AIでアニメを制作するKaKa Creation、1.6億円を調達——独自IPの双子アニメTikToker「ひなひま」を始動

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双子アニメTikToker「ひなひま」
Image credit: KaKa Creation

言わずもがな、今やアニメは日本の文化を代表するコンテンツだ。興行収入ベースで見ても、歴代TOP10の内6作品がアニメ作品となっている。エポックメイキングとなった作品を特定するのは難しいが、2001年に公開された「千と千尋の神隠し」が2003年にアカデミー賞長編アニメ賞を受賞して以降、それまでの子供向けのイメージから、大人から子供まで、言語を超えて世界中の人が楽しめるものへとシフトしたように感じる。

国内外から作品が評価される一方で、アニメ業界には低賃金・重労働のイメージが付きまとう。当然、社員として雇用するところもあれば、フリーランスを中心とする制作会社もあるので一概には言えない。しかし、製作委員会方式でアニメ作品が生み出される以上、ヒットの恩恵が全員に平等に渡るわけではないのに作品が増えるため、これまで人海戦術で乗り越えるしかなかった業界としては、3兆円弱の市場規模に見合わない環境と言えるだろう。

2023年に入ってから日本でも注目を集めた生成AIの登場で状況が変わろうとしている。現場ではクリエイティブが求められるため自動化が難しく、人海戦術に頼るしかなかったわけだが、色の設定などの解釈を反映させた作業、これまで積み上げてきた作業をデータベースした出力などが存分に期待できるようになったのだ。このテクノロジーの進化をいち早く取り込み、「サポーティブAI」というコンセプトのもと、クリエーターファーストでクリエーターエコノミーを強化することに主眼を置いたAIアニメ制作スタートアップが資金調達を実施した。

AIアニメ制作事業を展開するKaKa Creationは22日、約1.6億円を調達したと発表した。このラウンドに参加したと明らかになっているのは、Partners Fundだ(現時点でそれ以外の投資家の参加、ラウンドステージについては不明)。アニメ制作の過程でAIを本格的に導入し、高品質な縦型アニメ動画を高頻度に届けていく。

@hinahimaa

最初の作品として、KaKa CreationのオリジナルIPアニメとなる双子アニメTikToker「ひなひま」が11月15日から始動していたことも明らかにした。キャラクターデザインは「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」などでキャラクターデザインを手掛けてた横田拓己氏が担当。関わる他のスタッフも、Netflix作品やテレビアニメシリーズに携わるプロデューサーやCGアニメーターなどで構成されたプロフェッショナルのチーム体制になっている。

竹原康友氏

KaKa Creationの創業者で代表取締役CEOの竹原康友氏は、2003年に新卒としてまだ100名程度だったサイバーエージェントに入社。入社後20年間で、広告営業、ソーシャルゲームのプロデューサー、動画事業の立ち上げ運用、アニメグッズ・フィギュア事業の立ち上げ運用など様々なコンテンツ事業に従事した。KaKa Creationは竹原氏がこれまでの経験の中で得られたコンテンツを創り上げることの難しさと問題点の解決、さらにはグッズ・フィギュアを海外展開する際に問題となるEC販売の仕組みを改善することを通して、日本のコンテンツを生み出す力を世界により届けることを目的に2023年6月に設立された。

KaKa Creationの事業の主軸は、AIを駆使したアニメ制作だ。KaKa CreationではStable Diffusionを用いて、アニメ自体をAIで生み出している。キャラクターをまずCGで作成し、動きを付けたものを描き下ろしの手描きイラストに加えて、CGモデルのレンダリング画像500枚以上で学習させたLoRAモデルを独自開発することでキャラクターデザイン通りのキャラがシナリオに沿った動きを見せてくれる。微調整は必要になるとのことだったが、はSNS等で見かけるAIアニメのようなチラツキが存在せず、AIアニメであることを意識せずに見れるクオリティとなっている。

Image credit: KaKa Creation

筆者が取材で話を伺ったときに強く感じたのが、生成AIの活用が本当に上手いということだ。LoRAモデル開発に加えて、Unreal Engine 5(物理エンジン)をアニメ制作フローに導入するための環境構築もAIを活用することで実現している。これらの技術は、制作物の著作権に最大限配慮した形で、個人アニメーターや少数精鋭チーム向けに支援を行っていくという。

竹原氏によれば、比較的短時間でショートアニメが作れるようになるため、例えば、毎日更新される縦型のアニメを作っていきながらIPを作り上げていくことに挑戦し、将来的にはそれを長編映画化にして収益を生むビジネスモデルを構築していくことを想定しているという。

Image credit: KaKa Creation

上に書いたような技術力がある場合、オリジナルIPの創出によるビジネスモデルだけでなく、制作会社への技術提供や、キャラクターのブランディングが行いやすい特性を生かした企業PRキャラクターのコンテンツ運用というBtoBtoCのビジネスモデルも視野に入ってくるように思えるが、現状では考えていないという。

どちらかというと、協業先は原作を持つ企業になるかなと考えています。例えば、漫画や小説を持っていて、横型アニメにはならないけど縦型のショートアニメとして試してみたいとか、原作PRに使ってみたいケースです。

上手くシナジーが起きやすいのは我々が制作会社として一緒にやることだと思っています。(竹原氏)

また、ファンとのインタラクティブな関係構築も見据えやすいので、キャラクター設定がしっかりとしながら、Vtuberのような現実の時間軸に存在するような世界観をアニメで実現することが可能になるだろう。「ONE PIECE FILM RED」のプロモーションで映画に登場するキャラがLIVE配信をして、映画と連動させたような新感覚な体験が当たり前になる世界が実現しようとしているのかもしれない。

今後もAIを活用したアニメ制作フローの効率化の技術の発表、すでに子会社化しているグッズ等の海外への展開を支えるAIを活用した海外流通支援事業 / MD関連事業の本格始動が控えている。AIを駆使してアニメ業界で進撃を始めた同社の今後にワクワクが止まらないのは筆者だけではないだろう。

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