/バイオーム藤木 × ACV芦田・松田(3)

カバー画像:Pixabayによる写真

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