イノシシも狩った、ボルネオ島での研究生活/バイオーム藤木 × ACV芦田・松田(1)【ACVポッドキャスト】

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ(ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

地球上には様々な生物が存在しています。WWF(世界自然保護基金)のサイトによれば、地球上に存在する多様な生物とその相互関係を指す言葉として「生物多様性」を定義しており、この環境によって私たちは食料や医薬品、清浄な水や空気、気候の安定など、生活・生存に欠かせないあらゆるものを手にすることができるようになっているそうです。

一方でこの環境は現在、人類による自然破壊や気候変動などによって、急速に失われつつあります。これは、過去の大絶滅と比べても異常なスピードで起きているそうで、地球環境と人類の未来に深刻な影響を及ぼす可能性があるとも指摘しています。

この生物多様性の社会課題に挑戦しているのがバイオームです。環境問題をできるだけ身近な話題として提供するべく、いきものの写真をスマートフォンで撮影してコレクションするアプリ「Biome」の開発などを手掛けています。開発による環境破壊や、人間の働きかけが必要な場所の管理不足、外来種や化学物質の持ち込みによる生態系への悪影響、気候変動などといった地球環境の変化という、生物多様性を脅かす「4つの危機」に対処するため、同社ではこれらの解決に向けたパッケージを企業などに提供しています。

ポッドキャストではアクセンチュアのビジネス コンサルティング本部、芦田ゆきのマネジャーと松田脩平マネジャーがバイオーム代表取締役、藤木庄五郎さんにお話を伺いました。ポッドキャストから一部をテキストにしてお送りします。

ポッドキャストで語られたこと

  • イノシシも狩った、ボルネオ島での研究生活
  • 生物多様性の宝庫が、環境破壊の最前線という理不尽
  • ジャングルの奥地でみつけたスマホの可能性
  • 欲求や本能に基づいたサービスの開発
  • 生物多様性が高い状態とは
  • 儲からない領域で儲けるための工夫
  • オープンイノベーションの可能性

イノシシも狩った、ボルネオ島での研究生活

芦田:バイオームという名前の由来は

藤木:バイオームという名前は、僕自身が元々大学で生態学を研究する研究者だった経験からきています。専門用語でバイオームというのがありまして、生物群系とか人間を単位としたときの生物の最大単位に近い概念とも言えます。

芦田:バイオームの特徴とお仕事内容はどのようなものですか

藤木:生物多様性を守ることをビジネスとしてやるには、さまざまな企業や行政と関与して経済や社会の中で取り組む必要があります。そのためにはインフラが必要だと考えていますが、特に生物のデータのインフラがこれまで存在していませんでした。

生物は生きているので様々な場所に生息しています。その生息地での生物の存在状況や数などをデータ化していく必要があります。それを活用することで、特定の地域でどのような活動を行うべきであるとか、自社は特定の生物と関係があるから特定の事業には注意を払う必要があるといったことが分かるようになります。現在7年目になりますが、生物のデータ化やデジタル化に取り組んでいます。

芦田:起業のきっかけを教えてください

藤木:まず、生物多様性に興味を持つきっかけについてお話できればと思います。私自身、生まれは大阪です。自然豊かな場所だったかというと、そうでもなかったと思います。ただ、その中でも近くの空き地で虫取りをしたりしていました。特に小学生の頃は釣りにハマっていて、魚釣りを本当に楽しんでいました。近くの池や川で淡水魚を釣ることが多かったです。

フナ釣りをするためにいろんな池に行っているとフナが釣れなくなってきて、代わりにブルーギルという外来魚が釣れるようになってきたんです。どこに行ってもブルーギルばかり釣れるようになって、何かおかしいと。日本の魚がいなくなってブルーギルに置き換わっているのではないかと不安になったんです。

そこから、本を読んだり調べたりして、外来魚や外来種が侵入してきて、日本の本来の生態系が崩れていることがわかってきました。それを知って本当に怖くなって、フナがいなくなってしまうのか、自分が好きだった自然が今まさに崩れていっているのを感じたんです。そんな経験から、小学生の頃から生態系に強い興味を持つようになり、将来的に環境保護や生態系の保護に関わりたいと考えるようになりました。自然が好きなことももちろんですが、なんとかしなければならないという使命感を強く感じるタイプの人間なのかもしれません。

生態系を守るためには大学で学ぶ必要があると考え、当時、環境に強いと評判の京都大学に進学しました。そこでの研究では、主に国内ではなくボルネオ島の生態系についての研究に興味を持ち、実際にその島に行って約5年間の研究に携わりました。滞在中は2年以上をその地で生活しましたが、野宿生活やキャンプ生活も経験しましたね。

野宿生活で最低でも3カ月はその環境で過ごしたんですが、そこでは熱帯林の奥深くで、人が通れないような道や川沿いを歩いたり船で移動したりしながら生活していました。食べ物も十分になくって、現地でイノシシを狩って食べることもあったんです。

ヤリや他の武器を使ってイノシシを狩るのは危ないですよね・・・。イノシシは襲いかかってくることがあるので、泳いでいるイノシシを狙うんです。川を渡っているところなどを見つけたら、とにかく船で回り込んでワーッとなって襲いかかるんです。(中略)タンパク質が貴重だったので、カエルなどをたくさん捕まえて食べたりもしました。

(中略)非常に過酷な調査状況で、食べ物が不足すると、次々と離脱していきました。朝起きると誰もいなくなっていたり、夜に逃げ出したりする人もいましたよ。(中略)10人連れて行ったら3週間後には3人ほどまで減ってしまいました。

(中略)3人で精一杯ボロボロになりながら調査を行いました。特に樹木などについては、調査区と呼ばれるエリアを設定し、そこに生えている樹木をすべて調査する作業を行います。おそらく合計で1000近くの調査エリアを設定し、樹木の調査を行いました。

そして、その地域の樹木の多様性などを最終的に日本に持ち帰り、衛星画像の外観情報や分光反射などのデータと現地の情報を組み合わせてモデルを作りました。それを衛星画像全体に適用して広いエリアの生物を評価する技術を当時開発していました。教師あり学習と呼ばれる手法ですね。

生物多様性の宝庫が、環境破壊の最前線という理不尽

藤木:(中略)現地は生物多様性の宝庫である一方で、環境破壊の最前線のような場所でもあります。(中略)原生林が広がっている一方で、すぐ隣では木々が次々と切られているとか、かなりのエリアがすでにほぼ伐採され尽くしていて、見渡す限り木が生えていないんです。

360度の地平線が見える荒れ地のような場所もあります。(中略)木を切って運ぶ作業って本当に大変な労力なんですが、その労力のモチベーションはお金が儲かるからです。木のまま置いてても儲からないんですよ。生態系や自然は基本的に壊す方が儲かるんですね。そういう理屈が基本的に今の社会を形成しているので、ボルネオや他の地域でも環境が壊れていっているんだなと。

お金を儲けるというエネルギーは凄まじいと思っています。一方でそのエネルギーを環境の保護に向けて使えたら、何とかなるんじゃないかなと。環境を守ると儲かる仕組みを作れば、みんなが参加するんじゃないかと。環境を守ることで利益を上げる仕組みを作れば、社会は変わるんじゃないかと考えて、それはもはや研究のアプローチではどうしようもなく、経済の問題だと思いました。

儲かりながら保全をする仕組みを作るためには、誰かがやらなければならないし、自分がそれをやろうと思って起業という形で営利企業を立ち上げることにした、というのが起業の経緯です。

次回につづく:ジャングルの奥地で見つけたスマホの可能性/バイオーム藤木 × ACV芦田・松田(2)

カバー画像:Pixabayによる写真

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