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SasakiShun

SasakiShun

起業準備中。元ソフトバンクのエンジニア。学生時代に鳥人間コンテスト入賞経験あり。ディープテックや社会実装をテーマ>にしたスタートアップが好き。執筆分野は医療/不動産/VR/AR/AI。Twitterアカウント@sanyama1

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VRトレーニングの効果はいかに?:Walmartの実証実験にみる「VRが解決するもの」(2/2)

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ピックアップ:Transfr Secures $12M Series A Financing to Scale Immersive VR Job Training Platform (前回からのつづき)ピックアップタワーは顧客がインターネットで買った品物を、店舗で受け取るための保管機です。生鮮品を取り置くオンライン・グローサリー・ピックアップ(OGP)ではなく、一般商品が対象ではあるものの、従業員…

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ピックアップ:Transfr Secures $12M Series A Financing to Scale Immersive VR Job Training Platform

(前回からのつづき)ピックアップタワーは顧客がインターネットで買った品物を、店舗で受け取るための保管機です。生鮮品を取り置くオンライン・グローサリー・ピックアップ(OGP)ではなく、一般商品が対象ではあるものの、従業員が扱えるようになるためには比較的複雑なプロセスを覚え、特定の方法で実行する必要があります。従来は人間の指導員を店舗に派遣してeラーニング、ハンズオントレーニング、キットを使った模擬トレーニングを丸1日かけて実施していたそうです。

実際にピックアップタワーにおいてVR環境を作成してセットアップする方法を従業員に示したところ、 移動不要でトレーニング時間を96%減のわずか15分まで短縮することに成功します。Walmartは新型コロナウイルス流行に伴う食料品や生活必需品の需要急増に対応するため、20万人の組織変更を2カ月程度で実施するなど人の出入りが激しい企業です。人材を移動させて行う高コストな人材育成を大幅に抑えられたことは小さい成果ではありません。

Strivrによると、Walmartでは他にもカスタマーサービスに関する200のアカデミーにVRトレーニングを追加したパイロット・プログラムを実施しています。結果として従来のトレーニングに比べて満足度が30%上昇、テストでのスコアも70%上昇、さらに10%〜15%高い知識保持率を記録したそうです。

Walmartのピックアップタワーに限らず多くのスキル習得トレーニングはセミナーからビデオ、ロールプレイングから終日のグループトレーニングセッションが必要です。これらの受動的な方法は時間がかかり、規模が大きくなく、労働者を数時間または数日間仕事から引き離す必要があります。

しかし、受動的なトレーニング方法は必ずしも知識の保持につながるとは限りません。受講から数時間で習ったことの約3/4を忘れてしまうことも珍しくないといいます。従業員がフロアに着くまで、それらのトレーニングが機能したかどうかトレーニングへの投資が報われたかどうかは明確ではないのです。

VRプラットフォームでは、従業員がどこを見ているか、何に時間をかけすぎているかを追跡できます。現場のシミュレートから各従業員のフォローまで経営者が不安を抱えるROIの最大化という点に、今後更にVRトレーニングは活かされていくでしょう。

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trainingmagによると、米国企業はこういった企業研修に2019年に830億ドル、参加者1人あたり約1,300ドルを費やしています。人がすでに持つスキルと仕事人必要なスキルの間にはギャップが存在あり、 特に製造業ではスキルギャップにより、2018年から2028年の間に240万人もの雇用が埋められず、最大2.5兆ドルの経済的影響が生じる可能性があると言われます。

そうした背景もあって、スキルがほしい人だけでなく企業や州単位でも関心が高まっています。今回取り上げたTransfrはアラバマ州全体の支援を開始し、スキル取得の目的でコミュニティカレッジシステムや産業労働者委員会で使用されています。Transfrは2021年までに10〜15の同様の契約を締結を進めているそうです。

企業がこの実証済みの方法を導入するにつれ、Walmartのようなアーリーアダプターの事例がアーリーマジョリティを説得し、今後活用事例が増えていくサイクルを生み、VRトレーニングがVRにとってのキラーコンテンツとして確立されるのは遠い未来の話ではありません。

VRトレーニングの効果はいかに?:Walmartの実証実験にみる「VRが解決するもの」(1/2)

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ピックアップ:Transfr Secures $12M Series A Financing to Scale Immersive VR Job Training Platform ニュースサマリ:VRトレーニングを全米の認定職業訓練プログラムに導入するために取り組む「TRANSFRVR」は11月20日、シリーズAで1,200万ドルを資金調達した。Firework Venturesが主導し、既存の…

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ピックアップ:Transfr Secures $12M Series A Financing to Scale Immersive VR Job Training Platform

ニュースサマリ:VRトレーニングを全米の認定職業訓練プログラムに導入するために取り組む「TRANSFRVR」は11月20日、シリーズAで1,200万ドルを資金調達した。Firework Venturesが主導し、既存の投資家のAlbum VC、Imagination Capital、個人投資家としてGreg Norman、Stuart Udell、JeffVinik、DavidBlakeが加わった。

同社はVRによるスキルトレーニングのための製造工場や倉庫のシミュレーションを作る。入門レベルでは安全で効果的に作業を学ぶ方法を提供し、導入例としてはロッキードマーティン、マツダトヨタマニュファクチャリングなどがある。

話題のポイント:VRの活用事例として「VR×トレーニング」が様々な産業で認められつつあります。今回取り上げたTransfrはニュースにあったようにロッキードマーティンやマツダトヨタマニュファクチャリング、4月にシリーズBで3,000万ドルの資金調達したStrivrはWalmartやVerizon、GEに人材育成の重要な要素としてVRトレーニングを提供しています。

もちろん、これら導入を決めた企業は実証実験を行っているわけですが、果たしてVRトレーニングによってどのような効果が得られたのでしょうか。今回はWalmartの事例を紹介していきます。

Walmartは現在、カスタマーサービストレーニングへの新しいアプローチとして、1万7,000台を超えるOculusGoを全米のすべての店舗に導入しています。これにより約100万人を超える従業員がどこにいても仕事に欠かせないスキルを学ぶことができる状態です。

Walmartといえば、Eコマースや小売のデジタル化に多額の投資を実施して復活した企業として、日本でも話題に上げることが少なくありません。その代表的な一例としてピックアップタワーがあります。(次につづく)

Amazonの「手のひら」Key戦略:顔と手、どっちが安心?(2/2)

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顔と手のひら、どっちが安心? (前回からのつづき)貯金額を聞くのがある種タブーであるように、漏洩リスクがゼロではない銀行以外のシステムに個人と財布を親密に結びつける情報を渡すことに一切の不安がない人は少ないでしょう。それが顔ともなれば尚更です。 当然ですが、身体において一番プライバシーレベルが高い情報は顔です。パブリックな身元確認時には顔付きの証明書を要求されるように、顔と本人が持つ情報を結び付け…

顔と手のひら、どっちが安心?

Imaeg Credit:Amazon One

(前回からのつづき)貯金額を聞くのがある種タブーであるように、漏洩リスクがゼロではない銀行以外のシステムに個人と財布を親密に結びつける情報を渡すことに一切の不安がない人は少ないでしょう。それが顔ともなれば尚更です。

当然ですが、身体において一番プライバシーレベルが高い情報は顔です。パブリックな身元確認時には顔付きの証明書を要求されるように、顔と本人が持つ情報を結び付けることにはリスクが伴います。しかし、手のひらであればそのリスクを減らすことができます。

さらに、Keyの情報漏洩が起きた場合、顔情報であれば「ネットタトゥ」になるような悪用を懸念する必要があります。しかし、手のひらであれば二次的な被害を心配する必要はありません。Amazon Oneが手のひらをKeyとして採用した大きな理由はここにあります。

もちろん、深層心理で躊躇してしまうプライバシーだけが手のひらを採用した理由ではありません。本人特定能力においても手の方に優位性があります。手は高周波通しにくい身体組織において最も薄いパーツで、赤外線を用いた内部構造を把握しやすい特徴があります。そのため顔認証同様に表面形状の情報(しわ、瘢痕、隆起)に加えて内部構造(静脈、骨、軟組織)をAIによる特徴ベクトルが多い参照署名を作製することが可能になります。

この情報が仮に漏洩したとしても個人情報にたどり着くのは至難の技です。プライバシーを尊重しつつ、セキュリティの面からも手のひらは強固なKeyと言えます。

Imaeg Credit:Amazon One

つまり、多くの人が躊躇させてしまう点を避け、それだけでは個人を特定できな手のひらとクレジットカードを結んだ点にAmazon Oneの凄さがあるのです。そしてAmazon Oneは手のひら認証の技術でAmazonを新たな市場へと導く可能性を秘めています。

例えば、イベントの入場に必要なチケット。多くのイベントがウェブやアプリで処理ができるようになったものの、イベントごとに異なるサイトに情報登録が必要であったり、入場時には紙のチケットと本人確認を必要とするケースが少なくありません。仮にAmazonに登録されている情報でイベント登録が済み、Amazon Oneに入場口で手をかざすだけになれば体験として申し分ありません。

さらに、Amazonが本人認証と情報庫として浸透できれば本来のAmazonの強みを活かしてイベントチケット販売、グッズ販売を手がけることも可能となります。主催者側にとっては一貫して煩雑な管理を任せられる強力なパートナーとなるでしょう。

もちろん、本人確認をするシーンはチケットだけではありません。強弱様々な本人確認が必要な市場に切り込む武器、それがAmazon Oneなのです。

一見地味で、レジを効率化するものでもなければAmazon Goのような無人店舗の利便性を劇的に良くするものでもない単なる生体認証技術がAmazonを成長をさせるのか、Amazon Oneとどこがどのようなコラボレーションをするのか楽しみになってきました。

Amazonの「手のひら」Key戦略:あらゆるものをアンロック(1/2)

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ピックアップ:Amazon sees broad audience for its palm recognition tech ニュースサマリ:Amazonは9月29日、シアトルにある2つのAmazon Goストアで「Amazon One」という新しい手のひら認識技術を導入することを発表した。Amazon Oneは手のひらをキーとして、支払い、ポイントカードの提示など本人確認を有する場面を高速で便…

Imaeg Credit:Amazon One

ピックアップ:Amazon sees broad audience for its palm recognition tech

ニュースサマリ:Amazonは9月29日、シアトルにある2つのAmazon Goストアで「Amazon One」という新しい手のひら認識技術を導入することを発表した。Amazon Oneは手のひらをキーとして、支払い、ポイントカードの提示など本人確認を有する場面を高速で便利にする非接触型の認証デバイスである。

話題のポイント:AmazonはすでにAmazon Goで店舗での決済レスサービスを2018年から展開しています。さらに2020年3月には「Just  Walk Out」としてAmazon Goで使用されている決済レスに必要なカメラ、マイクなどのセンサーからAI、導入支援までのシステムを販売することを発表しています。

スマホだけを持って入店し、商品を取って帰るだけ。そんな体験を実現しているAmazonが今回発表したのが手の生体情報と決済情報を結びつける「Amazon One」です。確かに一度登録が完了すればAmazon Goにスマホすら持っていく必要すらなくなります。一方、人そのものが「クレジットと結ばれる」進化を遂げたこの仕組みが、果たして「Just Walk Out」を補完するだけの存在なのでしょうか。

実はAmazon Oneは小売だけをターゲットにしているわけではありません。「本人認証」に利便性と安心を与え、必要なほぼ全ての局面において最良の選択肢になろうとしています。コンピュータビジョンに対するAIの貢献もあって、顔認証はスマホに導入されるほどに普及し始めました。この流れはAmazon Goに代表するように人そのものとデジタルウォレットを結びつけます。しかし、これは人を不安にさせる原因となります。(次につづく)

テクノロジーと戦争:巨大テック企業が戦争に加担することの意味(2/2)

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(前回からのつづき)テクノロジーは今、戦争を止める切り札になろうとしています。聞こえのよい表現をしましたが、要するに小競り合いをも躊躇させる強い抑止力になる可能性がある、ということです。これまで軍事技術開発・維持にかかる費用は莫大でした。監視やけん制のための衛星や戦闘機はもちろんのこと、動員人数の多さも国家運営に重くのしかかります。 「ホリエモンロケット」で知られるインターステラテクノロジズが国家…

Image Credit:Anduril

(前回からのつづき)テクノロジーは今、戦争を止める切り札になろうとしています。聞こえのよい表現をしましたが、要するに小競り合いをも躊躇させる強い抑止力になる可能性がある、ということです。これまで軍事技術開発・維持にかかる費用は莫大でした。監視やけん制のための衛星や戦闘機はもちろんのこと、動員人数の多さも国家運営に重くのしかかります。

「ホリエモンロケット」で知られるインターステラテクノロジズが国家主導の高価で大型のロケットに対して、小型で安価なロケットで超小型衛星打ち上げるシステムの構築を目指すように、アメリカでも軍事力を維持するために必要な要素を低コストで獲得するテクノロジーの登場が期待されます。

そしてそれはネットワークを介して繋がり、人工知能によって自律的になることで軍隊を大幅に小さくしつつ、今以上の実働を可能にすることができるようになるかもしれません。

一般的に安価になる、というのは「量が十分に確保ができる」状態になることを意味します。仮にアメリカのテクノロジーを基に小型化したシステムを破壊するために必要な費用とお金が、システムを再構築するのに必要なコストより多い場合、戦闘に勝てる見込みはありません。一見すると安価で自律的な消耗品の集合ともいえるシステムは戦闘の長期化を助長しますが、ジリ貧であることが明確となれば、小競り合いさえも躊躇させることができます。

巨大テクノロジー企業が最新の戦争準備に入念に加担することの意味は、戦う必要をなくすためにあるのです。

Image Credit:Anduril

今回取り上げたAndurilは、まさに軍隊小型化のピースとなるスタートアップです。

Latticeと呼ばれるAIを搭載したソフトウェアプラットフォームを施設、軍事基地、国境を1人で数百マイルを監視できる手段を販売しています。Latticeの機能は侵入者を検出するだけに意図的に留めているものの、クライアントがエリアへの立ち入り許可、または武器の所持などを自動識別する機能を組み合わせて使うことも可能です。使用される地域や監視目的に柔軟に対応できる点も魅力と言えます。

また、近年ドローンがより安くなったことで爆弾を投下、空港運営を妨げる大きな脅威となっています。

同社はこれらを排除するLattice搭載のインターセプタードローンを提供しています。こちらも海外の紛争地帯に配備するための軍事契約を行ったことを発表しています。人類共通のトラウマとも言える軍事とテクノロジーの関係は、アメリカではソフトウェア化が主導する時代の変化とともに民間企業の政治的思想が大きく影響するようになりました。

中国が軍事用途を目的としたAIを中心とする先端技術のメガプロジェクトを始動して「軍事と市民の融合」の教義の下に人民解放軍に利益をもたらそうとする中、アメリカは小型で抑止力を持ち、倫理的な選択と判断に重き置く自由国家を維持できるのか。アメリカと親しい関係性にある日本においても他人事ではない話題になりそうです。

テクノロジーと戦争:Oculus創業者パルマー・ラッキー氏率いる「Anduril」が空軍に参加(1/2)

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ピックアップ:Anduril among companies tapped to build the Air Force’s ‘internet of things’ for war ニュースサマリ:防衛スタートアップである「Anduril」は9月25日、Advanced Battle Management System(ABMS)と呼ばれるプロジェクトに選ばれたことを発表した。ABMSでは米空軍…

Image Credit:Anduril

ピックアップ:Anduril among companies tapped to build the Air Force’s ‘internet of things’ for war

ニュースサマリ:防衛スタートアップである「Anduril」は9月25日、Advanced Battle Management System(ABMS)と呼ばれるプロジェクトに選ばれたことを発表した。ABMSでは米空軍のシステム開発に取り組む50を超えるさまざまなベンダーを指名し、今後5年間でそれぞれ1,000万ドルから9億5,000万ドルを受け取る機会が提供される。AWSもベンダーの一つに名を連ねる。

ABMSは最終的にJoint All-Domain Command&Control(JADC2)と呼ばれるすべての船、兵士、ジェット機をリンクすることを目的とした戦争用のメタソフトウェアプラットフォームに組み込まれることになっている。

Andurilは2017年に設立され、現在Facebookに買収されたVRデバイス「Oculus」の創業者パルマー・ラッキー氏が共同創業した軍用監視用システムとドローンスマッシャーを提供するスタートアップ。すでにアメリカ政府のいくつかの支部と契約を結んでおり、今年7月にはアンドリーセン・ホロウィッツが主導するシリーズCラウンドで新たに2億ドルを調達して評価額を19億ドルとしている。

話題のポイント:今、アメリカでは政府に対してテクノロジー企業は技術提供する責任を負うべきという考え方に注目が集まっています。

実際、Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏はCNN Businessで、民主主義で選出した機関に対してテクノロジー提供を躊躇しないことを発表してますし、AmazonのCEO、ジェフ・ベゾス氏は「大手ハイテク企業が米国国防総省に背を向けるなら、この国は問題を抱えることになるだろう」と語り、Zero to Oneの著者で投資家のピーター・ティール氏も同様の主張をしています。

当然のように毒にも薬ともなる劇物を国家予算で生み出し、保持することに反対の声が上がるにも関わらず、巨大テクノロジー企業はなぜ政府支援開発に協力的な態度を示すのでしょうか(※Googleは戦争ビジネスから距離を取るため「ProjectMaven」と呼ばれる国防総省と契約しない意向を発表している)。(次につづく)

FacebookのVR市場独占を防げるか、非公式Questアプリストア「SideQuest」の挑戦

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ピックアップ:The Oculus Quest’s unofficial app store gets backing from Oculus founder Palmer Luckey ニュースサマリ:非公式Quest向けアプリストア「SideQuest」は9月24日、シードラウンドで65万ドルの資金調達を実施した。出資者にはBoostVC、Oculus創業者のパルマー・ラッキー氏、The Fu…

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ピックアップ:The Oculus Quest’s unofficial app store gets backing from Oculus founder Palmer Luckey

ニュースサマリ:非公式Quest向けアプリストア「SideQuest」は9月24日、シードラウンドで65万ドルの資金調達を実施した。出資者にはBoostVC、Oculus創業者のパルマー・ラッキー氏、The Fundが並ぶ。SideQuestはFacebookのOculus Questの非公式アプリストアで、開発者がOculusの承認を経ないでアプリ配布する手段を提供している。

話題のポイント:SideQuestは開発者が公式Quest Storeを経由せずにアプリをユーザーに届けられる点が最大の魅力です。Apple同様、QuestでVRアプリを公開するには公式ストアに承認される必要があります。悪意からユーザーを守ることが目的ではあるものの、同時に小規模で作り込みに欠けるアプリをテストする手段も排除してしまうのも事実です。

このプラットフォームから一方的に制限される環境に「バイパス」を与えるために生まれたスタートアップがSideQuestです。Questの開発者がHMD(ヘッドマウントディスプレイ)のサイドローディング機能上に構築され、アップロードとダウンロードが簡単にできるツールとなっています。リリース以来、多くのQuestユーザーはSideQuestを利用して最先端の実験コンテンツを見つけ、開発者はそれをテストとフィードバックのための早期アクセス配布システムとして利用しています。

Image Credit:Facebook Developers

一方で、Facebookにとっては目障りの存在と言えるでしょう。機能の隙間から自らのポリシーを侵されているわけですから。しかし、すでにSideQuestは一概に妨害するには自らに不利益を被る規模感に達しています。TechCrunchによると、SideQuestは毎月数十万人が訪れ、アプリは数百に上ります。

こうした状況を受けて、Facebookは先日のConnectでOculusアプリ配信システム「オフストア」を2021年に開始することを発表しました。これは開発者がQuestプラットフォームに限定公開でアプリを作成できるものです。URLまたはKeyを介して共有でき、アプリはライブラリに追加されて自動更新のサポートを受けることができます。

これはFacebookはキュレーション戦略を大きく変更する決断です。一見するとSideQuestを飲み込んでしまうに感じますが、実際には劇的な変化は訪れないでしょう。開発者がQuest Storeを避けたい大きな理由はまだ残されているのです。

それが決済の選択肢です。現在Oculus Store内のアプリは全てのトランザクションにFacebookの支払いシステムを使用することを義務付けられています。決済時にFacebookが受け取るマージンは30%。もちろん、利用ユーザーに便利さと安心感を与えることができますが、開発者を苦しめることになっています。BigscreenのCEOであるDarshanShankar氏はFacebookが敷く大きなマージンはVRに新しく確立するであろう市場にも影響を及ぼすことを指摘しています。

「What if a furniture company made a VR app letting you see their offerings in true scale? To actually let you buy, they’d need to fork over 30% to Facebook each time(家具の会社がVRアプリを作成して自社の製品を実際の規模で展開した場合はどうなると思いますか?実際に購入できるようにするには、毎回Facebookに30%以上フォークする必要があるんですよ)」(引用:UPROAD

それに対してSideQuestでは任意の支払いシステムを選べるのに加えて、有料アプリ販売からマージンを取らずにストア内の広告を収益源としています。この開発者に負担を与えない姿勢が支持を得ている大きな要因です。Facebookが決済システムの柔軟性を享受しない以上、私はSideQuestがマーケティングとプレイテストを、Questが安心・安全のアプリ供給をポジショニングする形で落ち着いていくのではないかと見ています。

両社まだ拙い点も見受けられますが、幅広い層のユーザーを満たす基盤として必要不可欠です。資金調達で成長を加速させるSideQuestとQuestが協調して市場拡大することを期待しています。

マンガ専用の多言語翻訳システム「Mantra Engine」正式公開、さらなる精度向上の構想も

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ニュースサマリ:マンガに特化した機械翻訳技術および法人向けサービスを展開するMantraは7月28日、多言語翻訳システム「Mantra Engine」の正式版を公開した。Mantra Engineはマンガの高速な多言語展開を可能にする、出版社およびマンガの制作・配信事業者を対象にした法人向けクラウドサービス。 マンガの翻訳版制作に関わるほぼすべての作業をブラウザ上で可能にすることにより、簡便な操作…

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『Mantra Engine』動作画面 ©️Kuchitaka Mitsuki

ニュースサマリ:マンガに特化した機械翻訳技術および法人向けサービスを展開するMantraは7月28日、多言語翻訳システム「Mantra Engine」の正式版を公開した。Mantra Engineはマンガの高速な多言語展開を可能にする、出版社およびマンガの制作・配信事業者を対象にした法人向けクラウドサービス。

マンガの翻訳版制作に関わるほぼすべての作業をブラウザ上で可能にすることにより、簡便な操作性と、関係者全員で進捗を共有できる利便性を実現している。

同社が開発したマンガ専用の機械翻訳技術とプロの翻訳者による修正・校閲を本システム上で組み合わせることにより、従来の翻訳版制作のワークフローの約半分の時間で翻訳版の制作が可能となる。対応言語は英語・中国語(簡体字)から開始し、順次追加を予定している。

話題のポイント:マンガの海外展開、海賊版による経済的損失問題の解決を目指すMantraが手がける「Mantra Engine」の主な役割は「文字認識」「機械翻訳」「自動写植」の3つを素早く実行することです。電子版の普及を背景にライセンス運用から多言語配信で売り上げを拡大したいマンガ業界にとって、週刊連載にも対応できる仕組みは強力な武器と言えるでしょう。

テクノロジー企業の共通事項ではありますが、特にAI企業にとっては自動処理できる範囲が拡大すればそれだけ付加価値が大きくなります。コアなデータへのアクセス確保ができたら、次はストックし続けるデータを活かす手を考えていく必要があります。

Mantra代表取締役の石渡祥之佑氏は、今回の正式版から追加された「用語集」こそがまさに機械翻訳の一番大きな課題に対する解決策になると期待を寄せていました。

マンガでは作品・作家独特の固有名詞が数多く登場します。一般的にGoogle翻訳を利用する場合は、同じ固有名詞を含む文章を読ませて同じミスを繰り返しても受け取り手で処理できますが、すべて訂正するのは物凄い労力となります。新しく登場するごとに登録できるというのはシンプルですが効果は大きいです。

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Image Credit:Mantra

「用語集」は自動翻訳されたものに対して、翻訳者がどこを訂正しているのかをエラー分析するというアプローチでしたが、今後は動的な方法も検討してるそうです。

すでに学習済みのモデルを関連したタスクに応用する手法である転移学習の一種であるドメイン適応を用いることで、1ページ目の翻訳訂正を2ページ目の自動翻訳に適応することで精度を向上させるアプローチを構想していると言います。

しかし、あくまで「用語集」や「動的アプローチ」は機械翻訳の汎用的な精度向上手段です。セリフが横書き、推理マンガの長文、少女マンガのモノローグなど、マンガの自動翻訳という大きな括りで見ると、作品ごとに「文字認識」「機械翻訳」「自動写植」を適用させるような努力が今後も必要となります。

課題の優先度が横並びな分、相談された作品に必要な要素から取り組んでいくとのことでした。インパクトの大きな課題から取り組む優先順位を決めていくのがセオリーだとは思いますが、目の前の顧客を一人ひとり満足させていく過程が全てMantra Engineの外形を作り上げていく、これもターゲット領域にマッチした正攻法なのだと感じます。

軽くて安くて広く見れるARディプレイの新技術「Ostend」、その強みを紹介

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  ピックアップ:New AR Display From Ostendo Capable Of 150 Degree Field Of View At Low Cost ニュースサマリ:高度なディスプレイテクノロジー企業であるOstendo Technologiesは、ARデバイス用の高解像度シースルーディスプレイおよび光学システムを開発した。2005年に設立された同社はこれまでに2億ド…

 

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Image Credit:Ostend

ピックアップ:New AR Display From Ostendo Capable Of 150 Degree Field Of View At Low Cost

ニュースサマリ:高度なディスプレイテクノロジー企業であるOstendo Technologiesは、ARデバイス用の高解像度シースルーディスプレイおよび光学システムを開発した。2005年に設立された同社はこれまでに2億ドル以上の調達を完了している。

共同創設者兼CEOのDr. Hussein El-Ghoroury氏によると、「当社のテクノロジーにより、複数のQPIディスプレイをレンズの端にぴったりと並べることで、メガネを小さく軽量に保つことができる」とのこと。

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Image Credit:Ostend

話題のポイント:ARは目の前をディスプレイで覆うことができない分、眼鏡に搭載可能な小さなディスプレイを透過ガラスに照射することが求められます。ディスプレイが小さいため短い距離で視野角を確保するのは光学的に容易ではありません。その点において、Ostendの水平視野角150°というのは驚異的な数字です。Magic LeapやHoloLens の約3倍になります。

しかし、Ostendの本当の強みはこの「小さなディスプレイ」を作る能力にあります。もう少し厳密に表現すると、原色(赤ー緑ー青)をデジタル指定で自在に発光させられる3次元集積回路(3D-IC)半導体を作れる点が強みです。これらを高密度に配列するアーキテクチャを組むことで既存のマイクロディスプレイの欠点である電力効率、小型化、コストを緩和可能にしました。この光処理装置は量子フォトニックイメージング(QPI)と言われています。

QPIの重要な革新の1つである「小型化」がなぜできるのかについては、光学的知識を前提とせずに説明するのが困難であるため、気になる方は「Quantum Photonic Imager (QPI): A New Display Technology and Its Applications」こちらの論文を読んでいただけると詳細が掴めると思います。

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Image Credit:Ostend

QPIの特徴は高輝度、電力効率、コンパクトサイズです。今回のARグラス用ディスプレイに最適なのはもちろんですが、様々なアプリケーションに適用できます。

モバイルプロジェクターでは小さなピクセルピッチと高輝度の組み合わせにより、QPIは完全な視差ライトフィールドディスプレイを実現するのに最適です。また、軍事用途としてIR帯域のいくつかの異なる波長を単一のQPIデバイスに統合して、IR対策やIR-IFFデバイスとして使用できます。

2020年にすべての製造工程を持つ1,500平方メートルのオフィス兼工房を開く計画がある同社。ハードウェアベンダーが最先端スマートルグラスを製造するイノベーションを下支えする存在となれるのか。ゲームチェンジャーへの期待が今後さらに集まることでしょう。

16歳の少年とMicrosoftの挑戦、Mixer閉鎖は失敗だったのか?

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ピックアップ:The Next Step for Mixer ニュースサマリ:Microsoftは22日、ライブストリーミングプラットフォーム「Mixer」を2020年7月22日に閉鎖すると発表した。またMixerのコミュニティと技術はFacebook Gamingに統合される。Mixerで配信契約を結ぶパートナーはFacebookのパートナー契約に移行できる。しかし契約するかは任意である。 話題…

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Image Credit:Mixer

ピックアップ:The Next Step for Mixer

ニュースサマリ:Microsoftは22日、ライブストリーミングプラットフォーム「Mixer」を2020年7月22日に閉鎖すると発表した。またMixerのコミュニティと技術はFacebook Gamingに統合される。Mixerで配信契約を結ぶパートナーはFacebookのパートナー契約に移行できる。しかし契約するかは任意である。

話題のポイント:16歳だったMatt Salsamendi氏が立ち上げたBeamというストリーミングプラットフォームが、Microsoftに売却されてMixerという名前に変わったとき、彼は18歳でした。そして今年7月に完全閉鎖されるとき、彼はまだ22歳です。

Microsoftの看板を背負ってAmazon傘下の巨大ライブストリーミングプラットフォームTwitchへ挑戦を託され、4年の月日を大きな意思決定の連続で過ごしたのちに閉鎖となり、Facebookにコミュニティと技術を移行することになったMixerは失敗だったのでしょうか。

Windows PhoneやInternet Explorerと並びMicrosoftの代表的な失敗と批判され、パートナーからも不満が飛び交う今回の閉鎖発表。それもそのはずで、TwitchのNo.1、2ストリーマーのNinja、Shroudに契約金を支払って独占配信契約を結ぶ強行策に出たのにも関わらず、1分当たりの視聴者数はTwitchのわずか2.5%しか獲得できずMicrosoftに多大な負債を生んでしまったのです。

確かにMixerだけに注目すると失敗です。Twitchを脅かすどころか市場で最も伸びませんでした。しかし、Microsoftの視点からするとゲーム市場とクラウド市場を占拠するための攻めの一手として大成功を招いたと言えるのではないでしょうか。

今後のゲーム市場はクラウドゲームを背景に「ゲームを見る」と「ゲームをする」の壁が低くなり続けます。Google Stadia、Geforce NOW、Amazon と市場が激化していく中ではクラウドゲームの技術基盤だけでなく、YoutubeやTwitchなどのコミュニティ接点を持てているかが重要な要素です。

そして今、コミュニティ形成の競争はゲーム専用から広義なものへと変化しつつあります。YouTubeは動画のストック型から、また、Twitchはストリーミング型から、それぞれのアプローチで拡張を模索中です。実際にTwitchではゲーム以外のジャンルのストリーミングも盛んになってきており、政治解釈の意見交換の場やアーティストの発信の場としても機能し始めています。

こうした市場変化に対応するべく、Microsoftはゲーム事業のクラウドゲームサービス「Project xCloud」のタッチポイントとしてMixerコミュニティに期待していました。

しかしトップストリーマーの配信が成長ドライブではないことが判明したことで、Microsoftはゲームという角度からではTwitchのコミュニティには追いつけないと判断したのです。

一方、これまでのノウハウを活かし、既存の巨大コミュニティにバックエンド技術を導入する形で配信機会を維持する戦略に舵を切った、と考えればどうでしょうか。つまり、MicrosoftがMixer閉鎖と引き換えに欲しかったものはFacebook、Instagramのコミュニティだったということです。

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Shroud のTwitterを引用

他方、Facebook GamingはUXに課題を抱えていました。そのUXの悪さからFacebook Gaming Creator Programに移動して90日間の滞在を選択したMixerパートナーに2,500ドルを支払うとしてるにも関わらず、ほとんどMixerのパートナーがFacebookを選ばない可能性が高いことがThe Vergeの取材で明らかになっています。

この問題を解決してFacebookが得意とするコミュニティ開発に専念するためにも、Mixerが持つ1秒未満のレイテンシストリーミングプロトコルFTL(Faster Than Light)や課金システム、分割画面機能など他社にはない技術的な強みを取り入れたかったはずです。

つまり、Microsoftはコミュニティを、Facebookはツールを補うことを目的としたポジティブな統合だと捉えられることができるでしょう。これまでコミュニティ開発で成功事例がないMicrosoftにとっては最良戦略に思えます。競合がGoogle Stadia × Youtube、Amazon × Twitchという陣形を取る中、Microsoft × Facebookという布陣で対抗できるようになりました。

これだけでもMixerは失敗ではないと断定するのに十分ですが、Microsoftに更なる営利をもたらす可能性があります。それはFacebookがAzureの顧客になるかもしれないということです。

Facebookとの現段階での取引では含まれていないことを明言していますが、Microsoftは2019年5月にSonyのPlayStationと独自のビデオおよびコンテンツストリーミングサービスにMicrosoftのAzureとAIを使用することでパートナーシップを結んでいる例があります。Xbox vs PlayStationというハードウェアで競争する相手をクラウド事業の顧客としたMicrosoftが、直接の競争相手に当たらないFacebookを今後巻き込んだとしても不思議ではありません。

これまで大手クラウドサービスとは距離を置いて動いてきたFacebookが何らかのサービスにAzureを選ぶ布石になるとすれば、MixerはMicrosftにとって大成功だったと断言できるでしょう。

これはMatt Salsamendi氏が16歳から思い描いてきた自社の成功とは違うのかもしれません。しかし、彼の活動はライブストリーミングが歩んでいくこれからの歴史を促進する一つのピースとして貢献し続けるはずです。その結果がどうであれ、不確実性の中で社会にベストを尽くした誇るべき功績だと思います。

今回の発表を受けてライブストリーミング市場はどのような局面を迎えるのか、ライブストリーミングの動きも注目ですが、重役から解かれるMatt Salsamendi氏が今後何を仕掛けるのかにも注目が集まりそうです。