家賃1万円の生活、投資家に断られた事業/バイオーム藤木 × ACV芦田・松田(3)【ACVポッドキャスト】

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ(ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

WWF(世界自然保護基金)のサイトによれば、地球上に存在する多様な生物とその相互関係を指す言葉として「生物多様性」を定義しており、この環境によって私たちは食料や医薬品、清浄な水や空気、気候の安定など、生活・生存に欠かせないあらゆるものを手にすることができるようになっているそうです。

この生物多様性の社会課題に挑戦しているのがバイオームです。環境問題をできるだけ身近な話題として提供するべく、いきものの写真をスマートフォンで撮影してコレクションするアプリ「Biome」の開発などを手掛けています。

前回の話題に引き続き、ポッドキャストではアクセンチュアのビジネス コンサルティング本部、芦田ゆきのマネジャーと松田脩平マネジャーがバイオーム代表取締役、藤木庄五郎さんにお話を伺いました。ポッドキャストから一部をテキストにしてお送りします。

ポッドキャストで語られたこと

  • イノシシも狩った、ボルネオ島での研究生活
  • 生物多様性の宝庫が、環境破壊の最前線という理不尽
  • ジャングルの奥地でみつけたスマホの可能性
  • 欲求や本能に基づいたサービスの開発
  • 生物多様性が高い状態とは
  • 儲からない領域で儲けるための工夫
  • オープンイノベーションの可能性

生物多様性が高い状態とは

松田:人間も生物の一部だと考えると、環境破壊もある角度から見ると多様性の現れであるということもできますし、進化の過程で淘汰される種ももちろんいるわけです。藤木さんが目指す生物多様性とはどういう状態ですか。

藤木:宗派が分かれるんですよ(笑)。生物多様性の高い状態というのは解釈が非常に難しく、生物の種類が多いから多様性が高いとは言えないと考えています。多くの研究者が同意すると思われるのは、中規模撹乱仮説と呼ばれるものです。人間が介入することで荒れた環境の方が、種数が増えるという奇妙な解釈が生じることがあります。

でも、種数が多いだけが良いとは一概には言えません。例えば、北海道の生態系と沖縄の生態系はまったく異なります。北海道は寒冷なため種数が減少する傾向がありますし、沖縄は温暖なため種数が多くなります。しかし、沖縄の方が北海道よりも生態系が優れているとは言えないと思います。私自身は、安定性が重要だと考えています。

安定した生態系とは、人間にとっても好ましい状態だと思っています。つまり、手入れをほとんどしなくても、自動的に生態系がサービスを提供してくれるようなシステムになるはずです。安定しているため、人間が持続的に手入れしないと維持できない生態系は、コストがかかる割には見合わないサービスを提供する傾向があります。

例えば、都市の中に植えている植物がありますよね。これらは、毎年手入れをして剪定しないと維持できない状態です。(中略)ヒートアイランド現象を抑えるなどのメリットがある一方で、コストがかかるため無駄だと感じる人もいるかもしれません。

何も手を加えなくても維持できるなら、人間にとっては良い状態ですよね。少なくとも、安定した生態系で食物連鎖がしっかりとまとまっており、長期間にわたって同じ状態を維持できることは、基本的には良い状態だと考えています。その究極形態が手つかずの自然で、私は基本的には、何億年もの間安定している原生林のような状態が良いと思っています。

原生林はずっと安定しているんです。何万年も同じ状態が続くような、手つかず度やインタクトネスという概念がありますが、手つかずの状態で生物多様性が高いと解釈できる考え方があり、私は比較的その考え方に賛同しています。(中略)

ちゃんと捕食者と被捕食者がうまくバランスを取れて、調和している状態を再現することは、人間の手で行っても良いと思います。だから、それをどんどん創り出していくべきだと思っています。

儲からない領域で儲けるための工夫

芦田:特にこの分野は新しいこともあり、起業されてから課題や苦労がたくさんあったと思います。どういった苦労があって、どうやって乗り越えていったのでしょうか。

藤木:繰り返しになりますが、儲かりそうになかったんですよね。会社というのは基本的に利益を上げることが求められるので、その点が課題であり、非常につらい状況だったんですよね。その中で、さっきも少し触れた通り、投資を受けることもできませんし、売り上げが長い間上がらなかったんです。

最初の2年ぐらいは特に厳しい状況でした。僕自身もどうやって生計を立てていたのかわからないくらいの状態で、家賃1万円の家に住んでいました。当時は悲惨な状況でした。不動産屋に行って一番安い家を探してもらって、普通の家には日当たりがいいとか、駅近といった特徴が書いてあるのに、そこには屋根付きというだけの情報がありました。

屋根があるだけの家で、布団で寝れることに幸せを感じていたので、基本的に不満はあまりありませんでした。ただ、そのような状況で2年間ほど過ごしました。起業して苦労する人は多いですが、僕もその一人でした。

そのころは、投資家を回っても結果的には資金を得ることはできませんでした。ボランティアでやるべきだよね、と言われ続けていました。僕が取っていた戦略はあまり深く考えていませんでした。とにかく数をこなすことしか考えず、1,000件回せば1件当たるかもしれないという考え方で、泥臭い方法しか取れなかったんです。

もちろん、様々なアプローチやストーリーを工夫しながら、これはダメだったから、ああいう話をしてみようとか、こういうストーリーを展開しようとか、多くのストーリーを用意しながら試行錯誤しました。何百件も巡りながら、その結果1つぐらいの成果が出てくるんですよね。

(中略)環境に配慮してくれる投資家というのは少しずつ現れてきて、そうした数をこなす中で、珍しい環境ビジネスの可能性を感じてくれる人たちから最初の資金集めの動きが始まりました。1日に10件くらい巡りながら、そういう取り組みをしていました。

ビジネスとしては、生物多様性のデータや保全などは、そのままの状態では売れるものではないので、そこにさまざまな間接的な価値を付けていくことを意識して取り組んでいます。例えば鉄道会社に売り込みに行く際には「生物を探しに行きましょう」ではなく、「生き物をコンテンツとして上手く扱うことで、人々が動いてくれるはず」という提案をします。

鉄道会社は人の移動が重要な要素で、人が移動することで運賃が回収できるビジネスモデルを持っていると思います。旅行業なども近い考え方ですが、生き物によって人々を動かす力があるはずです。そのためには、生物多様性を守っている地域に人々が訪れるような提案や、生き物を利用して人々を動かす新しい取り組みを始めませんか、と提案します。

そうすることで、予算を獲得するためのさまざまな戦略を考えます。例えば、スタンプラリーを導入するなどの方法もあります。

芦田:どこに予算が使われてるかを見て、そこで勝てそうなものを提案するということですね。

藤木:予算スライドなどを狙って交渉することもありますね。企業は生物多様性に関連した予算は持っていませんから、相手に応じて、提案できる取り組みを予算内で提案して実現することに重点を置いています。業界毎の予算状況や、生物多様性がどの領域に関わる余地があるかを考えながら、多角的な商品パッケージを作り、ビジネスとして収益を上げる構造を最初に構築し、なんとか継続して事業を行っています。

このような中で、社会の流れも徐々に整ってきており、ESG投資の流れを含めて時代の変化に追いついてきました。投資家へのアピール方法も変化してきており、企業側でも予算の割り当てが可能になってきました。次はそちらに重点を置いていこうという流れがあります。冷えた市場ならではの、戦略的な取り組みを行ってきたという印象があります。

オープンイノベーションの可能性

芦田:今後、企業とどのようなコラボレーションをしたいか、どんな企業とコラボレーションしたいか、また、アクセンチュアのようなプロフェッショナル サービス企業への期待、連携の可能性をお聞かせください。

藤木:正直なところ、あまり業界にこだわっていません。生物多様性は、どの産業にも何らかの関わりがあると考えています。例えば、食品メーカーなら、原材料を生産する農地が関係しているはずですし、家電メーカーなら、使用している金属、銅鉱山から使っていたり、レアメタルを使っていたりするかもしれません。

レアメタルは製造効率が非常に低く、大量の鉱物を処理してわずかなレアメタルを抽出していると思います。そのため、環境負荷が非常に高く、その地域で本当に適切な基準に沿ってレアメタルが採掘されているのかを考えるべきだと思います。さらに、さまざまな業界のメーカーに関して言えば、自然との接点がほぼ必ず存在しているはずです。

まずはその接点を特定し、適切な対策を取るべきだと思っています。ほとんどの産業が電気を使用しているので、何らかの関係があると言えるかもしれません。私は業界との強いコラボレーションにこだわっているわけではありません。ただ各業界の中で、環境のリーダーとして位置づけられる企業と組みたいと思っています。

各業界でトップやリーダー的な存在が今後ますます増えてくると予想されるので、そのような企業と一緒に仕事をすることで、たくさんの提案ができると思います。例えば、コンサルティングファームさんは、企業が最初に相談する相手になるでしょう。例えば、TNFDなどに対応する必要がある場合、私たちに相談してもらえることもあるでしょう。

企業は、データに基づいた何らかのソリューションが必要となると思っているので、私たちがその部分を担当することで、環境保全コンサルティングのパッケージを一緒に作ることができれば良いと考えています。

カバー画像:Pixabayによる写真

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